【実施例1】
【0023】
図1は、実施例1のIII 族窒化物半導体からなる発光素子の構成を示した図である。
発光素子は、
図1のように、サファイア基板10と、サファイア基板10上にAlNからなるバッファ層(図示しない)を介して順に積層された、nコンタクト層12、nESD層13、nクラッド層14、発光層15、pクラッド層16、pコンタクト層17、を有している。
【0024】
また、一部領域には、pコンタクト層17からnコンタクト層12に達する溝が設けられていて、その溝の底面に露出するnコンタクト層12上にはn電極18が設けられている。また、pコンタクト層17上にはITO(酸化インジウムスズ)からなる透明電極19が設けられ、透明電極19上にはp電極20が設けられている。また、発光素子1のp電極20とn電極18を除く領域はSiO
2 からなる保護膜(図示しない)に覆われている。この保護膜は、電流のリークやショートを防止する目的で設けている。この実施例1の発光素子は、p電極20側の面から光を取り出すフェイスアップ型の素子である。
【0025】
次に、実施例1の発光素子の各構成についてより詳しく説明する。
【0026】
サファイア基板10は、III 族窒化物半導体を結晶成長させる側の表面に、ストライプ状、ドット状などの周期的なパターンの凹凸(図示しない)が設けられている。この凹凸は、光取り出し効率の向上を目的に設けられている。成長基板として、サファイア以外にも、SiC、Si、ZnO、スピネル、GaN、Ga
2 O
3 などを用いることができる。
【0027】
nコンタクト層12は、Si濃度が1×10
18/cm
3 以上のn−GaNである。nコンタクト層
12をSi濃度の異なる複数の層で構成してもよく、複数の層のうち一部の層のSi濃度を高くしてn電極
18と接触させるようにすれば、nコンタクト層
12の結晶性を悪化させずにn電極
18とのコンタクト抵抗をより低減することができる。
【0028】
nESD層13は、たとえば、nコンタクト層12側から順に、第1ESD層、第2ESD層、第3ESD層の3層構造とし、第1ESD層は、発光層15側の表面に1×10
8 /cm
2 以下のピットが形成され、厚さが200〜1000nm、Si濃度が1×10
16〜5×10
17/cm
3 のGaNで構成され、第2ESD層は、発光層15側の表面に2×10
8 /cm
2 以上のピットが形成され、厚さが50〜200nm、キャリア濃度が5×10
17/cm
3 以下のGaNで構成され、第3ESD層は、Si濃度(/cm
3 )と膜厚(nm)の積で定義される特性値が0.9×10
20〜3.6×10
20(nm/cm
3 )のGaNで構成する。このようにSD層を構成すれば、静電耐圧特性を向上させつつ、発光効率や信頼性を向上させることができ、電流のリークを減少させることができる。
【0029】
nクラッド層14は、ノンドープInGaN、ノンドープGaN、n−GaNを順に積層させた3層構造を1ペアとして、これを複数ペア繰り返して積層させた超格子構造である。
【0030】
発光層15は、InGaNからなる井戸層と、GaNからなるキャップ層と、AlGaNからなる障壁層と、を順に積層させた構造を1ぺアとして、これを繰り返し複数回積層させたMQW構造である。キャップ層は井戸層と同じ温度で形成し、障壁層形成時の昇温で井戸層のInが蒸発しないようにするための層である。発光層15とpクラッド層16との間に、pクラッド層16中のMgが発光層15へ拡散するのを防止するために、アンドープのGaNとアンドープのAlGaNとからなる層を設けてもよい。
【0031】
pクラッド層16は、AlGaN層16a、InGaN層16bの順に積層させた2層を1ペアとして、これを複数ペア繰り返して積層させた超格子構造である(
図2参照)。InGaNのIn組成比は0より大きく10%以下であり、AlGaNのAl組成比は0より大きく100%以下である。pクラッド層16の厚さは50〜1000Åである。50Åより薄いと、クラッド層としての機能(発光層にキャリアを閉じ込めて発光効率を高める機能)が十分に発揮されないため望ましくなく、1000Åより厚いと結晶性が悪化してしまい望ましくない。このpクラッド層16は、後述する形成方法によって、pクラッド層16内で厚さ方向におよそ均一なMg濃度分布となっている。また、pクラッド層16全体でのMg濃度の平均は、1×10
19〜5×10
20/cm
3 である。
【0032】
