(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  ブロック重合体(A)に含まれる、ポリエチレンオキサイド部分(A2)の質量/[アクリル系ポリマー部分(A1)とポリエチレンオキサイド部分(A2)との合計の質量]=0.01〜0.5である、請求項1記載の体液接触用医療用具(2)。
  アクリル系ポリマー部分(A1)が、水/1−オクタノール分配係数(LogP)が0以上2以下であるアクリル系モノマーのみから形成されるホモポリマー部分もしくはコポリマー部分である、請求項1〜3いずれか1項に記載の体液接触用医療用具(2)。
  ポリエチレンオキサイド部分(A2)の質量/[アクリル系ポリマー部分(A1)とポリエチレンオキサイド部分(A2)との合計の質量]=0.01〜0.5である、請求項6記載の体液接触用医療用具用生体適合性ブロック重合体(A)。
  アクリル系ポリマー部分(A1)が、水/1−オクタノール分配係数(LogP)が0以上2以下であるアクリル系モノマーのみから形成されるホモポリマー部分もしくはコポリマー部分である、請求項6〜8いずれか1項に記載の体液接触用医療用具用生体適合性ブロック重合体(A)。
 
【発明を実施するための形態】
【0027】
  本発明の体液接触用の医療用具(2)は、検査や治療に好適に用いられる。
  体液接触用の医療用具(2)としては、例えば、真空採血管、血液バッグ、体外循環回路など、抗凝固剤との併用により使用されている全てのディスポーザブル型医療用具や、人工心肺、ステントなどの医療用具、人工臓器等、血液と接触する医療用具、さらには、体液と接触する検査用チップ等が挙げられ、真空採血管、血液バッグが好適である。
  体液としては、例えば、血液、リンパ液、組織液、体腔液、消化液、汗、涙、鼻水、尿、精液、膣液、用水、乳汁等が挙げられ、特に血液に対し、好適に使用できる。
 
【0028】
<ブロック重合体(A)>
  ブロック重合体(A)は、水/1−オクタノール分配係数(cLogPow:以下LogP)の平均値が0以上、2以下(以下、0〜2)であるモノマーから形成されるアクリル系ポリマー部分(A1)とポリエチレンオキサイド部分(A2)とを有する。
 
【0029】
  LogPは、化学物質の性質を表す数値の一つであり、添加量に依存しない一定の値である。対象とする物質が、水と1−オクタノールの混合液において、水相とオクタノール相が接した系中で平衡状態にある場合を対象として、各相の濃度をその常用対数で示したものである。LogPが大きくなると、比較的に疎水性が増大する傾向があり、LogPが小さくなると、比較的に親水性が増大する傾向がある。
 
【0030】
  LogPの測定は、一般にJIS日本工業規格Z7260−107(2000)に記載のフラスコ浸とう法により実施することができる。また、LogPは実測に代わって、計算化学的手法あるいは経験的方法により見積もることも可能である。LogPの計算に用いる方法やソフトウェアについては公知のものを用いることができるが、本発明ではCambridgeSoft社のシステム:ChemdrawPro11.0に組み込まれたプログラムを用い、LogPを求めている。
 
【0031】
  本発明のブロック重合体(A)は、従来のPEG系ポリマーに比して、前記LogPの平均値が0以上、2以下(以下、0〜2)であるモノマーから形成されるアクリル系ポリマー部分を有しているため、水に対する溶解性が制御され、脂溶性が向上する。その結果、血液や生体組織と接触する医療用具に適用した場合には、医療用具へのコーティングが速やかに進行する。さらには、ブロック重合体(A)中のアクリル系ポリマー部分(A1)に、後述する架橋剤と反応し得る官能基を有するモノマーを共重合することで、架橋塗膜を形成することもできる。塗膜を形成することによって、ブロック重合体(A)の剥離や溶出を抑えることができる。アクリル系ポリマー部分(A1)の有し得る官能基としては、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基などを挙げることができる。
 
【0032】
  また、本発明のブロック重合体(A)は、従来のアクリル系ポリマーに対し、ポリエチレンオキサイド部分を主鎖に組み込んでいるため、ミクロ相分離が誘起され、表面凝集構造が変化することによる低い抗原性を付与することができる。
  このように、本発明のブロック重合体(A)は、血漿タンパクの吸着性、溶血性、細胞毒性の抑制や生物学的安全性の効果を最大限に発揮できるように、分子量、側鎖官能基種類および側鎖官能基導入量を、その使用目的に応じて最適化することが可能である。
 
【0033】
  ブロック重合体(A)を構成する親水性に富むポリエチレンオキサイド部分(A2)と疎水性に富むアクリル系ポリマー部分(A1)のバランスにより、血漿タンパクの吸着性、溶血性、細胞毒性の抑制等を効果的に制御し得る。
  本発明の生体適合性重合体をコーティング材料として用いる場合に、基材、即ち後述する医療用具(1)への濡れ性向上のためにアクリル系ポリマー部分(A1)の量や物性を制御することが可能である。基材の性質に適したアクリル系ポリマー部分(A1)を導入することにより、目的とする血漿タンパクの吸着性、溶血性、細胞毒性の抑制の各効果を十分に発揮することが可能である。ブロック重合体(A)は、ポリエチレンオキサイド部分(A2)の質量/[アクリル系ポリマー部分(A1)とポリエチレンオキサイド部分(A2)との合計の質量]=0.01〜0.5であることが好ましく、(A2)/[(A1)+(A2)]=0.05〜0.3であることがより好ましい。
 
