特許第5874947号(P5874947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許58749472次元フォトニック結晶レーザの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874947
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】2次元フォトニック結晶レーザの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/12 20060101AFI20160218BHJP
   H01S 5/323 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   H01S5/12
   H01S5/323
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-171934(P2010-171934)
(22)【出願日】2010年7月30日
(65)【公開番号】特開2012-33706(P2012-33706A)
(43)【公開日】2012年2月16日
【審査請求日】2013年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
(72)【発明者】
【氏名】坂口 拓生
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 和也
(72)【発明者】
【氏名】國師 渡
(72)【発明者】
【氏名】宮井 英次
(72)【発明者】
【氏名】三浦 義勝
(72)【発明者】
【氏名】大西 大
【審査官】 河原 正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−038063(JP,A)
【文献】 特開2008−159684(JP,A)
【文献】 特開2000−275418(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/062084(WO,A1)
【文献】 特開2002−033549(JP,A)
【文献】 特開2003−152279(JP,A)
【文献】 特開平08−097501(JP,A)
【文献】 特開平08−181389(JP,A)
【文献】 特開平06−097085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) AlαGa1-αAs(0<α<1)又は(AlβGa1-β)γIn1-γP(0≦β<1, 0<γ<1)から成る母材層を作製する母材層作製工程と、
b) 前記母材層内に、平面形状の最大幅dが200nm以下であって、深さhと該最大幅dの比h/dが1.3以上5以下である、2次元フォトニック結晶を構成する空孔を周期的に形成する空孔形成工程と、
c) 前記母材層及び前記空孔の上に、該空孔の各々の少なくとも一部が残るように、AlxGa1-xAs(0.4≦x<1)から成る層をエピタキシャル法により作製するエピタキシャル層作製工程と、
を有することを特徴とする2次元フォトニック結晶レーザの製造方法。
【請求項2】
前記母材層が、エピタキシャル成長させることにより作製した層であることを特徴とする請求項1に記載の2次元フォトニック結晶レーザの製造方法。
【請求項3】
前記母材層が、α、β若しくはγの値が異なる複数の層、又は該複数の層の一部が他の半導体の層に置き換えられた、複数の層を積層させた構造を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の2次元フォトニック結晶レーザの製造方法。
【請求項4】
前記空孔形成工程と前記エピタキシャル層作製工程の間において、前記空孔の内面の少なくとも一部に、前記AlxGa1-xAs(0.4≦x<1)の結晶成長を阻害する結晶成長阻害膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶レーザの製造方法。
【請求項5】
前記結晶成長阻害膜が二酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(Si3N4)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)のいずれかを含有することを特徴とする請求項4に記載の2次元フォトニック結晶レーザの製造方法。
【請求項6】
前記空孔の平面形状が楕円であり、該楕円の長径が、前記母材層と平行な面内での前記AlxGa1-xAs(0.4≦x<1)の成長方向を向いていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶レーザの製造方法。
