特許第5874734号(P5874734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5874734-制御弁式鉛蓄電池 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874734
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】制御弁式鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/06 20060101AFI20160218BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20160218BHJP
   H01M 2/18 20060101ALI20160218BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20160218BHJP
   H01M 4/56 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   H01M10/06 Z
   H01M4/14 Q
   H01M2/18 Z
   H01M2/16 F
   H01M4/56
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-538422(P2013-538422)
(86)(22)【出願日】2012年9月7日
(86)【国際出願番号】JP2012005694
(87)【国際公開番号】WO2013054467
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2014年9月16日
(31)【優先権主張番号】特願2011-227469(P2011-227469)
(32)【優先日】2011年10月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】澤 あや
(72)【発明者】
【氏名】中山 恭秀
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−023620(JP,A)
【文献】 特開2005−044675(JP,A)
【文献】 特開2007−087871(JP,A)
【文献】 特開昭60−091572(JP,A)
【文献】 特開2006−294291(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/101432(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/06
H01M 2/16
H01M 2/18
H01M 4/14
H01M 4/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を保持する正極板と負極活物質を保持する負極板とセパレータとから構成される極群を備えた制御弁式鉛蓄電池であって、
バブルポイント法により測定された前記負極活物質の平均孔径が0.2〜0.35μmであり、
同じくバブルポイント法により測定された前記セパレータの平均孔径が前記負極活物質の平均孔径の10〜40倍であり、且つ、8.0μm以下であることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記セパレータの平均孔径が、2.6〜8.0μmである請求項1記載の制御弁式鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、制御弁式鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全地形型車両は、不整地を含む様々な地形を進むことのできる原動機付きの車両であり、一般的にバギーとも称されるものである。
【0003】
このような全地形型車両は、−25℃環境下の寒冷地のような過酷な環境で使用されることも多いため、全地形型車両に用いられる制御弁式鉛蓄電池は低温高率放電性能に優れていることが求められる。そこで、制御弁式鉛蓄電池の低温高率放電性能の向上のために種々の検討がなされている(非特許文献1及び2)。
【0004】
すなわち、非特許文献1では、−25℃での低温高率放電性能を向上させるために、負極活物質の添加剤に注目し、約23%の性能向上を達成している。また、非特許文献2では、非特許文献1に記載の技術に加え、電池設計の最適化を図り、−25℃での低温高率放電性能を約50%向上させることに成功している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】GS Yuasa Technical Report、2010年6月第7巻第1号
【非特許文献2】GS Yuasa Technical Report、2010年12月第7巻第2号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記現状に鑑み、低温高率放電性能に優れた制御弁式鉛蓄電池を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