【0034】
  ブロック重合体(A)は、下記式(II)にて示されるポリエチレンオキサイド部分(A2)を有し、質量平均分子量が5,000〜10万である高分子アゾ系重合開始剤を用いて重合して得ることが好ましい。
 
【0035】
【化2】
(式中、m、nは1以上の整数を示す。)
 
【0036】
    前記高分子アゾ重合開始剤の質量平均分子量は、5000〜10万程度、好ましくは1万〜5万であればよい。また、該開始剤のPEG部分の分子量は、800〜1万程度、好ましくは1000〜8000程度であればよい。
  前記高分子アゾ重合開始剤は、ポリエチレンオキサイド部分(A2)及びアゾ基(−N=N−)を含有する繰り返し部分を含む。
  前記高分子アゾ重合開始剤はポリエチレンオキサイド部分(A2)を有しているため、水、アルコール、有機溶剤に可溶であり、溶液重合や乳化重合、分散重合にてブロック重合体(A)の合成が可能である。また、分子鎖骨格中に重合開始部分(ラジカル発生部分:―N=N−)を有しているため、別途重合開始剤を使用する必要がなく、さらには末端反応性マクロモノマーに比べてラジカルの反応性、安定性が高いという特徴を有している。
  前記高分子アゾ重合開始剤は、・C(CH
3)CN−(CH
2)
2−COO−(CH
2CH
2O)
m−CO−(CH
2)
2−C(CH
3)CN・にて示されるようなラジカルを生じ、後述するアクリル系モノマーを重合させる。そして、アクリル系モノマーから形成されるアクリル系ポリマー部分(A1)と前記ラジカル由来の部分とが結合した主鎖を形成し、ブロック重合体(A)を形成する。ポリエチレンオキサイド部分(A2)は、ラジカルの一部に由来する。
  高分子アゾ重合開始剤の具体例としては、和光純薬製の高分子アゾ開始剤VPE0201((CH
2CH
2O)
mの部分の分子量が約2000、nが6程度)などが例示される。
 
【0037】
  また、本発明では前記の高分子アゾ重合開始剤と併用して、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルや2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン1−カルボニトリル)や2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)やジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリック酸)や2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等のアゾ系開始剤や、過酸化ベンゾイル、tert−ブチルパーベンゾエート、クメンヒドロパーオキシドやジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネートやジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエートやtert−ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシドやジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等の有機過酸化物開始剤を用いることができる。これらの開始剤を併用することにより、開始効率を高め効率よくアクリル系ポリマー部分(A1)にPEGに組み込むことができ、残留モノマーを減らすことができる。
 
【0038】
  また、合成時には、用途に応じてラウリルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、α−メチルスチレンダイマー、リモネン等の連鎖移動剤を使用して、分子量や末端構造を制御しても良い。
 
【0039】
<モノマー>
  次に、ブロック重合体(A)のアクリル系ポリマー部分(A1)の原料であるアクリル系モノマーについて説明する。なお、本発明において、アクリル系モノマーとは、アクリルモノマーとメタクリルモノマーの両方を意味する。
  形成されるブロック重合体(A)の生体適合性の観点から、アクリル系モノマーの水/1−オクタノール分配係数(LogP)の平均値は0以上、2以下である。LogPの平均値が0より低いアクリル系モノマーを用いて合成する場合、最終的に得られるブロック重合体の親水性が増大し、水に対する溶解性が向上するため、安定な塗膜を形成することができない。
  一方、LogPの平均値が2より高いアクリル系モノマーを用いて合成する場合、最終的に得られるブロック重合体の水に対する溶解性は抑えられるものの、疎水性が増大しすぎるために、タンパク吸着を抑制することができない。さらに、LogPは生物学的な活性(毒性)と高い相関関係があり、本発明の課題であるタンパク・細胞吸着抑制、血小板の粘着・活性化の抑制および生物学的安全性の効果を最大限に発揮することができない。
 
【0040】
  本発明における、LogPの平均値の求め方について説明する。本発明において、LogPの平均値は、使用する各モノマーのLogPを、各モノマーの重量%で平均した値とする。すなわち、LogPが0のモノマーとLogPが2のモノマーを50:50wt%の割合で仕込む場合、LogPの平均値は1となる。
 
【0041】
  本発明では、使用するアクリル系モノマーのLogPが0〜2の範囲であれば、ホモポリマー部分の原料として使用することができる。また、使用するアクリル系モノマーのLogPが0〜2の範囲外であっても、その他のアクリル系モノマーを含めたLogPの平均値が0〜2の範囲であれば、コポリマー部分の原料として使用することができる。
 
