特許第5874882号(P5874882)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5874882早い結晶化速度を有するポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体及びこれを含む組成物
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  • 特許5874882-早い結晶化速度を有するポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体及びこれを含む組成物 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874882
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】早い結晶化速度を有するポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体及びこれを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 81/00 20060101AFI20160218BHJP
   C08G 63/664 20060101ALI20160218BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20160218BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20160218BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20160218BHJP
【FI】
   C08G81/00
   C08G63/664
   C08L71/02
   C08L67/04ZBP
   !C08L101/16
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-199664(P2013-199664)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-74169(P2014-74169A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2013年9月26日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0110029
(32)【優先日】2012年10月4日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507324740
【氏名又は名称】ハンファ トータル ペトロケミカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク スティーブ
(72)【発明者】
【氏名】イ ド フン
(72)【発明者】
【氏名】チョン ソン ギョ
(72)【発明者】
【氏名】チェ チャン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム ワン グン
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−106111(JP,A)
【文献】 特公昭47−009421(JP,B1)
【文献】 特開2004−250698(JP,A)
【文献】 特開2004−231773(JP,A)
【文献】 特開2010−222491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 81/00−81/02
63/00−63/91
C08L 67/00−67/04
71/00−71/14
101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸及び下記式1で表示される一方末端が改質されたポリアルキレングリコールの溶融反応で製造され、前記ポリアルキレングリコールが0.05〜25重量%含まれており、熱変形温度が70℃以上であることを特徴とするポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体の製造方法
【化1】
(式中、Rはアミン、イソシアネート、アンハイドライドまたはアジリジンであり、Rは水素、C〜Cのアルキル基、アルケン基、アルケニル基またはアリル基であり、RはC〜Cのアルキル基、アルケン基、アルケニル基またはアリル基であり、lは0〜200の整数であり、mは0〜200の整数である。)。
【請求項2】
前記ポリ乳酸はL−ポリ乳酸またはD−ポリ乳酸であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体の製造方法
【請求項3】
