特許第5874736号(P5874736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5874736グラフェン粉末、グラフェン粉末の製造方法およびグラフェン粉末を含むリチウム二次電池用電気化学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874736
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】グラフェン粉末、グラフェン粉末の製造方法およびグラフェン粉末を含むリチウム二次電池用電気化学素子
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20160218BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
   H01M4/62 Z
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-542363(P2013-542363)
(86)(22)【出願日】2011年12月9日
(65)【公表番号】特表2014-505002(P2014-505002A)
(43)【公表日】2014年2月27日
(86)【国際出願番号】CN2011083738
(87)【国際公開番号】WO2012075960
(87)【国際公開日】20120614
【審査請求日】2014年11月7日
(31)【優先権主張番号】201010583268.4
(32)【優先日】2010年12月10日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】孫 培育
(72)【発明者】
【氏名】呉 禎▲き▼
(72)【発明者】
【氏名】劉 剛橋
(72)【発明者】
【氏名】玉木 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】久保田 泰生
(72)【発明者】
【氏名】呉 剛
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/123771(WO,A2)
【文献】 特開2010−132901(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/061685(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/089326(WO,A1)
【文献】 Peichao LIAN, et al.,Large reversible capacity of high quality graphene sheets as an anode material for lithium-ion batteries,Electrochimica Acta,2010年 4月30日,Volume 55, Issue 12,,Pages 3909-3914,Available online 13 February 2010
【文献】 G. SRINIVAS, et al.,Synthesis of graphene-like nanosheets and their hydrogen adsorption capacity,Carbon,2010年 3月,Volume 48, Issue 3,Pages 630-635,Available online 9 October 2009
【文献】 Dengyu PAN, et al.,Li Storage Properties of Disordered Graphene Nanosheets,Chemistry of Materials,2009年 7月 6日,Volume 21, Issue 14,pp 3136-3142
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00 − 31/36
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素原子の炭素原子に対する元素組成比が0.07以上0.1以下であり、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比が0.01以下であり、ラマン分光法により測定したIDピーク強度のIGピーク強度に対する比が1以上2以下であることを特徴とするグラフェン粉末。
【請求項2】
ラマン分光法により測定したI2Dピーク強度のIGピーク強度に対する比が0.1以上0.2以下である請求項1記載のグラフェン粉末。
【請求項3】
赤外分光法により測定したカルボニル基に由来するピーク面積が、炭素−炭素二重結合に由来するピーク面積に対し、0.1以上0.5以下であることを特徴とする請求項1または2記載のグラフェン粉末。
【請求項4】
酸化グラフェンを還元してグラフェン粉末を製造する方法であって、還元剤として亜ジチオン酸塩を使用することを特徴とするグラフェン粉末の製造方法。
【請求項5】
亜ジチオン酸塩が亜ジチオン酸ナトリウムまたは亜ジチオン酸カリウムである請求項記載のグラフェン粉末の製造方法。
