(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パッド本体が、イソブチレンを構成単量体とする重合体ブロックと芳香族ビニル系単量体を構成単量体とする重合体ブロックからなるイソブチレン系ブロック共重合体であるエラストマーからなる請求項1〜3のいずれか1項記載の衝撃吸収パッド。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ヒッププロテクターに用いる衝撃吸収パッドにおいて必要とされる、大腿骨頚部骨折を予防する衝撃吸収力、終日使用に不快感を与えない装着感、通気性、外観を損なわない薄さ、着脱時に違和感を与えない面方向の柔軟性、以上のすべてを満足する衝撃吸収パッドおよびそれを装着した衣
類を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る衝撃吸収パッドは、衝撃吸収作用を有するパッド本体に、最大部分の長さが80mm以下で、面積が600mm
2以上5000mm
2以下の貫通穴又は凹部からなる衝撃回避部を設け、該衝撃回避部が大腿骨大転子部に対応するように前記パッド本体を配置することによって大腿骨の骨折を予防するものである。
【0010】
この衝撃吸収パッドでは、衝撃吸収パッドの衝撃回避部が大腿骨大転子部に対面するように、大腿骨大転子部の側方の体の側面に衝撃吸収パッドを取付けることで、転倒時等における大腿骨大転子部への衝撃力を、パッド本体及びそれに対面する大腿骨大転子部の周辺部分に作用させて吸収し、衝撃回避部により大腿骨大転子部に対して直接的に衝撃力が作用しないようにすることで、大腿骨頚部の骨折を効果的に防止できることになる。衝撃回避部は、80mmを超える場合には、大腿骨大転子部がパッド本体から外側へ突出して、転倒時の衝撃力が大腿骨大転子部に直接的に作用することがあるので、80mm以下に設定することになる。また、大腿骨大転子部を取り囲んでパッド本体が配置されるように、衝撃回避部の面積は600mm
2以上5000mm
2以下に設定することになる。衝撃回避部は貫通穴で構成することが好ましいが、凹部で構成することもできる。凹部で構成する場合には、開口側を大腿骨大転子部側へ向けて衝撃吸収パッドを装着することになる。衝撃回避部の内側は、空洞に構成することが、軽量化や通気性の向上のため好ましいが、パッド本体よりも軟質な部材を衝撃回避部に充填したものも本発明の範疇である。更にまた、合計面積が600mm
2以上5000mm
2以下になるように、細長いスリット状の貫通穴や凹部を複数併設して、衝撃回避部を構成することも可能である。また、衝撃回避部の内周面を身体への取付面側へ行くにしたがって拡径するテーパ面に構成して、大腿骨大転子部側へ行くにしたがって衝撃力が連続的或いは段階的に小さくなるように構成することもできる。
【0011】
ここで、前記パッド本体の厚さを13mm以下に設定することが好ましい実施の形態である。パッド本体の厚さは13mmを超える場合には、衝撃吸収パッドのラインが衣類の表面に露出して、衣類の外観を損ねるとともに、衝撃吸収パッドの面方向の柔軟性が低下して、装着感が低下するので、13mm以下に設定することが好ましい。
【0012】
前記衝撃回避部の上端からパッド本体の上端までの距離を10mm以上に設定することが好ましい。前記距離が10mm未満の場合には、パッド本体による衝撃力の吸収作用及びパッド本体による衝撃力の拡散作用が小さくなって、衝撃吸収力を十分に確保できないので、10mm以上に設定することが好ましい。なお、本明細書では、衝撃吸収パッドを人体に適用したときにおける、人体の頭部側を上側、足部側を下側と定義して以下説明する。
【0013】
前記パッド本体における前記衝撃回避部の下方に、前記衝撃回避部の下端から5mm以上50mm以下の位置に上端を持つ貫通穴又は凹部からなる第1軽減部を少なくとも1個設け、前記第1軽減部の最大部分の長さを5mm以上50mm以下に設定することも好ましい実施の形態である。この場合には、第1軽減部により、大腿骨骨幹部の上部に大きな衝撃力が作用することを防止して、大腿骨頚部の骨折を一層効果的に防止できることになる。加えて、第1軽減部により、通気性を向上してムレを低減でき、しかも衝撃吸収パッドを軽量に構成できるとともに、パッド本体の柔軟性を高め、着脱時における違和感を軽減できる。
【0014】
前記第1軽減部を上下に2個並べて設けることが好ましい実施の形態である。このように構成すると、1つの衝撃回避部と2つの第1軽減部とが上下に並んで配置されるので、衝撃回避部と第1軽減部と通る縦線を中心としたパッド本体の柔軟性を向上でき、着脱時における違和感を一層効果的に軽減できる。
【0015】
前記パッド本体における衝撃回避部および第1軽減部以外の全面積の50%以下に1個以上の貫通穴又は凹部からなる第2軽減部を設けることも好ましい実施の形態である。この場合には、第2軽減部により、通気性を一層向上してムレを低減でき、しかも衝撃吸収パッドを軽量に構成できるとともに、パッド本体の柔軟性を高め、着脱時における違和感を一層軽減できる。
【0016】
前記パッド本体が、イソブチレンを構成単量体とする重合体ブロックと芳香族ビニル系単量体を構成単量体とする重合体ブロックからなるイソブチレン系ブロック共重合体であるエラストマーからなることが好ましい実施の形態である。この場合には、このような素材からなるパッド本体は、幅広い温度域で衝撃吸収性に優れることから好ましい。
【0017】
前記エラストマーが、粘着付与樹脂を含有することが好ましい実施の形態である。この場合には、粘着付与樹脂により体温付近でのエラストマーの衝撃吸収性を上げることができるので好ましい。
【0018】
前記パッド本体をエラストマー発泡体で構成することが好ましい実施の形態である。この場合には、パッド本体の衝撃吸収性を容易に向上できるので好ましい。
【0019】
本発明に係る衣類は、前記衝撃吸収パッドの衝撃回避部が、大腿骨大転子部に対応して配置されるように、前記衝撃吸収パッドを衣類本体に取付けたものである。
【0020】
この衣類では、前記衝撃吸収パッドの衝撃回避部が、大腿骨大転子部に対応して配置されるように、前記衝撃吸収パッドが衣類本体に取付けられているので、前記衝撃吸収パッドと同様に、転倒時等における大腿骨大転子部への衝撃力を、パッド本体及びそれに対面する大腿骨大転子部の周辺部分に作用させて吸収し、衝撃回避部により大腿骨大転子部に対して直接的に衝撃力が作用しないようにすることで、大腿骨頚部の骨折を効果的に防止できることになる。