前記溶融反応の温度は160〜250℃であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体及びこれを含む組成物に関するもので、より詳しくは、早い結晶化速度と優れた加工性及び耐熱性が卓越したポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体及びこれを含む組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油由来のプラスチックの相当数は機械的物性と熱的安定性の制御が容易であるので、生活必需品から宇宙航空関連素材までと適用範囲が多様である。しかしながら、これらプラスチックが環境の中に廃棄される時、分解ができず蓄積される。更に、プラスチック廃棄物を焼却するときには、有害な副産物の排出及び大量の二酸化炭素が排出され、環境汚染と地球温暖化を加速化させる。
このような環境的な問題により、親環境プラスチック、即ち、植物原料からなるプラスチック或いは微生物によって分解される生分解性プラスチックに対する研究が活発に行なわれている。現在検討されている親環境プラスチックとしては、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル及びバイオポリエチレンなどがあるが、これらのうち、最も多く研究が行なわれており、商業的に活用価値が高いポリマーはポリ乳酸である。
【0003】
ポリ乳酸は、比較的固いポリマーであって、屈曲弾性率が汎用プラスチックと似た水準であるが、耐熱性が小さく、また成形が容易でない。このような短所のために、高耐熱性が要求される分野では適用されないので限界がある。結果的に、ポリ乳酸をポリプロピレン或いはポリカーボネートなどのような石油系プラスチックと混合して、ポリ乳酸の不足な物性を補完する研究が進行されているが、殆どポリ乳酸の含量が50重量%を超えない場合が多いので、真正な親環境プラスチックと称するには困難がある。
【0004】
ポリ乳酸の高い耐熱性と成形性を確保するためには、高分子の結晶化度を向上させる方法がある。現在、ポリ乳酸の結晶化度を高めるためには、射出成形の際、金型の温度を高くし、金型内における冷却時間を長くする方法が一般的であるが、成形サイクルが長くなる短所がある。冷却時間を減らすためには、結晶核剤を添加してポリ乳酸の結晶化速度(以下、結晶化度と称することもある)を促進させる方法が知られている。結晶核剤とは、結晶性高分子の一次結晶核になって結晶成長を促進し、結晶サイズを微細化するとともに、結晶化速度を高める作用をする。ポリ乳酸樹脂の結晶核剤としては、滑石及び/または窒化ホウ素からなる無機粒子、アミド化合物、ソルビトール誘導体、燐酸エステル金属塩などが知られているが、効果が十分でないか価格が高いので活用価値が劣る。
【0005】
非特許文献1及び2によれば、ポリ乳酸の結晶化度及び結晶化速度を高めるための他の方法として、結晶核剤と可塑剤を添加する方式を提示している。前記方法は、ポリマーに柔軟性を付与するために、可塑剤を過量添加する方法とは異なるように、可塑剤を一定量添加してポリマー鎖の運動性を向上させて結晶化速度を高める方法である(anti-plasticization)。詳しくは、ポリ乳酸、滑石とポリエチレングリコールを混合して、ポリ乳酸の結晶化速度を確実に低くしたが、結晶化速度が十分に速くなかった。さらに、ポリエチレングリコールを5重量%以下使用しても表面流出現象が甚だしいので、射出成形が容易でないという短所がある。
【0006】
ポリエチレングリコールの表面流出現象を減らすためには、特許文献1(韓国公開特許公報第10-2012-0035729号)及び特許文献2(米国登録特許第7,351,785号等)に開示された通り、ポリ乳酸の重合時にポリエチレングリコールを添加して、ポリ乳酸−ポリエチレングリコール共重合体を生成する方法がある。しかし、重合を通じて共重合体を形成する場合、反応時間が長くかかり、人体に有害な有機溶媒を多量に使用しなければならず、また、反応条件を細密に調節しなければならない不便がある。更に、特許文献1及び2には、結晶化度と結晶化速度に対する言及が全くなく、特許文献1及び2に記載の発明の目的は、ポリ乳酸フィルム製造時に柔軟性を付与するためであり、高含有量のポリエチレングリコールを使用して結晶化度が低くなる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国特許出願公開第10−2012−0035729号明細書
【特許文献2】米国特許第7351785号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Polymer、 48、6855(2007)
【非特許文献2】Society of Plastics Engineers、 DOI:10.1002/spepro. 002983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決しようとするものであって、本発明の目的は、ポリ乳酸と、末端が作用基に改質されたポリエチレングリコールを押出し反応器を通じて短い時間内に、人体に有害な有機溶媒を使用すること無しに得られたポリ乳酸−ポリエチレングリコール共重合体を提供することである。
