(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
太陽電池は光起電力効果を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換させる装置である。地球温暖化防止および枯渇資源代替対策などの観点から注目されている。太陽電池は、最も重要な構成要素である光吸収層の材料の相違から、シリコン系(単結晶、多結晶、アモルファス、それらの複合体)、化合物半導体系(CIGS化合物、CTZS化合物、III−V族化合物、II−VI族化合物)、有機半導体系、及び色素増感系に大別される。
【0003】
これらの中でも、化合物半導体系太陽電池(以後、化合物半導体薄膜太陽電池と呼ぶ)は、光吸収係数が大きく、製造工程の工程数が相対的に少なく、低コスト化の可能性があるため、省資源、温暖化抑止エネルギー源の一翼を担う次世代型太陽電池として期待されている。
【0004】
このような化合物半導体薄膜太陽電池の光吸収層としては、現在20%を超える高いエネルギー変換効率が得られるものとして、I−III−VI2族系のCu(InGa)Se
2からなるCIGS薄膜が用いられている。また、変換効率10%を超え、希少金属を使用せず、環境負荷が少ないCu
2ZnSn(S,Se)
4薄膜(CZTS薄膜)も使用されている。
【0005】
従来、この種の化合物半導体薄膜太陽電池におけるバッファー層を、溶液から化学的に化合物半導体であるCdS膜を成長させることにより形成し、CIGSやCZTSからなる光吸収層と最適なヘテロ接合を得ることができるようにしている(米国特許第4611091号及びThin Solid Films 517 (2009) 2455)。
【0006】
しかし、CdSは毒性材料であり、環境負荷が高いという欠点がある。近年、Cdを含まないInS系のバッファー層が提案されている(日本特開2003−282909号公報及びThin Solid Films 517 (2009) 2312-2315)。
【0007】
しかし、日本特開2003−282909号公報に記載されている方法では、光吸収層を水溶液に浸漬し、溶液成長法によりバッファー層を形成している。その結果、大量生産時には溶液濃度を一定にコントロールするのが難しく、光吸収層の特性にばらつきが生じやすいという問題があった。また、溶液の大量使用による廃液処理コストや環境負荷が高いという問題があった。
【0008】
また、Thin Solid Films 517 (2009) 2312に記載の方法では、バッファー層をスプレー加熱分解法を用いて形成している。その結果、基板を高温に加熱しながら、長時間のスプレー塗布が必要となり、生産効率が悪く、コストが高いといった問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明の第1の実施形態に係る化合物半導体薄膜太陽電池は、化合物半導体からなる光吸収層及びこの光吸収層上に形成されたバッファー層を具備する化合物半導体薄膜太陽電池であって、前記バッファー層を、少なくとも金属元素及び16族元素を含むナノ粒子を含むインクを用いて形成したことを特徴とする。
【0015】
前記光吸収層を構成する化合物半導体として、組成Cu
xIn
yGa
1−ySe
zS
2−z(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦2)を有するものを用いることが出来る。あるいは、組成Cu
2−xSn
yZn
2−ySe
zS
4−z(0≦x≦2、0≦y≦2、0≦z≦4)を有するものを用いることが出来る。
【0016】
前記ナノ粒子として、InとSを含むものを用いることが出来る。また、前記ナノ粒子のIn/Sモル比を1/8〜2とすることが出来る。更に、前記ナノ粒子として、In
2S
3を用いることが出来る。更にまた、前記ナノ粒子として、平均粒径1nm以上200nm以下のものを用いることが出来る。
【0017】
前記インクは、S原子を含むバインターを含むことが出来る。前記S原子を含むバインダとして、下記化学式で表されるものを用いることが出来る。
【化1】
【0018】
(式中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
本発明の第2の実施形態に係る太陽電池の製造方法は、電極上に光吸収層を形成する工程と、前記光吸収層上に少なくとも金属元素及び16族元素を含むナノ粒子を含むインクを塗布または印刷し、塗膜を形成する工程と、前記塗膜を熱処理してバッファー層を形成する工程とを具備することを特徴とする。
【0019】
以上の本発明の第1及び第2の実施形態によれば、高い光電変換効率を有し、環境負荷が少なく、かつ低コストの化合物半導体薄膜太陽電池が提供される。
