特許第5874653号(P5874653)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5874653溶融ペレットの製造方法、及び、電線の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874653
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】溶融ペレットの製造方法、及び、電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 9/12 20060101AFI20160218BHJP
   C08F 214/26 20060101ALI20160218BHJP
   C08F 8/22 20060101ALI20160218BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20160218BHJP
   C08F 2/00 20060101ALI20160218BHJP
   H01B 13/14 20060101ALI20160218BHJP
   B29K 27/12 20060101ALN20160218BHJP
【FI】
   B29B9/12
   C08F214/26
   C08F8/22
   C08J3/12 ZCEW
   C08F2/00 G
   H01B13/14 Z
   B29K27:12
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-5734(P2013-5734)
(22)【出願日】2013年1月16日
(62)【分割の表示】特願2008-539885(P2008-539885)の分割
【原出願日】2007年10月19日
(65)【公開番号】特開2013-126760(P2013-126760A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2013年2月15日
(31)【優先権主張番号】特願2006-286562(P2006-286562)
(32)【優先日】2006年10月20日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 健二
(72)【発明者】
【氏名】河野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 安行
【審査官】 粟野 正明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2001/036504(WO,A1)
【文献】 特開平10−017621(JP,A)
【文献】 特開2000−141452(JP,A)
【文献】 特開2006−282930(JP,A)
【文献】 特開2000−128902(JP,A)
【文献】 特開2001−040004(JP,A)
【文献】 特開平03−244603(JP,A)
【文献】 特開平09−124711(JP,A)
【文献】 特開平10−087746(JP,A)
【文献】 特開2005−320497(JP,A)
【文献】 特公昭46−023245(JP,B1)
【文献】 特開平11−124439(JP,A)
【文献】 特開2001−150429(JP,A)
【文献】 特開2003−082106(JP,A)
【文献】 特開2004−204059(JP,A)
【文献】 特開平04−170406(JP,A)
【文献】 特開平10−251307(JP,A)
【文献】 特開2003−246823(JP,A)
【文献】 特開2006−045515(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0011692(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 9/12
C08F 2/00−2/60
B29B 7/00−7/94
C08F 214/00−214/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
American Wire Gaugeが20以上の電線の製造に用いられる溶融ペレットの製造方法であって、
予め付着防止剤を塗布した重合槽中で、重合開始剤を前記重合槽の側壁に付着しないように液中に投入し、重合反応を開始させることにより、テトラフルオロエチレン並びにヘキサフルオロプロピレン及び/又はパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)を重合して含フッ素共重合体を得る工程と、
前記含フッ素共重合体から、スクリューとダイの間に♯300以上のメッシュを複数枚重ねたスクリーン、又は、50μm以下のフィルタを設けた2軸押出機を使用して、溶融ペレットを得る工程と、
前記溶融ペレットの含フッ素共重合体末端をフッ素化する工程と、
を含み、
フッ素化後の溶融ペレットの含フッ素共重合体は、−CF基以外の末端基が炭素数10個当り30個以下であり、かつ、メルトフローレートが35(g/10分)以上、48(g/10分)未満であり、−CF基以外の末端基は含フッ素共重合体の主鎖及び側鎖に存在する−COOH、−CHOH、−COF、−CONH、及び、−COOCHからなる群より選ばれる少なくとも1つである
ことを特徴とする溶融ペレットの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法により溶融ペレットを得た後、前記溶融ペレットをケーブル導体上に押出成形することを特徴とするAmerican Wire Gaugeが20以上の電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ペレットの製造方法、及び、電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