更に、本発明の目的は、前記ポリ乳酸−ポリエチレングリコール共重合体に結晶化核剤を添加して高い結晶化度と早い結晶化速度を有し、射出成形が優れたポリ乳酸−ポリエチレングリコール共重合体を含む組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)ポリ乳酸及び末端がアミンで改質されたポリアルキレングリコールの溶融反応で製造され、前記ポリアルキレングリコールが0.05〜25重量%含まれていることを特徴とするポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体。
(2)前記ポリ乳酸はL−ポリ乳酸またはD−ポリ乳酸であることを特徴とする前記(1)記載のポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体。
【0011】
(3)前記ポリアルキレングリコールは下記式1〜3の各式でそれぞれ表示される化合物の群から選ばれることを特徴とする前記(1)記載のポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体。
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、Rはアミン、エポキシ、イソシアネート、アンハイドライド、カルボジイミド、またはアジリジンであり、Rは水素、C〜Cのアルキル基、アルケン基、アルケニル基またはアリル基であり、RはC〜Cのアルキル基、アルケン基、アルケニル基またはアリル基であり、lは0〜200の整数であり、mは0〜200の整数である。)
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、R及びRはアミン、エポキシ、イソシアネート、アンハイドライド、カルボジイミドまたはアジリジンであり、R〜Rは水素またはC〜Cのアルキル基、アルケン基、アルケニル基またはアリル基であり、Xは0〜100の整数であり、yは1〜200の整数であり、zは0〜100の整数である。)
【0016】
【化3】
【0017】
(式中、R、R14及びR17はアミン、エポキシ、イソシアネート、アンハイドライド、カルボジイミドまたはアジリジンであり、R10〜R13、15及びR16は水素またはC〜Cのアルキル基、アルケン基、アルケニル基またはアリル基であり、oは1〜200の整数であり、pは1〜200の整数であり、qは1〜200の整数である。)
【0018】
(4)前記溶融反応の温度は160〜250℃であることを特徴とする前記(1)記載のポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体。
(5)前記ポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体は熱変形温度が70℃以上であることを特徴とする前記(1)記載のポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体。
【0019】
(6)前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載のポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体100重量部に対し結晶化核剤0.01〜5重量部を含むことを特徴とするポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体組成物。
(7)前記結晶化核剤は、ベンジョハイドライド誘導体、滑石、ソジウムステアラート(stearate)、エチレンビス(12−ヒドロキシステアリルアマイド)、テレフタルイミド誘導体、1,4−シクロヘキサンジカルボキシルジアニルライド及びジンクフェニルホスフアート(phosphate)からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする前記(6)記載のポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体組成物。
(8)前記ポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体組成物は、結晶化度が40%以上であり、110℃で結晶形成を誘導したとき結晶化速度(t1/2)が15〜30秒であることを特徴とする前記(6)記載のポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体組成物。
【発明の効果】
【0020】
本発明によって製造されたポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体及びこれを含む組成物は早い結晶化速度を有し、高い結晶化度を有し、耐熱性が高いので射出成形が優れており、多様な用途に有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例4の結晶化速度を偏光顕微鏡を使用して測定した結果を表したグラフである。図1におけるように、時間の流れに従って変化する結晶化度を数値化して結晶化度が50%であるときの時間をt1/2に定義した。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体及びこれを含む組成物について、詳細に説明する。