【請求項6】
酸化グラフェンの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比が0.5以下でありかつ、該酸化グラフェンのエックス線回折スペクトルにおいてグラファイト特有のピークが検出されないことを特徴とする、請求項4または5記載のグラフェン粉末の製造方法
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のグラフェン粉末を少なくとも一部に含むことを特徴とする電気化学素子。
【請求項8】
リチウムイオン電池である、請求項記載の電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分散性かつ高導電性のグラフェン粉末、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは炭素原子からなる二次元結晶で、2004年に発見されて以来、注目されている。グラフェンは優れた電気、熱、光学と機械特性を有し、電池材料、エネルギー貯蔵素材、電子素子、複合材料など領域に幅広い応用可能性がある。2010年にイギリスのマンチェスター大学の2人の教授はグラフェンに関する研究成果でノーベル物理学賞を獲得した。
【0003】
グラフェンの作製方法は、機械剥離法、化学気相沈殿法、結晶外延成長法と酸化還元法などがある。その中で、前三種の方法は、複雑なプロセスが必要で生産性が低く、大量生産が難しい。一方、酸化還元法は大量生産と化学修飾がし易い特徴があり、注目されている。
【0004】
現在提案されている酸化還元法では、熱還元法、ヒトラジン類やその他の有機物を還元剤とする手法などで酸化グラフェンを還元してグラフェンを作製する。
【0005】
熱還元法では、1050℃の高温で酸化グラフェンを熱還元してグラフェンを作製する(特許文献1)。ところが、該作製方法は高温反応が必要で、高コストな設備を必要とする。
【0006】
ヒトラジン水和物を還元剤として水の中に100℃で24時間の反応で酸化グラフェンを還元し、グラフェンを作製した例が知られている(非特許文献1)。しかし、ヒトラジン類還元剤は劇物で、工業的に実用化に適さず、また反応時間が長い。したがって、簡単且つ高効率、低毒性の還元方法を探すことが必要である。
【0007】
一方、尿素などアミノ基を含む有機物を還元剤として酸化グラフェンを還元し、グラフェンを作製した例が知られている(特許文献2)。この反応系は低毒性であるが、尿素は還元性の低い有機物で酸化グラフェンの還元反応は不十分である。
【0008】
また、得られるグラフェンの特性については、熱還元により得られるグラフェン(非特許文献2)は、結晶性が高いためグラフェンの層方向への積層が起こりやすく、凝集が起こりやすい。また、ヒドラジン還元により得られるグラフェンは窒素により構造が置換されており、導電性の低下の問題が生じる。
【0009】
上記とは異なり、酸化グラフェンを経ないでグラフェンを製造する手法も提案されている。たとえば黒鉛層間化合物を急速加熱することで層間を剥離しグラフェンを作製する手法がある(非特許文献3)。しかし、この手法により得られるグラフェンは酸化グラフェンを経由する手法では無く、含有する官能基が少なくなり、溶剤や樹脂に対し分散しないため、凝集しやすい。
【0010】
また、基板上にCVDによりグラフェンを作製する手法も知られているが、得られるグラフェンは粉末ではなく膜状であり、またこの手法によるグラフェンには酸素原子がほとんど含有されていないため、仮に粉末にできても凝集性が非常に高いと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第7658901号明細書
【特許文献2】中国特許第201010108326.8号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Ruoff, et al. Carbon, 2007, 45, 1558
【非特許文献2】Yang D., et al. Carbon, 2009, 47, 145
【非特許文献3】Kalaitzidou K., et al. Composites : Part A, 2009, 38, 1675
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の第1の目的は、高い分散性を持ち、かつ高導電性を持つグラフェン粉末を得ることにある。
【0014】
本発明の第2の目的は既存技術中の問題を解決するために温和な条件で、迅速・低コストでグラフェンを製造する方法を提供することにある。
【0015】
本発明の第3の目的は高性能な電気化学素子を得ることにあり、例えば高容量・高出力なリチウム二次電池を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のグラフェン粉末は、酸化物による官能基を微量に含有し、かつ窒素原子が極めて少ない構成を持つ。
【0017】
また、本発明におけるグラフェン粉末の製造方法は、亜ジチオン硫酸塩を還元剤として酸化グラフェン表面の酸性基を還元することで、高い分散性を持ち、かつ高導電性のグラフェンを得る。