技術の進歩と共にパソコン、携帯電話、ビデオカメラ、GPS等の情報通信機器、内視鏡などの医療用機器は小型化し、それに伴って、使用される電線も細線化が求められ、AWG40以上のような細線が求められている。また、ノートパソコン、携帯電話などの屈曲部位に配線されるなど、より過酷な環境下で使用した場合の性能が求められている。
【0003】
電線の細線化に伴って、電線被覆成形が困難となるためにフッ素樹脂被覆材料の成形性の改善が求められ、電線被覆後の製品においても新たな課題が要求されている。これらのうち、電線被覆成形時に生じる課題としては、被覆表面に発生する小さな突起による被覆表面の粗さ、樹脂を導体に引き落とす際に生じる溶融破断等がある。これらは、電線被覆成形時の歩留まりを悪くするだけでなく、最終製品の品質を低下させるものである。また、電線被覆後の製品においては、耐クラック性、及び、電線配線時に必要な被覆物のストリップ性等がある。導線が細くなればなるほどこれらの問題は大きくなる。
【0004】
溶融破断の防止に関して、直径が0.05〜0.07mmである芯線に対して、一定条件下で被覆したときに被覆切れを起こさないフッ素樹脂が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
耐クラック性を改善したものとして、不安定末端基が炭素数10個当り10〜100個であるテトラフルオロエチレン〔TFE〕とパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕とからなるTFE共重合体が提案されている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照。)。
【0006】
表面平滑性及び耐クラック性に優れた成形体を与えるものとして、容量流速が0.5〜100(mm/秒)であるTFE/PAVE共重合体(例えば、特許文献4参照。)、メルトフローレートが35〜60g/10minの範囲にあるTFE/PAVE共重合体(例えば、特許文献5参照。)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/052015号パンフレット
【特許文献2】特開2005−298659号公報
【特許文献3】特開2005−320497号公報
【特許文献4】特開平8−109225号公報
【特許文献5】特開2002−53620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、電線被覆成形時の成形不良を低減し、得られる電線の耐クラック性を向上させることができる含フッ素共重合体を提供することにある。本発明の目的は、また、成形不良を大幅に低減できる電線の製造方法、及び、耐クラック性を向上させた電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、テトラフルオロエチレン由来の構成単位を必須とし、ヘキサフルオロプロピレン、及び/又は、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)由来の構成単位を有する含フッ素共重合体であって、フィルムに成形したとき、一辺が44μmの正方形を含むことができ一辺が178μmの正方形を含むことができない大きさのフィッシュアイが10000個/100g以下であり、かつ一辺が90μmの正方形を含むことができる大きさのフィッシュアイが1000個/100g以下であることを特徴とする含フッ素共重合体である。
【0010】
本発明は、上記含フッ素共重合体をケーブル導体上に押出成形することを特徴とする電線の製造方法である。
【0011】
本発明は、上記含フッ素共重合体による被覆を有することを特徴とする電線である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の含フッ素共重合体は、上記含フッ素共重合体をフィルムに成形し、上記フィルム上に存在するフィッシュアイの個数を計測した場合に、一辺が44μmの正方形を含むことができ一辺が178μmの正方形を含むことができない大きさの上記フィッシュアイが10000個/100g以下であり、かつ一辺が178μmの正方形を含むことができる大きさのフィッシュアイが1000個/100g以下であるものである。
【0013】
本発明の含フッ素共重合体は、一辺が44μmの正方形を含むことができ一辺が178μmの正方形を含むことができない大きさのフィッシュアイが1000個/100g以下であり、かつ一辺が178μmの正方形を含むことができる大きさのフィッシュアイが1000個/100g以下であることが好ましい。
【0014】
従来より、電線被覆成形時においては、含フッ素共重合体をケーブル導体に引き落とす際に溶融破断が発生したり、含フッ素共重合体から得られる被覆材表面に発生する小さな突起によって被覆材表面の粗さが発生したりする等、成形不良の発生が問題であり、電線のケーブル導体が細くなればなるほどこれらの問題は大きくなる。これらは、電線被覆成形時の歩留まりを低下させるだけでなく、被覆後の電線の耐クラック性を低下させる。本発明者らは、これらの原因の一つがフィッシュアイであることを見いだした。すなわち、本発明の含フッ素共重合体は、フィッシュアイを低減することによって、電線被覆成形時の成形不良を低減し、同時に得られる電線の耐クラック性を向上させることができるものである。
【0015】
上記フィッシュアイとは、目的とする含フッ素共重合体と分子量及び組成が大きく異なるために、含フッ素共重合体中に不純物として存在する異物であり、フィルム成形時には白色の不透明な部分又は突起として視認することができる。特に含フッ素共重合体においては、分子量が異常に大きい成分、TFE組成が多い成分、あるいは成形時の熱による再結合、架橋によって生じる成分等がフィッシュアイの原因となる。よって、これらの成分が生じることを防止することによってフィッシュアイを低減することができる。
【0016】