【請求項7】
前記空孔の平面形状が、多角形の各頂点から外方に溝状の突起を設けたものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶レーザの製造方法。
【請求項8】
AlαGa1-αAs(0<α<1)又は(AlβGa1-β)γIn1-γP(0≦β<1, 0<γ<1)から成る母材層と、
前記母材層の上に設けられた、AlxGa1-xAs(0.4≦x<1)から成るエピタキシャル層と、
前記母材層内に周期的に複数個設けられ、平面形状の最大幅dが200nm以下であって、深さhと該最大幅dの比h/dが1.3以上5以下であり、各々の少なくとも一部が前記エピタキシャル層の材料で埋められることなく残された、2次元フォトニック結晶を構成する空孔と
を備えることを特徴とする2次元フォトニック結晶レーザ。
【請求項9】
前記母材層が、α、β若しくはγの値が異なる複数の層、又は該複数の層の一部が他の半導体の層に置き換えられた、複数の層が積層された構造を有していることを特徴とする請求項8に記載の2次元フォトニック結晶レーザ。
【請求項10】
前記空孔の内面の少なくとも一部に、前記AlxGa1-xAs(0.4≦x<1)の結晶成長を阻害する特性を有する結晶成長阻害膜を備えることを特徴とする請求項8又は9に記載の2次元フォトニック結晶レーザ。
【請求項11】
前記結晶成長阻害膜が二酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(Si3N4)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)のいずれかを含有することを特徴とする請求項10に記載の2次元フォトニック結晶レーザ。
【請求項12】
前記空孔の平面形状が楕円であり、該楕円の長径が、前記母材層と平行な面内での前記AlxGa1-xAs(0.4≦x<1)の成長方向を向いていることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶レーザ。
【請求項13】
前記空孔の平面形状が、多角形の各頂点から外方に溝状の突起が設けられているものであることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶レーザ。
【請求項14】
前記空孔の縦断面形状が、錐状領域を有していることを特徴とする請求項8〜13のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元フォトニック結晶レーザを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、2次元フォトニック結晶を用いた新しいタイプのレーザが開発されている。2次元フォトニック結晶とは、誘電体から成る母材に屈折率の周期構造を形成したものであり、一般に母材とは屈折率が異なる領域(異屈折率領域)を母材内に周期的に設けることにより作製される。この周期構造により、結晶内でブラッグ回折が生じ、また、光のエネルギーにエネルギーバンドギャップが現れる。2次元フォトニック結晶レーザには、バンドギャップ効果を利用して点欠陥を共振器として用いるものと、光の群速度が0となるバンド端の定在波を利用するものがあるが、いずれも所定の波長の光を増幅してレーザ発振を得るものである。
【0003】
2次元フォトニック結晶レーザでは、2次元フォトニック結晶構造を有する層(以下、「2次元フォトニック結晶層」とする)の異屈折率領域を空孔とすることが多い。これは、母材と空孔との屈折率差を大きくすることができ、さらにフォトニック結晶の共振器としての性能を上げることができるためである。
【0004】
異屈折率領域を空孔とした場合、2次元フォトニック結晶層の上に別の層(以下、「上部層」とする)を積層することが困難になる。特許文献1では、2次元フォトニック結晶層の上に、別途作製された上部層を重ねて加熱することにより融着(熱融着)させる方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、この方法で作製した2次元フォトニック結晶レーザでは、熱融着を行った2次元フォトニック結晶層と上部層の融着面における界面準位のため、これらの界面において電気抵抗が高くなる。そのため、動作電圧が高くなり、レーザの連続発振が生じにくくなってしまう。また、熱融着を行う際に空孔の形状が崩れてしまい、2次元フォトニック結晶層の共振器としての性能が低下してしまうことがある。
【0006】
一方、特許文献2には、GaNを母材とし、空孔が周期的に形成された2次元フォトニック結晶層の上に、AlGaNを直接、エピタキシャル成長させることにより上部層を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-332351号公報
