(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トレッド部にタイヤ周方向に沿って延在する少なくとも3本の周方向溝により、タイヤ周方向に沿って延在する少なくとも4本のリブが区画形成される空気入りタイヤにおいて、
タイヤ赤道面を挟んでタイヤ幅方向の一側に配置される前記リブと、他側に配置される前記リブとの少なくとも2本の前記リブは、子午断面にてトレッド面の輪郭線よりもタイヤ径方向外側に突出しており、その突出量がタイヤ幅方向の一側の前記リブに対して他側の前記リブが順次小さく形成され、
前記トレッド部のトレッド面をなすキャップトレッドが種類の異なるコンパウンドで構成されており、当該コンパウンドの60℃における損失正接tanδについて、突出量が最大の前記リブの領域に対して突出量が最小の前記リブの領域が小さいことを特徴とする空気入りタイヤ。
車両装着時での車両内外の向きが指定されており、前記リブの突出量は、車両外側から車両内側に向けて順次小さく形成され、前記コンパウンドの60℃における損失正接tanδは、車両外側よりも車両内側が小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
前記輪郭線から突出する前記リブは、前記周方向溝を間において隣接して設けられており、当該隣接する各前記リブの突出量の差が0.1mm以上0.8mm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1では、直進安定性を確保することを目的とし、トレッド部にトレッド幅方向断面と交差する溝により陸部を区画し、トレッド幅方向断面で陸部の接地面を、半径方向外方へ凸となる曲線形状とするとともに、その接地面のトレッド幅の全体にわたるトレッド踏面輪郭線に最も近接する頂部を、陸部の幅中心に対し陸部の一方の側縁側へ陸部幅の0.1〜0.4倍の範囲で偏らせてなる空気入りタイヤが示されている。
【0003】
また、従来、例えば、特許文献2では、トレッド面を、タイヤ赤道上をのびる中央陸部と、ショルダー部をのびる外側陸部と、中央陸部と外側陸部との間の中間陸部と、にタイヤ周方向の縦溝により区分し、かつ正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した無負荷の正規状態におけるタイヤ軸を含むタイヤ子午線断面において、中央陸部の外面の曲率半径R1が、中間陸部の外面の曲率半径R2よりも大であり、しかも各曲率半径R1,R2の中心が同じ位置にある空気入りタイヤが示されている。
【0004】
また、従来、例えば、特許文献3では、トレッド部に、タイヤ周方向にのびる複数の縦溝により、タイヤ周方向にのびる複数の陸部が区分される空気入りタイヤであって、タイヤ軸を含む子午断面において、各陸部の接地面は、そのタイヤ軸方向の中心を通りかつタイヤ半径方向外側に凸の単一の円弧からなる中央円弧面と、中央円弧面のタイヤ軸方向の少なくとも一方に連なりかつ該中央円弧面の曲率半径の30〜50%の曲率半径の円弧からなる外側円弧面とを含む。そして、外側円弧面のタイヤ軸方向の外端と、中央円弧面を外側円弧面の外端側に延長させた仮想線とのタイヤ半径方向距離であるキャンバー量は、陸部のタイヤ軸方向の幅の0.5〜1.5%であることが示されている。
【0005】
また、従来、例えば、特許文献4では、タイヤ周方向溝に挟まれた陸部を有するトレッドパターンを備えた空気入りタイヤであって、トレッドパターンの溝面積比が、タイヤ赤道線を挟んだタイヤ幅方向の両側の領域間で異なり、陸部は、タイヤ径方向外側に凸形状であり、陸部は、陸部を挟む前記タイヤ周方向溝の溝壁と陸部の表面とで作られる、タイヤ周方向溝と接する陸部のエッジ部を有し、タイヤ赤道線を挟んだタイヤ幅方向の両側のうち、溝面積比が他方に比べて大きい側を第1の側とし、溝面積比が第1の側に比べて小さい側を第2の側とするとき、陸部のうちの第1の側に向く第1のエッジ部の位置の、陸部の最大外径位置からタイヤ径方向に沿った落込み量は、陸部の第2の側に向く第2のエッジ部の位置の、陸部の最大外径位置からタイヤ径方向に沿った落込み量に比べて大きいことが示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では、車両の高性能化に伴い、高速走行での操縦安定性およびキャンバー付き高速走行での耐久性を両立する要望がある。ここで、操縦安定性の確保は、特許文献1に示すように、トレッド部に形成されるリブ(陸部)の接地性を高めるようにトレッド面の輪郭よりもリブのタイヤ子午断面での輪郭をタイヤ径方向外側に突出させることが有効である。しかし、キャンバー付き車両への適用の場合、例えば、ネガティブキャンバーでは、車両装着時でのタイヤ赤道面より内側のリブが外側のリブと比較して接地長が長くなることから高速走行での耐久性が低下する傾向となる。このため、高速走行での操縦安定性およびキャンバー付き高速走行での耐久性を両立することは難しいという課題がある。特許文献3および特許文献4においても、キャンバー付き車両への適用の場合、高速走行での操縦安定性およびキャンバー付き高速走行での耐久性を両立することは難しい。
