(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
燃料を噴射する噴孔(10a)を有するとともに、前記噴孔へ燃料を流通させるメイン通路(31a、11、12、13)、および前記メイン通路から分岐して前記噴孔へ燃料を流通させるサブ通路(45、44、43、50a)が内部に設けられたボデー(10)と、
前記メイン通路を開閉するメイン弁体(50)と、
前記サブ通路を開閉するサブ弁体(41)と、
前記サブ弁体に開弁力を付与する電気アクチュエータ(20、30、40)と、
前記サブ弁体の開弁ストロークが所定量以上であることを条件として、前記サブ弁体の開弁力を前記メイン弁体に伝達して前記メイン弁体を開弁させる開弁力伝達機構(41b、51)と、
を備え、
前記ボデーの内部には、前記サブ通路と連通し、前記サブ弁体に燃料圧力を閉弁側へ付与させる制御室(42)が設けられており、
前記サブ通路には、前記サブ弁体に燃料圧力を開弁側へ付与させる燃料溜り室(43)と、前記制御室および前記燃料溜り室を連通させる連通路(44)と、が含まれていることを特徴とする燃料噴射弁。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照しながら発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0014】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態に係る燃料噴射弁は、以下に説明するボデー10、電磁コイル20、固定コア30、可動コア40、サブ弁体41、メイン弁体50等を備えて構成されている。なお、本実施形態に係る燃料噴射弁は、内燃機関の燃焼に用いる燃料を噴射するものであり、詳細には、燃焼室へ直接燃料を噴射する直噴式の内燃機関に搭載されたものである。
【0015】
ボデー10は、固定コア30、可動コア40、サブ弁体41およびメイン弁体50等の各種部品を内部に収容するとともに、電磁コイル20を保持する。燃料噴射弁の外部から供給される燃料(以下、供給燃料と呼ぶ)は、ボデー10内部の通路を流通し、ボデー10の先端に形成された噴孔10aから噴射される。
【0016】
電磁コイル20は通電により磁束を生じさせる。固定コア30はボデー10に固定されている。可動コア40は、燃料噴射弁の軸方向(つまり
図1の上下方向)に移動可能な状態でボデー10内部に収容されている。固定コア30および可動コア40は磁気回路を形成し、電磁コイル20により生じた磁束の経路を形成する。したがって、電磁コイル20へ通電すると、固定コア30と可動コア40との間で磁気吸引力Fmagが発生し、可動コア40が固定コア30へ吸引される。電磁コイル20、固定コア30および可動コア40は、特許請求の範囲に記載の電気アクチュエータに相当する。
【0017】
固定コア30は円筒形状であり、固定コア30の円筒内部の貫通穴30aにはロッド31が取り付けられている。ロッド31は、溶接等の手段により固定コア30に固定されている。可動コア40は円筒形状であり、可動コア40の円筒内部の貫通穴40aにはロッド31が挿入されている。可動コア40は、ロッド31により径方向への移動が規制され、ロッド31の外周面にガイドされながら軸方向に移動可能に保持されている。図中の符号H1は、可動コア40が移動可能なストローク量を示しており、可動コア40が固定コア30に接触した状態(
図3参照)で、ストローク量は最大値(例えば100μm)となる。
【0018】
ロッド31と可動コア40の間には、スプリングSPが圧縮方向に弾性変形した状態で配置されている。スプリングSPの弾性力Fspは、可動コア40が固定コア30へ吸引される向きの反対側へ、可動コア40に作用する。このスプリングSPは、特許請求の範囲に記載の「閉弁側弾性手段」に相当する。
