【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、テトラフルオロエチレン由来の構成単位を必須とし、ヘキサフルオロプロピレン、及び/又は、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)由来の構成単位を有する含フッ素共重合体であって、フィルムに成形したとき、一辺が44μmの正方形を含むことができ一辺が178μmの正方形を含むことができない大きさのフィッシュアイが10000個/100g以下であり、かつ一辺が90μmの正方形を含むことができる大きさのフィッシュアイが1000個/100g以下であることを特徴とする含フッ素共重合体である。
【0010】
本発明は、上記含フッ素共重合体をケーブル導体上に押出成形することを特徴とする電線の製造方法である。
【0011】
本発明は、上記含フッ素共重合体による被覆を有することを特徴とする電線である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の含フッ素共重合体は、上記含フッ素共重合体をフィルムに成形し、上記フィルム上に存在するフィッシュアイの個数を計測した場合に、一辺が44μmの正方形を含むことができ一辺が178μmの正方形を含むことができない大きさの上記フィッシュアイが10000個/100g以下であり、かつ一辺が178μmの正方形を含むことができる大きさのフィッシュアイが1000個/100g以下であるものである。
【0013】
本発明の含フッ素共重合体は、一辺が44μmの正方形を含むことができ一辺が178μmの正方形を含むことができない大きさのフィッシュアイが1000個/100g以下であり、かつ一辺が178μmの正方形を含むことができる大きさのフィッシュアイが1000個/100g以下であることが好ましい。
【0014】
従来より、電線被覆成形時においては、含フッ素共重合体をケーブル導体に引き落とす際に溶融破断が発生したり、含フッ素共重合体から得られる被覆材表面に発生する小さな突起によって被覆材表面の粗さが発生したりする等、成形不良の発生が問題であり、電線のケーブル導体が細くなればなるほどこれらの問題は大きくなる。これらは、電線被覆成形時の歩留まりを低下させるだけでなく、被覆後の電線の耐クラック性を低下させる。本発明者らは、これらの原因の一つがフィッシュアイであることを見いだした。すなわち、本発明の含フッ素共重合体は、フィッシュアイを低減することによって、電線被覆成形時の成形不良を低減し、同時に得られる電線の耐クラック性を向上させることができるものである。
【0015】
上記フィッシュアイとは、目的とする含フッ素共重合体と分子量及び組成が大きく異なるために、含フッ素共重合体中に不純物として存在する異物であり、フィルム成形時には白色の不透明な部分又は突起として視認することができる。特に含フッ素共重合体においては、分子量が異常に大きい成分、TFE組成が多い成分、あるいは成形時の熱による再結合、架橋によって生じる成分等がフィッシュアイの原因となる。よって、これらの成分が生じることを防止することによってフィッシュアイを低減することができる。
【0016】
本明細書において、上記フィッシュアイの個数は以下の方法により測定して得られる。φ20mm押出機(田辺プラスチックス機械社製)にてTダイを用い、設定温度をそれぞれC1:350℃、C2:390℃、C3:390℃、D:390℃とし、スクリュー回転数を15rpm、引き取り速度を約3m/minに設定して、含フッ素共重合体の成形を行い、成形開始の30分後からサンプリングを開始し、幅70mm、厚み0.05〜0.06mm(中央部)、長さ5mのフィルムをサンプリングする。
【0017】
得られたフィルムの両端をマスクし、中心50mm幅の部分について、表面検査装置(三菱レイヨン社製:LSC−3100V)を用いて、フィッシュアイを検出する。
【0018】
フィルム成形及び測定は、ゴミや埃等の異物の混入がないように細心の注意を払い、クラス1000〔1ft
3(立方フィート)の空気中に0.5μm以上の微粒子が1000個以下〕のクリーンルーム内で行う。
【0019】
なお、本明細書において、上記フィッシュアイとは、上記フィルムを介して検出器の反対側300mm下方にライトを設置し光を透過させたときに、フィルムに対して垂直に292mm上方に設置した検出器により、透過率が80%より低い部分として検出される部分であって、検出器の反対側50mm下方にライトを設置し光を透過させたときに、フィルムに対して垂直に292mm上方に設置した検出器により透過率が80%より低い部分として検出されない部分をいう。
