(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に電力貯蔵電池では強酸性の電解液が用いられる。強酸性の電解液中において、金属レドックスイオンは比較的高濃度であっても安定して溶解されるため、電池のエネルギー密度を高くすることができる。また、強酸性の電解液では、イオン伝導のキャリアはH
+イオン又はOH
−イオンとなる。H
+イオンの移動度及びOH
−イオンの移動度はいずれも比較的高いため、電解液の導電率は高くなる。これにより、電池の抵抗は小さくなる結果、電池の効率は高まる。このように強酸性の電解液を用いた場合、レドックスフロー電池を構成する材料には、電解液に耐え得る耐薬品性が求められることになる。これに対して、pH2以上8以下の電解液を用いる場合、電池を構成する材料の耐薬品性を低めることができる結果、電力貯蔵電池の製造コストを低減することが可能となる。ところが、その場合、イオン伝導のキャリアはH
+イオン及びOH
−イオンのいずれでもなく、例えばNa
+イオン、K
+イオン、Cl
−イオン、SO
42−イオン等となる。こうしたイオンの移動度は、H
+イオン及びOH
−イオンに比較して小さいため、電解液の導電率は低くなる。これにより、電池の抵抗は大きくなる結果、電池の効率は低くなる。また、上記pHの電解液中では、金属レドックスイオンが安定して溶解し難くなる。このため、電解液中に金属レドックスイオンを高濃度に溶解させることが困難となる結果、電池のエネルギー密度が低くなる。
【0006】
上記pHの電解液中において抵抗が大きくなる欠点や金属レドックスイオンの溶解性が低下する欠点は、電解液にキレート剤を含有させて金属レドックスイオンを錯体化することにより、補うことが可能と考えられる。しかしながら、キレート剤を用いた電力貯蔵電池については、未だ実用化の報告がないのが実情である。
【0007】
この点、例えば、非特許文献1のTable2を参照して、鉄イオンの溶解度を対比すると、Fe
2(SO
4)
3の場合が1.6モル/Lであるのに対して、鉄−エチレンジアミン四酢酸錯体の場合は0.2モル/L、鉄−クエン酸錯体の場合は0.8モル/L、鉄−シュウ酸錯体の場合は0.1モル/Lに留まる。すなわち、鉄イオンの溶解度は錯体を形成することで半分以下となるため、鉄のレドックス系では実用的なエネルギー密度が得られないおそれがある。
【0008】
また、銅のレドックス系は、特許文献1の
図4に示されている。特許文献1の
図4は、塩酸溶液中におけるレドックス系の比較図である。一方、特許文献1の
図3は、硫酸溶液中におけるレドックス系の比較図である。この
図3には、銅イオンのプロットが存在しない。こうした特許文献1には、銅のレドックス系は硫酸溶液中では良好に動作せず、塩酸溶液中で良好に動作することが示唆されている。ところが、塩酸溶液中のレドックス系では、正極において塩素ガスが発生するおそれがある。この点、負極電解液に銅のレドックス系物質を使用する場合、正極電解液に起電力の高いレドックス系物質を使用すると、塩素ガスが発生し易くなる。このため、銅のレドックス系を用いる場合、高い起電力の電力貯蔵電池を得ることが困難となる。このように、銅のレドックス系物質を電力貯蔵電池に用いるには技術的な課題があるのが実情である。
【0009】
本発明は、こうした実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、pH2以上8以下の範囲内の電解液とした場合であっても、銅のレドックス系物質を用いることができるとともに、電池の効率及び電池のエネルギー密度を確保することの容易な電力貯蔵電池
及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様では、銅のレドックス
対(Cu(II)/Cu(I))とポリエチレンイミンとを含有する負極電解液を備える電力貯蔵電池を提供する。
【0011】
前記電力貯蔵電池において、前記負極電解液中の銅のレドックス
対(Cu(II)/Cu(I))に対する前記ポリエチレンイミンのモル比は、ポリエチレンイミンのモル濃度を当該ポリエチレンイミンの基本単位であるCH
2CH