本明細書において、上記フィッシュアイの個数は以下の方法により測定して得られる。φ20mm押出機(田辺プラスチックス機械社製)にてTダイを用い、設定温度をそれぞれC1:350℃、C2:390℃、C3:390℃、D:390℃とし、スクリュー回転数を15rpm、引き取り速度を約3m/minに設定して、含フッ素共重合体の成形を行い、成形開始の30分後からサンプリングを開始し、幅70mm、厚み0.05〜0.06mm(中央部)、長さ5mのフィルムをサンプリングする。
【0017】
得られたフィルムの両端をマスクし、中心50mm幅の部分について、表面検査装置(三菱レイヨン社製:LSC−3100V)を用いて、フィッシュアイを検出する。
【0018】
フィルム成形及び測定は、ゴミや埃等の異物の混入がないように細心の注意を払い、クラス1000〔1ft(立方フィート)の空気中に0.5μm以上の微粒子が1000個以下〕のクリーンルーム内で行う。
【0019】
なお、本明細書において、上記フィッシュアイとは、上記フィルムを介して検出器の反対側300mm下方にライトを設置し光を透過させたときに、フィルムに対して垂直に292mm上方に設置した検出器により、透過率が80%より低い部分として検出される部分であって、検出器の反対側50mm下方にライトを設置し光を透過させたときに、フィルムに対して垂直に292mm上方に設置した検出器により透過率が80%より低い部分として検出されない部分をいう。
【0020】
検出されたフィッシュアイについて、上述の2つの大きさに分けてフィッシュアイの個数を計測し、フィルム上に存在するフィッシュアイの100gあたりの個数とする。
【0021】
本発明の含フッ素共重合体は、テトラフルオロエチレン〔TFE〕由来の構成単位を必須とし、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、及び/又は、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕由来の構成単位を有するものである。
【0022】
上記TFE由来の構成単位(TFE単位)、HFP由来の構成単位(HFP単位)、PAVE由来の構成単位(PAVE単位)は、それぞれTFE、HFP、PAVEに由来し、含フッ素共重合体の分子構造上の一部分であるものである。例えばTFE単位は、−(CFCF)−により表される。
【0023】
上記PAVEとしては特に限定されず、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)〔PBVE〕等が挙げられるが、なかでも、耐熱性に優れる点で、PPVEが好ましい。
【0024】
本発明の含フッ素共重合体としては、TFE単位90〜80質量%とHFP単位10〜20質量%とからなる共重合体、TFE単位97〜90質量%とPAVE単位3〜10質量%とからなる共重合体、又は、TFE単位92〜75質量%とHFP単位7〜20質量%とPAVE単位0.1〜5質量%とからなる共重合体であることが好ましい。
【0025】
本発明の含フッ素共重合体は、HFP単位及び/又はPAVE単位の割合が少ないと、得られる電線の耐クラック性が不充分となるおそれがある。HFP単位及び/又はPAVE単位の割合が多すぎると、耐熱性が低下する傾向にある。
【0026】
本発明の含フッ素共重合体は、TFE単位とHFP単位とからなる場合、TFE単位:HFP単位の質量比(全単量体合計で100。)が、(88〜85):(12〜15)であることがより好ましい。
【0027】
本発明の含フッ素共重合体は、TFE単位とPAVE単位とからなる場合、TFE単位:PAVE単位の質量比(全単位合計で100。)が、(95〜92):(5〜8)であるものがより好ましい。
【0028】
本発明の含フッ素共重合体は、TFE単位とHFP単位とPAVE単位とからなる場合、TFE単位:HFP単位:PAVE単位の質量比(全単位合計で100。)が(90.9〜75):(9〜20):(0.1〜5)であるものがより好ましい。
【0029】
上記質量比におけるPAVE単位は、例えばPMVE単位とPPVE単位との2種である場合のように、PAVE単位が2種以上の単位である場合、該2種以上の単位の合計質量に基づく。
【0030】
本明細書において、上記質量比は、TFE単位、HFP単位及びPAVE単位の含有率を、それぞれNMR分析装置(ブルカーバイオスピン社製、AC300)又は赤外吸収測定装置(Perkin−Elmer社製、1760型)を用いて測定することにより得たものである。
【0031】
本発明の含フッ素共重合体は、メルトフローレート〔MFR〕が25(g/10分)以上、48(g/10分)未満であることが好ましい。電線において要求されるものとして、耐クラック性等の物性を得るためには、MFRが48(g/10分)未満であるようなある程度の高分子量とすることが望まれる。しかし、極細の電線を作成するためには溶融粘度が低いほうが好ましく、そのためにはMFRを上げ、低分子量化しなければならない。通常、樹脂を低分子量化すると、樹脂中の高分子量体が相対的に異物となりやすく、フィッシュアイ化する可能性が大きくなるために、フィッシュアイによる成形不良の問題がより顕著となる。しかし、本発明は、フィッシュアイの低減で成形不良を改善したことから、MFRを上記範囲内としても成形不良を抑制することができる。上記MFRが25(g/10分)未満であると、被覆成形に用いる場合に電線の細線化が困難であり、得られる被覆材の表面平滑性が劣るおそれがある。MFRが48(g/10分)以上であると、フィッシュアイによる成形不良の問題がより顕著となり、また、得られる被覆材の耐クラック性が不充分となるおそれがある。上記MFRは、30(g/10分)以上であることがより好ましく、35(g/10分)以上であることが更に好ましく、45(g/10分)以下であることがより好ましい。
【0032】
本明細書において、上記MFRは、ASTM D 1238−98又はJIS K 7210に準拠したメルトインデックステスターを用いて、直径が2.1mmで長さが8mmのダイで、約6gの試料を372℃の温度下に荷重5kg(ピストンと重りの合計)にて測定したものである。
【0033】