【0020】
検出されたフィッシュアイについて、上述の2つの大きさに分けてフィッシュアイの個数を計測し、フィルム上に存在するフィッシュアイの100gあたりの個数とする。
【0021】
本発明の含フッ素共重合体は、テトラフルオロエチレン〔TFE〕由来の構成単位を必須とし、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、及び/又は、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕由来の構成単位を有するものである。
【0022】
上記TFE由来の構成単位(TFE単位)、HFP由来の構成単位(HFP単位)、PAVE由来の構成単位(PAVE単位)は、それぞれTFE、HFP、PAVEに由来し、含フッ素共重合体の分子構造上の一部分であるものである。例えばTFE単位は、−(CF
2CF
2)−により表される。
【0023】
上記PAVEとしては特に限定されず、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)〔PBVE〕等が挙げられるが、なかでも、耐熱性に優れる点で、PPVEが好ましい。
【0024】
本発明の含フッ素共重合体としては、TFE単位90〜80質量%とHFP単位10〜20質量%とからなる共重合体、TFE単位97〜90質量%とPAVE単位3〜10質量%とからなる共重合体、又は、TFE単位92〜75質量%とHFP単位7〜20質量%とPAVE単位0.1〜5質量%とからなる共重合体であることが好ましい。
【0025】
本発明の含フッ素共重合体は、HFP単位及び/又はPAVE単位の割合が少ないと、得られる電線の耐クラック性が不充分となるおそれがある。HFP単位及び/又はPAVE単位の割合が多すぎると、耐熱性が低下する傾向にある。
【0026】
本発明の含フッ素共重合体は、TFE単位とHFP単位とからなる場合、TFE単位:HFP単位の質量比(全単量体合計で100。)が、(88〜85):(12〜15)であることがより好ましい。
【0027】
本発明の含フッ素共重合体は、TFE単位とPAVE単位とからなる場合、TFE単位:PAVE単位の質量比(全単位合計で100。)が、(95〜92):(5〜8)であるものがより好ましい。
【0028】
本発明の含フッ素共重合体は、TFE単位とHFP単位とPAVE単位とからなる場合、TFE単位:HFP単位:PAVE単位の質量比(全単位合計で100。)が(90.9〜75):(9〜20):(0.1〜5)であるものがより好ましい。
【0029】
上記質量比におけるPAVE単位は、例えばPMVE単位とPPVE単位との2種である場合のように、PAVE単位が2種以上の単位である場合、該2種以上の単位の合計質量に基づく。
【0030】
本明細書において、上記質量比は、TFE単位、HFP単位及びPAVE単位の含有率を、それぞれNMR分析装置(ブルカーバイオスピン社製、AC300)又は赤外吸収測定装置(Perkin−Elmer社製、1760型)を用いて測定することにより得たものである。
【0031】
本発明の含フッ素共重合体は、メルトフローレート〔MFR〕が25(g/10分)以上、48(g/10分)未満であることが好ましい。電線において要求されるものとして、耐クラック性等の物性を得るためには、MFRが48(g/10分)未満であるようなある程度の高分子量とすることが望まれる。しかし、極細の電線を作成するためには溶融粘度が低いほうが好ましく、そのためにはMFRを上げ、低分子量化しなければならない。通常、樹脂を低分子量化すると、樹脂中の高分子量体が相対的に異物となりやすく、フィッシュアイ化する可能性が大きくなるために、フィッシュアイによる成形不良の問題がより顕著となる。しかし、本発明は、フィッシュアイの低減で成形不良を改善したことから、MFRを上記範囲内としても成形不良を抑制することができる。上記MFRが25(g/10分)未満であると、被覆成形に用いる場合に電線の細線化が困難であり、得られる被覆材の表面平滑性が劣るおそれがある。MFRが48(g/10分)以上であると、フィッシュアイによる成形不良の問題がより顕著となり、また、得られる被覆材の耐クラック性が不充分となるおそれがある。上記MFRは、30(g/10分)以上であることがより好ましく、35(g/10分)以上であることが更に好ましく、45(g/10分)以下であることがより好ましい。
