(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
反応工程が第1の反応槽において行われ、反応工程における鉛直方向の混合が、第1の反応槽から取り出された液体を、第1の反応槽内の液体中において、第1のノズルを備える第1の吐出部材から鉛直方向に吐出することにより行われる、請求項1に記載の方法。
反応工程における鉛直方向の混合が、第1の反応槽の下方部分から取り出された液体を、第1の反応槽内の液体中の上方部分において、第1のノズルを備える第1の吐出部材から鉛直下方向に吐出することにより行われる、請求項1または2に記載の方法。
第1の反応槽内の液体に含まれる水性成分の全体積の上に、第1の反応槽内の液体に含まれる有機成分の全体積が位置すると仮定したとき、第1の吐出部材は、第1のノズルの先端が有機成分中に位置するように配置される、請求項3に記載の方法。
反応工程における鉛直方向の混合が、水性成分の下方部分から取り出された液体を、第1の吐出部材から鉛直下方向に吐出することにより行われる、請求項4に記載の方法。
反応工程における鉛直方向の混合が、第1の反応槽の上方部分から取り出された液体を、第1の反応槽内の液体中の下方部分において、第1のノズルを備える第1の吐出部材から鉛直上方向に吐出することにより行われる、請求項1または2に記載の方法。
第1の反応槽内の液体に含まれる水性成分の全体積の上に、第1の反応槽内の液体に含まれる有機成分の全体積が位置すると仮定したとき、第1の吐出部材は、第1のノズルの先端が水性成分中に位置するように配置される、請求項6に記載の方法。
反応工程における鉛直方向の混合が、有機成分の上方部分から取り出された液体を、第1の吐出部材から鉛直上方向に吐出することにより行われる、請求項7に記載の方法。
第1の吐出部材が、第1のノズルの先端に取り付けられた第1のディフューザーを更に備え、第1のディフューザーは、第1のノズルの先端の側方において1以上の開口部を有する、請求項2〜8のいずれか1項に記載の方法。
反応工程において得られる第1の反応液を、ジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を含む有機相と、ジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を実質的に含まない水相とに相分離させて、水相を、フッ素含有水溶液よりもフッ素濃度が低減した精製水溶液として得る第1の分離工程を更に含む、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
第1の分離工程において得られる有機相と塩基性水溶液とを混合することにより、有機相に含まれるモノフルオロシラン化合物を塩基性水溶液に含まれる塩基と反応させて、ジシロキサン化合物およびフッ化物塩を含む第2の反応液を得る再生工程
を更に含む、請求項17に記載の方法。
再生工程が、第2の反応槽において、第1の分離工程において得られる有機相と塩基性水溶液とを鉛直方向に混合することにより行われ、再生工程における鉛直方向の混合が、第2の反応槽から取り出された液体を、第2の反応槽内の液体中において、第2のノズルを備える第2の吐出部材から鉛直方向に吐出することにより行われる、請求項18に記載の方法。
再生工程における鉛直方向の混合が、第2の反応槽の下方部分から取り出された液体を、第2の反応槽内の液体中の上方部分において、第2のノズルを備える第2の吐出部材から鉛直下方向に吐出することにより行われる、請求項18または19に記載の方法。
第2の反応槽内の液体に含まれる水性成分の全体積の上に、第2の反応槽内の液体に含まれる有機成分の全体積が位置すると仮定したとき、第2の吐出部材は、第2のノズルの先端が有機成分中に位置するように配置される、請求項20に記載の方法。
再生工程における鉛直方向の混合が、水性成分の下方部分から取り出された液体を、第2の吐出部材から鉛直下方向に吐出することにより行われる、請求項21に記載の方法。
再生工程における鉛直方向の混合が、第2の反応槽の上方部分から取り出された液体を、第2の反応槽内の液体中の下方部分において、第2のノズルを備える第2の吐出部材から鉛直上方向に吐出することにより行われる、請求項18または19に記載の方法。
第2の反応槽内の液体に含まれる水性成分の全体積の上に、第2の反応槽内の液体に含まれる有機成分の全体積が位置すると仮定したとき、第2の吐出部材は、第2のノズルの先端が水性成分中に位置するように配置される、請求項23に記載の方法。
再生工程における鉛直方向の混合が、有機成分の上方部分から取り出された液体を、第2の吐出部材から鉛直上方向に吐出することにより行われる、請求項24に記載の方法。
第2の吐出部材が、第2のノズルの先端に取り付けられた第2のディフューザーを更に備え、第2のディフューザーは、第2のノズルの先端の側方において1以上の開口部を有する、請求項19〜25のいずれか1項に記載の方法。
第1の分離工程において得られる有機相に含まれるモノフルオロシラン化合物に対する、再生工程において用いられる塩基性水溶液に含まれる塩基のモル比が1.3以上である、請求項18〜28のいずれか1項に記載の方法。
再生工程で得られる第2の反応液を、ジシロキサン化合物を含み且つフッ化物塩を実質的に含まない有機相と、フッ化物塩を含み且つジシロキサン化合物を実質的に含まない水相とに相分離させる第2の分離工程を更に含み、
第2の分離工程において得られる有機相を、ジシロキサン化合物として反応工程において再利用する、請求項18〜29のいずれか1項に記載の方法。
フッ素含有水溶液とジシロキサン化合物とを混合することによりフッ素含有水溶液中のフッ素イオンをジシロキサン化合物と反応させて、モノフルオロシラン化合物を含む第1の反応液を得るための第1の反応槽であって、第1の反応槽から取り出された液体を第1の反応槽内で吐出するための導管を備え、第1のノズルを備える第1の吐出部材が導管の先端に取り付けられている、第1の反応槽を含む、フッ素含有水溶液を処理するための装置。
第1の吐出部材が、第1のノズルの先端に取り付けられた第1のディフューザーを更に備え、第1のディフューザーは、第1のノズルの先端の側方において1以上の開口部を有する、請求項31に記載の装置。
第1の反応槽において得られる第1の反応液を、ジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を含む有機相と、ジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を実質的に含まない水相とに相分離させて、水相を、フッ素含有水溶液よりもフッ素濃度が低減した精製水溶液として得るための第1の分離槽、
第1の分離槽において得られる有機相と塩基性水溶液とを混合することにより、有機相に含まれるモノフルオロシラン化合物を塩基性水溶液に含まれる塩基と反応させて、ジシロキサン化合物およびフッ化物塩を含む第2の反応液を得るための第2の反応槽であって、第2の反応槽から取り出された液体を第2の反応槽内で吐出するための導管を備え、第2のノズルを備える第2の吐出部材が導管の先端に取り付けられている、第2の反応槽、ならびに
第2の反応槽において得られる第2の反応液を、ジシロキサン化合物を含み且つフッ化物塩を実質的に含まない有機相と、フッ化物塩を含み且つジシロキサン化合物を実質的に含まない水相とに相分離させるための第2の分離槽
を更に含み、
第2の分離槽において得られる有機相をジシロキサン化合物として第1の反応槽において再利用することができる、請求項31または32に記載の装置。
第2の吐出部材が、第2のノズルの先端に取り付けられた第2のディフューザーを更に備え、第2のディフューザーは、第2のノズルの先端の側方において1以上の開口部を有する、請求項33に記載の装置。
フッ素含有水溶液とジシロキサン化合物とを混合することによりフッ素含有水溶液中のフッ素イオンをジシロキサン化合物と反応させて、モノフルオロシラン化合物を含む第1の反応液を得るための第1の管型反応器であって、第1の管型反応器内の流れの方向に沿って第1の管型反応器の下方に配置される振動子により超音波が照射される、第1の管型反応器を含む、フッ素含有水溶液を処理するための装置。
第1の管型反応器において得られる第1の反応液を、ジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を含む有機相と、ジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を実質的に含まない水相とに相分離させて、水相を、フッ素含有水溶液よりもフッ素濃度が低減した精製水溶液として得るための第1の分離槽、
第1の分離槽において得られる有機相と塩基性水溶液とを混合することにより、有機相に含まれるモノフルオロシラン化合物を塩基性水溶液に含まれる塩基と反応させて、ジシロキサン化合物およびフッ化物塩を含む第2の反応液を得るための第2の管型反応器であって、第2の管型反応器内の流れの方向に沿って第2の管型反応器の下方に配置される振動子により超音波が照射される、第2の管型反応器、ならびに
第2の管型反応器において得られる第2の反応液を、ジシロキサン化合物を含み且つフッ化物塩を実質的に含まない有機相と、フッ化物塩を含み且つジシロキサン化合物を実質的に含まない水相とに相分離させるための第2の分離槽
を更に含み、
第2の分離槽において得られる有機相をジシロキサン化合物として第1の管型反応器において再利用することができる、請求項35に記載の装置。
第1の反応槽において得られる第1の反応液を、ジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を含む有機相と、ジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を実質的に含まない水相とに相分離させて、水相を、フッ素含有水溶液よりもフッ素濃度が低減した精製水溶液として得るための第1の分離槽、
第1の分離槽において得られる有機相と塩基性水溶液とを混合することにより、有機相に含まれるモノフルオロシラン化合物を塩基性水溶液に含まれる塩基と反応させて、ジシロキサン化合物およびフッ化物塩を含む第2の反応液を得るための混合器、ならびに
前記混合器において得られる第2の反応液を、ジシロキサン化合物を含み且つフッ化物塩を実質的に含まない有機相と、フッ化物塩を含み且つジシロキサン化合物を実質的に含まない水相とに相分離させるための第2の分離槽
を更に含み、
第2の分離槽において得られる有機相をジシロキサン化合物として第1の反応槽において再利用することができる、請求項31または32に記載の装置。
第1の管型反応器において得られる第1の反応液を、ジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を含む有機相と、ジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を実質的に含まない水相とに相分離させて、水相を、フッ素含有水溶液よりもフッ素濃度が低減した精製水溶液として得るための第1の分離槽、
