(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874667
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】蒸発器、その製造方法、水素生成装置及び燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
C01B 3/38 20060101AFI20160218BHJP
【FI】
C01B3/38
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-59683(P2013-59683)
(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公開番号】特開2014-185045(P2014-185045A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2015年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 信
【審査官】
森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−015911(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/083534(WO,A1)
【文献】
特開2007−055892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00 − 3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素生成装置の改質部に供給する水を蒸発させるための蒸発器であって、
内筒及び外筒と、該内筒と外筒との間にらせん状に設けられたらせん体とを備え、
該内筒及び外筒の軸心線方向が上下方向となるように設置され、該らせん体に沿うらせん流路に水が供給され、該内筒内側または該外筒外側からの熱により水を蒸発させる蒸発器において、
該らせん体は、前記内筒と外筒とに連なる、金属粉末の溶融、固化物である溶接金属よりなることを特徴とする蒸発器。
【請求項2】
請求項1において、前記らせん体に、らせん流路方向において所定間隔をおいて上向きの凸部が設けられていることを特徴とする蒸発器。
【請求項3】
請求項2において、前記凸部は波頭形又は小堰状であることを特徴とする蒸発器。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記らせん流路の末端部に、周方向に延在した溶接金属よりなる複数の周方向体が周方向に間隔をあけて配列設置されており、該周方向体同士の間がオリフィスとなっていることを特徴とする蒸発器。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記らせん体のらせん流路方向の途中に下向きに第1の舌片部が設けられ、該第1の舌片部のらせん流路方向の上位側において、該らせん体に第1の開口が設けられていることを特徴とする蒸発器。
【請求項6】
請求項5において、該第1の開口の縁部のうち、該第1の舌片部と反対側の縁部に、下向きに第2の舌片部が設けられ、該第1の舌片部のらせん流路方向の下位側において、該らせん体に第2の開口が設けられていることを特徴とする蒸発器。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の蒸発器を製造する方法であって、
前記内筒と外筒との間に金属粉末を充填する工程と、
該外筒の外周から高エネルギー線を照射することにより、この照射部位の外筒と、それに対峙する内筒の外面と、両者の間の前記金属粉末を溶融させ、次いで溶融物を固化させて前記溶接金属を形成する工程と、
を有し、前記照射部位をらせん状に移動させることにより、前記らせん体を形成することを特徴とする蒸発器の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の蒸発器と、
該蒸発器からの水蒸気と炭化水素ガスとを反応させて水素含有ガスを生成させる改質部と
を有する水素生成装置。
【請求項9】
請求項8の水素生成装置と、
該水素生成装置から供給される水素含有ガスと空気とにより発電作動する燃料電池と
を有する燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素生成装置用の蒸発器と、この蒸発器の製造方法と、この蒸発器を備えた水素生成装置及び燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池発電システムにおいては、まず、改質部によって炭化水素化合物と水蒸気を原料として水蒸気改質反応により水素、二酸化炭素、一酸化炭素、未反応の炭化水素化合物及び水蒸気等を含む改質ガスを生成させる。つぎに、変成部や選択酸化部などの一酸化炭素低減部によって一酸化炭素を除去して燃料ガスを生成させ、得られた燃料ガスを用いて燃料電池で発電を行う。
