特許第5874800号(P5874800)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000034
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000035
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000036
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000037
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000038
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000039
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000040
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000041
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000042
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000043
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000044
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000045
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000046
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000047
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000048
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000049
  • 特許5874800-直接型電力変換器用制御装置 図000050
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5874800
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】直接型電力変換器用制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20160218BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   H02M7/48 E
   H02M3/155 F
   H02M3/155 G
【請求項の数】5
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-210843(P2014-210843)
(22)【出願日】2014年10月15日
【審査請求日】2015年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100103229
【弁理士】
【氏名又は名称】福市 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】榊原 憲一
【審査官】 槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−107935(JP,A)
【文献】 特開2011−193678(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/146340(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接型電力変換器を制御する制御装置(10)であって、
前記直接型電力変換器は、
第1電源線(LH)及び第2電源線を含む直流リンク(7)と、
単相交流電圧(Vin)を入力し、前記第1電源線を前記第2電源線よりも高電位として前記直流リンクに脈動電力(Pin)を出力するコンバータ(3)と、
前記第1電源線と前記第2電源線との間に設けられ、前記脈動電力(Pin)の交流成分(Pin^)に分配率(k)を乗じたバッファリング電力(Pbuf)でバッファリングする電力バッファ回路(4)と、
前記第1電源線と前記第2電源線との間の直流電圧(Vdc)を交流電圧に変換するインバータ(5)と
を備え、
前記電力バッファ回路は、
コンデンサ(C4)と、前記コンデンサに対して前記第1電源線側で前記第1電源線と前記第2電源線との間で直列に接続されたスイッチ(Sc,D42)とを有する放電回路(4a)と、
前記コンデンサを充電する充電回路(4b)と
を含み、
前記制御装置は、
インバータ制御部(101)と、
放電制御部(102)と、
充電制御部(103)と
を備え、
前記インバータ制御部は、前記コンバータが前記直流リンクと導通するデューティである整流デューティ(drec)と、前記スイッチが導通するデューティである放電デューティ(dc)と、前記インバータが出力する電圧の指令値(Vu*,Vv*,Vw*に基づいて、前記インバータの動作を制御するインバータ制御信号(SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwn)を出力し、
前記放電制御部は、前記放電デューティに基づいて前記スイッチを導通させる放電スイッチ信号(SSc)を出力し、
前記充電制御部は、
前記コンデンサの両端電圧の平均値についての指令値たる平均電圧指令値(Vc*)と前記両端電圧との偏差(ΔVc)に対して、少なくとも比例積分制御を行って、前記コンバータに入力する入力電流(Iin)の振幅(Im)を決定する振幅決定部(103a)と、
前記放電デューティ、前記整流デューティ、前記分配率に応じて決定される前記単相交流電圧の位相(ωt)の関数(F1(ωt),F2(ωt),F3(ωt))を前記振幅に乗じて、前記充電回路に流れる電流(il)についての充電指令(iL*)を決定する充電指令生成部(103b)と、
前記充電指令に基づいて前記充電回路の充電動作を制御する充電動作制御部(103c)と、
を含む、直接型電力変換器用制御装置。
【請求項2】
前記電力バッファ回路(4)が、前記位相(ωt)の二倍の余弦値(cos(2ωt))が負となる期間において前記直流リンクから電力を受納し、前記余弦値が正となる期間において前記直流リンクへ電力を授与するように、前記放電デューティ及び前記整流デューティが設定される、請求項1記載の直接型電力変換器用制御装置。
【請求項3】
前記電力バッファ回路(4)が前記直流リンク(7)から受納する電力(Pl)と、前記電力バッファ回路(4)が前記直流リンクへ授与する電力(Pc)のいずれもが、前記単相交流電圧(Vin)の周波数の二倍の周波数を基本周波数として変動するように設定される、請求項1記載の直接型電力変換器用制御装置。
【請求項4】
前記入力電流(Iin)の波形を正弦波として前記関数を決定する、請求項1から3のいずれか一つに記載の直接型電力変換器用制御装置。
【請求項5】
前記充電制御部(103)の応答性は、前記単相交流電圧(Vin)の周波数の二倍の1/10以下である、請求項1から4のいずれか一つに記載の直接型電力変換器用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、直流リンクを介して相互に接続されたコンバータ、インバータ、電力バッファ回路を備えた直接型電力変換器を、制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
単相交流電源から入力した単相交流電圧から直流電圧を得るためには、コンバータとして全波整流回路を用いることが一般的である。しかし全波整流回路の出力には、当該単相交流電圧の周波数の2倍の周波数を有する電力脈動が存在する。よってこの電力脈動を低減するために、全波整流回路の出力側と負荷との間に電力をバッファリングする電力バッファ回路が必要となる。
【0003】
後掲の非特許文献1〜3、特許文献1〜4では、コンデンサをスイッチング素子を介して直流リンクに接続する技術が開示されている。当該コンデンサ(以下「バッファコンデンサ」とも称す)は電圧源として機能し、電源電圧とともに負荷を駆動することで、バッファコンデンサに要求される静電容量を低減しつつ、電力脈動の補償を行う技術が提案されている。
【0004】
特に非特許文献1〜2、特許文献1〜4では、リアクトルとスイッチとを用いて昇圧チョッパの機能を実現し、以てバッファコンデンサの両端に生じる電圧(以下「両端電圧」と称す)を昇圧する技術も提案されている。
【0005】
非特許文献2は、上記昇圧チョッパの機能を実現するためにリアクトルに流れるリアクトル電流が不連続となる場合(不連続モード)を教示する。リアクトル電流の指令値(以下「リアクトル電流指令」とも称す)は全波整流回路に入力する入力電流に依存する。非特許文献2では両端電圧の最大値と最小値を得て、入力電流を推定する技術も教示されている。
【0006】
また特許文献2は、両端電圧の平均値を一定に制御する技術を開示する。特許文献3はリアクトル電流が不連続モードのみならず、臨界モードで流れる場合についても教示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−193678号公報
【特許文献2】特開2014−107935号公報
【特許文献3】特許第5454732号公報
【特許文献4】特開2014−96976号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】大沼、伊東、「充電回路を付加したアクティブバッファ付き単相三相電力変換器の回路構成と制御法」、平成22年電気学会全国大会、4-057(2010)
【非特許文献2】大沼、伊東、「充電回路を付加したアクティブバッファ付き単相三相電力変換器の実機検証」、平成22年電気学会産業応用部門大会、1-124(2010)
【非特許文献3】大沼、伊東「新しい単相-三相電力変換器によるコンデンサ容量の低減法とその基礎検証」、電気学会半導体電力変換研資料、SPC-08-16(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、バッファコンデンサには小型化の観点から、フィルムコンデンサを適用することは望ましくない。よってバッファコンデンサとして採用するコンデンサの種類には、セラミックコンデンサや電解コンデンサが選択肢としてあげられる。
【0010】
電解コンデンサでは静電容量の許容範囲は±20%〜±30%と変動が大きい。しかも劣化により静電容量が低減する傾向がある。静電容量の変化に伴ってバッファコンデンサの電圧が変動すると、入力電流の推定において誤差が増大する。これは両端電圧の変動を招来し、当該変動が顕著となれば直接型電力変換器が運転不能に陥ることも考えられる。
【0011】
そこで、本発明は、バッファコンデンサの静電容量に変化が生じても、その両端電圧の変動を顕著にしない技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明にかかる直接型電力変換器用制御装置は、直接型電力変換器を制御する制御装置(10)である。