【0021】
ここで、前記衝撃吸収パッドを衣類本体に対して着脱自在に取り付けることが好ましい実施の形態である。この場合には、衝撃吸収パッドを衣類本体から取り外して衣類本体を洗濯できるので、高価な衝撃吸収パッドを複数の衣類で共用することが可能となり、利用者の経済的な負担を軽減できる。
【0022】
前記衣類本体がパンツであることが好ましい。パンツは、大腿骨大転子部を覆うように配置されるので、本衝撃吸収パッドを取付けるのに好適である。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る衝撃吸収パッド及びそれを装着した衣
類によれば、大腿骨大転子部に対応する領域を含むように衝撃回避部を衝撃吸収パッドを配置することにより、装着感および外観を損なわない薄さを保ちながら、高齢者の転倒による大腿骨頚部骨折を予防できる。さらに、衝撃回避部の下部に第1軽減部を設けることにより通気性を確保し、第1軽減部の左右に第2軽減部を設けることによりパッドの縦方向の柔軟性を持ち、衝撃吸収パッドの着脱時における違和感をなくすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施の形態では、
図1を基準に上下左右を定義して説明する。
【0028】
図1、
図2に示すように、衝撃吸収パッド10は、衝撃吸収作用を有するパッド本体11に、最大部分の長さが80mm以下で、面積が600mm
2以上5000mm
2以下の貫通穴又は凹部からなる衝撃回避部12を設け、衝撃回避部12が大腿骨大転子部1に対応するように衝撃吸収パッド10を身体の両側部に配置することによって大腿骨頚部2の骨折を予防するものである。
【0029】
大腿骨大転子部1に対応させて貫通穴又は凹部からなる衝撃回避部12を設けない場合、パッド本体11の厚さが十分に厚い場合を除いて、転倒による衝撃力がパッド本体11を通じて大腿骨大転子部1から大腿骨頚部2に伝わってしまい、骨折する危険がある。一方、パッド本体11の厚さを衝撃力が大腿骨頚部2に伝わらないように十分に厚くすると、装着感と外観が損なわれる。そこで、本発明では、大腿骨大転子部1に対応する領域に衝撃回避部12を設けることで、周りの軟組織に衝撃力が拡散され、直接大腿骨大転子部1に衝撃が加わることが避けられ、装着感と外観を損なわない薄さの衝撃吸収パッド10を実現した。
【0030】
衝撃回避部12の最大部分の長さは、80mmを超える場合には、大腿骨大転子部1の頂部がパッド本体11から外側へ突出して、転倒時の衝撃力が大腿骨大転子部1に直接的に作用することがあるので、80mm以下に設定することになる。衝撃回避部12の面積は、大腿骨大転子部1を取り囲んでパッド本体11が配置されるように、600mm
2以上5000mm
2以下であることが好ましい。より好ましくは、最大部分の長さが60mm以下、面積が700mm
2以上4000mm
2以下である。さらに好ましくは、最大部分の長さは60mm以下、面積が700mm
2以上2000mm
2以下である。
【0031】
衝撃回避部12は貫通穴または非貫通の凹部で構成できるが、通気性の観点から貫通穴で構成することが好ましい。衝撃回避部12を凹部で構成する場合には、開口部を大腿骨大転子部1側へ向けて衝撃吸収パッド10を配置することになる。なお、縦方向や横方向に細長い溝状の凹部で構成することも可能である。
【0032】
衝撃回避部12の形状は特に限定するものではないが、円形状、楕円形状、三角形状、長方形状、多角形状、ひょうたん形状、十字形状、アーチ形状、月形状、角丸四角形状、角丸多角形状などの形状があげられる。好ましくは、円形状、楕円形状であり、さらに好ましくは円形状である。衝撃回避部12の内周面は、円筒状に形成することが好ましいが、身体への取付面側へ行くにしたがって拡径するテーパ面に構成して、大腿骨大転子部1側へ行くにしたがって衝撃力が連続的或いは段階的に小さくなるように構成することもできる。
【0033】
衝撃回避部12が大腿骨大転子部1に対応するようにパッド本体11を配置するとは、
図2に示すように、衝撃回避部12が大腿骨大転子部1に対面するようにパッド本体11を身体表面に配置することを意味する。衝撃回避部12は、大腿骨大転子部1に対面する身体表面の領域を部分的に含むように配置することも可能であるが、大腿骨大転子部1に対してパッド本体11を介して衝撃力が作用しないように、大腿骨大転子部1に対面する身体表面の領域を全面的に含むように配置することが好ましい。
【0034】
パッド本体11の形状としては、特に限定されるものではないが、円形、楕円形、長方形やひし形などの多角形、表面に任意の凹凸を付けたもの等が挙げられる。また、通気性を持たせるために、適宜貫通孔をあけても良い。好ましくは、長方形、楕円形である。中でもより好ましくは着用性の観点から、楕円形状が好ましい。
【0035】
パッド本体11の厚さは、厚すぎるとパッド本体11のラインが衣類の表面に露出して、衣類の外観を損ねるとともに、パッド本体11の面方向の柔軟性が低下して、装着感が低下するので、13mm以下に設定することが好ましく、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは装着感と外観上の違和感をなくす観点から8mm以下に設定することになる。ここでパッド本体11の厚さとは、パッド本体11の最大部分の厚さを意味する。パッド本体11は均一厚さの平板状に構成しても良いし、中央部が厚く端が薄い形状に構成しても良いし、場所によって厚さが異なる形状に構成しても良い。また、パッド本体11の少なくとも外面側の外周縁の角部に、面取り面を形成することも好ましい実施の形態である。つまり、パッド本体11をパンツなどの衣類に装填して使用したときに、該衣類における、パッド本体11の外周縁の角部に当接する部分が延びて薄くなり、該部分が、重ね着する着衣との摩擦等により、擦れて破れ易くなるという問題があるので、これを防止するため、パッド本体11の少なくとも外面側の外周縁の角部に面取り面を形成することが好ましい。面取り面としては、傾斜面又は円弧面で構成することができる。面取り面は、パッド本体11の外周縁の全周にわたって形成することが好ましいが、部分的に形成することもできる。パッド本体11の厚さ方向に対する面取り面の形成範囲は、任意に設定することが可能であり、パッド本体11の外周厚さの全厚さに形成することもでき、またコアバック法にてパッド本体11を製作する場合には、パッド本体11の外周厚さのおよそ1/2以下の範囲に面取り面を形成することができる。また、パッド本体11の外周縁以外に、衝撃回避部12の少なくとも外面側の開口縁の角部に対して、前記と同様に面取り面を形成することも可能である。