【0020】
以下、本発明の第1の実施形態に係る化合物半導体薄膜太陽電池及び第2の第2の実施形態に係る太陽電池の製造方法について、より具体的に説明する。
【0021】
本実施形態に係る化合物半導体薄膜太陽電池が形成される基材としては、その上に塗工又は印刷法により均一に層形成ができるような板状であればよく、具体的な材料としては、例えば、ガラス、鉄、銅、アルミニウム等の金属、PET、ポリイミド等のプラスチックなどの一般的な材料を用いることができるが、特に、乾燥や結晶化の際の加熱に耐えられるだけの耐熱性に優れた材料を用いることが好ましい。
【0022】
また、これらの材料を積層して用いることもできる。特に、ステンレスやポリイミドからなる基材は曲げ特性が良く、かつ耐熱性が良いため、ロールツーロールでの製造に適しており、特に好ましい。
【0023】
本実施形態に係る化合物半導体薄膜太陽電池に用いる化合物半導体からなる光吸収層は、Cu
xIn
yGa
1−ySe
zS
2−z(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦2)、Cu
2−xSn
yZn
2−ySe
zS
4−z(0≦x≦2、0≦y≦2、0≦z≦4)、Ag
xIn
yGa
1−ySe
zS
2−z(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦2)の組成を有するものを用いることができる。また、CuInTe
2、Cu
2Zn(Sn
1−xGe
x)S
4等の一般的な化合物半導体を用いることもできる。これらの材料において、各元素の割合を調整することにより、その禁制帯幅を変更することができる。
【0024】
本実施形態に係る化合物半導体薄膜太陽電池において、光吸収層は、真空プロセスまたは非真空プロセスのいずれによっても形成することができる。真空プロセスとしては、スパッタ法や蒸着法等を挙げることができる。非真空プロセスとしては、ヒドラジン塗布法、熱スプレー法等を挙げることができる。非真空プロセスは、スループットが速く、材料利用率が高く、低コストであるという利点がある。
【0025】
本実施形態に係る化合物半導体薄膜太陽電池のバッファー層は、ナノ粒子を含有するインクを塗布又は印刷することにより形成される。このようなナノ粒子塗布法は、化学堆積法やスプレー加熱分解法に比較して工程がシンプルであり、短時間でバッファー層の形成ができるという利点がある。また、大面積でも面内の不均一性が少なく、ロールツーロールといった生産性の高い製造方法にも対応できるという利点もある。
【0026】
本実施形態に係る化合物半導体薄膜太陽電池のバッファー層の形成に用いるナノ粒子は、少なくとも金属元素と周期表の16族元素を含む金属化合物であり、特に、光電変換に用いられる波長において光透過性に優れたものを用いることが望ましい。金属元素としては例えば、Mg、Zn、Cd、In等が挙げられ、16族元素としてはO、S、Se等のカルコゲン元素が挙げられる。
【0027】
バッファー層としてはこれらの組み合わせからなる金属化合物をナノ粒子としたものを用い、例えばCdS、ZnS、ZnO、ZnOH、InO
2やこれらの混合物を用いることができるが、これらの中ではZnS、ZnSe、InSが好ましい。特に、InとSの化合物からなるバッファー層を用いることが望ましく、具体的にはIn
2S
3が挙げられる。In元素とS元素からなるバッファー層は光吸収層に対する良好なp−nヘテロ接合が得られ、Cd元素を使用しないことで、環境への負荷が少なくなる。
【0028】
本実施形態に係る化合物半導体薄膜太陽電池に用いるナノ粒子の平均粒径は、1nm以上200nm以下の範囲内であるのが好ましい。平均粒径が200nmより大きくなると、熱処理工程において、化合物半導体膜に隙間ができやすく、光電変換効率が低下する。一方、平均粒径が1nm未満であると、微粒子が凝集しやすくなってしまい、インクの調製が難しくなる。なお、ナノ粒子の平均粒径は、5nm以上100nm以下であることがより好ましい。
【0029】
なお、平均粒径は、電子顕微鏡(JSM-7001F JEOL社製)を用いて撮影した複数枚の電子顕微鏡写真から、100個以上の粒子の直径を直接測定し、その平均値を求めることにより得た。
【0030】
また、上記ナノ粒子を構成するInとSの化合物の組成におけるIn元素とS元素とのモル比は、In/S=1/8〜2であることが望ましい。In/S比が1/8より少ない場合、バッファー層の光透過率が低くなり、太陽電池の変換効率が低下する。In/S比が2より大きい場合、InS層の結晶性が悪くなり、光吸収層との良好な接合を得られなくなる。特に、In/S=2/3であることが最も好ましい。
【0031】