2NH構造のモル濃度とした場合、1以上、5以下の範囲内とされることが好ましい。
【0013】
硫酸銅を水に溶解させることで前記負極電解液に前記銅のレドックス
対(Cu(II)/Cu(I))を含有させることが好ましい。
【0014】
前記電力貯蔵電池において、前記負極電解液中の前記銅のレドックス
対(Cu(II)/Cu(I))の含有量が0.2モル/L以上、1.0モル/L以下の範囲内であることが好ましい。
【0015】
前記電力貯蔵電池において、前記負極電解液のpHが2以上、8以下の範囲内であることが好ましい。
上記電力貯蔵電池の製造方法において、前記負極電解液は、前記ポリエチレンイミンの存在下で前記銅のレドックス対(Cu(II)/Cu(I))の電解還元反応及び電解酸化反応を1サイクルとした反応を10サイクル以上行われることで調製されることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る電力貯蔵電池としてのレドックスフロー型電池について説明する。
【0018】
<レドックスフロー型電池の構造>
図1に示すように、レドックスフロー型電池は、充放電セル11を備える。充放電セル11の内部は、隔膜12によって正極側セル21と負極側セル31とに仕切られている。レドックスフロー型電池は、正極側セル21に用いられる正極電解液22を貯蔵する正極電解液タンク23と、負極側セル31に用いられる負極電解液32を貯蔵する負極電解液タンク33とを備える。レドックスフロー型電池には、充放電セル11周辺の温度を調節する温度調節装置が必要に応じて設けられる。
【0019】
正極側セル21には、正極21aと正極側集電板21bとが接触した状態で配置されている。負極側セル31には、負極31aと負極側集電板31bとが接触された状態で配置されている。正極21a及び負極31aは、例えばカーボン製のフェルトから構成される。正極側集電板21b及び負極側集電板31bは、例えばガラス状カーボン板から構成される。各集電板21b,31bは、充放電装置10に電気的に接続されている。
【0020】
正極側セル21には、供給管24及び回収管25を介して正極電解液タンク23が接続されている。供給管24には、ポンプ26が装備されている。ポンプ26の作動により、正極電解液タンク23内の正極電解液22は、供給管24を通じて正極側セル21に供給される。このとき、正極側セル21内の正極電解液22は、回収管25を通じて正極電解液タンク23に回収される。このように正極電解液22は、正極電解液タンク23と正極側セル21とを循環される。
【0021】
負極側セル31には、供給管34及び回収管35を介して負極電解液タンク33が接続されている。供給管34には、ポンプ36が装備されている。ポンプ36の作動により、負極電解液タンク33内の負極電解液32は、供給管34を通じて負極側セル31に供給される。このとき、負極側セル31内の負極電解液32は、回収管35を通じて負極電解液タンク33に回収される。このように負極電解液32は、負極電解液タンク33と負極側セル31とを循環される。
【0022】
充放電セル11、正極電解液タンク23及び負極電解液タンク33には、不活性ガスを供給する不活性ガス供給管13が接続されている。不活性ガス供給管13には、不活性ガス発生装置から不活性ガスが供給される。正極電解液タンク23及び負極電解液タンク33には、不活性ガス供給管13を通じて、不活性ガスが供給されることで、正極電解液22及び負極電解液32と大気中の酸素との接触が抑制される。不活性ガスとしては、例えば窒素ガスが用いられる。正極電解液タンク23及び負極電解液タンク33に供給された不活性ガスは、排気管14を通じて排気される。排気管14の排出側の先端には、排気管14の開口を水封する水封部15が設けられている。水封部15は、排気管14内に大気が逆流することを防止するとともに、正極電解液タンク23内及び負極電解液タンク33内の圧力を一定に保つ。
【0023】