【0018】
また、本発明で得られるグラフェン粉末は良好な分散性能および導電性能を持ち、高出力・高性能なリチウム二次電池を得るのに有用である。
【0019】
すなわち、本発明は
(1)酸素原子の炭素原子に対する元素組成比が0.07以上0.13以下であり、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比が0.01以下であることを特徴とするグラフェン粉末。
【0020】
(2)ラマン分光法により測定したIDピーク強度のIGピーク強度に対する比が1以上2以下である(1)のグラフェン粉末。
【0021】
(3)ラマン分光法により測定したI2Dピーク強度のIGピーク強度に対する比が0.1以上0.2以下である(1)のグラフェン粉末。
【0022】
(4)赤外分光法により測定したカルボニル基に由来するピーク面積が、炭素−炭素二重結合に由来するピーク面積に対し、0.1以上0.5以下であることを特徴とする(1)のグラフェン粉末。
【0023】
(5)酸化グラフェンを還元してグラフェン粉末を製造する方法であって、還元剤として亜ジチオン酸塩を使用することを特徴とするグラフェン粉末の製造方法。
【0024】
(6)亜ジチオン酸塩が亜ジチオン酸ナトリウムまたは亜ジチオン酸カリウムである(5)のグラフェン粉末の製造方法。
【0025】
(7)酸化グラフェンの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比が0.5以下でありかつ、該酸化グラフェンのエックス線回折スペクトルにおいてグラファイト特有のピークが検出されないことを特徴とする、(5)のグラフェン粉末の製造方法。
【0026】
(8)(1)に記載のグラフェン粉末を少なくとも一部に含むことを特徴とする電気化学素子。
【0027】
(9)リチウムイオン電池である、(8)の電気化学素子。
からなる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のグラフェン粉末は、高分散性かつ、高導電性を実現でき、例えばリチウムイオン電池用の導電助剤として優れた効果を発揮することができる。本発明のグラフェン粉末製造方法は、穏和な条件で・迅速かつ低コストにグラフェン粉末を製造することが可能である。本発明で得られるグラフェン粉末は良好な分散性能および導電性能を持ち、高出力・高性能なリチウム二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明におけるグラフェン粉末とは単層グラフェンが積層した構造体であり、薄片上の形態を持つものである。厚みは好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下、特に好ましくは20nm以下である。グラフェン粉末の厚みは、グラフェン粉末をSEM又はTEMで観察した際にランダムに100個選択して計測した厚みの平均により求めることができる。また、本発明におけるグラフェン粉末とは、エックス線回折測定で酸化グラフェンに特有のピークである12.5〜13.0°にピークを持たないものである。
【0030】
本発明におけるグラフェン粉末は酸素原子の炭素原子に対する元素組成比が0.07以上0.13以下であり、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比が0.01以下である。
【0031】
本発明における元素組成比はエックス線光電子分光法によって測定することができる。超高真空中においた試料表面に軟エックス線を照射し、表面から放出される光電子をアナライザーで検出する。ワイドスキャンで測定し、物質中の束縛電子の結合エネルギー値から物質の元素情報が得られる。さらに、ピーク面積比を用いて元素比を定量することができる。
【0032】
グラフェン粉末は酸性基の含有量が多いほうが、分散性が良好になる。が、酸性基の含有量が多すぎると導電性が悪くなる。よって、酸素原子含有量がある範囲でないと添加剤などに使用した際に良好な性質が得られない。ここで、酸素原子の炭素原子に対する元素組成比が0.07未満であると凝集しやすく、0.13を超えると低導電性になる。そのためグラフェン粉末の酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.07以上0.13以下である必要がある。0.07以上0.11以下であることが好ましく、0.08以上0.10以下であることがさらに好ましい。
【0033】
また、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比が0.01を超えると、窒素原子がグラフェン共役構造を置換し、低導電性になると考えられる。そのため窒素原子の含有量は低い必要がある。窒素原子の炭素原子に対する元素組成比は、0.01以下である必要がある。0.005以下であることが好ましく、0.002以下であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明におけるグラフェン粉末の構造欠陥は、少なすぎると層方向の積層が起こりやすくなり凝集しやすい。また、多すぎると低導電性になる。よって、グラフェン粉末の構造欠陥は好ましい範囲を有する。グラフェン粉末の構造欠陥はラマン分光法により測定することができる。