本発明の含フッ素共重合体は、フィッシュアイを低減したものであるが、フィッシュアイを低減する方法としては、含フッ素共重合体末端のフッ素化、重合槽への付着防止剤の塗布、重合開始剤の液中への投入、2軸押出機を使用した溶融ペレット化、溶融ペレット化時の目の細かいスクリーン又はフィルタの使用等を挙げることができる。これらの方法から必要な手段を適宜組み合わせることによって、フィッシュアイを低減することができる。
【0034】
本発明の含フッ素共重合体は、−CF基以外の末端基が炭素数10個当り50個以下であることが好ましい。−CF基以外の末端基数が上記範囲内にあると、押出成形時の熱分解による発泡がなく、成形不良を低減することができ、また、フィッシュアイの原因となる押出成形時における含フッ素共重合体の分子同士の再結合(架橋)が起こらず、フィッシュアイの個数を低減することができる。また、得られる電線のストリップ性を向上させることができ、細線であっても配線作業が容易である電線を得ることができる。−CF基以外の末端基は、炭素数10個当り30個以下であることがより好ましく、9個以下であることが更に好ましい。
【0035】
本明細書において、上記「−CF基以外の末端基」とは、本発明の含フッ素共重合体の主鎖及び側鎖に存在する−COOH、−CHOH、−COF、−CONH、及び、−COOCHからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むものである。−CF基以外の末端基は、後述のフッ素化処理あるいは開始剤種の選択により低減あるいは無くすることができる。
【0036】
上記フッ素化処理の方法としては、特に限定されないが、上記含フッ素共重合体をフッ素化処理条件下にてフッ素ラジカルを発生するフッ素ラジカル源にさらす方法が挙げられる。フッ素ラジカル源としてはフッ素ガスの他に、CoF、AgF、UF、OF、N、CFOF、及び、フッ化ハロゲン、例えばIF、ClFなどが挙げられる。
【0037】
上記フッ素化処理として本発明の含フッ素共重合体と上記フッ素ラジカル源とを接触させると、上記の−CF基以外の末端基は、−CFに変化する。
【0038】
上記フッ素化処理として、フッ素ガスを接触させる方法を用いる場合、安全性の点で、不活性ガスと混合し、5〜30質量%、好ましくは15〜25質量%に希釈して使用することが好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
【0039】
上記フッ素化処理は、含フッ素共重合体の融点未満で実施することが好ましく、通常、250℃以下、より好ましくは、室温〜220℃で行う。上記フッ素化処理は、50〜1010kPa(=0.5〜10atm)の圧力下に、通常1〜30時間、好ましくは2〜20時間行う。
【0040】
上記フッ素化処理は、連続式、バッチ式の何れの操作も可能である。また、上記フッ素化処理において用いられる装置は、棚段型反応器、筒型反応器等の静置式反応器;攪拌翼を備えた反応器;ロータリーキルン、Wコーン型反応器、V型ブレンダー等の容器回転(転倒)式反応器;振動式反応器;攪拌流動床等の種々の流動床−反応器;等から適宜選択される。
【0041】
本明細書において、上記−CF基以外の末端基の数は、含フッ素共重合体粉末を350℃で30分間圧縮成形して厚さ0.25〜0.3mmのフィルムを作成し、FT−IR Spectrometer 1760X(Perkin Elmer社製)を用いて、赤外分光吸収測定を行い、特開2005−298659号公報に記載されている方法により求める値である。補正係数は炭素数10個あたりの末端基を算出するためにモデル化合物の赤外吸収スペクトルから決定する。
【0042】
上記赤外吸収スペクトルは、FT−IR Spectrometer1760X(Perkin−Elmer社製)及びPerkin Elmer Spectrum for Windows(登録商標) version:1.4Cを使用して分析する。
【0043】
本発明の含フッ素共重合体の製造方法として、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等の従来公知の重合方法を用いることができるが、工業上、懸濁重合又は乳化重合を用いることが好ましい。
【0044】
本発明の含フッ素共重合体は、予め付着防止剤を塗布した重合槽中で重合を行って得られるものであることが好ましい。予め付着防止剤を塗布すると、気相部分と接する重合槽側壁上での重合を抑制することができるので、目的とする含フッ素共重合体と分子量及び組成が大きく異なる成分の生成を抑制することができ、フィッシュアイの個数を低減した含フッ素共重合体を得ることができる。上記付着防止剤としては特に限定されないが、例えば、親水化する物、徐溶性(徐々に溶けていく)を示す物等が挙げられ、具体的には、ピロリン酸ナトリウム等が挙げられる。付着防止剤を塗布する方法としては、付着防止剤の水溶液を満たした重合槽を90℃にて3時間程度処理した後、水洗する方法が挙げられる。
【0045】
本発明の含フッ素共重合体は、重合開始剤を重合槽の側壁に付着しないように液中に投入し、重合反応を開始させることにより重合を行って得られるものであることが好ましい。重合開始剤を液中に投入することにより、気相部分と接する重合槽側壁上での重合を抑制することができるので、目的とする含フッ素共重合体と分子量及び組成が大きく異なる成分の生成を抑制することができ、フィッシュアイの個数を低減した含フッ素共重合体を得ることができる。このような液中への投入方法としては、差込管をその先端が液中に浸るように重合槽に設置し、該差込管により重合開始剤を投入する方法等が挙げられる。
【0046】
本発明の含フッ素共重合体は、例えば、粉体、ペレット等として得ることができるが、2軸押出機を使用して溶融ペレット化したものであることが好ましい。2軸押出機を使用することにより、フィッシュアイの原因となる非相溶性成分がスクリューによって粉砕されやすくなる。このため、サイズの大きいフィッシュアイの個数を低減することができる。
【0047】
