【実施例】
【0059】
(測定例1)
エックス線回折スペクトルはRigaku社のD/max-2200/PC型のエックス線回折計(XRD)を使用して、測定する。
【0060】
(測定例2)
各サンプルのXPSスペクトルはQuantera SXM (PHI 社製)を使用して、測定する。励起X 線は、monochromatic Al K
α1,2線(1486.6 eV)であり、X 線径は200μm、光電子脱出角度は45°である。
【0061】
(測定例3)
ラマン測定はRamanor T-64000(Jobin Yvon/愛宕物産)を用いて測定した。ビーム径は100μm、光源はアルゴンイオンレーザー(波長:514.5nm)を用いた。
【0062】
(測定例4)
赤外吸収測定はFTS−60A/896(Bio-Rad Diglab 製 FT-IR)を用いてATR法により測定した。ATR法では、屈折率の高い結晶を試料表面に圧着し、全反射条件で測定した。測定は窒素ガスパージをして行い、プリズムにはGeプリズムを用いた。入射角は45°測定領域は4000〜680cm
-1で測定した。グラフェンの屈折率は2と仮定している。
【0063】
(測定例5)
サンプルの導電率は直径約20mmのディスク状試験片に成型し、三菱化学株式会社のMCP-HT450高抵抗率計とMCP-T610低抵抗率計を使用して、測定する。
【0064】
(測定例6)
粘度降伏値の測定法は以下のとおりである。ペーストの降伏値は、粘度計(レオテック社、型番RC20)を用いて測定した。プローブにはコーンプレート(C25-2)を用い、温度25℃の条件でせん断速度0〜500毎秒で30段階について、段階的にせん断速度を上げて各粘度を測定した。せん断速度とせん断応力についてカッソンプロットして、切片から降伏値を計算した。
【0065】
(測定例7)
放電容量は以下のように測定した。下記実施例で作製したグラフェン粉末を2重量部、電極活物質としてリン酸鉄リチウムを80重量部、導電助剤としてアセチレンブラックを8重量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン10重量部、を加えたものをプラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にドクターブレード(300μm)を用いて塗布し、200℃15分間乾燥して電極板を得た。
【0066】
作製した電極板を直径15.9mmに切り出して正極とし、直径16.1mm厚さ0.2mmに切り出したリチウム箔を負極とし、直径17mmに切り出したセルガード#2400(セルガード社製)セパレータとして、LiPF6を1M含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=7:3の溶媒を電解液として、2042型コイン電池を作製し、電気化学評価を行った。レート1C、上限電圧4.0V、下限電圧2.5Vで充放電測定を3回行い、3回目の放電時の容量を放電容量とした。
【0067】
(合成例1)
酸化グラフェンの作製方法:1500メッシュの天然黒鉛粉末(上海一帆石墨有限会社)を原料として、氷浴中の10gの天然黒鉛粉末に、220mlの98%濃硫酸、5gの硝酸ナトリウム、30gの過マンガン酸カリウムを入れ、1時間機械攪拌し、混合液の温度は20℃以下で保持した。上述混合液を氷浴から取り出し、35℃水浴中で4時間攪拌反応し、その後イオン交換水500mlを入れて得られた懸濁液を90℃で更に15分反応を行った。最後に600mlのイオン交換水と50mlの過酸化水素を入れ、5分間の反応を行い、酸化グラフェン分散液を得た。熱いうちにこれを濾過し、希塩酸溶液で金属イオンを洗浄し、イオン交換水で酸を洗浄し、pHが7になるまで洗浄を繰り返し、酸化グラフェンゲルを作製した。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.53であった。
【0068】
(合成例2)
硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムの量の黒鉛に対する比を合成例1の55%とした以外は、合成例1と同様に、酸化グラフェンゲルを作製した。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.44であった。
【0069】
(合成例3)
硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムの量の黒鉛に対する比を合成例1の70%とした以外は、合成例1と同様に、酸化グラフェンゲルを作製した。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.45であった。
【0070】
(合成例4)
硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムの量の黒鉛に対する比を合成例1の85%とした以外は、合成例1と同様に、酸化グラフェンゲルを作製した。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.47であった。
