特許第5874590号(P5874590)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5874590液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、重合体及び化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874590
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、重合体及び化合物
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20160218BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   G02F1/1337 525
   C08G73/10
【請求項の数】9
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2012-205244(P2012-205244)
(22)【出願日】2012年9月19日
(65)【公開番号】特開2013-152421(P2013-152421A)
(43)【公開日】2013年8月8日
【審査請求日】2015年1月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-283276(P2011-283276)
(32)【優先日】2011年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】野口 峻一
(72)【発明者】
【氏名】内山 克博
(72)【発明者】
【氏名】菅野 尚基
【審査官】 磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−252099(JP,A)
【文献】 特開2011−028223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸を脱水閉環してなるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも一種の重合体を含有する液晶配向剤であって、
前記ジアミンが、下記式(A)で表される化合物(a)を含むことを特徴とする液晶配向剤。
【化1】
(式(A)中、Amは、窒素原子とともにピロリジン環、ピペリジン環又はヘキサメチレンイミン環を形成する2価の基であり、これらの環部分に置換基が結合されていてもよい。但し、Amにおいて、環を構成する窒素原子がXに結合している。Xは、単結合、酸素原子、カルボニル基、*−COO−、*−OCO−、−NH−、*−Ar−O−、*−O−Ar−、*−COO−Ar−、又は*−R−OCO−(但し、Arは、フェニレン基又はフェニレン基に置換基が結合された2価の基であり、Rは炭素数1又は2のアルカンジイル基である。「*」は含窒素複素環との結合手を示す。)である。Xは、単結合又はカルボニル基である。Rは、1価の有機基であり、rはそれぞれ独立に0〜4の整数である。但し、rの合計が2以上の場合、複数のRは独立して上記定義を有する。)
【請求項2】
前記化合物(a)は、下記式(A−1)で表される請求項1に記載の液晶配向剤。
【化2】
(式(A−1)中、Xは、単結合、酸素原子、カルボニル基、*−COO−、*−OCO−、−NH−、*−Ar−O−、*−O−Ar−、*−COO−Ar−、又は*−R−OCO−(但し、Arはフェニレン基又はフェニレン基に置換基が結合された2価の基であり、Rは炭素数1又は2のアルカンジイル基である。「*」は含窒素複素環との結合手を示す。)である。Xは、単結合又はカルボニル基である。R及びRは、それぞれ独立に1価の有機基であり、r及びsはそれぞれ独立に0〜4の整数である。但し、rの合計が2以上の場合、複数のRは独立して上記定義を有し、sが2以上の場合、複数のRは独立して上記定義を有する。)
【請求項3】
前記Xは単結合である請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記Xは、*−COO−、*−OCO−、−NH−又は*−R−OCO−(但し、Rは炭素数1又は2のアルカンジイル基である。「*」は含窒素複素環との結合手を示す。)である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記テトラカルボン酸二無水物が、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物及び1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも一種を含む請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項7】
請求項6に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。
【請求項8】
下記式(A)で表される化合物(a)を含むジアミンと、テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる重合体。
【化3】
(式(A)中、Amは、窒素原子とともにピロリジン環、ピペリジン環又はヘキサメチレンイミン環を形成する2価の基であり、これらの環部分に置換基が結合されていてもよい。但し、Amにおいて、環を構成する窒素原子がXに結合している。Xは、単結合、酸素原子、カルボニル基、*−COO−、*−OCO−、−NH−、*−Ar−O−、*−O−Ar−、*−COO−Ar−、又は*−R−OCO−(但し、Arは、フェニレン基又はフェニレン基に置換基が結合された2価の基であり、Rは炭素数1又は2のアルカンジイル基である。「*」は含窒素複素環との結合手を示す。)である。Xは、単結合又はカルボニル基である。Rは、1価の有機基であり、rはそれぞれ独立に0〜4の整数である。但し、rの合計が2以上の場合、複数のRは独立して上記定義を有する。)
【請求項9】
下記式(A)で表される化合物。
【化4】
(式(A)中、Amは、窒素原子とともにピロリジン環、ピペリジン環又はヘキサメチレンイミン環を形成する2価の基であり、これらの環部分に置換基が結合されていてもよい。但し、Amにおいて、環を構成する窒素原子がXに結合している。Xは、単結合、酸素原子、カルボニル基、*−COO−、*−OCO−、−NH−、*−Ar−O−、*−O−Ar−、*−COO−Ar−、又は*−R−OCO−(但し、Arは、フェニレン基又はフェニレン基に置換基が結合された2価の基であり、Rは炭素数1又は2のアルカンジイル基である。「*」は含窒素複素環との結合手を示す。)である。Xは、単結合又はカルボニル基である。Rは、1価の有機基であり、rはそれぞれ独立に0〜4の整数である。但し、rの合計が2以上の場合、複数のRは独立して上記定義を有する。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子、重合体及び化合物に関する。詳しくは、液晶配向膜の耐侯性を良好にできる液晶配向剤、並びに当該液晶配向剤を用いて作製される液晶配向膜及び液晶表示素子等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示素子としては、電極構造や使用する液晶分子の物性等が異なる種々の駆動方式のものが開発されており、例えばTN型やSTN型、VA型、面内スイッチング型(IPS型)、FFS型、光学補償ベンド型(OCB型)等の液晶表示素子が知られている。これら液晶表示素子は、液晶分子を配向させるための液晶配向膜を有する。液晶配向膜の材料としては、耐熱性、機械的強度、液晶との親和性などの各種特性が良好である点から、ポリアミック酸やポリイミドが一般に使用されている。
【0003】
また近年、液晶表示素子は、従来のようにパーソナルコンピュータ等の表示端末に使用されるだけでなく、例えば液晶テレビやカーナビゲーションシステム、携帯電話、スマートフォン、インフォメーションディスプレイなど多種の用途で使用されている。このような多用途化に伴い、液晶表示素子では表示品位の更なる高品質化が求められており、駆動方式や素子構造の改良とともに、液晶表示素子の構成部材の一つである液晶配向膜の改良が進められている。例えば、液晶表示素子の重要な特性としては、耐侯性が良好であることが挙げられ、具体的には、長時間駆動や光ストレスに曝された場合にも電気特性を良好に維持できる(耐光性が良好である)ことや、高温高湿下でも電気特性を良好に維持できる(高温高湿耐性が良好である)ことが求められている。
【0004】
そこで従来、ポリイミド系の液晶配向膜においてイミド化率を高くすることで、液晶表示素子の耐候性を向上させることが提案されている。その一方で、液晶配向膜のイミド化率を高くした場合、液晶配向剤の基板への印刷性が低下することがあることを鑑み、液晶配向膜材料の成分を種々選択することによって液晶表示素子の耐候性の改善を図ることが行われており、そのような液晶配向膜材料が種々提案されている(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−2501号公報
【特許文献2】特開2011−28223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液晶表示素子の高性能化に対する要求は更に高まっており、特に、その多用途化に伴い従来よりも過酷な環境下で使用されることがある点において、熱や光などのストレス下に曝された場合にも表示品位を良好に維持可能であることが求められている。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、液晶配向膜の耐候性を改善することができる液晶配向剤、並びに当該液晶配向剤を用いて作製された液晶配向膜及び液晶表示素子を提供することを主たる目的とする。また、液晶配向剤の調製に好適に使用することができる新規な重合体、及び当該重合体の合成に用いる新規な化合物を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような従来技術の課題を達成すべく鋭意検討した結果、液晶配向剤に含有させる重合体成分として、テトラカルボン酸二無水物と特定構造を有するジアミンとの反応によって得られる重合体を用いることにより上記課題を解決可能であることを見出し、本発明を解決するに至った。具体的には、本発明により以下の液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子が提供されるとともに、液晶配向剤の製造に用いるのに好適な新規な重合体及び化合物が提供される。