【0008】
また、特許文献2に示す空気入りタイヤは、耐久性の向上を図るものであるが、小型トラック用であり、しかも、曲率半径の違いにより中央陸部そのものがタイヤ径方向外側に極度に突出して中間陸部との差が大きいため、キャンバー付き車両へ適用した場合に中央陸部の耐久性が低下するとともに、操縦安定性も低下することになる。
【0009】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高速走行での操縦安定性およびキャンバー付き高速走行での耐久性を両立することのできる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部にタイヤ周方向に沿って延在する少なくとも3本の周方向溝により、タイヤ周方向に沿って延在する少なくとも4本のリブが区画形成される空気入りタイヤにおいて、タイヤ赤道面を挟んでタイヤ幅方向の一側に配置される前記リブと、他側に配置される前記リブとの少なくとも2本の前記リブは、子午断面にてトレッド面の輪郭線よりもタイヤ径方向外側に突出しており、その突出量がタイヤ幅方向の一側から他側に向けて順次小さく形成され、前記トレッド部のトレッド面をなすキャップトレッドが種類の異なるコンパウンドで構成されており、当該コンパウンドの60℃における損失正接tanδについて、突出量が最大の前記リブの領域に対して突出量が最小の前記リブの領域が小さいことを特徴とする。
【0011】
この空気入りタイヤによれば、輪郭線よりも突出する少なくとも2本のリブにおいて、突出量が一側から他側に向けて順次小さく形成されていることで、ネガティブキャンバー付きとした場合に一側を車両外側とし他側を車両内側として車両に装着する一方、ポジティブキャンバー付きとした場合に一側を車両内側とし他側を車両外側として車両に装着することで、タイヤ幅方向において接地性が向上するため、高速走行時の操縦安定性を向上することが可能になる。しかも、ネガティブキャンバー付きとした場合に一側を車両外側とし他側を車両内側として車両に装着する一方、ポジティブキャンバー付きとした場合に一側を車両内側とし他側を車両外側として車両に装着することで、タイヤ幅方向において過度の接地が緩和するため、各リブ間で接地長(トレッド面が路面と接地する領域におけるタイヤ周方向の長さ)が均一化され、キャンバー付き高速走行での耐久性を向上することが可能になる。この結果、高速走行での操縦安定性およびキャンバー付き高速走行での耐久性を両立することができる。
【0012】
しかも、この空気入りタイヤによれば、トレッド部のトレッド面をなすキャップトレッドが種類の異なるコンパウンドで構成されており、当該コンパウンドの60℃における損失正接tanδについて、突出量が最大のリブの領域の損失正接tanδに対して突出量が最小のリブの領域の損失正接tanδが小さい。このため、ネガティブキャンバー付きとした場合に一側を車両外側とし他側を車両内側として車両に装着する一方、ポジティブキャンバー付きとした場合に一側を車両内側とし他側を車両外側として車両に装着することで、キャップトレッドの種類の異なるコンパウンドにおいて、接地性の高い他側の発熱を低く抑えることができるため、キャンバー付き高速走行での耐久性をさらに向上することができる。
【0013】
また、本発明の空気入りタイヤでは、前記輪郭線からの前記リブの突出量は、0.05mm以上2.0mm以下であることを特徴とする。
【0014】
リブの突出量が0.05mm未満であると、リブの突出量が小さくなり、接地性の向上効果および接地長の均一効果が得難い傾向となる。一方、リブの突出量が2.0mmを超えると、リブの突出量が大きくなり、接地性の向上効果および接地長の均一効果が得難い傾向となる。このため、リブの突出量を0.05mm以上2.0mm以下とすることで、高速走行での操縦安定性およびキャンバー付き高速走行での耐久性を両立する効果を顕著に得ることができる。
【0015】
また、本発明の空気入りタイヤでは、突出量が最大の前記リブの領域のコンパウンドの60℃における損失正接tanδが