非特許文献1及び2に記載の技術によって、−25℃での低温高率放電性能は一定レベルまで向上されたものの、より一層の低温高率放電性能の向上が望まれている。このため、本発明者は、更にセパレータに注目して鋭意検討を行った結果、バブルポイント法で測定されたセパレータの平均孔径が、バブルポイント法で測定された負極活物質の平均孔径に対して所定の倍率だけ大きいと、負極活物質に分配される電解液量が増加し、それに伴って、−25℃での低温高率放電持続時間が向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明に係る制御弁式鉛蓄電池は、正極活物質を保持する正極板と負極活物質を保持する負極板とセパレータとから構成される極群を備えた制御弁式鉛蓄電池であって、バブルポイント法により測定された前記負極活物質の平均孔径が0.2〜0.35μmであり、同じくバブルポイント法により測定された前記セパレータの平均孔径が前記負極活物質の平均孔径の10〜40倍であることを特徴とする。
【0009】
前記セパレータの平均孔径は、2.6〜8.0μmであることが好ましい。
【0010】
前記セパレータは、ガラス繊維から形成された不織布であることが好ましい。
【0011】
前記セパレータの厚さが、1.0〜1.6μmであることが好ましい。
【0012】
更に、前記ガラス繊維の平均繊維径は、4μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上述した構成よりなるので、制御弁式鉛蓄電池の低温高率放電性能、特に−25℃環境下における性能を向上することが可能となり、全地形型車両等に好適な制御弁式鉛蓄電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】セパレータの平均孔径と負極活物質の平均孔径との比と、低温高率放電持続時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る制御弁式鉛蓄電池の実施形態について説明する。
【0016】
本発明に係る制御弁式鉛蓄電池は、正極活物質を保持する正極板と負極活物質を保持する負極板とセパレータとから構成される極群を備えたものである。このような制御弁式鉛蓄電池は、例えば、上部が開口し、内部に1つ以上のセル室を有する電槽を備え、前記セル室に極群が配置されているものであり、正極板の各々の耳部は正極用ストラップによって、負極板の各々の耳部は負極用ストラップによって一体的に連結され、隣接するセル室の異極性のストラップとの間でセル間接続されている。また、一端のセル室の正極用ストラップからは正極用極柱が電槽の開口方向に突出するように設けられ、他端の負極用ストラップからは負極用極柱が電槽の開口方向に突出するように設けられている。なお、前記正極板、負極板は、鉛又は鉛合金からなる正極格子体、負極格子体に正極活物質ペースト、負極活物質ペーストを充填し、熟成及び乾燥工程を経て作製されたものである。
【0017】
電槽の開口は、注液口を兼ねる排気口を有する電槽蓋を溶着又は接着することによって密閉される。また、電槽蓋に設けられた、正極用極柱及び負極用極柱を挿通させるための孔部に、正極用極柱及び負極用極柱を挿通させて正極端子、負極端子とするか、又は、正極用極柱及び負極用極柱を、電槽蓋の上部に予め鋳込まれた正極端子部材及び負極端子部材に溶接して正極端子、負極端子とする。これにより、各端子が形成されて完成電池とされる。なお、注液口を兼ねる排気口には極群から発生した酸素ガスを外部に排出するための排気弁が備えられている。
【0018】
本発明に係る制御弁式鉛蓄電池は、負極活物質の平均孔径が0.2〜0.35μmであり、セパレータの平均孔径が前記負極活物質の平均孔径の10〜40倍であるものである。そして、本発明において、負極活物質の平均孔径とセパレータの平均孔径とは、いずれも、バブルポイント法を用いて測定されたものである。なお、当該バブルポイント法は、BCI 03A−6に準拠して実施することができる。負極活物質の平均孔径が0.2〜0.35μmであり、セパレータの平均孔径が負極活物質の平均孔径の10〜40倍であると、表面張力に伴う毛細管現象によって、セパレータから負極活物質へ電解液が効率よく吸引される。そのため、負極活物質に分配される電解液量が増加し、これに伴い低温高率放電性能が向上すると推測される。
【0019】
負極活物質の平均孔径は、一般的に水銀圧入法(JIS K1150)を用いて測定される。水銀圧入法とは、水銀を加圧して固体試料の細孔中に圧入し、固体試料の細孔径分布と平均孔径とを測定する方法であり、水銀に加える圧力を徐々に増大していくと、大きな細孔から小さな細孔へと順に水銀が侵入するので、加えた圧力と水銀の容積との関係から細孔径分布と平均孔径とを求めることができる。
【0020】
これに対して、セパレータや負極活物質の平均孔径を、バブルポイント法(BCI 03A−6)により測定する場合、測定される細孔直径は液体の透過性能に律則となる貫通孔のネック部分のみである。
【0021】
ところで、バブルポイント法と水銀圧入法とでは全く相関関係のない値が測定される。例えば、特開2006−95352号に記載されているように、貫通孔の形状によって、バブルポイント法と水銀圧入法とでは全く相関関係のない値が測定される。仮に、負極活物質の平均孔径を例に挙げると、バブルポイント法で測定された値がある所定値であった場合に、水銀圧入法で測定された値が必ず1つの値に決まる訳ではなく、貫通孔の形状によって種々の値に決まる。
【0022】