【0013】
前記直接型電力変換器は、第1電源線(LH)及び第2電源線を含む直流リンク(7)と、単相交流電圧(Vin)を入力し、前記第1電源線を前記第2電源線よりも高電位として前記直流リンクに脈動電力(Pin)を出力するコンバータ(3)と、前記第1電源線と前記第2電源線との間に設けられ、前記脈動電力(Pin)の交流成分(Pin^)に分配率(k)を乗じたバッファリング電力(Pbuf)でバッファリングする電力バッファ回路(4)と、前記第1電源線と前記第2電源線との間の直流電圧(Vdc)を交流電圧に変換するインバータ(5)とを備える。
【0014】
前記電力バッファ回路は、コンデンサ(C4)と、前記コンデンサに対して前記第1電源線側で前記第1電源線と前記第2電源線との間で直列に接続されたスイッチ(Sc,D42)とを有する放電回路(4a)と、前記コンデンサを充電する充電回路(4b)とを含む。
【0015】
そして前記制御装置は、インバータ制御部(101)と、放電制御部(102)と、充電制御部(103)とを備える。
【0016】
前記インバータ制御部は、前記コンバータが前記直流リンクと導通するデューティである整流デューティ(drec)と、前記スイッチが導通するデューティである放電デューティ(dc)と、前記インバータが出力する電圧の指令値(Vu*,Vv*,Vw*に基づいて、前記インバータの動作を制御するインバータ制御信号(SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwn)を出力する。
【0017】
前記放電制御部は、前記放電デューティに基づいて前記スイッチを導通させる放電スイッチ信号(SSc)を出力する。
【0018】
前記充電制御部は、前記コンデンサの両端電圧の平均値についての指令値たる平均電圧指令値(Vc*)と前記両端電圧との偏差(ΔVc)に対して、少なくとも比例積分制御を行って、前記コンバータに入力する入力電流(Iin)の振幅(Im)を決定する振幅決定部(103a)と、前記放電デューティ、前記整流デューティ、前記分配率に応じて決定される前記単相交流電圧の位相(ωt)の関数(F1(ωt),F2(ωt),F3(ωt))を前記振幅に乗じて、前記充電回路に流れる電流(il)についての充電指令(iL*)を決定する充電指令生成部(103b)と、前記充電指令に基づいて前記充電回路の充電動作を制御する充電動作制御部(103c)とを含む。
【0019】
例えば前記放電デューティ及び前記整流デューティは、前記電力バッファ回路(4)が、前記位相(ωt)の二倍の余弦値(cos(2ωt))が負となる期間において前記直流リンクから電力を受納し、前記余弦値が正となる期間において前記直流リンクへ電力を授与するように設定される。
【0020】
あるいは例えば前記電力バッファ回路(4)が前記直流リンク(7)から受納する電力(Pl)と、前記電力バッファ回路(4)が前記直流リンクへ授与する電力(Pc)のいずれもが、前記単相交流電圧(Vin)の周波数の二倍の周波数を基本周波数として変動するように設定される。
【0021】
望ましくは前記入力電流(Iin)の波形を正弦波として前記関数を決定する。
【0022】
望ましくは前記充電制御部(103)の応答性は、前記単相交流電圧(Vin)の周波数の二倍の1/10以下である。
【発明の効果】
【0023】
電力バッファ回路が含む放電回路が有するコンデンサ(バッファコンデンサ)の静電容量に変化が生じても、その両端電圧の変動を顕著にしない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施の形態にかかる直接形電力変換器の構成を示すブロック図である。
図2】本実施の形態にかかる制御装置の構成を例示するブロック図である。
図3図1に示された直接電力変換器の電力の収支を模式的に示すブロック図である。
図4図1に示された直接型電力変換器の等価回路を示す図である。
図5】バッファコンデンサの両端電圧の平均値と、最大値、最小値及び変動分の関係を示すグラフである。
図6】特許文献2の技術に対応する技術を採用した場合において、バッファコンデンサの静電容量が減少した場合の諸量の振る舞いを示すグラフである。
図7】特許文献2の技術に対応する技術を採用した場合において、バッファコンデンサの静電容量が増大した場合の諸量の振る舞いを示すグラフである。
図8】第1の実施の形態において、バッファコンデンサの静電容量が減少した場合の諸量の振る舞いを示すグラフである。
図9】第1の実施の形態において、バッファコンデンサの静電容量が増大した場合の諸量の振る舞いを示すグラフである。
図10】第2の実施の形態における直接形電力変換器の動作を示すグラフである。
図11】第2の実施の形態における直接形電力変換器の動作を示すグラフである。
図12】直流電流で制御を行うための構成の一例を示すブロック図である。
図13】第3の実施の形態における直接形電力変換器の動作を示すグラフである。
図14】第3の実施の形態における直接形電力変換器の動作を示すグラフである。
図15】第3の実施の形態において、バッファコンデンサの静電容量が減少した場合の諸量の振る舞いを示すグラフである。
図16】第3の実施の形態において、バッファコンデンサの静電容量が増大した場合の諸量の振る舞いを示すグラフである。
図17図1に示された直接型電力変換器の変形を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
A.従来技術の問題点の分析.
実施の形態の詳細な説明に入る前に、従来技術の問題点を分析し、これにより発明の理解を容易にする。
【0026】
(i)第1従来技術:非特許文献2では、両端電圧の最大値を電圧指令とし、両端電圧の最小値を検出することにより、両端電圧を制御していた。しかしながら両端電圧の最大値を電圧指令としているので、インバータの負荷が軽い場合でも両端電圧の平均値は高い(例えば特許文献2の図7参照)。これは電力バッファ回路におけるスイッチング損失の増大を招来する。
【0027】
(ii)第2従来技術:なるほど、特許文献1には、検出された両端電圧の最大値及び最小値に基づいてリアクトル電流指令を求め、両端電圧の平均値を制御する方法も示唆される。しかしながらかかる制御は、全波整流回路が出力する電圧の脈動の影響を大きく受けるので、制御系の応答性で劣る(例えば特許文献2の図10参照)。
【0028】
(iii)第3従来技術:特許文献2では、両端電圧の平均値を電圧指令としてリアクトル電流指令を求め、以て両端電圧を制御している。これにより、平均電圧を一定にした上で応答性が改善される(例えば特許文献2の図6参照)。
【0029】
しかしいずれも両端電圧そのものではなく、その平均値、最大値、最小値から入力電流を推定している。よってバッファコンデンサの静電容量が変動すると、入力電流の誤差が増大する。これは両端電圧の動作点が変動する原因となり得る。
【0030】
このことを式で説明する。上記の種々の文献から、全波整流回路に入力する入力電流Iinの振幅Im、全波整流回路の整流の対象となる単相交流電圧Vin(=Vm・sin(ωt):tは時間)の振幅Vmおよび角速度ω、バッファコンデンサの静電容量C、両端電圧の最大値Vcmax、最小値Vcminを導入して、下式(1)が成立することが公知である。
【0031】
【数1】
【0032】
更に両端電圧の平均値Vavg(=(Vcmax+Vcmin)/2)を導入して下式(2)も成立する(例えば特許文献2参照)。
【0033】
【数2】
【0034】
また、入力電流Iinの波形を正弦波状にし、かつ力率を1とするためには(即ちIin=Im・sin(ωt)とするためには)、下式(3)に従ってリアクトル電流指令il*を決定する。上述のように、振幅Imは式(1),(2)から得られるので、リアクトル電流指令il*は両端電圧の最大値Vcmax、最小値Vcminに依存する。
【0035】
【数3】
【0036】
さて、バッファコンデンサを設けた場合、インバータ5が出力する電力Pout、両端電圧Vcを導入すると、下式(4)が成立することが公知である(例えば非特許文献3参照)。
【0037】
【数4】
【0038】
第1従来技術のように両端電圧Vcの最大値Vcmaxが指令値として固定されると、負荷の変動によって電力Poutも変動することにより、両端電圧Vcの平均値Vavgも変動する。これに対して第3従来技術のように平均値Vavgが指令値として固定されると、両端電圧Vcの変動分(Vcmax−Vcmin)が変動することになる。
【0039】
例えばVm=230√2(V)、Im=16√2(A)、Pout=3680とした場合の、両端電圧Vcの平均値Vavgと最大値Vcmax、最小値Vcmin及び変動分(Vcmax−Vcmin)の関係を図5に示す。この関係から、式(1),(2)で示される振幅Imを固定すると、平均値Vavgと、最大値Vcmax、最小値Vcminあるいは変動分(Vcmax−Vcmin)とによって両端電圧Vcの動作点が定まる、換言すれば両端電圧Vcの動作点の設定には自由度があることがわかる。
【0040】
これらの第1〜3の従来技術では、バッファコンデンサの静電容量が変動すると、式(1),(2)において採用される静電容量Cと相違するので、式(1),(2)で振幅Imを推定した場合、(3)で設定されるリアクトル電流指令il*は実際の静電容量に適したものとはならなくなってしまう。
【0041】
図6は、第3の従来技術(特許文献2の技術に対応する)を採用した場合において、0.1秒以降におけるバッファコンデンサの実際の静電容量が、0.1秒以前における当該静電容量よりも3割減少した場合の諸量の振る舞いを示すグラフである。なお、インバータの負荷は三相平衡負荷であるとし、負荷に流れる負荷電流iu,iv,iwを導入した。
【0042】
式(1)から理解されるように、バッファコンデンサの実際の静電容量の減少は、振幅Imを推定する際の計算に用いられる静電容量Cが過大であることに相当する。よって振幅Imの推定値も過大となり、リアクトル電流指令il*も過大となり、平均値Vavgも上昇する。また、入力電流Iinについても、リアクトル電流指令il*が過大となることにより、振幅Imの増大を招く。
【0043】
第3の従来技術では式(2)において平均値Vavgを一定に保つように制御されるので、0.1秒後には変動分(Vcmax−Vcmin)が大きくなる(図6における最大値Vcmaxと最小値Vcminとの乖離が急増する)。そして平均値Vavgの上昇に伴ってリアクトル電流指令il*も減少し、やがて平衡状態に至る。
【0044】
しかしながら、平衡状態に至った後の平均値Vavgは大きくなっており、バッファコンデンサのみならず、インバータを構成するスイッチング素子には大きな耐圧が要求される。
【0045】
図7は、第3の従来技術を採用した場合において、0.1秒以降におけるバッファコンデンサの実際の静電容量が、0.1秒以前における当該静電容量よりも3割増大した場合の諸量の振る舞いを示すグラフである。
【0046】
この場合、図6で示された場合とは逆の動作によって、平均値Vavgが低下する。しかしながら平均値Vavgの低下は、昇圧チョッパの機能を減殺することになる。
【0047】
B.提案される技術の基本的な考え方.