【特許文献2】国際公開WO2006/062084号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載の方法では、2次元フォトニック結晶層と上部層の界面において電気抵抗が高くなるという問題は生じない。しかしながら、上部層をエピタキシャル成長させる際に空孔の一部が上部層の材料で埋まってしまい、空孔の形状が変化してしまうという問題がある。この場合も、2次元フォトニック結晶層の共振器としての性能が低下し、結果として、2次元フォトニック結晶レーザのレーザ特性が低下する。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、2次元フォトニック結晶層の上部層をエピタキシャル法により形成する方法であって、2次元フォトニック結晶層の共振器としての性能を低下させない2次元フォトニック結晶レーザの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザ製造方法は、
a) AlαGa1-αAs(0<α<1)又は(AlβGa1-β)γIn1-γP(0≦β<1, 0<γ<1)から成る母材層を作製する母材層作製工程と、
b) 前記母材層内に、平面形状の最大幅dが200nm以下であって、深さhと該最大幅dの比h/dが1.3以上5以下である、2次元フォトニック結晶を構成する空孔を周期的に形成する空孔形成工程と、
c) 前記母材層及び前記空孔の上に、該空孔の各々の少なくとも一部が残るように、AlxGa1-xAs(0.4≦x<1)から成る層をエピタキシャル法により作製するエピタキシャル層作製工程と、
を有することを特徴とする。
【0011】
なお、本願において「最大幅」とは、空孔の平面形状内に収まる最長の線分の長さをいう。例えば空孔の平面形状が円の場合には直径が、楕円の場合には長径が、三角形の場合には3辺のうちの最長の辺の長さが、それぞれ最大幅に該当する。
【0012】
また、本願では、各層の相対的な位置関係を示すために、便宜的に「上」、「下」という語を用いるが、これらは、作製時の各層の向き及び作製後の2次元フォトニック結晶レーザの向きを限定するものではない。
【0013】
本発明では、空孔形成工程とエピタキシャル層作製工程の間において、空孔の内面の少なくとも一部に、AlxGa1-xAsのエピタキシャル成長を阻害する結晶成長阻害膜を形成する工程を行ってもよい。これにより、AlxGa1-xAsの結晶が空孔内に形成されることを更に抑制することができる。結晶成長阻害膜の材料には、二酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(Si3N4)、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)などを用いることができる。
【0014】
また、結晶成長による製膜では、製造時の原料ガスの流れる向き等により面内方向(基板の表面に平行な方向)での成長速度に異方性がある。そのため、母材層及び空孔の上の層をエピタキシャル法により作製すると、この成長速度の差から空孔の平面形状が変化してしまう。本発明では、この成長速度の差を予め予備実験等により調べておき、それに合わせて上部層(エピタキシャル層)を作製する前の空孔の平面形状を変化させておくことで、エピタキシャル層を作製後の空孔の平面形状を目標の平面形状に近づけることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る製造方法は、2次元フォトニック結晶層の上部に積層するエピタキシャル層の材料としてAlxGa1-xAsを用いたものであり、AlxGa1-xAsの成長特性に基づいて、エピタキシャル成長させる前の2次元フォトニック結晶層の空孔の縦断面形状及び横断面(平面)形状を決定することにより、再成長後の空孔の形状を目標とする形状に近づけ、フォトニック結晶としての性能を高く維持する、というものである。これにより、2次元フォトニック結晶層の共振器としての性能を低下させることなく、レーザ特性の高い2次元フォトニック結晶レーザを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】2次元フォトニック結晶レーザの一般的な構造を示す斜視図。
図2】2次元フォトニック結晶層の一般的な構造を示す上面図。
図3】2次元フォトニック結晶層の上の層を従来のエピタキシャル法により再成長させたときの、2次元フォトニック結晶層における空孔の縦断面形状を示した電子顕微鏡写真。
図4】エピタキシャル層を形成する前と形成した後の空孔の縦断面形状の変化を示した図。
図5】2次元フォトニック結晶層に形成する空孔の縦断面形状と横断面形状を示した図。
