特許第5874865号(P5874865)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5874865
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】樹脂ゴム複合体の製造法
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/08 20060101AFI20160218BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20160218BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20160218BHJP
   C08J 7/12 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   B32B25/08
   B32B27/00 A
   B32B27/34
   C08J7/12 ACFG
   C08J7/12 ACEZ
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-536338(P2015-536338)
(86)(22)【出願日】2015年3月12日
(86)【国際出願番号】JP2015057259
【審査請求日】2015年7月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-68719(P2014-68719)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭寛
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−262636(JP,A)
【文献】 特開昭60−197740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
B29C71/04
C08J7/00−7/02
7/12−7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂成形品の表面を不活性ガスを用いて、またはポリフェニレンサルファイド系樹脂成形品の表面を活性ガスを用いてマイクロ波方式の低圧プラズマ処理を行って活性化した後、炭化水素系モノマーを用いたマイクロ波方式の低圧プラズマ処理を行い、ラジカルを有する重合膜を形成せしめた樹脂成形品に、ゴム層を形成するパーオキサイド架橋性非極性ゴム組成物を、接着剤を介さずに直接加硫接着させることを特徴とする樹脂ゴム複合体の製造法
【請求項2】
ポリアミド系樹脂成形品表面の活性化に用いられる不活性ガスがヘリウムガス、アルゴンガスまたは窒素ガスである請求項1記載の樹脂ゴム複合体の製造法
【請求項3】
ポリフェニレンサルファイド系樹脂成形品表面の活性化に用いられる活性ガスが酸素ガスまたは水素ガスである請求項1記載の樹脂ゴム複合体の製造法
【請求項4】
ラジカルを有する重合膜の形成に用いられる炭化水素系モノマーが、アセチレン、エチレンまたはメタンである請求項1記載の樹脂ゴム複合体の製造法
【請求項5】
パーオキサイド架橋性非極性ゴムが、パーオキサイド架橋性のEPDM、天然ゴム、エチレン・プロピレンゴム、ブタジエンゴムまたはスチレンブタジエンゴムである請求項1記載の樹脂ゴム複合体の製造法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ゴム複合体の製造法に関する。さらに詳しくは、ポリアミド系樹脂またはポリフェニレンサルファイド系樹脂の成形品とゴムとを接着剤を介さず直接接着させた樹脂ゴム複合体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド系などの樹脂成形物とゴムとを複合一体化する方法としては、一般的に接着剤を用いて樹脂成形物とゴムを接着する行う方法が用いられている。しかしながら、接着剤を用いる接着方法は、工程が複雑で工程管理が煩雑となり、コスト高となるばかりではなく、有機溶剤等の環境負荷物質を大量に使用しなければならないという問題がみられる。
【0003】
一方、接着剤を用いない方法としては、ゴム組成物を基材と反応するような配合とする方法が用いられている。かかる方法では、接着剤は使用しないものの、接着可能な基材が限定されること、また接着に必要な配合とすることにより、ゴム自身の物性を低下させてしまうことがある。
【0004】
特許文献1には、プラズマ処理、コロナ放電処理または紫外線照射処理を施したポリアミド樹脂とアルコキシシラン化合物
R1,R2:任意の官能性基
R3,R4:炭化水素基
を添加したゴム組成物とを、接着剤を介することなく積層し、貼り合わせた樹脂ゴム積層体が記載されている。しかしながら、アルコキシシラン化合物が添加されるゴムとしての天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどの例示はみられるものの、その実施例ではイオウ加硫系のもののみしか示されていない。