【0036】
衝撃回避部12の上端からパッド本体11の上端までの距離は、10mm以上に設定することが好ましく、より好ましくは20mm以上、さらに好ましくは衝撃力を拡散させる効果から35mm以上に設定することになる。
【0037】
衝撃回避部12の下方において貫通穴または凹部からなる第1軽減部13を少なくとも1個設けることが好ましい。衝撃回避部12の下端と第1軽減部13の上端部間の距離は、5mm以上50mm以下、好ましくは、10mm以上40mm以下、最も好ましくは、大腿骨大転子部1に加わる衝撃力を減少させる観点から衝撃回避部12の下端から10mm以上30mm以下に設定することになる。衝撃回避部12にさらに第1軽減部13を設けることでパッド本体11の面方向の柔軟性が向上し、着脱時の違和感が少なくなり、また、通気性が向上してムレが低減される。また、第1軽減部13を設けることで、転倒時の衝撃力が伝わる経路が変わることにより、大腿骨頚部2に伝わる衝撃力を低減することができる。
【0038】
この第1軽減部13は、貫通穴または非貫通の凹部で構成できるが、通気性の観点から貫通穴で構成することが好ましい。第1軽減部13を凹部で構成する場合には、開口部を大腿骨大転子部1側へ向けて衝撃吸収パッド10を配置することになる。第1軽減部13は、直径5mm以上50mm以下に設定することが好ましく、さらに好ましくは、直径5mm以上40mm以下、最も好ましくはパッド本体11の強度等の観点から、直径5mm以上30mm以下に設定することになる。
【0039】
第1軽減部13の形状は、衝撃回避部12と同様に、特に限定するものではないが、円形状、楕円形状、三角形状、長方形状、多角形状、ひょうたん形状、十字形状、アーチ形状、月形状、角丸四角形状、角丸多角形状などの形状があげられる。より好ましくは円形状、楕円形状、長方形状である。さらに好ましくは、円形状、長方形状である。また、第1軽減部13は少なくとも1個、1個以上であれば8個まで設けてもよい。
【0040】
第1軽減部13は、
図1に示すように、衝撃回避部12の下方において縦に2個並んでいることが好ましい。第1軽減部13の配設位置や個数は、特に限定するものではないが、好ましくは、衝撃回避部12の下端から20mmの位置に上端を持つ直径20mmの円形状の第1軽減部13を設け、さらにその第1軽減部13の下端から10mmの位置に上端を持つ直径20mmの第1軽減部13を設けることが好ましい。
【0041】
パッド本体11における衝撃回避部12および第1軽減部13以外の全面積の50%以下に1個以上の第2軽減部14を設けることができる。この第2軽減部14は、貫通穴または非貫通の凹部で構成できるが、通気性の観点から貫通穴で構成することが好ましい。第2軽減部14の配設位置や個数は、特に限定するものではないが、たとえば、第1軽減部13の左右方向に第2軽減部14を少なくとも1個設けることが好ましい。さらに好ましくは、通気性を確保することと、面方向の柔軟性の観点から、
図1に示すように、左右に1個ずつ、計2個設けることができる。また、通気性を向上させる目的で、衝撃回避部12および第1軽減部13以外の位置に衝撃吸収性を低下させない範囲で小さい穴を全面積の50%以下に設けることもできる。
【0042】
パッド本体11を構成する材料としては、装着感の観点から、JISK7171に準拠して測定し、算出した曲げ弾性率が100MPa以下であることが好ましい。より好ましくは、50MPa以下である。さらに好ましくは、着脱時の抵抗感を減らす観点から、20MPa以下である。
【0043】
パッド本体を構成するエラストマーとしては、芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロックと、脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックからなるイソブチレン系ブロック共重合体が好ましい。
【0044】
前記重合体ブロックの構成としては、芳香族系ビニル化合物を構成単量体とする重合体ブロック−脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロック−芳香族系ビニル化合物を構成単量体とする重合体ブロックからなるトリブロック共重合体や、芳香族系ビニル化合物を構成単量体とする重合体ブロック−脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックからなるジブロック共重合体、芳香族系ビニル化合物を構成単量体とする重合体ブロックと脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックからなるアームを3つ以上有する星型ブロック共重合体などが挙げられる。これらは所望の物性・成形加工性を得るために1種または2種以上を組み合わせて使用可能である。
【0045】
また前記芳香族系ビニル化合物を構成単量体とする重合体ブロックと脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックの重量比率は、特に制限はないが、発泡体の衝撃吸収性と成形性、常温での形状保持性の観点から、(脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロック)/(芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック)=95/5〜60/40(重量比)が好ましく、さらに90/10〜65/35(重量比)が好ましい。
【0046】
