特許第5874802号(P5874802)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許5874802-繊維構造体及び繊維強化複合材 図000002
  • 特許5874802-繊維構造体及び繊維強化複合材 図000003
  • 特許5874802-繊維構造体及び繊維強化複合材 図000004
  • 特許5874802-繊維構造体及び繊維強化複合材 図000005
  • 特許5874802-繊維構造体及び繊維強化複合材 図000006
  • 特許5874802-繊維構造体及び繊維強化複合材 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5874802
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】繊維構造体及び繊維強化複合材
(51)【国際特許分類】
   D03D 1/00 20060101AFI20160218BHJP
   D03D 11/00 20060101ALI20160218BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   D03D1/00 A
   D03D11/00 Z
   C08J5/04CEZ
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-238092(P2014-238092)
(22)【出願日】2014年11月25日
【審査請求日】2015年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆太
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/087093(WO,A1)
【文献】 特表2013−521209(JP,A)
【文献】 特表2013−532257(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0099062(US,A1)
【文献】 米国特許第5346774(US,A)
【文献】 特表2000−505164(JP,A)
【文献】 特開平3−113047(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0056847(US,A1)
【文献】 特開2003−49340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00−27/18
B29B 11/16,15/08−15/14
C08J 5/04−5/10
B29C 67/12−67/18,70/00
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主板用経糸及び主板用緯糸を含む繊維層が複数積層される多層織物製の主板部と、
副板用経糸及び副板用緯糸を含む繊維層が複数積層される多層織物製の副板部と、を備え、
前記主板部と、前記副板部とが交差する状態で一体に織られた繊維構造体であって、
前記主板部と前記副板部との交差箇所では、該交差箇所とは別の箇所よりも、前記主板用緯糸及び副板用緯糸の占める体積密度が小さいことを特徴とする繊維構造体。
【請求項2】
前記交差箇所は、前記主板用経糸と、前記副板用経糸のみで構成されている請求項1に記載の繊維構造体。
【請求項3】
前記主板用緯糸及び前記副板用緯糸の少なくとも一方は、前記交差箇所での太さが、該交差箇所とは別の箇所での太さより細い請求項1に記載の繊維構造体。
【請求項4】
繊維構造体にマトリックス樹脂を含浸させてなる繊維強化複合材であって、前記繊維構造体が請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の繊維構造体であることを特徴とする繊維強化複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造体及びその繊維構造体にマトリックス樹脂を含浸させてなる繊維強化複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材は軽量の構造材料として広く使用されている。繊維強化複合材用の強化基材として織物製の繊維構造体がある。この繊維構造体に、樹脂をマトリックスとした複合材はロケット、航空機、自動車、船舶及び建築物の構造材として用いられている。
【0003】