本実施形態に係る化合物半導体薄膜太陽電池において、バッファー層形成用のナノ粒子からなるインクは、S原子を含むバインダを含むことができる。バインダを使用することにより、塗布過程の粒子凝集を
防ぎ、粒子と粒子間の隙間を埋め込むことにより、結晶化した後のバッファー層の隙間を低減することができる。また、バインダの表面スムージング効果により、表面が平らとなり、欠陥数を少なくすることもできる。
【0032】
S原子を含むバインダとして、下記化学式で表されるものを用いることが出来る。
【化2】
【0033】
(式中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
チオ尿素基を有するバインダは、有機溶媒に溶かし易く、調液しやすいというメリットがある。また、チオ尿素基は加熱分解し易く、結晶化した後の膜に残りにくいというメリットがある。
【0034】
本実施形態に係る化合物半導体薄膜太陽電池において、バッファー層形成用インクは、S原子を含むバインダおよび金属化合物粒子を有機溶媒に分散させることにより製造することができる。
【0035】
バッファー層形成用インクに使用される有機溶媒としては、特に制限はなく、たとえば、アルコール、エーテル、エステル、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素などを使用することができる。好ましい有機溶媒は、メタノール、エタノール、ブタノール等の炭素数10未満のアルコール、ジエチールエーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエンであり、特に好ましい有機溶媒は、メタノール、ピリジン、トルエンである。
【0036】
本実施形態に用いるインクには、S原子を含むバインダおよびIn
2S
3粒子を有機溶媒中に効率よく分散させるために、分散剤を配合することができる。分散剤としては、チオール類、セレノール類、炭素数10以上のアルコール類等を挙げることができる。
【0037】
また、本実施形態に係るインクには、強度の高い化合物半導体薄膜を得るために、シリカバインダ等のバインダを配合することも可能である。なお、有機溶媒中の粒子の濃度は、特に制限されないが、通常は、1〜20重量%である。
【0038】
本実施形態に係る化合物半導体薄膜太陽電池において、バッファー層は、上述したバッファー層形成用インクを基材上に塗布または印刷し、乾燥して有機溶媒を除去し、次いで熱処理することにより形成することが出来る。
【0039】
塗布方法としては、ドクター法、スピンコーティング法、スリットコーティング法、スプレー法等が挙げられ、印刷方法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0040】
塗布または印刷により形成された塗膜の膜厚は、乾燥および熱処理後の化合物半導体薄膜の膜厚が20nm〜300nm、たとえば、50nm程度になるような膜厚であるのが好ましい。
【0041】
熱処理は、加熱炉によるアニールのほか、ラピッドサーマルアニール(RTA)によっても行うことができる。
【0042】
熱処理温度は、化合物半導体の結晶化に必要な温度である必要があるため、150℃以上であるのが望ましく、また基板としてガラス基板を用いた場合には、ガラス基板に耐え得る温度である必要があるため、600℃以下、特に550℃以下であるのが望ましい。最も好ましいのは200℃〜300℃である。
【0043】
本実施形態に係る化合物半導体薄膜太陽電池の具体的構成について、
図1を参照して説明する。
【0044】
図1は、本発明の一実施形態に係る化合物半導体薄膜太陽電池を示す断面図である。
図1に示す太陽電池では、基板101上に裏面電極102が形成されている。基板101としては、ソーダライムガラス、金属板、プラスチックフィルムなどを用いることができる。裏面電極102としては、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)などの金属を用いることができる。
【0045】
裏面電極102上に、化合物半導体である光吸収層103が3段階蒸着法で形成されている。
【0046】
光吸収層103上には、バッファー層104が形成されている。即ち、バッファー層104は、上述したインクを光吸収層103上に塗布し、乾燥し、熱処理することにより形成される。
【0047】
バッファー層の上には、i層105、及びn層106が順次形成されている。i層105としては、公知のZnOなどの金属酸化物を用いることができる。また、n層106としては、公知のAl、Ga、Bなどを添加したZnOを用いることができる。そして、n層106上に表面電極107を形成して、太陽電池が完成する。表面電極107としては、公知のAl、Agなどの金属を用いることができる。
【0048】