0.25以上0.4以下であり、突出量が最小の前記リブの領域のコンパウンドの60℃における損失正接tanδが
0.2以上0.33以下であることを特徴とする。
【0016】
突出量が最大のリブの領域ではコンパウンドの60℃における損失正接tanδを
0.25以上0.4以下とし、突出量が最小のリブの領域ではコンパウンドの60℃における損失正接tanδを
0.2以上0.33以下とする。これにより、高速走行での操縦安定性を悪化させることなくキャンバー付き高速走行での耐久性を向上させるために適合した発熱の低減効果を得ることができる。
【0017】
また、本発明の空気入りタイヤでは、車両装着時での車両内外の向きが指定されており、前記リブの突出量は、車両外側から車両内側に向けて順次小さく形成され、前記コンパウンドの60℃における損失正接tanδは、車両外側よりも車両内側が小さいことを特徴とする。
【0018】
この空気入りタイヤによれば、高速走行に対応する場合、ネガティブキャンバー付きとすることが操縦安定性を向上するうえで好ましい。従って、リブの突出量を、車両外側から車両内側に向けて順次小さく形成することで、ネガティブキャンバー付きとした場合に接地性の向上効果および接地長の均一効果が顕著に得られる。この結果、高速走行での操縦安定性およびネガティブキャンバー付き高速走行での耐久性を両立する効果を顕著に得ることができる。しかも、キャップトレッドのコンパウンドの60℃における損失正接tanδを、車両外側よりも車両内側を小さくすることで、ネガティブキャンバー付きとした場合に接地性の高い他側の発熱を低く抑えることができ、キャンバー付き高速走行での耐久性を向上させる効果を顕著に得ることができる。
【0019】
また、本発明の空気入りタイヤでは、前記輪郭線から突出する前記リブは、前記周方向溝を間において隣接して設けられており、当該隣接する各前記リブの突出量の差が0.1mm以上0.8mm以下であることを特徴とする。
【0020】
隣接する各リブの突出量の差が0.1mm未満であると、各リブ間での突出量の差が小さ過ぎて、接地性の向上効果および接地長の均一効果が得難い傾向となる。一方、隣接する各リブの突出量の差が0.8mmを超えると、各リブ間での突出量の差が大き過ぎて、接地性の向上効果および接地長の均一効果が得難い傾向となる。このため、隣接する各リブの突出量の差を0.01mm以上0.8mm以下とすることで、高速走行での操縦安定性およびキャンバー付き高速走行での耐久性を両立する効果を顕著に得ることができる。しかも、キャップトレッドのコンパウンドの60℃における損失正接tanδを、突出量が最大のリブの領域よりも突出量が最小のリブの領域を小さくすることで、キャンバー付きとした場合に接地性の高い他側の発熱を低く抑えることができ、キャンバー付き高速走行での耐久性を向上させる効果を顕著に得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る空気入りタイヤは、高速走行での操縦安定性およびキャンバー付き高速走行での耐久性を両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。また、この実施形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0024】
図1および
図2は、本実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の子午断面図であり、
図3〜
図5は、本実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の子午断面拡大図である。
【0025】
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸(図示せず)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、空気入りタイヤ1の回転軸に直交するとともに、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。本実施形態では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「CL」を付す。
【0026】
本実施形態の空気入りタイヤ1において、
図1および
図2に示すように、トレッド部2は、ゴム材(トレッドゴム)からなり、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出し、その表面が空気入りタイヤ1の輪郭となる。トレッド部2の外周表面、つまり、走行時に路面と接触する踏面には、トレッド面21が形成されている。トレッド部2は、トレッド面21に開口する周方向溝22が設けられている。周方向溝22は、トレッド面21から溝底までの溝深さが5mm以上のものであり、タイヤ周方向に沿って延在し、タイヤ幅方向に複数(