第1の分離槽において得られる有機相と塩基性水溶液とを混合することにより、有機相に含まれるモノフルオロシラン化合物を塩基性水溶液に含まれる塩基と反応させて、ジシロキサン化合物およびフッ化物塩を含む第2の反応液を得るための混合器、ならびに
前記混合器において得られる第2の反応液を、ジシロキサン化合物を含み且つフッ化物塩を実質的に含まない有機相と、フッ化物塩を含み且つジシロキサン化合物を実質的に含まない水相とに相分離させるための第2の分離槽
を更に含み、
第2の分離槽において得られる有機相をジシロキサン化合物として第1の管型反応器において再利用することができる、請求項35に記載の装置。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るフッ素含有水溶液の処理方法について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態および図面に示す実施形態は一例に過ぎず、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0026】
図1は本発明の一の実施形態に係るフッ素含有水溶液の処理方法のフローチャートである。本発明の方法は、反応工程を含む。本発明の方法は、第1の分離工程、再生工程および第2の分離工程を更に含んでもよい。
【0027】
[反応工程]
反応工程は、フッ素含有水溶液中のフッ素イオンをジシロキサン化合物と反応させて、モノフルオロシラン化合物を含む第1の反応液を得る工程である。本発明の方法により処理することができるフッ素含有水溶液は特に限定されるものではなく、フッ素イオン(F
−)ならびにSiF
62−、BF
4−、PF
6−およびSO
3F
−等のフッ素含有イオンの1種以上を含有する種々の水溶液、例えばHF、H
2SiF
6、HBF
4、HPF
6およびHSO
3Fの1種以上を含有する水溶液を処理することができる。本発明の方法により、フッ素濃度が100〜50000ppm程度のフッ素含有水溶液を処理して、水溶液中のフッ素濃度を1〜100ppm程度に低下させることができる。なお、本明細書において、「フッ素濃度」は、対象とする液体中のフッ素イオンおよびフッ素の重量濃度を意味し、例えば、フッ素濃度1000ppmは、フッ素含有水溶液1kg中にフッ素イオンおよびフッ素が1g存在する濃度を意味する。
【0028】
本発明において使用可能なジシロキサン化合物は、一般式R
aR
bR
cSiOSiR
dR
eR
f(式中、R
a、R
b、R
c、R
d、R
eおよびR
fはそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキル基およびフェニル基ならびに水素からなる群から選択される)で表される化合物である。具体的には、例えば、ジシロキサン(H
3SiOSiH
3)、ヘキサメチルジシロキサン((H
3C)
3SiOSi(CH
3)
3、HMDSとも称する)、ヘキサエチルジシロキサン((H
5C
2)
3SiOSi(C
2H
5)
3)、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン((H
3C)
2HSiOSi(CH
3)
2H)およびペンタメチルジシロキサン((H
3C)
3SiOSi(CH
3)
2H)等を用いることができる。ジシロキサン化合物は、1種類を単独で用いてよく、あるいは2種類以上を混合して用いてもよい。中でも、ヘキサメチルジシロキサンは比較的安価であり入手が容易であり、かつ安全性、安定性および沸点が水と同程度であるため取扱いが容易であるので、ジシロキサン化合物としてヘキサメチルジシロキサンを用いることが好ましい。
【0029】
フッ素イオンとジシロキサン化合物との反応は、下記の式(I)で表される。
【化8】
ジシロキサン化合物がヘキサメチルジシロキサン(HMDS)である場合(即ちR
a〜R
fが全てメチル基である場合)、式(I)の反応により生成するモノフルオロシラン化合物はトリメチルフルオロシラン(以下、TMFSとも称する)である。
ジシロキサン化合物は水に不溶であるので、フッ素含有水溶液とは互いに混和せず、ジシロキサン化合物を含む有機相(軽液)とフッ素含有水溶液を含む水相(重液)とに相分離する。そのため、フッ素含有水溶液中のフッ素イオンとジシロキサン化合物との反応は、有機相と水相との界面においてのみ進行し得る。更に、ジシロキサン化合物は安定な化合物であるため、式(I)の反応速度は比較的遅く、反応に長時間を要する。
【0030】
本発明者らは、フッ素含有水溶液とジシロキサン化合物とを、鉛直方向に混合することにより、フッ素イオンとジシロキサン化合物との反応が促進され、反応を短時間のうちに効率よく進行させることができることを見出した。これは、鉛直方向の混合を行うことにより、フッ素含有水溶液中のフッ素イオンおよびジシロキサン化合物の、水相−有機相界面に対して垂直な方向への移動がもたらされ、その結果、フッ素含有水溶液フッ素イオンとジシロキサン化合物との接触機会が大幅に増大することに起因すると考えられる。なお、本明細書において、「鉛直方向に混合する」とは、水相と有機相とが相分離せず均一な混合状態が達成される程度に、混合される物質の鉛直方向の移動が起こるものを意味する。混合される物質の移動の方向は、鉛直方向の成分以外の成分を含んでいてもよい。鉛直方向に混合する方法としては、外力を加える、重力を利用する等の種々の方法を採用することができる。具体的には、例えば以下に説明するノズルによる混合方法、超音波の照射による混合方法および向流接触法が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0031】
(ノズルによる混合方法)
本発明の一の実施形態において、反応工程は、
図2に示す第1の反応槽300において行うことができる。反応工程における鉛直方向の混合は、第1の反応槽300から取り出された液体を、第1の反応槽300内の液体中において、第1のノズル1を備える第1の吐出部材100から鉛直方向に吐出することにより行われる。第1の反応槽300からの液体の取り出しは、導管6を介して行うことができる。場合によりポンプ61を用いてもよい。本明細書において、「鉛直方向に吐出する」とは、液体の吐出方向が、水相と有機相とが相分離せず均一な混合状態が達成される程度に、混合される物質の鉛直方向の移動をもたらすものであることを意味する。液体の吐出方向は、鉛直方向の成分以外の成分を含んでいてもよい。液体の吐出方向は、吐出部材の取り付け角度によって決定される。取り付け角度は、鉛直方向(鉛直上方向または鉛直下方向)に対して好ましくは0°〜60°、より好ましくは0°〜30°に設定される。吐出部材の取り付け角度が上述の範囲内であると、鉛直方向の吐出を効果的にもたらすことができ、鉛直方向の混合を効果的に達成することができる。取り付け角度は、より一層好ましくは鉛直方向に対して0°(即ち鉛直上方向または鉛直下方向)である。吐出部材の取り付け角度が鉛直方向に対して0°であると、鉛直方向の混合をより一層効果的に達成することができる。
【0032】
本明細書において、「ノズル」は、導管等の先に取り付けられて、流体の出口を縮小して噴流(ジェット流)を形成する部材を意味する。ノズルは先端に吐出口(オリフィス)を有する。ノズルはジェットノズル、エダクター、エゼクター等の名称でよばれることもある。本実施形態において使用可能なノズルの構成は、特に限定されるものでなく、鉛直方向の混合を行うのに適した吐出口(オリフィス)の内径および耐圧性を有するものであればよい。吐出口の内径および吐出圧については後述する。
【0033】
図3(a)に、吐出部材100からの液体の吐出を模式的に示す。第1の反応槽300から取り出される液体を、第1の吐出部材100における第1のノズル1の先端13から、第1の反応槽300内の液体中に鉛直方向に吐出する。ノズル1の先端13から鉛直方向に吐出される吐出流3は、ジェット状の水流(ジェット水流)を形成する。このようなジェット状の吐出流3は、側方に存在する液体を巻き込む(吸い込む)ことにより、鉛直方向に噴射する流量を増大させることができる。この側方からの吸い込み流31により流量が増大した吐出流3により、反応槽300内の液体の鉛直方向の移動がもたらされ、その結果、反応槽300内の液体を鉛直方向に混合することができる。
【0034】
反応工程における鉛直方向の混合は、第1の反応槽300の下方部分から取り出された液体を、第1の反応槽300内の液体中の上方部分において、第1のノズル1を備える第1の吐出部材100から鉛直下方向に吐出することにより行われることが好ましい。このように第1の反応槽300の下方部分から液体を取り出し、取り出された液体を第1の反応槽300内の液体中の上方部分において鉛直下方向に吐出することにより、鉛直方向の混合をより一層促進することができる。また、ジシロキサン化合物は、水よりも比重が小さいので、第1の反応槽300の上方に比較的多く存在する傾向にある。このため、第1の反応槽300内の液体中の上方部分において、第1の吐出部材100の第1のノズル1から液体を鉛直下方向に吐出することにより、吐出流3は、その周りに多く存在し得るジシロキサン化合物を側方からの吸い込み流31として吸い込むことができる。その結果、ジシロキサン化合物を多く含み得る吸い込み流31の加わった鉛直下方向の噴射流がもたらされ、ジシロキサン化合物の鉛直方向の移動が促進される。このような効果的な混合を達成するために、第1の吐出部材100は、第1の反応槽内の液体中の上方部分に設置することが好ましい。
【0035】
別法として、反応工程における鉛直方向の混合は、第1の反応槽300の上方部分から取り出された液体を、第1の反応槽300内の液体中の下方部分において、第1のノズル1を備える第1の吐出部材100から鉛直上方向に吐出することにより行うこともできる。このように第1の反応槽300の上方部分から液体を取り出し、取り出された液体を第1の反応槽300内の液体中の下方部分において鉛直上方向に吐出することにより、鉛直方向の混合を促進することができる。また、ジシロキサン化合物は水よりも比重が小さいので、水溶性のフッ素イオンは第1の反応槽300内の液体中の下方部分に比較的多く存在する傾向にある。このため、第1の反応槽300内の液体中の下方部分において、第1の吐出部材100の第1のノズル1から液体を鉛直上方向に吐出した場合、吐出流は、水溶性のフッ素イオンを比較的多く含む側方からの吸い込み流を吸い込むことができる。その結果、フッ素イオンの含有量が比較的多い吸い込み流の加わった鉛直上方向の噴射流がもたらされ、それによりフッ素イオンの鉛直方向の移動が促進される。このような効果的な混合を達成するために、第1の吐出部材100は、第1の反応槽内の液体中の下方部分に設置してよい。なお、第1の反応槽300内の液体中の下方部分において、第1の吐出部材100の第1のノズル1から液体を鉛直上方向に吐出する場合における、吐出流3および側方からの吸い込み流31は、
図3を180°回転させた図で表すことができる。
【0036】
より好ましくは、第1の反応槽300内の液体に含まれる水性成分の全体積の上に、第1の反応槽内の液体に含まれる有機成分の全体積が位置すると仮定したとき、第1の吐出部材100は、第1のノズル1の先端13が有機成分中に位置するように配置される。