なお、図示していないが、n層106上に、光の反射を抑え、より多い光を光吸収層で吸収させる役割を有する反射防止膜を設けることも可能である。反射防止膜の材質は特に制限されないが、例えばフッ化マグネシウム(MgF
2)を用いることが出来る。反射防止膜の膜厚は、100nm程度が適当である。
【0049】
以上のように構成される本実施形態に係る太陽電池は、ナノ粒子を分散したインクを塗布又は印刷し、乾燥及び熱処理することにより、バッファー層を形成しているため、従来の方法に比較し、大面積でも面内の均一性が良くなり、工程がシンプルなので低コストで製造される。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
実施例1
(インクの調製)
ピリジンに溶かしたInI
3を、メタノールに溶かしたNa
2S溶液と混合した。InI
3とNa
2Sのモル比は2:3なるように調液した。混合した後、不活性ガス雰囲気中で、0℃で反応させ、In
2S
3ナノ粒子を生成した。得られた液をろ過し、メタノールで洗浄した後、固形分5%になるようにピリジンに分散させ、インクを得た。
【0052】
(裏面電極102の形成)
ソーダライムガラス(101)の上に、スパッタ法を用いて、0.6μmのMo層を形成した。
【0053】
(CIGS層103の形成)
Mo基板の上に、Cu、In、Ga、Se元素を3段階蒸着法により蒸着し、膜厚2μmのCuIn
0.8Ga
0.2Se
2層を形成した。
【0054】
(バッファー層104の形成)
上述したインクをCuIn
0.8Ga
0.2Se
2層上にスプレー法により塗布し、275℃で10分間加熱することにより、膜厚50nmのバッファー層104を形成した。
【0055】
(i層105の形成)
ジエチル亜鉛と水を原料として、バッファー層の上に、MOCVD法を用いて50nmのZnO層を堆積した。
【0056】
(n層106の形成)
ジエチル亜鉛、水とジボランを原料として、i層の上に、MOCVD法を用いて1μmのZnO:B層を形成した。
【0057】
(表面電極107の形成)
蒸着法を用いて、n層のZnO:B層の上に0.3μmのAl電極を形成した。以上により、CIGS太陽電池セルを得た。
【0058】
比較例1
実施例1と同様に、ソーダライムガラスの上に、スパッタ法を用いて、0.6μmのMo層を形成した後、蒸着法による2μmCIGS層を形成した。
【0059】
次に、CIGS層の上に、それぞれのモル濃度が0.0015M、0.0075M、及び1.5Mの、硫酸カドミウム(CdSO
4)、チオ尿素(NH
2CSNH
2)、アンモニア水(NH
4OH)を加えた70℃の混合水溶液中に浸漬し、光吸収層103上に膜厚50nmのCdSからなるバッファー層104を形成した。
【0060】
最後に、実施例1と同様に、バッファー層の上に、ZnO層、ZnO:B層、Al電極を順次に形成した。以上により、CIGS太陽電池セルを得た。
【0061】
比較例2
実施例1と同様に、ソーダライムガラスの上に、スパッタ法を用いて、0.6μmのMo層を形成した後、蒸着法により2μmCIGS層を形成した。
【0062】
次に、バッファー層を形成せず、CIGS層の上に、ZnO層、ZnO:B層、Al電極を順次に形成した。以上により、CIGS太陽電池セルを得た。
【0063】
上記の実施例1と比較例1、2の太陽電池セルについて、標準太陽光シミュレータ(光強度:100mW/cm
2、エアマス:1.5)による評価を行った。その結果を下記表1に示す。
【表1】
【0064】
上記表1に示すように、実施例1にIn
2S
3粒子からなるバッファー層を使用することにより、CdSバッファー層を用いた場合に相当する光電変換効率が観測された。また、バッファー層なしの比較例2に比較し、変換効率が高いことが分かった。
【0065】
実施例2
(インクの調製)
ピリジンに溶かしたInI
3を、メタノールに溶かしたNa
2S溶液と混合した。InI
3とNa
2Sのモル比が2:3になるように調液した。混合した後、不活性ガス雰囲気中で、0℃で反応させ、In
2S
3ナノ粒子を生成した。得られた液をろ過し、メタノールで洗浄した後、固形分が5%になるようにピリジンに分散させ、インクを得た。
【0066】
(裏面電極102の形成)
ソーダライムガラス(101)の上に、スパッタ法を用いて、0.6μmのMo層を形成した。
【0067】
(CZTS層103の形成)
Mo基板の上に、SnS、Cu、及びZnSをスパッタした後、20%H
2Sを含む窒素雰囲気で550℃で3時間アニールし、膜厚2μmのCu
2ZnSnS
4層を形成した。
【0068】
(バッファー層104の形成)
上述したインクをCu
2ZnSnS
4層上にスプレー法により塗布し、275℃で10分間加熱することにより、膜厚50nmのバッファー層104を形成した。