【0035】
本発明におけるラマン測定のピーク強度比はすべて、励起レーザーにアルゴンイオンレーザーを用い、励起波長514.5nmで測定したときのものである。ラマン分光法においてグラフェン粉末は、1580cm-1付近と1335cm-1付近にピークをもち、1580cm-1付近のピーク強度をIG、1335cm-1付近のピークを強度をIDとする。
【0036】
完全なグラファイト結晶では本来IDのピークは現れないが、グラファイト構造の対称性が失われるにつれ、IDピークが強度を増す。そのため、グラフェン粉末の構造欠陥が大きくなるにつれIG/IDのピーク強度比は低くなる。高導電性で良好な分散を持つためにはグラフェン粉末の構造欠陥が好ましい範囲に収まっていることが望ましく、ID/IGのピーク強度比は1以上2以下であることが好ましい。1.3以上1.8以下であることがさらに好ましく、1.45以上1.7以下であることが最も好ましい。
【0037】
また、ラマン分光法においてグラフェン粉末は、2678cm-1付近にもピークを持つ。これをI2Dピークと呼ぶ。このピーク強度もグラフェン粉末の構造欠陥を反映しており、I2Dピーク強度が強いほどグラフェン粉末の構造欠陥が少ない。グラフェン粉末の構造欠陥が好ましい範囲に収まっていることが望ましく、IG/I2Dのピーク強度比は0.1以上1以下であることが好ましい。0.1以上0.3以下であることがさらに好ましく、0.12以上0.2以下であることが最も好ましい。
【0038】
本発明におけるグラフェン粉末にはカルボニル基が適度に含有されていることが好ましい。赤外分光法により測定したカルボニル基に由来するピークである、1750cm-1付近のピーク面積が、炭素−炭素二重結合に由来するピークである、1560cm-1付近のピーク面積に対し、0.1以上0.5以下であることが好ましい。0.1以下であるとカルボニル基が少なく、分散性能が悪くなる場合がある。0.5以上であると、カルボニル基にが多くグラフェン構造の欠陥が多くなり、導電性が悪くなる場合がある。
【0039】
本発明では層数に制限は無く、黒鉛(グラファイト)を酸化したものを総じて酸化グラファイトという。ここで後述のとおり、酸化グラファイトを還元してグラフェン粉末とするので、酸化グラファイトは酸化グラフェンという場合もある。黒鉛は酸化されると、グラファイト層間距離が黒鉛より長くなり、エックス線回折測定で9°〜13.0°にピークをもつ。
【0040】
グラフェン粉末を作製する原料の酸化グラフェンは公知の方法で作製することができる。また市販の酸化グラフェンを購入してもよい。本発明に用いた酸化グラフェン作製方法を以下に例示する。酸化グラフェンの原料となる黒鉛は、人造黒鉛・天然黒鉛のどちらでも良いが、天然黒鉛が好ましく用いられる。原料黒鉛のメッシュ数は20000以下が好ましく、5000以下がさらに好ましい。
【0041】
酸化グラフェンの作製法は改良ハマーズ法が好ましい。その例を下記する。黒鉛(例えば天然黒鉛の粉など)を原料にして、濃硫酸、硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムを入れて、25〜50℃下、0.2〜5時間の攪拌反応する。その後脱イオン水を加えて希釈し、懸濁液を得て、これを引き続き80〜100℃で5〜50分間反応する。最後に過酸化水素と脱イオン水を加え1〜30分間反応して、酸化黒鉛分散液(すなわち酸化グラファイト分散液であり、酸化グラフェン分散液である。)を得る。酸化黒鉛分散液を濾過、洗浄し、酸化黒鉛ゲル(すなわち酸化グラファイトゲルであり、酸化グラフェンゲルである。)を得る。
【0042】
各反応物の比の例としては、黒鉛、濃硫酸、硝酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムと過酸化水素の比が10g:150〜300ml:2〜8g:10〜40g:40〜80gである。濃硫酸、硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムを加える時は氷浴を利用して温度を制御する。過酸化水素と脱イオン水を加える時、脱イオン水の質量は過酸化水素質量の10〜20倍である。本発明の濃硫酸は質量含有量が70%以上である。97%以上の濃硫酸を利用することが好ましい。
【0043】
酸化グラフェンは高い分散性を持つがそれ自体は絶縁性で導電助剤等に用いることはできない。酸化グラフェンの酸化度が高すぎると、還元して得られるグラフェン粉末の導電性が悪くなる場合がある。そのため酸化グラフェンの酸素原子に対する炭素原子の割合は0.5以下であることが好ましい。また、内部までグラファイトが酸化されていないと還元したときに薄片状のグラフェン粉末が得られにくい。そこで、酸化グラフェンはエックス線回折測定をしたときにグラファイト特有のピークが検出されないことが望ましい。
【0044】