【0009】
本発明は一つの側面において、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸を脱水閉環してなるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも一種の重合体を含有する液晶配向剤であって、前記ジアミンが、下記式(A)で表される化合物(a)を含む液晶配向剤を提供する。
【化1】
(式(A)中、Amは、窒素原子とともにピロリジン環、ピペリジン環又はヘキサメチレンイミン環を形成する2価の基であり、これらの環部分に置換基が結合されていてもよい。但し、Amにおいて、環を構成する窒素原子がXに結合している。Xは、単結合、酸素原子、カルボニル基、*−COO−、*−OCO−、−NH−、*−Ar−O−、*−O−Ar−、*−COO−Ar−、又は*−R−OCO−(但し、Arは、フェニレン基又はフェニレン基に置換基が結合された2価の基であり、Rは炭素数1又は2のアルカンジイル基である。「*」は含窒素複素環との結合手を示す。)である。Xは、単結合又はカルボニル基である。Rは、1価の有機基であり、rはそれぞれ独立に0〜4の整数である。但し、rの合計が2以上の場合、複数のRは独立して上記定義を有する。)
【0010】
本発明の液晶配向剤は、重合体成分として、上記式(A)で表される化合物における2つの1級アミノ基からそれぞれ1つの水素原子を除いた構造(以下、「特定構造」ともいう。)を主鎖に有するポリアミック酸、及びそのイミド化重合体の少なくとも1種を含んでいる。このような液晶配向剤によれば、耐光性及び高温高湿耐性に優れた液晶配向膜を製造することができる。
【0011】
また、液晶配向膜の製造工程では、液晶配向剤を用いて基板上に形成した塗膜にピンホールや塗膜ムラ等の欠陥が生じることがある。この場合、基板から塗膜を剥離して基板を再利用することがあるが、このようなリワークにおいては、基板に対する塗膜の剥離性が良好であることが求められる。その点、本発明の液晶配向剤によれば、リワーク性が良好な液晶配向膜を得ることができる。また、本発明の液晶配向剤により形成された液晶配向膜は、印刷性についても良好である。
【0012】
本発明において、上記化合物(a)としては、下記式(A−1)で表されることが好ましい。
【化2】
(式(A−1)中、Xは、単結合、酸素原子、カルボニル基、*−COO−、*−OCO−、−NH−、*−Ar−O−、*−O−Ar−、*−COO−Ar−、又は*−R−OCO−(但し、Arは、フェニレン基又はフェニレン基に置換基が結合された2価の基であり、Rは炭素数1又は2のアルカンジイル基である。「*」は含窒素複素環との結合手を示す。)である。Xは、単結合又はカルボニル基である。R及びRは、それぞれ独立に1価の有機基であり、r及びsはそれぞれ独立に0〜4の整数である。但し、rの合計が2以上の場合、複数のRは独立して上記定義を有し、sが2以上の場合、複数のRは独立して上記定義を有する。)
【0013】
本発明において、上記Xは単結合であることが好ましく、上記Xは、*−COO−、*−OCO−、−NH−又は*−R−OCO−(但し、Rは炭素数1又は2のアルカンジイル基である。)であることが好ましい。また、上記重合体の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物及び1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも一種を含んでいることが好ましい。
【0014】
本発明は一つの側面において、上記に記載の液晶配向剤により形成された液晶配向膜を提供する。さらに、本発明は別の一つの側面において、上記液晶配向膜を具備する液晶表示素子を提供する。
【0015】
本発明は他の一つの側面において、上記式(A)で表される化合物(a)を含むジアミンと、テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる重合体を提供する。また、上記式(A)で表される化合物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の液晶配向剤は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸及び該ポリアミック酸を脱水閉環してなるポリイミドよりなる群から選択される少なくとも一種の重合体を含有する。以下、本発明の液晶配向剤について詳細に説明する。
【0017】
<ポリアミック酸>
[テトラカルボン酸二無水物]
本発明におけるポリアミック酸を合成するのに用いるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、
脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物などを;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオン、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物などを;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物などを;それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
なお、ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
ポリアミック酸を合成するのに用いるテトラカルボン酸二無水物としては、これらのうち脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むものであることが好ましい。より好ましくは、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物及び1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも一種を含むものであり、特に好ましくは、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物及び1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物の少なくともいずれか(特定テトラカルボン酸二無水物)を含むものである。また、当該特定テトラカルボン酸二無水物を、ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して10モル%以上含むことが好ましく、20〜100モル%含むことがより好ましく、50〜100モル%含むことが特に好ましい。
なお、上記テトラカルボン酸二無水物は、下記式(A)で表される化合物(a)との重合反応によって、耐光性及び高温高湿耐性に優れた液晶配向膜を形成可能なポリアミック酸を得ることができる点において、いずれも同様の作用を有するものである。したがって、以下の実施例に記載されていないものであっても、本発明において使用することが可能である。
【0019】
[ジアミン]
《化合物(a)》
本発明におけるポリアミック酸を合成するために使用するジアミンとしては、下記式(A)で表される化合物(a)を含んでいる。
【化3】
(式(A)中、Amは、窒素原子とともにピロリジン環、ピペリジン環又はヘキサメチレンイミン環を形成する2価の基であり、これらの環部分に置換基が結合されていてもよい。但し、Amにおいて、環を構成する窒素原子がXに結合している。Xは、単結合、酸素原子、カルボニル基、*−COO−、*−OCO−、−NH−、*−Ar−O−、*−O−Ar−、*−COO−Ar−、又は*−R−OCO−(但し、Arは、フェニレン基又はフェニレン基に置換基が結合された2価の基であり、Rは炭素数1又は2のアルカンジイル基である。「*」は含窒素複素環との結合手を示す。)である。Xは、単結合又はカルボニル基である。Rは、1価の有機基であり、rはそれぞれ独立に0〜4の整数である。但し、rの合計が2以上の場合、複数のRは独立して上記定義を有する。)
【0020】
式(A)について、Amは、窒素原子とともにピロリジン環、ピペリジン環又はヘキサメチレンイミン環を形成する2価の基であり、これら環(含窒素複素環)を構成する窒素原子が2価の基「X」を介して一方のアミノフェニル基に結合し、炭素原子が2価の基「X」を介して他方のアミノフェニル基に結合している。含窒素複素環は置換基を有していてもよく、当該置換基としては、例えば炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜12の脂環式炭化水素基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、水酸基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、ニトロ基、シアノ基などが挙げられる。また、当該置換基としては、上記例示した炭化水素基の炭素−炭素結合間に、例えば−O−、−CO−、−COO−、−OCO−等を有する1価の基でもよく、当該炭化水素基が有する水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子等で置換されたものでもよい。
ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等を;炭素数3〜12の脂環式炭化水素基としては、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等を;炭素数6〜12の芳香族炭化水素基としては、例えばフェニル基、トリル基、ベンジル基等を;それぞれ挙げることができる。
Amと窒素原子とにより形成される含窒素複素環は、ピペリジン環であることが特に好ましい。つまり、化合物(a)は、下記式(A−1)で表されるジアミンであることが好ましい。
【化4】
(式(A−1)中、Rは、1価の有機基であり、sは0〜4の整数である。但し、sが2以上の場合、複数のRは独立して上記定義を有する。R,X,X及びrは、上記式(A)と同義である。)
【0021】