なお、pクラッド層16は上記のような超格子構造である必要はなく、単に複数の層で構成されていてもよいし、単層であってもよい。たとえば、MgドープのAlGaNからなる単層であってもよい。また、上記のような超格子構造とする場合、AlGaNとInGaNの2層を1ペアとする以外にも、AlGaNとGaNなどの2層で1ペアとしたり、AlGaN、GaN、InGaNの3層以上で1ペアとしてよい。
【0033】
pコンタクト層17は、
図3のように、pクラッド層16側から順に第1のpコンタクト層17a、第2のpコンタクト層17b、第3のpコンタクト層17cの3層構造である。第1のpコンタクト層17aはp−GaNからなり、厚さ295〜355Å、Mg濃度1.0×10
19〜3.0×10
19/cm
3 である。第2のpコンタクト層17bはp−GaNからなり、厚さ290〜350Å、Mg濃度7.0×10
19〜2.0×10
20/cm
3 である。第3のpコンタクト層17cはp−GaNからなり、厚さ50〜110Å、Mg濃度7.0×10
19〜2.0×10
20/cm
3 である。pコンタクト層17をこのような構造とすることで、コンタクト抵抗の低減と駆動電圧の低減とを同時に達成することができる。
【0034】
なお、pコンタクト層17の構成は上記に限るものではなく、従来知られた任意の構成を採用することが可能である。たとえば単層としてもよい。複数の層とする場合には、組成比組成比を変えてもよい。また、第1のpコンタクト層17aは、Mgドーパントガスを供給して形成してもよいが、Mgドーパントガスを供給せずにメモリー効果によってMgをドープして形成してもよい。
【0035】
透明電極19はITOからなり、pコンタクト層17表面のほぼ全面に設けられている。透明電極19には、ITO以外にもICO(セリウムドープの酸化インジウム)やIZO(亜鉛ドープの酸化インジウム)、ZnO、TiO
2 、NbTiO
2 、TaTiO
2 、などの透明酸化物導電体材料や、Co/Au、Auなどの金属薄膜、グラフェン、などを用いることができる。
【0036】
n電極18、p電極20は、ワイヤがボンディングされるパッド部と、面内に配線状(たとえば格子状や櫛歯状、放射状)に広がり、パッド部と接続する配線状部と、を有する構造としてもよい。このような構造とすることで電流拡散性を向上させることができ、均一な発光とすることができる。
【0037】
次に、実施例1の発光素子の製造工程について
図4を参照に説明する。
【0038】
まず、凹凸加工が施されたサファイア基板10を用意し、水素雰囲気で加熱して表面のクリーニングを行う(
図4(a))。
【0039】
次に、サファイア基板10上に、常圧MOCVD法によって、AlNからなるバッファ層(図示しない)、nコンタクト層12、nESD層13、nクラッド層14、発光層15、pクラッド層16を順に積層させる(
図4(b))。MOCVD法において用いる原料ガスは、窒素源として、アンモニア(NH
3 )、Ga源として、トリメチルガリウム(Ga(CH
3 )
3 )、In源として、トリメチルインジウム(In(CH
3 )
3 )、Al源として、トリメチルアルミニウム(Al(CH
3 )
3 )、Siドーパントガスとして、シラン(SiH
4 )、Mgドーパントガスとしてシクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C
5 H
5 )
2 )、キャリアガスとしてH
2 、N
2 である。
【0040】
ここで、pクラッド層16の形成は、以下に
図5を参照して説明するように、前段工程と後段工程の2工程によって形成する。
【0041】
[前段工程]
まず、発光層15上に常圧MOCVD法によって、第1pクラッド層161を形成する(
図5(a))。第1pクラッド層161のうち、AlGaN層16aについては800〜950℃で、InGaN層16bについては800〜950℃で形成する。また、第1pクラッド層161の厚さは、160Å以下の厚さで形成する。望ましくは140Å以下である。
【0042】
[後段工程]
次に、第1pクラッド層161上に常圧MOCVD法によって、第2pクラッド層162を形成する(
図5(b))。これにより、第1pクラッド層161と第2pクラッド層162とで構成されるpクラッド層16を形成する。成長温度については第1pクラッド層161の形成時と同様とする。ここで、第2pクラッド層162を形成する際のMgドーパントガスのモル分圧を、第1pクラッド層161を形成する際のモル分圧の半分以下とする。このようにMgドーパントガスの供給量を制御することで、メモリー効果によるMgドープも考慮して、pクラッド層に結晶欠陥が生じないようなMg濃度とすることができる。より望ましくは、第2pクラッド層162を形成する際のMgドーパントガスのモル分圧を、第1pクラッド層161を形成する際のモル分圧の1/4以下とすることである。また、pクラッド層16全体でのMg濃度の平均が、1×10