【0023】
本発明のポリ乳酸−ポリアルキレンエチレングリコール共重合体は、ポリ乳酸及びポリアルキレングリコールの反応で製造され、前記ポリアルキレングリコールが0.05〜25重量%含まれていることを特徴とする。
本発明によるポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体において、前記ポリ乳酸はL−ポリ乳酸またはD−ポリ乳酸が使用され得る。
前記ポリ乳酸の重量平均分子量は、10,000g/mol以上であることが好ましい。が、10,000g/mol以上であれば加工性がより向上し、射出された製品の物性がより良くなるので好ましい。
【0024】
本発明によるポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体において、前記ポリアルキレングリコールは、末端がアミンで改質されたポリアルキレングリコールであって、下記式1〜3の各式でそれぞれら和される化合物の群から選ぶことができる。
【0025】
【化4】
【0026】
(式1中、Rはアミン、エポキシ、イソシアネート、アンハイドライド、カルボジイミド、またはアジリジンであり、Rは水素、C〜Cのアルキル基、アルケン基、アルケニル基またはアリール基であり、RはC〜Cのアルキル基、アルケン基、アルケニル基またはアリール基であり、lは0〜200の整数であり、mは0〜200の整数である。さらにlとmの位置は互いに変えることができる。)
【0027】
【化5】
【0028】
(式2中、RおよびRはアミン、エポキシ、イソシアネート、アンハイドライド、カルボジイミドまたはアジリジンであり、R〜Rは水素またはC〜Cのアルキル基、アルケン基、アルケニル基またはアリール基であり、xは0〜100の整数であり、yは1〜200の整数であり、zは0〜100の整数である。)
【0029】
【化6】
【0030】
(式3中、R、R14及びR17はアミン、エポキシ、イソシアネート、アンハイドライド、カルボジイミドまたはアジリジンであり、R10〜R13、15及びR16は水素またはC〜Cのアルキル基、アルケン基、アルケニル基またはアリル基であり、oは1〜200の整数であり、pは1〜200の整数であり、qは1〜200の整数である。)
【0031】
本発明によるポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体において、前記ポリアルキレングリコールの含有量は、前記共重合体の総重量を基準に0.05〜25重量%、好ましくは1〜20重量%であり、さらに好ましくは、2〜10重量%である。0.05重量%未満であると共重合体の結晶化速度が劣り好ましくなく、25重量%を越えると結晶化速度が速くなるよりはポリ乳酸の剛性が低下され、未反応ポリアルキレングリコールの表面流出現象が観察され好ましくない。
【0032】
本発明によるポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体は前記ポリ乳酸とポリアルキレングリコールを溶融反応させて得られることができるが、ポリ乳酸とポリアルキレングリコールの溶融反応時、ポリ乳酸のカルボキシル基或いはヒドロキシ基とポリアルキレングリコールのアミン基、エポキシ基、またはイソシアネート基の化学的結合を通じて共重合体が製造され得る。
前記溶融反応の温度は160〜250℃、好ましくは170〜220℃であり、さらに好ましくは180〜200℃であるが、溶融反応の温度が160℃未満であるとポリ乳酸樹脂が溶融されないことがあり、そのためで流れ性が劣り、アマイド結合反応速度が遅くなることがある。250℃を超えるとポリ乳酸の分解が加速化され、得られた樹脂の結晶化速度が低くなり、黄変が甚だしくなることがある。
【0033】
本発明のポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体は、人体に有害な有機溶媒を使用せず、共重合体の90重量%以上が生分解性物質からなっているので親環境性が高い特性を有する。
本発明によるポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体は射出成形が容易であり、射出された製品は優れた耐熱性を有することが特徴である。更に詳しくは、射出成形時サイクルタイムが110℃で一般のポリ乳酸対比で10倍以上早く、射出製品の熱変形温度が70℃以上であり、好ましくは100℃以上であり、更に好ましくは、115℃以上である。
前記ポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体は耐熱性が重要視に要求される分野の成形製品、例えば、自動車部品、電池電子部品、機械部品、コンピューターなどの事務機器などの用途に使用され得る。
【0034】
本発明のポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体組成物は、本発明のポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体100重量部に対して結晶化核剤を0.01〜5重量部含むことを特徴とする。