【0003】
水蒸気改質反応に必要な水蒸気は、改質部の上流に設けた蒸発部で、水を蒸発させることにより得られる。蒸発に要する熱としては、通常、燃料電池から排出されるアノードオフガスを燃焼部で燃焼して得られる熱が用いられる(例えば、特許文献1)。
【0004】
以下に、特許文献1に示された水素生成装置について、
図6を用いて説明する。
図6は、水素生成装置の縦断面図である。
【0005】
この水素生成装置1は、バーナ2、改質触媒3、変成触媒4、選択酸化触媒5、蒸発部8およびこれらを囲む断熱材14を備えている。原料となる炭化水素と水は原料供給口7から供給され、バーナ2の燃焼ガスは排気口6から排気される。
【0006】
水蒸気改質反応に必要な反応熱を供給するバーナ2の燃料としては、燃料電池から排出されるアノードオフガスが用いられる。ルテニウムを主成分とする改質触媒3の作用により、原料と水蒸気とが反応して、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、未反応のメタン及び水蒸気等を含む改質ガスが生成する。改質ガスに含まれる一酸化炭素は、変成触媒4によって改質ガス中の水蒸気と反応して1%以下程度の濃度にまで低減される。さらに、改質ガスは、空気供給口12から供給された空気と混合され、選択酸化触媒5によって一酸化炭素が選択的に燃焼除去され、水素含有ガスが生成する。
【0007】
生成した水素含有ガスは、水素含有ガス出口13から燃料電池へ供給される。
【0008】
改質触媒3に供給される水蒸気は、バーナ2で燃焼した燃焼ガス、変性触媒や選択酸化触媒の反応熱、改質ガス、水素含有ガスによって蒸発部8内で水を加熱することにより得られる。蒸発部8は、内筒9及び外筒10と、それらに挟まれたらせん棒11とから構成される。
【0009】
原料供給口7から供給された原料と水は、らせん棒11によって区切られたらせん状の空間(流路)8Bを流下しながらバーナ2で生じた燃焼ガス等により加熱される。内筒9と外筒10との間にらせん棒11を配置することにより、水を蒸発させるのに十分な伝熱面積を確保している。
【0010】
特許文献1には、このらせん棒11を内筒9と外筒10との間に固定設置する方法として、内筒9と外筒10との間にらせん棒11を配置した後、外筒10を縮径させるか又は内筒9を拡径させてらせん棒11をカシメることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4880086号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1のように外筒10を縮径させるか又は内筒9を拡径させてらせん棒11を内筒9及び外筒10に押し付けても、らせん棒11と内筒9及び外筒10とは十分には水密的に固着せず、らせん棒11と内筒9又は外筒10との間の微小な隙間を通って水が短絡的に流れ易く、蒸発効率が低いものとなり易い。また、高温の金属平滑面は疎水性が高く、水滴がその場にとどまらずに急速に流下してしまい蒸発効率が下がる。これを防ぐためにワイヤーメッシュを使用することが提案されている。(特開2010-129411)
【0013】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、らせん流路が水密的に区画形成された蒸発器と、この蒸発器の製造方法と、この蒸発器を備えた水素生成装置及び燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の蒸発器は、水素生成装置の改質部に供給する水を蒸発させるための蒸発器であって、内筒及び外筒と、該内筒と外筒との間にらせん状に設けられたらせん体とを備え、該内筒及び外筒の軸心線方向が上下方向となるように設置され、該らせん体に沿うらせん流路に水が供給され、該内筒内側又は外筒外側からの熱により水を蒸発させる蒸発器において、該らせん体は、前記内筒と外筒とに連なる
、金属粉末の溶融、固化物である溶接金属よりなることを特徴とする。
【0015】
本発明の蒸発器の製造方法は、かかる本発明の蒸発器を製造する方法であって、前記内筒と外筒との間に金属粉末を充填する工程と、該外筒の外周から高エネルギー線を照射することにより、この照射部位の外筒と、それに対峙する内筒の外面と、両者の間の前記金属粉末を溶融させ、次いで溶融物を固化させて前記溶接金属を形成する工程と、を有し、前記照射部位をらせん状に移動させることにより、前記らせん体を形成することを特徴とする。