【0019】
可動コア40には、溶接等の手段によりサブ弁体41が取り付けられている。サブ弁体41のうち反噴孔側部分は円筒形状に形成されており、この円筒内部にはロッド31が挿入されている。サブ弁体41は、ロッド31の外周面にガイドされながら可動コア40とともに軸方向に移動するように保持されている。
【0020】
メイン弁体50は有底円筒形状に形成されている。メイン弁体50の底部には流出口50aが形成されており、メイン弁体50の円筒内部にはサブ弁体41が挿入されている。メイン弁体50は、サブ弁体41の摺動面41aに嵌合しており、サブ弁体41はメイン弁体50に対して相対的に移動可能に組み付けられている。
【0021】
ボデー10の内部には第1通路31a、第2通路11、第3通路12およびサック室13が設けられている。サック室13は噴孔10a及び流出口50aと連通し、第3通路12はサック室13と連通し、第2通路11は第3通路12と連通し、第1通路31aは第2通路11と連通する。第1通路31aは、ロッド31と固定コア30との間に形成されている。第2通路11は、ボデー10のうち可動コア40を収容する収容室としても機能しており、可動コア40およびサブ弁体41の周囲を取り囲む環状の形状である。第3通路12は、ボデー10のうちメイン弁体50を収容する収容室としても機能しており、メイン弁体50の周囲を取り囲む環状の形状である。
【0022】
これら第1通路31a、第2通路11、第3通路12およびサック室13は、特許請求の範囲に記載の「メイン通路」に相当する。メイン弁体50は、第3通路12とサック室13との連通状態を開閉する。具体的には、メイン弁体50の底部に形成されたシート面(以下、アウタシート50sと呼ぶ)がボデー10の内壁面に着座すると、第3通路12とサック室13との連通が遮断される。一方、ボデー10の内壁面からアウタシート50sが離座すると、第3通路12とサック室13とが連通状態になり、供給燃料がメイン通路を通じて噴孔10aから噴射される。
【0023】
サブ弁体41の円筒内部には、ロッド31の先端により仕切られた制御室42が形成されている。サブ弁体41の外周面とメイン弁体50の内周面との間には燃料溜り室43が形成されている。燃料溜り室43は、サブ弁体41の周囲を取り囲む環状の形状である。サブ弁体41の内部には、制御室42と燃料溜り室43とを連通させる連通路44が形成されている。さらにサブ弁体41には、第2通路11の燃料を連通路44へ流入させる流入路45が形成されている。流入路45には、第2通路11からの燃料の流入流量を制限するオリフィス45aが設けられている。
【0024】
メイン弁体50の底部には流出口50aが形成されており、燃料溜り室43およびサック室13は、流出口50aを介して連通している。流入路45は、メイン通路から分岐していると言える。そして、これら流入路45、連通路44、燃料溜り室43および流出口50aは、特許請求の範囲に記載の「サブ通路」に相当する。また、上記オリフィス45aは、特許請求の範囲に記載の「サブ流通量制限手段」に相当する。
【0025】
サブ弁体41は、燃料溜り室43と流出口50aとの連通状態を開閉する。具体的には、サブ弁体41の底部に形成されたシート面(以下、インナシート41sと呼ぶ)がメイン弁体50の内壁面に着座すると、燃料溜り室43と流出口50aとの連通が遮断される。一方、メイン弁体50の内壁面からインナシート41sが離座すると、燃料溜り室43と流出口50aとが連通状態になり、供給燃料がサブ通路およびサック室13を通じて噴孔10aから噴射される。
【0026】