充電時には、正極21aに接触する正極電解液22中で酸化反応が行われるとともに、負極31aに接触する負極電解液32中で還元反応が行われる。すなわち、正極21aは電子を放出するとともに、負極31aは電子を受け取る。このとき、正極側集電板21bは、正極21aから放出された電子を充放電装置10に供給する。負極側集電板31bは、充放電装置10から受け取った電子を負極31aに供給する。負極側集電板31bは、負極31aから放出された電子を集めて充放電装置10に供給する。
【0024】
放電時には、正極21aに接触する正極電解液22中で還元反応が行われるとともに、負極31aに接触する負極電解液32中で酸化反応が行われる。すなわち、正極21aは電子を受け取るとともに、負極31aは電子を放出する。このとき、正極側集電板21bは、充放電装置10から受け取った電子を正極21aに供給する。
【0025】
<電解液>
レドックスフロー型電池は、銅のレドックス系物質とポリエチレンイミンとを含有する負極電解液32を備える。銅は、負極電解液32中に含まれる活物質として、充電時には、Cu(II)からCu(I)に還元され、放電時には、Cu(I)からCu(II)に酸化されると推測される。負極電解液32に銅のレドックス物質を含有させる際には、例えば入手が容易であるという観点から、硫酸銅(CuSO
4)を水に溶解させることが好ましい。
【0026】
負極電解液32中における銅のレドックス系物質(銅イオン)の濃度は、エネルギー密度を高めるという観点から、好ましくは0.1モル/L以上であり、より好ましくは0.2モル/L以上であり、さらに好ましくは0.4モル/L以上である。負極電解液32中における銅のレドックス系物質(銅イオン)の濃度は、銅のレドックス系物質の析出を更に抑制するという観点から、好ましくは2.5モル/L以下であり、より好ましくは1.5モル/L以下である。
【0027】
ポリエチレンイミン(PEI)は、キレート剤の一種であり、銅のレドックス系物質と錯体を生成し、負極電解液32中において銅のレドックス系物質の析出を抑制する働きを有する。ポリエチレンイミンは、CH
2CH
2NH構造を基本単位として有し、直鎖状であってもよいし、分岐構造を有するものであってもよい。分岐構造を有するポリエチレンイミンは、一級アミン、二級アミン、及び三級アミンを含む。
【0028】
ポリエチレンイミンとしては、水に対する溶解度(20℃)が0.2モル/L以上ものを用いることが好ましい。ポリエチレンイミンの重量平均分子量は、例えば200以上、100000以下であることが好ましく、300以上、10000以下であることがより好ましい。
【0029】
負極電解液32中の銅のレドックス系物質に対するポリエチレンイミンのモル比は、例えば0.5以上、10以下の範囲内とされることが好ましく、1以上、5以下の範囲とされることがより好ましい。但し、ポリエチレンイミンのモル濃度は、ポリエチレンイミンの基本単位であるCH
2CH
2NH構造のモル濃度とする。上記モル比が0.5以上の場合、銅のレドックス系物質の析出を抑制することが更に容易となる。上記モル比が10以下の場合、反応性や充放電サイクル特性(可逆性)が高まる傾向となる。
【0030】
負極電解液32のpHは、好ましくは2以上、8以下の範囲内であり、より好ましくは2以上、5以下の範囲内である。負極電解液32のpHが2以上の場合、耐食性が確保され易くなる。負極電解液32のpHが8以下の場合、銅のレドックス物質の析出を更に抑制することが容易となる。
【0031】
負極電解液32には、必要に応じて、例えば、無機酸の塩又は有機酸の塩、ポリエチレンイミン以外のキレート剤を含有させることもできる。
【0032】
負極電解液32は、充放電容量及びクーロン効率を高めるという観点から、ポリエチレンイミンの存在下で銅のレドックス系物質の電解還元反応及び電解酸化反応を1サイクルとした反応を10サイクル以上行われることで調製されることが好ましい。負極電解液32の上記1サイクルとした反応は、製造効率を高めるという観点から、30サイクル以下であることが好ましい。
【0033】
正極電解液22の活物質としては、特に限定されず、例えば、鉄のレドックス系物質、クロムのレドックス系物質、マンガンのレドックス系物質、銅のレドックス系物質、及びバナジウムのレドックス系物質が挙げられる。
【0034】