【0071】
実施例1
(1)酸化グラフェン分散液の作製方法:合成例1で作製した酸化グラフェンゲルを脱イオン水で、濃度10mg/mlに希釈し、超音波処理をした後、均一分散な黄土色の酸化グラフェン分散液を得た。
【0072】
(2)グラフェン粉末の作製方法: 100mlの酸化グラフェンの分散液の中に、還元剤として3gの亜ジチオン酸ナトリウムを入れ、メカニカルスターラーで、還元反応時間を5分間、還元反応温度を室温23℃で反応させ、濾過、水洗、乾燥した後グラフェン粉末を得た。
【0073】
(3)グラフェンの物性および性能
作製したグラフェン粉末の酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.10であり、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比は検出されず0.001以下であった。また、作製したグラフェン粉末を(測定例2)に従いラマン分光測定したところI
D/I
Gの値は1.50であり、I
2D/I
Gの値は0.14であった。作製したグラフェン粉末を(測定例3)に従い赤外分光測定したところ、C=C結合由来ピークに対するC=O結合由来ピークの面積比は0.18であった。還元前の酸化グラフェンの導電率は6.7×10
-6S/mであり、還元後のグラフェン粉末の導電率は4.4×10
2S/mである。結果は表1にまとめる。
【0074】
グラフェン粉末を含有するリチウムイオン電池用電極ペーストを測定例5に従い作製し降伏値を測定したところ、4.5Paであった。該ペーストを用いて電極板を測定例6に従い作製し、放電容量を測定したところ、154mAh/gであった。結果は表2にまとめる。
【0075】
実施例2
(1)酸化グラフェン分散液の作製方法:合成例1で作製した酸化グラフェンゲルを体積比1:1の脱イオン水/N,N−ジメチルホルマアミドで、10mg/ml濃度に希釈し、超音波処理をして、均一分散な黄土色の酸化グラフェン分散液を得た。
【0076】
(2)グラフェン粉末の作製方法:100mlの酸化グラフェン分散液の中に、還元剤として1gの亜ジチオン酸カリウムを入れ、メカニカルスターラーで、還元反応時間を1分間、還元反応温度を30℃で反応させ、濾過、水洗、乾燥した後グラフェン粉末を得た。
【0077】
(3)グラフェンの物性および性能:作製したグラフェン粉末をXPS測定により測定した結果、酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.11であった。窒素原子の炭素原子に対する元素組成比は検出されず0.001以下であった。作製したグラフェン粉末をラマン分光測定したところI
D/I
Gの値は1.32であり、I
2D/I
Gの値は0.13であった。作製したグラフェン粉末を赤外吸収測定したところ、C=C結合由来ピークに対するC=O結合由来ピークの面積比は0.42であった。還元前の酸化グラフェンの導電率は6.7×10
-6S/mであり、還元後のグラフェン粉末の導電率は1.7×10
2S/mである。結果は表1にまとめる。
【0078】
グラフェン粉末を含有するリチウムイオン電池用電極ペーストを測定例5に従い作製し降伏値を測定したところ、8.4Paであった。該ペーストを用いて電極板を測定例6に従い作製し、放電容量を測定したところ、145mAh/gであった。結果は表2にまとめる。
【0079】
実施例3
実施例1の酸化グラフェン分散液100mlの中に、還元剤として2gの亜ジチオン酸ナトリウムを入れ、メカニカルスターラーで、還元反応時間を1時間、還元反応温度を50℃で反応させ、濾過、水洗、乾燥した後グラフェン粉末を得た。
【0080】
作製したグラフェン粉末をXPS測定により測定した結果、酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.10であった。窒素原子の炭素原子に対する元素組成比は検出されず0.001以下であった。作製したグラフェン粉末をラマン分光測定したところI
D/I
Gの値は1.67であり、I
2D/I
Gの値は0.17であった。作製したグラフェン粉末を赤外吸収測定したところ、C=C結合由来ピークに対するC=O結合由来ピークの面積比は0.23であった。
【0081】
還元前の酸化グラフェンの導電率は6.7×10
-6S/mであり、還元後のグラフェン粉末の導電率は6.2×10
2S/mである。結果は表1にまとめる。
【0082】
グラフェン粉末を含有するリチウムイオン電池用電極ペーストを測定例5に従い作製し降伏応力を測定したところ、10.3Paであった。該ペーストを用いて電極板を測定例6に従い作製し、放電容量を測定したところ、139mAh/gであった 。結果は表2にまとめる。
【0083】
実施例4
還元反応時間を1時間とした以外は実施例1の操作をし、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0084】