【0042】
  水/1−オクタノール分配係数(LogP)が0以上2以下であるモノマーとしては、例えば、架橋点となる官能基を有さないモノマーや、架橋点となる官能基を有するモノマーに分けて挙げることができる。
  架橋点となる官能基を有さないモノマーとしては、例えば、
  アルキル基の炭素数が1〜4のアルキルアクリレート;
  アルキル基の炭素数が1〜3のアルキルメタクリレート;
  メトキシメチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシメチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エチル(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−[2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ]エチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有モノマー;
  (メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、ブタジエン、イソプレンなどのビニル基含有モノマー;
  N−ビニルピロリドン、N−ビニル−ε−カプロラクタム、1−ビニルイミダゾール、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどのアミド基含有モノマー;
  などが挙げられる。
  これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの化合物のうち、特に2−メトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレートが経済性や操作性の点から好ましい。
 
【0043】
  架橋点となる官能基を有するモノマーとしては、カルボキシル基含有モノマー、水酸基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、イソシアネート基含有モノマーなどを使用することができる。
  例えば、カルボキシル基が導入された共重合体は、エポキシ化合物やアジリジン化合物、カルボジイミド化合物、金属キレート化合物、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド化合物により架橋することができる。水酸基が導入された共重合体は、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物等により架橋することができる。アミノ基が導入された共重合体は、エポキシ化合物により架橋することができる。イソシアネート基が導入された共重合体は、水酸基含有化合物により架橋することができる。これら、架橋点となる官能基を有するモノマーの使用量は、全モノマーの合計100質量%中、10質量%以下で使用することが好ましい。10質量%以下で使用することで、架橋剤を併用した場合に適度な架橋密度を有する塗膜を得ることができる。
 
【0044】
  カルボキシル基含有モノマーとしては、その構造中にカルボキシル基有するものであれば特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−カルボキシエチル、あるいはエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの繰り返し付加した末端にカルボキシル基を有するアルキレンオキサイド付加系コハク酸(メタ)アクリレート等が挙げられる。
 
【0045】
  水酸基含有モノマーとしては、その構造中に水酸基を有するものであれば、特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸1−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−ヒドロキシブチル、単官能(メタ)アクリル酸グリセロール、ラクトン環の開環付加により末端に水酸基を有するポリラクトン系(メタ)アクリル酸エステル、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの繰り返し付加した末端に水酸基を有するアルキレンオキサイド付加系(メタ)アクリル酸エステル、グルコース環系(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。
 
【0046】
  エポキシ基含有モノマーとしては、その構造中にエポキシ基を有するものであれば、特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシシクロヘキシルメチル等が挙げられる。
 
【0047】
  アミノ基含有モノマーとしては、その構造中にアミノ基を有するものであれば、特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノプロピル等が挙げられる。
 
【0048】
  本発明では、ブロック重合体(A)の剥離や溶出を抑えるという観点から、架橋点となる官能基を有するモノマーを共重合させることが好ましい。これにより後述する架橋剤と反応し得る官能基を導入することができ、架橋塗膜を形成できる。
 
【0049】
  本発明ではモノマーとして、上記に挙げたLogPが0〜2の範囲外のモノマーを共重合させることもできるが、アクリル系ポリマー部分(A1)が、水/1−オクタノール分配係数(LogP)が0〜2であるモノマーのみから形成されるホモポリマー部分もしくはコポリマー部分であることがより好ましい。
  すなわち、前記分配係数LogPが0〜2であるモノマーを一種類だけ用い、前記の高分子アゾ系重合開始剤を用いて重合してブロック重合体を得ても良いし、前記分配係数LogPが0〜2であるモノマーを複数種用い、前記の高分子アゾ系重合開始剤を用いて重合してブロック重合体を得ても良い。
 
【0050】
  LogPが0〜2の範囲外のモノマーの中で、架橋点となる官能基を有さないモノマーとしては、例えば、アルキル基の炭素数が5〜20のアクリレート、アルキル基の炭素数が4〜20のメタクリレート、スチレンなどのビニル基含有モノマーなどが挙げられる。      
 
【0051】
  LogPが0〜2の範囲外のモノマーの中で、架橋点となる官能基を有するモノマーとしては、例えば、マレイン酸等のカルボキシル基含有モノマー、4−ヒドロキシスチレン、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等の水酸基含有モノマーなどが挙げられる。
 
【0052】
  さらに、本発明では、ブロック重合体(A)に部分的に架橋構造を導入するために多官能モノマーをさらに共重合させてもよい。
  共重合しながら架橋する場合、架橋割合は、用いる多官能モノマー量が多いほど架橋度が高くなり、反応中にゲル化する可能性も高まる。そのため、多官能モノマーの量としては、全モノマー100質量%中、0.01〜10質量%の範囲が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。ブロック重合体(A)が多官能モノマーにより架橋している場合、難水溶性になるため、架橋剤を使用した場合と同様に、基材からはがれるという問題を低減することができる。
 
【0053】
  多官能モノマーとしては、その構造中にエチレン性不飽和基を2つ以上有するものであれば、特に制限はなく、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキサイドジ(メタ)アクリレート、プロプレングリコールポリエチレンオキサイドジ(メタ)アクリレート、ジプロプレングリコールポリエチレンオキサイドジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、又はネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリレート類;
  トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、又はジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の三官能以上の多官能(メタ)アクリレート類;あるいは、
  1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、グリセロールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ビスフェノールF型エポキシの(メタ)アクリル酸付加物、又はノボラック型エポキシの(メタ)アクリル酸付加物等のエポキシ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。また、以上に挙げた(メタ)アクリレートを、更に(ポリ)アルキレンオキシドや(ポリ)カプロラクトン等で変性したものも使用することができる。
 