正極電解液22中における金属のレドックス系物質(金属イオン)の濃度は、エネルギー密度を高めるという観点から、好ましくは0.1モル/L以上であり、より好ましくは0.2モル/L以上であり、さらに好ましくは0.4モル/L以上である。
【0035】
正極電解液22中における金属のレドックス系物質(金属イオン)の濃度は、金属のレドックス系物質の析出を抑制するという観点から、好ましくは2.5モル/L以下であり、より好ましくは1.5モル/L以下である。
【0036】
正極電解液22の活物質としては、例えばマンガンのレドックス系物質が好適に用いられる。正極電解液22にマンガンを含有させる際には、塩素イオンが含まれないように、例えば硫酸マンガンを水に溶解させることが好ましい。マンガンは、正極電解液22中に含まれる活物質として、充電時には、Mn(III)からMn(IV)に酸化され、放電時には、Mn(IV)からMn(III)に還元されると推測される。
【0037】
正極電解液22には、更にキレート剤を含有させることが好ましい。キレート剤としては、例えば、アミノカルボン系キレート剤、及びポリエチレンイミンから選択される。正極電解液22には、マンガンのレドックス系物質とポリエチレンイミンとが含有されることが好ましい。ポリエチレンイミンの説明については、上述したので省略する。正極電解液22中のマンガンのレドックス系物質に対するポリエチレンイミンのモル比は、例えば0.5以上、10以下の範囲内とされることが好ましく、1以上、5以下の範囲とされることがより好ましい。
【0038】
正極電解液22には、必要に応じて、例えば、無機酸の塩又は有機酸の塩を含有させることもできる。
【0039】
負極電解液32及び正極電解液22は、公知の方法で調製することができる。負極電解液32及び正極電解液22に用いる水は、蒸留水と同等又はそれ以上の純度を有していることが好ましい。レドックスフロー型電池は、負極電解液32及び正極電解液22を不活性ガスの雰囲気下として充放電されることが好ましい。
【0040】
<レドックスフロー型電池の作用>
銅のレドックス系物質とポリエチレンイミンとを含有する負極電解液32中では、銅のレドックス系物質とポリエチレンイミンとが錯体を形成することで、銅の析出が抑制される。また、この負極電解液32を用いることで、良好な電池性能が発揮されるとともに、自己放電が抑制される。
【0041】
レドックスフロー型電池の性能は、例えば、充放電サイクル特性(可逆性)、クーロン効率、電圧効率、エネルギー効率、電解液の利用率、起電力、及び電解液の電位により評価することができる。以下では、レドックスフロー型電池の充放電1回を1サイクルという。
【0042】
充放電サイクル特性(可逆性)は、31サイクル目の放電のクーロン量(A)と50サイクル目の放電のクーロン量(B)とを下記式(1)に代入することで算出される。
【0043】
充放電サイクル特性[%]=B/A×100 ・・・(1)
充放電サイクル特性は、80%以上であることが好ましい。
【0044】
クーロン効率は、50サイクル目の充電のクーロン量(C)と放電のクーロン量(D)とを下記式(2)に代入することで算出される。
【0045】
クーロン効率[%]=D/C×100 ・・・(2)
クーロン効率は、好ましくは80%以上である。
【0046】
電圧効率は、2サイクル目の充電の平均端子電圧(E)と放電の平均端子電圧(F)とを下記式(3)に代入することで算出される。
【0047】
電圧効率[%]=F/E×100 ・・・(3)
電圧効率は、好ましくは60%以上である。
【0048】
エネルギー効率は、2サイクル目の充電の電力量(G)と放電の電力量(H)とを下記式(4)に代入することで算出される。
【0049】
エネルギー効率[%]=H/G×100 ・・・(4)
エネルギー効率は、好ましくは60%以上である。
【0050】
電解液の利用率は、正極21a側又は負極31a側に供給される電解液の活物質のモル数にファラデー定数(96500クーロン/モル)を乗じてクーロン量(I)を求めるとともに、1サイクル目の放電のクーロン量(J)を求め、クーロン量(I)とクーロン量(J)とを下記式(5)に代入することで算出される。なお、正極21a側に供給される電解液の活物質のモル数と負極31a側に供給される電解液の活物質のモル数とが異なる場合は、より小さいモル数を採用する。1サイクル目以降の電解液の利用率についても、同様に算出することができる。