前記芳香族ビニル系化合物としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、o−、m−又はp−メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,6−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチル−o−メチルスチレン、α−メチル−m−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、β−メチル−o−メチルスチレン、β−メチル−m−メチルスチレン、β−メチル−p−メチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α−メチル−2,6−ジメチルスチレン、α−メチル−2,4−ジメチルスチレン、β−メチル−2,6−ジメチルスチレン、β−メチル−2,4−ジメチルスチレン、o−、m−又はp−クロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、α−クロロ−o−クロロスチレン、α−クロロ−m−クロロスチレン、α−クロロ−p−クロロスチレン、β−クロロ−o−クロロスチレン、β−クロロ−m−クロロスチレン、β−クロロ−p−クロロスチレン、2,4,6−トリクロロスチレン、α−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、α−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、o−、m−又はp−t−ブチルスチレン、o−、m−又はp−メトキシスチレン、o−、m−又はp−クロロメチルスチレン、o−、m−又はp−ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレンおよびインデンからなる群から選ばれる少なくとも1種が、その入手し易さ、および物性バランスの観点から望ましい。これらの芳香族ビニル化合物を主成分として重合することにより、芳香族系ビニル化合物を構成単量体とする重合体ブロックが形成される。
【0047】
前記脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックが、共役ジエンを主成分とする重合体ブロックであることが好ましく、前記共役ジエンとしては特に限定されないが、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、1,3−ブタジエン、イソプレンからなる群から選ばれる少なくとも1種が、その入手し易さ、および物性バランスの観点から望ましい。また、共役ジエンを主成分とする重合体ブロックにおいて、必要に応じて水素添加を行ったり、共役ジエン以外のビニル系化合物を共重合してもよい。
【0048】
共役ジエンを主成分とする重合体ブロックであっても、共役ジエンが3,4または1,2結合を多く含むよう重合したブロック、前記共役ジエン重合体の水添物ブロック、イソブチレンを主成分とする重合体ブロックのいずれかであることが、室温付近での衝撃吸収性に優れることから好ましい。これらの内、前記結合を多く含む共役ジエンを主成分とする重合体ブロックは、特定の温度からずれた温度下では衝撃吸収性が低下する傾向にある。具体的には、イソブチレンを主成分とする重合体ブロックであることが、幅広い温度域で衝撃吸収性に優れるといえることから、特に好ましい。
【0049】
なお、前記イソブチレンを主成分とする重合体ブロックにおいて、必要に応じて他のビニル系化合物を共重合してもよい。
【0050】
脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックがイソブチレンを主成分とする重合体ブロックである場合、エラストマーの製造方法については特に制限はないが、例えば、下記一般式(1)で表される化合物の存在下に、イソブチレンを主成分とする単量体成分及び芳香族ビニル系単量体を主成分とする単量体成分を重合させることによりエラストマーが得られる。
【0051】
(CR
1R
2X)
nR
3 (1)
[式中Xはハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシ基又は炭素数1〜6のアシロキシ基を示す。R
1、R
2はそれぞれ水素原子または炭素数1〜6の1価の炭化水素基を示し、R
1、R
2は同一であっても異なっていても良い。R
3は多価芳香族炭化水素基または多価脂肪族炭化水素基であり、nは1〜6の自然数を示す。]
【0052】
上記一般式(1)で表される化合物は開始剤となるもので、ルイス酸等の存在下炭素陽イオンを生成し、カチオン重合の開始点になると考えられる。本発明で用いられる一般式(1)の化合物の例としては、次のような化合物等が挙げられる。
【0053】
(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン。
【0054】
これらの中でも特に好ましいのは、1,4−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンである。
【0055】
前記重合においては、さらにルイス酸触媒を共存させることもできる。このようなルイス酸としてはカチオン重合に使用できるものであれば良く、TiCl
4、TiBr
4、BCl
3、BF
3、BF
3・OEt
2、SnCl
4、SbCl
5、SbF
5、WCl
6、TaCl
5、VCl
5、FeCl
3、ZnBr
2、AlCl
3、AlBr
3等の金属ハロゲン化物;Et
2AlCl、EtAlCl
2等の有機金属ハロゲン化物を好適に使用することができる(Etはエチル基を表す)。中でも触媒としての能力、工業的な入手の容易さを考えた場合、TiCl
4、BCl
3、SnCl
4が好ましい。
【0056】
ルイス酸の使用量は、特に限定されないが、使用する単量体の重合特性あるいは重合濃度等を鑑みて設定することができる。通常は一般式(1)で表される化合物に対して好ましくは、0.1モル当量以上100モル当量以下使用することができ、より好ましくは1モル当量以上50モル当量以下の範囲である。
【0057】
また前記重合においては、さらに必要に応じて電子供与体成分を共存させることもできる。この電子供与体成分は、カチオン重合に際して、成長炭素カチオンを安定化させる効果があるものと考えられており、電子供与体の添加によって分子量分布の狭い構造が制御された重合体を生成することができる。使用可能な電子供与体成分としては特に限定されないが、例えば、ピリジン類、アミン類、アミド類、スルホキシド類、エステル類、または金属原子に結合した酸素原子を有する金属化合物等を挙げることができる。
