(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874749
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】建設機械のボンネット
(51)【国際特許分類】
E02F 9/00 20060101AFI20160218BHJP
B62D 25/10 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
E02F9/00 N
B62D25/10 J
B62D25/10 L
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-7053(P2014-7053)
(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2015-135019(P2015-135019A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2015年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】塚本 大徳
(72)【発明者】
【氏名】小坂 恭平
【審査官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−111255(JP,A)
【文献】
特開2000−159150(JP,A)
【文献】
特開2006−312863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/00
B62D 25/10
B62D 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部旋回体に固定される固定フードと、この固定フードに隣接して上部旋回体に開閉自在に取付けられる開閉フードとから成り、上記固定、開閉両フードは、
(i) 上面部と、この上面部の外縁から下向きに延びる周面部とを備え、かつ、相隣接する周面部に、上記開閉フードの閉じ姿勢で相連通する開口部を有する扁平箱状に形成され、
(ii) 互いの開口縁部同士が、開閉フード側を外側にして内外に重なる状態で接合される
ボンネットにおいて、上記開口縁部同士が接合される部分である接合部を横から見たときに上下方向の線として現れる、上記開閉フードの開口部の両サイドの線である接合ラインを、下方に向かって漸次上記固定フードから遠ざかる方向の傾斜ラインとして形成したことを特徴とする建設機械のボンネット。
【請求項2】
上記上部旋回体の後部にエンジンルームが設けられる一方、このエンジンルームの左側または右側の前方に機器類が設置され、上記開閉フードが後側を支点として上記エンジンルームを開閉し、上記固定フードが上記機器類を覆う状態で相隣接して設けられる建設機械のボンネットにおいて、上記固定フードの後面、及び上記開閉フードの前面にそれぞれ開口部を設け、上記接合部を上部旋回体の左右の側面側から見たときに現れる上記接合ラインを上記傾斜ラインとして形成したことを特徴とする請求項1記載の建設機械のボンネット。
【請求項3】
上記接合ラインのうち、上記開閉フードの上面部から周面部に移行する球面部分よりも下側の部分を傾斜ラインとして形成したことを特徴とする請求項1または2記載の建設機械のボンネット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はショベル等の建設機械においてエンジンルーム等を覆うボンネットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
ショベルは、クローラ式の下部走行体上に作業アタッチメントを備えた上部旋回体を旋回自在に搭載して構成される。
【0004】
図8は上部旋回体を示す。
【0005】
図示のように上部旋回体のベースとなるアッパーフレーム1上にキャビン2を含む各種設備、機器が搭載されるとともに、同フレーム1の前部に作業アタッチメント(図示省略)、後端部にカウンタウェイト3がそれぞれ装着される。
【0006】
なお、この明細書においては、キャビン2の位置を左側前部とし、これを基準に上部旋回体全体及び各部についての「前後」「左右」の方向性をいうものとする。
【0007】
また、図及び説明の簡略化のために本発明と直接関係のないアッパーフレーム各部の細かな図示、説明を省略する。
【0008】