メイン弁体50が閉弁状態であっても、サブ弁体41が開弁状態であれば、メイン通路へ供給された供給燃料の一部が、サブ通路を通じて噴孔10aから噴射される。また、メイン弁体50およびサブ弁体41が開弁状態であれば、メイン通路およびサブ通路の両方を通じて噴孔10aから燃料が噴射される。但し、メイン弁体50およびサブ弁体41がともにフルリフト状態の場合には、インナシート41sで流量が絞られる度合いの方が、アウタシート50sで流量が絞られる度合いよりも大きく設定されている。そのため、この場合には主にメイン通路を通じて噴孔10aから燃料が噴射されることになる。
【0027】
制御室42内の燃料圧力は、サブ弁体41に閉弁力(以下、燃圧閉弁力Ffcと記載)を付与するように作用する。燃料溜り室43の燃料圧力は、サブ弁体41に開弁力(以下、燃圧開弁力Ffoと記載)を付与するように作用する。サブ弁体41の摺動面41aの直径d1は、ロッド31の摺動面の直径d2よりも小さく設定されている。このことは、制御室42の直径の方が燃料溜り室43の直径よりも大きいことを意味し、制御室42および燃料溜り室43の燃料圧力が同じであれば、燃圧閉弁力Ffcの方が燃圧開弁力Ffoよりも大きいことを意味する。さらに、閉弁状態にあるサブ弁体41には、インナシート41sの投影面積S1にかかる燃料圧力の分だけ、燃圧閉弁力(以下、シート閉弁力Fsc1と記載)が付与されている。
【0028】
よって、燃圧閉弁力Ffcおよびシート閉弁力Fsc1と、燃圧開弁力Ffoとの差分(以下、差分燃圧閉弁力ΔFfcと記載)が、サブ弁体41に閉弁側へ付与される。そして、サブ通路内の燃料圧力が小さいほど、差分燃圧閉弁力ΔFfcが小さくなり、サブ弁体41が開弁し易い状態になる。そして、サブ弁体41には主に、上述した差分燃圧閉弁力ΔFfcおよび弾性力Fspが閉弁側へ付与されるとともに、磁気吸引力Fmagが開弁側へ付与される。
【0029】
図1に示すように、スイッチSWをオフ作動させて電磁コイル20への通電をオフにすると、磁気吸引力Fmagがゼロになる。すると、差分燃圧閉弁力ΔFfcおよび弾性力Fspにより、インナシート41sがメイン弁体50に押し付けられ、サブ弁体41は閉弁する。また、この押付力(=ΔFfc+Fsp)により、アウタシート50sがボデー10の内壁面に押し付けられ、メイン弁体50も閉弁する。なお、スイッチSWの作動は、燃料噴射弁の外部に配置された電子制御装置により制御される。
【0030】
さて、先述したように、サブ弁体41はメイン弁体50に対して相対移動可能に組み付けられている。図中の符号H2は、サブ弁体41が相対移動可能なストローク量を示しており、
図1に示すように、サブ弁体41が閉弁した状態ではストローク量H2はゼロである。メイン弁体50およびサブ弁体41の各々は、ストローク量H2が最大になると互いに接触する係止部41b、51を有する。これにより、ストローク量H2の値が制限される。つまり、
図2に示すように、係止部41b、51が互いに接触した状態で、ストローク量H2は最大値(例えば10μm)となる。サブ弁体41の相対移動に係るストローク量H2の最大値は、可動コア40のストローク量H1の最大値よりも小さく設定されている。
【0031】
次に、メイン弁体50およびサブ弁体41の開弁作動について説明する。
【0032】
図2に示すように、スイッチSWをオン作動させて磁気吸引力Fmagを生じさせると、磁気吸引力Fmagが押付力(=ΔFfc+Fsp)を超えた時点でサブ弁体41が開弁を開始する。但し、係止部41b、51が互いに接触するまでの期間(つまりストローク量H2が最大値に達するまでの期間)は、メイン弁体50は閉弁したままであり、インナシート41sで絞られた流量の燃料が噴孔10aから噴射される。
【0033】