【0054】
  本発明において、ブロック重合体(A)は、公知の方法により合成できる。例えば、溶液重合、塊状重合、乳化重合、分散(沈殿)重合などが好ましく、溶液重合や分散(沈殿)重合がより好ましい。
 
【0055】
  前述の通り、ブロック重合体(A)は、ポリエチレンオキサイド部分(A2)の質量/[アクリル系ポリマー部分(A1)とポリエチレンオキサイド部分(A2)との合計の質量]=0.01〜0.5であることが好ましく、(A2)/[(A1)+(A2)]=0.05〜0.3であることがより好ましい。
  本発明における、ポリエチレンオキサイド部分(A2)の質量/[アクリル系ポリマー部分(A1)とポリエチレンオキサイド部分(A2)との合計の質量]の求め方について説明する。
  ポリエチレンオキサイド部分(A2)の質量を計算する際、厳密には、アゾ系重合開始剤中のポリエチレンオキサイドの重量のみを計算して求めるべきであるが、本発明においては、ポリエチレンオキサイド部分(A2)を有する高分子アゾ系重合開始剤の重量をそのまま適応することにする。また、アクリル系ポリマー部分(A1)の質量は、重合に供したアクリル系モノマーの合計量である。
  すなわち、モノマー90重量部、ポリエチレンオキサイド部分(A2)を有する高分子アゾ系重合開始剤10重量部を用いて合成した場合、ポリエチレンオキサイド部分(A2)の質量/[アクリル系ポリマー部分(A1)とポリエチレンオキサイド部分(A2)との合計の質量]は0.1となる。
 
【0056】
  ブロック重合体(A)の質量平均分子量は、取り扱い性および医療用具等へ塗布する観点から、3,000〜1,000,000であることが好ましく、より好ましくは、5,000〜500,000である。
  なお、ブロック重合体(A)の質量平均分子量の調製は、例えば、高分子アゾ重合開始剤中に含まれるアゾ基のモル数に対する、アクリル系モノマーの全モル数の比率を適宜変更することによって可能となる。たとえば、高分子アゾ重合開始剤中に含まれるアゾ基のモル数に対する、アクリル系モノマーの全モル数の比率が200であると200量体のアクリル系ポリマーがPEG鎖の間に組み込まれることになり、ポリマーの絡み合いによる高い凝集力を付与することができる。
 
【0057】
  ブロック重合体(A)のガラス転移温温度は、−70℃〜50℃であることが好ましく、より好ましくは、−60℃〜40℃である。ブロック重合体(A)のガラス転移温度を−70℃〜50℃の範囲に調製することで、医療用具本体に対する良好な埋め込み性が可能となり医療用具本体への接着力を付与することができる。さらには、成型体へ塗布する際の加工性を向上することができる。
  ガラス転移温度の調製は、アクリル系ポリマー部分(A1)を構成するモノマーを適宜調製することによって可能となる。例えば、2−メトキシエチル(メタ)アクリレートなどのポリアルコキシアルキル(メタ)アクリレートの比率を高くすることにより、側鎖エーテル結合特有の柔軟性を付与することができるため、ガラス転移温度は−50℃に近い範囲で調製することができる。
 
【0058】
<架橋剤>
  次に、本発明で用いることのできる架橋剤について説明する。本発明において用いることのできる架橋剤としては、例えば、エポキシ基、イソシアネート基、およびアジリジニル基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有するものの他、金属キレート化合物、カルボジイミド基含有化合物等が挙げられる。これらの架橋剤は、塗膜の弾性率や耐性を上げる目的で使用したり、接着力を調製したりするために用いることができる。
 
【0059】
[エポキシ基を有する架橋剤]
  本発明で用いられるエポキシ基を有する架橋剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであればよく、特に限定されるものではない。
  2官能エポキシ基を有する架橋剤としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレンオキサイドジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゾフェノンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシアントラセン型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジルアニリン等の芳香族エポキシ化合物、上記記載の芳香族エポキシ化合物の水素添加物、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等の脂環式エポキシ化合物などが挙げられる。
  エポキシ基を3つ以上有する架橋剤としては、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、トリスフェノール型エポキシ化合物、テトラキスフェノール型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。
 
【0060】
[イソシアネート基を有する架橋剤]
  本発明で用いられるイソシアネート基を有する架橋剤としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有した化合物であればよく、特に限定されるものではない。
  2官能イソシアネート化合物としては、例えば、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等を挙げることができる。
  3官能イソシアネート化合物としては、上記で説明したジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、水と反応したビュウレット体、イソシアヌレート環を有する3量体が挙げられる。
  また、イソシアネート基を有する架橋剤中のイソシアネート基は、ブロック化されていても良いし、ブロック化されていなくても良い。
  本発明で用いられるブロック化イソシアネート架橋剤としては、前記イソシアネート化合物中のイソシアネート基がε−カプロラクタム、MEKオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ピラゾール、フェノール等でブロックされたブロック化イソシアネート化合物であればよく、特に限定されるものではない。
 