図9に示すように、アッパーフレーム1の後部には、メンテナンスのために上方空間を開く必要がある機器(エンジンとその関連機器)が収容されるエンジンルーム4と、上方空間を閉じておくのが望ましい機器(マフラー等の排気系の機器)が収容される機器室5が左右に隣接して設けられ、機器室5を覆う状態でアッパーフレーム1上に固定された固定フード6と、後端下部を支点としてエンジンルーム4を開閉する状態でアッパーフレーム1上に取付けられた開閉フード7とによってボンネットが構成される(特許文献1参照)。
【0009】
固定、開閉両フード6,7は、それぞれ上面部6a,7aと、この上面部6a,7aの外縁から下向きに延びる周面部6b,7bを備え、かつ、相隣接する周面部が開口した扁平箱状に形成され、開閉フード7の閉じ姿勢で互いの開口部6c,7cが相連通し、かつ、互いの開口縁部同士が開閉フード側を外側にして内外に重なる状態で接合される。
【0010】
この接合状態で、開閉フード7の開口部7cを縁取る逆U字形のラインのうち、前後両サイドのライン(接合ライン)8が上下方向の線として現れる(
図9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−159150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
開閉フード7の開口部7cが設けられた部分、つまり開口縁部は、所謂切りっ放しの状態であって、他の部分と比較して剛性、強度が低くなるため、元々、とくに両サイドの下端部が
図11中に二点鎖線で示すように外開き方向に変形し易いという問題を抱えている。
【0013】
ここで、従来のボンネットにおいては、前記のように開閉フード7の接合ライン8がボンネット支持面A(
図9参照)に対して垂直な直線となっているため、下端に近づくほど変形の基点Pとの距離、すなわち変形の腕の長さm1が長くなり、その分、下端部の開き変形が大きくなる。
【0014】
なお、「変形の基点」とは、変形しない点(固定点)であって変形部分に最も近い点をいい、図示の開閉フード7の場合、
図9に示すように開口部7cと反対側の端部(左側端部)となる。
【0015】
このため、固定フード6との接合部分に隙間が生じてエンジンルーム内の空気の流れが悪化し、また外観に表れる部分であることから見栄えが悪くなるという欠点があった。
【0016】
なお、対策として、開閉フード7の開口縁部の内側または外側に別体の補強部材を溶接して補強・補剛を図ることが考えられる。
【0017】
しかし、こうすると補強部材とその溶接工程が加わるためコストアップとなるとともに、重量が増加してボンネットの組立性や開閉ボンネットの場合の操作性が悪化し、かつ、溶接よる母材の品質低下をも招くことになる。
【0018】
一方、両フード6,7の接合部、正確には開閉フード7の端縁部には、
図10に示すように雨水等の浸入を防止するウェザーストリップ9が設けられる。
【0019】
このウェザーストリップ9は、厚み方向の荷重に最も強く、長さ方向の荷重に最も弱い特性を有している。
【0020】
ここで、接合ライン8が垂直線となる従来のボンネット構造によると、ウェザーストリップ9のうちの接合ライン8に沿った部分に、ボンネット自重によって最弱方向(長さ方向)にかかる応力が大きくなり、これがウェザーストリップ9の寿命を縮める一因となっていた。
【0021】
そこで本発明は、補強部材を用いずに接合ラインの変形を抑制し、併せてウェザーストリップにかかる応力を低減することができる建設機械のボンネットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、上部旋回体に固定される固定フードと、この固定フードに隣接して上部旋回体に開閉自在に取付けられる開閉フードとから成り、上記固定、開閉両フードは、
(i) 上面部と、この上面部の外縁から下向きに延びる周面部とを備え、かつ、相隣接する周面部に、上記開閉フードの閉じ姿勢で相連通する開口部を有する扁平箱状に形成され、
(ii) 互いの開口縁部同士が、開閉フード側を外側にして内外に重なる状態で接合される
ボンネットにおいて、上記
開口縁部同士が接合される部分である接合部を横から見たときに上下方向の線として現れる、上記開閉フードの開口部の両サイドの線である接合ラインを、下方に向かって漸次上記固定フードから遠ざかる方向の傾斜ラインとして形成したものである。
【0023】
ここで、請求項2の発明は、上記上部旋回体の後部にエンジンルームが設けられる一方、このエンジンルームの左側または右側の前方に機器類が設置され、上記開閉フードが後側を支点
として上記エンジンルームを開閉し、上記固定フードが上記機器類を覆う状態で相隣接して設けられる建設機械のボンネットにおいて、上記固定フードの後面、及び上記開閉フードの前面にそれぞれ開口部を設け、上記接合部を上部旋回体の左右の側面側から見たときに現れる上記接合ラインを上記傾斜ラインとして形成したものである。