【0005】
接着剤を使用しないでポリアミド系樹脂成形品と他の成形材料からなる部材とを一体複合化する方法として、これらの少くとも一方を複合物の製造前に接触面にオープンエアープラズマを施し、次いでもう一方の部品を一体成形する方法が特許文献2に記載されている。
【0006】
ここで、他の成形材料として加硫されたポリマーコンパウンド、例えばEPDM、天然ゴムのコンパウンドが例示されているが、それは射出成形部材、押出物、圧縮部材等の成形部材または単層シート、複層シート、繊維構造物等であり、これが未加硫ゴムコンパウンドであるという記載はない。
【0007】
また、特許文献3には、内側樹脂層とその外周に積層される外側ゴム層とを備えた燃料ホースであって、押出成形によりポリアミド系樹脂、フッ素樹脂等の内側樹脂層を形成した後、外側ゴム層を押出成形するに先立って、内側樹脂層の外周面を減圧下でマイクロ波プラズマ処理することが記載されているが、外層ゴム層を形成する押出成形ゴムとしてEPDMや天然ゴムは例示されているだけである。
【0008】
さらに特許文献4には、基材表面上に炭化水素モノマーを用いて低圧プラズマを適用して不飽和結合を有する重合膜を形成し、次いで該重合膜上にゴム組成物を加熱圧着して基材とゴムを接着一体化するゴム系複合材料の製造方法が提案されており、その実施例にはPETシート、ナイロンシート、ナイロン布、ステンレス鋼板などに高周波プラズマ処理を行ってプラズマ重合膜を形成し、これらの基材と硫黄加硫性の天然ゴムおよびポリイソプレンのブレンドゴム組成物とを加熱圧着したゴム系複合材料が開示されているが、いずれも更なる接着強度の改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−72203号公報
【特許文献2】特開2006−205732号公報
【特許文献3】特開2008−230244号公報
【特許文献4】特開平3−262636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、樹脂成形品とゴムとを接着剤を介さず有効に直接接着させた樹脂ゴム複合体の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる本発明の目的は、ポリアミド系樹脂成形品の表面を不活性ガスを用いて、またはポリフェニレンサルファイド系樹脂成形品の表面を活性ガスを用いてマイクロ波方式の低圧プラズマ処理を行って活性化した後、炭化水素系モノマーを用いたマイクロ波方式の低圧プラズマ処理を行い、ラジカルを有する重合膜を形成せしめた樹脂成形品に、ゴム層を形成するパーオキサイド架橋性非極性ゴム組成物を、接着剤を介さずに直接加硫接着させ樹脂ゴム複合体の製造法によって達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明方法によって製造された樹脂ゴム複合体は、次のような点での特徴を有する。
(1) 樹脂成形品表面のプラズマ処理による重合膜形成は、マイクロ波を用いた低圧プラズマ処理法によって行われ、同じ低圧プラズマ処理であっても高周波を用いて行った場合には、所望の樹脂-ゴム間接着性を確保することができない。
(2) 後記比較例1に示される通り、ポリアミド系樹脂成形品またはポリフェニレンサルファイド系樹脂の代りに、ポリイミド樹脂を用いた場合には、樹脂-EPDM間の接着性を殆ど得ることができない。
(3) ポリアミド系樹脂成形品またはポリフェニレンサルファイド系樹脂の表面に加硫接着されるゴムとしては、パーオキサイド架橋性非極性ゴムが用いられ、他の架橋性基を有する非極性ゴムであるイオウ加硫性非極性ゴムを用いた場合には、後記比較例10および11に示される如く、接着性試験において接着強度は0 N/mmであり、したがってゴム残率は0%となってしまう。
(4) ポリアミド系樹脂成形品またはポリフェニレンサルファイド系樹脂の表面に加硫接着されるゴムとして、極性ゴムであるフッ素ゴムまたは水素化ニトリルゴムを用いた場合には、パーオキサイド架橋性ゴムであっても後記比較例12および13に示される如く、接着性試験において接着強度は0.3〜2.3 N/mmであり、ゴム残率は0%となってしまう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
マイクロ波低圧プラズマ処理される樹脂としては、ポリアミド系樹脂またはポリフェニレンサルファイド系樹脂が用いられ、これらはその物性を確保すべくガラスファイバー等の充填剤が適宜添加されたものも用いることができる。
【0014】
代表的なポリアミド(PA)の種類およびモノマーとしては次のようなものが挙げられる。
種類 CH2/NHCO基数 原料モノマー
46 4 テトラメチレンジアミン-アジピン酸塩