上記式(A−1)におけるRは、1価の有機基であり、その具体例としては、Amの説明において、含窒素複素環が有していてもよい置換基として例示した基を挙げることができる。なお、ベンゼン環にRが複数結合されている場合、それら複数のRは、同じでも異なっていてもよい。
【0022】
式(A)及び式(A−1)のXについて、*−Ar−O−、*−O−Ar−、及び*−COO−Ar−におけるArは、フェニレン基又はフェニレン基に置換基が結合された2価の基である。当該置換基としては、例えばAmの説明において、含窒素複素環が有していてもよい置換基として例示した基を挙げることができる。
としては、中でも*−COO−、*−OCO−、−NH−又は*−R−OCO−であることが好ましく、*−COO−、*−OCO−又は−NH−がより好ましい。これらXの結合位置は特に限定しないが、含窒素複素環の窒素原子に対して3位又は4位であることが好ましく、4位であることがより好ましい。
は、単結合又はカルボニル基であり、好ましくは単結合である。
は、1価の有機基であり、その具体例としては、Amの説明において、含窒素複素環が有していてもよい置換基として例示した基を挙げることができる。なお、式中にRが複数存在する場合、それら複数のRは互いに同じでも異なっていてもよい。
式(A)及び式(A−1)中の2つのアミノフェニル基について、ベンゼン環上の1級アミノ基の結合位置は特に限定しないが、他の基(X又はX)に対して、3位又は4位であることが好ましい。
【0023】
上記式(A)で表される化合物(a)の具体例としては、例えば下記式(A−1−1)〜(A−1−6)のそれぞれで表されるものを挙げることができる。なお、ポリアミック酸の合成に際しては、化合物(a)のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【化5】
【0024】
なお、上記式(A)で表される化合物(a)は、上記特定構造を有するとともに、耐光性及び高温高湿耐性に優れたポリアミック酸を得ることが可能である点において、いずれも同様の作用を有するものである。したがって、以下の実施例に記載されていないものであっても本発明において使用することが可能である。
【0025】
《他のジアミン》
上記ポリアミック酸を合成するためのジアミンとしては、上記化合物(a)のみを使用してもよいが、上記化合物(a)とともにその他のジアミンを併用してもよい。
【0026】
ここで使用することができるその他のジアミンとしては、例えば、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えば1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;
脂環式ジアミンとして、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどを;
【0027】
芳香族ジアミンとして、例えばo−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、3,5−ジアミノ安息香酸、ドデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ドデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、テトラデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5−ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5−ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノフェノキシ)コレスタン、4−(4’−トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、4−(4’−トリフルオロメチルベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ブチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)−4−ヘプチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−(4−ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサン、2,4−ジアミノ−N,N―ジアリルアニリン、4−アミノベンジルアミン、3−アミノベンジルアミン、1−(2,4−ジアミノフェニル)ピペラジン−4−カルボン酸、4−(モルホリン−4−イル)ベンゼン−1,3−ジアミン、1,3−ビス(N−(4−アミノフェニル)ピペリジニル)プロパン、α−アミノ−ω−アミノフェニルアルキレン、1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチル−1H−インデン−5−アミン、1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチル−1H−インデン−6−アミン、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート、4,4’−[4,4’−プロパン−1,3−ジイルビス(ピペリジン−1,4−ジイル)]ジアニリン、及び下記式(D−1)
【化6】
(式(D−1)中、XI及びXIIは、それぞれ、単結合、−O−、−COO−又は−OCO−であり、Rは、炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、aは0又は1であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜20の整数であり、nは0又は1である。但し、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物などを;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサンなどを;それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。
【0028】
上記式(D−1)における「−X−(R−XII−」で表される2価の基としては、炭素数1〜3のアルカンジイル基、*−O−、*−COO−又は*−O−C−O−(ただし、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)であることが好ましい。
基「−C2c+1」の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基などを挙げることができる。ジアミノフェニル基における2つのアミノ基は、他の基に対して2,4−位又は3,5−位にあることが好ましい。
【0029】
上記式(D−1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(D−1−1)〜(D−1−3)のそれぞれで表される化合物などを挙げることができる。
【化7】
なお、上記ポリアミック酸の合成に使用するその他のジアミンとしては、上記の化合物を1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0030】
本発明におけるポリアミック酸の合成に用いるジアミンとしては、液晶表示素子の耐光性及び高温高湿耐性や液晶配向膜のリワーク性を確保できる点において、化合物(a)の比率が、合成に使用するジアミンの全量に対して0.1モル%以上であることが好ましい。当該比率としては、初期電圧保持率をより良好にできる点において0.1〜70モル%であることがより好ましい。更に好ましくは、5〜50モル%であり、10〜50モル%であることが特に好ましい。
【0031】
[分子量調節剤]
ポリアミック酸を合成するに際して、上記の如きテトラカルボン酸二無水物及びジアミンとともに、適当な分子量調節剤を用いて末端修飾型の重合体を合成することとしてもよい。かかる末端修飾型の重合体とすることにより、本発明の効果を損なうことなく液晶配向剤の塗布性(印刷性)をさらに改善することができる。
【0032】
分子量調節剤としては、例えば酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物などを挙げることができる。これらの具体例としては、酸一無水物としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、n−デシルサクシニック酸無水物、n−ドデシルサクシニック酸無水物、n−テトラデシルサクシニック酸無水物、n−ヘキサデシルサクシニック酸無水物などを;
モノアミン化合物として、例えばアニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミンなどを;
モノイソシアネート化合物として、例えばフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどを、それぞれ挙げることができる。
分子量調節剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計100重量部に対して、20重量部以下とすることが好ましく、10重量部以下とすることがより好ましい。
【0033】
<化合物(a)の合成>
本発明の化合物(a)は、有機化学の定法を適宜組み合わせることにより合成することができる。その一例としては、例えば上記式(A)中の2つのアミノフェニル基の代わりに2つのニトロフェニル基を有するジニトロ体を合成し、その後、得られたジニトロ体のニトロ基を適当な還元系を用いて水素化してアミノ化する方法が挙げられる。
ここで、上記ジニトロ体は、Xが「*−COO−」又は「*−COO−Ar−」である場合、例えばニトロフルオロベンゼン等のニトロフェニル基含有のハロゲン化物と、カルボキシル基を有する第2級環式アミン化合物と、を反応させ、これにより得られた反応生成物と、ニトロフェニル基を有する水酸基誘導体と、を反応させることにより合成することができる。
また、Xが「*−OCO−」又は「*−R−OCO−」である場合、例えばニトロフルオロベンゼン等のニトロフェニル基含有のハロゲン化物と、水酸基を有する第2級環式アミン化合物と、を反応させ、これにより得られた反応生成物と、ニトロベンゾイルクロリド等のニトロフェニル基含有のカルボン酸ハロゲン化物と、を反応させることにより合成することができる。