酸化グラフェンの酸化度は、黒鉛の酸化反応に用いる酸化剤の量を変化させることで調整することができる。具体的には、酸化反応の際に用いる、黒鉛に対する硝酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムの量が多いほど高い酸化度になり、少ないほど低い酸化度になる。黒鉛に対する硝酸ナトリウムの重量比は特に限定されるものではないが、0.2以上0.8以下であることが好ましく、0.25以上0.5以下であることがさらに好ましく、0.275以上0.425以下であることが特に好ましい。黒鉛に対する過マンガン酸カリウムの比は特に限定されるものではないが、1以上4以下であることが好ましく、1.4以上であることがさらに好ましく、1.65以上であることが特に好ましい。また、3以下であることがさらに好ましく、2.55以下であることが特に好ましい。
【0045】
本発明のグラフェン粉末は、還元剤として、例えば、亜ジチオン酸塩を酸化グラフェン分散液に入れて反応することで、作製することができる。亜ジチオン酸塩としては特に限定されないが、亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸カリウム中の1種又は両方を用いることが望ましく、特に亜ジチオン酸ナトリウムが好ましい。
【0046】
本発明の酸化グラフェンの分散液は直接市販の酸化グラフェン分散液を利用することができる。又は上述調製方法で作った酸化黒鉛ゲル(酸化グラフェンゲル)を分散溶剤で希釈して、超音波処理をした後、酸化グラフェン分散液を得る。
【0047】
本発明中、酸化グラフェン分散液の調製に使用する分散溶剤は水、あるいは水と有機溶剤の混合溶剤が好ましく、水が特に好ましい。有機溶剤としてはN、N -ジメチルホルムアミド、N、N -ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、或はN -メチルピロリドンなどが例示される。このうちの1種あるいは複数を用いてよい。上述酸化グラフェン分散液の濃度は0.1〜100mg/mlが好ましい。より好ましいのは1〜100 mg/mlで,更に好ましいのは1〜50mg/mlである。
【0048】
本手法における反応温度および反応時間は特に限定されるものではないが、効率とコストを考慮すると、反応温度は20〜50℃であることがより好ましい。また、反応時間については十分に反応が進むために、5分以上であることが好ましく、コストの観点からは2時間以内であることが好ましく、更に好ましくは30分以内である。
【0049】
反応時の亜ジチオン酸塩と酸化グラフェンの質量比は限定されるものではないが、効率とコストを考慮すると、亜ジチオン酸塩と酸化グラフェンの質量比は0.1〜10:1であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5:1で、更に好ましくは1〜3:1である。
【0050】
本発明のグラフェン粉末は、酸素含有官能基を微量に含有し、かつ窒素原子が極めて少ない構成を持ち、高導電性で良好な分散性能を持つ。本発明のグラフェン粉末は電池材料、エネルギー貯蔵素材、電子部品、導電性コンポジット、熱伝導性コンポジットなどの領域に広く応用できる。
【0051】
本発明のグラフェン製造方法は、亜ジチオン酸塩を還元剤として、温和な条件で酸化グラフェンを迅速に還元する。この方法は従来の高温熱還元とヒドラジンなど還元剤を使用した際、高コストな設備、高温・長反応時間、毒性などの課題を解決することができる。
【0052】
本発明におけるグラフェン粉末は特に電気化学素子に好適に用いられる。電気化学素子としては例えばリチウムイオン電池、特に導電助剤として好適に用いられる。
【0053】
リチウムイオン電池用電極は、導電助剤、正極活物質又は負極活物質、バインダーポリマーからなる。
【0054】
導電助剤は本発明のグラフェン粉末のみでもよいし他に添加しても良い。他に添加する導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック類、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、炭素繊維及び金属繊維等の導電性繊維類、銅、ニッケル、アルミニウム及び銀等の金属粉末類などが挙げられる。
【0055】
正極活物質としては、特に限定はされないが、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)などのリチウム金属酸化物系、V等の金属酸化物やTiS、MoS、NbSeなどの金属化合物系、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウムなどのオリビン系などが上げられる。
【0056】
負極活物質としては、特に限定されないが、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボンなどの炭素系材料、SiOやSiC、SiOC等を基本構成元素とするケイ素化合物、リチウムイオンとコンバージョン反応しうる酸化マンガン(MnO)や酸化コバルト(CoO)などの金属酸化物などがあげられる。
【0057】
パインダーポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴムなどのゴムから選択することができる。