繊維構造体としては、例えば特許文献1に開示のものがある。図6(a)に示すように、特許文献1の繊維構造体80は、平板状の基板部(主板部)81にT字状のリブ(副板部)82を厚さ方向糸83によって結合して構成されている。
【0004】
ところで、特許文献1の繊維構造体80では、リブ82を基板部81に結合するため、リブ82をT字状としている。具体的には、L字状の繊維構造体82aを2つ接合してT字状としている。このため、基板部81にリブ82を結合するために、リブ82には、厚さ方向糸83を通すための部位が必要であり、繊維構造体80の重量増加、及び材料費増加を招いている。
【0005】
そこで、予め一体に織られた複数の繊維層から、主板部となる部位と、その主板部に交差した副板部となる部位を製造する方法がある(例えば、特許文献2参照)。図6(b)に示すように、特許文献2に開示の製造方法では、まず、水平な主板部を構成することとなる繊維層90と、主板部に垂直な副板部を構成することとなる繊維層91とを統合的に織る。2つの繊維層90,91は、それぞれ経糸と緯糸を製織して形成されている。そして、その織物を、2つの繊維層90,91の交差部から開くことによって、主板部、及び副板部を形成し、所望する形状の繊維構造体を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−269755号公報
【特許文献2】特表2011−506784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献2に開示の製造方法によって得られた繊維構造体において、水平な主板部を構成する繊維層90と、垂直な副板部を構成する繊維層91との交差箇所では、2つの繊維層90,91それぞれの経糸と緯糸が混在しており、交差箇所の重量が増大し、繊維構造体の重量も増大してしまう。また、交差箇所では、単位領域での糸の体積密度が高くなり、交差箇所に存在する糸が屈曲しやすく、交差箇所での強度が低下してしまう。
【0008】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、交差箇所での重量の増大、及び強度の低下を抑制することができる繊維構造体及び繊維強化複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するための繊維構造体は、主板用経糸及び主板用緯糸を含む繊維層が複数積層される多層織物製の主板部と、副板用経糸及び副板用緯糸を含む繊維層が複数積層される多層織物製の副板部と、を備え、前記主板部と、前記副板部とが交差する状態で一体に織られた繊維構造体であって、前記主板部と前記副板部との交差箇所では、該交差箇所とは別の箇所よりも、前記主板用緯糸及び副板用緯糸の占める体積密度が小さいことを要旨とする。
【0010】
これによれば、主板用緯糸及び副板用緯糸に関して、交差箇所での体積密度がその他の箇所より小さい。このため、主板部と副板部を一体に織った繊維構造体であっても、その他の箇所よりも交差箇所での、主板用緯糸及び副板用緯糸の体積密度が減少した分、主板部と副板部の交差箇所での重量増加が抑えられ、繊維構造体全体の重量の増加が抑えられる。また、主板部と副板部の交差箇所では、その他の箇所より体積密度の減少した分、主板用経糸や副板用経糸が、主板用緯糸及び副板用緯糸によって曲げられにくく、交差箇所での強度低下を抑制できる。
【0011】
また、繊維構造体について、前記交差箇所は、前記主板用経糸と、前記副板用経糸のみで構成されていてもよい。
これによれば、交差箇所に主板用緯糸及び副板用緯糸が使用される場合と比べると、交差箇所の厚み及び重量を軽減することができ、さらに、交差箇所において主板用経糸及び副板用経糸が曲がりにくくなり、交差箇所の強度低下を抑制することができる。
【0012】
また、繊維構造体について、前記主板用緯糸及び前記副板用緯糸の少なくとも一方は、前記交差箇所での太さが、該交差箇所とは別の箇所での太さより細くてもよい。
これによれば、交差箇所に主板用緯糸、及び副板用緯糸の少なくとも一方が使用されることにより、交差箇所の形状が保持しやすくなる。
【0013】
また、上記問題点を解決するための繊維強化複合材は、繊維構造体にマトリックス樹脂を含浸させてなる繊維強化複合材であって、前記繊維構造体が請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の繊維構造体であることを要旨とする。
【0014】