【0061】
[アジリジニル基を有する架橋剤]
  本発明で用いられるアジリジン化合物としては、1分子中に2個以上のアジリジン基を有した化合物であればよく、特に限定されるものではない。アジリジン化合物としては、例えば、2,2’−ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、4,4−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等が挙げられる。
 
【0062】
[金属キレート化合物]
  本発明で用いられる金属キレート化合物としては、例えば、アルミニウムキレート化合物、アルミニウムアルコキシド化合物、アルミニウムアシレート化合物などの有機アルミニウム化合物、チタンキレート化合物、チタンアルコキシド化合物、チタンアシレート化合物などの有機チタン化合物、ジルコニウムキレート化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物、ジルコニウムアシレート化合物などの有機ジルコニウム化合物等が挙げられる。
 
【0063】
[カルボジイミド基含有化合物]
  本発明で用いられるカルボジイミド基含有化合物としては、日清紡績株式会社のカルボジライトシリーズを用いることができ、V−02、V−04、V−06などの水性タイプ、V−01、V−03、V−05、V―07、V―09などの油性タイプ等が挙げられる。
 
【0064】
[β−ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物]
  本発明では、β−ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物も架橋剤として用いることができる。
  β−ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物としては、分子内にβ−ヒドロキシアルキルアミド基を含有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。β−ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物としては、N,N,N’,N’−テトラキス(ヒドロキシエチル)アジパミド(エムスケミー社製PrimidXL−552)をはじめとする種々の化合物を挙げることができる。
 
【0065】
  本発明において、架橋剤は、一種のみを単独で用いてもよいし、複数を併用しても良い。架橋剤の使用量は、ブロック重合体(A)中に含まれる官能基の種類やモル数を考慮して決定すればよく、特に限定されるものではないが、通常はブロック重合体(A)100質量部に対して0.1質量部〜10質量部の範囲で用いられる。ブロック重合体(A)中に含まれる官能基のモル数よりも少ない範囲で配合することで、未反応の架橋剤が遊離する懸念をなくすことができる。この範囲であれば、目的とする血液適合性、生体組織適合性、生体組織接着抑制、血漿タンパクの吸着性、溶血性、細胞毒性の抑制の各効果に、特に優れた性能が発現される。
 
【0066】
<生体適合性性材料としての利用>
  ブロック重合体(A)は、血漿タンパクの吸着性や血小板の粘着性が低いので、真空採血管、血液バッグ、体外循環回路など、抗凝固剤との併用により使用されている全てのディスポーザブル型医療用具や、人工心肺、ステントなどの医療用具、人工臓器等、血液と接触する医療用具、さらには、体液と接触する検査用チップ等に好適に用いることができる。
  また、ブロック重合体(A)を含むコーティング剤は、塗工性に優れる。そこで、体液接触用の医療用具(1)の表面にコーティング剤を塗工し、次いで乾燥ないし硬化し、体液接触用塗膜を形成し、体液接触用医療用具(2)を提供することができる。
 
【0067】
  また、ブロック重合体(A)は、細胞毒性が低く、血漿タンパクの吸着性が低いため、細胞培養用部材(3)の表面にコーティング剤はを塗工し、次いで乾燥ないし硬化し、細胞培養用塗膜を形成し、創薬研究や再生医療研究のための研究資材の1つである細胞培養用部材(4)を提供することができる。細胞培養用塗膜は、培養対象の細胞のための培地ではないが、細胞の速やかな成育・増殖を支え、促すものである。
 
【0068】
  医療用具(1)や細胞培養用部材(3)への塗布方法としては、刷毛、浸漬、ローラ、スプレー、注入、塗工機など種々の塗布方法により基材に溶液を塗布し、乾燥することにより行われる。一方、フィルムに対する塗布方法としては、ディップコート、コンマコート、グラビアコート、カーテンコート、ダイコート、リップコート、マイクログラビアコート、スロットダイコート、リバースコート、キスコート等が挙げられる。塗布後、溶媒を除去し後の塗膜の膜厚は限定されないが、好ましくは1mm以下である。
  なお、溶媒の例としては、水、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン(以下、MEKという)等の有機溶媒等が挙げられる。
 
【0069】
  医療用具(1)や細胞培養用部材(3)の素材としては、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、シリコーン、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリビニリデンフルオライド等、樹脂が挙げられる。樹脂以外にも、ステンレス鋼、チタン、チタン合金等の金属材料、ヒドロキシアパタイト、グラファイト、窒化チタン等のセラミック等を用いることができる。
 
【0070】
  医療用具(1)や細胞培養用部材(3)の形態は、立体的な成型体の他、シート状、糸状であってもよい。
  シート状のものとしては、フィルム、不織布、紙等が挙げられる。
  フィルムとしては、シリコーン、PET、セルロースエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンなどの各種プラスチックフィルムなどを挙げることができる。細胞培養用部材(3)としては、酸素透過性の観点から、シリコーンフィルムや不織布を用いるのが好ましい。
 
【0071】
  本発明の生体適合性重合体は、上記の基材、成型体、フィルムに対して塗布することで、血液、生体組織、タンパクおよび細胞と接触する界面において安定的に存在することができ、共重合体が溶出する危険性が極めて少ない。該共重合体を界面に保持させた結果としてタンパクや細胞の吸着抑制、血小板の粘着や活性化の抑制などの効果が発揮される。
 