【0024】
このように、固定、開閉両フードの接合部を横から見たときに上下方向の線として現れる接合ラインを、下方に向かって漸次固定フードから遠ざかる方向の傾斜ラインとして形成したから、開閉フードの変形の基点(開口部と反対側の端部)から傾斜ラインまでの距離、すなわち変形の腕の長さが、接合ラインを全長部分で垂直な直線状とした場合の変形の腕の長さよりも短くなり、傾斜ラインの下端で最短となる。
【0025】
このため、切りっ放し構造でありながら、両サイドの開口縁部の開き変形を抑制し、固定フードとの接合部分に大きな隙間が生じることを防止することができる。
【0026】
また、接合ラインを傾斜ラインとすることにより、ウェザーストリップのうち接合ラインに沿う部分にかかる長さ方向の荷重を小さくできるため、ウェザーストリップに作用する応力を低減することができる。
【0027】
さらに、開閉フードを後端上部を支点として開閉するボンネット構成をとる場合に、開閉支点と反対側の端部となる接合ラインを傾斜させたことにより、開閉フードの閉じ状態で固定フードとの接合部分に無駄な隙間が生じない。
【0028】
本発明において、上記接合ラインのうち、上記開閉フードの上面部から周面部に移行する球面部分よりも下側の部分を傾斜ラインとして形成するのが望ましい(請求項3)。
【0029】
開閉フードの上面部から周面部に移行する部分は、曲面の組み合わせによって球面状となるため、固定フードとの間に隙間が生じ易い。
【0030】
この点、請求項3のように球面部分を避けて傾斜ラインを設定することにより、上記隙間の発生を抑えることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、補強部材を用いずに接合ラインの変形を抑制し、併せてウェザーストリップにかかる応力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態に係るボンネットを備えたショベルの上部旋回体の斜視図である。
【
図4】実施形態に係るボンネットの閉じ状態の斜視図である。
【
図8】従来技術を説明するためのショベルの上部旋回体の斜視図である。
【
図11】従来技術の課題を説明するための開閉フードの部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態を
図1〜
図7によって説明する。
【0034】
実施形態はショベルのボンネットを適用対象としている。
【0035】
図1に示すように、上部旋回体のベースとなるアッパーフレーム11上にキャビン12を含む各種設備、機器が搭載されるとともに、同フレーム11の前部に作業アタッチメント(図示省略)、後端部にカウンタウェイト13がそれぞれ装着される。
【0036】
アッパーフレーム11の後部には、
図2に示すようにメンテナンスのために上方空間を開く必要がある機器(エンジン14とその関連機器)が収容されるエンジンルーム15が設けられ、このエンジンルーム15が、後端下部を支点として開閉する開閉フード16によって覆われる。
図2中、16aは開閉支点(ヒンジ)である。
【0037】
一方、エンジンルーム15の左前方(エンジンルーム15とキャビン12の間)にエンジン吸気を濾過するエアクリーナ17(
図2参照)が設置され、このエアクリーナ17が、他の機器類(たとえば燃料タンク)18の上面に固定された固定フード19によって覆われる。
【0038】
すなわち、実施形態ではエンジンルーム15用の開閉フード16の左前方に、エアクリーナ用の固定フード19が接合されてボンネットが構成される。
【0039】
なお、固定フード16は、開閉部分が一切無い全体固定式のものでもよいし、固定されたベース部分に開閉部分が設けられたものでもよい。
【0040】
図2中、17aはエアクリーナ17の吸気筒、
図1,2,4〜6中、19aは吸気筒17aが接続される吸気筒接続部である。
【0041】
図4〜
図6に示すように、開閉フード16は、上面部20と、この上面部20の外縁から下向きに延びる前後左右の周面部21から成る扁平箱状に形成され、前側の周面部21の左側部分に、固定フード19と接合するための開口部22が設けられている。
【0042】
固定フード19は、エアクリーナ17を覆うフード本体23と、このフード本体23の後方に延設された接続部24から成っている。
【0043】