反応工程における一の時点において、鉛直方向の混合を停止したと仮定した場合、第1の反応槽300内の液体は、上側の有機相と下側の水相とに相分離すると考えられる。このような仮想的な相分離は、
図4に示すように、第1の反応槽300内の液体に含まれる水性成分の全体積(51)の上に、第1の反応槽300内の液体に含まれる有機成分の全体積(41)が位置するというモデルで表すことができる。第1の吐出部材は、このようなモデルを仮定した場合に第1のノズル1の先端13が有機成分41中に位置するように配置されることが好ましい。ジシロキサン化合物は、水よりも比重が小さいので、この仮想上の有機成分41が占める領域に比較的多く存在する傾向にある。従って、第1のノズル1の先端13がこの仮想上の有機成分41中に位置するように第1の吐出部材100が配置されると、ノズル1の先端13から鉛直下方向に吐出される吐出流(
図3において符号3で示す)は、その周りに多く存在し得るジシロキサン化合物を側方からの吸い込み流31として吸い込むことができる。その結果、ジシロキサン化合物を多く含み得る吸い込み流31の加わった鉛直方向の噴射流がもたらされ、それによりジシロキサン化合物の鉛直方向の移動が促進される。このようにして、鉛直方向の効果的な混合を達成することができる。
【0037】
また、上述のモデルを仮定した場合、反応工程における鉛直方向の混合は、水性成分51の下方部分から取り出された液体を、第1のノズル1の先端13が有機成分41中に位置するように配置された第1の吐出部材100から鉛直下方向に吐出することにより行われることが好ましい。液体の取り出し位置を仮想上の水性成分51の下方部分に設定することにより、取り出された液体は、有機成分よりも比重の大きい水性成分を比較的多く含むことになる。水溶性のフッ素イオンは水性成分中に主に存在する。従って、上述の構成により、仮想上の有機成分41中に位置する第1のノズル1の先端13から、フッ素イオンを比較的多く含む吐出流が鉛直下方向に吐出され、それにより、フッ素イオンの鉛直方向の移動が促進される。このようにして、鉛直方向の混合をより一層効果的に行うことができる。
【0038】
別法として、反応工程における鉛直方向の混合を、第1の反応槽300の上方部分から取り出された液体を、第1の反応槽300内の液体中の下方部分において第1のノズル1を備える第1の吐出部材100から鉛直上方向に吐出することにより行う場合、上述の仮想上のモデルにおいて、第1の吐出部材100は、
図5に示すように第1のノズル1の先端13が水性成分51中に位置するように配置してもよい。水溶性のフッ素イオンは、仮想上の水性成分51が占める領域において比較的多く存在する傾向にある。従って、第1のノズル1の先端13がこの仮想上の水性成分51中に位置するように第1の吐出部材100を配置すると、ノズル1の先端13から鉛直上方向に吐出される吐出流は、フッ素イオンの含有量が比較的多い側方からの吸い込み流を吸い込むことができる。その結果、フッ素イオンの含有量が比較的多い吸い込み流の加わった鉛直上方向の噴射流がもたらされ、それによりフッ素イオンの鉛直方向の移動が促進される。このようにして、鉛直方向の効果的な混合を達成することができる。また、第1のノズル1の先端13が水性成分51中に位置するように第1の吐出部材100を配置する場合、有機成分41の上方部分から取り出された液体を、第1の吐出部材100から鉛直上方向に吐出することが好ましい。液体の取り出し位置を仮想上の有機成分41の上方部分に設定することにより、取り出された液体は、有機成分を比較的多く含むことになる。その結果、仮想上の水性成分51中に位置する第1のノズル1の先端13から、有機成分を比較的多く含む吐出流が鉛直上方向に吐出され、それにより、有機成分中のジシロキサン化合物の鉛直方向の移動をより一層効果的に行うことができる。
【0039】
一例として、反応工程をバッチ式で行う場合、第1の反応槽300に投入されるフッ素含有水溶液およびジシロキサン化合物は、混合開始前において、上側のジシロキサン化合物を含む有機相と下側の水相とに相分離する。上述の仮想上の有機成分41は、この混合開始前の有機相に対応し、仮想上の水性成分51は、混合開始前の水相に対応する。この場合、混合開始前に、有機相中に第1のノズル1の先端13が位置するように第1の吐出部材100を配置することにより、ジシロキサン化合物を含む有機相の鉛直方向の移動が促進され、鉛直方向の混合をより効果的に行うことができる。更に、第1の吐出部材100から吐出される液体の取り出し位置を、混合開始前における水相の下方に設定することにより、水相中のフッ素イオンの鉛直方向の移動が促進され、鉛直方向の混合をより一層効果的に行うことができる。
【0040】
別法として、反応工程における鉛直方向の混合を、第1の反応槽300の上方部分から取り出された液体を、第1の反応槽300内の液体中の下方部分において第1のノズル1を備える第1の吐出部材100から鉛直上方向に吐出することにより行う場合、バッチ式の反応工程において、混合開始前に、水相中に第1のノズル1の先端13が位置するように第1の吐出部材100を配置し、第1の吐出部材100から吐出される液体の取り出し位置を、混合開始前における有機相の上方に設定してもよい。このような構成によっても、第1の反応槽300内の液体の鉛直方向の混合を効果的に行うことができる。
【0041】
第1の吐出部材100は、第1のノズル1の先端13に取り付けられた第1のディフューザー2を更に備えることが好ましい。
図3(b)に、第1のノズル1および第1のディフューザー2を備える第1の吐出部材100の一例を模式的に示す。第1のディフューザー2は、第1のノズル1の先端13の側方において1以上の開口部21を有する。ディフューザー2の先端23における内径は通常、ディフューザー2の開口部側の端部22における内径よりも大きくなっている。
【0042】
ディフューザー2が開口部21を備えることにより、吐出部材100の周囲に存在する液体を、吸い込み流31として、広範囲にわたって効率よく開口部21から吸引することができる。その結果、ディフューザー2の先端23からの噴射流32の流量が増大し、第1の反応槽300内の液体の鉛直方向の混合をより一層効果的に行うことができる。吐出流3の側方からの吸い込み流31の流量は、吐出流3の3〜5倍であることが好ましい。これにより、ディフューザー2の先端23からの噴射流32の流量を十分大きい値にすることができる。
【0043】
第1の反応槽300内の液体に含まれる水性成分の全体積(51)の上に、第1の反応槽300内の液体に含まれる有機成分の全体積(41)が位置すると仮定したとき、第1のノズル1および第1のディフューザー2を備える第1の吐出部材100は、第1のノズル1の先端13が有機成分41中に位置することが好ましい。
図4に、第1の吐出部材100の配置の一例を示す。上述のように、反応工程における一の時点において、鉛直方向の混合を停止したと仮定した場合、第1の反応槽300内の液体は、上側の有機相と下側の水相とに相分離する。このような仮想的な相分離は、第1の反応槽内の液体に含まれる水性成分51の全体積の上に、第1の反応槽内の液体に含まれる有機成分41の全体積が位置するというモデルで表すことができる。ジシロキサン化合物は、水よりも比重が小さいので、この仮想上の有機成分41が占める領域に比較的多く存在する傾向にある。従って、第1のノズル1の先端13がこの仮想上の有機成分41中に位置することにより、ジシロキサン化合物を多く含み得る側方からの吸い込み流31を第1のディフューザー2の開口部21から吸い込むことができる。このジシロキサン化合物を多く含み得る吸い込み流31の加わった噴射流32が、第1のディフューザー2の先端23から水性成分51に向かって鉛直下方向に噴射されることにより、ジシロキサン化合物の鉛直方向の移動がより一層促進され、鉛直方向の混合をより一層効果的に行うことができる。
【0044】
別法として、上述の仮想上のモデルを仮定したとき、第1のノズル1および第1のディフューザー2を備える第1の吐出部材100は、第1のノズル1の先端13が水性成分51中に位置することが好ましい。
図5に、第1の吐出部材100の配置の一例を示す。仮想上の水性成分51が占める領域において、水溶性のフッ素イオンは比較的多く存在する傾向にある。従って、第1のノズル1の先端13がこの仮想上の水性成分51中に位置することにより、フッ素イオンの含有量が比較的多い側方からの吸い込み流31を第1のディフューザー2の開口部21から吸い込むことができる。このフッ素イオンの含有量が比較的多い吸い込み流31の加わった噴射流32が、第1のディフューザー2の先端23から有機成分41に向かって鉛直上方向に噴射されることにより、フッ素イオンの鉛直方向の移動がより一層促進され、鉛直方向の混合をより一層効果的に行うことができる。
【0045】
反応工程における鉛直方向の混合は、第1のノズル1の先端13における吐出流の線速度が大きいほど促進される。吐出流の線速度は、第1のノズル1の先端13の内径および吐出流の流量(または吐出圧)によって制御することができる。第1のノズル1の先端13における吐出流の線速度は、500〜2000m/minであることが好ましい。吐出流の線速度が500m/min以上であると、鉛直方向の混合をより効果的に行うことができる。吐出流の線速度が2000m/min以下であると、ノズルに特別な耐圧仕様を施す必要のない吐出圧で混合を行うことができ、設備コストを抑えることができる。第1のノズル1は単独で用いてよく、複数の第1のノズル1を第1の反応槽300内に設置してもよい。複数の第1のノズル1を用いることにより、ノズル1個当たりの線速度を低くしつつ、全体として高い線速度を達成することができる。
【0046】
ノズルの先端(吐出口)における内径および吐出圧は、上述の線速度が達成されるように適宜設定することができる。ノズルの先端における内径は1.5mm〜20mmであることが好ましい。内径が1.5mm以上であると、鉛直方向の混合を効果的に達成することができる。内径が20mm以下であると、ノズルに特別な耐圧仕様を施す必要のない吐出圧で混合を行うことができ、設備コストを抑えることができる。吐出圧は0.05〜0.8MPaであることが好ましい。吐出圧が0.05MPa以上であると鉛直方向の混合を効果的に達成することができる。吐出圧が0.8MPa以下であると、ノズルに特別な耐圧仕様を施す必要がなく、設備コストを抑えることができる。
【0047】
なお、
図2に示す実施形態において反応工程は連続式で実施されるが、本発明における反応工程は、バッチ式および連続式のいずれによっても実施可能である。
【0048】
(超音波の照射による混合方法)
本発明のもう一つの実施形態において、反応工程における鉛直方向の混合は、フッ素含有水溶液およびジシロキサン化合物に超音波を照射することにより行われる。超音波の照射による混合の一例を
図6に示す。超音波による混合は、
図2における第1の反応槽300による反応工程(図において破線で囲まれた部分)の代わりに、
図6に示す第1の管型反応器9による反応工程を実施することによって行うことができる。