が「−NH−」の場合、例えばニトロフルオロベンゼン等のニトロフェニル基含有のハロゲン化物と、1級アミノ基を有する第2級環式アミン化合物と、を反応させることにより上記ジニトロ体を得ることができる。
また、Xが「*−Ar−O−」の場合、例えばニトロフェニル基含有のハロゲン化物と、基「−Ar−OH」を有する第2級環式アミン化合物と、を反応させることにより上記ジニトロ体を合成することができ、Xが「*−O−Ar−」の場合、ヒドロキシピペリジン等の水酸基含有の第2級環式アミン化合物と、対応するニトロフェニル基含有のハロゲン化物と、を反応させることにより上記ジニトロ体を得ることができる。
【0034】
上記中間体としてのジニトロ体を得るための反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。このときの反応温度は−20℃〜180℃が好ましく、0〜120℃がより好ましい。また、反応時間は0.1〜24時間が好ましく、0.5〜12時間がより好ましい。
有機溶媒としては、置換反応に際し通常用いられる化合物を使用することができ、具体的には、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、テトラヒドロフラン、トルエン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドンなどを挙げることができる。また、反応に際しては、必要に応じて、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、トリエチルアミン等の塩基;ジメチルアミノピリジン等の求核剤;1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)等の脱水縮合剤などの添加剤を加えてもよい。
上記中間体の還元反応は、例えば亜鉛、水酸化アルミニウムリチウム、パラジウム触媒−水素系等を用いて実施することができる。このときの反応温度は−20℃〜180℃が好ましく、10〜120℃がより好ましい。また、反応時間は0.1〜72時間が好ましく、0.5〜48時間がより好ましい。ただし、化合物(a)の合成手順は上記方法に限定されるものではない。
【0035】
<ポリアミック酸の合成>
本発明におけるポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2〜2当量となる割合が好ましく、更に好ましくは0.3〜1.2当量となる割合である。
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度はマイナス20℃〜150℃が好ましく、0〜100℃がより好ましい。また、反応時間は0.1〜24時間が好ましく、0.5〜12時間がより好ましい。
【0036】
ここで、有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール及びその誘導体、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを挙げることができる。
これら有機溶媒の具体例としては、上記非プロトン性極性溶媒として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミドなどを;
上記フェノール誘導体として、例えば、m−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノールなどを;
上記アルコールとして、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどを;
上記ケトンとして、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどを;
上記エステルとして、例えば、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチルなどを;
上記エーテルとして、例えば、ジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラヒドロフランなどを;
上記ハロゲン化炭化水素として、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼンなどを;
上記炭化水素として、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテルなどを;それぞれ挙げることができる。
【0037】
これらの有機溶媒のうち、非プロトン性極性溶媒並びにフェノール及びその誘導体よりなる群(第一群の有機溶媒)から選択される一種以上、又は、第一群の有機溶媒から選択される1種以上と、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素よりなる群(第二群の有機溶媒)から選択される一種以上との混合物を使用することが好ましい。後者の場合、第二群の有機溶媒の使用割合は、第一群の有機溶媒及び第二群の有機溶媒の合計量に対して、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下であり、更に好ましくは30重量%以下である。
有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して0.1〜50重量%になるような量とすることが好ましい。
【0038】
以上のようにして、ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリアミック酸を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリアミック酸を脱水閉環してポリイミドとする場合には、上記反応溶液をそのまま脱水閉環反応に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで脱水閉環反応に供してもよく、又は単離したポリアミック酸を精製したうえで脱水閉環反応に供してもよい。ポリアミック酸の単離及び精製は公知の方法に従って行うことができる。
【0039】
<ポリイミド及びポリイミドの合成>
本発明の液晶配向剤に含有されるポリイミドは、上記の如くして合成されたポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。
【0040】
上記ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造が併存する部分イミド化物であってもよい。本発明におけるポリイミドは、そのイミド化率が30%以上であることが好ましく、40〜99%であることがより好ましく、50〜99%であることが更に好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0041】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を加熱する方法により、又はポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。このうち、後者の方法によることが好ましい。
【0042】
上記ポリアミック酸の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01〜20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0〜180℃であり、より好ましくは10〜150℃である。反応時間は、好ましくは1.0〜120時間であり、より好ましくは2.0〜30時間である。
【0043】
このようにしてポリイミドを含有する反応溶液が得られる。この反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液から脱水剤及び脱水閉環触媒を除いたうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、又は単離したポリイミドを精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。これらの精製操作は公知の方法に従って行うことができる。
【0044】
<重合体の溶液粘度・分子量>
以上のようにして得られるポリアミック酸及びポリイミドは、これを濃度10重量%の溶液としたときに、10〜800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15〜500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、上記重合体の溶液粘度(mPa・s)は、当該重合体の良溶媒(例えばγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドンなど)を用いて調製した濃度10重量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
上記ポリアミック酸、ポリイミドのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000〜500,000であり、より好ましくは2,000〜300,000である。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは15以下であり、より好ましくは10以下である。このような分子量範囲にあることで、液晶表示素子の良好な配向性及び安定性を確保することができる。
【0045】
<その他の添加剤>
本発明の液晶配向剤は、上記の如きポリアミック酸及びポリイミドの少なくともいずれかの重合体(以下、「特定重合体」ともいう。)を含有するが、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。かかるその他の成分としては、例えば、上記特定重合体以外のその他の重合体、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ基含有化合物」という。)、酸化防止剤、多官能(メタ)アクリレート、官能性シラン化合物等を挙げることができる。
【0046】
[その他の重合体]