本発明の含フッ素共重合体は、スクリューとダイの間に♯300以上のメッシュを複数枚重ねたスクリーン、又は、50μm以下のフィルタを設けた2軸押出機を使用して溶融ペレット化したものであることが好ましい。溶融ペレット化時に目の細かいスクリーンやフィルタを用いて含フッ素共重合体に含まれる異物を除去することにより、フィッシュアイの個数を低減した含フッ素共重合体を得ることができる。上記押出機には50μm以下のフィルタを設けることがより好ましい。
【0048】
本発明の含フッ素共重合体は、上述の構成よりなるものであるので、電線の製造に好適に用いることができ、特にAWGが40以上であるような細線の電線を製造する場合であっても、成形不良を低減することができ、好適な性質の被覆を有する電線を得ることができる、という利点を有するものである。
【0049】
上記含フッ素共重合体をケーブル導体上に押出成形することを特徴とする電線の製造方法もまた本発明の一つである。本発明の電線の製造方法は、上述の構成よりなる含フッ素共重合体を押出成形するものであるので、押出成形時においても成形不良を起こしにくいものである。上記ケーブル導体の材質としては、銅、銀メッキ線、ニッケルメッキ線が挙げられる。
【0050】
上記含フッ素共重合体を用いたことを特徴とする電線もまた本発明の一つである。本発明の電線は、上述の構成よりなる含フッ素共重合体を用いたものであるので、耐クラック性に優れる。
【0051】
上記電線は、AWGが20以上であるものが好ましく、AWGが40以上であるものがより好ましい。上記AWGは、American Wire Gauge〔AWG〕の規格によるものであり、AWGが20とは直径0.813mmであり、AWGが40とは直径0.079mmである。
【0052】
本発明の電線は、パソコン、携帯電話、ビデオカメラ、GPS等の情報通信機器、内視鏡などの医療用機器等の電線として好適に用いられ、例えば、携帯電話等のモバイル機器の小型化にも対応することができる。上記ノートパソコンや携帯電話は、折り畳み式の折り畳み部分に構造上の制約があり、細線化をも要するので、本発明の電線を好適に用いることができる。本発明の電線は、また、医療用のビデオマイクロスコープの送影線にも好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0053】
本発明の含フッ素共重合体は、上述の構成よりなるものであるので、電線被覆成形時の成形不良を低減し、得られる電線の耐クラック性を向上させることができる。本発明の電線の製造方法は、電線被覆成形時の成形不良を大幅に低減できる。本発明の電線は、耐クラック性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例により限定されるものではない。
【0055】
各実施例、比較例で行った測定は、以下の方法により行った。
【0056】
フィッシュアイの個数の測定
以下のフィルム成形及び測定は、ゴミや埃等の異物の混入がないように細心の注意を払い、クラス1000〔1ft(立方フィート)の空気中に0.5μm以上の微粒子が1000個以下〕のクリーンルーム内で行った。
【0057】
(1)フィルムの成形条件
φ20mm押出機(田辺プラスチックス機械社製)にてTダイを用い、設定温度をそれぞれC1:350℃、C2:390℃、C3:390℃、D:390とし、スクリュー回転数を15rpm、引き取り速度を約3m/minに設定して、フィルムの幅が70mm、厚みが0.05〜0.06mm(中央部)となるよう引き取り速度を微調整した。成形開始の30分後からサンプリングを開始し、長さ5mのフィルムを3本サンプリングした。
【0058】
(2)フィッシュアイの個数の測定条件
得られたフィルムの両端をマスクし、中心50mm幅の部分について、表面検査装置(三菱レイヨン社製:LSC−3100V)を用いて、フィッシュアイを検出した。
【0059】
フィッシュアイの検出には検出器を2つ使用し、一つはフィルムに対して垂直に292mm上方に設置し、フィルムを介して検出器の反対側300mm下方にライトを設置したもの(検出器1)、一つはフィルムに対して垂直に292mm上方に設置し、フィルムを介して検出器の反対側50mm下方にライトを設置したもの(検出器2)により、それぞれ光を透過させたときに80%より透過率の低い部分を検出器により検出した。そして、検出器1で検出された部分のうち検出器2で検出されなかった部分をフィッシュアイとした。
【0060】
なお、上記のようにライトの位置の異なる2つの検出器によりフィッシュアイを検出するのは、ライトとフィルムの距離が遠い場合にはフィッシュアイ及びフィッシュアイ以外の異物が共に黒く見える(透過率が下がる)のに対し、その距離が近い場合にはフィッシュアイ以外の異物は黒く見えるが、フィッシュアイは透明である(透過率が下がらない)ことを利用して、フィッシュアイ以外の異物を排除してフィッシュアイのみを検出するためである。
【0061】
検出したフィッシュアイについて、一辺が44μmの正方形を含むことができ、一辺が178μmの正方形を含むことができない大きさのフィッシュアイを計測し、一辺44μm以上178μm未満のフィッシュアイの個数とした。また、一辺が178μmの正方形を含むことができる大きさのフィッシュアイを計測し、一辺178μm以上のフィッシュアイの個数とした。測定したフィルムの質量を測定し、フィッシュアイの個数を質量換算し、100gあたりの個数を算出した。3本のフィルムについて個数を測定し、平均値を求め、含フッ素共重合体のフィッシュアイの個数とした。
【0062】
電線に生じた突起の個数の測定
(1)電線被覆成形条件
φ20mm押出機(田辺プラスチックス機械社製)を用い、設定温度をそれぞれC1:300℃、C2:330℃、C3:360℃、D:370℃とし、スクリュー回転数を5rpm、引き取り速度を約40m/min、被覆厚み0.040mmとして、AWG40(芯線径0.079mm)の電線を得た。
【0063】
(2)突起の個数の測定条件
外径測定器にて電線径のXY2軸を連続的に記録した。電線径が0.200mm以上になったところを突起とし、その個数を計測した。
【0064】
電線の巻き付けクラック試験