図1では4本であり、
図2では3本である)並んで設けられている。そして、トレッド部2は、これら複数の周方向溝22により、タイヤ周方向に沿って延在するリブ23がタイヤ幅方向に複数(
図1では5本であり、
図2では4本である)並んで区画形成されている。また、トレッド部2は、各リブ23において、周方向溝22に交差する方向に延在しタイヤ周方向に複数並んで設けられたラグ溝24が形成されている。
図1および
図2では、タイヤ幅方向最外側のリブ23にのみラグ溝24が設けられているが、他のリブ23にも設けられていてもよい。このラグ溝24は、周方向溝22に連通している形態、または周方向溝22に連通していない形態の何れであってもよい。また、ラグ溝24は、タイヤ幅方向最外側のリブ23に設けられる場合、タイヤ幅方向外側に開口して形成されている。なお、
図1に示すようにタイヤ赤道面CL上にリブ23が形成されている場合、このタイヤ赤道面CL上のリブ23にタイヤ周方向に沿って延在し溝深さが5mm以上の溝が形成されていたとしても、この溝は周方向溝22に含めない。
【0027】
また、空気入りタイヤ1は、図には明示しないが、トレッド部2のタイヤ幅方向両外側の部位に連続して配置されるショルダー部と、各ショルダー部に連続して空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出するサイドウォール部と、各サイドウォール部に連続してリムに係合されるビード部と、を有する。また、空気入りタイヤ1は、図には明示しないが、各ビード部の内部に、スチールワイヤであるビードワイヤをタイヤ周方向にリング状に巻くことにより形成されたビードコアが設けられている。そして、空気入りタイヤ1は、一対のビードコアでタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するようにカーカス層が設けられている。さらに、空気入りタイヤ1は、トレッド部2の内部においてカーカス層の外周であるタイヤ径方向外側に配置され、少なくとも2層のベルトを積層した多層構造をなすベルト層が設けられている。
【0028】
このような空気入りタイヤ1において、新品時、
図1および
図2に示すように、タイヤ赤道面CLを挟んでタイヤ幅方向の一側に配置されるリブ23と、他側に配置されるリブ23との少なくとも2本のリブ23は、子午断面にてトレッド面21の輪郭線Lよりもタイヤ径方向外側に突出して形成されている。そして、突出して形成された各リブ23は、突出量Gがタイヤ幅方向の一側から他側に向けて順次小さく形成されている。
図1においては、タイヤ幅方向最外側のリブ23は突出して形成されず、周方向溝22で挟まれて設けられている3本のリブ23が輪郭線Lから突出して形成されており、一側から他側に向けて突出量GがGa>Gb>Gcの関係とされている例を示している。
図1の場合、3本のリブ23のうちタイヤ赤道面CLを挟んでタイヤ幅方向の一側と他側に配置される少なくとも2本のリブ23の突出量Gは、Ga>Gb、Ga>Gc、Gb>Gcの関係がある。また、
図2においては、全て(4本)のリブ23が輪郭線Lから突出して形成されており、一側から他側に向けて突出量GがGd>Ge>Gf>Ggの関係とされている。
図2の場合、4本のリブ23のうちタイヤ赤道面CLを挟んでタイヤ幅方向の一側と他側に配置される少なくとも2本のリブ23の突出量Gは、Gd>Gf、Gd>Gg、Ge>Gf、Ge>Ggの関係がある。
【0029】
なお、輪郭線Lよりも突出する少なくとも2本のリブ23は、タイヤ赤道面CLを挟んでタイヤ幅方向の一側に配置されるリブ23と、他側に配置されるリブ23とであれば、周方向溝22を間において隣接する関係でなくてもよく、輪郭線Lよりも突出する各リブ23のタイヤ幅方向の間に輪郭線Lよりも突出しないリブ23が存在していてもよい。
【0030】
ここで、輪郭線Lとは、
図3に示すように、周方向溝22に挟んで配置されるリブ23の場合、子午断面において、当該リブ23のタイヤ幅方向の両側に隣接する2本の周方向溝22における4つの開口端Pのうちの少なくとも3つを通り、トレッド面21のタイヤ径方向内側に中心を持って最大曲率半径で描ける円弧をいう。
【0031】
また、輪郭線Lとは、