【0072】
  さらに本発明の生体適合性重合体は、医療用具(1)や細胞培養用部材(3)に塗布して用いるだけでなく、生体適合性重合体をシート状や糸状の形態にすることもできる。例えば、本発明の生体適合性重合体から、透析用や人工心肺用の中空糸などの構造材を得ることも可能である。
 
【実施例】
【0073】
  以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における、「部」および「%」は、「重量部」および「重量%」をそれぞれ表し、Mwは質量平均分子量、Tgはガラス転移温度を意味する。
【0074】
<質量平均分子量(Mw)の測定方法>
  Mwの測定は昭和電工社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「GPC-101」を用いた。GPCは溶媒(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーである。本発明における測定は、カラムに「KF−805L」(昭和電工社製:GPCカラム:8mmID×300mmサイズ)を直列に2本接続して用い、試料濃度1wt%、流量1.0ml/min、圧力3.8MPa、カラム温度40℃の条件で行い、質量平均分子量(Mw)の決定はポリスチレン換算で行った。データ解析はメーカー内蔵ソフトを使用して検量線および分子量、ピーク面積を算出し、保持時間15〜30分の範囲を分析対象として質量平均分子量を求めた。
【0075】
<ガラス転移温度(Tg)の測定方法>
  溶剤を乾燥除去したブロック重合体について、メトラー・トレド社製「DSC−1」を使用し、サンプル量約5mgをアルミニウム製標準容器に秤量し、温度変調振幅±1℃、温度変調周期60秒、昇温速度2℃/分の条件にて、−80〜200℃まで測定し、可逆成分の示差熱曲線からガラス転移温度を求めた。
【0076】
<ブロック重合体の合成>
[製造例1]
  温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒としてMEK65重量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてメトキシエチルアクリレートを49.4重量部、アクリル酸を0.6重量部、重合開始剤としてVPE0201(和光純薬工業社製:マクロアゾ開始剤)を2.5重量部、溶媒としてMEKを5重量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後1時間熟成させた後、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.0125重量部をMEK2重量部で溶解した溶液を添加し、1時間熟成した。その後、さらに、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.0125重量部をMEK2重量部で溶解した溶液を添加し、1時間熟成させた後、室温に冷却し反応を停止した。その後、ダイヤフラムポンプでMEKを除去した後、エタノールを加えて希釈することで、固形分10重量%のブロック重合体溶液を得た。得られたブロック重合体のMwは281,000、Tgは−45℃、PEGの割合は4.8重量%であった。
【0077】
[製造例2〜6]
  製造例1と同様の方法で、表1の組成および仕込み重量部に従って合成を行い、ブロック重合体溶液を得た。その特性値を表1に示す。
【0078】
[製造例7]
  温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器を備えた反応容器に、窒素気流下、溶媒としてイオン交換水526重量部、メタノール29重量部、モノマーとしてメトキシエチルアクリレート50重量部を仕込み、撹拌下80℃まで加熱した。別途、重合開始剤としてVPE0201(和光純薬工業社製:マクロアゾ開始剤)8.8重量部をイオン交換水20重量部で溶かした溶液を準備し、反応容器中の溶媒が還流してから30分後に添加した。添加終了後5時間熟成させた後、冷却して反応を停止した。ダイヤフラムポンプでメタノールを除去した後、イオン交換水を加えて希釈することで、固形分10重量%のブロック重合体水分散液を得た。得られたブロック重合体のTgは−50℃、PEGの割合は15.0重量%であった。Mwは樹脂がTHFに不溶であるため測定していない。
【0079】
[製造例8]
  製造例7と同様の方法で、表1の組成および仕込み重量部に従って合成を行い、ブロック重合体溶液を得た。その特性値を表1に示す。
【0080】
[比較製造例1]
  温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒としてMEK65重量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてエチルアクリレートを50重量部、重合開始剤として2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチルを0.3重量部、溶媒としてMEKを5重量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後1時間熟成させた後、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.0125重量部をMEK2重量部で溶解した溶液を添加し、1時間熟成した。その後、さらに、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.0125重量部をMEK2重量部で溶解した溶液を添加し、1時間熟成させた後、室温に冷却し反応を停止した。その後、ダイヤフラムポンプでMEKを除去した後、エタノールを加えて希釈することで、固形分10重量%のアクリル樹脂溶液を得た。得られたアクリル樹脂のMwは62,000、Tgは−18℃、PEGの割合は0重量%であった。