「A.従来技術の問題点の分析.」で見てきたように、最大値Vcmax、最小値Vcminを検出して両端電圧Vc制御を行うと、バッファコンデンサの実際の静電容量に変動が生じた場合、リアクトル電流指令il*が受ける影響が大きくなる。
【0048】
そこで、本願で提案される技術では、両端電圧Vcの平均値についての指令値(以下、「平均電圧指令値」と称す)Vc*が与えられるものの、これと比較されるのは平均値Vavgではなく、両端電圧Vcそれ自体である。そして平均電圧指令値Vc*と両端電圧との偏差ΔVcに対して、少なくとも比例積分制御を行うことにより、振幅Imを決定する。
【0049】
そして、直接型電力変換器が動作する種々の方式に応じて決定される関数(後の各実施の形態で詳述する)と、偏差ΔVcに基づいて決定された振幅Imとを乗算することにより、リアクトル電流指令il*の基礎となる充電指令(これは「リアクトル電流指令il*」とは相違する:この相違は後述する「C.電力変換器およびその制御装置の構成.」で説明する)を得る。
【0050】
これにより、式(1)や式(2)で静電容量Cに依存して推定された振幅Imに基づいた場合とは異なり、リアクトル電流指令il*は実際のバッファコンデンサの静電容量に応じて適切に決定されることになる。
【0051】
C.電力変換器およびその制御装置の構成.
図1は、後述する各実施の形態において説明される方式を共通に適用することができる、直接形電力変換器の構成を示すブロック図である。当該直接形電力変換器は、コンバータ3と、電力バッファ回路4と、インバータ5と、直流リンク7とを備えている。
【0052】
コンバータ3は例えばフィルタ2を介して単相交流電源1と接続されている。フィルタ2はリアクトルL2とコンデンサC2とを備えている。リアクトルL2は単相交流電源1の2つの出力端のうちの一つとコンバータ3との間に設けられている。コンデンサC2は単相交流電源1の2つの出力端の間に設けられている。フィルタ2は電流の高周波成分を除去する。フィルタ2は省略しても良い。簡単のため、以下ではフィルタ2の機能を無視して説明する。
【0053】
直流リンク7は直流電源線LH,LLを有する。
【0054】
コンバータ3は例えばダイオードブリッジを採用し、ダイオードD31〜D34を備えている。ダイオードD31〜D34はブリッジ回路を構成し、単相交流電源1から入力される入力電圧である単相交流電圧Vinを単相全波整流して整流電圧Vrec(=|Vin|)に変換し、これを直流電源線LH,LLの間に出力する。直流電源線LHには直流電源線LLよりも高い電位が印加される。コンバータ3には単相交流電源1から入力電流Iinが流れ込み、電流irec(=|Iin|)を出力する。
【0055】
電力バッファ回路4は放電回路4a及び充電回路4bを有し、直流リンク7との間で電力を授受する。放電回路4aはバッファコンデンサとしてコンデンサC4を含み、充電回路4bは整流電圧Vrecを昇圧してコンデンサC4を充電する。
【0056】
放電回路4aはダイオードD42と、これと逆並列接続されたトランジスタ(ここでは絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ:以下「IGBT」と略記)Scを更に含んでいる。トランジスタScはコンデンサC4に対して直流電源線LH側で、直流電源線LH,LLの間で直列に接続されている。
【0057】
ここで逆並列接続とは、順方向が相互に逆となって並列に接続されていることを指す。具体的にはトランジスタScの順方向は直流電源線LLから直流電源線LHへと向かう方向であり、ダイオードD42の順方向は直流電源線LHから直流電源線LLへと向かう方向である。トランジスタScとダイオードD42とはまとめて一つのスイッチ素子(スイッチSc)として把握することができる。スイッチScの導通によってコンデンサC4が放電して直流リンク7へと電力を授与する。
【0058】
充電回路4bは、例えばダイオードD40と、リアクトルL4と、トランジスタ(ここではIGBT)Slとを含んでいる。ダイオードD40は、カソードと、アノードとを備え、当該カソードはスイッチScとコンデンサC4との間に接続される。かかる構成はいわゆる昇圧チョッパとして知られている。
【0059】
リアクトルL4は直流電源線LHとダイオードD40のアノードとの間に接続される。トランジスタSlは直流電源線LLとダイオードD40のアノードとの間に接続される。トランジスタSlにはダイオードD41が逆並列接続されており、両者をまとめて一つのスイッチ素子(スイッチSl)として把握することができる。具体的にはトランジスタSlの順方向は直流電源線LHから直流電源線LLへと向かう方向であり、ダイオードD41の順方向は直流電源線LLから直流電源線LHへと向かう方向である。
【0060】
コンデンサC4は、充電回路4bにより充電され、整流電圧Vrecよりも高い両端電圧Vcが発生する。具体的には直流電源線LHからスイッチSlを経由して直流電源線LLへと電流を流すことによってリアクトルL4にエネルギーを蓄積し、その後にスイッチSlをオフすることによって当該エネルギーがダイオードD40を経由してコンデンサC4に蓄積される。
【0061】
両端電圧Vcは整流電圧Vrecより高いので、基本的にはダイオードD42には電流が流れない。従ってスイッチScの導通/非導通は専らトランジスタScのそれに依存する。ここで、ダイオードD42は両端電圧Vcが整流電圧Vrecより低い場合の逆耐圧を確保するとともに、インバータ5が異常停止したときに誘導性負荷6から直流リンク7へ還流する電流を逆導通させるように作用する。
【0062】
また、直流電源線LHの方が直流電源線LLよりも電位が高いので、基本的にはダイオードD41には電流が流れない。従ってスイッチSlの導通/非導通は専らトランジスタSlのそれに依存する。ここで、ダイオードD41は逆耐圧や逆導通をもたらすためのダイオードであり、IGBTで実現されるトランジスタSlに内蔵されるダイオードとして例示したが、ダイオードD41それ自体は回路動作には関与しない。
【0063】
インバータ5は直流電源線LH,LLの間の直流電圧を交流電圧に変換して出力端Pu,Pv,Pwに出力する。インバータ5は6つのスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnを含む。スイッチング素子Sup,Svp,Swpはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwと直流電源線LHとの間に接続され、スイッチング素子Sun,Svn,Swnはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwと直流電源線LLとの間に接続される。インバータ5はいわゆる電圧形インバータを構成し、6つのダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnを含む。
【0064】
ダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnはいずれもそのカソードを直流電源線LH側に、そのアノードを直流電源線LL側に向けて配置される。ダイオードDupは、出力端Puと直流電源線LHとの間で、スイッチング素子Supと並列に接続される。同様にして、ダイオードDvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnは、それぞれスイッチング素子Svp,Swp,Sun,Svn,Swnと並列に接続される。出力端Pu,Pv,Pwからは、それぞれ負荷電流iu,iv,iwが出力され、これらは三相交流電流を構成する。例えばスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,SwnにはIGBTが採用される。
【0065】
誘導性負荷6は例えば回転機であり、誘導性負荷であることを示す等価回路で図示されている。具体的には、リアクトルLuと抵抗Ruとが相互に直列に接続され、この直列体の一端が出力端Puに接続される。リアクトルLv,Lwと抵抗Rv,Rwについても同様である。またこれらの直列体の他端同士が相互に接続される。
【0066】