これによれば、主板用緯糸及び副板用緯糸に関して、交差箇所での体積密度がその他の箇所より小さい。このため、主板部と副板部を一体に織った繊維構造体であっても、その他の箇所よりも、主板用緯糸及び副板用緯糸の体積密度が減少した分、主板部と副板部の交差箇所での重量増加が抑えられる。また、主板部と副板部の交差箇所では、その他の箇所より体積密度の減少した分、主板用経糸や副板用経糸が、主板用緯糸及び副板用緯糸によって曲げられにくく、交差箇所での強度低下を抑制できる。
【0015】
よって、このような繊維構造体にマトリックス樹脂を含浸させた繊維強化複合材では、交差箇所での重量の増加が抑えられ、全体重量の増加も抑えられる。また、交差箇所での強度低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、交差箇所での重量の増大、及び強度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態の繊維強化複合材を示す斜視図。
図2】主板部、副板部、交差箇所を示す断面図。
図3】(a)は主板部前駆体と副板部前駆体を交差させて製造した状態を示す斜視図、(b)は副板部前駆体を主板部前駆体に対し起立させた状態を示す斜視図。
図4】緯糸を細くした別例の繊維構造体を示す断面図。
図5】繊維構造体の別例を示す断面図。
図6】(a)及び(b)は背景技術を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、繊維構造体及び繊維強化複合材を具体化した一実施形態を図1図3にしたがって説明する。
図1に示すように、繊維強化複合材Mは、繊維構造体Wにマトリックス樹脂Maを含浸させて形成されたものである。
【0019】
まず、繊維構造体Wについて説明する。
図1及び図2に示すように、繊維構造体Wは、矩形平板状の主板部11と、その主板部11に直交した矩形平板状の副板部21とを備える。主板部11と副板部21は一体に織られている。副板部21は、主板部11の補強リブとして機能する。繊維構造体Wは、T字状である。
【0020】
主板部11は、主板用繊維層10を複数積層(4層)して構成された多層織物製である。各主板用繊維層10は、強化繊維製の複数の主板用経糸12と、強化繊維製の複数の主板用緯糸13とを製織してなる。なお、「強化繊維」とは、主板部11を、繊維強化複合材Mの繊維基材として使用した際に、繊維強化複合材Mのマトリックス樹脂Maを強化する役割を担う繊維束を意味する。そして、本実施形態では、強化繊維として炭素繊維が使用されるとともに、主板用経糸12と主板用緯糸13は同じ炭素繊維で形成された同一の糸となっている。
【0021】
また、複数の主板用経糸12は、繊維束からなり互いに平行に直進性を持って配列され、複数の主板用緯糸13も繊維束からなり互いに平行にかつ主板用経糸12と交差(直交)する方向に直進性を持って配列されている。主板用繊維層10は、主板用経糸12と主板用緯糸13の平織りによって形成されている。主板部11は、主板用繊維層10の積層方向両端に平面11aを有する。各平面11aは、複数の主板用経糸12と複数の主板用緯糸13の表面によって矩形状に形成されている。
【0022】
副板部21は、副板用繊維層20を複数積層(4層)して構成された多層織物製である。各副板用繊維層20は、強化繊維製の複数の副板用経糸22と、強化繊維製の複数の副板用緯糸23とを製織してなる。なお、「強化繊維」とは、副板部21を、繊維強化複合材Mの繊維基材として使用した際に、繊維強化複合材Mのマトリックス樹脂Maを強化する役割を担う繊維束を意味する。そして、本実施形態では、強化繊維として炭素繊維が使用されるとともに、副板用経糸22と副板用緯糸23は同じ炭素繊維で形成された同一の糸となっている。
【0023】
また、複数の副板用経糸22は、繊維束からなり互いに平行に直進性を持って配列され、複数の副板用緯糸23も繊維束からなり互いに平行にかつ副板用経糸22と交差(直交)する方向に直進性を持って配列されている。副板用繊維層20は、副板用経糸22と副板用緯糸23の平織りによって形成されている。副板部21は、副板用繊維層20の積層方向両端に平面21aを有する。各平面21aは、複数の副板用経糸22と複数の副板用緯糸23の表面によって矩形状に形成されている。
【0024】
主板用経糸12が、主板部11で延びる方向を繊維構造体WのX方向とし、副板用経糸22が、副板部21で延びる方向を繊維構造体WのZ方向とする。また、主板部11及び副板部21で、主板用緯糸13及び副板用緯糸23が延びる方向を繊維構造体WのY方向とする。この場合、X方向とY方向、Y方向とZ方向、及びX方向とZ方向は直交している。よって、繊維構造体Wでは、主板部11で主板用経糸12が延びる方向(X方向)に対し、副板部21で副板用経糸22が延びる方向(Z方向)が直交している。