【0032】
本明細書において、上記MFRは、ASTM D 1238−98又はJIS K 7210に準拠したメルトインデックステスターを用いて、直径が2.1mmで長さが8mmのダイで、約6gの試料を372℃の温度下に荷重5kg(ピストンと重りの合計)にて測定したものである。
【0033】
本発明の含フッ素共重合体は、フィッシュアイを低減したものであるが、フィッシュアイを低減する方法としては、含フッ素共重合体末端のフッ素化、重合槽への付着防止剤の塗布、重合開始剤の液中への投入、2軸押出機を使用した溶融ペレット化、溶融ペレット化時の目の細かいスクリーン又はフィルタの使用等を挙げることができる。これらの方法から必要な手段を適宜組み合わせることによって、フィッシュアイを低減することができる。
【0034】
本発明の含フッ素共重合体は、−CF
3基以外の末端基が炭素数10
6個当り50個以下であることが好ましい。−CF
3基以外の末端基数が上記範囲内にあると、押出成形時の熱分解による発泡がなく、成形不良を低減することができ、また、フィッシュアイの原因となる押出成形時における含フッ素共重合体の分子同士の再結合(架橋)が起こらず、フィッシュアイの個数を低減することができる。また、得られる電線のストリップ性を向上させることができ、細線であっても配線作業が容易である電線を得ることができる。−CF
3基以外の末端基は、炭素数10
6個当り30個以下であることがより好ましく、9個以下であることが更に好ましい。
【0035】
本明細書において、上記「−CF
3基以外の末端基」とは、本発明の含フッ素共重合体の主鎖及び側鎖に存在する−COOH、−CH
2OH、−COF、−CONH
2、及び、−COOCH
3からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むものである。−CF
3基以外の末端基は、後述のフッ素化処理あるいは開始剤種の選択により低減あるいは無くすることができる。
【0036】
上記フッ素化処理の方法としては、特に限定されないが、上記含フッ素共重合体をフッ素化処理条件下にてフッ素ラジカルを発生するフッ素ラジカル源にさらす方法が挙げられる。フッ素ラジカル源としてはフッ素ガスの他に、CoF
3、AgF
2、UF
6、OF
2、N
2F
2、CF
3OF、及び、フッ化ハロゲン、例えばIF
5、ClF
3などが挙げられる。
【0037】
上記フッ素化処理として本発明の含フッ素共重合体と上記フッ素ラジカル源とを接触させると、上記の−CF
3基以外の末端基は、−CF
3に変化する。
【0038】
上記フッ素化処理として、フッ素ガスを接触させる方法を用いる場合、安全性の点で、不活性ガスと混合し、5〜30質量%、好ましくは15〜25質量%に希釈して使用することが好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
【0039】
上記フッ素化処理は、含フッ素共重合体の融点未満で実施することが好ましく、通常、250℃以下、より好ましくは、室温〜220℃で行う。上記フッ素化処理は、50〜1010kPa(=0.5〜10atm)の圧力下に、通常1〜30時間、好ましくは2〜20時間行う。
【0040】
上記フッ素化処理は、連続式、バッチ式の何れの操作も可能である。また、上記フッ素化処理において用いられる装置は、棚段型反応器、筒型反応器等の静置式反応器;攪拌翼を備えた反応器;ロータリーキルン、Wコーン型反応器、V型ブレンダー等の容器回転(転倒)式反応器;振動式反応器;攪拌流動床等の種々の流動床−反応器;等から適宜選択される。
【0041】
本明細書において、上記−CF
3基以外の末端基の数は、含フッ素共重合体粉末を350℃で30分間圧縮成形して厚さ0.25〜0.3mmのフィルムを作成し、FT−IR Spectrometer 1760X(Perkin Elmer社製)を用いて、赤外分光吸収測定を行い、特開2005−298659号公報に記載されている方法により求める値である。補正係数は炭素数10
6個あたりの末端基を算出するためにモデル化合物の赤外吸収スペクトルから決定する。
【0042】
上記赤外吸収スペクトルは、FT−IR Spectrometer1760X(Perkin−Elmer社製)及びPerkin Elmer Spectrum for Windows(登録商標) version:1.4Cを使用して分析する。