誘導性負荷6を同期機として制御系を例示すると、速度検出部9は、誘導性負荷6に流れる負荷電流iu,iv,iwを検出し、これらから回転角速度ωmならびにq軸電流Iq及びd軸電流Idを直接型電力変換器用の制御装置10に与える。
【0067】
制御装置10は、回転角速度ωmならびにq軸電流Iq及びd軸電流Idの他、単相交流電圧Vinの振幅Vm,角速度ω(あるいはこれと時間tとの積である位相θ=ωt)、回転角速度の指令値ωm*、q軸電圧の指令値Vq*、d軸電圧の指令値Vd*、及び両端電圧Vc、電圧Vlを入力する。ここで電圧Vlは、リアクトルL4にかかる電圧である。
【0068】
図2は制御装置10の構成を例示するブロック図である。制御装置10は、インバータ制御部101と、放電制御部102と、充電制御部103とを備える。
【0069】
インバータ制御部101は、後述する「D.電力バッファ回路4の動作の概略.」で説明する放電デューティdcと、整流デューティdrecと、インバータ5が出力する電圧の指令値Vu*,Vv*,Vw*とに基づいて、インバータ制御信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnを出力する。インバータ制御信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnは、それぞれスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの動作を制御する。
【0070】
インバータ制御部101は、出力電圧指令生成部1011を有しており、これが位相θ(=ωt)、q軸電流Iq、d軸電流Id、回転角速度ωmおよびその指令値ωm*に基づいて、指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。
【0071】
インバータ制御部101は更に、振幅変調指令部1012、積和演算部1013、比較部1014、論理演算部1015を有している。
【0072】
振幅変調指令部1012は放電デューティdcと、整流デューティdrecとに基づいて、積和演算部1013の動作を制御する。積和演算部1013は(簡単のために乗算器のみの記号で示しているが)、指令値Vu*,Vv*,Vw*と、放電デューティdcおよび整流デューティdrecとの積和演算を行って信号波Mを生成する。比較部1014は信号波MとキャリアCAとの値の比較結果を論理演算部1015へ出力する。論理演算部1015は当該比較結果に対して論理演算を行って、インバータ制御信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnを出力する。
【0073】
放電制御部102は、デューティ演算部1021、比較器1022を有する。デューティ演算部1021は位相θ、振幅Vm、両端電圧Vcの他、直接型電力変換器が動作する種々の方式に応じて、いずれも直流リンク7からインバータ5が利用できる直流電圧Vdcあるいは直流電流Idcを入力し、放電デューティdcと整流デューティdrecとを生成する。放電デューティdcおよび整流デューティdrecの生成は、直接型電力変換器が動作する種々の方式に応じて相違するので、後述する各実施の形態毎に説明する。
【0074】
比較器1022は放電デューティdcとキャリアCAとを比較して、スイッチScを導通させる放電スイッチ信号SScを生成する。
【0075】
このようなインバータ制御部101および比較器1022の動作それ自体は公知の技術(非特許文献1〜2、特許文献1等)であるので、ここではその詳細を省略する。
【0076】
但し、後述する実施の形態では、出力電圧指令生成部1011が指令値Vu*,Vv*,Vw*を作成するのに、振幅Vm、振幅Im(これは上述のように偏差ΔVcに基づいて決定される)および後述する「D.電力バッファ回路4の動作の概略.」で説明する分配率k(0≦k≦1)とを必要とする場合がある。
【0077】
充電制御部103は、振幅決定部103aと、充電指令生成部103bと、充電動作制御部103cとを有する。
【0078】
振幅決定部103aは、減算器1031と、比例積分制御器1032とを含む。減算器1031は、両端電圧Vcおよび平均電圧指令値Vc*から偏差ΔVcを求める。比例積分制御器1032は偏差ΔVcに対して比例積分制御を行って振幅Imを決定する。振幅Imは指令値Vu*,Vv*,Vw*に影響を与え、インバータ5の動作は指令値Vu*,Vv*,Vw*の影響を受けて、偏差ΔVcを小さくする動作を行う。よって、振幅Imの決定には、偏差ΔVcに対して少なくとも比例積分制御を行えば足りる。もちろん、比例積分制御器1032の代わりに、比例積分微分制御を行う要素を採用しても良い。
【0079】
充電指令生成部103bは、充電波形テーブル1033と、乗算器1034とを含む。充電波形テーブル1033は、分配率kと位相θ(=ωt)とを入力し、位相θについての関数F(θ)(=F(ωt))を出力する。乗算器1034は振幅Imと関数F(ωt)とを乗算し、充電指令iL*を決定する。関数F(ωt)については実施の形態のそれぞれで相違するので、実施の形態毎に個別に説明する。
【0080】
充電動作制御部103cは充電指令iL*に基づいて、充電回路4bの動作を制御する。より具体的には、リアクトルL4に流れるリアクトル電流ilが、充電指令iL*に対応するリアクトル電流指令il*となる様に、スイッチSlを制御する充電スイッチ信号SSlを生成する。この充電スイッチ信号SSlを生成するには、電圧Vlが必要となるので、これらも充電動作制御部103cに入力している。
【0081】
充電動作制御部103cは例えば、リアクトル電流ilが臨界モードで流れる様に充電スイッチ信号SSlを生成する臨界モード変調部として機能する。非特許文献2ではリアクトル電流ilを不連続モードで流すことを前提としてリアクトルL4のインダクタンスの値を制限している。しかし本願で提案される技術では、当該インダクタンスが上記制限から変動して両端電圧Vcに影響を与えても、振幅決定部103aの動作がその変動の影響を吸収する。
【0082】
以上のような構成により、「B.提案される技術の基本的な考え方.」で示された技術を具現化することができる。
【0083】
D.電力バッファ回路4の動作の概略.
コンバータ3に入力する瞬時入力電力Pinは、入力力率を1として、次式(5)で表される。
【0084】
【数5】
【0085】
瞬時入力電力Pinは、式(5)の右辺の第2項で示される交流成分(−1/2)・Vm・Im・cos(2ωt)を有する(以下、「交流成分Pin^」とも称す)。よって以下では瞬時入力電力Pinを脈動電力Pinと称することもある。
【0086】
図1に示された電力変換器は、下記のように把握することができる。
【0087】
コンバータ3は単相交流電圧Vinを入力し、脈動電力Pinを出力する:
電力バッファ回路4は、受納電力Plを直流リンク7から入力し、授与電力Pcを直流リンク7へ出力する:
インバータ5は直流リンク7から、脈動電力Pinと授与電力Pcとの和から受納電力Plを引いた入力電力Pdc(=Pin+Pc−Pl)を入力し、負荷電流iu,iv,iwを出力する。インバータ5の損失を無視すれば入力電力Pdcは電力Pout(式()参照)と等しい。
【0088】
図3図1に示された直接電力変換器での電力の収支を模式的に示すブロック図である。バッファリングされる電力(以下、「バッファリング電力Pbuf」と称す)は授与電力Pcから受納電力Plを差し引いた電力差(Pc−Pl)と等しい。またコンバータ3からインバータ5へと向かう電力PrecはPin−Plに等しい。よってPdc=Prec+Pcが成立する。
【0089】
さて、分配率kを次式(6)を用いて導入する。
【0090】
【数6】
【0091】
つまりk=0であればインバータ5は直流リンク7から入力電力Pdcとして脈動電力Pinをそのまま入力する。これはPbuf=0を意味し、電力バッファ回路4には電力が全く分配されない場合に相当する。k=1であればPdc=Pin−Pin^となる。これは電力バッファ回路4が、交流成分Pin^の絶対値|Pin^|に相当する電力を直流リンク7との間で授受している場合に相当する。
【0092】
つまり分配率kは、交流成分Pin^の絶対値|Pin^|のどの程度が、バッファリング電力Pbufとして電力バッファ回路4に分配されるかを示している。
【0093】
E.直接型電力変換器の等価回路と各種デューティ.