【0051】
電解液の利用率[%]=J/I×100 ・・・(5)
電解液の利用率は、好ましくは55%以上である。
【0052】
起電力は、1サイクル目において充電から放電に切り替えるとき(電流が0mAのとき)の端子電圧とされる。起電力は、1.0V以上であることが好ましい。
【0053】
電解液の電位は、正極電解液タンク23及び負極電解液タンク33のそれぞれに予め黒鉛電極と銀−塩化銀(飽和KCl)電極とを挿入したときに、充放電中の銀−塩化銀電極に対する黒鉛電極の電位として示される。
【0054】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0055】
(1)本実施形態のレドックスフロー型電池では、銅のレドックス系物質とポリエチレンイミンとを含有する負極電解液32を備える。この負極電解液32では、pH2以上8以下の範囲内とした場合であっても、銅のレドックス系物質の析出が抑制される。従って、pH2以上8以下の範囲内の電解液とした場合であっても、銅のレドックス系を用いることができるとともに、電池の効率及び電池のエネルギー密度を確保することの容易な電力貯蔵電池が提供される。
【0056】
(2)負極電解液32中の銅のレドックス系物質に対するポリエチレンイミンのモル比は、ポリエチレンイミンのモル濃度をポリエチレンイミンの基本単位であるCH
2CH
2NH構造のモル濃度とした場合、1以上、5以下の範囲内とされることが好ましい。この場合、銅のレドックス系物質の析出を抑制することが更に容易となるとともに、反応性や充放電サイクル特性(可逆性)が高まる傾向となる。
【0057】
(3)負極電解液32は、ポリエチレンイミンの存在下で銅のレドックス系物質の電解還元反応及び電解酸化反応を1サイクルとした反応を10サイクル以上行われることで調製されることが好ましい。この場合、充放電容量及びクーロン効率を高めることが容易となる。なお、銅のレドックス系物質とポリエチレンイミンとの錯体の形成は、上記反応により促進されるに伴って、充放電容量及びクーロン効率が高まると推測される。
【0058】
(4)硫酸銅を水に溶解させることで負極電解液32に銅のレドックス系物質を含有させることが好ましい。この場合、硫酸銅が入手容易であることから、負極電解液32を容易に得ることができる。例えば、塩化銅を用いる場合と比べて、正極での塩素ガスの発生の要因となる塩素イオンの混入を容易に抑制することができる。
【0059】
(5)負極電解液32中の銅のレドックス系物質の含有量が0.2モル/L以上、1.0モル/L以下の範囲内であることで、エネルギー密度を高めるとともに、銅のレドックス系物質の析出を更に抑制することが容易となる。
【0060】
(6)負極電解液32のpHが2以上、8以下の範囲内であることで、耐食性が確保され易くなるとともに、銅のレドックス物質の析出を更に抑制することが容易となる。
【0061】
(変更例)
前記実施形態は以下のように変更されてもよい。
【0062】
・レドックスフロー型電池の有する充放電セル11の形状、配置、又は数や正極電解液タンク23及び負極電解液タンク33の容量はレドックスフロー型電池に求められる性能等に応じて変更されてもよい。また、充放電セル11に対する正極電解液22及び負極電解液32の供給量についても、例えば充放電セル11の容量等に応じて設定することができる。
【0063】
・レドックスフロー型電池以外の電力貯蔵電池であってもよい。すなわち、前記イオン交換膜は、上記pHの範囲の電解液を用いる電力貯蔵電池に有効である。
【実施例】
【0064】
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0065】
(実施例1)
<レドックスフロー型電池>
正極及び負極としては、カーボンフェルト(商品名:GFA5、SGL社製)を用いて電極面積を10cm
2に設定した。正極側集電板としては、厚み6mmの純チタンを用いた。負極側集電板としては、ガラス状カーボン板(商品名:SGカーボン、厚み0.6mm、昭和電工株式会社製)を用いた。隔膜としては、陽イオン交換膜(CMS、アストム社製)を用いた。