19〜5×10
20/cm
3 となるよう前段工程および後段工程においてMgドーパントガスの供給量を制御することが望ましい。
【0043】
第2pクラッド層162の厚さは、pクラッド層16全体の厚さに対して40%より厚く形成する。つまり、第1pクラッド層161の厚さをpクラッド層16全体の60%以下の厚さにする。望ましくは50%以下の厚さである。第1pクラッド層161の厚さを160Å以下で、かつ、pクラッド層の厚さの60%以下とすることで、Mgドープによるpクラッド層16の結晶欠陥が生じないような厚さとすることができる。また、第1pクラッド層161と第2pクラッド層162とを合わせた厚さ、つまりpクラッド層16全体での厚さは50〜1000Åに形成する。
【0044】
なお、上記前段工程と後段工程では、Mgドーパントガスの供給量をモル分圧によって制御したが、流量によって制御してもよい。また、前段工程と後段工程で成長温度は異なっていてもよいが、同一温度とすることが製造工程の簡素化などの点から望ましい。
【0045】
また、pクラッド層16を形成するに際し、上記前段工程と後段工程では、pクラッド層16のAlGaN層16aとInGaN層16bのうち、両方の形成時にMgドーパントガスを供給して形成している。しかし、AlGaN層16aの形成時にのみMgドーパントガスを供給してもよい。また、前段工程ではAlGaN層16aとInGaN層16bの両方の形成時にMgドーパントガスを供給し、後段工程ではAlGaN層16aの形成時にのみMgドーパントガスを供給するようにしてもよいし、その逆でもよい。後段工程でのAlGaN層16aとInGaN層16bの1ペアを形成する際のMgドーパントガスの供給量の平均が、前段工程でのAlGaN層16aとInGaN層16bの1ペアを形成する際のMgドーパントガスの供給量の平均の半分以下であればよい。
【0046】
以上のような2段階の工程によってpクラッド層16を形成すると、単にMgドーパントガスの供給量を一定としてpクラッド層を形成する場合よりも、pクラッド層全体のMg濃度分布を均一にすることができる。そのため、クラッド層16内でのキャリア分布の不均一性が解消され、発光層15へのホール注入に対する影響が低減し、素子特性、たとえば発光効率への影響が低減されている。
【0047】
次に、pクラッド層16上にMOCVD法によって、第1のpコンタクト層17a、第2のpコンタクト層17b、第3のpコンタクト層173を順に積層してpコンタクト層17を形成する。ここで、第1のpコンタクト層17aの形成時には、Mgドーパントガスを供給せずともよい。メモリー効果によって、Mgドーパントガスを供給しなくてもMgがドープされるためである。
【0048】
次に、所定の領域をドライエッチングしてpコンタクト層17表面からnコンタクト層12に達する深さの溝を形成する。そして、pコンタクト層17上のほぼ全面にITOからなる透明電極19を形成し、透明電極19上にp電極20、溝底面に露出したnコンタクト層12表面にn電極18を形成する。以上によって
図1に示した実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子が製造される。
【0049】
図6は、GDS(グロー放電発光分析装置)によって測定した実施例1の発光素子の厚さ方向のMgプロファイルを示したグラフである。横軸はpコンタクト層17表面側からの深さを示し、縦軸はMg濃度を示している。これら深さ、Mg濃度は、GDSにより測定したスパッタ時間、検出電圧を換算した値である。
図6のように、発光層15とpクラッド層16との界面付近からpコンタクト層17側に向かって急峻にMg濃度が上昇した後、ほぼ一定のMg濃度を保ち、その後pクラッド層16とpコンタクト層17との界面付近で急峻にMg濃度が減少していることがわかる。
【0050】
一方、Mgドーパントガスの供給量を一定にしてpクラッド層を形成した従来の発光素子では、
図7のように、発光層15とpクラッド層16との界面付近からpコンタクト層17側に向かってゆるやかにMg濃度が上昇していき、pクラッド層16とpコンタクト層17との界面付近で急峻にMg濃度が減少していることがわかる。
【0051】
このように、
図6と
図7とを比較すれば、実施例1に示したpクラッド層16の形成方法により、pクラッド層16の厚さ方向におけるMg濃度分布を従来よりも均一にできることがわかる。