【0049】
図6に示す実施形態において、第1の管型反応器9は、超音波発生装置91内に設けられる。超音波発生装置91は、第1の管型反応器内の流れの方向に沿って第1の管型反応器の下方に配置される振動子92を備える。超音波発生装置91内には純水等の媒体が満たされている。ジシロキサン化合物(7)およびフッ素含有水溶液(8)は、導管6およびポンプ61を介して超音波発生装置91内に設けられた管型反応器9へと連続的に供給される。振動子92の発する超音波は、媒体を介して第1の管型反応器9内を流れるフッ素含有水溶液およびジシロキサン化合物に照射される。この実施形態において、超音波は、第1の管型反応器内の流れの方向に対して垂直に照射される。超音波により発生する振動、および超音波により生じる気泡が破裂することにより発生する衝撃波(キャビテーションによる衝撃波)によって、第1の管型反応器9内のフッ素含有水溶液およびジシロキサン化合物の少なくとも一部が微細な液滴状になる。このような液滴が、超音波による振動や対流等の作用によって第1の管型反応器9内を移動することにより、鉛直方向の混合がもたらされる。
【0050】
振動子92は、
図6に示すように、第1の管型反応器9内の液体と接触しないように配置することが好ましい。振動子92を第1の管型反応器9内の液体と接触するように配置した場合(例えば、第1の管型反応器9内に振動子92を配置した場合)、液体の組成によって振動子92が消耗するおそれがある。また、振動子92を第1の管型反応器9内の液体と接触するように配置した場合、振動子92から発振された超音波が第1の管型反応器9の管壁において反射され、それにより共振が起こる。この共振効果によっても振動子92の消耗が促進される。振動子92を第1の管型反応器9内の液体と接触しないように配置することにより、振動子92の消耗が抑制され、振動子92の交換コストを低減することができる。
【0051】
振動子92により照射される超音波の周波数は、20kHz〜1MHzに設定することが好ましい。周波数が20kHz以上であると、超音波の照射による混合をより効果的に行うことができる。周波数が1MHz以下であると、超音波の減衰が小さく、超音波の到達距離を十分な長さにすることができる。
【0052】
このような管型反応器9および超音波発生装置91を用いた混合方法は、フッ素含有水溶液とジシロキサン化合物との混合および反応をシングルパスで実施可能であるという利点も有する。
【0053】
なお、超音波の照射による混合は、
図6に示す実施形態に限定されるものではない。
図6に示す実施形態において反応工程は連続式で実施されるが、超音波の照射による混合は、バッチ式によっても実施可能である。
【0054】
(向流接触法による混合方法)
本発明の更にもう一つの実施形態において、反応工程における鉛直方向の混合は、向流接触法により行うことも可能である。向流接触法による混合は、第1の向流式反応塔であって、フッ素含有水溶液が第1の向流式反応塔の上部に供給され、ジシロキサン化合物が、第1の向流式反応塔の下部に供給され、第1の向流式反応塔の頂部においてジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を含む有機相が得られ、第1の向流式反応塔の底部においてフッ素含有水溶液よりもフッ素濃度が低減した精製水溶液が得られる、第1の向流式反応塔において行うことができる。向流接触法による混合の一例を
図7に示す。
図7に示す例において、向流接触法による混合は、充填物が充填された第1の向流式反応塔10において行われる。本実施形態において使用可能な充填物は特に限定されるものではなく、ラシヒリング、デミスタ−等の充填物を適宜用いることができる。フッ素含有水溶液8は、導管6およびポンプ61を介して、第1の向流式反応塔10の上部に供給される。一方、ジシロキサン化合物7は、導管6およびポンプ61を介して、第1の向流式反応塔10の下部に供給される。フッ素含有水溶液8およびジシロキサン化合物7の供給量および滞留時間は、使用する装置等に応じて適宜設定することができる。ジシロキサン化合物は水より比重が小さいので、反応塔10の上部において供給されるフッ素含有水溶液は、重力の作用により反応塔10中を下方向に移動し、一方、反応塔10の下部において供給されるジシロキサン化合物は反応塔10中を上方向に移動する。このようなジシロキサン化合物およびフッ素含有水溶液両方の鉛直方向の移動により、フッ素含有水溶液中のフッ素イオンとジシロキサン化合物との接触機会が増大し、反応を効果的に進行させることができる。このようにして、ジシロキサン化合物とフッ素含有水溶液との向流接触を行った結果、反応塔の頂部においてジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を含む有機相を得ることができ、一方、反応塔の底部において、フッ素含有水溶液よりもフッ素濃度が低減した精製水溶液を得ることができる。
【0055】
反応工程における鉛直方向の混合を向流接触法により行う場合、上述の充填物が充填された第1の向流式反応塔10の代わりに、上下振動する撹拌機を内部に備える第1の向流式反応塔を用いることも可能である。この実施形態において、フッ素含有水溶液は反応塔の上部に供給され、ジシロキサン化合物は反応塔の下部に供給される。撹拌機は、例えば、反応塔内に取り付けられた多数の多孔板であってよく、その多孔板が上下振動することにより、反応塔内の液体に上下振動が与えられ、その結果、液体の鉛直方向の混合を達成することができる。上下振動する撹拌機を内部に備える第1の向流式反応塔としては、例えば往復動式抽出塔や、連続液液抽出装置等を用いることができる。
【0056】
本発明における反応工程は、処理すべき液体のpHを調節する追加の操作を必要としないという利点を有する。尤も、上述の式(I)で表される反応はプロトンにより活性化されるので、酸性条件において反応の進行を促進することができる。そのため、フッ素含有水溶液は、好ましくは酸性水溶液である。
【0057】
本発明の処理方法によって処理可能なフッ素含有水溶液は、上述のように特に限定されるものではなく、フッ素を含有する種々の水溶液の処理に本発明の方法を適用可能である。フッ素含有水溶液は、例えばフッ素含有塩酸、フッ素含有硫酸およびこれらの混合物であってよい。本発明の方法は、フッ素含有塩酸のように塩素イオンが大量に存在する水溶液においても、フッ素イオンを選択的にジシロキサン化合物と反応させてフッ素イオンを選択的に除去することができるという驚くべき効果をもたらす。更に、本発明の方法は、フッ素含有塩酸等の酸性のフッ素含有水溶液を処理する場合において、反応工程の前後で酸濃度を変化させることなく水溶液の処理を行うことができる。例えば、フッ素含有塩酸を本発明の方法により処理する場合、反応工程の前後で塩酸中の酸濃度(塩化水素濃度)は実質的に変化しない。
【0058】
フッ素含有水溶液が酸性水溶液である場合、本発明における反応工程は、酸濃度がいずれの値であっても実施可能であり、酸濃度を調節するための追加の操作を必要としないという利点を有する。尤も、フッ素含有水溶液の酸濃度が0.1重量%以上であると、式(I)で表される反応をより促進させることができるので好ましい。フッ素含有水溶液の酸濃度はより好ましくは10〜40重量%である。式(I)で表される反応において、H
+は触媒的な効果を及ぼしていると考えられる。そのため、H
+の存在量が多いほど、即ち酸濃度が高いほどその効果が増大することが期待される。酸濃度が10重量%以上であると、式(I)で表される反応をより一層促進させることができる。酸濃度が40重量%を超えると、H
+の触媒的効果は酸濃度に依存せずほぼ一定となる。従って、酸濃度が40重量%以下であると、十分な触媒的効果を達成しつつ、酸濃度の調製に必要な酸の量を低減することができる。
【0059】
本発明における反応工程は常温で実施可能であり、コストを要する温度調節を必要としないという利点を有する。尤も、反応工程を50℃以上の温度で行うことにより上述の式(I)で表される反応をより促進させることができるので好ましい。また、加圧条件下で反応工程を実施することにより式(I)の反応を更に進行させることも可能である。
【0060】
本発明の方法において、ジシロキサン化合物は、フッ素含有水溶液中のフッ素イオンと反応してモノフルオロシラン化合物を生成するための反応物質であり、かつ生成したモノフルオロシラン化合物を水相から抽出するための溶媒でもある。反応物質としてのジシロキサン化合物は、上述の式(I)からわかるように、フッ素含有水溶液中のフッ素イオンに対して少なくとも0.5モル当量用いればよい。溶媒として必要なジシロキサン化合物の量を考慮すると、フッ素含有水溶液中のフッ素イオンに対する、反応工程において用いられるジシロキサン化合物のモル比は、0.5〜20であることが好ましい。モル比が0.5以上であると、フッ素含有水溶液中に存在するフッ素イオンに対して化学量論量以上のジシロキサン化合物が存在することになり、式(I)の反応を進行させることができる。モル比が20以下であると、反応工程におけるフッ素含有水溶液の処理量を実用上十分な量にすることができ、高い処理効率を達成することができる。
【0061】
[第1の分離工程]
本発明の方法は、場合により第1の分離工程を含む。第1の分離工程は、反応工程において得られる第1の反応液を、有機相と水相とに分離する工程である。反応工程において生成するモノフルオロシラン化合物および未反応のジシロキサン化合物は水に不溶であるので、有機相はジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を含み、水相は、ジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を実質的に含まない。第1の分離工程において、水相を、フッ素含有水溶液よりもフッ素濃度が低減した精製水溶液として得ることができる。なお、反応工程における混合を向流接触法によって行う場合、第1の分離工程は不要である。
【0062】
一の実施形態において、第1の分離工程は、
図2に示す第1の分離槽400において行われる。なお、第1の分離工程は、
図2に示すように連続式で実施可能であるが、バッチ式で実施することもできる。バッチ式で反応工程および第1の分離工程を行う場合、第1の反応槽300を第1の分離槽400として用いることができる。即ち、第1の反応槽300において反応工程を行い、次いで、混合を停止して第1の反応槽300内の液体を静置して相分離させることにより、第1の分離工程を行うことができる。
【0063】
反応工程において得られる第1の反応液は、第1の分離槽400に導入されると速やかに相分離する。従って、本発明における第1の分離工程はコストの増加をもたらし得る追加の操作を必要としない。上側の有機相4はジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を含む。下側の水相5は、ジシロキサン化合物およびモノフルオロシラン化合物を実質的に含まない。なお、本明細書において、一の化合物を「実質的に含まない」とは、その化合物の含有量が300ppm以下であることを意味する。
【0064】