6 5 ε-カプロラクタム、ε-アミノカプロン酸
66 5 ヘキサメチレンジアミン-アジピン酸塩
610 7 ヘキサメチレンジアミン-セバシン酸塩
612 8 ヘキサメチレンジアミン-ドデカン二酸塩
11 10 ω-アミノウンデカン酸
12 11 ω-ラウロラクタム、ω-アミノドデカン酸
【0015】
この他に、PA613、3T、PA810、PA812、PA1010、PA1012、PA1212、PAPACM12等も用いられる。これらのポリアミド系樹脂は、単独でまたは組合せて用いられ、さらにはその目的が損なわれない範囲内において、他の樹脂、例えばポリプロピレン等とブレンドして用いることもできる。
【0016】
ポリフェニレンサルファイド系樹脂としては、架橋型、部分架橋型またはリニア型の各タイプのものがあり、これらの中では架橋型は一番低分子量のポリマーであり、リニア型は一番高分子量のポリマーである。成形材料としては、ある一定の溶融粘度が必要なため、必要な溶融粘度に迄達するように、架橋型および部分架橋型は熱処理による酸素架橋を行っている。これに対して、リニア型はこのような熱処理を特に行わなくとも、最初から十分に成形できる溶融粘度を有しているポリマーであり、本発明においては重量平均分子量Mwが約30000〜100000、好ましくは約50000〜70000のものが用いられる。かかる成形可能グレードの直鎖状のポリフェニレンサルファイド系樹脂は、東ソー、呉羽化学、トープレン等によって市場に供給されており、本発明ではこのような市販品がそのまま用いられる。
【0017】
また、これらの樹脂の成形品は、非極性ゴムを加硫接着して積層化し、複合化するのに可能な形状、例えば平面、曲面、凹凸面等を有する板状体、棒状体、中空体等であり、具体的な用途としてはホース、防振ゴム、空気ばね、さらには燃料案内システム、冷却流体案内システム、オイル案内システム等のエレメントなどが挙げられる。
【0018】
これらの樹脂成形品の外表面は、まず重合膜の密着性を向上させるために、炭化水素系モノマーの重合前に、Heガス、Neガス、Arガス、Krガス、Xeガス、N2ガス等の不活性ガスあるいはO2ガス、H2ガス等の活性ガスを単独でまたは混合したガスを用いたプラズマ処理が行われて活性化される。ここで、ポリアミド系樹脂表面は、好ましくはHeガス、Arガス、N2ガスを単独でまたは混合したガスを、ポリフェニレンサルファイド系樹脂表面は、好ましくはO2ガスを用いたプラズマ処理が行われる。プラズマ処理は、後述する炭化水素系モノマーを用いたプラズマ処理と同様の処理条件によって、マイクロ波方式の低圧プラズマ処理が用いられる。
【0019】
不活性ガスまたは活性ガスによって活性化された樹脂表面には、さらに炭化水素系モノマーを用いたマイクロ波方式の低圧プラズマ処理法が適用されて重合膜が形成される。マイクロ波方式の低圧プラズマ処理は、真空容器内で、雰囲気として炭化水素系モノマーガスを用い、真空槽上部に位置するマグネトロンから発振された周波数433MHz〜2.45GHzのマイクロ波を真空中の誘電体表面に伝播させることで、誘電体表面のガスを励起し、プラズマを生成することにより行われる。プラズマ放電処理条件としては、圧力を約10〜1000Paとし、放電周波数、放電出力、処理時間については処理装置の形状や大きさによって適宜調整することが望ましく、一般には出力約10〜30000W、時間約0.1〜60分間の条件下で処理が行われる。
【0020】
炭化水素系モノマーとしては、プラズマ重合後に重合膜中にラジカルが残存する化合物であればいかなるものであっても使用することができ、具体的には、メタンなどの脂肪族飽和炭化水素、エチレン、プロピレン、アセチレンなどの脂肪族不飽和炭化水素、シクロヘキセン、シクロヘキサンなどの環状炭化水素、スチレン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素を用いることができ、好ましくはアセチレン、エチレン、メタンなどが用いられる。また、これらの炭化水素系モノマーガスはそのまま単独で用いることもできるが、放電の持続性、安定性、経済性あるいは形成される重合膜の物性などの観点から、炭化水素系モノマーガスをポリアミド系樹脂成形品の場合にはHeガス、Arガス、Neガス、N2ガスなどの不活性ガスの少くとも一種、あるいはポリフェニレンサルファイド系樹脂成形品の場合にはO2ガス、H2ガスなどの活性ガスの少くとも一種との混合ガスとして用いることも有効である。
【0021】
ここで、プラズマ処理が真空中に設置された対向電極に高周波を与え、電極間にプラズマを生成させる高周波プラズマ方式により行われた場合には、所望の接着効果を得ることはできない。
【0022】
重合膜が形成された樹脂成形品に接着されるゴムとしては、パーオキサイド架橋性非極性ゴムが用いられる。パーオキサイドによって架橋される非極性ゴムとしては、パーオキサイド架橋系のEPDM、天然ゴム、エチレン・プロピレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等が挙げられ、好ましくはパーオキサイド架橋系のEPDM、天然ゴムが用いられる。
