特許第5874584号(P5874584)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874584
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】鉄道車両の動揺防止制御装置
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/24 20060101AFI20160218BHJP
【FI】
   B61F5/24 B
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-188935(P2012-188935)
(22)【出願日】2012年8月29日
(65)【公開番号】特開2014-46714(P2014-46714A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2014年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100116344
【弁理士】
【氏名又は名称】岩原 義則
(74)【代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】山尾 仁志
(72)【発明者】
【氏名】後藤 修
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−247333(JP,A)
【文献】 特開平11−139310(JP,A)
【文献】 特開平08−253143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車体と台車の間に設けられ、制御指令に従った力で前記車体と前記台車を車両の幅方向に相対移動すべく駆動するアクチュエータと、
前記車体の幅方向の加速度を検出する加速度センサと、
前記加速度センサで検出された前記車体の幅方向の加速度から前記アクチュエータの制御指令を演算する制御指令演算器を備えて車体に発生する振動を制御する鉄道車両の動揺防止制御装置において、
前記制御指令演算器は、
前記車体の幅方向の加速度に基づき、直線区間用制御指令及び曲線区間用制御指令を演算する左右並進制御部と、
前記車体の幅方向の加速度に基づき、前記鉄道車両が曲線区間の通過中か直線区間の走行中かを判定する曲線判定部と、
前記曲線判定部が曲線区間の通過中と判定した場合、或いは曲線区間の通過から直線区間の走行に変化して一定時間以内と判定した場合は、前記曲線区間用制御指令を選択すると判定し、前記以外の場合は前記直線区間用制御指令を選択すると判定する制御指令選択判定部を備えたことを特徴とする鉄道車両の動揺防止制御装置。
【請求項2】
前記制御指令演算器は、前記制御指令選択判定部が前記直線区間用制御指令を選択すると判定した場合には前記直線区間用制御指令を、前記曲線区間用制御指令を選択すると判定した場合には前記曲線区間用制御指令を、前記アクチュエータに出力することを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両の動揺防止制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲線区間通過時に発生する鉄道車両の動揺を防止する制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の動揺防止制御において、直線区間での乗り心地改善を追求して制御器を設計した場合、車体の幅方向の移動を制御する制御器(以下、左右並進制御器という。)の低周波域での制御ゲインが大きいものとなる。また、車体の幅方向加速度(以下、左右並進加速度ともいう。)から曲線区間通過中の超過遠心力を取り除くハイパスフィルタの遮断周波数は0.2Hz以上にすることはできない。
【0003】
そのため、曲線区間のうちの、特に超過遠心力が漸増、漸減する緩和曲線区間において、0.2Hzを超える超過遠心力成分を前記ハイパスフィルタで取り除くことができない。よって、0.2Hzを超える超過遠心力成分により、アクチュエータへの制御指令値が影響を受け、前記制御指令値が飽和して乗り心地の悪化を招く。
【0004】