【0066】
正極電解液タンク及び負極電解液タンクとしては、容量30mLのガラス容器を用いた。供給管、回収管、不活性ガス供給管及び排気管としては、シリコーン製のチューブを用いた。ポンプとしては、マイクロチューブポンプ(MP−1000、東京理化器械株式会社製)を用いた。充放電装置としては、充放電バッテリテストシステム(PFX200、菊水電子工業株式会社製)を用いた。
【0067】
<Mn(II)−PEI錯体水溶液の調製>
蒸留水50mLに0.02モル(0.86g)のポリエチレンイミン(PEI、重量平均分子量:600、和光純薬工業株式会社製)を溶解させた。この水溶液に、2.5モル/Lの希硫酸を約3mL添加することで、pHを6に調整した。この水溶液に、0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを溶解させた後、更に0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4を溶解させた。次に、この水溶液に、2.5モル/Lの希硫酸を添加することで、pHを5に調整した後に、全量が100mLとなるように蒸留水を加えた。これにより、マンガン(II)−PEI錯体の濃度が0.2モル/Lの水溶液を得た。
【0068】
<Cu(II)−PEI錯体水溶液の調製>
蒸留水50mLに0.02モル(0.86g)のポリエチレンイミン(重量平均分子量:600、和光純薬工業株式会社製)を溶解させた。この水溶液に、2.5モル/Lの希硫酸を約3mL添加することで、pHを6に調整した。この水溶液に、0.02モル(3.19g)のCuSO
4を溶解させた後、更に0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4を溶解させた。次に、全量が100mLとなるように蒸留水を加えた。これにより、銅(II)−PEI錯体の濃度が0.2モル/Lの水溶液を得た。この水溶液のpHは3であった。
【0069】
<Mn(II)−PEI錯体水溶液の電解酸化>
上記レドックスフロー型電池を用いて、Mn(II)−PEI錯体水溶液を電解酸化することで、正極電解液を調製した。まず、正極電解液タンクにMn(II)−PEI錯体水溶液15mLを入れるとともに、負極電解液タンクに上記Cu(II)−PEI錯体水溶液15mLを入れた。次に、レドックスフロー型電池を100mAの定電流で80分間(合計580クーロン)充電した。なお、充電の開始前及び期間中、不活性ガス供給管から窒素ガスを供給した。
【0070】
これにより、正極電解液タンクに入れた水溶液に含まれるMn(II)−PEI錯体を電解酸化して、Mn(III)−PEI錯体の濃度が0.2モル/Lの水溶液を調製し、正極電解液とした。なお、ここでは、2価のマンガンイオンは電解酸化により3価のマンガンイオンを生成すると考えられるため、Mn(III)と記載しているが、価数の詳細は不明である。
【0071】
<充放電試験>
正極電解液として電解酸化したMn(II)−PEI錯体水溶液を用いるとともに、負極電解液としてCu(II)−PEI錯体水溶液を用いて充放電試験を行った。充放電試験は、充電から開始し、まず、100mAの定電流で40分間充電した(合計240クーロン)。次に、100mAの定電流で、放電終止電圧を0.0Vとして放電した。なお、充放電試験の開始前及び期間中、不活性ガス供給管から窒素ガスを供給した。
【0072】
以上の充放電を1サイクルとして、充放電を30サイクル繰り返した。
【0073】
続いて、充放電を更に20サイクル繰り返すことで、充放電を合計50サイクル繰り返した。
【0074】
充放電を行うレドックス反応は、以下のように推定される。
【0075】
正極:Mn(III)−PEI錯体 ⇔ Mn(IV)−PEI錯体+e
−
負極:Cu(II)−PEI錯体+e
− ⇔ Cu(I)−PEI錯体
30サイクルまでの充放電した際の電池電圧の推移を
図2に示す。
図2に示す矢印は、充放電曲線が初期の充放電から後期の充放電への推移する方向を表している。
【0076】