接続部24は、上面部25と左右の側面部26を備え、かつ、後面に開口部27を有する扁平箱状に形成され、開閉フード16の閉じ姿勢で、互いの開口部22,27が相連通し、かつ、互いの開口縁部同士が開閉フード側を外側にして内外に重なる状態で接合される。
【0044】
この接合状態で、開閉フード16の接合ライン28(
図2,3参照)が上下方向の線として現れる。
【0045】
このボンネットにおいては、
図2,3に示すように、接合ライン28が、下方に向かって漸次固定フード19(接続部24)から遠ざかる方向の傾斜ラインとして形成されている。いいかえれば、開口部22が斜めカットされて接合ライン28が形成されている。
【0046】
ここで、開閉フード16の上面部20から周面部21に移行する部分は、曲面の組み合わせによって球面状となるため、接合ライン28を、球面部分を含む上下全長部分で傾斜させると、球面部分で接続部24との接合部分に隙間が生じ易くなる。
【0047】
そこで実施形態では、
図3に示すように、接合ライン28のうち、球面部分に対応するライン上部28aは垂直な直線状とし、それよりも下方のライン下部28bについて傾斜した直線状としている。以下、ライン上部28aを「垂直ライン」、傾斜したライン下部28bを「傾斜ライン」という場合がある。
【0048】
このボンネット構成によれば、
図2,3に示すように、開閉フード16の変形の基点(開口部22と反対側の端部)Pから傾斜ライン28bまでの距離、すなわち変形の腕の長さm2が、接合ライン28を全長部分で垂直な直線状とした場合(
図3,4中に二点鎖線で示す)の変形の腕の長さm1よりも短くなり、傾斜ライン28bの下端で最短となる。
【0049】
このため、切りっ放し構造でありながら、両サイドの開口縁部、とくに下端部の開き変形量を小さく抑え、固定フード19(接続部24)との接合部分に大きな隙間が生じることを防止することができる。
【0050】
一方、開閉フード16と接続部24の接合部(正確には開閉フード16の端縁部)には、
図7に示すように雨水等の浸入を防止するためのウェザーストリップ29が設けられる。
【0051】
このウェザーストリップ29の、接合ライン28に沿った部分には、ボンネット自重によって長さ方向の荷重が作用する。
【0052】
この場合、傾斜ライン28bに沿った部分にかかる長さ方向荷重W´は、その傾斜により、垂直ライン28aにかかる長さ方向荷重Wよりも小さくなる。このため、ウェザーストリップ29に作用する応力を低減し、その寿命を向上させることができる。
【0053】
また、実施形態では、前記のように接合ライン28のうち、開閉フード16の上面部20から周面部21に移行する球面部分を避けた、ライン下部28bのみを傾斜ラインとして形成しているため、固定フード19(接続部24)との間の隙間の発生を抑えることができる。
【0054】
さらに、開閉フード16を、後端上部を支点として開閉するボンネット構成をとる場合(
図2の開閉支点16aを後端上部に設定した場合)でも、開閉支点と反対側の端部となる接合ライン28の下部を傾斜させたことにより、開閉フード16の閉じ状態で固定フード19(接続部24)との接合部分に無駄な隙間が生じない。
【0055】
なお、実施形態では、
図2,3に示すように接続部24の接合ライン30についても開閉フード16の接合ライン28に合わせて、垂直ライン30aと傾斜ライン30bから成る屈折形状としている。
【0056】
但し、接続部24を開閉フード16側に長く延ばす構成をとる場合には、接合ライン30は垂直な直線状としてもよい。
【0057】
他の実施形態
(1) 上記実施形態では、開閉フード16の左前方に固定フード19が配置される場合を例にとったが、固定フード19が開閉フード16の右前方に配置される場合、もしくは左右一側方に配置される場合、あるいは前方と側方の双方に配置される場合にも上記同様に適用することができる。
【0058】
(2) 上記実施形態では、接合ライン28を垂直ライン28aと傾斜ライン28bから成る屈折形状としたが、ライン上部で両フード間に隙間が生じるおそれがないボンネット構成をとる場合等には、接合ライン全体を傾斜させてもよい。
【0059】
(3) 本発明はショベル以外の建設機械のボンネットにも上記同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
11 アッパーフレーム
15 エンジンルーム
16 開閉フード
17 エアクリーナ(機器類)
19 固定フード
20 開閉フードの上面部
21 同、周面部
22 同、開口部
23 固定フードのフード本体
24 接続部
25 接続部の上面部
26 同、側面部
27 同、開口部
28 接合ライン
28a ライン上部
28b ライン下部(傾斜ライン)