前記結晶化核剤の具体的な例としては、ポリグリコールライド、ベンジョハイドラジヤイド誘導体(benzohydrazide derivative)、 滑石、ソジュムステアラート(stearate)、カルシウムラクテート、エチレンビス(12−ヒドロキシステアリルアマイド)、テトラフタルイミド誘導体(terephthalimide derivative: NU-100)、 1, 4-シクロヘキサンジカルボキシルリックジアニルライド及びジンクフェニルホスフアート(phosphate)からなる群から選ばれる1種以上であり得る。
前記結晶化核剤の使用量はポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体100重量部に対して0.01〜5重量部であることが好ましい。0.01重量部未満であると結晶化速度が遅くなることがあり、5重量部を超えれば結晶化核剤が飽和状態になることにより結晶化速度がこれ以上速くならないことがある。
【0035】
本発明によるポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体組成物は、ポリ乳酸とポリアルキレングリコールを溶融反応させる時、結晶化核剤を一緒に配合することにより製造され得る。この時、結晶化核剤以外に通常の添加物等、例えば一般的な滑剤、無機粒子、熱安定剤及び酸化防止剤などを更に配合することができる。
【0036】
本発明のポリ乳酸−ポリアルキレングリコール共重合体組成物は、一般のポリ乳酸よりも結晶化度が高く、結晶化速度が速くなり得る。更に具体的に説明すれば、 結晶化度が40%以上であり、110℃で結晶形成を誘導したとき結晶化速度(t1/2)が15〜30秒であることが好ましい。前記結晶化度は示差走査熱量計(DSC)を使用して200℃まで10℃/minで昇温しながらピック融点が150〜180℃で発見される熱量である△Hをポリ乳酸の計算値融点熱量である△Hと比較して得られた値である。結晶化速度は偏光顕微鏡と光ダイオードアレイを使用して測定した。詳しくは、樹脂組成物を200℃で溶融した後、スライドガラスの上に薄いフィルムを作りカバーガラスを載せてスライドガラスを温度が110℃に予熱された加熱板の上に載せた後、偏光顕微鏡で樹脂組成物の結晶化速度を観察した。この時、He−Neレーザーをフィルムに透過させ樹脂が結晶化するに従って差減される光の強度(intensity)を利用して結晶化速度を測定した。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を下記の実施例及び比較例によってより詳しく説明する。しかし、これらは本発明の一例であって、これらによる本発明の権利範囲が限定されるものではない。
<実施例及び比較例>
実施例及び比較例で使用された物質、製造方法、射出方法及び物性測定方法は下記の通りである。
【0038】
(1) ポリ乳酸樹脂
L−ポリ乳酸樹脂としては、NatureWorks LLCで製造された4032Dを使用した。
(2) ポリアルキレングリコール
ポリアルキレングリコールは、Du Pont、 Huntsman、 Lonza、 Basf、 Aldrich 等で製造された末端がアミンに改質されたものを使用した。
(3) 製造方法
ポリ乳酸樹脂とポリアルキレングリコール、および選択的に結晶化核剤を二軸押出し機(twin-screw extruder)を利用して溶融混練した。この時ポリアルキレングリコールは液体注入器(liquid feeder)を利用して押出し温度が180〜200℃の押出し機に注入し、溶融混練後ぺレツタイザー(pelletizer)を利用してペレット(pellet)を得た。
【0039】
(4) 射出方法
前記(3)の製造方法によって製造されたペレットを80℃で4時間以上乾燥後、射出成形機を使用して、シリンダー温度200℃、金型温度110℃、成形サイクルを60秒に設定し、ASTM4号 試験片を射出成形して物性試片を得た。
(5) 熱変形温度
熱変形温度(HDT)はASTM D648に準じて測定した。
(6) 射出成形の容易性
押出し反応後、得られたペレットを110℃で2時間以上乾燥時、表面に未反応ポリアルキレングリコールの表面流出現象が無いので、射出成形が可能であれば○(優秀)に、表面流出現象が無いが射出成形サイクル時間が1分以上であれば△(良好)に、表面流出現象が甚だしいので射出成形が不可能であれば×(不良)に評価した。
【0040】
(7) 熱量測定方法
示差走査熱量計(DSC)を利用して樹脂組成物を200℃で3分間溶融した後、20℃/minで室温(23度)まで減温してTとΔHを測定し、再び10℃/minで200℃まで昇温してTとΔHとを測定した。
【0041】
(8) 結晶化度が50%に及ぶ時間(t1/2;結晶化速度)測定方法