図6】2次元フォトニック結晶相における空孔内の干渉の効果の変化を示したグラフ。
図7】円形の平面形状を有する空孔に対して、エピタキシャル層を形成する前と形成した後の横断面形状の変化を示した図。
図8】正三角形の平面形状を有する空孔に対して、エピタキシャル層を形成する前と形成した後の横断面形状の変化を示した図。
図9】再成長後の空孔の横断面形状を円形又は正三角形にするための、再成長前の空孔の横断面形状を示した図。
図10】本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザの製造方法の一実施例を示した図。
図11】本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザの製造方法の変形例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、2次元フォトニック結晶レーザの一般的な構造を示す斜視図である。この2次元フォトニック結晶レーザは、基板11の上に、第1クラッド層12、活性層13、キャリアブロック層14、2次元フォトニック結晶層15、第2クラッド層16、コンタクト層17、が順に積層された構造を有している。そして、基板11の下には下部電極18が、コンタクト層17の上には上部電極19が、それぞれ設けられている。
また、2次元フォトニック結晶層15には、円形や三角形等の平面形状を有する空孔151が、層内に周期的に形成されている(図2)。
【0018】
このような構造の2次元フォトニック結晶レーザを作製するには、第2クラッド層16を2次元フォトニック結晶層15の空孔151上に積層する必要がある。近年、2次元フォトニック結晶層15の上部の層をエピタキシャル法により形成する方法が提案されている。しかしながら、従来の方法では、図3に示すように空孔151の一部が再成長の際に埋まってしまい、空孔151の形状が変化するという問題がある。
【0019】
本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザの製造方法は、2次元フォトニック結晶層15の上部にエピタキシャル層(第2クラッド層)16を形成する際、エピタキシャル層16の材料(以下、「再成長材料」とする)の特性を考慮して、再成長させる前の2次元フォトニック結晶層15の空孔151の形状を決定することにより、再成長後の空孔の形状を目標とする形状に近づけ、フォトニック結晶としての性能を高く維持させる、というものである。
【実施例1】
【0020】
本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザの製造方法について、まず実験データを示す。なお、以下では2次元フォトニック結晶層15の母材152としてAlαGa1-αAs系材料(0<α<1)又は(AlβGa1-β)γIn1-γP系材料を用いる(0≦β<1, 0<γ<1)。これは、フォトニック結晶構造を形成した後の2次元フォトニック結晶層15の上にエピタキシャル層16を形成する際、基板温度を600℃前後まで上昇させるため、GaAs等ではマイグレーションにより空孔151の形状が崩れてしまうことがあるからである。また、再成長材料としては、AlxGa1-xAs系材料を用いる。AlxGa1-xAs系材料はxが大きくなるほど拡散長が短くなり、空孔151の内部に侵入しにくくなる。そのため、2次元フォトニック結晶層15上に積層するエピタキシャル層16の材料として好適に用いることができる。
以下、空孔151の平面形状を円形とし、x=0.65として実験を行った。
【0021】
[縦断面形状に関する実験]
図4に、再成長前の空孔151の縦断面形状と再成長後の空孔151Aの縦断面形状に関する実験データを示す。なお、dは空孔151の最大幅、hは空孔151の深さである(図5(a))。ここで、最大幅とは、空孔151の横断面において、空孔151に入ることができる最長の線分の長さであり、平面形状が円形の場合は円の直径、正三角形の場合は一辺の長さ、正三角形以外の三角形では最大の長辺の長さ、である(図5(b))。
【0022】
図4の(a)及び(b)を比較すると、dがほぼ同じである場合、アスペクト比h/dが大きい方が再成長前の空孔151の縦断面形状が保持されるという結果が得られた。一方、図4の(b)及び(c)を比較すると、アスペクト比h/dがほぼ同じである場合、dが大きい方が再成長前の空孔151の縦断面形状が保持されるという結果が得られた。すなわち、エピタキシャル層16を形成する前の空孔151と形成した後の空孔151Aの縦断面形状を近づけるには、空孔の最大幅dとアスペクト比h/dのどちらか一方又は両方を、再成長材料のAl比率xに対して適切に決定すれば良いことが分かる。
【0023】