従って、水銀圧入法を用いて測定された平均孔径と、バブルポイント法を用いて測定された平均孔径とは、全く異なる領域を測定する別個のパラメータであり、互いに相関関係はなく、また、単純に係数値等で換算できるものでもないと言える。そして、上述のとおり、セパレータから負極活物質への電解液の移動は毛細管現象によるものと考えられ、また、低温高率放電性能は負極活物質への電解液の分配に相関すると考えられるので、低温高率放電性能を向上させることを目的とする場合は、液体の透過性能に律則となる貫通孔のネック部分のみから平均孔径を測定するバブルポイント法により得られた平均孔径を指標とした方がより適切に評価することができると考えられる。更に、制御弁式鉛蓄電池においては、正極板から発生した酸素ガスが負極板へと移動し、水素ガスと反応するガス吸収反応が起こることからも、貫通孔を測定するバブルポイント法による平均孔径を指標とすることが適切であると考えられる。
【0023】
一方、仮に、上述した効果が得られるセパレータや負極活物質の平均孔径の数値範囲を、水銀圧入法を用いて測定しようとした場合、貫通孔ではない空間部分も測定対象に含まれる。そのため、貫通孔ではない空間部分が多い場合には、上述したような性能向上が得られない数値範囲も含まれやすくなる。したがって、上述した効果が得られるセパレータや負極活物質の平均孔径を測定する方法として水銀圧入法は不適切である。
【0024】
本発明で用いられるセパレータの平均孔径は、2.6〜8.0μmであることが好ましい。セパレータの平均孔径が2.6μm未満であると、負極板に保持された負極活物質の平均孔径をその1/40〜1/10にするのは製造面から困難となる。また、負極活物質の平均孔径が0.2μm未満のデータについては、現出願時点では測定不可能であった。また、セパレータの平均孔径が8.0μmを超えると、電解液の比重が上から下に向かって高くなる成層化やデンドライトショートが発生しやすくなり、充電受け入れ性や寿命性能などの本発明の効果とは異なる他の性能が低下してしまう。
【0025】
前記セパレータとしては、ガラス繊維から形成されたセパレータが好適に用いられ、なかでも、平均繊維径が4μm以下であるガラス繊維(マイクログラスウール)から形成され、厚さが1.0〜1.6μmとなった、湿式不織布であるAGM(absorptive glass mat)セパレータであれば更に好適である。AGMセパレータは、優れた弾力性に加えて、高い耐酸化性、均一な極細孔を持つため、活物質の脱落を防ぎ、電解液を良好な状態で保持し、正極板で発生したガスを負極板へ急速に移動吸収させることが可能である。
【0026】
制御弁式鉛蓄電池の低温高率放電特性の改善には、正極板と負極板との間隔(以下、極間ともいう。)を狭くすることや、正極板及び負極板を薄くして枚数構成を変える等の対策が一般に行われている。しかし、本発明によれば極間及び極板の枚数構成を変えずに、低温高率放電特性を向上させることが可能となった。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0028】
<試験1>低温高率放電性能の評価
セパレータとして、SBA S 0401に準拠して測定した厚さが、0.7〜1.5mmのAGMセパレータを用いた。また、負極板としては、極板サイズが幅76mm×高さ87mmH×厚さ1.50mmである極板を用い、正極としては、極板サイズが幅76mm×高さ87mm×厚さ1.95mmである極板を用いた。なお、セパレータ及び負極板の平均孔径は、パームポロメータを備えた多孔質材料自動細孔測定システム(ポーラスマテリアル社製(Porous Materials, Inc.))を用いて、BCI 03A−6に準拠して実施したバブルポイント法により測定した。
【0029】
上記セパレータと負極板と正極板とを組み合せ、極板構成が正極4枚、負極5枚の12V制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0030】
作製した制御弁式鉛蓄電池を用いて、以下の試験条件に従い、低温高率放電性能として放電持続時間を調べた。
放電電流 : 100A
打ち切り条件 : 6.0V
試験温度 : −25℃
【0031】
得られた結果を表1〜3に示す。なお、表1〜3において、「低温高率放電持続時間の向上効果」は、No.1のサンプルの低温高率放電持続時間を基準として相対的に評価したものであり、No.1のサンプルの低温高率放電持続時間に対する放電持続時間の向上率が、5%未満である場合を「△」と評価し、5%以上である場合を「○」と評価した。また、表1に示す結果の一部のうち、セパレータの平均孔径と負極活物質の平均孔径との比と低温高率放電持続時間との関係を図1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
表1〜3及び図1に示す結果より、負極活物質の平均孔径によって低温高率放電持続時間への影響は異なるが、セパレータの平均孔径が負極活物質の平均孔径の10倍以上である場合に、No.1のサンプルの低温高率放電持続時間に対して低温高率放電持続時間が5%以上向上した。
【0036】
いずれのセパレータの厚さであっても、セパレータの平均孔径が負極活物質の平均孔径の10倍以上である場合、No.1のサンプルの低温高率放電持続時間に対して低温高率放電持続時間が5%以上向上した。しかし、セパレータの平均孔径が負極活物質の平均孔径の30倍以上になると、低温高率放電性能の向上効果は増加幅が小さくなることがわかった。
図1