図2に示す結果から、充放電を繰り返すのに伴って、充放電容量及び充放電サイクル特性の向上が確認される。ここで、充放電試験を1サイクル行うことは、レドックス系物質の電解酸化反応及び電解還元反応を1サイクルとした反応を行うことに相当する。銅のレドックス系物質とポリエチレンイミンとを含有する負極電解液では、1サイクルとした反応が10サイクル以上行われることで、充放電容量及び充放電サイクル特性を高めた状態から、レドックスフロー型電池の使用を開始することができる。
【0077】
31サイクルから50サイクルまで充放電した際の電池電圧の推移を
図3に示す。
【0078】
図3に示す結果から、充放電を50サイクル繰り返しても、サイクル特性が維持されていることが分かる。
【0079】
充放電試験において、充放電サイクル特性(可逆性)、クーロン効率、電圧効率、エネルギー効率、電解液の利用率、起電力、及び電解液の電位を求めた結果を表1の“充放電試験結果”欄に示す。
【0080】
<自己放電試験>
レドックスフロー型電池の正極電解液タンクに、Mn(II)−PEI錯体水溶液20mLを入れ、負極電解液タンクにCu(II)−PEI錯体水溶液20mLを入れた。また、正極電解液タンク及び負極電解液タンクのそれぞれに予め黒鉛電極と銀−塩化銀(飽和KCl)電極とを挿入した。次に、100mAの定電流で30分間充電(合計180クーロン)し、充電後の銀−塩化銀電極に対する黒鉛電極の電圧を測定した。続いて、レドックスフロー型電池を室温(約25℃)で一晩(約18時間)静置した後、銀−塩化銀電極に対する黒鉛電極の電圧を測定し、両電圧を比較した。
【0081】
上記条件で充電したときの充電後の正極電解液には、Mn(III)−PEI錯体が約0.1モル/Lの濃度、及びMn(IV)−PEI錯体が約0.1モル/Lの濃度で含有されると推測される。充電後の負極電解液には、Cu(II)−PEI錯体が約0.1モル/Lの濃度、及びCu(I)−PEI錯体が約0.1モル/Lの濃度で含有されると推測される。
【0082】
なお、自己放電試験の開始前及び期間中、不活性ガス供給管から窒素ガスを供給した。
【0083】
自己放電試験の結果を表1の“自己放電試験の結果”欄に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示す充放電試験の結果から、実施例1では良好な電池特性が得られることが分かる。表1に示す自己放電試験の結果から、実施例1では自己放電が十分に抑制されることが分かる。
【0086】
(実施例2〜4)
実施例2〜4では、表2に示すようにpHの異なるCu(II)−PEI錯体水溶液を負極電解液として調製し、この負極電解液の性能をサイクリックボルタンメトリー(CV)により評価した。実施例2〜4のCu(II)−PEI錯体水溶液は、2.5モル/Lの希硫酸又は1.0モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを調整した以外は実施例1と同様に調製した。
【0087】
サイクリックボルタンメトリーの条件は、以下のとおりである。
【0088】
掃引範囲:−1.0V〜1.5V
掃引速度:100mV/sec
参照電極:銀−塩化銀(飽和KCl)電極
作用電極:グラッシーカーボン
サイクル数:50回
表2に示すように、実施例2〜4では測定温度を20℃及び60℃として測定を行い、その結果(サイクリックボルタモグラム)を
図4〜9として示す。
図4〜9には1回目と50回目のサイクリックボルタモグラムを示し、図中に示す矢印は、1回目から50回目へ推移する方向を示している。
【0089】
【表2】
【0090】
実施例2〜4の結果から、良好な反応性や可逆性が得られることが分かる。なお、CV測定の温度が20℃の場合、pHが低いほど、反応性や可逆性に優れる傾向となることが分かる。これに対して、CV測定の温度が60℃の場合、pHが高いほど、反応性や可逆性に優れる傾向となることが分かる。
【0091】
(実施例5)