相分離の後、水相5を、フッ素含有水溶液よりもフッ素濃度が低減した精製水溶液として得る。本発明の方法によれば、精製水溶液中のフッ素濃度は、1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは100ppm以下に低減することができる。上述のように、本発明の方法における反応工程は、塩素イオンが大量に存在する水溶液においても、フッ素イオンを選択的にジシロキサン化合物と反応させてフッ素イオンを選択的に除去することができる。そのため、反応工程の前後で酸濃度を変化させることなく、第1の分離工程において精製塩酸等の精製水溶液を得ることができる。例えば、フッ素含有塩酸を本発明の方法により処理する場合、反応工程前のフッ素含有塩酸の酸濃度(塩化水素濃度)と実質的に同じ酸濃度の精製塩酸を第1の分離工程において得ることができる。
【0065】
[再生工程]
本発明の方法は、場合により再生工程および第2の分離工程を更に含む。再生工程は、フッ素含有水溶液中のフッ素イオンとジシロキサン化合物との反応により生成するモノフルオロシラン化合物を、塩基と反応させることによりジシロキサン化合物へと再生する工程である。
【0066】
再生工程において、第1の分離工程(反応工程を向流接触法により行う場合には反応工程)において得られる有機相と塩基性水溶液とを混合することにより、有機相に含まれるモノフルオロシラン化合物を塩基性水溶液に含まれる塩基と反応させて、ジシロキサン化合物およびフッ化物塩を含む第2の反応液を得る。再生工程における反応は、下記の式(II)および(III−1)〜(III−3)で表される。
【化9】
【化10】
ジシロキサン化合物としてHMDSを用いる場合、反応工程における式(I)の反応により生じるモノフルオロシラン化合物はTMFSである。この場合、再生工程において、TMFSはトリメチルシラノールを経由してHMDSへと再生される。
【0067】
モノフルオロシラン化合物は塩基性条件の下で比較的不安定であるため、式(II)および(III−1)〜(III−3)の反応は、反応工程における式(I)の反応と比較して容易に進行し得る。従って、再生工程における混合は、鉛直方向の混合でなくてよく、スタティックミキサー等の混合器による混合等の任意の混合手法を適宜採用することができる。尤も、再生工程において、第1の分離工程において得られる有機相と塩基性水溶液とを鉛直方向に混合することにより、式(II)および(III−1)〜(III−3)の反応をより一層促進させることができるので、鉛直方向の混合を行うことが好ましい。再生工程における有機相と塩基性水溶液との鉛直方向の混合は、上述の反応工程における鉛直方向の混合と同様の方法で行うことが好ましい。
【0068】
例えば、一の実施形態において、再生工程は、
図2に示す第2の反応槽500において行うことができる。
図2に示す実施形態において、第2の反応槽500は、導管6およびポンプ61を備える。再生工程における鉛直方向の混合は、第2の反応槽500から取り出された液体を、第2の反応槽500内の液体中において、第2のノズル111を備える第2の吐出部材101から鉛直方向に吐出することにより行うことが好ましい。これにより、式(II)および(III−1)〜(III−3)で表される反応の進行を促進することができる。
【0069】
再生工程における鉛直方向の混合は、第2の反応槽500の下方部分から取り出された液体を、第2の反応槽500内の液体中の上方部分において、第2のノズル111を備える第2の吐出部材101から鉛直下方向に吐出することにより行われることが好ましい。このように混合を行うことにより、第2の反応槽500内の液体の鉛直方向の混合をより一層促進することができる。
【0070】
別法として、再生工程における鉛直方向の混合は、第2の反応槽500の上方部分から取り出された液体を、第2の反応槽500内の液体中の下方部分において、第2のノズル111を備える第2の吐出部材101から鉛直上方向に吐出することにより行ってもよい。このような構成によっても、第2の反応槽500内の液体の鉛直方向の混合を効果的に行うことができる。
【0071】
より好ましくは、第2の反応槽500内の液体に含まれる水性成分の全体積の上に、第2の反応槽内の液体に含まれる有機成分の全体積が位置すると仮定したとき、第2の吐出部材101は、第2のノズル111の先端が有機成分中に位置するように配置される。再生工程における一の時点において、鉛直方向の混合を停止したと仮定した場合、第2の反応槽500内の液体は、上側の有機相と下側の水相とに相分離すると考えられる。このような仮想的な相分離は、
図4に示す反応工程における仮想的モデルと同様に、第2の反応槽500内の液体に含まれる水性成分の全体積(
図4における51に対応する)の上に、第2の反応槽500内の液体に含まれる有機成分の全体積(
図4における41に対応する)が位置するというモデルで表すことができる。このような仮想的なモデルを仮定した場合、上述のように第2の吐出部材101を配置することにより、第2のノズル111の先端から鉛直下方向に吐出される吐出流は、その周りに多く存在し得る有機成分中のモノフルオロシラン化合物を側方からの吸い込み流として吸い込むことができる。その結果、モノフルオロシラン化合物を多く含み得る吸い込み流の加わった鉛直方向の噴射流がもたらされ、それによりモノフルオロシラン化合物の鉛直方向の移動が促進される。このようにして、鉛直方向の効果的な混合を達成することができる。
【0072】
また、上述のモデルを仮定した場合、再生工程における鉛直方向の混合は、水性成分の下方部分から取り出された液体を、第2の吐出部材101から鉛直下方向に吐出することにより行われることが好ましい。このような構成で混合を行うことにより、水性成分の鉛直方向の移動が促進され、第2の反応槽500内の液体の鉛直方向の混合をより一層効果的に行うことができる。
【0073】
更に、第2の吐出部材101は、第2のノズル111の先端に取り付けられた第2のディフューザー211を更に備えてよい。第2のディフューザー211は、第2のノズル111の先端の側方において1以上の開口部を有する。第2のディフューザー211の使用により、第2の反応槽500内の液体の鉛直方向の混合をより効果的に行うことができる。
【0074】
第2のノズル111および第2のディフューザー211として、上述の第1のノズル1および1のディフューザー2と同様のものを用いることができる。
【0075】
再生工程における鉛直方向の混合は、反応工程における鉛直方向の混合と同様に、第2のノズル111の先端における吐出流の線速度が大きいほど促進される。第2のノズル111の先端における吐出流の線速度は、500〜2000m/minであることが好ましい。吐出流の線速度が500m/min以上であると、鉛直方向の混合をより効果的に行うことができる。吐出流の線速度が2000m/min以下であると、ノズルに特別な耐圧仕様を施す必要のない吐出圧で混合を行うことができ、設備コストを抑えることができる。
【0076】
もう一つの実施形態において、再生工程における鉛直方向の混合は、第1の分離工程(反応工程を向流接触法により行う場合には反応工程)において得られる有機相および塩基性水溶液に超音波を照射することにより行ってよい。再生工程における超音波の照射による混合は、上述の反応工程における超音波の照射による混合と同様の方法で行うことが可能である。例えば、再生工程は、
図6に示す第1の管型反応器9と同様の構成を有する第2の管型反応器において実施してよい。第2の管型反応器において、第2の管型反応器内の流れの方向に沿って第2の管型反応器の下方に配置される振動子により、超音波が照射される。
【0077】
本発明の更にもう一つの実施形態において、再生工程における鉛直方向の混合は、向流接触法により行うことも可能である。向流接触法による混合は、第2の向流式反応塔であって、第1の向流式反応塔または第1の分離槽において得られる有機相が第2の向流式反応塔の下部に供給され、塩基性水溶液が、第2の向流式反応塔の上部に供給され、第2の向流式反応塔の頂部においてジシロキサン化合物を含み且つフッ化物塩を実質的に含まない有機相が得られ、第2の向流式反応塔の底部においてフッ化物塩を含み且つジシロキサン化合物を実質的に含まない水相が得られる、第2の向流式反応塔において行うことができる。再生工程における向流接触法による混合は、上述の反応工程における向流接触法において使用可能な、充填物が充填された第1の向流式反応塔と同様の構成を有する第2の向流式反応塔において実施してよい。第2の向流式反応塔において、反応工程または第1の分離工程において得られる有機相が、導管およびポンプを介して、第2の向流式反応塔の下部に供給される。一方、塩基性水溶液は、導管およびポンプを介して、第2の向流式反応塔の上部に供給される。有機相は水より比重が小さいので、反応塔の上部において供給される塩基性水溶液は、重力の作用により反応塔中を下方向に移動し、一方、反応塔の下部において供給される有機相は反応塔中を上方向に移動する。このような有機相および塩基性水溶液両方の鉛直方向の移動により、有機相中のモノフルオロシラン化合物と塩基性水溶液との接触機会が増大し、再生反応を効果的に進行させることができる。このようにして向流接触を行った結果、第2の向流式反応塔の頂部においてジシロキサン化合物を含み且つフッ化物塩を実質的に含まない有機相を得ることができ、一方、反応塔の底部においてフッ化物塩を含み且つジシロキサン化合物を実質的に含まない水相を得ることができる。このようにして得られる有機層は、反応工程において再利用することができる。
【0078】
再生工程における鉛直方向の混合を向流接触法により行う場合、上述の充填物が充填された第2の向流式反応塔の代わりに、上下振動する撹拌機を内部に備える第2の向流式反応塔を用いることも可能である。上下振動する撹拌機を内部に備える第2の向流式反応塔としては、反応工程で使用可能な上下振動する撹拌機を内部に備える第1の向流式反応塔と同様のものを用いることができる。この実施形態において、フッ素含有水溶液は反応塔の上部に供給され、ジシロキサン化合物は反応塔の下部に供給される。撹拌機が上下振動することにより、反応塔内の液体に上下振動が与えられ、その結果、液体の鉛直方向の混合を達成することができる。
【0079】
上述の式(II)からわかるように、再生工程において用いられる塩基性水溶液に含まれる塩基の量は、第1の分離工程において得られる有機相に含まれるモノフルオロシラン化合物の量に対して少なくとも1モル当量であればよい。第1の分離工程において得られる有機相に含まれるモノフルオロシラン化合物に対する、再生工程において用いられる塩基性水溶液に含まれる塩基のモル比は、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.5以上である。モル比が1.3以上であると、式(II)および(III−1)〜(III−3)の反応の進行を促進することができる。モル比が1.5以上であると、モノフルオロシラン化合物と塩基との反応率を100%近くにすることができる。
【0080】