上記その他の重合体は、溶液特性や電気特性の改善のために使用することができる。かかるその他の重合体としては、例えば、上記例示したテトラカルボン酸二無水物と、化合物(a)を含まないジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミック酸(以下、「他のポリアミック酸」という。)、当該他のポリアミック酸を脱水閉環してなるポリイミド(以下、「他のポリイミド」という。)、ポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
その他の重合体を液晶配向剤に添加する場合、その配合比率は、該組成物中の全重合体量に対して50重量%以下が好ましく、0.1〜40重量%がより好ましく、0.1〜30重量%が更に好ましい。
【0047】
[エポキシ基含有化合物]
エポキシ基含有化合物は、液晶配向膜における基板表面との接着性を向上させるために使用することができる。ここで、エポキシ基含有化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、N,N−ジグリシジル−ベンジルアミン、N,N−ジグリシジル−アミノメチルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−シクロヘキシルアミン、国際公開第2009/096598号記載のエポキシ基含有ポリオルガノシロキサン等を好ましいものとして挙げることができる。
これらエポキシ基含有化合物を液晶配向剤に添加する場合、その配合比率は、液晶配向剤中に含まれる重合体の合計100重量部に対して40重量部以下が好ましく、0.1〜30重量部がより好ましい。
【0048】
[酸化防止剤]
酸化防止剤は、紫外線や熱などのエネルギーがきっかけとなって発生したペルオキシラジカルやヒドロペルオキシドを無効化して、液晶表示素子の電気特性の低下を抑制する目的で使用される。酸化防止剤としては、例えばフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤及びこれらのブレンド化合物などが挙げられる。これら酸化防止剤としては、例えば市販品を使用することができ、その具体例としては、フェノール系酸化防止剤として、例えばアデカスタブAO−20、同AO−30、同AO−40、同AO−50、同AO−60(以上、ADEKA製)、IRGANOX1010、IRGANOX1035、IRGAOX1076等のIRGANOXシリーズ、IRGAMOD295等のIRGAMODシリーズ(以上、BASFジャパン製)等を;アミン系酸化防止剤として、例えばアデカスタブLA−52、LA−63等のアデカスタブLAシリーズ(ADEKA製)、CHIMASSORB119等のCHIMASSORBシリーズ、TINUVIN622、TINUVIN123等のTINUVINシリーズ(以上、BASFジャパン製)等を;
【0049】
リン系酸化防止剤として、例えばアデカスタブPEP−4C、同PEP−8、HP−10、2112(以上、ADEKA製)、IRGAFOS168、GSY−P101(以上、堺化学工業製)、IRGAFOS168等のIRGAFOSシリーズ、IRGAFOS P−EPQ(以上、BASFジャパン製)等を;イオウ系酸化防止剤として、例えばアデカスタブAO−412、同AO−503(以上、ADEKA製)、IRGANOX PS 800、IRGANOX PS 802(以上、BASFジャパン製)等を;ブレンド系酸化防止剤として、例えばアデカスタブA−611、同A−612、同AO−37、同AO−15(以上、ADEKA製)、TINUVIN111等のTINUVINシリーズ(以上、BASFジャパン製)等を;挙げることができる。なお、酸化防止剤は、上記のうち1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0050】
使用する酸化防止剤としては、中でもフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が好ましい。また、これらの酸化防止剤を液晶配向剤に添加する場合、その配合比率は、重合体の合計100重量部に対して10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、0.1〜3重量部であることが更に好ましい。
【0051】
[多官能(メタ)アクリレート]
多官能(メタ)アクリレートは、液晶表示素子の耐候性を向上させるために使用することができる。多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、トリ(2−アクリロイルオキシエチル)フォスフェート、トリ(2−メタクリロイルオキシエチル)フォスフェート等を挙げることができる。なお、多官能(メタ)アクリレートとしては市販品を使用してもよい。
これらの多官能(メタ)アクリレートを液晶配向剤に添加する場合、その配合比率は、重合体の合計100重量部に対して100重量部以下が好ましく、50重量部以下がより好ましく、0.1〜30重量部であることが更に好ましい。
【0052】
[官能性シラン化合物]
上記官能性シラン化合物は、液晶配向剤の印刷性を向上させるために使用することができる。このような官能性シラン化合物としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノナン酸メチル、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノナン酸メチル、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、2−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、2−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
これら官能性シラン化合物を液晶配向剤に添加する場合、その配合比率は、重合体の合計100重量部に対して2重量部以下が好ましく、0.02〜0.2重量部がより好ましい。
【0053】
<溶剤>
本発明の液晶配向剤は、重合体成分及び必要に応じて任意に配合されるその他の添加剤が、好ましくは有機溶媒中に溶解されて構成される。
【0054】
使用される有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0055】
本発明の液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計重量が液晶配向剤の全重量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1〜10重量%の範囲である。すなわち、本発明の液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより、液晶配向膜である塗膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。このとき、固形分濃度が1重量%未満である場合には、この塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜を得にくい。一方、固形分濃度が10重量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜を得にくく、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布特性が低下する。
【0056】
特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えばスピンナー法による場合には固形分濃度1.5〜4.5重量%の範囲が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3〜9重量%の範囲とし、それにより溶液粘度を12〜50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法
による場合には、固形分濃度を1〜5重量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を3〜15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。
本発明の液晶配向剤を調製する際の温度は、好ましくは10〜50℃であり、より好ましくは20〜30℃である。
【0057】
<液晶配向膜及び液晶表示素子>
本発明の液晶配向膜は、上記の液晶配向剤により形成される。また、本発明の液晶表示素子は、上記の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。本発明の液晶表示素子の動作モードは特に限定せず、例えばIPS型、TN型、STN型、FFS型、VA型、OCB型など種々の駆動方式に適用することができる。
【0058】
本発明の液晶表示素子は、例えば以下の(1)〜(3)の工程により製造することができる。工程(1)は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程(2)及び(3)は各動作モードに共通である。
【0059】
[工程(1):塗膜の形成]
先ず基板上に本発明の液晶配向剤を塗布し、次いで塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。
【0060】
(1−1)例えばTN型、STN型又はVA型液晶表示素子を製造する場合、まず、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を一対として、その各透明性導電膜形成面上に、本発明の液晶配向剤を、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法によりそれぞれ塗布する。ここに、基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜などを用いることができる。パターニングされた透明導電膜を得るには、例えばパターンなし透明導電膜を形成した後フォト・エッチングによりパターンを形成する方法、透明導電膜を形成する際に所望のパターンを有するマスクを用いる方法などによることができる。液晶配向剤の塗布に際しては、基板表面及び透明導電膜と塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板表面のうち塗膜を形成するべき面に、官能性シラン化合物、官能性チタン化合物などを予め塗布する前処理を施しておいてもよい。