【0023】
パーオキサイド架橋性EPDMとしては、エチレンおよびα-オレフィンに少量の5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン等の任意のジエン化合物を共重合させたエチレン-α・オレフィン-ジエン共重合ゴムが用いられ、実際には市販品、例えばJSR製品EP22、三井化学製品EPT3045、住友化学製品ESPRENE EPDM501A、Lanxess社製品Buna EPG2440などがそのまま用いられる。
【0024】
また、これらのゴムの架橋剤として用いられるパーオキサイド化合物としては、例えば第3ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ジ(第3ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ジ(第3ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、第3ブチルパーオキシベンゾエート、第3ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n-ブチル-4,4-ジ(第3ブチルパーオキシ)バレレート等が用いられる。これらの架橋剤は、ゴム100重量部当り約0.5〜10重量部、好ましくは約0.5〜6重量部の割合で用いられる。これ以下の配合割合では、十分な架橋密度が得られず、耐熱性や耐圧縮永久歪特性などが劣るようになり、一方これ以上の割合で用いられると、発泡により加硫成形品が得られなくなる。また、加硫系を硫黄系にした場合には、樹脂所望の樹脂成形物との接着性を得ることができない。
【0025】
パーオキサイド架橋性非極性ゴムの架橋に際しては、有機過酸化物とともに多官能性不飽和化合物よりなる共架橋剤が併用されることが好ましい。多官能性不飽和化合物としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアリル(イソ)シアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリテート等が挙げられ、これらの共架橋剤は共重合ゴム100重量部当り約10重量部以下、好ましくは約0.5〜5重量部の割合で用いられる。
【0026】
以上の各成分を必須成分とするパーオキサイド架橋非極性ゴム組成物中には、必要に応じてカーボンブラック、シリカによって代表される補強剤または充填剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、加硫助剤等が添加されて用いられ、これらの各成分は密閉式混練機およびオープンロール等を用いて混練される。
【0027】
パーオキサイド架橋性非極性ゴム組成物の樹脂成形品への加硫接着は、未加硫の非極性ゴム組成物混練物を樹脂成形品に直接接合させ、用いられたゴムの種類に応じて、約150〜200℃、約0.5〜60分間程度の条件下で、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形等の加硫成形方法で成形することにより行われる。
【0028】
なお、特許文献4には、前述した如く基材表面上にモノマーを低圧プラズマ重合して不飽和結合を有する重合膜を形成し、ゴム組成物と加熱圧着させ接着する方法が提案されているが、この方法ではゴムや基材の種類およびプラズマ処理方法に制限がなく、基材上に形成させた不飽和結合とゴム中の分子とを架橋させることを特徴としているのに対して、本発明では用いられるゴムとしてパーオキサイド架橋性の非極性ゴムを、またプラズマ処理としてはマイクロ波方式の低圧プラズマ処理を選択することが必須要件であり、さらに重合膜上に生成したラジカルによりゴムと架橋していることが確認されていることから、本発明は特許文献4記載の発明とは大きく異なっている。
【実施例】
【0029】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0030】
実施例1
ポリアミド系樹脂としてPA66樹脂(東レ製品アミランCM3001-G30)を用い、これを射出成形機を用いて25×60×2mmの平板状に成形した。得られたPA66樹脂平板に、マイクロ波プラズマ装置を用いて、圧力約30Paのヘリウムガス雰囲気下、周波数2.45GHz、出力500W、時間30秒間の条件でマイクロ波方式の低圧プラズマ処理を行った後、圧力約20Paのアセチレンガス雰囲気下、周波数2.45GHz、出力300W、時間1分間の条件でマイクロ波方式の低圧プラズマ処理を行った。
【0031】
次いで、マイクロ波方式低圧プラズマ処理PA66樹脂平板に下記配合の未加硫EPDM組成物の混練物を接合させ、180℃、8分間の加圧加硫を行い、ポリアミド系樹脂-EPDM複合体を得た。