塩基性水溶液のpHは好ましくは8以上であり、より好ましくは13〜14である。塩基性水溶液のpHが上記範囲内であると、式(II)および(III−1)〜(III−3)の反応の進行を促進することができる。塩基性水溶液としては、例えば、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液およびこれらの混合物等が挙げられる。再生反応においては、式(II)および(III−1)〜(III−3)に示すように、モノフルオロシラン化合物と塩基性水溶液中のOH
−イオンとが反応してジシロキサン化合物が再生される。この再生反応において、解離したフッ素イオンは、塩基性水溶液に含まれるアルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンと金属塩(例えばLiF、KF、NaF、CaF
2、MgF
2等)を生成する。この金属塩の溶解度が高いと、再生工程および後続の第2の分離工程において不溶性の金属塩の析出を防ぐことができ、ハンドリングが容易になる。塩基性水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、再生工程において生成する金属塩(NaF)の溶解度が上述の金属塩の中で比較的高いので、再生工程および第2の分離工程における不溶性の金属塩の析出を防ぐことができる。また、水酸化ナトリウム水溶液を用いることにより、ランニングコストを抑えることができる。従って、塩基性水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
【0081】
図2に示す実施形態において再生工程は連続式で実施されているが、本発明における再生工程はバッチ式によっても実施可能である。
図2に示す第2の吐出部材101による混合の代わりに超音波の照射による混合を行う場合、再生工程は、上述のように
図6に示すような構成を用いて連続式で実施することができるが、超音波の照射による混合はバッチ式で行うことも可能である。
【0082】
[第2の分離工程]
第2の分離工程は、再生工程で得られる第2の反応液を、ジシロキサン化合物を含み且つフッ化物塩を実質的に含まない有機相と、フッ化物塩を含み且つジシロキサン化合物を実質的に含まない水相とに相分離させるための工程である。なお、再生工程における混合を向流接触法によって行う場合、第2の分離工程は不要である。
【0083】
一の実施形態において、第2の分離工程は、
図2に示す第2の分離槽600において行われる。なお、第2の分離工程は、
図2に示すように連続式で実施可能であるが、バッチ式で実施することもできる。バッチ式で再生工程および第2の分離工程を行う場合、第2の反応槽500を第2の分離槽600として用いることができる。即ち、第2の反応槽500において再生工程を行い、次いで、混合を停止して第2の反応槽500内の液体を静置して相分離させることにより、第2の分離工程を行うことができる。
【0084】
再生工程において得られる第2の反応液は、第2の分離槽600に導入されると速やかに相分離する。従って、本発明における第2の分離工程はコストの増加をもたらし得る追加の操作を必要としない。上側の有機相4はジシロキサン化合物を含み且つフッ化物塩を実質的に含まない。下側の水相5は、フッ化物塩を含み且つジシロキサン化合物を実質的に含まない。なお、再生工程における塩基性水溶液としてNaOH水溶液を用いた場合、フッ化物塩はNaFである。
【0085】
相分離の後、水相5をフッ化物塩含有液として回収する。第2の分離工程において得られる有機相4は、ジシロキサン化合物として反応工程において再利用することができる。例えば、
図2に示すように、第2の分離槽600において得られる有機相4を、ジシロキサン化合物として第1の反応槽300において再利用することができる。このように、本発明の方法においては、ジシロキサン化合物を再生して繰り返し利用することができるので、処理コストを低減することができる。
【0086】
本発明の方法における反応工程、第1の分離工程、再生工程および第2の分離工程はいずれも、実質的な温度上昇および圧力上昇を伴わないので、温度および圧力を制御することなく常温常圧で実施することができる。
【実施例】
【0087】
[例1.反応工程に要する時間の混合方法依存性]
下記の試験1〜5において、本願の反応工程に要する時間を、種々の混合方法を用いて調べた。試験1〜5はいずれも室温で行った。
【0088】
(試験1)
試験1は、容量1Lの反応槽を用いて行った。反応槽は、反応槽内の液体を取り出して反応槽内に戻すための導管およびポンプを備える。
【0089】
塩化水素濃度13重量%、フッ素濃度2100ppmのフッ素含有塩酸(密度1.07g/cm
3)0.75L(0.80kg)およびヘキサメチルジシロキサン(HMDS、密度0.764g/cm
3)0.10L(0.076kg)を反応槽に入れたところ、二相に分離した。導管の先端を、上側のHMDSを含む有機相中に設置した。導管の先端の内径は4.37mmであった。反応槽の下方から取り出した液体を、導管およびポンプを介して反応槽内に戻すことにより、反応槽内の液体を混合した。導管から吐出される液体の流量は20L/minに設定した。反応槽内の液体は、相分離することなく均一に混合された状態になった。混合の間、反応槽内の液体を経時的にサンプリングした。サンプリングした液体を静置すると速やかに相分離した。下側の水相におけるフッ素濃度をフッ素イオンメーターにより測定した。
【0090】
(試験2)
試験2は、容量5Lの反応槽を用いて行った。反応槽は、反応槽内の液体を取り出して反応槽内に戻すための導管およびポンプを備える。導管の先端の内径は4.37mmであった。
塩化水素濃度13重量%、フッ素濃度2518ppmのフッ素含有塩酸3.75L(4.01kg)およびヘキサメチルジシロキサン(HMDS)0.51L(0.39kg)を使用し、導管から吐出される液体の流量を1.43L/minに設定した以外は試験1と同様の手順で試験2を行った。混合の間、反応槽内の液体は、相分離することなく均一に混合された状態になった。
【0091】
(試験3)
試験3は、容量13Lの反応槽を用いて行った。反応槽は、反応槽内の液体を取り出して反応槽内に戻すための導管およびポンプを備える。導管の先端に吐出部材を取り付けた。吐出部材は、ノズルと、ノズルの先端に取り付けられたディフューザーとを有し、ディフューザーは、ノズルの先端の側方において複数の開口部を有する。ノズルの先端の内径は1.5mmであった。
【0092】
塩化水素濃度13重量%、フッ素濃度1829ppmのフッ素含有塩酸9.4L(10.05kg)およびヘキサメチルジシロキサン(HMDS)1.5L(1.15kg)を反応槽に入れたところ、二相に分離した。ノズルの先端およびディフューザーの開口部が上側の有機相中に位置するように吐出部材を設置した。反応槽の下方から取り出した液体を、導管およびポンプを介して反応槽内に戻すことにより、反応槽内の液体を混合した。ノズルの先端から吐出される液体の流量は3.3L/minに設定した。反応槽内の液体は、相分離することなく均一に混合された状態になった。混合の間、反応槽内の液体を経時的にサンプリングした。サンプリングした液体を静置すると、速やかに相分離した。下側の水相中のフッ素濃度をフッ素イオンメーターにより測定した。また、混合終了時における水相中のHCl濃度を滴定法により測定した。
【0093】
(試験4)
試験4は、試験3で使用した反応槽と同様のものを用いて行った。反応槽は、反応槽内の液体を取り出して反応槽内に戻すための導管およびポンプを備える。導管の先端に吐出部材を取り付けた。吐出部材は、ノズルと、ノズルの先端に取り付けられたディフューザーとを有し、ディフューザーは、ノズルの先端の側方において複数の開口部を有する。ノズルの先端の内径は1.5mmであった。
塩化水素濃度13重量%、フッ素濃度1829ppmのフッ素含有塩酸9.7L(10.3kg)およびヘキサメチルジシロキサン(HMDS)1.51L(1.15kg)を使用し、ノズルの先端から吐出される液体の流量を1.4L/minに設定した以外は試験3と同様の手順で試験4を行った。反応槽内の液体は、相分離することなく均一に混合された状態になった。
【0094】
試験1〜4の結果を表1および
図8に示す。また、試験1および2について導管の先端における吐出流の線速度を計算した結果、ならびに試験3および4について吐出部材のノズルの先端における吐出流の線速度を計算した結果を表1に示す。表1より、線速度が大きいほどフッ素濃度の低下速度が増大したことがわかる。これは、線速度が大きいほど鉛直方向の混合がより効果的に行われ、上述の式(I)の反応の進行が促進されたことに起因すると考えられる。試験1および2の結果と、試験3および4の結果との比較より、ノズルを備える吐出部材を使用したことにより、小さい流量で大きい線速度を達成できたことがわかる。従って、吐出流の流量が同じである場合、ノズルを備える吐出部材を用いることにより、鉛直方向の混合をより効果的に行うことができ、フッ素含有水溶液中のフッ素とHMDSとの反応を促進することができると考えられる。また、試験3および4の結果より、フッ素含有塩酸を本発明の方法により処理した場合、反応工程の前後でHCl濃度が実質的に変化しないことがわかった。即ち、フッ素イオンと比較して塩素イオンが大量に存在する場合であっても、フッ素イオンが選択的にHMDSと反応し、フッ素イオンが選択的に除去されたことがわかった。
【0095】
【表1】
【0096】
(試験5)
塩化水素濃度14重量%、フッ素濃度2158ppmのフッ素含有塩酸0.014L(0.015kg)およびヘキサメチルジシロキサン(HMDS)0.020L(0.015kg)を容量が250mLの反応槽に入れたところ、二相に分離した。反応槽内の液体をスターラーチップで攪拌して混合を行った。スターラーチップの回転数は1000rpmに設定した。攪拌の間、反応槽内の液体は相分離したままであった。攪拌の間、下側の水相を経時的にサンプリングし、水相におけるフッ素濃度をフッ素イオンメーターにより測定した。
【0097】
試験5の結果を
図9に示す。混合開始から20分後におけるフッ素濃度は1739ppm、90分後におけるフッ素濃度は613ppmであり、100ppm以下のフッ素濃度は達成できなかった。
【0098】
[例2.超音波による混合]
下記の試験6〜8において、
図6に示す管型反応器9および振動子92を備える超音波発生装置91を用いて反応工程を行った。管型反応器9の内径は1/8インチ(0.32cm)、全長は20mとした。この管型反応器9を超音波発生装置91内に設け、媒体として純水を満たした。管型反応器9内の温度は35℃に設定した。超音波発生装置91の出力を400W、振動子92の周波数を38kHzに設定した。
【0099】
(試験6)
塩化水素濃度14重量%、フッ素濃度2136ppmのフッ素含有塩酸100.91gと、HMDS16.98gとを、ポンプ61を用いて管型反応器9に連続的に供給した。滞留時間(即ち超音波の照射時間)は13.6分に設定した。管型反応器9から取り出した液体を静置したところ、速やかに二相に分離した。下側の水相におけるフッ素濃度をフッ素イオンメーターにより測定した。
【0100】
(試験7)