このような曲線区間通過時における鉄道車両の動揺を防止する制御装置が、種々提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、入力された加速度を基に車両の振動を制御する振動制御器を、遠心加速度に相当する加速度の低周波成分の影響を受けにくい振動制御器とし、当該振動制御器はストロークセンサで検出した車体の幅方向の変位を入力されて前記周波数帯域の振動を制御する装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、曲線区間の入口緩和曲線で制御ゲインを漸減させ、出口緩和曲線もしくは緩和曲線通過後に制御ゲインを漸増させる装置が開示されている。その際、切り替えダンパの減衰係数を大きくするとさらに振動発生が抑制されると記載されている。
【0007】
また、特許文献3では、直線区間の走行時は直線制御則、曲線区間の通過時は曲線制御則で制御を行う装置が開示されている。この振動制御装置は、曲線制御則では超過遠心力を除去するために、直線制御則に対してフィルタの遮断周波数帯域を上げている。
【0008】
しかしながら、特許文献1,2で開示された振動制御装置は、曲線区間を通過していることの検知をストロークセンサで行っており、ストロークセンサを搭載する必要があるため、高価になる。
【0009】
加えて、特許文献1で開示された振動制御装置のようにストロークセンサの出力に基づいて振動を制御する場合は、ストロークセンサの出力を入力する制御器は高周波で大きな制御ゲインを持つので、センサノイズ及び台車の弾性振動に起因する高周波振動に反応して乗り心地が悪化する。また、制御が発散することもある。
【0010】
また、特許文献2で開示された振動制御装置では、直線区間の走行時に比べて、曲線区間の通過時に全周波数帯域で制御ゲインを低下させているので、乗り心地が悪化する。
【0011】
また、特許文献1〜3で開示された振動制御装置は、曲線区間の通過後の超過遠心力の影響については全く考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6‐107173号公報
【特許文献2】特開2008‐247333号公報
【特許文献3】特開2008‐247204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の動揺制御は、曲線区間通過時のみを対象としたもので、曲線区間通過後に発生する車体の幅方向の動揺制御については考慮されていないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の鉄道車両の動揺防止制御装置は、曲線区間通過中のみならず、曲線区間通過直後の車体の幅方向の動揺に対しても効果的な抑制性能を得ることができるようにするために、以下のような構成を採用している。
【0015】
すなわち、本発明は、
鉄道車両の車体と台車の間に設けられ、制御指令に従った力で前記車体と前記台車を車両の幅方向に相対移動すべく駆動するアクチュエータと、
前記車体の幅方向の加速度を検出する加速度センサと、
前記加速度センサで検出された前記車体の幅方向の加速度から前記アクチュエータの制御指令を演算する制御指令演算器を備えて、車体に発生する振動を制御する鉄道車両の動揺防止制御装置において、
前記制御指令演算器は、
前記車体の幅方向の加速度に基づき、直線区間用制御指令及び曲線区間用制御指令を演算する左右並進制御部と、
前記車体の幅方向の加速度に基づき、前記鉄道車両が曲線区間の通過中か直線区間の走行中かを判定する曲線判定部と、
前記曲線判定部が曲線区間の通過中と判定した場合、或いは曲線区間の通過から直線区間の走行に変化して一定時間以内と判定した場合は、前記曲線区間用制御指令を選択すると判定し、前記以外の場合は前記直線区間用制御指令を選択すると判定する制御指令選択判定部を備えたことを最も主要な特徴としている。
【0016】
上記本発明では、制御指令演算器は、前記制御指令選択判定部が前記直線区間用制御指令を選択すると判定した場合には前記直線区間用制御指令を、前記曲線区間用制御指令を選択すると判定した場合には前記曲線区間用制御指令を、前記アクチュエータに出力する。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、曲線区間通過中の振動制御のみならず、曲線区間通過直後の車体幅方向の動揺についての制御も行うので、直線区間、曲線区間のみならず、曲線区間通過直後についても効果的な動揺抑制性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の動揺防止制御装置の概略構成を説明する図である。