〔EPDM組成物I〕
EPDM(JSR製品EP22) 100重量部
HAFカーボンブラック(キャボットジャパン製品) 50 〃
ステアリン酸(ミヨシ油脂製品) 1 〃
ダイナプロセスオイル(出光興産製品PW-380) 10 〃
酸化亜鉛(堺化学工業製品) 5 〃
有機過酸化物(日本油脂製品パークミルD) 3 〃
【0032】
得られたポリアミド系樹脂-EPDM複合体について、ISO 813に対応するJIS K6256(2006)に準拠して90°剥離試験による接着強度とゴム残り面積率の測定を行ったところ、接着強度は4.0 N/mm、ゴム残り面積率は100%であった。
【0033】
実施例2
実施例1において、炭化水素系モノマーとして、アセチレンガスの代わりにエチレンガスを用い、炭化水素系モノマーガスを用いたプラズマ処理時間を1分間から2分間に変更してマイクロ波方式の低圧プラズマ処理を行った。得られたポリアミド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は3.9N/mm、ゴム残り面積率は100%であった。
【0034】
実施例3
実施例1において、炭化水素系モノマーとして、アセチレンガスの代わりにメタンガスを用い、炭化水素系モノマーガスを用いたプラズマ処理の出力を300Wから500Wに、また処理時間を1分間から6分間に変更してマイクロ波方式の低圧プラズマ処理を行った。得られたポリアミド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は3.9N/mm、ゴム残り面積率は100%であった。
【0035】
実施例4
実施例1において、ポリアミド系樹脂であるPA66樹脂の代わりにポリフェニレンサルファイド系樹脂(東ソー製品サスティールPPS GS-30)が、またヘリウムガスの代わりに酸素ガスが用いられた。得られたポリフェニレンサルファイド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は3.8N/mm、ゴム残り面積率は100%であった。
【0036】
実施例5
実施例1において、ポリアミド系樹脂としてPA66樹脂の代わりにPA6T(三井化学製品アーレンA335)が用いられた。得られたポリアミド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は4.3N/mm、ゴム残り面積率は100%であった。
【0037】
比較例1
実施例1において、ポリアミド系樹脂であるPA66樹脂の代わりにポリイミド樹脂(三井化学製品アーレンJGN3030)が用いられた。得られたポリイミド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は1.1N/mm、ゴム残り面積率は10%であった。
【0038】
比較例2
実施例1において、ポリアミド系樹脂であるPA66樹脂の代わりにSUS304鋼板が用いられた。得られたSUS304鋼板-EPDM複合体の接着強度は0 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0039】
比較例3
実施例1において、ポリアミド系樹脂であるPA66樹脂の代わりにアルミニウム板が用いられた。得られたアルミニウム板-EPDM複合体の接着強度は0 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0040】
比較例4
実施例1において、ポリアミド系樹脂であるPA66樹脂の代わりに真鍮板が用いられた。得られた真鍮板-EPDM複合体の接着強度は0 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0041】
比較例5
実施例1において、ポリアミド系樹脂であるPA66樹脂に対して、ヘリウムガス雰囲気下およびアセチレンガス雰囲気下における低圧プラズマ処理がいずれも行われず、表面改質が施されていないPA66樹脂が用いられた。得られたポリアミド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は0 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0042】
比較例6
実施例1において、ヘリウムガス雰囲気下における低圧プラズマ処理が行われなかった。得られたポリアミド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は0 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0043】
比較例7