図1に示された直接型電力変換器の等価回路として図4を示す。当該等価回路は、例えば非特許文献2、特許文献1,3,4等で紹介されている。当該等価回路において電流irec1は、スイッチSrecが導通するときにこれを経由する電流irec1として等価的に表されている。同様に、放電電流icは、スイッチScが導通するときにこれを経由する電流icとして等価的に表されている。
【0094】
また、インバータ5において出力端Pu,Pv,Pwが直流電源線LH,LLのいずれか一方に共通して接続されるときにインバータ5を介して誘導性負荷6に流れる電流も、スイッチSzが導通するときにこれを経由して流れる零相電流izとして等価的に表されている。
【0095】
また図4では、充電回路4bを構成するリアクトルL4とダイオードD40とスイッチSlとが表され、リアクトルL4を流れるリアクトル電流ilが付記されている。
【0096】
このようにして得られた等価回路において、スイッチSrec,Sc,Szが導通するそれぞれのデューティdrec,dc,dzを導入する。但し、上述の文献から公知のように、0≦drec≦1,0≦dc≦1,0≦dz≦1,drec+dc+dz=1である。
【0097】
デューティdrecはコンバータ3が直流リンク7と接続されて電流をインバータ5に流し得る期間を設定するデューティであるので、上述の整流デューティdrecを指す。
【0098】
デューティdcは、コンデンサC4が放電するデューティであるので、上述の放電デューティdcを指す。
【0099】
デューティdzはインバータ5においてその出力する電圧によらずに必ず零相電流izが流れるデューティであるので、零デューティdzと称することがある。
【0100】
電流irec1,ic,izはそれぞれ、インバータ5に入力される直流電流Idcにデューティdrec,dc,dzを乗算したものであるので、これらはスイッチSrec,Sc,Szのスイッチング周期における平均値である。またデューティdrec,dc,dzは、各電流irec1,ic,izに対する直流電流Idcの電流分配率と見ることもできる。
【0101】
なお、コンバータ3がダイオードブリッジを採用する場合、コンバータ3が能動的に整流デューティdrecでスイッチングすることはできない。よって零デューティdzと、放電デューティdcとに従って、それぞれインバータ5と、スイッチScがスイッチングすることによって、電流irec1を得ることができる。
【0102】
インバータ5は零相電流izが流れる期間においては、直流リンク7における直流電圧を利用することができない。よって、直流リンク7においてインバータ5への電力供給に利用される直流電圧が電力変換において意味を持つ。換言すれば瞬時的な直流電圧であってインバータ5が電力変換に用いないものは、電圧利用率を考察するに際しても意味を有しない。電力変換において意味を持つ直流電圧Vdcは下式(7)のように表現できる。
【0103】
【数7】
【0104】
他方、直流電圧Vdcは、インバータ5が出力できる電圧の最大値の、スイッチSc,Slやインバータ5のスイッチングを制御する周期についての平均として、直流リンク7に印加される電圧と把握することもできる。インバータ5は零デューティdzという比率で直流リンク7の電圧に寄与し得るものの、零デューティdzに対応する期間においてはインバータ5は直流電源線LL,LHのいずれか一方と絶縁されているからである。
【0105】
直流電圧Vdcは、図4において、インバータ5及びその負荷を表す電流源Idc(これは直流電流Idcを流す)の両端に生じる電圧として付記した。
【0106】
以下、直接型電力変換器が動作する種々の方式について、具体的に説明する。
【0107】
F.第1の実施の形態.
第1の実施の形態は、特許文献2で紹介された直接型電力変換器の動作と比較して説明される。
【0108】
特許文献2で示された技術では、上述の交流成分Pin^を打ち消すべく、単相交流電圧Vinの四半周期((1/4)周期)毎に交互に異なる制御を行っていた(以下、このような制御を便宜的に「四半周期制御」とも称す)。具体的にはPl=Pin^,Pc=0とする制御と、Pl=0,Pc=−Pin^とする制御とを、単相交流電圧Vinの四半周期毎に交互に行っていた。これにより、全期間においてPdc=Pin+Pc−Pl=Pin−Pin^=(1/2)・Vm・Imが成立し、電力脈動が回避されていた。これは式(6)においてk=1に相当する場合である。
【0109】
本願でも特許文献2に倣い、直流リンク7から受納電力Plを受納する期間(これは位相ωtの二倍の余弦値cos(2ωt)が負となる期間である)を受納期間と称し、直流リンク7へ授与電力Pcを授与する期間(これは余弦値cos(2ωt)が正となる期間である)を授与期間と称する。
【0110】
(f-1)デューティの設定.
特許文献2では放電デューティdcは次式(8)で設定され、この放電デューティdcを採用することと、入力電流Iinを正弦波とする前提とから、リアクトル電流指令il*が式(3)で決定されていた。ここで直流電流Idcは指令値として設定できる。
【0111】
【数8】
【0112】
また、このときの整流デューティdrecは次式(9)で設定されることにより、直流電圧Vdcは一定値とできる(例えば特許文献1等)。
【0113】
【数9】
【0114】
第1の実施の形態では、式(3),(8),(9)における振幅Imとして、振幅決定部103aから得られる振幅Imを採用し、デューティ演算部1021は式(),()に則ってデューティdrec,dcを生成する。つまり本実施の形態ではデューティ演算部1021は振幅Vm,Im、直流電流Idc、位相ωtを入力する。
【0115】
但し、直流リンク7からインバータ5に入力する入力電力Pdcは直流電圧Vdcと直流電流Idcとの積となる。そしてインバータ5は直流リンク7から、脈動電力Pinと授与電力Pcとの和から受納電力Plを引いた入力電力Pdc(=Pin+Pc−Pl)を得るのであるから、下式(10)が成立する。
【0116】
【数10】
【0117】
よって式(8),(9)は下式(11),(12)の様に変形され、デューティ演算部1021へは、直流電流Idcに代えて直流電圧Vdcを指令値として入力してもよい。
【0118】
【数11】
【0119】
【数12】
【0120】
(f-2)リアクトル電流ilについて.
さて、臨界モードでは、スイッチSlが導通する期間ΔT1においてリアクトル電流ilは0からピーク値まで上昇し、スイッチSlが非導通となる期間ΔT2においてリアクトル電流ilはピーク値から0まで下降し、期間ΔT1,ΔT2が交互に設定される。これらの上昇、下降のいずれもが時間に対して線形に変化すると近似すると、リアクトル電流ilは平均して上記ピーク値の半分で流れることになる。
【0121】
電力バッファ回路4には整流電圧Vrec=|Vin|=Vm・|sin(ωt)|が印加されることを考慮し、リアクトルL4のインダクタンスLを導入して、期間ΔT1は下式(13)で表される。
【0122】
【数13】
【0123】
よって式(13)におけるリアクトル電流ilとして、式(3)におけるリアクトル電流指令il*を採用して、スイッチSlを導通させる期間ΔT1は下式(14)のように決定される。
【0124】
【数14】
【0125】
式(14)において、振幅Imは振幅決定部103aから得られ、係数2・L/Vmは電圧制御系の比例ゲインとして捉えることができる。よって式(15)で示される充電指令iL*が決まれば期間ΔT1が電圧フィードバック制御により決定される。
【0126】
【数15】
【0127】
ここで関数F1(ωt)は、上述の関数F(ωt)であって、本実施の形態において採用される、位相θ(=ωt)の関数である。「B.提案される技術の基本的な考え方.」で概説されたように、充電指令iL*は振幅Imと、関数F1(ωt)との積で決定される。
【0128】
そして、関数F1(ωt)は、式(8)あるいは式(11)で決定された放電デューティdc、式(9)あるいは式(12)で決定された整流デューティdrec、1に相当する分配率kに応じて決定される。
【0129】
充電動作制御部103cは、充電指令iL*に至るまでカウンターを動作させ、充電スイッチ信号SSlの(スイッチSlが導通する)期間ΔT1へと変換する。カウンターでの変換係数も、上述の係数2・L/Vmと同様に、電圧制御系の比例ゲインとして作用する。
【0130】
充電スイッチ信号SSlにおいて期間ΔT1がカウントされる始期は、スイッチSlをオンさせるタイミングであって、これはリアクトルL4にかかる電圧Vlが減少して0となることを契機とする。臨界モードではリアクトル電流ilが減少して0となったときにスイッチSlをオフからオンへと切り替えれば良く、リアクトル電流ilが減少して0となるタイミングは、電圧Vlが減少して0となるタイミングとして把握できるからである。
【0131】
(f-3)効果.