【0058】
前記重合は必要に応じて有機溶媒中で行うことができ、有機溶媒としてはカチオン重合を本質的に阻害しなければ特に制約なく使用することができる。具体的には、塩化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、塩化エチル、ジクロロエタン、n−プロピルクロライド、n−ブチルクロライド、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等のアルキルベンゼン類;エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の直鎖式脂肪族炭化水素類;2−メチルプロパン、2−メチルブタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,2,5−トリメチルヘキサン等の分岐式脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類;石油留分を水添精製したパラフィン油等を挙げることができる。
【0059】
これらの溶媒は、ブロック共重合体を構成する単量体の重合特性及び生成する重合体の溶解性等のバランスを考慮して単独又は2種以上を組み合わせて使用される。
【0060】
前記溶媒の使用量は、得られる重合体溶液の粘度や除熱の容易さを考慮して、重合体の濃度が好ましくは1重量%以上50重量%以下、より好ましくは5重量%以上35重量%以下となるように決定することができる。
【0061】
実際の重合を行うに当たっては、各成分を冷却下例えば−100℃以上0℃以下の温度で混合することが好ましい。エネルギーコストと重合の安定性を釣り合わせるために、特に好ましい温度範囲は−80℃以上−30℃以下である。
【0062】
本発明で使用し得る市販のエラストマーとしては、脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックが、共役ジエンを主成分とする重合体ブロックであるエラストマーとして、(株)クラレのHYBRARが例示でき、イソブチレンを主成分とする重合体ブロックであるエラストマーとして、(株)カネカのSIBSTARが例示される。
【0063】
また、本発明の衝撃吸収パッド10を構成するエラストマーには、粘着付与樹脂を含有させてもよい。本発明で用いる粘着付与樹脂とは、数平均分子量300以上3000以下、JIS K−2207に定められた環球法に基づく軟化点が60℃以上150℃以下である低分子量の樹脂である。前記粘着付与樹脂をエラストマーに含有させることにより、体温付近での衝撃吸収性を上げることが容易となる。
【0064】
本発明において粘着付与樹脂としては、例えば、ロジンおよびロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂およびそれらの水素化物、テルペンフェノール樹脂、クマロン・インデン樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂およびその水素化物、芳香族系石油樹脂およびその水素化物、脂肪族芳香族共重合系石油樹脂およびその水素化物、ジシクロペンタジエン系石油樹脂およびその水素化物、スチレンまたは置換スチレンの低分子量重合体などがあげられる。これらの内、エラストマーの脂肪族炭化水素系化合物を主成分とする重合体ブロックとの相溶性が高いことから、脂環族系石油樹脂およびその水素化物、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂の水素化物、ポリテルペン樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、ロジンなどが特に好ましい。
【0065】
前記粘着付与樹脂の配合量は、エラストマー100重量部に対して、0重量部以上100重量部以下であることが好ましく、更には10重量部以上70重量部以下であることが好ましい。100重量部を超えると混練時の粘度が低下しすぎるため、十分な混練状態が得られず、良好な発泡体を得ることが困難となる場合がある。
【0066】
更に本発明では、必要に応じてエラストマーに可塑剤を配合しても良い。前記可塑剤としては、特に制限は無く限定されないが、通常、室温で液体又は液状の材料が好適に用いられる。また親水性及び疎水性のいずれの可塑剤も使用できる。このような可塑剤としては鉱物油系、植物油系、合成系等の各種ゴム用又は樹脂用可塑剤が挙げられる。
【0067】
鉱物油系としては、ナフテン系、パラフィン系等のプロセスオイル等が、植物油系としては、ひまし油、綿実油、あまみ油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、木ろう、パインオイル、オリーブ油等が、合成系としてはポリブテン、低分子量ポリブタジエン等が例示できる。これらの中でも、エラストマーとの相溶性の観点から、パラフィン系プロセスオイル又はポリブテンが好ましく用いられる。これら可塑剤は所望の粘度及び物性を得るために、2種以上を適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0068】
また本発明では、必要に応じてエラストマーに、充填剤、酸化防止剤、難燃剤、抗菌剤、光安定剤、着色剤、流動性改良剤、滑剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、架橋剤、架橋助剤等の各種添加剤を配合しても良く、これらは単独、又は2種以上を組み合わせて使用可能である。さらに本発明のエラストマーの性能を損なわない範囲であれば、その他の各種熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマー等を配合しても良い。
【0069】
本発明の衝撃吸収性パッドは、エラストマー発泡体で構成されていても良い。たとえば、熱可塑性エラストマーと熱膨張性マイクロカプセルからなる発泡性組成物を射出発泡して得られる熱可塑性エラストマー発泡体があげられる。ここで、発泡性組成物は、熱膨張性マイクロカプセルを含んでなる。熱膨張性マイクロカプセルとは、揮発性の液体膨張剤を重合体によりマイクロカプセル化したものである。一般に、水系媒体中で、少なくとも膨張剤と重合性単量体とを含有する重合性混合物を懸濁重合する方法により製造することができる。重合反応が進むにつれて、生成する重合体により外殻が形成され、その外殻内に膨張剤が包み込まれるようにして封入された構造をもつ熱膨張性マイクロカプセルが得られる。