フッ素含有塩酸の使用量を292.38g、HMDSの使用量を18.00g、滞留時間を5.45分とした以外は試験6と同様の手順で試験7を行った。
【0101】
(試験8)
フッ素含有塩酸の使用量を384.15g、HMDSの使用量を97.85g、滞留時間を1.63分とした以外は試験6と同様の手順で試験8を行った。
【0102】
試験6〜8の結果を表2および
図10に示す。
図10において、縦軸を水相中のフッ素濃度、横軸を滞留時間(即ち照射時間)とする。滞留時間1.63分における水相中のフッ素濃度は16.9ppmであり、滞留時間1.63分以上において100ppm以下のフッ素濃度を達成することができた。
【0103】
【表2】
【0104】
[例3.反応時間の温度依存性]
反応工程における反応に要する時間の温度依存性を調べるために、下記の試験9および10を行った。
【0105】
(試験9)
混合時の温度を50℃に設定した以外は試験5と同様の手順で試験9を行った。混合の間、反応槽内の液体は相分離したままであった。
【0106】
(試験10)
混合時の温度を80℃に設定した以外は試験5と同様の手順で試験10を行った。混合の間、反応槽内の液体は相分離したままであった。
【0107】
試験5、9および10の結果を
図9に示す。
図9より、反応工程における温度が高いほど、反応に要する時間が短くなることがわかる。反応温度が80℃の場合(試験10)、混合開始から20分後に、水相において100ppm以下のフッ素濃度を達成した。これに対し、反応温度が室温の場合(試験5)、混合開始から90分後においても、水相において100ppm以下のフッ素濃度は達成できなかった。
【0108】
[例4.反応時間の塩化水素濃度依存性]
反応工程における反応に要する時間の塩化水素濃度依存性を調べるために、下記の試験11〜14を行った。
【0109】
(試験11)
塩化水素濃度0重量%、フッ素濃度1976ppmのフッ素含有塩酸を用いた以外は試験5と同様の手順で試験11を行った。
【0110】
(試験12)
塩化水素濃度20.3重量%、フッ素濃度2100ppmのフッ素含有塩酸を用いた以外は試験5と同様の手順で試験12を行った。
【0111】
(試験13)
塩化水素濃度24.6重量%、フッ素濃度2000ppmのフッ素含有塩酸を用いた以外は試験5と同様の手順で試験13を行った。
【0112】
(試験14)
塩化水素濃度28.7重量%、フッ素濃度1800ppmのフッ素含有塩酸を用いた以外は試験5と同様の手順で試験14を行った。
【0113】
試験5および11〜14の結果を
図11に示す。
図11において、縦軸は混合開始から5分後におけるフッ素除去率、横軸はフッ素含有塩酸中の塩化水素濃度である。フッ素除去率は下記式で表わされる。
(フッ素除去率)%={(混合開始前にフッ素含有塩酸中に存在するフッ素イオンおよびフッ素の重量)−(混合後に水相中に残存するフッ素イオンおよびフッ素の重量)}/(混合開始前にフッ素含有塩酸中に存在するフッ素イオンおよびフッ素の重量)×100
図11に示すように、フッ素含有塩酸中の塩化水素濃度が高いほど、フッ素除去率が高くなった。このことより、フッ素含有塩酸中の塩化水素濃度が高いほど、反応工程に要する時間が短縮可能であることがわかる。
【0114】
[例5.第1の分離工程]
(試験15)
試験3と同様の手順で反応工程を実施した。混合開始から10分後に混合を停止した。混合停止時における水相中のフッ素濃度は14ppmであった。反応槽内の液体は、混合停止後速やかに二相に分離した。反応槽内の液体を静置し、上側の有機相および下側の水相を経時的にサンプリングした。サンプリングした水相中のHMDS濃度およびテトラメチルフルオロシラン(TMFS)濃度をガスクロマトグラフィーにより測定し、ならびにサンプリングした有機相中の塩化水素濃度をイオンクロマトグラフィーにより測定した。混合を停止してから120分後、有機相および水相を別々に回収した。結果を表3ならびに
図12および
図13に示す。
図12および
図13において、「静置時間」は混合を停止した時点からの時間を意味する。水相中のTMFS濃度は混合を停止した時点において10ppm以下であり、反応工程により水相中のフッ素化合物が除去されたことがわかる。有機相中の塩化水素濃度は30分以内に20ppm以下まで低下した。また、水相中のHMDS濃度は30分以内に300ppm以下まで低下した。以上の結果より、混合停止から30分程度で第1の分離工程を完了させることができることがわかった。
【0115】
【表3】
【0116】
[例6.再生工程]
(試験16)
試験15において回収した有機相中のTMFS濃度をガスクロマトグラフィーで測定したところ、6.2重量%であった。TMFSおよびHMDSを含むこの有機相1.764L(1.348kg)と、塩基性水溶液としての5重量%水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液2.794L(2.934kg)とを、容量5Lの反応槽に入れた。反応槽は、反応槽内の液体を取り出して反応槽内に戻すための導管およびポンプを備えるものであり、導管の先端には、ノズルおよびディフューザーを備える吐出部材が取り付けられている。ノズルの先端の内径は1.5mmであった。有機相中に存在するトリメチルフルオロシランに対する、NaOH水溶液中に存在するNaOHのモル比はNaOH/TMFS=4.0であった。
【0117】
ディフューザーの開口部が上側の有機相中に位置するように、吐出部材を設置した。反応槽の下方から取り出した液体を、導管およびポンプを介して反応槽内に戻すことにより、反応槽内の液体を混合した。ノズルの先端から吐出される液体の流量は、1.4L/minに設定した。第2のノズル111の先端における吐出流の線速度は792m/minであった。反応槽内の液体は、相分離することなく均一に混合された状態になった。混合の間、反応槽内の液体を経時的にサンプリングした。サンプリングした液体を静置すると、速やかに相分離した。上側の有機相中のTMFS濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した。結果を表4および
図14に示す。混合開始から6分後に有機相中のTMFS濃度は未検出(0.1ppm未満)になった。このことより、混合開始から6分以内にTMFSがほとんどHMDSへと再生されたことがわかる。
【0118】
【表4】
【0119】
[例7.再生工程における塩基のモル比]
第1の分離工程において得られる有機相に含まれるTMFSに対する、再生工程において用いられる塩基性水溶液に含まれる塩基のモル比と、HMDS再生率との関係を調べるために、下記の試験17〜22を行った。試験17〜22はいずれも室温において行った。
【0120】
(試験17)
TMFS濃度が35328ppmのHMDS溶液29.51gと、5重量%のNaOH水溶液0.93gとをスクリュー管に入れて密封した。HMDS溶液に含まれるTMFSに対するNaOHのモル比は0.1であった。このスクリュー管を、有機相−水相の界面に対して垂直な方向、即ち鉛直方向に200〜250rpm程度で15分間混合を行った。混合終了後、スクリュー管を静置したところ、内部の液体は速やかに相分離した。上側の有機相および下側の水相のサンプリングをそれぞれ行った。ガスクロマトグラフィーにより有機相中のTMFS濃度を測定した。pH計により水相のpHを測定した。
【0121】
(試験18)
HMDS溶液の量を30.01g、NaOH水溶液の量を4.61gとした以外は試験17と同様の手順で試験18を行った。HMDS溶液に含まれるTMFSに対するNaOHのモル比は0.5であった。試験終了後、水相のpHおよび有機相中のTMFS濃度を測定した。
【0122】
(試験19)
HMDS溶液の量を29.98g、NaOH水溶液の量を9.21gとした以外は試験17と同様の手順で試験19を行った。HMDS溶液に含まれるTMFSに対するNaOHのモル比は1.0であった。試験終了後、水相のpHおよび有機相中のTMFS濃度を測定した。
【0123】
(試験20)
HMDS溶液の量を30.00g、NaOH水溶液の量を11.98gとした以外は試験17と同様の手順で試験20を行った。HMDS溶液に含まれるTMFSに対するNaOHのモル比は1.3であった。試験終了後、水相のpHおよび有機相中のTMFS濃度を測定した。
【0124】
(試験21)
HMDS溶液の量を19.96g、NaOH水溶液の量を9.34gとした以外は試験17と同様の手順で試験21を行った。HMDS溶液に含まれるTMFSに対するNaOHのモル比は1.5であった。試験終了後、水相のpHおよび有機相中のTMFS濃度を測定した。
【0125】
(試験22)
HMDS溶液の量を20.01g、NaOH水溶液の量を11.21gとした以外は試験17と同様の手順で試験22を行った。HMDS溶液に含まれるTMFSに対するNaOHのモル比は1.8であった。試験終了後、水相のpHおよび有機相中のTMFS濃度を測定した。
【0126】
試験17〜22の結果を表5および
図15に示す。
図15において、左側の主縦軸はHMDSの再生率、右側の第2縦軸は水相のpH、横軸はHMDS溶液に含まれるトリメチルフルオロシランに対する、NaOH水溶液中に含まれるNaOHのモル比である。HMDSの再生率は下記式で表される。
(HMDS再生率)%={(混合開始前にHMDS溶液中に存在するTMFSの重量)−(混合後に有機相中に残存したTMFSの重量)}/(混合開始前にHMDS溶液中に存在するTMFSの重量)×100
表5および
図15より、TMFSに対するNaOHのモル比が1.3以上である場合、混合時間15分において99%以上のHMDS再生率を達成できたことがわかる。
【0127】
【表5】
【0128】
[例8.スタティックミキサーを用いた再生工程]
下記の試験23〜27において、スタティックミキサーを用いて再生工程を行った。試験23〜27はいずれも、室温において内径9.52mm、全長180mmのスタティックミキサーを用いて行った。
【0129】
(試験23)
試験23において、TMFSおよびHMDSを含む有機相と、5重量%NaOH水溶液とをスタティックミキサーに連続的に供給した。有機相の供給流量は1.179L/min、NaOH水溶液の供給流量は0.166L/min、スタティックミキサーの入口における液体(有機相およびNaOH水溶液の合計)の流速は0.315m/sであった。スタティックミキサーの出口において液体を経時的にサンプリングした。サンプリングした液体を静置すると、速やかに相分離した。上側の有機相中のTMFS濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した。
【0130】
(試験24)
有機相の供給流量を0.236L/min、NaOH水溶液の供給流量を0.196L/min、スタティックミキサーの入口における液体(有機相およびNaOH水溶液の合計)の流速を0.101m/sとした以外は試験23と同様の手順で試験24を行った。
【0131】
(試験25)
有機相の供給流量を0.236L/min、NaOH水溶液の供給流量を0.0646L/min、スタティックミキサーの入口における液体(有機相およびNaOH水溶液の合計)の流速を0.07m/sとした以外は試験23と同様の手順で試験25を行った。