【0025】
繊維構造体Wでは、主板部11におけるZ方向が、主板用繊維層10の積層方向であり、主板部11におけるZ方向両端に平面11aを有する。また、繊維構造体Wでは、副板部21におけるX方向が、副板用繊維層20の積層方向であり、副板部21におけるX方向両端に平面21aを有する。そして、繊維構造体Wでは、主板部11と副板部21とは、主板部11の平面11aと副板部21の平面21aとが直交(交差)している。
【0026】
主板部11では、主板用経糸12は、X方向に沿って直進する状態で延びており、直進性を持っている。また、主板部11では、主板用緯糸13は、Y方向に沿って直進する状態で延びており、直進性を持っている。なお、主板用経糸12と主板用緯糸13とが、平織りによって互いに接触することで相手の糸に沿いながら湾曲していても、主板用経糸12及び主板用緯糸13は各方向に沿って直進しているため、主板用経糸12及び主板用緯糸13は直進性を有していると言える。
【0027】
副板部21では、副板用経糸22は、Z方向に沿って直進する状態で延びており、直進性を持っている。また、副板部21では、副板用緯糸23は、Y方向に沿って直進する状態で延びており、直進性を持っている。なお、副板用経糸22と副板用緯糸23とが、平織りによって互いに接触することで相手の糸に沿いながら湾曲していても、副板用経糸22及び副板用緯糸23は各方向に沿って直進しているため、副板用経糸22及び副板用緯糸23は直進性を有していると言える。
【0028】
図2に示すように、繊維構造体Wは、主板部11と副板部21が交わる交差箇所30を有する。交差箇所30は、主板部11と副板部21を一体に織って形成する際に形成される。交差箇所30では、X方向に延びた主板用経糸12と、Z方向に延びた副板用経糸22とが交わって(直交して)いる。交差箇所30には、Y方向に延びる糸である主板用緯糸13及び副板用緯糸23が存在しない。よって、交差箇所30は、主板用経糸12と副板用経糸22のみで形成された2軸構造となっている。一方、繊維構造体Wにおいて、主板部11は、主板用経糸12と主板用緯糸13で形成された2軸構造であり、副板部21は、副板用経糸22と副板用緯糸23で形成された2軸構造である。
【0029】
交差箇所30において、単位領域Sに含まれる、Y方向に延びる糸(主板用緯糸13及び副板用緯糸23)の数はゼロである。このため、交差箇所30では、単位領域SでY方向に延びる糸(主板用緯糸13及び副板用緯糸23)が占める体積の割合を示す体積密度は、ゼロである。一方、繊維構造体Wにおける交差箇所30とは別の箇所である主板部11では、単位領域Sには、Y方向に延びる糸として主板用緯糸13が存在するため、主板用緯糸13が占める体積密度は、ゼロより大きい値となる。また、図示しないが、副板部21でも、単位領域Sには、Y方向に延びる糸として副板用緯糸23が存在するため、副板用緯糸23が占める体積密度は、ゼロより大きい値となる。よって、交差箇所30での主板用緯糸13及び副板用緯糸23の占める体積密度は、主板部11及び副板部21での主板用緯糸及び副板用緯糸の占める体積密度より小さい。なお、単位領域Sとは、単位長さ(例えば10cm)の立方体で囲まれる領域のことである。
【0030】
図1に示すように、繊維強化複合材Mは、上記構成の繊維構造体Wにマトリックス樹脂Maを含浸させて形成されている。マトリックス樹脂Maとしては、熱硬化性樹脂が用いられている。マトリックス樹脂Maは、主板部11及び副板部21に含浸している。
【0031】
次に、繊維構造体Wの製造方法について説明する。
まず、図示しない織機によって、図3(a)に示すように、主板用経糸12と主板用緯糸13を平織りして主板用繊維層10を製織する。この主板用繊維層10の製織は複数同時に行い、主板用繊維層10の多層構造である主板部前駆体41を製造する。
【0032】
また、主板部前駆体41の製造と同時に、副板用経糸22と副板用緯糸23を平織りして副板用繊維層20を製織する。この副板用繊維層20の製織は複数同時に行い、副板用繊維層20の多層構造である副板部前駆体42を製造する。
【0033】
主板部前駆体41と副板部前駆体42とは、主板用経糸12と副板用経糸22とがX方向へ延び、かつ主板用緯糸13と副板用緯糸23とがY方向へ延びるように製造される。その結果、主板部前駆体41と副板部前駆体42とが互いに重なり合った平板状の繊維前駆体40が製造される。
【0034】