【0070】
外殻を形成する重合体としては、一般に、ガスバリア性が良好な熱可塑性樹脂が用いられていればよい。外殻を形成する重合体は、加熱すると軟化する。外殻樹脂に内包される液体膨張剤としては、重合体の軟化点以下の温度でガス状になるものが選択されていればよい。
【0071】
本発明で使用する熱膨張性マイクロカプセルの使用割合は、後述するエラストマー及び必要に応じ配合される粘着付与樹脂、可塑剤、その他の樹脂、等からなる発泡性組成物100重量部に対して、0.5重量部以上10重量部以下であることが好ましく、さらに好ましくは1重量部以上5重量部以下である。使用割合が0.5重量部より少ないと、射出発泡成形体の密度が700kg/m
3以下の軽量性に優れた射出発泡成形体が得られ難い傾向にあり、逆に10重量部以上配合しても密度は概ね350kg/m
3程度で飽和して更なる低密度化に繋がりにくい。また前記熱膨張性マイクロカプセルは微細な粉末状であるため、均一に配合することが困難な場合が多く、かつ粉塵爆発等の危険性もあることから、比較的低温で加工し得る樹脂中に高濃度に分散せしめたマスターバッチの状態で配合することが好ましい。この場合、マスターバッチの配合量に、マスターバッチ中の熱膨張性マイクロカプセルの含有割合を乗じた値が、熱膨張性マイクロカプセルの配合量となる。
【0072】
次に、発泡性組成物を射出発泡する方法について具体的に説明する。射出発泡成形方法自体は公知の方法が適用でき、発泡性組成物の流動性、成形機の種類あるいは金型の形状によって適宜成形条件を調整すればよい。本発明の場合、樹脂温度170〜250℃、金型温度10〜100℃、成形サイクル1〜120分、射出速度10〜300mm/秒、射出圧10〜200MPa等の条件で行うことが好ましい。また、金型内で発泡させる方法としては種々有るが、なかでも固定型と任意の位置に前進および後退が可能な可動型とから構成される金型を使用し、射出完了後、可動型を後退させて発泡させる、いわゆるコアバック法(Moving Cavity法)が、表面に非発泡層が形成され、内部の発泡層が均一微細気泡になりやすく、軽量性に優れた射出発泡成形体が得られやすいことから好ましい。
【0073】
衝撃吸収パッド10を構成するエラストマー発泡体において、上記のように膨張性マイクロカプセルを発泡剤とした場合には、独立気泡率が高いことが特徴であり、これにより衝撃を加えた際に底付きしにくく、衝撃による荷重が大きく上昇し難いため、優れた衝撃吸収性を示すものである。本発明におけるエラストマー発泡体の独立気泡率は80%以上であり、好ましくは90%以上である。
【0074】
本発明の衝撃吸収パッド10を構成するエラストマー発泡体の密度は、好ましくは100kg/m
3以上、さらに好ましくは200kg/m
3以上である。密度はパッド本体11内で均一であっても良いし、不均一であっても良い。密度が100kg/m
3を下回る場合は衝撃吸収性を確保するために、パッド本体11の厚さを厚くする必要があり、装着感や外観の違和感が悪くなる。
【0075】
本発明の衝撃吸収パッド10は、
図2に示すように、大腿骨大転子部1に対応させて衝撃回避部12が位置するように、衣類本体21に取付けて衣類20を構成できる。該衝撃吸収パッド10を取り付ける衣類本体21は特に限定されるものではなく、例えば、猿股類やブリーフ、ショーツ、外着用ないしスポーツ用の各種パンツ類およびズボン類が挙げられ、骨折しやすい部位での衝撃を吸収する目的から、特にパンツが好ましい。また、オムツや紙パンツの類にも取り付けることができる。衝撃吸収パッド10の取り付け方法も特に限定しないが、着用時に衝撃吸収パッド10の位置がずれないように、衣類本体21にポケットを設けて封入することができる。位置がずれないように、衝撃吸収パッド10を衣類本体21に糸で縫いつけて固定してもよい。また、衝撃吸収パッド10は、直接的に身体に触れるようにしても良いし、あるいは、生地を介して間接的に身体に触れるようにしても良い。また、ポケットは衝撃吸収パッド10を取り出せないように閉じてもよいし、自在に出し入れできるようにしても良い。ただし、衣類本体21に代えて、衝撃吸収パッド10を収容可能なポケットを形成した腰部用のコルセットを用い、該ポケットに衝撃吸収パッド10を挿入保持させた状態で、大腿骨大転子部1に対応させて衝撃回避部12が位置するように、コルセットを腰部に固定してもよいし、袋を取付けたベルトを用い、該袋に衝撃吸収パッド10を挿入保持させた状態で、大腿骨大転子部1に対応させて衝撃回避部12が位置するように、衝撃吸収パッド10をベルトで身体に固定してもよい。
【0076】
また、着用性等の点で必要であれば大腿骨大転子部1には本発明の衝撃吸収パッド10を用い、さらに、衝撃の比較的緩和されるようなところには、他のパッドを用いてもかまわない。他のパッドとしては、例えば、ウレタン発泡体やポリエチレン発泡体、アクリル発泡体、不織布、立体織物等が挙げられる。
【0077】
また、衣類に用いられる生地も、素材、編繊方法など、特に限定されるものではないが、例えば、通気性、衝撃吸収性を向上させるために、生地の表面に凹凸を付けたものを用いることができ、表面に凹凸の形状が現れる編み組織、パイル編み等が好ましい。特に、これらの生地を衣類の身体側に位置する場所に装着することによって上記のような効果を発揮できることが判明した。さらに、衝撃吸収パッド10を身体に密着させることで効率的に衝撃を緩和させるために、衝撃吸収パッド10の回りにストレッチ素材を用いても良い。
【0078】
<転倒シミュレーションによる衝撃吸収性能評価>
本発明における衝撃吸収パッドの衝撃吸収性能評価は、コンピューターシミュレーションにより実施した。以下にコンピューターによる転倒シミュレーションについて説明する。
【0079】
左大腿骨モデルは非特許文献4(田中英一ら:個体差を模擬した有限要素モデルによる大腿骨頚部転倒骨折の力学的検討、日本機械学会論文集(A編)、70(697)1178−85、2004)に詳述の個体別大腿骨モデリング手法により作製した左近位大腿骨モデルに軟組織、股関節を加えたモデルを構築した。この個体別大腿骨モデリング手法は、大腿骨近位部の形態的特徴を表現する41個の形状パラメータを用い、大腿骨形状の個体差を反映させた有限要素モデルを簡単にかつ速やかに構築するものである。本発明においては、53歳から89歳までの女性8名から摘出した大腿骨標本について計測した各形状パラメータの平均値と標準偏差を用いてモデルを構築した。