【0081】
[比較製造例2〜3]
  製造例1と同様の方法で、表1の組成および仕込み重量部に従って合成を行い、ブロック重合体溶液を得た。その特性値を表1に示す。
【0082】
[比較製造例4]
  温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器を備えた反応容器に、窒素気流下、トルエン50重量部、水酸基価279mgKOH/gのポリエチレングリコール36.2重量部を仕込み、撹拌下110℃まで昇温し、トルエン13重量部を留去すると同時に原料を脱水した。50℃まで冷却した後、イソホロンジイソシアネート19.1重量部を添加し、110℃まで昇温し、FT−IRでイソシアネート基由来のピーク(2254cm -1 付近)がなくなるまで反応させた。反応停止後、ダイヤフラムポンプでトルエンを除去し、エタノールを加えて希釈することで、固形分10重量%のPEG含有ウレタン溶液を得た。得られた樹脂のMwは43,000、Tgは−28℃、PEGの割合は65.5重量%であった。
【0083】
[比較製造例5]
  温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器を備えた反応容器に、窒素気流下、トルエン50重量部、水酸基価111mgKOH/gのポリエチレングリコール43.0重量部、ジメチロールブタン酸1.1部を仕込み、撹拌下110℃まで昇温し、トルエン14重量部を留去すると同時に原料を脱水した。50℃まで冷却した後、イソホロンジイソシアネート10.6重量部を添加し、110℃まで昇温し、FT−IRでイソシアネート基由来のピーク(2254cm -1 付近)がなくなるまで反応させた。反応停止後、ダイヤフラムポンプでトルエンを除去し、エタノールを加えて希釈することで、固形分10重量%のPEG含有ウレタン溶液を得た。得られた樹脂のMwは38,000、Tgは−51℃、PEGの割合は78.6重量%、酸価は7.7mgKOH/gであった。
【0084】
【表1】
【0085】
表1中、略号は以下の通り。
MEA:メトキシエチルアクリレート、LogP=0.48
AA:アクリル酸、LogP=0.38
THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート、LogP=0.78
HEA:アクリル酸2−ヒドロキシエチル、LogP=0.12
BA:ブチルアクリレート、LogP=1.88
HEAA:N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、LogP=−0.56
130A:メトキシーポリエチレングリコールアクリレート、LogP=−0.76
POA:フェノキシエチルアクリレート、LogP=2.3
EA:エチルアクリレート、LogP=0.98
ACMO:アクリロイルモルホリン、LogP=−0.2
2EHA: 2−エチルヘキシルアクリレート、LogP=3.53
V601:2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル
【0086】
[実施例1、6〜10]、[比較例1〜5]
  製造例1〜6、比較製造例1〜5記載の各ブロック重合体等にエタノールを加え、固形分が5%になるように調製し、コーティング剤を得た。以下、水への溶解性、細胞毒性、スフェロイド形成性、タンパク吸着性、溶血性、塗膜の加工性を評価した。結果を表2に示す。
【0087】
[実施例11、12]
  製造例7,8記載の各ブロック重合体等にイオン交換水を加え、固形分が5%になるように調製し、コーティング剤を得た。以下、実施例1と同様に評価した。
【0088】
[実施例13、14]
  表2で示した固形分比で、製造例8記載の各ブロック重合体等と架橋剤を配合し、イオン交換水で固形分が5%になるように調製し、コーティング剤を得た。以下、実施例1と同様に評価した。
【0089】
[実施例2〜5]、[比較例6〜7]
  表2で示した固形分比で、製造例1、比較製造例5記載の各ブロック重合体等と架橋剤を配合し、エタノールで固形分が5%になるように調製し、コーティング剤を得た。以下、実施例1と同様に評価した。
【0090】
【表2】
【0091】
  表2中、略号は以下の通り。
ALCH:川研ファインケミカル社製、アルミキレート化合物
ケミタイトPZ:日本触媒社製、多官能アジリジン化合物
EX321L:ナガセケムテックス社製、多官能脂肪族エポキシ化合物
V05:日清紡社製、油性カルボジイミド基含有化合物
V02:日清紡社製、水性カルボジイミド基含有化合物
XL552:エムスケミー社製、ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物
【0092】
<評価>
(1)水への溶解性
  実施例及び比較例で調製したコーティング剤を、精密 量した浅型金属容器に約2gずつ添加し、150℃で10分乾燥した。オーブンから取出し、浅型金属容器ごと精密 量した後、浅型金属容器にイオン交換水5gを加え一晩静置した。浅型金属容器からイオン交換水を吸引排出した後、再度150℃で10分乾燥し、浅型金属容器を精密秤量した。下記式で水への溶解度を算出し、水への溶解性を3段階の評価基準に基づいて評価した。
水への溶解度=100−[(z−x)/(y−x)]×100
  x:浅型金属容器の質量
  y:イオン交換水で処理する前の質量
  z:イオン交換水で処理した後の質量
  a:水への溶解度≦5%
  b:5%<水への溶解度≦50%
  c:50%<水への溶解度
【0093】
(2)細胞毒性
  U字底96ウェルプレートに、実施例及び比較例で調製したコーティング剤を各ウェルに約0.5mlずつ注入した。これを吸引排出した後、50℃で3時間乾燥させることにより、コーティング剤で内面が被覆されたプレートを調製した。