図2に示す如くサブ弁体41が開弁した状態において、オリフィス45aにより絞られて流入路45を流通する燃料の流量は、インナシート41sで絞られて噴孔10aから噴射される燃料の流量よりも少なくなるように設定されている。したがって、メイン弁体50が閉弁したままサブ弁体41が開弁している期間中、サブ通路の燃料圧力は低下する。
【0034】
さて、先述した通り、制御室42の直径の方が燃料溜り室43の直径よりも大きい。そのため、サブ通路の燃料圧力が低いほど、差分燃圧閉弁力ΔFfcは小さくなる。また、
図2の如くサブ弁体41が開弁した状態では、先述したシート閉弁力Fsc1も小さくなっている。したがって、メイン弁体50が閉弁したままサブ弁体41が開弁している
図2の状態では、差分燃圧閉弁力ΔFfcは極めて小さくなっている。
【0035】
その後、電磁コイル20への通電を継続させてサブ弁体41をさらにリフトアップさせて、ストローク量H2が最大値に達すると、
図3に示す如く係止部41b、51が互いに接触し、メイン弁体50が開弁を開始する。これにより、インナシート41sで絞られた流量の燃料に加え、アウタシート50sで絞られた流量の燃料が噴孔10aから噴射される。なお、可動コア40のストローク量が十分に大きくなりメイン弁体50のリフト量が十分に大きくなれば、アウタシート50sで流量が絞られる度合いは噴孔10aで絞られる度合いよりも小さくなり、十分な量の燃料が噴孔10aから噴射されることとなる。
【0036】
要するに、サブ弁体41の開弁ストロークが所定量(つまりストローク量H2の最大値)以上であることを条件として、サブ弁体41の開弁力(つまりFmag−(ΔFfc+Fsp))をメイン弁体50に伝達してメイン弁体50を開弁させる。そして、噴孔10aから噴射させる燃料の目標噴射量に応じた通電時間だけ、電磁コイル20への通電をオンにすることで、目標噴射量に応じた時間だけメイン弁体50を開弁させる。但し、目標噴射量が所定値未満であれば、サブ弁体41のストローク量H2が最大値に達する前に電磁コイル20への通電をオフさせて、メイン通路からの噴射をさせることなくサブ通路からの噴射のみで噴射停止させる。
【0037】
次に、メイン弁体50およびサブ弁体41の閉弁作動について説明する。
【0038】
図3の如くメイン弁体50およびサブ弁体41が開弁した状態で電磁コイル20への通電をオフにすると、メイン弁体50はフルリフト状態のまま、サブ弁体41が押付力(=ΔFfc+Fsp)により閉弁作動を開始する。その後、インナシート41sがメイン弁体50に接触してサブ弁体41が閉弁すると、メイン弁体50はサブ弁体41により閉弁側に押し付けられる。これにより、メイン弁体50は閉弁作動を開始し、ストローク量H1、H2がともにゼロになった時点でメイン弁体50は閉弁する。
【0039】
次に、
図4を用いて、メイン弁体50およびサブ弁体41の開閉作動に伴い生じる各種変化について説明する。なお、
図4の横軸は、電磁コイル20への通電を開始してからの経過時間を示す。
【0040】
図4(a)に示すように、通電開始とともに磁気吸引力Fmagは上昇していく。そして、磁気吸引力Fmagが押付力(=ΔFfc+Fsp)まで上昇したt1時点で、サブ弁体41が開弁してリフト量が上昇していく(符号L1参照)。すると、サブ通路内の燃料が流出口50aを通じてサック室13に流れ込み、噴孔10aから噴射される。そのため、サック室13の燃圧(符号L3参照)は、サブ弁体41の開弁とともに上昇を開始する。
【0041】
制御室42の燃圧(符号L4参照)は、サブ弁体41が開弁するt1時点前では第2通路11の燃圧(符号L5参照)と同じであるが、サブ弁体41が開弁すると低下していく。この理由は、オリフィス45aにより流入路45が絞られていることに起因して、流入路45から連通路44へ流入する流量が、流出口50aから流出する流量よりも少なくなっているからである。