【0016】
本発明の水素生成装置は、本発明の蒸発器と、該蒸発器からの水蒸気と炭化水素ガスとを反応させて水素含有ガスを生成させる改質部とを有する。
【0017】
本発明の燃料電池システムは、かかる水素生成装置と、該水素生成装置から供給される水素含有ガスと空気とにより発電作動する燃料電池とを有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の蒸発器では、らせん流路を構成するらせん体が溶接金属よりなり、この溶接金属が内筒及び外筒に溶着して一体化しているため、らせん体と内筒及び外筒との結合部分が水密的に構成されている。このため、本発明の蒸発器では水が短絡的に流れることがなく、水の蒸発効率が良好である。
【0019】
本発明の水素生成装置及び燃料電池システムは、かかる蒸発器を備えたものであるので、水素が効率よく製造され、発電効率も良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施の形態に係る蒸発器及びその製造方法を示す説明図である。
【
図2】別の実施の形態に係る蒸発器の一部側面図である。
【
図3】別の実施の形態に係る蒸発器の一部側面図である。
【
図4】別の実施の形態に係る蒸発器の一部側面図である。
【
図5】別の実施の形態に係る蒸発器の一部側面図である。
【
図7】本発明方法によって製造した蒸発器の断面を示す写真である。
【
図8】本発明方法によって製造した蒸発器の断面を示す写真である。
【
図9】本発明方法によって製造した蒸発器の断面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1を参照して実施の形態に係る蒸発器及びその製造方法を説明する。
【0022】
図1(a)の通り、内筒20と外筒21とを同軸的に配置し、内筒20と外筒21との間に金属粉末22を充填する(
図1(b))。
【0023】
なお、この実施の形態では、内筒20と外筒21との間のスペースの底部を底蓋23で閉鎖した後、金属粉末22を充填する。次いで、レーザービーム、電子ビーム、プラズマなどの高エネルギー線bを照射装置24から外筒21の外周面に照射する。そして、外筒21の高エネルギー線bの照射部位と、それに対峙する内筒20の少なくとも外周面と、それらの間の金属粉末22とを溶融させる。
【0024】
また、この高エネルギー線bの照射を開始するのとほぼ同時に、内筒20及び外筒21並びに両者間の金属粉末22をその軸心回りに回転させると共に、軸心方向に移動させ、高エネルギー線bの照射部位をらせん方向に一定速度で連続的に移動させる。
【0025】
これにより、高エネルギー線bが照射されて溶融する内筒20及び外筒21並びに両者間の金属粉末22の溶融部分が徐々にらせん方向に移動する。高エネルギー線が通り過ぎた部位では、溶融物が固化して溶接金属となる。そのため、この高エネルギー線bの照射部位をらせん状に移動させることにより、らせん体25(
図1(c)〜(e))が形成される。
【0026】
その後、底蓋23を撤去し、内筒20と外筒21との間に残留した未溶融の金属粉末を両者間から取り出すことにより、らせん流路27を有した、
図1(c)〜(e)に示す蒸発器26が得られる。
図1(c)は蒸発器26の縦断面図、
図1(d)は蒸発器26の側面図、
図1(e)は蒸発器26の断面斜視図である。なお、未溶融の金属粉末を取り出すには、エアガン等によりエアを吹き付けたりすればよい。
【0027】
上記の内筒20、外筒21及び金属粉末22の材料としては、ステンレス、チタン、チタン合金等の耐食性金属が好適であるが、これに限定されない。金属粉末22の粒度は70〜250メッシュ(約50〜200μm)程度が好ましい。
【0028】
このようにして製造された蒸発器26は、内筒20及び外筒の軸心線方向が上下方向、好ましくは鉛直方向となるように設置され、らせん流路に水が供給される。この蒸発器26にあっては、らせん体25は溶接金属よりなり、内筒20及び外筒21に対して溶け込んで一体化しており、らせん流路27を流れる水が短絡的に流れず、すべてらせん流路27に沿ってらせん方向に流れる。
【0029】
このらせん体25は、金属粉末を溶融固化させた溶接金属よりなるものであるから、その表面は粗面状となっている。そのため、らせん体25は、親水性に優れ、保水能力が高い。このようなことから、この蒸発器26は蒸発効率に優れる。
【0030】
本発明の蒸発器は、溶接ロボット等を用いて自動的に容易に製造することも可能である。
【0031】