【0132】
(試験26)
有機相の供給流量を0.236L/min、NaOH水溶液の供給流量を0.238L/min、スタティックミキサーの入口における液体(有機相およびNaOH水溶液の合計)の流速を0.10m/sとした以外は試験23と同様の手順で試験26を行った。
【0133】
(試験27)
有機相の供給流量を1.179L/min、NaOH水溶液の供給流量を0.238L/min、スタティックミキサーの入口における液体(有機相およびNaOH水溶液の合計)の流速を0.33m/sとした以外は試験23と同様の手順で試験27を行った。
【0134】
試験23〜27の結果を表6および
図16に示す。なお、
図16は、各試験の終了時におけるHMDS再生率を流速に対してプロットしたものである。表6および
図16より、スタティックミキサーの入口における液体の流速が大きいほど、即ちレイノルズ数(Re)が大きいほど、HMDS再生率が高くなったことがわかる。レイノルズ数が約2300以上であった、即ちスタティックミキサー内の液体の流れが乱流であった試験23および27においては、95%以上のHMDS再生率を達成することができた。これは、スタティックミキサー内の液体の流れが乱流であることにより、有機相とNaOH水溶液との混合性が高くなったことに起因すると考えられる。
【0135】
【表6】
【0136】
[例9.第2の分離工程]
(試験28)
試験16と同様の手順で再生工程を実施した。混合開始から10分後に混合を停止した。混合停止時における有機相中のTMFS濃度は未検出(0.1ppm未満)であった。反応槽内の液体は、混合停止後速やかに二相に分離した。混合を停止した後、下側の水相を経時的にサンプリングした。サンプリングした水相中のHMDS濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した。混合を停止してから120分後、有機相および水相を別々に回収した。結果を表7および
図17に示す。
図17において、「静置時間」は混合を停止した時点からの時間を意味する。水相中のHMDS濃度は25分以内に約300ppmまで低下した。この結果より、混合停止から25分程度で第2の分離工程を完了させることができることがわかった。
【0137】
【表7】
【0138】
[例10.再生したヘキサメチルジシロキサンの再利用]
(試験29)
試験28において回収した有機相、即ち再生されたHMDSを1.5L(1.13kg)と、塩化水素濃度12.8重量%、フッ素濃度1829ppmのフッ素含有水溶液9.3L(9.95kg)とを用いた以外は試験3と同様の手順で試験29を行った。
【0139】
試験29の結果を表8および
図18に示す。比較のため、新品のHMDSを用いた試験3の結果も
図18に示す。
図18より、再生HMDSを用いた場合であっても、新品のHMDSを用いた場合と同様に、フッ素含有水溶液中のフッ素を短時間の内に除去できることがわかった。
【0140】
【表8】
【0141】
[例11.連続式反応によるフッ素含有塩酸の処理]
(試験30)
図2に示す装置を用いて、反応工程、第1の分離工程、再生工程、第2の分離工程を行った。各工程は連続式で行った。
(反応工程)
反応工程において使用した第1の反応槽300は、容量5.3Lであり、反応槽内の液体を取り出して反応槽内に戻すための導管6およびポンプ61を備える。導管6の先端には第1の吐出部材100が取り付けられている。第1の吐出部材100は、第1のノズル1と、ノズル1の先端に取り付けられた第1のディフューザー2とを備え、第1のディフューザー2は、第1のノズル1の先端の側方において複数の開口部を有する。第1のノズル1の先端の内径は1.5mmであった。
【0142】
第1の反応槽300に塩化水素濃度15.5重量%、フッ素濃度約1932ppmのフッ素含有塩酸3.83kg(3.58L)およびHMDS0.383kg(0.50L)を入れ、バッチ式で反応工程を行った。第1の反応槽300の下方から取り出した液体を、導管6およびポンプ61を介して第1の反応槽300内に戻すことにより、第1の反応槽300内の液体を混合した。第1のノズル1の先端から吐出される液体の流量は2.4L/minに設定した。第1のノズル1の先端における吐出流の線速度は1358m/minであった。第1の反応槽300内の液体を経時的にサンプリングした。サンプリングした液体を静置したところ速やかに相分離した。下側の水相中のフッ素濃度をフッ素イオンメーターにより測定した。混合開始から15分後および20分後におけるフッ素濃度はそれぞれ、21ppmおよび15ppmであった。このことから、反応工程を連続式で行う場合、第1の反応槽300における滞留時間は15分程度であれば十分であることがわかった。混合開始から20分後にバッチ式による反応工程を終了した。第1の反応槽300からオーバーフローした液体が第1の分離槽400に供給されるよう装置の設定を行い、下記の手順にて連続式の反応工程を行った。
第1の反応槽300に、塩化水素濃度15.6重量%、フッ素濃度約1770〜1930ppmのフッ素含有塩酸と、HMDSとを連続的に供給し、オーバーフローした液体を後続の第1の分離槽400に供給した。塩酸の流量を約207〜264mL/min、HMDSの流量を約30〜34mL/min、滞留時間を約13〜17分に設定した。第1の反応槽300の下方から取り出した液体を、導管6およびポンプ61を介して第1の反応槽300内に戻すことにより、第1の反応槽300内の液体を混合した。第1のノズル1の先端から吐出される液体の流量は2.4L/minに設定した。第1のノズル1の先端における吐出流の線速度は1358m/minであった。第1の反応槽300内の温度および圧力をモニタリングしたところ、温度上昇および圧力上昇は観察されなかった。第1の反応槽300の出口において、第1の反応液を経時的にサンプリングした。サンプリングした液体を静置すると、速やかに相分離した。下側の水相中のフッ素濃度をフッ素イオンメーターにより測定した。また第1の反応槽300の入口においてフッ素含有塩酸を経時的にサンプリングし、フッ素含有塩酸中のフッ素濃度を測定した。結果を表9および
図19に示す。なお、表9および
図19に記載のデータは、連続式で反応工程を開始した時点を起点(ゼロ分)としている。
図19より、第1の反応槽300の出口において、水相中のフッ素濃度が100ppm以下に保持されたことがわかる。
【0143】
【表9】
【0144】
(第1の分離工程)
第1の反応槽300において得られた第1の反応液を、容量9.7Lの第1の分離槽400に連続的に供給した。第1の分離槽400に供給された第1の反応液は速やかに相分離した。第1の分離槽400における滞留時間は27.0〜33.6分に設定した。上側の有機相中のTMFS濃度のモニタリングを行ったところ、TMFS濃度は40694〜66551ppmであった。下側の水相中のHMDS濃度およびTMFS濃度のモニタリングを行った所、HMDS濃度は400ppm以下に保持され、TMFS濃度は10ppm以下に保持された。第1の分離槽の下方部分において、水相を精製水溶液として得た。オーバーフローしたTMFSおよびHMDSを含む上側の有機相を後続の再生工程に供給した。結果を表10に示す。
【0145】
【表10】
【0146】
(再生工程)
再生工程において使用した第2の反応槽500は、容量5.4Lであり、第2の反応槽内の液体を取り出して第2の反応槽内に戻すための導管6およびポンプ61を備える。導管6の先端には第2の吐出部材101が取り付けられている。第2の吐出部材101は、第2のノズル111と、第2のノズル111の先端に取り付けられた第2のディフューザー211とを備え、第2のディフューザー211は、第2のノズル111の先端の側方において複数の開口部を有する。第2のノズル111の先端の内径は1.5mmであった。
【0147】
第1の分離工程において回収されたTMFSおよびHMDSを含む有機相1.460kg(1.911L)および5重量%NaOH水溶液2.375kg(2.262L)を第2の反応槽500に入れ、バッチ式で再生工程を行った。第2の反応槽500の下方から取り出した液体を、導管6およびポンプ61を介して第2の反応槽500内に戻すことにより、反応槽500内の液体を混合した。ノズルの先端から吐出される液体の流量は1.4L/minに設定した。第2のノズル111の先端における吐出流の線速度は792m/minであった。混合開始から10分後にバッチ式による再生工程を終了した。第2の反応槽500からオーバーフローした液体が第2の分離槽600に供給されるよう装置の設定を行い、下記の手順にて連続式の再生工程を行った。
第1の分離工程において回収されたTMFSおよびHMDSを含む有機相と、5重量%のNaOH水溶液とを第2の反応槽500に連続的に供給した。HMDS溶液の流量を約84.8mL/min、NaOH水溶液の流量を93.13mL/min、滞留時間を22.93分に設定した。第2の反応槽500の下方から取り出した液体を、導管6およびポンプ61を介して第2の反応槽500内に戻すことにより、反応槽500内の液体を混合した。ノズルの先端から吐出される液体の流量は1.4L/minに設定した。第2のノズル111の先端における吐出流の線速度は792m/minであった。第2の反応槽500内の温度および圧力をモニタリングしたところ、温度上昇および圧力上昇は観察されなかった。第2の反応槽500の出口において、第2の反応液を経時的にサンプリングした。サンプリングした液体を静置すると、速やかに相分離した。上側の有機相中のTMFS濃度を測定した。また、第2の反応槽500の入口において有機相を経時的にサンプリングし、有機相中のTMFS濃度を測定した。結果を表11および
図20に示す。
図20に示すように、第2の反応槽500の出口において、有機相中のTMFS濃度は未検出(0.1ppm未満)に保持された。このことより、再生工程において、有機相中に存在するTMFSがHMDSへと再生されたことがわかる。
【0148】
【表11】
【0149】
(第2の分離工程)
第2の反応槽500において得られる第2の反応液を、容量5.1Lの第2の分離槽600に連続的に供給した。第2の分離槽600に供給された第2の反応液は速やかに相分離した。第2の分離溶液における滞留時間は23.88分に設定した。結果を表12および
図21に示す。上側の有機相中のTMFS濃度のモニタリングを行ったところ、TMFS濃度は未検出(0.1ppm未満)に保持された。下側の水相中のHMDS濃度およびTMFS濃度のモニタリングを行った所、HMDS濃度は500ppm以下に保持され、TMFS濃度は未検出(0.1ppm未満)に保持された。第2の分離槽の下方部分において、下側の水相をフッ化物塩含有液として得た。オーバーフローした有機相を回収し、再生されたHMDSとして反応工程にフィードバックした。
【0150】
【表12】
【0151】
以上述べたように、反応工程、第1の分離工程、再生工程および第2の分離工程を連続式反応器で行うことにより、フッ素含有塩酸を連続的に処理することができ、100ppm以下のフッ素濃度を達成することができた。