【0042】
その後、サブ弁体41のリフト量が所定量に達したt2時点、つまり先述したストローク量H2が最大値に達したt2時点で、メイン弁体50が開弁を開始し、メイン弁体50のリフト量がサブ弁体41とともに上昇していく(符号L2参照)。メイン弁体50が開弁すると、メイン通路を通じて噴孔10aから燃料が噴射されることに伴い、サック室13の燃圧は上昇し(符号L3参照)、第2通路11内の燃圧は低下し(符号L5参照)、制御室42の燃圧は上昇する。
【0043】
また、メイン弁体50が開弁すると、噴孔10aの流量が急激に上昇していき(符号L6参照)、インナシート41sの流量は低下しはじめる(符号L7参照)。オリフィス45aの流量は、サブ弁体41の開弁とともに上昇し、メイン弁体50が開弁した後に低下していく。
【0044】
その後、通電オンからオフに切り替えたt3時点以降、磁気吸引力Fmagは低下していく。そして、磁気吸引力Fmagが押付力(=ΔFfc+Fsp)まで低下したt4時点で、サブ弁体41が閉弁作動を開始してリフト量が低下していく(符号L1参照)。この低下に伴い、サック室13および制御室42の燃圧は低下する(符号L3、L4参照)。
【0045】
その後、サブ弁体41がメイン弁体50に接触してストローク量H2がゼロになったt5時点、つまりサブ弁体41が閉弁したt5時点で、メイン弁体50が閉弁作動を開始してリフト量が低下していく(符号L2参照)。すると、サック室13の燃圧が急激に低下するとともに、噴孔10aの流量も急激に低下する(符号L3、L6参照)。その後、t6時点でメイン弁体50が閉弁する。
【0046】
以上に説明した本実施形態の燃料噴射弁は、要するに、以下に列挙する特徴を備える。そして、それらの各特徴により以下に説明する作用効果が発揮される。
【0047】
<特徴1>
噴孔10aを開閉する弁体は、メイン通路を開閉するメイン弁体50およびサブ通路を開閉するサブ弁体41の2つで構成されている。そして、サブ弁体41の開弁ストロークが所定量以上であることを条件として、係止部41b、51(つまり開弁力伝達機構)により、サブ弁体41の開弁力がメイン弁体50に伝達される。
【0048】
これによれば、通電オンするとサブ弁体41がメイン弁体50よりも先に開弁する。そして、サブ弁体41の相対ストローク量H2が最大値に達した時点で、互いの係止部41b、51が接触し、サブ弁体41によりメイン弁体が引き上げられて開弁する。
【0049】
さて、
図4を用いて先述したように、サブ弁体41が開弁開始するt1時点からメイン弁体50が開弁開始するt2時点までの期間、制御室42の燃圧は低下する(符号L4参照)。そのため、差分燃圧閉弁力ΔFfcが低下した状態、つまりサブ弁体41が開弁しやすい状態でメイン弁体50を開弁させることとなる。よって、電気アクチュエータに要求される磁気吸引力Fmagを小さくできる。しかも、磁気吸引力Fmagによる開弁力をメイン弁体50に伝達してメイン弁体50を開弁させるので、供給燃圧が小さい場合であってもメイン弁体50を開弁できる。よって、磁気吸引力Fmagの要求値低下と、供給燃圧が低くても燃料噴射を可能にすることとを両立できる。
【0050】
<特徴2>
ボデー10の内部には、サブ通路と連通し、サブ弁体41に燃料圧力を閉弁側へ付与させる制御室42が設けられている。また、サブ通路には、サブ弁体41に燃料圧力を開弁側へ付与させる燃料溜り室43と、制御室42および燃料溜り室43を連通させる連通路44と、が含まれている。
【0051】
これによれば、サブ弁体41を開弁しやすい状態にするべく制御室42から排出された燃料は、連通路44および燃料溜り室43を通じて噴孔10aから噴射される。そのため、制御室42から排出された燃料を燃料タンクに戻すリターン通路を不要にできる。