【0080】
次に、大腿部軟組織の断面形状は楕円で近似し、側面には皮膚を模擬した膜要素を配置した。大腿骨骨頭とともに股関節を形成する寛骨臼は、大腿骨骨頭の形状にあわせ、骨頭形状を近似した球の同心半球として構築した。股関節の挙動の安定に大きく寄与する腸骨大腿靱帯、恥骨大腿靱帯、坐骨大腿靱帯は膜要素によりモデル化した。以上の手法によりモデル化した要素を組み合わせて左大腿骨モデルを構築し、それ以外は剛体要素により構築し、算出した人体各部の重心点に各セグメント質量の値に等しい集中質量を与えた。左下腿は大腿骨モデルと結合した。
【0081】
次に、左大腿部モデルの材料特性について述べる。大腿骨は皮質骨、海面骨とも等方線形弾性体、大腿部の筋−脂肪要素は等方性のMaxwellモデル、皮膚要素は等方線形弾性体とした。靱帯要素および骨頭関節軟骨も等方線形弾性体とした。筋−脂肪要素、皮膚要素、靱帯要素および軟骨要素の密度はすべて1g/cm
3とした。寛骨臼要素は皮質骨と同じ材料物性を与えた。用いた材料特性を表1に示す。
【0082】
以上により作成した左大腿部有限要素モデルに、全身の各部位の重心に集中質量を与え、非特許文献5(田中英一ら:ヒッププロテクタによる大腿骨頚部転倒骨折予防の生体力学的検討、日本機械学会論文集(A編)、70(697):1193−1200、2004)に詳述のように剛体を用いて各部位をつなぎ人体の質量分布を再現した簡易人体モデルを使用した。大腿骨有限要素モデルと平行に地面を模擬した地面モデルを配置し、簡易人体モデルに壁面垂直方向に実際の転倒時に加わる速度である並進速度2.75m/sの速度を与え、転倒を模擬したシミュレーションを行った。地面モデルは一辺300mmの立方体の等方線形弾性体とし、表1に示すコンクリートの材料定数を与え、質量密度は2.3g/cm
3とした。大腿骨に接しない地面モデルの表面は応力無反射境界とし、その変位を拘束した。
【0084】
解析には有限要素解析プログラムLS−DYNA(Livermore Software Technology Corp.,USA)を用いた。この大腿骨モデルに、衝撃吸収パッドの形状をモデル化して取り付け、転倒シミュレーションにより大腿骨頚部に加わる圧縮主応力を算出した。
【0085】
衝撃吸収パッドの材料パラメータは、実際の材料を速度の異なる3条件にて圧縮試験を行い、そこから得られた応力―ひずみ曲線を用い、材料モデルとして組み込んで計算を行った。材料モデルはLS−DYNAの低密度ウレタン材料モデル(LOW_DENSITY_FOAM)により表現した。衝撃吸収パッドのサイズは実施例により異なるが、全てにおいて、大腿部に沿うように曲率半径60mmでカーブさせた。
【0086】
なお、実際の材料の圧縮試験は、試料を任意の厚さで直径30mmの円形状に切り出し、テクスチャーアナライザー(英弘精機株式会社製)にて速度を5、50、500mm/minの3条件にて行い、応力―ひずみ曲線を得た。
【0087】
一般的な高齢女性は、骨密度によって異なるが、圧縮主応力が140から260MPa程度で骨折すると言われており、本発明では200MPaを閾値として評価した。
【0088】
<密度測定>
材料を20mm角に切り出し、各辺の長さを測定して体積を算出し、測定した重量を体積で除することで密度を算出した。
【0089】
<装着感評価>
装着感の評価は、大腿骨大転子部1の直上に衝撃回避部が位置するようにポケットを設けたパンツのポケットに衝撃吸収パッドを入れ、そのパンツを10人の一般パネラーに24時間着用してもらい、「ムレ」、「着脱時(トイレでの着脱含む)の違和感」、「外観の不自然さ」の3点について官能評価を行った。評価基準は以下の通りである。パネラーの採点から平均値を算出し、評価点とした。
【0090】
「ムレ」:
◎:ムレを感じず不快感がない。
○:ムレをほとんど感じず不快感がほとんどない。
△:どちらともいえない。
×:ムレを感じて不快である。
【0091】
「着脱時の違和感」
◎:着脱時にひっかかりがなく、違和感がない。
○:着脱時にほとんどひっかかりがなく、違和感が少ない。
△:どちらともいえない。
×:着脱時にひっかかりがあり、違和感がある。
【0092】
「外観」:
○:衣服の上から見ても衝撃吸収パッドが入っていることがほとんどわからない。
△:どちらともいえない。
×:衣服の上から見ると衝撃吸収パッドが入っていることがわかる。
【0093】
(実施例1)
実施例1として、NPゲル(発泡ゲル)(株式会社タイカ製)からなり、
図3(a)に示す衝撃吸収パッド10Aのように、縦140mm、横120mmの長方形で、厚さが12mmで、直径50mmの貫通穴からなる衝撃回避部12を設けた衝撃吸収パッドを製作した。
【0094】
(実施例2)
実施例2として、厚さを8mmとした以外は、前記実施例1の衝撃吸収パッドと同様に構成した衝撃吸収パッドを製作した。
【0095】
(実施例3)
実施例3から5までの衝撃吸収パッドは、以下のエラストマー発泡体を用いて評価を行った。
ポリスチレンブロック−ポリイソブチレンブロック−ポリスチレンブロックを有するエラストマー、SIBSTAR072T(株式会社カネカ製)100重量部と粘着付与樹脂である水添石油樹脂 アルコンP140(荒川化学工業株式会社製)18重量部の混合物に対し、熱膨張性マイクロカプセルマスターバッチ、ファインセルマスターMS405K(大日精化株式会社製、熱膨張性マイクロカプセル含有率40wt%)を10重量部配合(熱膨張性カプセル配合量4重量部)して発泡性組成物とした。これを宇部興産機械(株)製「MD350S−IIIDP型」(シャットオフノズル仕様)の射出成形機で、樹脂温度200℃、背圧15MPaで溶融混練した後、60℃に設定された、φ2mmのピンゲートを有し、固定型と前進および後退が可能な可動型とから構成される、縦330mm×横230mm×高さ100mmの箱形状のキャビティ(立壁部:傾斜10度、クリアランス3mm、底面部:クリアランスt0=3.0mm)を有する金型中に、射出速度100mm/秒で射出充填した。射出充填完了後に、底面部のクリアランスが6.5mmになるように可動型を後退させて、キャビティ内の樹脂を発泡させた。発泡完了後60秒間冷却してからエラストマー発泡体を取り出し、箱の底を切り出し、圧縮試験を行った。