実施例5では、銅のレドックス系物質に対するPEIのモル比を1から5に変更し、銅のレドックス系物質の濃度が0.2モル/LのCu(II)−PEI錯体水溶液を調製した。すなわち、蒸留水50mLに溶解させるPEIを0.02モル(0.86g)から0.1モル(4.3g)に変更した。また、実施例5のCu(II)−PEI錯体水溶液は、2.5モル/Lの希硫酸又は1.0モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを3.39に調整し、負極電解液とし、この負極電解液の性能を実施例2〜4と同様にサイクリックボルタンメトリー(CV)により評価した。実施例5では測定温度を20℃及び60℃として測定を行い、その結果(サイクリックボルタモグラム)を
図10及び
図11として示す。
【0092】
実施例5の結果から、銅のレドックス系物質に対するPEIのモル比を1から5に変更しても、良好な反応性や可逆性が得られることが分かる。
【0093】
(溶解性の評価)
下記の手順で銅のレドックス系物質に対するPEIのモル比が1のCu(II)−PEI錯体水溶液について、その錯体の溶解性を評価した。
【0094】
まず、蒸留水50mLに0.02モル(0.86g)のPEI(重量平均分子量:600、和光純薬工業株式会社製)を溶解させた。この水溶液に、2.5モル/Lの希硫酸を約3mL添加することで、pHを6に調整した。この水溶液に、0.02モル(3.19g)のCuSO
4を溶解させた後、全量が100mLとなるように蒸留水を加えた。得られた水溶液をマグネティックスターラーで撹拌しながら、水溶液が20mLとなるまで水分を蒸発させた。このとき、Cu(II)−PEI錯体の析出は確認されなかった。この結果から、Cu(II)−PEI錯体は、1モル/L以上の濃度で溶解可能であることが分かる。
【0095】
次に、上記20mLの水溶液に0.02モル(2.84g)のNa
2SO
4を加えた後に、全量が30mLとなるように蒸留水を加えた。続いて、水溶液をマグネティックスターラーで撹拌した結果、Na
2SO
4を溶解させることができた。この結果から、Cuイオンに対するPEIのモル比が1のCu(II)−PEI錯体は、導電塩(Na
2SO
4)の存在下で0.67モル/L以上の濃度で溶解可能であることが分かる。
【0096】
以上の結果から、Cu(II)−PEI錯体は、電力貯蔵電池用途の負極電解液を構成するための溶解性を有していると判断される。
【0097】
(比較例1)
比較例1では、EDTA錯体溶液を正極電解液及び負極電解液として用いた。
【0098】
<Mn(II)−EDTA錯体水溶液の調製>
蒸留水50mLに0.02モル(3.38g)のMnSO
4・H
2Oを溶解させた。この水溶液に、0.02モル(8.32)のEDTA(4Na)・2H
2Oを溶解させた後、更に0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4を溶解させた。全量が100mLとなるように蒸留水を加えた。これにより、マンガン(II)−EDTA錯体の濃度が0.2モル/Lの水溶液を得た。
【0099】
<Cu(II)−EDTA錯体水溶液の調製>
蒸留水50mLに0.02モル(3.19g)のCuSO
4を溶解させた。この水溶液に、0.02モル(8.32)のEDTA(4Na)・2H
2Oを溶解させた後、更に0.05モル(7.1g)のNa
2SO
4を溶解させた。全量が100mLとなるように蒸留水を加えた。これにより、Cu(II)−EDTA錯体の濃度が0.2モル/Lの水溶液を得た。
【0100】
(比較例2)
比較例2では、0.2モル/LのCu(II)−クエン酸錯体水溶液を調製し、負極電解液として用いるとともに、比較例1と同様の正極電解液を用いた。
【0101】
<充放電試験>
Mn(II)−EDTA錯体水溶液を正極電解液、各比較例の錯体水溶液を負極電解液とした以外は、実施例1と同様に充放電試験を行った。表3には、1サイクル目及び21サイクル目における電解液の利用率について各比較例と実施例1とを対比した結果を示す。
【0102】
【表3】
【0103】
また、1サイクル目における電解液の利用率を100%としたときに、21サイクル目における電解液の利用率の減少率を算出することで、充放電容量の減少率を求めた。その結果を表3に示す。表3に示す結果から、充放電試験において、実施例1の充放電容量は減少しないが、比較例1及び比較例2の充放電容量は減少することが分かる。