【0052】
<特徴3>
サブ通路には、メイン通路からの燃料の流入流量を制限するオリフィス45a(つまりサブ流通量制限手段)が設けられている。
【0053】
これによれば、サブ弁体41の開弁作動時(つまりt1時点からt2時点までの期間)において、メイン通路から高圧燃料が制御室42へ流入する流量が制限される。よって、サブ弁体41の開弁直後において、制御室42の燃圧降下が促進される(
図4中の符号L4参照)。よって、サブ弁体41を開弁しやすい状態でメイン弁体50を開弁させることを確実にできる。
【0054】
さらに、上記特徴によれば、サブ弁体41の開弁直後(つまりt1時点直後)に、サブ弁体41のリフトアップにより制御室42にてサブ弁体41により圧縮される燃料が、オリフィス45aを通じてメイン通路へ抜け出ることが可能になる。よって、サブ弁体41のリフトアップにより制御室42の燃料が圧縮されて圧力上昇することが抑制されるので、サブ弁体41の開弁直後において、制御室42の燃圧が一時的に上昇してサブ弁体41の開弁速度が遅くなることを防止できる。
【0055】
<特徴4>
燃料噴射弁は、サブ弁体41に弾性力を閉弁側へ付与するスプリングSP(つまり閉弁側弾性手段)を備える。さらに燃料噴射弁は、サブ弁体41が閉弁している状態では、スプリングSPによる弾性力がサブ弁体41を介してメイン弁体50に閉弁側へ付与されるように構成されている。そして、電気アクチュエータへの通電をオンからオフに切り替えると、サブ弁体41がメイン弁体50よりも先に閉弁するように、スプリングSPの弾性係数が所定値以上に設定されている。
【0056】
ここで、本実施形態に反し、スプリングSPの弾性係数が所定値未満に設定されていると、通電をオンからオフに切り替えた後、メイン弁体50がサブ弁体41よりも先に閉弁する場合が生じる。この場合には、サブ弁体41が閉弁前に開弁しやすい状態になってしまい、サブ弁体41が閉弁作動の途中で開弁作動に転じる懸念が生じる。これに対し本実施形態では、サブ弁体41がメイン弁体50よりも先に閉弁するように、スプリングSPの弾性係数が設定されているので、上記懸念を抑制できる。
【0057】
(第2実施形態)
図5に示すように、本実施形態に係る燃料噴射弁は、メイン弁体50に弾性力を開弁側へ付与するサブスプリングSPaを備えている。このサブスプリングSPaは、圧縮方向に弾性変形した状態で、メイン弁体50とボデー10の間に配置されている。サブスプリングSPaの弾性力は、サブ弁体41が閉弁状態である場合にはインナシート41sを介してサブ弁体41に伝達される。
【0058】
したがって、閉弁時のサブ弁体41にはサブスプリングSPaの弾性力が開弁側へ付与されることとなる。よって、サブスプリングSPaの弾性力の分だけ、スプリングSPの弾性係数を第1実施形態よりも大きく設定している。なお、サブスプリングSPaは、特許請求の範囲に記載の「開弁側弾性手段」に相当する。
【0059】
ここで、本実施形態に反してサブスプリングSPaを備えていない場合、サブ弁体41がメイン弁体50とともに閉弁作動している時に、メイン弁体50がインナシート41sから離れてサブ弁体41よりも先に閉弁することが懸念される。すると、サブ弁体41が閉弁する前にサブ通路の燃圧が低下し、その結果、サブ弁体41が閉弁前に開弁しやすい状態になってしまい、サブ弁体41が閉弁作動の途中で開弁作動に転じる懸念が生じる。
【0060】
この懸念に対し本実施形態によれば、サブスプリングSPaによりメイン弁体50がサブ弁体41に押し付けられるので、閉弁作動時においてメイン弁体50がサブ弁体41よりも先に閉弁することを抑制できる。よって、上記懸念の解消を促進できる。
【0061】
(第3実施形態)