【0061】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30〜200℃であり、より好ましくは40〜150℃であり、特に好ましくは40〜100℃である。プレベーク時間は、好ましくは0.25〜10分であり、より好ましくは0.5〜5分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80〜300℃であり、より好ましくは120〜250℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5〜200分であり、より好ましくは10〜100分である。このようにして、形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmであり、より好ましくは0.005〜0.5μmである。
【0062】
(1−2)IPS型液晶表示素子を製造する場合、櫛歯型にパターニングされた透明導電膜が設けられている基板の導電膜形成面と、導電膜が設けられていない対向基板の一面とに、本発明の液晶配向剤をそれぞれ塗布し、次いで各塗布面を加熱することにより塗膜を形成する。このとき使用される基板及び透明導電膜の材質、塗布方法、塗布後の加熱条件、透明導電膜のパターニング方法、基板の前処理、並びに形成される塗膜の好ましい膜厚については上記(1−1)と同様である。
【0063】
上記(1−1)及び(1−2)のいずれの場合も、基板上に液晶配向剤を塗布した後、有機溶媒を除去することによって配向膜となる塗膜が形成される。このとき、本発明の液晶配向剤に含有される重合体が、ポリアミック酸であるか、又はイミド環構造とアミック酸構造とを有するイミド化重合体である場合には、塗膜形成後に更に加熱することによって脱水閉環反応を進行させ、よりイミド化された塗膜としてもよい。
【0064】
[工程(2):ラビング処理]
TN型、STN型又はIPS型液晶表示素子を製造する場合には、上記工程(1)で形成した塗膜を、例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理を施す。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。
一方、VA型液晶表示素子を製造する場合には、上記工程(1)で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、該塗膜に対しラビング処理を施してもよい。
【0065】
上記のように形成された液晶配向膜に対しては、更に、液晶配向膜の一部に紫外線を照射することによって液晶配向膜の一部の領域のプレチルト角を変化させる処理や、液晶配向膜表面の一部にレジスト膜を形成した上で先のラビング処理と異なる方向にラビング処理を行った後にレジスト膜を除去する処理を行い、液晶配向膜が領域ごとに異なる液晶配向能を持つようにしてもよい。この場合、得られる液晶表示素子の視界特性を改善することが可能である。
なお、VA型の液晶表示素子に好適な液晶配向膜は、PSA(Polymer sustained alignment)型の液晶表示素子にも好適に用いることができる。
【0066】
[工程(3):液晶セルの構築]
上記のようにして液晶配向膜が形成された一対の基板につき、二枚の基板の液晶配向膜のラビング方向が直交又は逆平行となるように間隙(セルギャップ)を介して対向配置し、二枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填し、注入孔を封止して液晶セルを構成する。そして、液晶セルの外表面に、偏光板を、その偏光方向が各基板に形成された液晶配向膜のラビング方向と一致又は直交するように貼り合わせることにより、液晶表示素子を得ることができる。
【0067】
シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。
液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましく、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶などを用いることができる。また、これらの液晶に、例えばコレスチルクロライド、コレステリルノナエート、コレステリルカーボネートなどのコレステリック液晶;商品名「C−15」、「CB−15」(メルク社製)として販売されているようなカイラル剤;p−デシロキシベンジリデン−p−アミノ−2−メチルブチルシンナメートなどの強誘電性液晶などを、添加して使用してもよい。
液晶セルの外表面に貼り合わされる偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板を挙げることができる。
【0068】
本発明の液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜として位相差フィルム用液晶配向膜を有する位相差フィルムを具備するものであってもよい。この場合、本発明の液晶表示素子は、当該位相差フィルムを、背面側(バックライト側)偏光板と液晶セルとの間に備えていてもよく、視認側偏光板と液晶セルとの間に備えていてもよく、あるいはその両方に備えていてもよい。このような位相差フィルムは、例えば、本発明の液晶配向剤を、酢酸セルロース保護膜あるいは偏光膜などの基板上に塗布して塗膜を形成し、次いで必要に応じてラビング処理を施すことにより位相差フィルム用液晶配向膜とした後、その膜表面に重合性液晶を塗布して硬化させることにより製造することができる。
【0069】
本発明の液晶表示素子は、種々の装置に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイなどの各種表示装置に用いることができる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0071】
合成例における各重合体溶液の溶液粘度及びポリイミドのイミド化率は以下の方法により測定した。
[重合体溶液の溶液粘度]
重合体溶液の溶液粘度(mPa・s)は、所定の溶媒を用い、重合体濃度10重量%に調整した溶液について、E型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でH−NMRを測定した。得られたH−NMRスペクトルから、下記数式(1)で示される式によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1−A/A×α)×100 …(1)
(数式(1)中、Aは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、Aはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0072】
<ジアミンの合成>
以下の合成例では、必要に応じて下記のスケールで繰り返すことにより、以降の重合例における必要量を確保した。
[合成例1:化合物(a−1−1)の合成]
下記スキーム1に従って、下記式(A−1−1)で表される化合物(a−1−1)を合成した。
【化8】
【0073】
撹拌機、窒素導入管及び温度計を備えた1L三口フラスコに、4−フルオロニトロベンゼン31g、4−アミノピペリジン10g、炭酸水素ナトリウム18.5g、エタノール200mLを混合し、80℃で4時間撹拌した。反応終了後、酢酸エチルに溶解させ蒸留水で分液洗浄を行った。続いて、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて濃縮し、得られた固体をエタノールで洗浄することで化合物(a−1)の結晶26gを得た。次に、窒素雰囲気下中、1L三口フラスコに化合物(a−1)を25g、亜鉛99g、塩化アンモニウム16g、THF300mL、エタノール50mLを混合し、氷浴中で撹拌しながら蒸留水40mLを滴下した後、20℃で4時間撹拌した。ろ過により亜鉛等を除去した後、酢酸エチルに溶解させ、蒸留水で分液洗浄を行った。続いて、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥して濃縮し、褐色粉末を得た。酢酸エチル100mL、ヘキサン200mLで再結晶を行い、下記式(A−1−1)で表される化合物(a−1−1)の結晶17gを得た。
【0074】
[合成例2:化合物(a−1−3)の合成]
下記スキーム2に従って、下記式(A−1−3)で表される化合物(a−1−3)を合成した。
【化9】
【0075】
撹拌機、窒素導入管及び温度計を備えた1L三口フラスコに、4―フルオロニトロベンゼン15.5g、4−ヒドロキシピペリジン10g、炭酸水素ナトリウム9.2g、エタノール100mLを混合し、80℃で5時間撹拌した。反応終了後、酢酸エチルに溶解させ蒸留水で分液洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて濃縮し、得られた固体をエタノールで再結晶を行い、化合物(a−2)の結晶20gを得た。次に、窒素雰囲気下中、500mL三口フラスコ中に化合物(a−2)を19g、トリエチルアミン13g、THF150mLを混合し、氷浴中で撹拌しながら4−ニトロベンゾイルクロリド 16gをTHF50mLに溶解したものを滴下した後、20℃で1時間撹拌した。反応終了後、酢酸エチルに溶解させ蒸留水で分液洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて濃縮し、得られた固体をエタノールで再結晶を行い、化合物(a−3)の結晶25gを得た。最後に、窒素雰囲気下中、500mL三口フラスコ中に化合物(a−3)を24.5g、亜鉛87g、塩化アンモニウム14g、THF300mL、エタノール50mLを混合し、氷浴中で撹拌しながら蒸留水35mLを滴下した後、20℃で5時間撹拌した。ろ過により亜鉛等を除去した後、酢酸エチルに溶解させ、蒸留水で分液洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後に濃縮して得られた粉末を、酢酸エチル100mL、ヘキサン200mLで再結晶を行い、化合物(a−1−3)の結晶19gを得た。
【0076】
[合成例3:化合物(a−1−5)の合成]
下記スキーム3に従って、下記式(A−1−5)で表される化合物(a−1−5)を合成した。
【化10】
【0077】