【0058】
これらの上記活物質、バインダーポリマー、導電助剤を適量の溶剤と混合し、集電体に塗布・乾燥することでリチウムイオン電池用電極を作成することができる。本発明のグラフェン粉末は、優れた分散性を持ち電極内に良好に分散することで電極内の電子伝導性を向上させることが可能である。
【実施例】
【0059】
(測定例1)
エックス線回折スペクトルはRigaku社のD/max-2200/PC型のエックス線回折計(XRD)を使用して、測定する。
【0060】
(測定例2)
各サンプルのXPSスペクトルはQuantera SXM (PHI 社製)を使用して、測定する。励起X 線は、monochromatic Al Kα1,2線(1486.6 eV)であり、X 線径は200μm、光電子脱出角度は45°である。
【0061】
(測定例3)
ラマン測定はRamanor T-64000(Jobin Yvon/愛宕物産)を用いて測定した。ビーム径は100μm、光源はアルゴンイオンレーザー(波長:514.5nm)を用いた。
【0062】
(測定例4)
赤外吸収測定はFTS−60A/896(Bio-Rad Diglab 製 FT-IR)を用いてATR法により測定した。ATR法では、屈折率の高い結晶を試料表面に圧着し、全反射条件で測定した。測定は窒素ガスパージをして行い、プリズムにはGeプリズムを用いた。入射角は45°測定領域は4000〜680cm-1で測定した。グラフェンの屈折率は2と仮定している。
【0063】
(測定例5)
サンプルの導電率は直径約20mmのディスク状試験片に成型し、三菱化学株式会社のMCP-HT450高抵抗率計とMCP-T610低抵抗率計を使用して、測定する。
【0064】
(測定例6)
粘度降伏値の測定法は以下のとおりである。ペーストの降伏値は、粘度計(レオテック社、型番RC20)を用いて測定した。プローブにはコーンプレート(C25-2)を用い、温度25℃の条件でせん断速度0〜500毎秒で30段階について、段階的にせん断速度を上げて各粘度を測定した。せん断速度とせん断応力についてカッソンプロットして、切片から降伏値を計算した。
【0065】
(測定例7)
放電容量は以下のように測定した。下記実施例で作製したグラフェン粉末を2重量部、電極活物質としてリン酸鉄リチウムを80重量部、導電助剤としてアセチレンブラックを8重量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン10重量部、を加えたものをプラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にドクターブレード(300μm)を用いて塗布し、200℃15分間乾燥して電極板を得た。
【0066】
作製した電極板を直径15.9mmに切り出して正極とし、直径16.1mm厚さ0.2mmに切り出したリチウム箔を負極とし、直径17mmに切り出したセルガード#2400(セルガード社製)セパレータとして、LiPF6を1M含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=7:3の溶媒を電解液として、2042型コイン電池を作製し、電気化学評価を行った。レート1C、上限電圧4.0V、下限電圧2.5Vで充放電測定を3回行い、3回目の放電時の容量を放電容量とした。
【0067】
(合成例1)
酸化グラフェンの作製方法:1500メッシュの天然黒鉛粉末(上海一帆石墨有限会社)を原料として、氷浴中の10gの天然黒鉛粉末に、220mlの98%濃硫酸、5gの硝酸ナトリウム、30gの過マンガン酸カリウムを入れ、1時間機械攪拌し、混合液の温度は20℃以下で保持した。上述混合液を氷浴から取り出し、35℃水浴中で4時間攪拌反応し、その後イオン交換水500mlを入れて得られた懸濁液を90℃で更に15分反応を行った。最後に600mlのイオン交換水と50mlの過酸化水素を入れ、5分間の反応を行い、酸化グラフェン分散液を得た。熱いうちにこれを濾過し、希塩酸溶液で金属イオンを洗浄し、イオン交換水で酸を洗浄し、pHが7になるまで洗浄を繰り返し、酸化グラフェンゲルを作製した。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.53であった。
【0068】
(合成例2)
硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムの量の黒鉛に対する比を合成例1の55%とした以外は、合成例1と同様に、酸化グラフェンゲルを作製した。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.44であった。
【0069】
(合成例3)
硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムの量の黒鉛に対する比を合成例1の70%とした以外は、合成例1と同様に、酸化グラフェンゲルを作製した。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.45であった。
【0070】
(合成例4)
硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムの量の黒鉛に対する比を合成例1の85%とした以外は、合成例1と同様に、酸化グラフェンゲルを作製した。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.47であった。
【0071】
実施例1
(1)酸化グラフェン分散液の作製方法:合成例1で作製した酸化グラフェンゲルを脱イオン水で、濃度10mg/mlに希釈し、超音波処理をした後、均一分散な黄土色の酸化グラフェン分散液を得た。
【0072】
(2)グラフェン粉末の作製方法: 100mlの酸化グラフェンの分散液の中に、還元剤として3gの亜ジチオン酸ナトリウムを入れ、メカニカルスターラーで、還元反応時間を5分間、還元反応温度を室温23℃で反応させ、濾過、水洗、乾燥した後グラフェン粉末を得た。
【0073】
(3)グラフェンの物性および性能
作製したグラフェン粉末の酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.10であり、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比は検出されず0.001以下であった。また、作製したグラフェン粉末を(測定例2)に従いラマン分光測定したところID/IGの値は1.50であり、I2D/IGの値は0.14であった。作製したグラフェン粉末を(測定例3)に従い赤外分光測定したところ、C=C結合由来ピークに対するC=O結合由来ピークの面積比は0.18であった。還元前の酸化グラフェンの導電率は6.7×10-6S/mであり、還元後のグラフェン粉末の導電率は4.4×102S/mである。結果は表1にまとめる。
【0074】
グラフェン粉末を含有するリチウムイオン電池用電極ペーストを測定例5に従い作製し降伏値を測定したところ、4.5Paであった。該ペーストを用いて電極板を測定例6に従い作製し、放電容量を測定したところ、154mAh/gであった。結果は表2にまとめる。
【0075】
実施例2
(1)酸化グラフェン分散液の作製方法:合成例1で作製した酸化グラフェンゲルを体積比1:1の脱イオン水/N,N−ジメチルホルマアミドで、10mg/ml濃度に希釈し、超音波処理をして、均一分散な黄土色の酸化グラフェン分散液を得た。
【0076】
(2)グラフェン粉末の作製方法:100mlの酸化グラフェン分散液の中に、還元剤として1gの亜ジチオン酸カリウムを入れ、メカニカルスターラーで、還元反応時間を1分間、還元反応温度を30℃で反応させ、濾過、水洗、乾燥した後グラフェン粉末を得た。
【0077】
(3)グラフェンの物性および性能:作製したグラフェン粉末をXPS測定により測定した結果、酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.11であった。窒素原子の炭素原子に対する元素組成比は検出されず0.001以下であった。作製したグラフェン粉末をラマン分光測定したところID/IGの値は1.32であり、I2D/IGの値は0.13であった。作製したグラフェン粉末を赤外吸収測定したところ、C=C結合由来ピークに対するC=O結合由来ピークの面積比は0.42であった。還元前の酸化グラフェンの導電率は6.7×10-6S/mであり、還元後のグラフェン粉末の導電率は1.7×102S/mである。結果は表1にまとめる。
【0078】
グラフェン粉末を含有するリチウムイオン電池用電極ペーストを測定例5に従い作製し降伏値を測定したところ、8.4Paであった。該ペーストを用いて電極板を測定例6に従い作製し、放電容量を測定したところ、145mAh/gであった。結果は表2にまとめる。
【0079】
実施例3
実施例1の酸化グラフェン分散液100mlの中に、還元剤として2gの亜ジチオン酸ナトリウムを入れ、メカニカルスターラーで、還元反応時間を1時間、還元反応温度を50℃で反応させ、濾過、水洗、乾燥した後グラフェン粉末を得た。
【0080】
作製したグラフェン粉末をXPS測定により測定した結果、酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.10であった。窒素原子の炭素原子に対する元素組成比は検出されず0.001以下であった。作製したグラフェン粉末をラマン分光測定したところID/IGの値は1.67であり、I2D/IGの値は0.17であった。作製したグラフェン粉末を赤外吸収測定したところ、C=C結合由来ピークに対するC=O結合由来ピークの面積比は0.23であった。
【0081】
還元前の酸化グラフェンの導電率は6.7×10-6S/mであり、還元後のグラフェン粉末の導電率は6.2×102S/mである。結果は表1にまとめる。
【0082】
グラフェン粉末を含有するリチウムイオン電池用電極ペーストを測定例5に従い作製し降伏応力を測定したところ、10.3Paであった。該ペーストを用いて電極板を測定例6に従い作製し、放電容量を測定したところ、139mAh/gであった 。結果は表2にまとめる。
【0083】
実施例4
還元反応時間を1時間とした以外は実施例1の操作をし、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0084】