【0096】
実施例3として、前記エラストマー発泡体からなり、実施例1と同様に、
図3(a)に示す衝撃吸収パッド10Aのように、縦140mm、横120mmの長方形で、厚さが12mmで、直径50mmの貫通穴からなる衝撃回避部12を設けた衝撃吸収パッドを製作した。
【0097】
(実施例4)
実施例4として、前記エラストマー発泡体からなり、
図3(b)に示す衝撃吸収パッド10Bのように、実施例3の衝撃吸収パッドの衝撃回避部12の下端から22mmの位置に上端を持つ、縦6mm、横75mmの長方形の貫通穴からなる第1軽減部13Bを設けた衝撃吸収パッドを製作した。
【0098】
(実施例5)
実施例5として、前記エラストマー発泡体からなり、
図3(c)に示す衝撃吸収パッド10Cのように、実施例3の衝撃吸収パッドの衝撃回避部12の下端から6mmの位置に上端を持つ、縦6mm、横18mmの貫通穴からなる第1軽減部13Cを設け、さらにその下端から6mmの位置に上端を持つ、同形状の貫通穴からなる第1軽減部13Cを設けた衝撃吸収パッドを製作した。
【0099】
(実施例6)
実施例6では、素材として、実施例3のポリスチレンブロック−ポリイソブチレンブロック−ポリスチレンブロックを有するエラストマーをSIBSTAR062T(株式会社カネカ製)にした以外は、実施例3と同様にして製作したエラストマー発泡体を用いた。また、実施例6の衝撃吸収パッドの形状は、
図3(d)に示す衝撃吸収パッド10のように、長辺が170mm、短辺が130mmの楕円形とし、厚さは8mmとした。また、衝撃吸収パッド10の上端から40mmの位置に上端をもつ直径50mmの貫通穴からなる衝撃回避部12を設けた。さらにその衝撃回避部12の下端から15mmの位置に上端をもつ直径20mmの貫通穴からなる第1軽減部13を設け、その下端から10mmの位置に上端を持つ直径20mmの貫通穴からなる第1軽減部13を設けた。第1軽減部13の横方向の中心線を通る右端から14mmの位置に左端を持つ直径30mmの貫通穴からなる第2軽減部14を設け、第1軽減部13の左端から14mmの位置に右端をもつ直径30mmの貫通穴からなる第2軽減部14を設けた。
【0100】
(実施例7)
実施例7として、厚さを5mmとした以外は、実施例6の衝撃吸収パッドと同様の構成の衝撃吸収パッドを製作した。
【0101】
(実施例8)
実施例8では、素材として、エラストマー、SIBSTAR072T(株式会社カネカ製)100重量部に熱膨張性マイクロカプセルマスターバッチ、ファインセルマスターMS405K(大日精化株式会社製、熱膨張性マイクロカプセル含有率40wt%)を10重量部配合(熱膨張性カプセル配合量4重量部)して発泡性組成物とし、実施例3と同様にして得られたエラストマー発泡体を用いた。実施例8の衝撃吸収パッドの形状は、
図3(a)に示す衝撃吸収パッド10Aのように、縦140mm、横120mmの長方形とし、厚さは8mmとして、直径50mmの貫通穴からなる衝撃回避部12を設けた形状とした。
【0102】
(実施例9)
実施例9では、素材として、エラストマー、SIBSTAR072T(株式会社カネカ製)を用い、これを200℃においてプレス成形を行い、厚さ8mmの板を得た。そして、この板から、
図3(a)に示す衝撃吸収パッド10Aのように、縦140mm、横120mmの長方形を切り出し、直径50mmの貫通穴からなる衝撃回避部12を設けて、衝撃吸収パッドを製作した。
【0103】
(比較例1)
衝撃吸収パッドを用いない場合の大腿骨頚部2にかかる圧縮主応力を算出した。
【0104】
(比較例2)
比較例2として、ヒッププロテクター(グンゼ株式会社製)に用いられているパッドを取り出し、
図4(a)に示す衝撃吸収パッド30Aのように、実際のパッドサイズと同様に、縦170mm、横140mm、厚さ12mmの長方形で、穴は設けていない衝撃吸収パッドを製作した。
【0105】
(比較例3)
比較例3として、厚さを5mmとした以外は、比較例2と同様に構成した衝撃吸収パッドを製作した。
【0106】
(比較例4)
比較例4として、実施例4の衝撃吸収パッドと同じ素材を用い、
図4(b)に示す衝撃吸収パッド30Bのように、実施例4と同様、形状は縦140mm、横120mmの長方形とし、厚さは12mmとし、衝撃回避部12を設けていない衝撃吸収パッドを製作した。
【0107】
(比較例5)
比較例5として、
図4(c)に示す衝撃吸収パッド30Cのように、衝撃回避部12に代えて直径20mmの衝撃回避部31Cを形成した以外は、実施例4の衝撃吸収パッドと同様に構成した衝撃吸収パッドを製作した。
【0108】
(比較例6)
比較例6として、クッションパンツ(株式会社東京エンゼル製)に用いられる衝撃吸収パッドを評価した。比較例6の衝撃吸収パッドの形状は、
図4(d)に示す衝撃吸収パッド30Dのように、縦160mm、横120mm、厚さ20mmの楕円形とした。
【0109】
(比較例7)
比較例7として、厚さを14mmとした以外は、実施例6の衝撃吸収パッドと同様に構成した衝撃吸収パッドを製作した。
【0110】
(比較例8)
比較例8として、厚さを12mmとし、衝撃回避部12を直径90mmに設定した以外は実施例6の衝撃吸収パッドと同様に構成した衝撃吸収パッドを製作した。
【0111】
実施例1〜9及び比較例1〜8について、前述の評価試験を行って、表2に示す結果を得た。
【0113】
表2から、シミュレーションによる最大圧縮主応力は、比較例1〜4のように、衝撃回避部を設けない場合には、実施例1〜8と比較して高くなり、また比較例5のように、衝撃回避部を設けた場合においても、その面積が小さいと最大圧縮主応力が大きくなり、大腿骨大転子部に対する衝撃力を十分に吸収できないことが判る。
【0114】
一方、実施例1〜8においても、貫通穴からなる第1軽減部や第2軽減部を設けない実施例1〜3、8、9においては、ムレが発生し易く、また実施例2のように、密度を低く設定するとともに厚さを薄くしないと、装着時の違和感が発生することから、実施例4〜7のように貫通穴からなる第1軽減部や第2軽減部を設けることが好ましいことが判る。また、使用時における外観を考慮すると、実施例6,7のように、厚さを8mm以下に設定することが好ましいことが判る。