撹拌機、窒素導入管及び温度計を備えた1L三口フラスコに4−フルオロニトロベンゼン31g、フッ化セシウム36g、イソニペコチン酸26g、ジメチルスルホキシド200mLを混合し、110℃で3時間撹拌した。反応終了後、蒸留水400mLを混合し、析出した粉末をろ過により回収した。蒸留水、ヘキサンで十分に洗浄し、乾燥して化合物(a−4)44gを得た。次に、化合物(a−4)25g、4−ニトロフェノール13g、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC) 23g、THF350mLを混合し、氷浴中で攪拌しながらジメチルアミノピリジン2.5gを添加した後、20℃で4時間撹拌した。反応終了後、酢酸エチルに溶解させ、蒸留水で分液作業を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて濃縮し、得られた固体をエタノールで洗浄し、化合物(a−5)の結晶24gを得た。最後に、500mL三口フラスコ中に、窒素雰囲気下、化合物(a−5)を24g、亜鉛85g、塩化アンモニウム 14g、THF300mL、エタノール50mLを混合し、氷浴中で撹拌しながら蒸留水 35mLを滴下した後、20℃で5時間撹拌した。ろ過により亜鉛等を除去した後、酢酸エチルに溶解させ、蒸留水で分液洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて濃縮し、得られた粉末をTHFに再溶解させてセライトろ過した。ろ液を濃縮し、化合物(a−1−5)の粉末を16g得た。
【0078】
[合成例4:化合物(a−1−6)の合成]
下記スキーム4に従って、下記(A−1−6)で表される化合物(a−1−6)を合成した。
【化11】
【0079】
合成例3と同様の手法により得た化合物(a−4)15g、3−ニトロフェノール8.35g、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)13.8g、THF180mLを混合し、氷浴中で撹拌しながらジメチルアミノピリジン1.47gを添加した後、20℃で6時間撹拌した。反応終了後、酢酸エチルに溶解させ、蒸留水で分液作業を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、得られた固体をエタノールで洗浄し、化合物(a−6)の結晶17.9gを得た。最後に、500mL三口フラスコ中に、窒素雰囲気下、化合物(a−6)を17.9g、亜鉛63.2g、塩化アンモニウム10.3g、THF210mL、エタノール30mLを混合し、氷浴中で撹拌しながら蒸留水24mLを滴下した後、20℃で7時間撹拌した。ろ過により亜鉛等を除去した後、酢酸エチルに溶解させ、蒸留水で分液洗浄を行った。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させて濃縮し、得られた粉末をTHFに再溶解させてセライトろ過した。ろ液を濃縮し、得られた固体をTHF、ヘキサンで再結晶を行い、化合物(a−1−6)を13g得た。
【0080】
<ポリイミドの合成>
[重合例1]
テトラカルボン酸二無水物として、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物(TCA)0.5モル(11.2g)、ジアミンとして、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル0.1モル(52.3g)、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン0.05モル(24.8g)、化合物(a−1−5)0.025モル(0.78g)、及びp−フェニレンジアミン0.325モル(3.5g)をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)56gに溶解し、60℃で6時間反応を行うことにより、ポリアミック酸を20重量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてポリアミック酸濃度10%重量の溶液として、25℃で測定した溶液粘度は60mPa・sであった。
【0081】
次いで、得られたポリアミック酸溶液にNMP130gを追加し、ピリジン2.4g及び無水酢酸3.1gを添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶剤を新たなNMPで溶剤置換(この溶剤置換操作により、脱水閉環反応に使用したピリジン及び無水酢酸を系外に除去した。以下同じ。)することにより、イミド化率46%のポリイミド(PI−1)を20重量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取してNMPを加え、ポリイミド濃度10重量%の溶液として、25℃で測定した溶液粘度は55mPa・sであった。
【0082】
[重合例2〜9、比較重合例1,2]
使用したテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を下記表1の通りに変更した点、使用したピリジン及び無水酢酸の量を下記表1の通りに変更した点以外は、上記重合例1と同様の方法によりポリイミド(PI−2)〜(PI−11)をそれぞれ合成した。なお、反応溶液は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量が、反応溶液の全量に対して20重量%となるようにNMPを加えて調製した。
【0083】
【表1】
【0084】
<ポリアミック酸の合成>
[重合例10]
テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物0.45モル(5.6g)及び1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物0.05モル(0.7g)、ジアミンとして、化合物(a−1−5)0.1モル(2.0g)、テトラデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン0.05モル(1.0g)、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン0.01モル(0.4g)、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート0.29モル(4.2g)、及び4,4’−[4,4’−プロパン−1,3−ジイルビス(ピペリジン−1,4−ジイル)]ジアニリン0.05モル(1.2g)をNMP85gに溶解し、40℃で8時間反応を行うことにより、ポリアミック酸を15重量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10%重量の溶液として、25℃で測定した溶液粘度は80mPa・sであった。
【0085】
[重合例11〜17、比較重合例3]
使用したテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を下記表2の通りに変更した以外は、上記重合例10と同様の方法によりポリアミック酸(PA−2)〜(PA−9)をそれぞれ合成した。なお、反応溶液は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量が、反応溶液の全量に対して15重量%となるようにNMPを加えて調製した。
【0086】
【表2】
【0087】
表1及び表2中、テトラカルボン酸二無水物の数値は、合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の全量に対する含有割合[モル%]を示し、ジアミンの数値は、合成に使用したジアミンの全量に対する含有割合[モル%]を示す。ピリジン及び無水酢酸の数値は、ポリアミック酸の有するアミック酸単位数に対する含有割合[モル%]を示す。
テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの略称は、それぞれ以下の意味である。
<テトラカルボン酸二無水物>
J:2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物
K:1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
L:1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物
<ジアミン>
B:3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル
C:コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン
D:p−フェニレンジアミン
E:3,5−ジアミノ安息香酸
F: テトラデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン
G: 3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン
H:4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート
I:4,4’−[4,4’−プロパン−1,3−ジイルビス(ピペリジン−1,4−ジイル)]ジアニリン
【0088】
<エポキシ基含有化合物(EPS−1)の合成>
撹拌機、温度計、滴下漏斗及び還流冷却管を備えた反応器に、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン34.48g、メチルイソブチルケトン34.48g及びトリエチルアミン3.45gを仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水27.59gを滴下漏斗より30分かけて滴下した後、還流下で撹拌しつつ、80℃で6時間反応を行った。反応終了後、有機層を取り出し、0.2g重量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで洗浄した後、減圧下で溶媒及び水を留去することにより、粘調なポリオルガノシロキサン溶液を得た。このポリオルガノシロキサンについて、H−NMR分析を行ったところ、化学シフト(σ)=3.2ppm付近にエポキシ基に基づくピークが理論強度どおりに得られ、反応中にエポキシ基の副反応が起こっていないことが確認された。このポリオルガノシロキサンの重量平均分子量Mwは3,000、エポキシ当量は184.8g/モルであった。