実施例5
還元反応温度を90℃とした以外は実施例1の操作をし、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0085】
実施例6
還元剤を亜ジチオン酸カリウムとした以外は実施例1の操作をし、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0086】
実施例7
還元剤を亜ジチオン酸カリウムとし、還元反応時間を1時間とした以外は実施例4の操作をし、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0087】
実施例8
酸化グラフェンに合成例2で作製したものを用いた以外は実施例1の操作をし、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0088】
実施例9
酸化グラフェンに合成例4で作製したものを用いた以外は実施例1の操作をし、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0089】
実施例10
酸化グラフェンに合成例3で作製したものを用いた以外は実施例1の操作をし、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0090】
比較例1
還元剤として亜ジチオン酸ナトリウムの代わりに重炭酸ナトリウムを用いた以外は実施例1の操作をした。生成した物質の導電率は酸化グラフェンの導電率とほぼ同じであり、酸化黒鉛は還元されていなかった。
【0091】
比較例2
実施例1の酸化グラフェン分散液100mlの中に、還元剤として3gの亜硫酸水素ナトリウムを入れ、メカニカルスターラーで、還元反応時間を2時間、還元反応温度を90℃で反応させ、濾過、水洗、乾燥した後グラフェン粉末を得た。
【0092】
実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、を行った。還元前の酸化グラフェンの導電率は6.7×10-6S/mであり、還元後のグラフェン粉末の導電率は8.1×101S/mである。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0093】
比較例3
実施例1の酸化グラフェン分散液100mlの中に、還元剤として4gの尿素を入れ、メカニカルスターラーで、還元反応時間を3日間、還元反応温度を100℃で反応させ、濾過、水洗、乾燥した後グラフェン粉末を得た。
【0094】
実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、を行った。還元前の酸化グラフェンの導電率は6.7×10-6S/mであり、還元後のグラフェン粉末の導電率は6.2×10-2S/mである。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0095】
比較例4
実施例1の酸化グラフェン分散液100mlの中に、還元剤として2gのヒドラジン水和物を入れ、メカニカルスターラーで、還元反応時間を24時間、還元反応温度を100℃で反応させ、濾過、水洗、乾燥した後グラフェン粉末を得た。
【0096】
実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、を行った。還元前の酸化グラフェンの導電率は6.7×10-6S/mであり、還元後のグラフェン粉末の導電率は3.1×102S/mである。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0097】
比較例5
合成例1で作製した酸化グラフェンを、アルゴン雰囲気中で1000℃まで加熱することにより還元し、グラフェン粉末を得た。実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0098】
比較例6
グラファイトナノプレートレット(型番M-5,XGサイエンス社)を実施例1と同様に酸素原子の炭素原子に対する元素組成比、窒素原子の炭素原子に対する元素組成比、ラマン分光測定、赤外吸収測定、還元前と還元後の導電率測定を行った。結果は表1に示す。実施例1と同様に降伏応力測定、放電容量測定を行った。結果は表2に示す。
【0099】
以上のように酸素原子の炭素原子に対する比が0.07以上0.13以下であり、窒素原子が炭素原子に対し0.01以下であるグラフェン粉末は、導電率が高く分散性が良好で降伏値が低いため、導電助剤として性能がよく、高い放電容量が得られた。
【0100】
またグラフェン構造欠陥については、ラマン測定によりID/IGが1以上2以下に収まっているグラフェン粉末のほうが良好な結果が得られている。
【0101】
このようなグラフェン粉末は、酸化グラフェンを特に亜ジチオン酸ナトリウムを用いて還元して作製したときに得られやすく、従来のヒドラジン還元や熱還元によっては得られにくいということも実施例・比較例からわかる。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】