実施例1において、低圧プラズマ処理が、2枚のAl製平行平板を備えたガラス製真空容器内にPA66樹脂平板を平行平板中に配置し、圧力約30Paのヘリウムガス雰囲気下、周波数40kHz、出力500W、時間1分間の条件で低圧プラズマ処理を行った後、圧力約30Paのアセチレンガス雰囲気下、周波数40kHz、出力300W、時間5分間の条件で高周波方式により低圧プラズマ処理が行われた。得られたポリアミド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は0 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0044】
比較例8
実施例1において、ポリアミド系樹脂であるPA66樹脂の代わりにポリフェニレンサルファイド系樹脂が用いられた。得られた不活性ガス処理ポリフェニレンサルファイド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は0 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0045】
実施例6
実施例1において、EPDM組成物の代わりに下記配合の天然ゴム組成物が用いられた。
〔天然ゴム組成物I〕
天然ゴム 100重量部
HAFカーボンブラック(キャボットジャパン製品) 50 〃
ステアリン酸(ミヨシ油脂製品) 2.5 〃
ダイナプロセスオイル(PW-380) 10 〃
酸化亜鉛(堺化学工業製品) 3.5 〃
有機過酸化物(パークミルD) 3 〃
【0046】
得られたポリアミド系樹脂-天然ゴム複合体の接着強度は1.5N/mm、ゴム残り面積率は100%であった。
【0047】
実施例7
実施例6において、ポリアミド系樹脂であるPA66樹脂の代わりにポリフェニレンサルファイド系樹脂が、またヘリウムガスの代わりに酸素ガスが用いられた。得られたポリフェニレンサルファイド系樹脂-天然ゴム複合体の接着強度は1.4N/mm、ゴム残り面積率は100%であった。
【0048】
比較例9
実施例6において、ポリアミド系樹脂であるPA66樹脂の代わりにSUS304鋼板が用いられた。得られたSUS304鋼板-EPDM複合体の接着強度は0 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0049】
比較例10
実施例1において、パーオキサイド架橋性EPDM組成物の代わりに、下記配合のイオウ加硫性EPDM組成物が用いられた。
〔EPDM組成物II〕
EPDM(JSR製品EP33) 100重量部
HAFカーボンブラック(キャボットジャパン製品) 60 〃
ステアリン酸(ミヨシ油脂製品) 1 〃
ダイナプロセスオイル(出光興産製品PW-380) 2 〃
酸化亜鉛(堺化学工業製品) 5 〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーTT) 1 〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーM) 0.5 〃
イオウ 1.5 〃
【0050】
得られたポリアミド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は0 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0051】
比較例11
実施例1において、パーオキサイド架橋性EPDM組成物の代わりに、下記配合のイオウ加硫性天然ゴム組成物が用いられた。
〔天然ゴム組成物II〕
天然ゴム 100重量部
HAFカーボンブラック(キャボットジャパン製品) 50 〃
ステアリン酸(ミヨシ油脂製品) 2.5 〃
ダイナプロセスオイル(出光興産製品PW-380) 2 〃
酸化亜鉛(堺化学工業製品) 8 〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーMSA-G) 1 〃
イオウ 6 〃
【0052】
得られたポリアミド系樹脂-天然ゴム複合体の接着強度は0 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0053】
比較例12
実施例1において、パーオキサイド架橋性非極性EPDM組成物の代わりに、下記配合のパーオキサイド架橋性極性フッ素ゴム組成物が用いられた。
〔フッ素ゴム組成物〕
フッ素ゴム(ダイキン製品ダイエルG901) 100重量部
MTカーボンブラック 20 〃
酸化マグネシウム(協和化学製品マグネシア♯150) 6 〃
水酸化カルシウム 3 〃
トリアリルイソシアヌレート(日本化成製品) 1.8 〃
有機過酸化物(日本油脂製品パーヘキサ25B) 0.8 〃
【0054】
得られたポリアミド系樹脂-フッ素ゴム複合体の接着強度は2.3N/mmであったが、ゴム残り面積率は0%であった。
【0055】
比較例13
実施例1において、パーオキサイド架橋性非極性EPDM組成物の代わりに、下記配合のパーオキサイド架橋性極性水素化ニトリルゴム組成物が用いられた。
〔水素化ニトリルゴム組成物〕