【0069】
(i層105の形成)
ジエチル亜鉛と水を原料として、バッファー層の上に、MOCVD法を用いて50nmのZnO層を堆積した。
【0070】
(n層106の形成)
ジエチル亜鉛、水、及びジボランを原料として、i層の上に、MOCVD法を用いて1μmのZnO:B層を形成した。
【0071】
(表面電極107の形成)
蒸着法を用いて、n層のZnO:B層の上に0.3μmのAl電極を形成した。以上により、CZTS太陽電池セルを得た。
【0072】
比較例3
実施例2と同様に、ソーダライムガラスの上に、スパッタ法を用いて、0.6μmのMo層を形成した後、スパッタ法による2μmCZTS層を形成した。
【0073】
次に、CZTS層の上に、それぞれのモル濃度が0.0015M、0.0075M、及び1.5Mの、硫酸カドミウム(CdSO
4)、チオ尿素(NH
2CSNH
2)、及びアンモニア水(NH
4OH)を加えた70℃の混合水溶液中に浸漬し、光吸収層103上に膜厚50nmのCdSからなるバッファー層104を形成した。
【0074】
最後に、実施例2と同様に、バッファー層の上に、ZnO層、ZnO:B層、Al電極を順次形成した。以上により、CZTS太陽電池セルを得た。
【0075】
比較例4
実施例2と同様に、ソーダライムガラスの上に、スパッタ法を用いて、0.6μmのMo層を形成した後、スパッタ法により2μmCZTS層を形成した。
【0076】
次に、バッファー層を形成せず、CZTS層の上に、ZnO層、ZnO:B層、Al電極を順次形成した。以上により、CZTS太陽電池セルを得た。
【0077】
以上の実施例2、比較例3、4の太陽電池セルについて、標準太陽光シミュレータ(光強度:100mW/cm
2、エアマス:1.5)による評価を行った。その結果を下記表2に示す。
【表2】
【0078】
上記表2に示すように、実施例2にIn
2S
3粒子からなるバッファー層を使用することにより、CdSバッファー層を用いた場合に相当する光電変換効率が観測された。また、バッファー層なしの比較例4に比較し、変換効率が高いことが分かった。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
化合物半導体からなる光吸収層及びこの光吸収層上に形成されたバッファー層を具備する化合物半導体薄膜太陽電池であって、前記バッファー層を、少なくとも金属元素及び16族元素を含むナノ粒子を含むインクを用いて形成したことを特徴とする化合物半導体薄膜太陽電池。
[2]
前記化合物半導体の組成はCuxInyGa1−ySezS2−z(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦2)であることを特徴とする[1]に記載の化合物半導体薄膜太陽電池。
[3]
前記化合物半導体の組成はCu2−xSnyZn2−ySezS4−z(0≦x≦2、0≦y≦2、0≦z≦4)であることを特徴とする[1]に記載の化合物半導体薄膜太陽電池。
[4]
前記ナノ粒子はInとSを含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の化合物半導体薄膜太陽電池。
[5]
前記ナノ粒子のIn/Sモル比は1/8〜2であることを特徴とする[4]に記載の化合物半導体薄膜太陽電池。
[6]
前記ナノ粒子はIn2S3であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の化合物半導体薄膜太陽電池。
[7]
前記ナノ粒子の平均粒径は1nm以上200nm以下であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の化合物半導体薄膜太陽電池。
[8]
前記インクはS原子を含むバインダを含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の化合物半導体薄膜太陽電池。
[9]
前記S原子を含むバインダは下記化学式で表されることを特徴とする[8]に記載の化合物半導体薄膜太陽電池。
【化1SX】
(式中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
[10]
[1]〜[3]のいずれかに記載のインクを塗布または印刷し、熱処理してなるバッファー層を具備することを特徴とする化合物半導体薄膜太陽電池。
[11]
電極上に光吸収層を形成する工程と、
前記光吸収層上に少なくとも金属元素及び16族元素を含むナノ粒子を含むインクを塗布または印刷し、塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を熱処理してバッファー層を形成する工程と
を具備することを特徴とする化合物半導体薄膜太陽電池の製造方法。