図4に示すように、タイヤ幅方向最外側のリブ23の場合、子午断面において、当該リブ23に接地端Tを有し、当該接地端TをP1とし、このリブ23に隣接する周方向溝22のタイヤ幅方向外側寄りの開口端をP2とし、当該周方向溝22のタイヤ幅方向内側寄りの開口端をP3としたとき、P1,P2,P3を通り、トレッド面21のタイヤ径方向内側に中心を持つ曲率半径の円弧をいう。
【0032】
なお、
図5に示すように、周方向溝22の開口端に面取Cが施されている場合、タイヤ径方向最外側に位置する端点を開口端として上記のごとく輪郭線Lを規定する。
図5では、周方向溝22に挟んで配置されるリブ23を示しているが、タイヤ幅方向最外側のリブ23であっても同様である。
【0033】
また、接地端Tとは、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みし、かつ正規内圧を充填するとともに正規荷重をかけたとき、この空気入りタイヤ1のトレッド部2のトレッド面21が路面と接地する領域において、タイヤ幅方向の両最外端をいい、タイヤ周方向に連続する。そして、両接地端Tでのタイヤ幅方向の間隔が接地幅である。
【0034】
正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、あるいは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。また、正規荷重とは、JATMAで規定する「最大負荷能力」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「LOAD CAPACITY」である。
【0035】
また、上述した空気入りタイヤ1において、
図1および
図2に示すように、トレッド部2は、トレッド面21をなすキャップトレッド25を有する。キャップトレッド25はタイヤ幅方向において種類の異なるコンパウンドで構成され、2以上の複数種類の異なるコンパウンドがタイヤ幅方向に並べて配置されている。そして、このコンパウンドの60℃における損失正接tanδについて、突出量Gが最大のリブ23の領域に対して突出量Gが最小のリブ23の領域が小さい。
【0036】
なお、キャップトレッド25は、突出量Gが最大のリブ23の領域と、突出量Gが最小のリブ23の領域とでコンパウンドの60℃における損失正接tanδが異なっていればよい。そして、種類の異なるコンパウンドで構成されるキャップトレッド25は、その境界が、周方向溝22の溝底や、突出量Gが最大のリブ23や突出量Gが最小のリブ23に該当しないリブ23に配置される。
【0037】
ここで、コンパウンドの60℃における損失正接tanδは、空気入りタイヤ1から採取したサンプルの測定によるものとし、粘弾性スペクトロメーターを用いて、温度60℃、初期歪10%、振幅±0.5%、周波数20Hzの条件で測定される。
【0038】
このように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、トレッド部2にタイヤ周方向に沿って延在する少なくとも3本の周方向溝22により、タイヤ周方向に沿って延在する少なくとも4本のリブ23が区画形成される空気入りタイヤ1において、タイヤ赤道面CLを挟んでタイヤ幅方向の一側に配置されるリブ23と、他側に配置されるリブ23との少なくとも2本のリブ23は、子午断面にてトレッド面21の輪郭線Lよりもタイヤ径方向外側に突出しており、その突出量Gがタイヤ幅方向の一側から他側に向けて順次小さく形成され、トレッド部2のトレッド面21をなすキャップトレッド25が種類の異なるコンパウンドで構成されており、当該コンパウンドの60℃における損失正接tanδについて、突出量Gが最大のリブ23の領域の損失正接tanδ(Ta)に対して突出量Gが最小のリブ23の領域の損失正接tanδ(Tb)が小さい。
【0039】
この空気入りタイヤ1によれば、輪郭線Lよりも突出する少なくとも2本のリブ23において、突出量Gが一側から他側に向けて順次小さく形成されていることで、ネガティブキャンバー付きとした場合に一側を車両外側とし他側を車両内側として車両に装着する一方、ポジティブキャンバー付きとした場合に一側を車両内側とし他側を車両外側として車両に装着することで、タイヤ幅方向において接地性が向上するため、高速走行時の操縦安定性を向上することが可能になる。しかも、ネガティブキャンバー付きとした場合に一側を車両外側とし他側を車両内側として車両に装着する一方、ポジティブキャンバー付きとした場合に一側を車両内側とし他側を車両外側として車両に装着することで、タイヤ幅方向において過度の接地が緩和するため、各リブ23間で接地長(トレッド面21が路面と接地する領域におけるタイヤ周方向の長さ)が均一化され、キャンバー付き高速走行での耐久性を向上することが可能になる。この結果、高速走行での操縦安定性およびキャンバー付き高速走行での耐久性を両立することができる。