図2】本発明の動揺防止制御装置の制御指令演算器における制御フロー図である。
図3】制御指令演算器を構成するヨーイング制御部における制御フロー図である。
図4】制御指令演算器を構成する左右並進制御部における制御フロー図である。
図5】制御指令演算器を構成する曲線判定部における判定フロー図である。
図6】制御指令演算器を構成する制御指令選択判定部における判定フロー図である。
図7】制御指令演算器を構成する左右並進制御部における直線区間用と曲線区間用の制御ゲイン線図である。
図8】本発明の動揺防止制御装置の効果を説明する図で、(a)は曲線区間通過時に発生する車体の幅方向振動加速度、(b)は同じく制御指令を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
鉄道車両の動揺を抑制する動揺防止制御装置は種々提案されているが、曲線区間通過中のみならず、曲線区間通過後は左右並進加速度に含まれるハイパスフィルタで取り除くことのできない超過遠心力成分により、アクチュエータへの制御指令値が飽和し、動揺抑制性能が悪化する。
【0020】
しかしながら、この曲線区間通過直後の動揺抑制性能の悪化について、従来は考慮されることが無かった。
【0021】
そこで、本発明は、曲線区間通過中のみならず、曲線区間通過直後の車体の幅方向の動揺に対しても効果的な動揺抑制性能を得るようにするという目的を、曲線区間通過直後の一定時間以内は曲線用の制御指令を選択することで実現した。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施するための実施例を、添付図面を用いて説明する。
図1は本発明の鉄道車両の動揺防止制御装置の概略構成を説明する図である。
【0023】
1は台車2に車体3を搭載した鉄道車両であり、この鉄道車両1に本発明の動揺防止制御装置11が設けられる。なお、4は台車2に設置された輪軸、5は車体3を支持すべく台車に設けられた空気ばねを示す。
【0024】
12は、鉄道車両1の前後位の2箇所に設けられ、前記車体3と台車2の間に設けられたアクチュエータであり、後述する制御指令演算器14からの制御指令に従った力で、例えば車体3を台車2に対して車体の幅方向に相対移動させるものである。
【0025】
13は、車体3の前後位の2箇所に設けられ、走行時、車体3に作用する車体3の幅方向の加速度を所定の時間間隔で検出する加速度センサであり、これらの加速度センサ13で検出した車体3の幅方向の加速度は制御指令演算器14に出力される。
【0026】
制御指令演算器14は、加速度演算部、ヨーイング制御部、左右並進制御部、曲線判定部、制御指令選択判定部を備えており、前記加速度センサ13が検出した加速度に基づき、図2に示すフローの制御を行う。
【0027】
すなわち、制御指令演算器14は、前記加速度センサ13が検出した前後位の加速度を読み込んだ後、加速度演算部で車体3のヨーイング加速度と左右並進加速度を算出する。算出したヨーイング加速度、左右並進加速度は、それぞれヨーイング制御部、左右並進制御部に出力される。
【0028】
そして、ヨーイング制御部は、入力されたヨーイング加速度にバンドパスフィルタ処理を行った後、ヨーイング制御指令を演算する(図3参照)。また、左右並進制御部は、入力された左右並進加速度にバンドパスフィルタ処理を行った後、図7に直線で示す制御ゲインをかけた直線区間用の左右並進制御指令と、図7の破線で示す制御ゲインをかけた曲線区間用の左右並進制御指令を演算する一方、入力された前記左右並進加速度を曲線判定部に出力する(図4参照)。
【0029】
曲線判定部は、入力された左右並進加速度にローパスフィルタ処理を行う。そして、ローパスフィルタ処理を行った後の左右並進加速度が予め定められた曲線判定閾値c1よりも大きいとき、或いは曲線判定閾値c1よりも小さく、かつ曲線判定閾値−c1より小さいときは曲線区間と判定する(c data=1)。一方、ローパスフィルタ処理を行った後の左右並進加速度が前記曲線判定閾値c1よりも小さく、かつ曲線判定閾値−c1より大きいときは直線区間と判断する(c data=0)。この曲線判定部における処理フローを図5に示す。
【0030】
曲線判定部で判定した前記結果は、制御指令選択判定部に出力され、制御指令選択判定部は、図6のフローに基づいて、直線区間用制御指令か曲線区間用制御指令の何れの指令をアクチュエータ12に出すかを選択する(図4参照)。
【0031】