図8および図9は、いずれも本実施の形態で提案した技術を採用した場合における諸量の振る舞いを示すグラフである。図8は0.1秒以降におけるバッファコンデンサの実際の静電容量が、0.1秒以前における当該静電容量よりも3割減少した場合を、図9は0.1秒以降におけるバッファコンデンサの実際の静電容量が、0.1秒以前における当該静電容量よりも3割増大した場合を、それぞれ示す。
【0132】
図8図6との比較、および図9図7との比較から理解されるように、特許文献2の技術を採用した場合と比較すると、本実施の形態で提案した技術では、変動分(Vcmax−Vcmin)の変動は残っているものの、振幅Imの変動は小さく、リアクトル電流指令il*のピーク値の変動も小さい。振幅Imの平均値(図中、第2段目において横一直線の破線で示す)はここでは約23A程度である。
【0133】
なお、このような振幅Imの変動を小さくするには、充電制御部103の応答性を、単相交流電圧Vinの周波数(ω/(2π))の二倍の1/10以下とすることが望ましい。より具体的には、振幅決定部103aの、とりわけ比例積分制御器1032の制御帯域を整流電圧Vrecの基本周波数の1/10以下とすることが望ましい。振幅Imの変動は当該制御帯域の低減に伴って20dB/decで低減するからである。
【0134】
以上のように、本実施の形態によれば、バッファコンデンサの実際の静電容量が変動しても、リアクトル電流指令il*のピーク値の変動は抑制され、よって両端電圧Vcが顕著に変化することが回避される。
【0135】
G.第2の実施の形態.
第2の実施の形態は、分配率k、整流デューティdrec、放電デューティdcが、第1の実施の形態で採用された値とは異なる場合について説明される。
【0136】
式(11),(12)で示された整流デューティdrecや放電デューティdcは、直流電圧Vdcを一定にできるものであった。これはVrec=Vm・|sin(ωt)|を考慮すれば、式(7)が恒等的に成立することからも理解される。
【0137】
しかし、drec≦1であり、かつ授与期間では|sin(ωt)|≦1/√2であることから、式(12)の右辺で示された授与期間における整流デューティからわかるように、直流電圧Vdcを一定とする限り、その値は振幅Vmの1/√2倍を超えることはない。
【0138】
そこで、本実施の形態では、直流電圧Vdcとして次式(16)を採用することにより、振幅Vmに対する直流電圧Vdcの比R(以下、「電圧利用率R」と称す)を向上させる技術を紹介し、当該技術を採用した場合の関数F(ωt)たる関数F2(ωt)を示す。
【0139】
【数16】
【0140】
以下、式(16)で直流電圧Vdcを設定することで、電圧利用率Rが1/√2を越え得ること、当該直流電圧Vdcを(近似的にではあるが)得るための整流デューティdrec、放電デューティdcが存在すること、その場合のリアクトル電流指令il*、関数F2(ωt)を、順に説明する。
【0141】
(g-1)電圧利用率Rの向上.
受納期間における電圧利用率Rの平均値Raは次式(17)で求められる。また授与期間と受納期間とではπ/2の位相差があり、かつ正弦波形と余弦波形とはπ/2の位相差があることから、授与期間における平均値Raは受納期間におけるそれと等しい。
【0142】
【数17】
【0143】
よって授与期間、受納期間のいずれであっても、電圧利用率Rは平均的に見て、第1の実施の形態で示された場合の4/π(>1)倍に改善されている。
【0144】
(g-2)デューティの設定.
本実施の形態では受納期間においてdrec=1,dc=0とする。このような整流デューティdrec、放電デューティdcは、これらに課せられた条件、即ち0≦drec≦1,0≦dc≦1、drec+dc+dz=1を満足し、設定可能である。
【0145】
これにより式(7)の右辺の計算結果は、式(16)の右辺のうち、受納期間に対応したものと一致する。
【0146】
そして授与期間においては、整流デューティdrecおよび放電デューティdcを、それぞれ式(18),(19)で設定する。
【0147】
【数18】
【0148】
【数19】
【0149】
授与期間においては0≦|sin(ωt)|≦1/√2であるので、式(18)で設定される整流デューティdrecは、これに課せられた条件0≦drec≦1を満足する。また授与期間において0≦cos(2ωt)≦1であるので、振幅Vmよりも両端電圧Vcを高めることにより、式(19)で設定される放電デューティdcが、0≦dc≦1、drec+dc+dz=1を満足ることが可能である。なお、後の便宜のために電圧比α=Vc/Vmを導入しておく。
【0150】
以上のように整流デューティdrecおよび放電デューティdcを設定することにより、授与期間における直流電圧Vdcは次式(20)で求められる。
【0151】
【数20】
【0152】
式(20)は授与期間において、例えば位相ωtが値3π/4〜5π/4をとるときに、式(16)と良く近似される。具体的には、式(16)で示される直流電圧Vdcの授与期間に亘る積分値と、式(20)で示される直流電圧Vdcの授与期間に亘る積分値との相違は1%未満であることが判っている。
【0153】
以上のことから、受納期間においてdc=dz=0とし、授与期間において式(18),(19)で示されたデューティdrec,dcを用いることにより、直流電圧Vdcの波形を式(16)に近似でき、以て電圧利用率Rが改善されることがわかる。
【0154】
(g-3)リアクトル電流ilについて.
授与期間において放電デューティdcは、第1の実施の形態で採用された式(11)と比較すると、本実施の形態で採用される式(19)はVm/Vdc倍となっている。式(17)からわかるように本実施の形態ではVdc/Vm=2√2/πであるので、本実施の形態における放電デューティdcは、第1の実施の形態における放電デューティdcのπ/(2√2)倍となっている。
【0155】
よって授与期間において放電電流icによって直流リンク7へ授与される電荷量は、分配率kを考慮すると、本実施の形態では第1の実施の形態のk・π/(2√2)倍となる。よって受納期間中に流れるリアクトル電流ilも、第1の実施の形態と比較してk・π/(2√2)倍としなければならない。よってリアクトル電流指令il*は式(3)を考慮して次式(21)で設定される。
【0156】
【数21】
【0157】
よって式(15),(21)から、本実施の形態における関数F2(ωt)は式(22)で得られる。
【0158】
【数22】
【0159】
関数F2(ωt)は、受納期間において値0で、授与期間において式(19)で、それぞれ決定された放電デューティdcと、受納期間において値1で、授与期間において式(18)で、それぞれ決定された整流デューティdrecと、分配率kとに応じて決定される。
【0160】
なお、後に図10及び図11で示される電流irecからもわかるように、本実施の形態では、式(3)の根拠であった入力電流Iinの波形が正弦波であることが成立しない。よって厳密には、式(22)を得るのに式(3)を適用することは根拠がない。
【0161】
しかしながら、式(3)は、下記のように、受納期間全体として見れば、入力電流Iinの波形が正弦波でなくても妥当する。よって本実施の形態においても、入力電流Iinの波形を正弦波として関数F2(ωt)を決定してもよい。
【0162】
即ち、リアクトル電流ilは受納期間においてのみ流れることを考慮すると、式(3)で示されるリアクトル電流指令il*と、整流電圧Vrecとの積が、交流成分Pin^と等しければよい。
【0163】
上記積を計算すると次式(23)が得られ、積Vrec・il*が交流成分Pin^と等しいことがわかる。
【0164】
【数23】
【0165】
なお式(6),(10)は整流デューティdrecおよび放電デューティdcに依存せずに成立するので、本実施の形態でもこれらを用いて直流電流Idcが次式(24)で求められる。但し、直流電圧Vdcは式(16)で近似される。
【0166】
【数24】
【0167】
本実施の形態では第1の実施の形態の関数F1(ωt)と同様に、関数F2(ωt)を用いて充電指令iL*を得ることができ、第1の実施の形態と同様に、バッファコンデンサの実際の静電容量が変動しても、両端電圧Vcが顕著に変化することが回避される。
【0168】
(g-4)諸量の振る舞い.