得られた電線から、長さ20cmの電線を20個切り取り、クラック試験用の電線(試験片)とした。この試験片をストレートの状態で230℃にて96時間加熱処理を行った。試験片を取り出し、室温にて冷却後、試験片を試験片と同径の電線に巻き付けた試料を、230℃にて再度2時間加熱処理し、取り出し、室温にて冷却後、目視及び拡大鏡を用いて、亀裂の発生した電線の個数を数えた。
【0065】
含フッ素共重合体のMFRの測定
ASTM D 1238−98又はJIS K 7210に準拠したメルトインデックステスターを用いて、直径が2.1mmで長さが8mmのダイで、約6gの試料を372℃の温度下に荷重5kg(ピストンと重りの合計)にて測定した。
【0066】
含フッ素共重合体の末端基数の測定
含フッ素共重合体粉末を350℃で30分間圧縮成形して厚さ0.25〜0.3mmのフィルムを作成した。このフィルムの赤外吸収スペクトルを分析し、既知のフィルムの赤外吸収スペクトルと比較して種類を決定し、その差スペクトルから個数を算出した。
【0067】
赤外吸収スペクトルは、FT−IR Spectrometer1760X(Perkin−Elmer社製)及びPerkin Elmer Spectrum for Windows(登録商標) version:1.4Cを使用して分析した。
【0068】
含フッ素共重合体の単量体質量比の測定
TFE単位、HFP単位及びPAVE単位の含有率を、それぞれNMR分析装置(ブルカーバイオスピン社製、AC300)又は赤外吸収測定装置(Perkin−Elmer社製、1760型)を用いて測定することにより、それらの質量比を算出した。
【0069】
実施例1
1000Lの容積を有する攪拌機付き縦型ガラスライニングオートクレーブに、ピロリン酸ナトリウム1%水溶液800kgを仕込み、90℃にて3時間処理後水洗した。続いて、純水270kg及びω−ヒドロキシフルオロカルボン酸アンモニウム0.1kgを仕込み、内部空間の窒素置換及び真空脱気操作を3回行った後、真空状態でHFPモノマー211kg、PPVEモノマー2.66kgを仕込んだ。
【0070】
撹拌を開始して重合槽の温度を28.0℃に設定し、TFEモノマーを仕込んで0.89MPaGまで昇圧した。次いで、パーフルオロヘキサンで約8質量%に希釈したジ−(ω−ヒドロデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド(以下「DHP」という。)4.0kgを液中に直接仕込める長さの差込管により液中に仕込んだ。反応は直ちに始まった。
【0071】
反応中、TFEを追加仕込みし、オートクレーブ内の圧力を0.89MPaGに保った。反応開始後、TFEが20%、40%、60%消費された時にPPVE各0.73kgを追加で仕込み、反応開始から2、4時間後にDHP各4.0kgを、6、8、10時間後にDHP各2.0kgを、以降3時間置きにDHP1.0kgをそれぞれ追加した。また、反応開始から5時間後にメタノール5kgを添加した。
【0072】
反応を52時間行った後、末反応のTFE及びHFPモノマーを放出し、粒状粉末を得た。この粉末に純水を加え、撹拌洗浄後、オートクレーブから取り出した。150℃で24時間乾燥後、含フッ素共重合体340kgが得られた。得られた共重合体中のTFE:HFP:PPVE質量比は86.9:12.1:1.0であり、MFRは38g/10分であった。粉末取り出し後のオートクレーブ内部を観察すると、槽壁及び差込管への樹脂の付着はほとんど見られなかった。
【0073】
この共重合体粉末を2軸押出機にてハステロイ製の焼結フィルタ(40μm)を用い溶融ペレット化した。MFRは38g/10分であり、一辺44μm以上178μm未満のフィッシュアイは1052個/100g、一辺178μm以上のフィッシュアイは455個/100gであった。続いて、上記の条件で電線被覆成形を行った。成形した電線10km当たりに発生した突起は1個であった。成形した電線の巻き付けクラック試験の結果、亀裂の生じた電線は0個であった。
【0074】
実施例2
ペレット化時の焼結フィルタ(40μm)を♯300/♯100/♯300/♯100/♯50のメッシュのスクリーンに代えたこと以外は実施例1と同様にして溶融ペレット化した共重合体を作成した。MFRは38g/10分であり、一辺44μm以上178μm未満のフィッシュアイは9250個/100g、一辺178μm以上のフィッシュアイは813個/100gであった。続いて、上記の条件で電線被覆成形を行った。成形した電線10km当たりに発生した突起は2個であった。成形した電線の巻き付けクラック試験の結果、亀裂の生じた電線は0個であった。
【0075】
実施例3 (実施例1の共重合体のフッ素化)
実施例1で得られた溶融ペレット化した共重合体を180℃、12時間、窒素にて25%に希釈されたフッ素ガスにさらすことにより、末端をフッ素化した共重合体を得た。フッ素化後の共重合体は、MFRは40g/10分であった。CF基以外の末端基は、COF基が炭素数10個当たり12個、COOH基が炭素数10個当たり5個であった。上記の条件で極細電線被覆成形を行った。一辺44μm以上178μm未満のフィッシュアイは314個/100g、一辺178μm以上のフィッシュアイは58個/100gであった。続いて、上記の条件で電線被覆成形を行った。成形した電線100m当たりに発生した突起は0個であった。成形した電線の巻き付けクラック試験の結果、亀裂の生じた電線は0個であった。
【0076】
実施例4
1000Lの容積を有する攪拌機付き縦型ガラスライニングオートクレーブに、ピロリン酸ナトリウム1%水溶液800kg仕込み、90℃にて3時間処理後水洗した。続いて、純水270kg及びω−ヒドロキシフルオロカルボン酸アンモニウム0.1kgを仕込み、内部空間の窒素置換及び真空脱気操作を3回行った後、真空状態でHFPモノマー233kgを仕込んだ。
【0077】
撹拌を開始して重合槽の温度を29.0℃に設定し、TFEモノマーを仕込んで0.90MPaGまで昇圧した。次いで、DHP4.0kgを液中に直接仕込める長さの差込管により液中に仕込んだ。反応は直ちに始まった。
【0078】