繊維前駆体40の製造において、主板部前駆体41と副板部前駆体42とが交差するタイミングでは、主板用緯糸13と副板用緯糸23とを緯入れしない。その結果、得られる繊維前駆体40では、主板用緯糸13及び副板用緯糸23が存在しない、主板部前駆体41と副板部前駆体42との交差箇所30が製造される。
【0035】
なお、繊維前駆体40において、主板部前駆体41は、X方向において交差箇所30を挟んだ両側に形成されている。平板状の主板部前駆体41において、主板用繊維層10の積層方向両端に平面11aが形成され、副板部前駆体42において、副板用繊維層20の積層方向両端に平面21aが形成されている。繊維前駆体40には、副板部前駆体42において、主板部前駆体41の一方の平面11a側に突出した部位で形成された第1突出部42aと、主板部前駆体41の他方の平面11a側に突出した部位で形成された第2突出部42bが形成されている。第2突出部42bには副板用緯糸23は緯入されず、副板用緯糸23の緯入れは第1突出部42aの製造時のみ行われる。
【0036】
次に、図3(b)に示すように、副板部前駆体42の第1突出部42aを主板部前駆体41に対し起立させ、第1突出部42aを構成した副板用経糸22を、主板部前駆体41の主板用経糸12に対し直交させる。一方、副板部前駆体42の第2突出部42bを、交差箇所30に近い根本から切断し、第2突出部42bを繊維前駆体40から切除する。すると、主板部前駆体41と副板部前駆体42とからT字状の繊維構造体Wが製造される。
【0037】
そして、T字状の繊維構造体Wに、熱硬化性のマトリックス樹脂Maを含浸硬化させる。マトリックス樹脂Maの含浸硬化はRTM(レジン・トランスファー・モールディング)法で行われる。具体的には、凹凸で構成された金型に繊維構造体Wを封入し、金型内に熱硬化性のマトリックス樹脂Maを注入し、硬化させると、繊維強化複合材Mが製造される。
【0038】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)T字状の繊維構造体Wにおいて、主板部11と副板部21の交差箇所30では主板用緯糸13及び副板用緯糸23を使用せず、それら主板用緯糸13及び副板用緯糸23の体積密度を、交差箇所30とは別の箇所より小さくした。このため、交差箇所30に、主板用経糸12と副板用経糸22に加え、主板用緯糸13と副板用緯糸23が存在する場合と比べると、交差箇所30の厚みを薄くでき、繊維構造体Wの重量を軽くすることができる。
【0039】
また、交差箇所30に、主板用緯糸13と副板用緯糸23が存在する場合と比べると、交差箇所30を形成した主板用経糸12及び副板用経糸22が曲げられにくくなる。その結果として、交差箇所30では、主板用経糸12及び副板用経糸22の直進性を保つことができ、交差箇所30の強度低下を抑えることができる。
【0040】
(2)T字状の繊維構造体Wを製造する方法として、平板状の織物に対し、T字状をなす別体の織物を結合する方法がある。この場合、別体の織物は、平板状の織物への結合代としてフランジを有する構成となるため、繊維構造体の重量が嵩むし、材料費も嵩む。しかし、本実施形態の繊維構造体Wは、主板部11と副板部21を一体に織って形成されているため、結合代となるフランジが不要となり、重量及び材料費を軽減することができる。
【0041】
加えて、T字状の別体の織物として、L字状に屈曲させた織物を2つ結合して形成される場合がある。この場合には、L字の屈曲部で強度が低下する。繊維強化複合材の強度は、繊維構造体において強度の最も低い部位での強度となる。このため、繊維構造体にL字に屈曲した部分が存在すると、フランジとなる部分が平板状の織物に結合され、その結合部での強度が屈曲した部分より高められても、フランジの結合部は不要な部分となり、重量増を招くだけとなる。
【0042】
しかし、本実施形態の繊維構造体WはT字状であっても、主板部11及び副板部21を交差させて一体に織られて形成されており、L字の織物のような屈曲部が存在しないため、強度低下する部分もなく、不要な部分も存在しない。
【0043】
(3)主板部11では、主板用経糸12が直進性を保っており、副板部21では副板用経糸22が直進性を保っている。このため、主板部11及び副板部21での強度が低下しにくい。
【0044】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