樹脂組成物を200℃で溶融した後、スライドガラスの上に厚さが薄いフィルムを作りカバーガラスを載せた。スライドガラスを温度が110℃に予熱された加熱板(Linkam Scientific Instruments Ltd.)の上に載せた後、偏光顕微鏡(Olympus BX51)で樹脂組成物の結晶化速度を観察した。更に詳しくは波長が632.8nmの偏光He-Neレーザーをフィルムに透過させて樹脂が結晶化するに従って差減される光の強度(intensity)を利用して結晶化度を測定した(Hamanstu Photonics Co. の 38−channel photodiodiode array). 時間による結晶化度(relative crystallinity Xc) は、下記数式1によって計算して、その値をXc 対比時間(秒)でグラフに表記し、Xc が0.5のとき該当する時間をt1/2に定義した。
【0042】
【数1】
【0043】
(前記数式1で、I(t)は時間tにおける光の強度であり、I(0)は樹脂の結晶化が始まる前の光の強度であり、 Iは結晶化が完了されたときの光の強度である。)
(9) 結晶化度の計算方法
結晶化度は下記数式2を使用して計算した。
【0044】
【数2】
【0045】
(前記数式2において、ΔHm は樹脂の溶融時熱量の実験値であり、ΔH0m は ポリ乳酸樹脂の溶融時の熱量の計算値であって、93.1J/gであり、この値は非特許文献3(Kolloid Z. Z. Polym. 251、 980 (1973))に報告されたことを根拠とした。)
【0046】
実施例1〜7及び比較例1〜6
実施例1〜4及び比較例1〜4の各組成物に対する物性は下記表1に示し、 実施例5〜7及び比較例5〜6の各組成物に対する物性は下記表2に示した。
下記表1の実施例1〜4及び比較例1〜4において、下記表1の組成による成分及び含有量で混合した後、二軸押出し機で190℃で溶融混練して押出し加工した。ペレットサンプルは80℃で4時間以上乾燥後、射出金型の温度を110℃で維持させ、射出成形して常温で24時間放置後、試片等に対する物性は下記のような方法で測定して、その結果を下記表1に示した。
表2の実施例5〜7及び比較例5〜6の組成による物性測定のために、下記表1の組成と異なるようにして混合した以外は、実施例1〜4と同一な方法で試片を製造し、その物性を測定し、これを下記表2に示した。
【0047】
【表1】
【0048】
註1)A: ポリ乳酸: 商品名: LLC 4032D、 NatureWorks社製
2)B−1: 一方の末端がアミンで改質された重量平均分子量2000g/molのポリアルキレングリコール、 商品名: Jeffamine M-2070(登録商標)、 Huntsman Corporation社製
3)B−2:両側の末端がアミンで改質された重量平均分子量 2000g/molのポリアルキレングリコール、 商品名: Jeffamine ED-2003(登録商標)、Huntsman Corporation社製
4)B−3:改質されない重量平均分子量が400g/molのポリエチレングリコール、 アルドリチ社製
5)C:粒子サイズが5〜6μmの滑石、KR8500、 (株)KOCH製
【0049】
前記表1に示した通り、 実施例1と実施例2は結晶化度が高く、 結晶化速度(t1/2)が速く、未反応ポリアルキレングリコールの表面流出現象が無いので射出が容易であることが分かる。
実施例1と2の熱変形温度は78℃以上に測定され、これは一般のポリ乳酸の 熱変形温度である56℃ より約20℃高い。
【0050】
更に、実施例1及び2の共重合体に結晶化核剤を添加した実施例3と4をよく見ると、結晶化速度が確然に減るのを確認し、熱変形温度もまた110℃以上上昇したことが分かる。これと反対に、ポリアルキレングリコールを使用しない比較例1の場合、結晶化速度が遅いので射出成形が容易でないことを分かる。比較例2では、ポリアルキレングリコールの使用なしに、結晶化核剤だけを添加して結晶化速度を制御しようとしたが、組成物の結晶化度だけ向上させただけで熱変形温度と結晶化速度は向上されないことを分かる。更に、比較例3及び4の如く、末端がヒドロキシ基である一般的なポリアルキレングリコールを使用したときにはDSC分析過程で冷結晶化(cold crystallization)によってポリ乳酸組成物の結晶化度は向上されたが、結晶化速度が早くなく、押出し加工後ペレットの乾燥過程で未反応ポリアルキレングリコールの表面流出現象が甚だしいので射出成形自体が不可能であった。
【0051】
【表2】
【0052】
註1)A:ポリ乳酸: 商品名: LLC 4032D、 NatureWorks社製
2)B−1:一方の末端がアミンで改質された重量平均分子量2000g/molのポリアルキレンググリコール、商品名: Jeffamine M-2070(登録商標)、Huntsman Corporation社製
3)C:粒子サイズが5〜6μmの滑石、KR8500、 (株)KOCH 製
【0053】
前記表2は、末端がアミンで改質されたポリアルキレングリコールの含有量による組成物の物性を表したものであって、実施例5〜7に記載された通り、ポリアルキレングリコールの使用量が5〜25重量%の範囲内では、結晶化度が高く、結晶化速度が速く、熱変形温度が高いことが分かる。しかし、比較例3及び4の如くポリアルキレングリコールの含量が30重量%以上添加されるとき、ポリアルキレングリコールの可塑化作用のため結晶化速度は100秒以下に維持されるが結晶化度が確然に低くなり、射出成形前、或いは後に未反応ポリアルキレングリコールの表面流出現象が観察されることが分かる。
図1