図10及び図11は、いずれも図1に示された直接形電力変換器の動作を示すグラフであり、いずれも本実施の形態に基づいてデューティdrec,dc,dzを設定した場合の動作を示している。但し、図10ではk=1の場合が、図11ではk=1/3の場合が、それぞれ示されている。
【0169】
図10及び図11のいずれにおいても、最上段にデューティdrec,dc,dzを、上から二段目に直流電圧Vdc(式(16)参照)及びこれを構成する電圧Vrec・drec,Vc・dc(式(7)参照)並びに直流電流Idc(式(24)参照)を、上から三段目に電流irec,ic,il,irec1を、最下段に瞬時電力Pin,Pout,Pbufを、それぞれ示した。また記号T1,T2はそれぞれ授与期間及び受納期間を示す。
【0170】
図10及び図11のいずれにおいても、横軸は位相ωtを「度」を単位として採用して示した。また、電流Idc,irec,ic,il,irec1は、振幅Imを√2として換算した。電圧Vrec・drec,Vc・dcは振幅Vmを1として換算し、α=1.5に設定した。瞬時電力Pin,Pout,Pbufは、上記のように換算された電圧、電流の積として求めている。授与期間T1においてリアクトル電流ilは零であるので、電流irec1は電流irecと一致する。受納期間T2においてdc=0であり、電圧Vrec・drecは直流電圧Vdcと一致する。
【0171】
上述のように、デューティdrec,dcは分配率kに依存しないので、直流電圧Vdc及びこれを構成する電圧Vrec・drec,Vc・dcも図10図11とでは同じ波形を示す。
【0172】
但し、直流電流Idcは式(24)で表され、分配率kに依存するので、図10に示されるk=1の場合と、図11に示されるk=1/3の場合とは大きく異なる。
【0173】
図10及び図11のそれぞれにおいて上から三段目に示される電流ic,ilは、k=1よりもk=1/3の方が低減される。このような電流il,icの低減は、電力バッファ回路4において採用されるリアクトルL4やコンデンサC4に要求される電力容量を低減し、小型化及び廉価化という観点で望ましい。
【0174】
(g-5)分配率kに対応して電力の脈動分を分配するための技術の一例.
当節では、式(24)を実現して、分配率kに対応して電力の脈動分を分配するための技術の一例を挙げる。
【0175】
通常の交流負荷の動作について、良く知られたdq軸の制御を行う場合を例に採る。dq軸上の電力式は一般に式(25)で示される。記号V*,Iはそれぞれ交流負荷に印加される電圧の指令値と、交流負荷に流れる電流とを示す。これらはいずれも交流であるので、これらは複素数として表されることを示すドットが記号V*,Iのそれぞれに載っている。但し、q軸電圧はその指令値(以下「q軸電圧指令値」)Vq*に、d軸電圧はその指令値(以下「d軸電圧指令値」)Vd*に、それぞれ理想的に追従するとしている。
【0176】
【数25】
【0177】
直流電源線LH,LLからインバータ5に供給される電力には無効電力が存在しないので、当該電力は式(25)の第2項を無視して、式(26)で表される。
【0178】
【数26】
【0179】
よって式(26)の交流成分と、式(6)の右辺第2項とを一致させる制御を行うことにより、式(24)を実現する制御を行うことができる。上記の制御を行うための構成の一例を、ブロック図として図12に示す。当該構成は、例えば図2において出力電圧指令生成部1011として示された構成において設けられる。
【0180】
図12の構成において、公知の技術を示す部分について簡単に説明すると、電流位相指令値β*から三角関数値cosβ*,−sinβ*を求め、これと電流指令値Ia*とからq軸電流指令値Iq*及びd軸電流指令値Id*を生成する。誘導性負荷6が回転機であるとして、その回転角速度ωmと、当該回転機の界磁磁束Φaと、回転機のd軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスLqと、q軸電流指令値Iq*及びd軸電流指令値Id*と、q軸電流Iq及びd軸電流Idとに基づいて、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*を求める。q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*からインバータ5を制御するための電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。
【0181】
例えば図1に示された構成では速度検出部9が、誘導性負荷6に流れる負荷電流iu,iv,iwを検出し、これらから回転角速度ωmならびにq軸電流Iq及びd軸電流Idを制御装置10に与える。
【0182】
さて、式(26)の交流成分と、式(6)の右辺第2項とを一致させる制御を行うための処理部71について以下に説明する。処理部71は、直流電力計算部711と、脈動成分抽出部712と、脈動成分計算部713と、減算器714と、加算器715と、PI処理部716を備えている。
【0183】
直流電力計算部711は、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*と、q軸電流Iq及びd軸電流Idとを入力し、上記の式(26)に基づいて入力電力Pdcを計算し、これを脈動成分抽出部712に与える。
【0184】
脈動成分抽出部712は、式(6)の交流成分を抽出して出力する。脈動成分抽出部712は例えばハイパス(高域透過)フィルタHPFで実現される。
【0185】
脈動成分計算部713は振幅Vm,Imと、角速度ωと、分配率kとを入力し、式(6)の右辺第2項を求める。振幅Vmと角速度ωとは、単相交流電源1から得られる情報として脈動成分計算部713に入力することができる(図1参照)。振幅Imは振幅決定部103aから入力することができる。
【0186】
上述のように、所望の処理は、式(26)の交流成分と、式(6)の右辺第2項とを一致させるのであるから、脈動成分抽出部712の出力と、脈動成分計算部713の出力との差を小さくするように制御を行えばよい。よって減算器714によって当該差を求め、当該差にPI処理部716による比例積分制御を施した値を加算器715に出力する。
【0187】
加算器715は、通常の処理における電流指令値Ia*をPI処理部716の出力で補正する処理を行う。具体的には、まず、電流指令値Ia*を求める通常の処理として、減算器701によって回転角速度ωmと、その指令値ωm*との偏差を求める。当該偏差はPI処理部702において比例積分制御を受け、電流指令値Ia*を一旦求める。そして加算器715が、電流指令値Ia*を、PI処理部716からの出力で増加させる処理を行う。
【0188】
このようにして処理部71で補正された電流指令値Ia*に対して、上述の公知の技術を適用し、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*を生成する。このような制御はq軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*と、q軸電流Iq及びd軸電流Idとについてのフィードバックを施した制御であって、減算器714が出力する差を0に収束させるものである。つまり、このような制御によって、式(26)の交流成分と式(6)の右辺第2項とを一致させることができる。
【0189】
H.第3の実施の形態.
(h-1)デューティの設定.