図4に示すように、交差箇所30に主板用緯糸33を存在させてもよい。より具体的には、主板部11において交差箇所30を構成する部位も織構造とし、その織構造を主板用経糸12とともに構成するための主板用緯糸33を交差箇所30に存在させてもよい。ただし、この場合、交差箇所30に存在する主板用緯糸33の太さは、主板部11に存在する主板用緯糸13、及び副板部21に存在する副板用緯糸23の太さより細く、交差箇所30でのY方向に延びる糸(主板用緯糸33)の占める体積密度は、交差箇所30とは別の箇所での体積密度より小さい。
【0045】
このように構成した場合、交差箇所30に主板用緯糸33を使用し織構造とすることで、Y方向に延びる糸が無い場合と比べると、交差箇所30での形状保持性を高めることができる。
【0046】
なお、交差箇所30に使用するY方向に延びる糸は、副板部21において交差箇所30となる部位を織構造としたときに使用される副板用緯糸であってもよいし、主板部11を構成する主板用緯糸33と、副板部21を構成する副板用緯糸の両方であってもよい。
【0047】
図5に示すように、主板部11において、複数の主板用繊維層10同士は、厚み方向糸14によって積層方向(厚み方向)に結合されていてもよい。また、副板部21において、複数の副板用繊維層20同士は、厚み方向糸24によって積層方向(厚み方向)に結合されていてもよい。
【0048】
このように構成した場合、繊維前駆体40の製造時に、主板部前駆体41では主板用繊維層10がばらけることが抑制され、副板部前駆体42では副板用繊維層20がばらけることを抑制できる。
【0049】
○ 実施形態では、主板部11における主板用経糸12の延びる方向と、副板部21における副板用経糸22の延びる方向とが直交しているとしたが、主板用経糸12の延びる方向と、副板部21における副板用経糸22の延びる方向とは、直交から若干ずれていてもよい。
【0050】
○ 繊維前駆体40の交差箇所30とは別の箇所を製造する際、例えば、主板用経糸12の送り出し速度(送り出し量)を遅く(少なく)して、主板用緯糸13の本数を多くして、Y方向に延びる糸の体積密度を大きくする。このようにすると、交差箇所30では、交差箇所30とは別の箇所よりも主板用緯糸13の本数が少なくなり、Y方向に延びる糸の体積密度が、その他の箇所より小さくなる。
【0051】
○ 主板部11及び副板部21の織組織は、平織りでなくてもよく、朱子織りや綾織りであってもよい。
○ 主板部11及び副板部21はそれぞれ平織りといった織組織で形成したが、これに限らない。例えば、主板部11において、複数の主板用経糸12を互いに平行に配列して形成された繊維層に、複数の主板用緯糸13を互いに平行に配列して形成された繊維層を積層し、それら繊維層同士を厚み方向糸で結合して多層織物としてもよい。この場合、2軸配向となるが、それに限らず、糸を増やして3軸配向や4軸配向としてもよい。同様に、副板部21において、複数の副板用経糸22を互いに平行に配列して形成した繊維層に、複数の副板用緯糸23を互いに平行に配列して形成した繊維層を積層し、それら繊維層を厚み方向糸で結合して多層織物としてもよい。この場合、2軸配向となるが、それに限らず、糸を増やして3軸配向や4軸配向としてもよい。
【0052】
○ 実施形態では、マトリックス樹脂Maとして熱硬化性樹脂を用いたが、その他の種類の樹脂を用いてもよい。
○ 実施形態では、主板部11の主板用繊維層10の数を4層としたが、2層、3層又は5層以上であってもよい。また、副板部21の副板用繊維層20の数を4層としたが、2層、3層又は5層以上であってもよい。
【0053】
○ 繊維構造体Wにマトリックス樹脂Maを含浸、硬化させて繊維強化複合材Mを製造する方法はRTM法に限らない。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について追記する。
【0054】
(イ)前記主板部に対し前記副板部は直交し、かつT字状である繊維構造体。
(ロ)前記副板部は補強リブとして機能する繊維構造体。
【符号の説明】
【0055】
W…繊維構造体、Ma…マトリックス樹脂、11…主板部、12…主板用経糸、13,33…主板用緯糸、21…副板部、22…副板用経糸、23…副板用緯糸、30…交差箇所。
【要約】
【課題】交差箇所での重量の増大、及び強度の低下を抑制することができる繊維構造体及び繊維強化複合材を提供すること。
【解決手段】繊維構造体Wは、主板部11と副板部21を備え、主板部11と、副板部21とが交わる状態で主板部11と副板部21とが一体に織られている。繊維構造体Wにおいて、主板部11と副板部21との交差箇所30では、その交差箇所30とは別の箇所よりも、主板用緯糸13及び副板用緯糸23の占める体積密度が小さい。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6