なお、パラメータx, d, h/dの範囲としては、それぞれ0.4≦x<1, d≦200nm, 1.3≦h/dとすることが望ましいことが実験により得られた。アスペクト比h/dは特に限定されないが、hが大きすぎたり、dが小さすぎたりすると、空孔151の2次元周期構造が十分に形成されないことがある。そのため、本発明ではアスペクト比h/dの上限を5とした。
【0024】
また、空孔151の内部では、活性層13側からの回折光と第2クラッド層16側からの回折光とが干渉し、互いに強めあったり弱めあったりする。この条件は、母材152の材質と、空孔151の深さdと、空孔151の縦断面形状によって決まる。例えば、母材152の材質がAl0.1Ga0.9As、空孔151の深さdが120nm、縦断面形状が長方形である場合は互いに強めあい、それ以上の深さでは強めあう方から弱めあう方に徐々に変化する。
【0025】
一方、本実施例の再成長方法では、図4に示すように、第2クラッド層(エピタキシャル層)16側の先端が尖ったような縦断面形状が得られる。このように斜め方向に傾斜した錐状領域154を有する縦断面形状の場合、第2クラッド層16側からの回折光が弱まるため、干渉の効果を低減させることができる。この結果を図6に示す。
【0026】
図6に示すように、錐状領域154の深さh1と矩形領域155の深さh2とを変化させることで、干渉の効果が低減されるという結果が得られている。錐状領域154の深さh1と矩形領域155の深さh2はパラメータd, h, xによって変化させることができるため、活性層13側からの回折光と第2クラッド層16側からの回折光との干渉が弱めあわないように、パラメータd, h, xを適宜調整すれば良い。
【0027】
[平面形状(横断面形状)に関する実験]
再成長前の空孔151の平面形状と再成長後の空孔151Aの平面形状に関する実験データを図7及び8に示す。
【0028】
図7は、エピタキシャル層16を2次元フォトニック結晶層15の上に形成したときの面内方向(積層方向に垂直な方向)での成長について実験したものである。ここで、図7(a)は、エピタキシャル層16を形成する前の空孔151の電子顕微鏡写真である。図7(b)〜(d)はそれぞれ、2次元フォトニック結晶層15の上にAl0.65Ga0.35Asをエピタキシャル法により40nmだけ再成長させたときの上側からの電子顕微鏡写真(b)、オリフラ(001)面に垂直な方向で切断した縦断面での電子顕微鏡写真(c)、オリフラ(001)面に平行な方向で切断した縦断面での電子顕微鏡写真(d)、である。
【0029】
図7の例では、AlxGa1-xAsはオリフラ(001)面に平行な方向に沿って成長しやすい。そのため、エピタキシャル層16を形成すると、空孔151の形状はオリフラ(001)面に平行な方向の幅が狭くなった楕円形になってしまう。本発明では、この性質を考慮し、再成長材料のAl比率xに対して予備実験等により予め方向別での成長レートを求めておき、再成長後の空孔151Aの平面形状が目標とする形状になるように、再成長前の空孔151の平面形状を決定する。例えば、x=0.65の場合、オリフラ(001)面に平行な方向の成長レートaとオリフラ(001)面に垂直な方向の成長レートbとの比がb/a=1.3であるため、オリフラ(001)面に平行な方向の長さaとオリフラ(001)面に垂直な方向の長さbの比がa/b=1.3の楕円形を、再成長前の空孔151の平面形状とすれば良い(図7(e))。
【0030】
また、空孔151が三角形等の多角形の平面形状を有する場合、成長面は多角形の各辺を切断した断面になる。図8に平面形状が正三角形の空孔151に対する実験データを示すが、このように2つの成長面が90°以下の角度で存在する場合、多角形の各頂点から内部に向けて結晶が成長していくため、図8(a)の例では再成長後の空孔151Aの平面形状が円形に近い形状になってしまう。そのため図8(b)〜(d)に示すように、2つの成長面が交わる頂点から突起部153を伸ばすことで、再成長後の空孔151Aの平面形状を三角形にすることができる。
【0031】
図9に円形及び正三角形の平面形状に対する結果を示すが、円形の場合には成長面に平行な方向を長径、垂直な方向を短径とする楕円形を再成長前の平面形状にし、長径aと短径bの比が1<a/b≦1.5となるようにすれば、再成長後の平面形状を円形にすることができることが実験により得られた(図9(a))。また、正三角形の場合には、三角形の重心から各頂点に延びる直線の長さaと各辺への垂線の長さbとの比が2<a/b≦3となるようにすれば、再成長後の平面形状を正三角形にすることができることが実験により得られた(図9(b))。このように、再成長前の空孔の形状を再成長材料のAl比率xを成長面に対して適切に変えることで、再成長後の空孔の平面形状を目標とする形状に近づけることができる。
【0032】