  これをエチレンオキサイドガス滅菌した後、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にウシ胎児血清(FBS)を10%添加したものを培地とし、マウス線維芽細胞用細胞株(NIH/3T3細胞)を1ウェルあたり1×10 4 個播種し、5%CO 2 /37℃のインキュベーターで5日目まで培養した。
  細胞毒性は、1,2,5日後にATPアッセイを行うことによって評価した。具体的には、培養後のウェルに100μlのATP試薬(『塊』のATP測定試薬:東洋ビーネット社製)を添加、5回ピペッティングし、5分間室温で静置した後、100mlの試薬・細胞溶解液を別プレートに分取し1分間撹拌した。これをMithrasLB940(Berthold社製)を用いて発光量を測定した。
  細胞毒性=(培養5日後の発光量)/(培養1日後の発光量)×100
  a:80%≦細胞毒性
  b:20%≦細胞毒性<80%
  c:細胞毒性<20%
【0094】
(3)スフェロイド形成性
  スフェロイド形成性は、上記(2)と同様の方法で調整したウェルプレートを用い、5日後の細胞培養状態を透過式光学顕微鏡40倍で写真撮影し、細胞の形態を観察することによって評価した。
  a:1つのスフェロイドを形成
  b:複数個のスフェロイドを形成
  c:スフェロイドを形成しない
【0095】
(4)タンパク吸着性
  実施例及び比較例で調整したコーティング剤を、ポリスチレン製の試験管(12×75mm)に約5mLを注入し静置した後、吸引排出し、50℃で3時間乾燥し、コーティング剤で内面が被覆された試験管を得た。
  リン酸緩衝液(PBS)にウシ血清アルブミンを濃度0.5重量%となるように加えたタンパク質含有液:4.0mLを前記試験管に入れ、24時間インキュベートした後、試験管内の液を棄て、PBS:約4.0mLにて洗浄し、前記洗浄液を棄てた。その後、PBSに1重量%のドデシル硫酸ナトリウムを添加したタンパク質溶出用溶液:4.0mLを添加することにより、試験管内壁に吸着したタンパク質を溶出させ、前記タンパク質溶出用溶液中のタンパク質の濃度をMicroBCAProteinAssayKit(タカラバイオ社製)により測定し、塗膜に吸着していたタンパク質の量を求めた。
  a:タンパク吸着量≦0.60μg
  b:0.60μg<タンパク吸着量≦2.00μg
  c:2.00μg<タンパク吸着量
【0096】
(5)溶血性試験
  ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、実施例及び比較例で調製したコーティング剤を、乾燥後の膜厚が2〜3μmになるように塗工し、100℃で2分乾燥後、50℃で3時間エージングした。
  60cm
2に切り出した試験片に生理食塩水10mLを加え、37℃で72時間かけて抽出し、試験液10mLを得た。
  この試験液に0.2mLのウサギ脱繊維血を加え、37℃で1、2および4時間インキュベートした。インキュベート後の試験液を約750×gで5分間遠心分離した後の上澄み液について、576nmにおける吸光度を測定した。陰性対照として生理食塩水10mL、陽性対照として蒸留水10mLにそれぞれ0.2mLのウサギ脱繊維血を加えたものを使用し、同様に吸光度を測定した。下記式で溶血率を算出し、溶血性(溶血毒性)を評価した。
  溶血率(%)=(検体の吸光度−陰性対照の吸光度)/(陽性対照の吸光度−陰性対照の吸光度)×100
  a:溶血率≦2
  b:2<溶血率≦20
  c:20<溶血率
【0097】
(6)塗膜の加工性
  ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、実施例及び比較例で調製したコーティング剤を乾燥後の膜厚が20〜30μmになるように塗工し、100℃で2分乾燥後、50℃で3時間エージングした。この塗膜を裁断する際に、塗膜が刃に付着するかどうかによって加工性を評価した。塗膜の加工性に関しては、下記の3段階の評価基準に基づいて評価した。
  a:全く塗膜が刃に付着しない
  b:わずかに塗膜が刃に付着する
  c:塗膜がひどく刃に付着し、実用上問題がある
【0098】
  表2に示す実施例と比較例を見て分かる通り、実施例1〜14で使用しているアクリル系ポリマー部分(A1)とポリエチレンオキサイド部分(A2)とを有するブロック重合体(A)は、比較例2〜7で使用しているポリエチレンオキサイド部分を有するポリマーに対し、前記LogPの平均値が0〜2であるモノマーからなるアクリル系ポリマー部分を主鎖中に有しているため、水に対する溶解性が抑えられ、細胞毒性、タンパク吸着性、溶血性を共に満足する物性を得ることができた。一方、LogPの平均値が0〜2であるモノマーからなるアクリル系ポリマー部分を主鎖中に有していても、ポリエチレンオキサイド部分(A2)を有しないと、タンパク質の吸着が顕著である。
  また、架橋剤を併用することで、コーティング膜として一層良好な塗膜の加工性を付与することができた。
 
 
【課題】  本発明の目的は、血漿タンパクの吸着性、溶血性、細胞毒性が低い体液接触用医療用具を提供すること、上記のような体液接触用医療用具を形成する際、即ち塗工した後の加工性等が良好な生体適合性重合体を提供することにある。
【解決手段】  体液接触用の医療用具(1)と、前記医療用具(1)の表面に位置する体液接触用塗膜とを具備する、体液接触用医療用具(2)であって、前記体液接触用塗膜が、水/1−オクタノール分配係数(LogP)の平均値が0以上、2以下であるアクリル系モノマーから形成されるアクリル系ポリマー部分(A1)と、ポリエチレンオキサイド部分(A2)とが、特定の結合鎖にて結合してなる生体適合性ブロック重合体(A)を含む体液接触用医療用具(2)。