実施例5
還元反応温度を90℃とした以外は実施例1の操作をし、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0085】
実施例6
還元剤を亜ジチオン酸カリウムとした以外は実施例1の操作をし、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0086】
実施例7
還元剤を亜ジチオン酸カリウムとし、還元反応時間を1時間とした以外は実施例4の操作をし、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0087】
実施例8
酸化グラフェンに合成例2で作製したものを用いた以外は実施例1の操作をし、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0088】
実施例9
酸化グラフェンに合成例4で作製したものを用いた以外は実施例1の操作をし、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0089】
実施例10
酸化グラフェンに合成例3で作製したものを用いた以外は実施例1の操作をし、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0090】
比較例1
還元剤として亜ジチオン酸ナトリウムの代わりに重炭酸ナトリウムを用いた以外は実施例1の操作をした。生成した物質の導電率は酸化グラフェンの導電率とほぼ同じであり、酸化黒鉛は還元されていなかった。
【0091】
比較例2
実施例1の酸化グラフェン分散液100mlの中に、還元剤として3gの亜硫酸水素ナトリウムを入れ、メカニカルスターラーで、還元反応時間を2時間、還元反応温度を90℃で反応させ、濾過、水洗、乾燥した後グラフェン粉末を得た。
【0092】
実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、を行った。還元前の酸化グラフェンの導電率は6.7×10
-6S/mであり、還元後のグラフェン粉末の導電率は8.1×10
1S/mである。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0093】
比較例3
実施例1の酸化グラフェン分散液100mlの中に、還元剤として4gの尿素を入れ、メカニカルスターラーで、還元反応時間を3日間、還元反応温度を100℃で反応させ、濾過、水洗、乾燥した後グラフェン粉末を得た。
【0094】
実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、を行った。還元前の酸化グラフェンの導電率は6.7×10
-6S/mであり、還元後のグラフェン粉末の導電率は6.2×10
-2S/mである。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0095】
比較例4
実施例1の酸化グラフェン分散液100mlの中に、還元剤として2gのヒドラジン水和物を入れ、メカニカルスターラーで、還元反応時間を24時間、還元反応温度を100℃で反応させ、濾過、水洗、乾燥した後グラフェン粉末を得た。
【0096】
実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、を行った。還元前の酸化グラフェンの導電率は6.7×10
-6S/mであり、還元後のグラフェン粉末の導電率は3.1×10
2S/mである。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0097】
比較例5
合成例1で作製した酸化グラフェンを、アルゴン雰囲気中で1000℃まで加熱することにより還元し、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0098】
比較例6
グラファイトナノプレートレット(型番M-5,XGサイエンス社)を実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0099】
以上のように酸素原子の炭素原子に対する比が0.07以上0.13以下であり、窒素原子が炭素原子に対し0.01以下であるグラフェン粉末は、導電率が高く分散性が良好で降伏値が低いため、導電助剤として性能がよく、高い放電容量が得られた。
【0100】
またグラフェン構造欠陥については、ラマン測定によりI
D/I
Gが1以上2以下に収まっているグラフェン粉末のほうが良好な結果が得られている。
【0101】
このようなグラフェン粉末は、酸化グラフェンを特に亜ジチオン酸ナトリウムを用いて還元して作製したときに得られやすく、従来のヒドラジン還元や熱還元によっては得られにくいということも実施例・比較例からわかる。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】