すなわち、制御指令選択判定部は、曲線判定部の判定結果が直線区間用制御指令(cosc=0)の場合は、直線区間用制御指令の選択状態継続時間i1が制御周期st当たりの直線区間用制御指令選択時間閾値t1より大きいか否かを判断する。
【0032】
そして、前記選択状態継続時間i1が制御周期st当たりの直線区間用制御指令選択時間閾値t1より大きい場合は曲線区間と判定し(c data=1)、前記選択状態継続時間i1が0の場合は曲線区間用制御指令(cosc=1)を選択する。一方、前記選択状態継続時間i1が制御周期st当たりの直線区間用制御指令選択時間閾値t1より小さい場合や、曲線区間と判定しない場合(c data=1でない場合)は当初に戻る。なお、直線区間用制御指令選択時間閾値t1は、例えば1〜1.5sとすればよい。
【0033】
また、曲線判定部の判定結果が直線区間用制御指令(cosc=0)でない場合で直線区間(c data=0)と判定する場合は、曲線区間終了後曲線用制御指令選択継続時間i2が制御周期st当たりの曲線区間終了後曲線区間用制御指令選択時間閾値t2より大きいか否かを判断する。
【0034】
そして、曲線区間終了後曲線用制御指令選択継続時間i2が制御周期st当たりの曲線区間終了後曲線区間用制御指令選択時間閾値t2より大きい場合は直線区間用制御指令(cosc=0)を選択する。一方、直線区間と判定しない場合で、曲線区間終了後曲線用制御指令選択継続時間i2が0の場合や、曲線区間終了後曲線用制御指令選択継続時間i2が制御周期st当たりの曲線区間終了後曲線区間用制御指令選択時間閾値t2より小さい場合は当初に戻る。なお、曲線区間終了後曲線区間用制御指令選択時間閾値t2は、例えば3〜8sとすればよい。
【0035】
制御指令選択判定部の前記選択結果に基づき、制御指令演算器14は前記アクチュエータ12に直線区間用制御指令、或いは曲線区間用制御指令を出力する。
【0036】
上記本発明の動揺防止制御装置11では、曲線区間通過中及び曲線区間通過後の一定時間は、制御指令演算器14は車体3の幅方向の加速度に基づいて演算した曲線区間用制御指令をアクチュエータ12に出力し、それ以外の場合は、直線区間用制御指令をアクチュエータ12に出力する。但し、制御指令選択結果が頻繁に切り替わるのを防ぐために、直線区間用制御指令を選択した場合はその状態を一定時間以上継続させる。
【0037】
本発明の効果を確認するために、曲線区間通過を模擬した下記条件の走行シミュレーションを行った。その結果を図8に示す。
【0038】
・シミュレーション条件
曲線半径:400m
走行速度:90km/hr
緩和曲線長:80m
本曲線長:250m
カント高さ:105mm
【0039】
制御イは常に直線区間用制御指令を選択する場合(従来例1)、制御ロは曲線区間通過中のみ曲線区間用制御指令を選択し、それ以外では直線区間用制御指令を選択する場合(従来例2)、制御ハは曲線区間通過中及び曲線区間通過後の一定時間は曲線区間用制御指令を選択し、それ以外では直線区間用制御指令を選択する場合(発明例)である。直線区間用制御指令選択時間閾値t1は1s、曲線区間終了後曲線区間用制御指令選択時間閾値t2は7sとした。
【0040】
制御イでは、入口緩和曲線区間の通過中及び通過後、出口緩和曲線区間の通過中、曲線区間の通過後に制御指令値が飽和し(図8(b))、その時の左右振動加速度の振幅が大きくなっており(図8(a))、十分に制振効果が得られていないことが分かる。
【0041】
また、制御ロでは、入口緩和曲線区間の通過中及び通過後、出口緩和曲線区間の通過中は充分な制振効果が得られているが、出口緩和曲線区間を通過後に制御指令値が飽和し(図8(b))、その時の左右振動加速度の振幅が大きくなって(図8(a))、十分な制振効果が得られていないことが分かる。
【0042】
これに対して、制御ハでは、入口緩和曲線区間の通過中及び通過後、出口緩和曲線区間の通過中の何れも制御指令値が飽和せず(図8(b))、常に十分な制振効果が得られていることが分かる。
【0043】
本発明は上記した例に限らないことは勿論であり、請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0044】
例えば、曲線判定部は曲線区間か否かを判定できるものであれば、図5に示すフローに限らない。
【符号の説明】
【0045】
1 鉄道車両
2 台車
3 車体
11 動揺防止制御装置
12 アクチュエータ
13 加速度センサ
14 制御指令演算器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8