上記実施の形態では、照射装置24を固定し、内筒20、外筒21及び金属粉末22を回転させながら軸心方向に移動させているが、内筒20、外筒21及び金属粉末22と照射装置24とは相対的にらせん方向に移動すればよく、これに限定されない。例えば、照射装置24をらせん方向に移動させてもよい。また、内筒20、外筒21及び金属粉末22を回転させながら、照射装置24を軸心線と平行方向に移動させてもよい。
【0032】
本発明の蒸発器のらせん体は、高エネルギー線bの照射部位を移動させることによって形成されるものであるから、
図1に示す単純ならせん形状に限らず、
図2〜5のようにらせん形状部分と他の形状部分とを組み合わせたらせん体であっても容易に形成することができる。
【0033】
図2の蒸発器26Aのらせん体25Aは、らせん流路方向において所定間隔をおいて上向き波頭形の凸部25aを形成するように曲成されている。
図3の蒸発器26Bのらせん体25Bは、らせん流路方向において所定間隔をおいて小堰状の上向き凸部25bが形成されている。これらの蒸発器26A,26Bによれば、らせん体25A,25Bに沿って流れる水が凸部25a,25bにより抵抗を受け、流速が低下するので、水が効率よく蒸発する。
【0034】
図4の蒸発器26Cにあっては、らせん流路27の末端部に、周方向に延在した溶接金属よりなる複数の周方向体29が周方向に間隔をあけて途切れ途切れに配列設置されており、周方向体29間にオリフィス28を形成している。周方向体29は、らせん体25と同様にして形成されたものであり、延在方向が周方向となっていること以外はらせん体25と同一構造のものである。
【0035】
らせん流路27の途中に設けられたガス導入口30かららせん流路27内に導入されたガスは、らせん流路27内の水蒸気と混ざり合いながららせん流路27を流れる。その後、オリフィス28を通過することにより、ガスと水蒸気とが十分に混合されるとともに、周方向に均一な流速に分散され触媒層での反応を安定化させることができる。
【0036】
図5の蒸発器26Dでは、らせん体25のらせん流路方向の途中に、下向きに第1の舌片部31が設けられ、この第1の舌片部31のらせん流路方向の一方の側に第1の開口33が設けられ、他方の側に第2の開口34が設けられている。第1の開口33は、舌片部31よりもらせん流路方向の上位側に位置する。第1の開口33の縁部のうち、第1の舌片部31と反対側の縁部には下向きの第2の舌片部32が設けられている。舌片部31,32は、らせん体25と同様にして形成されたものであり、延在方向が下方となっていること以外はらせん体25と同一構造のものである。
【0037】
水の蒸発により生じた水蒸気と、外筒に設けられた導入口30から導入されたガスとが、第1の舌片部31に当って開口33,34を通過し、乱流化が促進されることにより、充分に混合される。第2の舌片部32を設けたことによって、乱流化がさらに促進され、水蒸気とガスとが十分に混合される。
【0038】
本発明の水素生成装置は、
図6の水素生成装置において、蒸発器として上記本発明の蒸発器を用いることにより構成することができる。
【0039】
本発明の燃料電池システムは、かかる水素生成装置と、燃料電池とで構成されている。この燃料電池は、水素生成装置から供給される水素含有の燃料ガスと、空気との化学反応により発電する。
【実施例】
【0040】
[実施例1]
外径60.5mm、肉厚1.5mm、長さ300mmのステンレス製の内筒20と、外径65.5mm、肉厚1.5mm、長さ280mmのステンレス製の外筒21とを1.0mmの隙間をあけて同軸状に配置し、底蓋23を配置した後、両者間に平均粒径125μmのステンレス(SUS316L)粉末(70メッシュと250メッシュで篩い分けされた市販の粉末)を充填した。その後、レーザー照射装置(出力2kW)からレーザービームを外筒21に照射し、軸方向送り速度75mm/min、回転数7.5rpmにて内筒20、外筒21及び金属粉末22を移動及び回転させ、レーザー照射部位をらせん方向に移動させた。その後、未溶融のステンレス粉末をエアガンにより取り出した。これにより、
図1(c)〜(e)に示すらせん体25を有した蒸発器26が得られた。
【0041】
図7はこのらせん体25を蒸発器軸心線方向に切断した断面の写真であり、
図8はその拡大写真であり、
図9はらせん体25の側面を撮影した写真である。
図7,8の通り、らせん体25は内筒20及び外筒21に完全に溶け込んで一体化しており、水密性に優れることが認められる。また、
図9の通り、らせん体25の側面(らせん流路に臨む面)は粗面状となっている。
【符号の説明】
【0042】
9,20 内筒
10,21 外筒
11,25,25A,25B らせん体
22 金属粉末
23 底蓋
24 高エネルギー線照射装置
8,26,26A〜26D 蒸発器
8B,27 らせん流路
28 オリフィス
29 周方向体
30 ガス導入口
31,32 下向き舌片部
33,34 開口