水素化ニトリルゴム(日本ゼオン製品ZETPOL 1020) 100重量部
HAFカーボンブラック(キャボットジャパン製品) 50 〃
ステアリン酸(ミヨシ油脂製品) 0.5 〃
酸化亜鉛(堺化学工業製品) 5 〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーMBZ) 1 〃
有機過酸化物(パークミルD) 3 〃
【0056】
得られたポリアミド系樹脂-水素化ニトリルゴム複合体の接着強度は0.3N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0057】
比較例14
実施例1において、アセチレンガス雰囲気下における低圧プラズマ処理が行われなかった。得られたポリアミド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は2.3 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0058】
比較例15
実施例1において、ヘリウムガスの代わりに酸素ガスが用いられ、アセチレンガス雰囲気下における低圧プラズマ処理が行われなかった。得られたポリアミド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は1.5 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0059】
比較例16
実施例1において、ポリアミド系樹脂であるPA66樹脂の代わりにポリフェニレンサルファイド系樹脂(サスティールPPS GS-30)が用いられ、アセチレンガス雰囲気下における低圧プラズマ処理が行われなかった。得られたポリフェニレンサルファイド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は0 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0060】
比較例17
実施例4において、アセチレンガス雰囲気下における低圧プラズマ処理が行われなかった。得られたポリフェニレンサルファイド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は0 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0061】
比較例18
実施例6において、アセチレンガス雰囲気下における低圧プラズマ処理が行われなかった。得られたポリアミド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は0.4 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0062】
比較例19
実施例6において、ヘリウムガスの代わりに酸素ガスが用いられ、アセチレンガス雰囲気下における低圧プラズマ処理が行われなかった。得られたポリアミド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は0.2 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0063】
比較例20
実施例6において、ポリアミド系樹脂であるPA66樹脂の代わりにポリフェニレンサルファイド系樹脂(サスティールPPS GS-30)が用いられ、アセチレンガス雰囲気下における低圧プラズマ処理が行われなかった。得られたポリフェニレンサルファイド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は0 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【0064】
比較例21
実施例7において、アセチレンガス雰囲気下における低圧プラズマ処理が行われなかった。得られたポリフェニレンサルファイド系樹脂-EPDM複合体の接着強度は0 N/mm、ゴム残り面積率は0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る樹脂-ゴム複合体は、ドラムシール、トランスミッション用のサイドカバー用シール等の自動車部品、防震ゴム、樹脂ゴム積層ホースなどとして有効に用いられる。
【要約】
ポリアミド系樹脂成形品の表面を不活性ガスを用いて、またはポリフェニレンサルファイド系樹脂成形品の表面を活性ガスを用いてマイクロ波方式の低圧プラズマ処理を行って活性化した後、炭化水素系モノマーを用いたマイクロ波方式の低圧プラズマ処理を行い、ラジカルを有する重合膜を形成せしめた樹脂成形品に、ゴム層を形成するパーオキサイド架橋性非極性ゴム組成物を、接着剤を介さずに直接加硫接着させた樹脂ゴム複合体。この樹脂-ゴム複合体は、ドラムシール、トランスミッション用のサイドカバー用シール等の自動車部品、防震ゴム、樹脂ゴム積層ホースなどとして有効に用いられる。