【0089】
200mlの三口フラスコに上記のポリオルガノシロキサン7.70g、溶媒としてメチルイソブチルケトン44.8g、4’−ペンチル−1,1’−ビシクロヘキシル−4−カルボン酸3.50g及び触媒としてテトラブチルアンモニウムブロミド0.77gを仕込み、100℃で8時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、反応混合物に酢酸エチルを加えて得た溶液を3回水洗し、有機層を、硫酸マグネシウムを用いて乾燥した後、溶剤を留去することにより、反応性ポリオルガノシロキサン(化合物(EPS−1))を10.9g得た。化合物(EPS−1)の重量平均分子量Mwは8,500であった。
【0090】
<液晶配向剤の調製>
[実施例1]
(1)印刷性評価用の液晶配向剤の調製
重合例1で得られたポリイミド(PI−1)100重量部を含有する溶液に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)及びブチルセロソルブ(BC)を加えて、溶媒組成がNMP:BC=50:50(重量比)、固形分濃度6.5重量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより、印刷性評価用の液晶配向剤Aを調製した。
(2)素子製造用の液晶配向剤の調製
上記(1)において、濾過前の溶液の固形分濃度を4.0重量%としたほかは、上記(1)と同様に調製して素子製造用の液晶配向剤Bを得た。
【0091】
[実施例2〜26、比較例1〜9]
使用する重合体、添加剤を下記表3及び表4に記載の通り変更した以外は、上記実施例1と同様の方法により、印刷性評価用の液晶配向剤A及び素子製造用の液晶配向剤Bをそれぞれ得た。
【0092】
<液晶表示素子の製造>
[製造例1]
上記で調製した実施例1の素子製造用の液晶配向剤Bを、厚さ1mmのガラス基板の一面に設けられたITO膜からなる透明導電膜上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱した。次いで、230℃のホットプレート上で30分間加熱することにより、膜厚約80nmの塗膜(液晶配向膜)を形成した。この操作を繰り返し、液晶配向膜を有する基板を4枚(2対)製造した。
次に、液晶配向膜を有する一対の基板につき、液晶配向膜を有する面のそれぞれの外縁に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、それぞれの液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より、一対の基板間にネガ型液晶(メルク社製、MLC−6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止し、基板の外側の両面に偏光板を貼り合わせることにより、垂直配向型の液晶表示素子を製造した。
【0093】
[製造例2〜14、比較製造例1〜6]
使用する液晶配向剤を、実施例2〜14又は比較例1〜6の素子製造用の液晶配向剤Bに変更した以外は、上記製造例1と同様の方法により垂直配向型の液晶表示素子を製造した。
【0094】
[製造例15]
上記で調製した実施例15の素子製造用の液晶配向剤Bを、厚さ1mmのガラス基板の一面に設けられたITO膜からなる透明導電膜上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱した。次いで、230℃のホットプレート上で30分間加熱することにより、膜厚約80nmの塗膜を形成した。この塗膜に対し、コットン製の布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数600rpm、ステージの移動速度2cm/秒、毛足押し込み長さ0.4mmの条件にてラビング処理を行い、塗膜に液晶配向能を付与して液晶配向膜とした。この液晶配向膜を有する基板を、超純水中で1分間超音波洗浄した後、100℃のクリーンオーブン中で10分間乾燥した。これら一連の操作を繰り返すことにより、液晶配向膜を有する基板を2枚(1対)製造した。
次に、液晶配向膜を有する一対の基板につき、液晶配向膜を有する面のそれぞれの外縁に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、それぞれの液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より、一対の基板間にネマチック液晶(メルク社製、MLC−6221)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止し、基板の外側の両面に偏光板を貼り合わせることにより、水平配向型の液晶表示素子を製造した。
【0095】
[製造例16〜26、比較製造例7〜9]
使用する液晶配向剤を、実施例16〜26又は比較例7〜9の素子製造用の液晶配向剤Bに変更した以外は、上記製造例15と同様の方法により水平配向型の液晶表示素子を製造した。
【0096】
<液晶配向膜の評価>
(1)印刷性の評価
上記で調製した印刷性評価用の液晶配向剤Aにつき、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷機(株)製、オングストローマー形式「S40L−532」)を用いて、アニロックスロールへの液晶配向剤の滴下量を往復20滴(約0.2g)の条件にて、ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面に塗布した。なお、同型の印刷機で通常採用される滴下量は往復30滴(約0.3g)であり、ここでは通常時よりも厳しい印刷条件とした。
液晶配向剤の塗布後の基板を80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)した後、180℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、膜厚80nmの塗膜を形成した。この塗膜を倍率20倍の顕微鏡で観察して、液晶配向剤のハジキ及び塗布ムラの有無を調べた。評価は、ハジキ及び塗布ムラがなかった場合を印刷性「優良」、ハジキや塗布ムラが僅かながら観察された場合を印刷性「良好」、ハジキや塗布ムラが明確に観察された場合を印刷性「不良」として行った。その結果を表3及び表4に示す。
【0097】
(2)リワーク性の評価
厚さ1mmのガラス基板の一面に設けられたITO膜からなる透明導電膜上に、上記で調製した素子製造用の液晶配向剤Bをスピンナーにより塗布し、ホットプレートで100℃、90秒間、プレベークを行い、膜厚約80nmの塗膜を形成した。この操作を繰り返し、塗膜付きの基板を4枚作成した。次に、得られた基板を窒素雰囲気下25℃の暗室に保管し、12時間後、24時間後、48時間後、72時間後にそれぞれ取り出し、40℃のNMPの入ったビーカーに2分間浸漬した。2分後、基板をビーカーから取り出し、超純水で数回洗浄した後、エアブローにて表面の水滴を取り去り、基板を観察し、塗膜の残存状態を光学顕微鏡により観察した。評価は、保管時間が72時間の基板でも塗膜が残っていなかったものをリワーク性「優良」、保管時間が48時間の基板であれば剥離可能であったものをリワーク性「良好」、保管時間が24時間の基板であれば剥離可能であったものをリワーク性「やや良好」、保管時間が12時間の基板であれば剥離可能であったものをリワーク性「可」、保管時間が12時間の基板でも塗膜を剥離できなかったものをリワーク性「不良」として行った。評価結果を表3及び表4に示す。
【0098】
<液晶表示素子の評価>
(1)初期電圧保持率の評価
製造した直後の液晶表示素子に、60℃の温度下において5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率(初期電圧保持率)を測定した。測定装置は(株)東陽テクニカ製の品名「VHR−1」を使用した。その結果を下記表3及び表4に示す。
(2)耐光性の評価
初期電圧保持率VHを測定した後の液晶表示素子の一方に対し、カーボンアークを光源とするウェザーメータを用いて1000時間の光照射を行った。光照射後の液晶セルにつき、上記と同様の方法により電圧保持率を測定した。この値を光照射後電圧保持率VH、初期電圧保持率をVHとした際に、VHからVHを差し引いて求めた電圧保持率の減少量をΔVHRとし、ΔVHRにより耐光性を評価した。測定結果を下記の表3及び表4に示す。
(3)高温高湿耐性の評価
初期電圧保持率VHを測定した後の液晶表示素子のもう一方を、60℃、湿度90%に設定されたオーブンで300時間保管した後、上記と同様の方法により電圧保持率を測定した。この値をストレス付与後電圧保持率VH、初期電圧保持率をVHとした際に、VHからVHを差し引いて求めた電圧保持率の減少量をΔVHR’とし、ΔVHR’により高温高湿耐性を評価した。測定結果を下記表3及び表4に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
表3及び表4中、添加剤の数値は、液晶配向剤に含有される重合体100重量部に対する含有割合[重量部]を示す。また、添加剤の略称は、それぞれ以下の意味である。
M:N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン
N:TINUVIN622(アミン系酸化防止剤)
O:化合物(EPS−1)
P:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
Q:N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4'−ジアミノジフェニルメタン
【0102】
表3及び表4に示すように、実施例の液晶配向剤を用いて製造した液晶表示素子では、ポリイミド系及びポリアミック酸系のいずれにおいても、光照射や高温高湿の環境下に曝した場合の電圧保持率の低下量が少なく、耐光性及び高温高湿耐性に優れていた。また、基板に対する剥離性(リワーク性)や印刷性についてもいずれも良好であった。
これに対し、比較例のものでは、ポリイミド系、ポリアミック酸系のそれぞれについて実施例のものと比較すると、ΔVHR及びΔVHR’の少なくともいずれかが実施例のものよりも大きく、耐光性や高温高湿耐性が劣っていた。