【0043】
本発明の含フッ素共重合体の製造方法として、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等の従来公知の重合方法を用いることができるが、工業上、懸濁重合又は乳化重合を用いることが好ましい。
【0044】
本発明の含フッ素共重合体は、予め付着防止剤を塗布した重合槽中で重合を行って得られるものであることが好ましい。予め付着防止剤を塗布すると、気相部分と接する重合槽側壁上での重合を抑制することができるので、目的とする含フッ素共重合体と分子量及び組成が大きく異なる成分の生成を抑制することができ、フィッシュアイの個数を低減した含フッ素共重合体を得ることができる。上記付着防止剤としては特に限定されないが、例えば、親水化する物、徐溶性(徐々に溶けていく)を示す物等が挙げられ、具体的には、ピロリン酸ナトリウム等が挙げられる。付着防止剤を塗布する方法としては、付着防止剤の水溶液を満たした重合槽を90℃にて3時間程度処理した後、水洗する方法が挙げられる。
【0045】
本発明の含フッ素共重合体は、重合開始剤を重合槽の側壁に付着しないように液中に投入し、重合反応を開始させることにより重合を行って得られるものであることが好ましい。重合開始剤を液中に投入することにより、気相部分と接する重合槽側壁上での重合を抑制することができるので、目的とする含フッ素共重合体と分子量及び組成が大きく異なる成分の生成を抑制することができ、フィッシュアイの個数を低減した含フッ素共重合体を得ることができる。このような液中への投入方法としては、差込管をその先端が液中に浸るように重合槽に設置し、該差込管により重合開始剤を投入する方法等が挙げられる。
【0046】
本発明の含フッ素共重合体は、例えば、粉体、ペレット等として得ることができるが、2軸押出機を使用して溶融ペレット化したものであることが好ましい。2軸押出機を使用することにより、フィッシュアイの原因となる非相溶性成分がスクリューによって粉砕されやすくなる。このため、サイズの大きいフィッシュアイの個数を低減することができる。
【0047】
本発明の含フッ素共重合体は、スクリューとダイの間に♯300以上のメッシュを複数枚重ねたスクリーン、又は、50μm以下のフィルタを設けた2軸押出機を使用して溶融ペレット化したものであることが好ましい。溶融ペレット化時に目の細かいスクリーンやフィルタを用いて含フッ素共重合体に含まれる異物を除去することにより、フィッシュアイの個数を低減した含フッ素共重合体を得ることができる。上記押出機には50μm以下のフィルタを設けることがより好ましい。
【0048】
本発明の含フッ素共重合体は、上述の構成よりなるものであるので、電線の製造に好適に用いることができ、特にAWGが40以上であるような細線の電線を製造する場合であっても、成形不良を低減することができ、好適な性質の被覆を有する電線を得ることができる、という利点を有するものである。
【0049】
上記含フッ素共重合体をケーブル導体上に押出成形することを特徴とする電線の製造方法もまた本発明の一つである。本発明の電線の製造方法は、上述の構成よりなる含フッ素共重合体を押出成形するものであるので、押出成形時においても成形不良を起こしにくいものである。上記ケーブル導体の材質としては、銅、銀メッキ線、ニッケルメッキ線が挙げられる。
【0050】
上記含フッ素共重合体を用いたことを特徴とする電線もまた本発明の一つである。本発明の電線は、上述の構成よりなる含フッ素共重合体を用いたものであるので、耐クラック性に優れる。
【0051】
上記電線は、AWGが20以上であるものが好ましく、AWGが40以上であるものがより好ましい。上記AWGは、American Wire Gauge〔AWG〕の規格によるものであり、AWGが20とは直径0.813mmであり、AWGが40とは直径0.079mmである。
【0052】
本発明の電線は、パソコン、携帯電話、ビデオカメラ、GPS等の情報通信機器、内視鏡などの医療用機器等の電線として好適に用いられ、例えば、携帯電話等のモバイル機器の小型化にも対応することができる。上記ノートパソコンや携帯電話は、折り畳み式の折り畳み部分に構造上の制約があり、細線化をも要するので、本発明の電線を好適に用いることができる。本発明の電線は、また、医療用のビデオマイクロスコープの送影線にも好適に用いることができる。