図6に示すように、本実施形態に係る燃料噴射弁は、以下に説明する仕切り部材14を備える。仕切り部材14は、ボデー10内部に設けられ、
図1に示す第2通路11を上流側燃料溜り室11aと下流側燃料溜り室11bに仕切る。仕切り部材14には、上流側燃料溜り室11aと下流側燃料溜り室11bとを連通する連通穴15が形成されている。連通穴15には、燃料の流量を制限するオリフィス15aが設けられている。このオリフィス15aは、特許請求の範囲に記載のメイン流通量制限手段に相当する。
【0062】
要するに、メイン通路には、下流側燃料溜り室11bおよび上流側燃料溜り室11aが含まれるとともに、上流側燃料溜り室11aから下流側燃料溜り室11bへの燃料の流入流量を制限するメイン流通量制限手段が設けられている。上流側燃料溜り室11aは下流側燃料溜り室11bよりも上流側に位置する。そして、下流側燃料溜り室11b内の燃料圧力は、サブ弁体41に開弁力(以下、燃圧開弁力Ffo’と記載)を付与するように作用する。また、上流側燃料溜り室11a内の燃料圧力は、サブ弁体41に閉弁力(以下、燃圧閉弁力Ffc’と記載)を付与するように作用する。
【0063】
以上により、本実施形態によれば、メイン弁体50が開弁して燃料噴射している時には、オリフィス15aの流量制限作用により、下流側燃料溜り室11bの燃圧が上流側燃料溜り室11aの燃圧よりも低くなる。そのため、燃圧開弁力Ffo’が小さくなるので、スプリングSPによる閉弁作動するメイン弁体50およびサブ弁体41の、作動速度が速くなる。よって、本実施形態によれば、通電をオフさせてから燃料噴射量がゼロになるまでの閉弁遅れ時間を短くでき、閉弁の応答性を向上できる。
【0064】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0065】
・上記実施形態では、電気アクチュエータに、磁気吸引力を生じさせる電磁式アクチュエータを採用しているが、ピエゾ素子を採用してもよい。
【0066】
・ここで、メイン弁体50に対するサブ弁体41の相対ストローク量H2を大きくするほど、メイン弁体50のフルリフト量が小さくなる。すると、単位時間当たりに噴孔10aから噴射される量(つまり噴射率)が、十分に得られなくなる。この点を鑑み、メイン弁体50のフルリフト時において、アウタシート50sで流量が絞られる度合いが噴孔10aで絞られる度合いより小さくなるように、上記相対ストローク量H2は所定の上限値未満に設定されていることが望ましい。
【0067】
・また、上記相対ストローク量H2を小さくするほど、サブ弁体41の開弁作動時(つまりt1時点からt2時点までの期間)において、制御室42の燃圧低下速度が遅くなる。すると、メイン弁体50の開弁時に制御室42の燃圧が十分に低下しなくなる。その結果、制御室42の燃圧低下によりサブ弁体41を開弁しやすい状態にしてメイン弁体50を開弁させることにより、磁気吸引力Fmagの要求値を低減できる、といった効果が十分に発揮されなくなる。この点を鑑み、上記相対ストローク量H2は所定の下限値以上に設定されていることが望ましい。
【0068】
・上記各実施形態に係る燃料噴射弁は、制御室42から排出した燃料を噴孔10aから噴射するように構成されている。これに対し、燃料噴射弁は、制御室42から排出した燃料を燃料タンクに戻すリターン通路を備え、上記排出した燃料を噴孔10aから噴射させずに燃料タンクに戻すように構成されていてもよい。
【0069】
・上記各実施形態では、サブ通路にオリフィス45aを設けているが、このオリフィス45aに替えて、例えば開閉弁を設けるようにしてもよい。
【0070】
・上記各実施形態では、サブ弁体41がメイン弁体50よりも先に閉弁するように、スプリングSPの弾性係数が所定値以上に設定されている。これに対し、このような弾性係数の設定を廃止してもよい。