【0040】
特に、この空気入りタイヤ1によれば、トレッド部2のトレッド面21をなすキャップトレッド25が種類の異なるコンパウンドで構成されており、当該コンパウンドの60℃における損失正接tanδについて、突出量Gが最大のリブ23の領域の損失正接tanδ(Ta)に対して突出量Gが最小のリブ23の領域の損失正接tanδ(Tb)が小さい。このため、ネガティブキャンバー付きとした場合に一側を車両外側とし他側を車両内側として車両に装着する一方、ポジティブキャンバー付きとした場合に一側を車両内側とし他側を車両外側として車両に装着することで、キャップトレッド25の種類の異なるコンパウンドにおいて、接地性の高い他側の発熱を低く抑えることができるため、キャンバー付き高速走行での耐久性をさらに向上することができる。
【0041】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、輪郭線Lからのリブ23の突出量Gは、0.05mm以上2.0mm以下であることが好ましい。
【0042】
リブ23の突出量Gが0.05mm未満であると、リブ23の突出量Gが小さくなり、接地性の向上効果および接地長の均一効果が得難い傾向となる。一方、リブ23の突出量Gが2.0mmを超えると、リブ23の突出量Gが大きくなり、接地性の向上効果および接地長の均一効果が得難い傾向となる。このため、リブ23の突出量Gを0.05mm以上2.0mm以下とすることで、高速走行での操縦安定性およびキャンバー付き高速走行での耐久性を両立する効果を顕著に得ることができる。なお、高速走行での操縦安定性およびキャンバー付き高速走行での耐久性を両立する効果をより顕著に得るには、輪郭線Lからのリブ23の突出量Gは、0.2mm以上0.6mm以下とすることが好ましい。
【0043】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、突出量Gが最大のリブ23の領域のコンパウンドの60℃における損失正接tanδ(Ta)が
0.25以上0.4以下であり、突出量Gが最小のリブ23の領域のコンパウンドの60℃における損失正接tanδ(Tb)が
0.2以上0.33以下であることが好ましい。
【0044】
損失正接tanδがTa>Tbの関係を満たしたうえで、突出量Gが最大のリブ23の領域ではコンパウンドの60℃における損失正接tanδ(Ta)を
0.25以上0.4以下とし、突出量Gが最小のリブ23の領域ではコンパウンドの60℃における損失正接tanδ(Tb)を
0.2以上0.33以下とする。これにより、高速走行での操縦安定性を悪化させることなくキャンバー付き高速走行での耐久性を向上させるために適合した発熱の低減効果を得ることができる。なお、高速走行での操縦安定性およびキャンバー付き高速走行での耐久性を両立する効果をより顕著に得るには、突出量Gが最大のリブ23の領域のコンパウンドの60℃における損失正接tanδ(Ta)が0.25以上0.4以下であり、突出量Gが最小のリブ23の領域のコンパウンドの60℃における損失正接tanδ(Tb)が0.2以上0.33以下であることが好ましい。
【0045】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、車両装着時での車両内外の向きが指定されており、リブ23の突出量Gは、車両外側から車両内側に向けて順次小さく形成され、キャップトレッド25のコンパウンドの60℃における損失正接tanδは、車両外側よりも車両内側が小さいことが好ましい。
【0046】
このような空気入りタイヤ1は、例えば、サイドウォール部に設けられた指標により車両装着時での車両内外の向きが示されていることで車両内外の向きが指定されている。なお、車両内側および車両外側の指定は、車両に装着した場合に限らない。例えば、リム組みした場合に、タイヤ幅方向において、車両の内側および外側に対するリムの向きが決まっている。このため、空気入りタイヤ1は、リム組みした場合、タイヤ幅方向において、車両内側および車両外側に対する向きが指定される。
【0047】