反応中、TFEを追加仕込みし、オートクレーブ内の圧力を0.90MPaGに保った。反応開始から2、4時間後にDHP各4.0kgを、6、8、10時間後にDHP各2.0kgを、以降3時間置きにDHP1.0kgをそれぞれ追加した。また、反応開始から5時間後にメタノール5kgを添加した。
【0079】
反応を52時間行った後、末反応のTFE及びHFPモノマーを放出し、粒状粉末を得た。この粉末に純水を加え、撹拌洗浄後、オートクレーブから取り出した。150℃で24時間乾燥後、含フッ素共重合体340kgが得られた。得られた共重合体中のTFE:HFP質量比は85.7:14.3であり、MFRは42g/10分であった。粉末取り出し後のオートクレーブ内部を観察すると、槽壁及び差込管への樹脂の付着はほとんど見られなかった。
【0080】
この共重合体粉末をハステロイ製の焼結フィルタ(40μm)を用い溶融ペレット化した。MFRは45g/10分であり、一辺44μm以上178μm未満のフィッシュアイは1844個/100g、一辺178μm以上のフィッシュアイは623個/100gであった。続いて、上記の条件で電線被覆成形を行った。成形した電線10km当たりに発生した突起は1個であった。成形した電線の巻き付けクラック試験の結果、亀裂の生じた電線は0個であった。
【0081】
実施例5 (実施例4の共重合体のフッ素化)
実施例4の溶融ペレット化した共重合体を180℃、12時間、窒素にて25%に希釈されたフッ素ガスにさらすことにより、末端をフッ素化した共重合体を得た。フッ素化後、MFRは47g/10分であった。CF基以外の末端基はCOF基が炭素数10個当たり18個、COOH基が炭素数10個当たり9個であった。上記の条件で極細電線被覆成形を行った。一辺44μm以上178μm未満のフィッシュアイは812個/100g、一辺178μm以上のフィッシュアイは376個/100gであった。続いて、上記の条件で電線被覆成形を行った。成形した電線10km当たりに発生した突起は0個であった。成形した電線の巻き付けクラック試験の結果、亀裂の生じた電線は0個であった。
【0082】
実施例6
1000Lの容積を有する攪拌機付き縦型ガラスライニングオートクレーブに、ピロリン酸ナトリウム1%水溶液800kg仕込み、90℃にて3時間処理後水洗した。続いて、純水200kgを仕込み、内部空間の窒素置換及び真空脱気操作を3回行った後、真空状態でパーフルオロシクロブタン175kg、PPVEモノマー5.60kg、メタノール25kgを仕込んだ。
【0083】
撹拌を開始して重合槽の温度を35.0℃に設定し、TFEモノマーを仕込んで0.60MPaGまで昇圧した。次いで、メタノールで約50質量%に希釈したジ−n−プロピルパーオキシジ−カルボネート0.34kgを液中に直接仕込める長さの差込管により液中に仕込んだ。反応は直ちに始まった。
【0084】
反応中、TFEを追加仕込みし、オートクレーブ内の圧力を0.60MPaGに保った。反応開始後一時間毎にPPVE0.38kgを追加で仕込んだ。
【0085】
反応を28時間行った後、末反応のTFEモノマーを放出し、粒状粉末を得た。この粉末に純水を加え、撹拌洗浄後、オートクレーブから取り出した。150℃で24時間乾燥後、PFA共重合体184kgが得られた。得られた共重合体中のTFE:PPVE質量比は94.5:5.5であり、MFRは60g/10分であった。粉末取り出し後のオートクレーブ内部を観察すると、槽壁及び差込管への樹脂の付着はほとんど見られなかった。
【0086】
この共重合体粉末をハステロイ製の焼結フィルタ(40μm)を用い溶融ペレット化した。MFRは60g/10分であり、一辺44μm以上178μm未満のフィッシュアイは7254個/100g、一辺178μm以上のフィッシュアイは837個/100gであった。続いて、上記の条件で電線被覆成形を行った。成形した電線10km当たりに発生した突起は2個であった。成形した電線の巻き付けクラック試験の結果、亀裂の生じた電線は0個であった。
【0087】
実施例7 (実施例6の共重合体のフッ素化)
実施例6の溶融ペレット化した共重合体を200℃、12時間、窒素にて25%に希釈されたフッ素ガスにさらすことにより、末端をフッ素化した共重合体を得た。フッ素化後、MFRは61g/10分であった。CF以外の末端基はCOF基が炭素数10個当たり15個、COOH基が炭素数10個当たり5個、CHOH基が炭素数10個当たり8個であった。上記の条件で極細電線被覆成形を行った。一辺44μm以上178μm未満のフィッシュアイは3933個/100g、一辺178μm以上のフィッシュアイは766個/100gであった。続いて、上記の条件で電線被覆成形を行った。成形した電線10km当たりに発生した突起は1個であった。成形した電線の巻き付けクラック試験の結果、亀裂の生じた電線は0個であった。
【0088】
実施例8
1000Lの容積を有する攪拌機付き縦型ガラスライニングオートクレーブに、ピロリン酸ナトリウム1%水溶液800kg仕込み、90℃にて3時間処理後水洗した。続いて、純水200kgを仕込み、内部空間の窒素置換及び真空脱気操作を3回行った後、真空状態でパーフルオロシクロブタン175kg、PPVEモノマー5.60kg、メタノール20kgを仕込んだ。
【0089】
撹拌を開始して重合槽の温度を35.0℃に設定し、TFEモノマーを仕込んで0.60MPaGまで昇圧した。次いで、メタノールで約50質量%に希釈したジ−n−プロピルパーオキシジ−カルボネート0.34kgを液中に直接仕込める長さの差込管により液中に仕込んだ。反応は直ちに始まった。
【0090】
反応中、TFEを追加仕込みし、オートクレーブ内の圧力を0.60MPaGに保った。反応開始後一時間毎にPPVE0.38kgを追加で仕込んだ。
【0091】
反応を23時間行った後、末反応のTFEモノマーを放出し、粒状粉末を得た。この粉末に純水を加え、撹拌洗浄後、オートクレーブから取り出した。150℃で24時間乾燥後、PFA共重合体192kgが得られた。得られた共重合体中のTFE:PPVE質量比は94.8:5.2であり、MFRは43g/10分であった。粉末取り出し後のオートクレーブ内部を観察すると、槽壁及び差込管への樹脂の付着はほとんど見られなかった。