第3の実施の形態は、第1の実施の形態や第2の実施の形態で採用された「四半周期制御」を採用しない。つまり、本実施の形態では、受納期間、授与期間の区別を特に設定すること無く整流デューティdrec、放電デューティdcが定められる。但し、第1の携帯や第2の実施の形態と同様、整流デューティdrec、放電デューティdcは分配率kには依存しない。
【0190】
具体的には、整流デューティdrec及び放電デューティdcは、それぞれ式(27),(28)で決定される。
【0191】
【数27】
【0192】
【数28】
【0193】
両端電圧Vcには後述するように脈動が存在するものの、ほぼ一定に制御されるので、放電デューティdcは[1+cos(2ωt)]に比例し、単相交流電圧Vinの二倍の周波数を基本周波数として変動する。そして上述のように、本実施の形態では受納期間、授与期間の区別なく放電デューティdcが定められるので、電力バッファ回路4が直流リンク7に授与する授与電力Pcも単相交流電圧Vinの二倍の周波数を基本周波数として変動する。
【0194】
式(27),(28)から式(29)が求められ、式(7)が恒等的に成立する。よって直流電圧Vdcは一定値にできる。
【0195】
【数29】
【0196】
そしてVdc≦Vmである限り、0≦drec≦1を満足する。また直流電圧Vdcを両端電圧Vc以下に設定することにより、0≦dc≦1、drec+dc+dz=1を満足させるような設定が可能である。
【0197】
(h-2)リアクトル電流ilについて.
次に、式(6)が成立するために要求されるリアクトル電流il、即ちリアクトル電流指令il*を求める。上述のように入力電力Pdcは直流電圧Vdcと直流電流Idcとの積で表されるので、式(24),(27)から電流irec1は次式(30)で求められる。
【0198】
【数30】
【0199】
そして、入力電流Iinを正弦波にするために、リアクトル電流指令il*は次式(31)で決定される。式(31)から理解されるように、リアクトル電流指令il*は単相交流電圧Vinの二倍の周波数を基本周波数として変動する。また整流電圧Vrecも同様に変動する。よって電力バッファ回路4が直流リンク7から受納する受納電力Plも単相交流電圧Vinの二倍の周波数を基本周波数として変動する。
【0200】
結局、本実施の形態では、受納電力Pl、授与電力Pcのいずれもが、単相交流電圧Vinの二倍の周波数を基本周波数として変動するように設定される。
【0201】
【数31】
【0202】
また式(31)から、本実施の形態における関数F3(ωt)は式(32)で得られる。
【0203】
【数32】
【0204】
関数F3(ωt)は、式(28)で決定された放電デューティdc、式(27)で決定された整流デューティdrec、分配率kに応じて決定される。
【0205】
(h-3)諸量の振る舞い.
図13及び図14は、いずれも図1に示された直接形電力変換器の動作を示すグラフであり、いずれも本実施の形態に基づいてデューティdrec,dc,dzを設定した場合の動作を示している。但し、図13ではk=1の場合が、図14ではk=1/3の場合が、それぞれ示されている。
【0206】
図13及び図14のいずれにおいても、最上段にデューティdrec,dc,dzを、上から二段目に直流電圧Vdc(式(29)参照)及びこれを構成する電圧Vrec・drec,Vc・dc(式(7)参照)並びに直流電流Idc(式(24)参照)を、上から三段目に電流irec,ic,il,irec1を、最下段に瞬時電力Pin,Pout,Pbufを、それぞれ示した。
【0207】
図13及び図14のいずれにおいても、横軸は位相ωtを「度」を単位として採用して示した。また、電流Idc,irec,ic,il,irec1は、振幅Imを√2として換算し、R=0.96、α=1.5に設定した。電圧Vrec・drec,Vc・dcは振幅Vmを1として換算した。瞬時電力Pin,Pout,Pbufは、上記のように換算された電圧、電流の積として求めている。
【0208】
上述のように、デューティdrec,dcは分配率kに依存しないので、直流電圧Vdc及びこれを構成する電圧Vrec・drec,Vc・dcも図13図14とでは同じ波形を示す。
【0209】
但し、直流電流Idcは式(24)で表され、分配率kに依存するので、図13に示されるk=1の場合と、図14に示されるk=1/3の場合とは大きく異なる。特にk=1の場合には、直流電圧Vdcが一定となること相まって、直流電流Idcは位相ωtに依存せずに一定となる。
【0210】
なお、本実施の形態においても「(g-5)分配率kに対応して電力の脈動分を分配する技術の一例」で紹介された構成を採用できることは明白である。
【0211】
図13及び図14のそれぞれにおいて上から三段目に示される電流ic,ilは、k=1よりもk=1/3の方が低減される。このような電流il,icの低減は、電力バッファ回路4において採用されるリアクトルL4やコンデンサC4に要求される電力容量を低減し、小型化及び廉価化という観点で望ましい。
【0212】
(h-4)効果.
図15および図16は、いずれも本実施の形態で提案した技術を採用した場合における諸量の振る舞いを示すグラフである。図15は0.1秒以降におけるバッファコンデンサの実際の静電容量が、0.1秒以前における当該静電容量よりも3割減少した場合を、図16は0.1秒以降におけるバッファコンデンサの実際の静電容量が、0.1秒以前における当該静電容量よりも3割増大した場合を、それぞれ示す。
【0213】
なお、本実施の形態と第1の実施の形態とでは入力電力Pdcを揃えているが、本実施の形態では電圧利用率Rが0.96であるのに対し、第1の実施の形態では電圧利用率Rが1/√2(≒0.71)であるので、本実施の形態では第1の実施の形態と比較すると負荷電流iu,iv,iwの振幅が小さくなっている。
【0214】
図15図6との比較、および図16図7との比較から理解されるように、特許文献2の技術を採用した場合と比較すると、本実施の形態で提案した技術では、変動分(Vcmax−Vcmin)の変動は残っているものの、振幅Imの変動は小さく、リアクトル電流指令il*のピーク値の変動も小さい。振幅Imの平均値(図中、第2段目において横一直線の破線で示す)は第1の実施の形態と同様に約23A程度である。
【0215】
このような振幅Imの変動を小さくするには、第1の実施の形態で説明したように、充電制御部103の応答性を、単相交流電圧Vinの周波数(ω/(2π))の二倍の1/10以下とすることが望ましい。
【0216】
本実施の形態では第1の実施の形態の関数F1(ωt)と同様に、関数F3(ωt)を用いて充電指令iL*を得ることができ、第1の実施の形態と同様に、バッファコンデンサの実際の静電容量が変動しても、両端電圧Vcが顕著に変化することが回避される。
【0217】
I.変形.
上記で示されたいずれの技術を採用する場合であっても、フィルタ2をコンバータ3と電力バッファ回路4との間に設けることもできる。
【0218】
図17は当該変形として、フィルタ2をコンバータ3と電力バッファ回路4との間に設けた場合の、それらの近傍のみを示す回路図である。
【0219】
このような構成を採用する場合、直流電源線LHにおいて、フィルタ2と放電回路4aとの間に、ダイオードDoを設けることが望ましい。ダイオードDoのアノードはフィルタ2側に、カソードは放電回路4a側に、それぞれ配置される。
【0220】
コンデンサC2の両端電圧が、スイッチScのスイッチングによってコンデンサC4の両端電圧Vcの影響を受けることを、ダイオードDoによって防止できる。この効果は例えば特許文献4で紹介されている。
【符号の説明】
【0221】
3 コンバータ
4 電力バッファ回路
4a 放電回路
4b 充電回路
5 インバータ
7 直流リンク
10 制御装置
101 インバータ制御部
102 放電制御部
103 充電制御部
103a 振幅決定部
103b 充電指令生成部
103c 充電動作制御部
C4 コンデンサ
Sc スイッチ
F(ωt),F1(ωt),F2(ωt),F3(ωt) 関数
【要約】
【課題】直接型電力変換器が備える電力バッファ回路において、バッファコンデンサの静電容量に変化が生じても、その両端電圧の変動を抑制する。
【解決手段】制御装置10は充電制御部103を備える。充電制御部103は、振幅決定部103aと、充電指令生成部103bと、充電動作制御部103cとを有する。振幅決定部103aは、バッファコンデンサの両端電圧Vcの平均値についての指令値たる平均電圧指令値Vc*と両端電圧Vcとの偏差ΔVcに対して、少なくとも比例積分制御を行って、コンバータに入力する入力電流の振幅Imを決定する。充電指令生成部103bは、放電デューティdc、整流デューティdrec、電力の分配率に応じて決定される関数F(θ)を振幅Imに乗じて、充電指令iL*を決定する。充電動作制御部103cは、充電指令iL*に基づいてバッファコンデンサを充電する動作を制御する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17