この空気入りタイヤ1によれば、高速走行に対応する場合、ネガティブキャンバー付きとすることが操縦安定性を向上するうえで好ましい。従って、リブ23の突出量Gを、車両外側から車両内側に向けて順次小さく形成することで、ネガティブキャンバー付きとした場合に接地性の向上効果および接地長の均一効果が顕著に得られる。この結果、高速走行での操縦安定性およびネガティブキャンバー付き高速走行での耐久性を両立する効果を顕著に得ることができる。しかも、キャップトレッド25のコンパウンドの60℃における損失正接tanδを、車両外側よりも車両内側を小さくすることで、ネガティブキャンバー付きとした場合に接地性の高い他側の発熱を低く抑えることができ、キャンバー付き高速走行での耐久性を向上させる効果を顕著に得ることができる。
【0048】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、輪郭線Lから突出するリブ23は、周方向溝22を間において隣接して設けられており、当該隣接する各リブ23の突出量Gの差が0.1mm以上0.8mm以下であることが好ましい。
【0049】
隣接する各リブ23の突出量Gの差が0.1mm未満であると、各リブ23間での突出量Gの差が小さ過ぎて、接地性の向上効果および接地長の均一効果が得難い傾向となる。一方、隣接する各リブ23の突出量Gの差が0.8mmを超えると、各リブ23間での突出量Gの差が大き過ぎて、接地性の向上効果および接地長の均一効果が得難い傾向となる。このため、隣接する各リブ23の突出量Gの差を0.1mm以上0.8mm以下とすることで、高速走行での操縦安定性およびキャンバー付き高速走行での耐久性を両立する効果を顕著に得ることができる。しかも、キャップトレッド25のコンパウンドの60℃における損失正接tanδを、突出量Gが最大のリブ23の領域よりも突出量Gが最小のリブ23の領域を小さくすることで、キャンバー付きとした場合に接地性の高い他側の発熱を低く抑えることができ、キャンバー付き高速走行での耐久性を向上させる効果を顕著に得ることができる。
【0050】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、輪郭線Lから突出するリブ23は、周方向溝22で挟まれて設けられていることが好ましい。
【0051】
すなわち、
図1に示すように、輪郭線Lから突出するリブ23は、周方向溝22で挟まれて設けられているもので、タイヤ幅方向最外側(ショルダー側)のリブ23を除くタイヤ幅方向内側の各リブ23である。このタイヤ幅方向内側の各リブ23は、輪郭線Lよりもタイヤ径方向外側に突出させ、その突出量Gをタイヤ幅方向の一側から他側に向けて順次小さく形成することで、接地性の向上効果および接地長の均一効果に大きく寄与するため、高速走行での操縦安定性およびキャンバー付き高速走行での耐久性を両立する効果を顕著に得ることができる。しかも、キャップトレッド25のコンパウンドの60℃における損失正接tanδを、突出量Gが最大のリブ23の領域よりも突出量Gが最小のリブ23の領域を小さくすることで、キャンバー付きとした場合に接地性の高い他側の発熱を低く抑えることができ、キャンバー付き高速走行での耐久性を向上させる効果を顕著に得ることができる。
【実施例】
【0052】
図6〜
図8は、本実施例に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。本実施例では、条件が異なる複数種類の空気入りタイヤについて、高速操安性(高速走行時の操縦安定性)やキャンバー付き高速耐久性(キャンバー付き高速走行での耐久性)に関する性能試験が行われた。
【0053】
この試験では、タイヤサイズ295/35R21の空気入りタイヤを試験タイヤとした。
【0054】
高速操安性の評価方法は、上記試験タイヤを21×10Jのリムにリム組みし、空気圧260kPaを充填し、試験車両(排気量4800ccの乗用車)に装着して、乾燥路面のテストコースを走行し、レーンチェンジ時およびコーナリング時における操舵性ならびに直進時における安定性について、熟練のテストドライバー1名による官能評価によって行う。この官能評価は、従来例の空気入りタイヤを基準(100)とした指数で示し、この指数が高いほど操縦安定性が優れていることを示している。
【0055】
キャンバー付き高速耐久性の評価方法は、上記試験タイヤを21×10Jのリムにリム組みし、空気圧340kPaを充填し、荷重7.65kNを加え、キャンバー角−2.7度(一側を車両外側とし他側を車両内側として車両に装着した場合に相当)または+2.7度(一側を車両内側とし他側を車両外側として車両に装着した場合に相当)とし、ドラム耐久試験機で下記速度stepに則って走行させ、試験機がタイヤの故障を検知したときの速度を測定した。そして、従来例の空気入りタイヤを基準とし、何step向上できたか、もしくは何step低下したかを評価した。ここで、+1stepとは、+10km/hで20min走行できたこと、+0.5stepとは、+10km/hで10min走行できたことを示す。