【0092】
この共重合体粉末をハステロイ製の焼結フィルタ(40μm)を用い溶融ペレット化した。MFRは43g/10分であり、一辺44μm以上178μm未満のフィッシュアイは2480個/100g、一辺178μm以上のフィッシュアイは655個/100gであった。続いて、上記の条件で電線被覆成形を行った。成形した電線10km当たりに発生した突起は1個であった。成形した電線の巻き付けクラック試験の結果、亀裂の生じた電線は0個であった。
【0093】
実施例9
1000Lの容積を有する攪拌機付き縦型ガラスライニングオートクレーブに、ピロリン酸ナトリウム1%水溶液800kg仕込み、90℃にて3時間処理後水洗した。続いて、純水270kg及びω−ヒドロキシフルオロカルボン酸アンモニウム0.1kgを仕込み、内部空間の窒素置換及び真空脱気操作を3回行った後、真空状態でHFPモノマー211kg、PPVEモノマー2.66kgを仕込んだ。
【0094】
撹拌を開始して重合槽の温度を28.0℃に設定し、TFEモノマーを仕込んで0.94MPaGまで昇圧した。次いで、DHP4.0kgを差込管より液中に仕込んだ。反応は直ちに始まった。
【0095】
反応中、TFEを追加仕込みし、オートクレーブ内の圧力を0.89MPaGに保った。反応開始後TFEが20、40、60%消費された時にPPVE各0.73kgを追加で仕込み、反応開始から2、4、6時間後にDHP各4.0kgを、8、10、12時間後にDHP各2.0kgを、以降3時間置きにDHP1.0kgをそれぞれ追加した。また、反応開始から5時間後にメタノール7kgを添加した。
【0096】
反応を48時間行った後、末反応のTFE及びHFPモノマーを放出し、粒状粉末を得た。この粉末に純水を加え、撹拌洗浄後、オートクレーブから取り出した。150℃で24時間乾燥後、含フッ素共重合体329kgが得られた。得られた共重合体中のTFE:HFP:PPVE質量比は89.1:10.1:0.8であり、MFRは42g/10分であった。
【0097】
この共重合体粉末をハステロイ製の焼結フィルタ(40μm)を用い溶融ペレット化した。MFRは42g/10分であり、一辺44μm以上178μm未満のフィッシュアイは5623個/100g、一辺178μm以上のフィッシュアイは524個/100gであった。続いて、上記の条件で電線被覆成形を行った。成形した電線10km当たりに発生した突起は0個であった。成形した電線の巻き付けクラック試験の結果、亀裂の生じた電線は2個であった。
【0098】
比較例1
オートクレーブの重合槽をピロリン酸ナトリウム1%水溶液で処理しなかったこと、及び、DHPを直接液中に仕込めない長さの差込管を用いて気相から仕込んだことを除いては実施例1と同様の方法で重合を行った。反応を50時間行った後、末反応のTFE及びHFPモノマーを放出し、粒状粉末を得た。この粉末に純水を加え、撹拌洗浄後、オートクレーブから取り出した。150℃で24時間乾燥後、含フッ素共重合体340kgが得られた。取り出し後のオートクレーブ内部を観察すると、槽壁及び差込管へ大量の樹脂が付着していた。
【0099】
得られた共重合体中のTFE:HFP:PPVE質量比は86.9:12.1:1.0であり、MFRは38g/10分であった。この共重合体粉末をハステロイ製の焼結フィルタ(40μm)を用い溶融ペレット化したところ樹脂圧力が異常に上昇し、ペレット化できなかった。
【0100】
比較例2
比較例1で作成した含フッ素共重合体粉末を♯300/♯100/♯300/♯100/♯50のメッシュのスクリーンを使用してペレット化を行った。MFRは38g/10分であり、一辺44μm以上178μm未満のフィッシュアイは11926個/100g、一辺178μm以上のフィッシュアイは1470個/100gであった。続いて、上記の条件で電線被覆成形を行った。成形した電線10km当たりに発生した突起は7個であった。成形した電線の巻き付けクラック試験の結果、亀裂の生じた電線は0個であった。
【0101】
比較例3
比較例1で作成した含フッ素共重合体粉末を♯100/♯100/♯50のメッシュのスクリーンを使用してペレット化を行った。MFRは38g/10分であり、一辺44μm以上178μm未満のフィッシュアイは21395個/100g、一辺178μm以上のフィッシュアイは2132個/100gであった。続いて、上記の条件で電線被覆成形を行った。成形した電線10km当たりに発生した突起は42個であった。また、成形中2回溶融破断により成形継続不能となった。成形した電線の巻き付けクラック試験の結果、亀裂の生じた電線は4個であった。
【0102】
比較例4 (国際公開第2005/052015号パンフレットの合成例1)
国際公開第2005/052015号パンフレットの合成例1の方法で重合を行った。得られた共重合体中のTFE:PPVE質量比は94.5:5.5であり、MFRは60g/10分であった。取り出し後のオートクレーブ内部を観察すると、付着防止剤の塗布及び差込管を使用した重合開始剤の添加は行わない本方法においては、槽壁及び差込管へ大量の樹脂が付着していた。
【0103】
作成した含フッ素共重合体粉末を♯300/♯100/♯300/♯100/♯50のメッシュのスクリーンを使用してペレット化を行った。MFRは60g/10分であり、一辺44μm以上178μm未満のフィッシュアイは18646個/100g、一辺178μm以上のフィッシュアイは1611個/100gであった。続いて、上記の条件で電線被覆成形を行った。成形した電線10km当たりに発生した突起は11個であった。成形した電線の巻き付けクラック試験の結果、亀裂の生じた電線は0個であった。
【0104】
以上の実施例、比較例を表1に示す。
【0105】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の含フッ素共重合体は、電線の製造に好適に用いることができる。本発明の電線は、パソコン、携帯電話、ビデオカメラ、GPS等の情報通信機器、内視鏡などの医療用機器等の電線として好適に用いることができる。