以下、本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザの製造方法の一実施例を、図10を用いて説明する。
まず、GaAs基板21上にn型のAl0.65Ga0.35As層(n型クラッド層)22、InGaAs/GaAs層(活性層)23、Al0.4Ga0.6As層(キャリアブロック層)24、Al0.1Ga0.9As層25を順にエピタキシャル成長させる(図10(a))。次に、Al0.1Ga0.9As層25に対して、所定の周期構造の空孔251を、最大幅dがd≦200nm、深さhと最大幅dの比が1.3≦h/d≦5となるようにエッチングにより形成する(図10(b))。これにより、2次元フォトニック結晶層25Aが得られる。その後、空孔251が形成されたAl0.1Ga0.9As層(2次元フォトニック結晶層)25Aの上にp型のAl0.65Ga0.35As層(p型クラッド層)26をエピタキシャル成長により形成し、その上にp型のGaAs層(コンタクト層)27を設ける(図10(c))。そして、基板21の下に下部電極(窓状電極)27を、p型GaAs層26の上に上部電極28を、それぞれ設ける(図10(d))。これにより、レーザ特性の高い2次元フォトニック結晶レーザを作製することができる。なお、2次元フォトニック結晶層25Aの母材の材料は(AlβGa1-β)γIn1-γP系(0≦β<1, 0<γ<1)であっても良い。
【0033】
なお、上記方法では、再成長前の空孔251の平面形状については特に指定していなかったが、図7〜9に示したように、p型Al0.65Ga0.35As層26をエピタキシャル成長により形成するときの成長面に基づいて、この平面形状を適切に決定すれば、2次元フォトニック結晶層25の性能をより高めることができ、その結果、高いレーザ特性を得ることができる。
【0034】
また、図10の(b)と(c)の間において、空孔251の側壁及び底部にAlxGa1-xAs系材料のエピタキシャル成長を阻害するSiO2、Si3N4、ZnO、ZrO2等の成長阻害材料から成る成長阻害膜を形成する工程を有していても良い。この変形例を図11を用いて説明する。
【0035】
まず、空孔251が形成されたAl0.1Ga0.9As層25A(図11(a))に、SiO2の膜30を形成する(図11(b))。そして、SiO2膜30をドライエッチングにより除去する(図11(c))。Al0.1Ga0.9As層25Aの表面252と空孔251の内部とではエッチングレートが異なるため、ステップS32の処理によって空孔251の内部にのみSiO2膜30が残る。この空孔251の内部に残ったSiO2膜30がAlxGa1-xAs系材料のエピタキシャル成長を阻害する成長阻害膜として機能するため、ステップS4において結晶が空孔251の内部に形成されることを更に抑制することができる。
【0036】
なお、成長阻害膜を空孔251内に形成する場合、再成長前の空孔251の縦断面形状及び/又は平面(横断面)形状を上記の方法により形成することが望ましいが、成長阻害膜を空孔251内に形成するだけでも、レーザ特性を高める効果が得られる。
【0037】
上記の実施例はあくまで一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜に変形や修正、追加などを行っても構わない。例えば、上記実施例では母材層25としてAl0.1Ga0.9As層が一層のみの構造としたが、αの異なる複数のAlαGa1-αAs層を積層させた構造であっても良く、さらにそのうちの一部の層がGaAsの層や他の半導体の層に置き換わっていても良い。母材層として(AlβGa1-β)γIn1-γP系材料を用いた場合も、同様にβとγが異なる複数の層を積層させた構造としたり、そのうちの一部の層をGaAsの層や他の半導体の層に置き換えたりすることができる。
【符号の説明】
【0038】
11…基板
12…第1クラッド層
13…活性層
14…キャリアブロック層
15…2次元フォトニック結晶層
151、151A…空孔(異屈折率領域)
152…母材
153…突起部
154…錐状領域
155…矩形領域
16…第2クラッド層(エピタキシャル層)
17…コンタクト層
18、28…下部電極
19、29…上部電極
21…GaAs基板
22…n型Al0.65Ga0.35As層(n型クラッド層)
23…InGaAs/GaAs層(活性層)
24…Al0.4Ga0.6As層(電子ブロック層)
25…Al0.1Ga0.9As層(母材層)
25A…Al0.1Ga0.9As層(2次元フォトニック結晶層)
251…空孔
252…表面
26…p型Al0.65Ga0.35As層(p型クラッド層)
27…p型GaAs層(コンタクト層)
30…SiO2
図1
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図8