【0056】
・step0…走行時間0min…速度0km/h
・step1…走行時間1min…速度0〜190km/h
・step2…走行時間5min…速度190km/h
・step3…走行時間5min…速度240km/h
・step4…走行時間10min…速度250km/h
・step5…走行時間10min…速度260km/h
・step6…走行時間10min…速度270km/h
・step7…走行時間20min…速度280km/h
・step8…走行時間20min…速度290km/h
・step9…走行時間20min…速度300km/h
・step10…走行時間20min…速度310km/h
以下、故障まで+1step(+10km/h、20min走行)ずつ速度アップ
【0057】
図6および
図7は、
図1のリブ構造である。ここでタイヤ幅方向最外側のリブを一側外側リブとし、一側外側リブのタイヤ幅方向内側に隣接するリブを一側内側リブとし、一側内側リブのタイヤ幅方向内側に隣接するタイヤ赤道面上のリブをタイヤ赤道上リブとし、タイヤ赤道上リブの他側に隣接するリブを他側内側リブとし、他側内側リブのタイヤ幅方向外側に隣接する最外側のリブを他側外側リブとする。
【0058】
図6および
図7において、従来例1の空気入りタイヤは、各リブが突出していない。比較例1の空気入りタイヤは、タイヤ赤道上リブのみが突出している。一方、
図6および
図7において、実施例1〜実施例20の空気入りタイヤは、少なくとも2本のリブが、子午断面にてトレッド面の輪郭線よりもタイヤ径方向外側に突出され、その突出量がタイヤ幅方向の一側から他側に向けて順次小さく形成され、キャップトレッドのコンパウンドの60℃における損失正接tanδについて、突出量が最大のリブの領域に対して突出量が最小のリブの領域が小さい。また、実施例8、実施例10〜実施例20の空気入りタイヤは、リブの突出量が、0.05mm以上2.0mm以下である。また、実施例11、実施例16〜実施例20の空気入りタイヤは、隣接する各リブの突出量の差が0.1mm以上0.8mm以下である。また、実施例1〜実施例3、実施例9〜実施例20の空気入りタイヤは、輪郭線から突出するリブが、周方向溝で挟まれて設けられている
。
【0059】
図8は、
図2のリブ構造である。ここでタイヤ幅方向最外側のリブを一側外側リブとし、一側外側リブのタイヤ幅方向内側に隣接するリブを一側内側リブとし、一側内側リブの他側に隣接するリブを他側内側リブとし、他側内側リブのタイヤ幅方向外側に隣接する最外側のリブを他側外側リブとする。
【0060】
図8において、従来例2の空気入りタイヤは、各リブが突出していない。比較例2の空気入りタイヤは、一側内側リブのみ突出している。一方、
図8において、実施例21〜実施例33の空気入りタイヤは、少なくとも2本のリブが、子午断面にてトレッド面の輪郭線よりもタイヤ径方向外側に突出され、その突出量がタイヤ幅方向の一側から他側に向けて順次小さく形成され、キャップトレッドのコンパウンドの60℃における損失正接tanδについて、突出量が最大のリブの領域に対して突出量が最小のリブの領域が小さい。また、実施例25、実施例27〜実施例33の空気入りタイヤは、リブの突出量が、0.05mm以上2.0mm以下である。また、実施例29〜実施例33の空気入りタイヤは、隣接する各リブの突出量の差が0.1mm以上0.8mm以下である。また、実施例21、実施例26〜実施例33の空気入りタイヤは、輪郭線から突出するリブが、周方向溝で挟まれて設けられている
。
【0061】
そして、
図6〜
図8の試験結果に示すように、実施例1〜実施例33の空気入りタイヤは、高速操安性およびキャンバー付き高速耐久性がともに改善されていることが分かる。
トレッド部(2)にタイヤ周方向に沿って延在する少なくとも3本の周方向溝(22)により、タイヤ周方向に沿って延在する少なくとも4本のリブ(23)が区画形成される空気入りタイヤ(1)において、タイヤ赤道面(CL)を挟んでタイヤ幅方向の一側に配置されるリブ(23)と、他側に配置されるリブ(23)との少なくとも2本のリブ(23)は、子午断面にてトレッド面(21)の輪郭線(L)よりもタイヤ径方向外側に突出しており、その突出量(G)がタイヤ幅方向の一側から他側に向けて順次小さく形成され、トレッド部(2)のトレッド面(21)をなすキャップトレッド(25)が種類の異なるコンパウンドで構成されており、当該コンパウンドの60℃における損失正接tanδについて、突出量(G)が最大のリブ(23)の領域に対して突出量(G)が最小のリブ(23)の領域が小さい。