【実施例1】
【0020】
本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザの製造方法について、まず実験データを示す。なお、以下では2次元フォトニック結晶層15の母材152としてAl
αGa
1-αAs系材料(0<α<1)又は(Al
βGa
1-β)
γIn
1-γP系材料を用いる(0
≦β<1, 0<
γ<1)。これは、フォトニック結晶構造を形成した後の2次元フォトニック結晶層15の上にエピタキシャル層16を形成する際、基板温度を600℃前後まで上昇させるため、GaAs等ではマイグレーションにより空孔151の形状が崩れてしまうことがあるからである。また、再成長材料としては、Al
xGa
1-xAs系材料を用いる。Al
xGa
1-xAs系材料はxが大きくなるほど拡散長が短くなり、空孔151の内部に侵入しにくくなる。そのため、2次元フォトニック結晶層15上に積層するエピタキシャル層16の材料として好適に用いることができる。
以下、空孔151の平面形状を円形とし、x=0.65として実験を行った。
【0021】
[縦断面形状に関する実験]
図4に、再成長前の空孔151の縦断面形状と再成長後の空孔151Aの縦断面形状に関する実験データを示す。なお、dは空孔151の最大幅、hは空孔151の深さである(
図5(a))。ここで、最大幅とは、空孔151の横断面において、空孔151に入ることができる最長の線分の長さであり、平面形状が円形の場合は円の直径、正三角形の場合は一辺の長さ、正三角形以外の三角形では最大の長辺の長さ、である(
図5(b))。
【0022】
図4の(a)及び(b)を比較すると、dがほぼ同じである場合、アスペクト比h/dが大きい方が再成長前の空孔151の縦断面形状が保持されるという結果が得られた。一方、
図4の(b)及び(c)を比較すると、アスペクト比h/dがほぼ同じである場合、dが大きい方が再成長前の空孔151の縦断面形状が保持されるという結果が得られた。すなわち、エピタキシャル層16を形成する前の空孔151と形成した後の空孔151Aの縦断面形状を近づけるには、空孔の最大幅dとアスペクト比h/dのどちらか一方又は両方を、再成長材料のAl比率xに対して適切に決定すれば良いことが分かる。
【0023】
なお、パラメータx, d, h/dの範囲としては、それぞれ0.4≦x<1, d≦200nm, 1.3≦h/dとすることが望ましいことが実験により得られた。アスペクト比h/dは特に限定されないが、hが大きすぎたり、dが小さすぎたりすると、空孔151の2次元周期構造が十分に形成されないことがある。そのため、本発明ではアスペクト比h/dの上限を5とした。
【0024】
また、空孔151の内部では、活性層13側からの回折光と第2クラッド層16側からの回折光とが干渉し、互いに強めあったり弱めあったりする。この条件は、母材152の材質と、空孔151の深さdと、空孔151の縦断面形状によって決まる。例えば、母材152の材質がAl
0.1Ga
0.9As、空孔151の深さdが120nm、縦断面形状が長方形である場合は互いに強めあい、それ以上の深さでは強めあう方から弱めあう方に徐々に変化する。
【0025】
一方、本実施例の再成長方法では、
図4に示すように、第2クラッド層(エピタキシャル層)16側の先端が尖ったような縦断面形状が得られる。このように斜め方向に傾斜した錐状領域154を有する縦断面形状の場合、第2クラッド層16側からの回折光が弱まるため、干渉の効果を低減させることができる。この結果を
図6に示す。
【0026】
図6に示すように、錐状領域154の深さh
1と矩形領域155の深さh
2とを変化させることで、干渉の効果が低減されるという結果が得られている。錐状領域154の深さh
1と矩形領域155の深さh
2はパラメータd, h, xによって変化させることができるため、活性層13側からの回折光と第2クラッド層16側からの回折光との干渉が弱めあわないように、パラメータd, h, xを適宜調整すれば良い。
【0027】
[平面形状(横断面形状)に関する実験]
再成長前の空孔151の平面形状と再成長後の空孔151Aの平面形状に関する実験データを
図7及び8に示す。
【0028】
図7は、エピタキシャル層16を2次元フォトニック結晶層15の上に形成したときの面内方向(積層方向に垂直な方向)での成長について実験したものである。ここで、
図7(a)は、エピタキシャル層16を形成する前の空孔151の電子顕微鏡写真である。
図7(b)〜(d)はそれぞれ、2次元フォトニック結晶層15の上にAl
0.65Ga
0.35Asをエピタキシャル法により40nmだけ再成長させたときの上側からの電子顕微鏡写真(b)、オリフラ(001)面に垂直な方向で切断した縦断面での電子顕微鏡写真(c)、オリフラ(001)面に平行な方向で切断した縦断面での電子顕微鏡写真(d)、である。
【0029】
図7の例では、Al
xGa
1-xAsはオリフラ(001)面に平行な方向に沿って成長しやすい。そのため、エピタキシャル層16を形成すると、空孔151の形状はオリフラ(001)面に平行な方向の幅が狭くなった楕円形になってしまう。本発明では、この性質を考慮し、再成長材料のAl比率xに対して予備実験等により予め方向別での成長レートを求めておき、再成長後の空孔151Aの平面形状が目標とする形状になるように、再成長前の空孔151の平面形状を決定する。例えば、x=0.65の場合、オリフラ(001)面に平行な方向の成長レートaとオリフラ(001)面に垂直な方向の成長レートbとの比がb/a=1.3であるため、オリフラ(001)面に平行な方向の長さaとオリフラ(001)面に垂直な方向の長さbの比がa/b=1.3の楕円形を、再成長前の空孔151の平面形状とすれば良い(
図7(e))。
【0030】
また、空孔151が三角形等の多角形の平面形状を有する場合、成長面は多角形の各辺を切断した断面になる。
図8に平面形状が正三角形の空孔151に対する実験データを示すが、このように2つの成長面が90°以下の角度で存在する場合、多角形の各頂点から内部に向けて結晶が成長していくため、
図8(a)の例では再成長後の空孔151Aの平面形状が円形に近い形状になってしまう。そのため
図8(b)〜(d)に示すように、2つの成長面が交わる頂点から突起部153を伸ばすことで、再成長後の空孔151Aの平面形状を三角形にすることができる。
【0031】
図9に円形及び正三角形の平面形状に対する結果を示すが、円形の場合には成長面に平行な方向を長径、垂直な方向を短径とする楕円形を再成長前の平面形状にし、長径aと短径bの比が1<a/b≦1.5となるようにすれば、再成長後の平面形状を円形にすることができることが実験により得られた(
図9(a))。また、正三角形の場合には、三角形の重心から各頂点に延びる直線の長さaと各辺への垂線の長さbとの比が2<a/b≦3となるようにすれば、再成長後の平面形状を正三角形にすることができることが実験により得られた(
図9(b))。このように、再成長前の空孔の形状を再成長材料のAl比率xを成長面に対して適切に変えることで、再成長後の空孔の平面形状を目標とする形状に近づけることができる。
【0032】
以下、本発明に係る2次元フォトニック結晶レーザの製造方法の一実施例を、
図10を用いて説明する。
まず、GaAs基板21上にn型のAl
0.65Ga
0.35As層(n型クラッド層)22、InGaAs/GaAs層(活性層)23、Al
0.4Ga
0.6As層(キャリアブロック層)24、Al
0.1Ga
0.9As層25を順にエピタキシャル成長させる(
図10(a))。次に、Al
0.1Ga
0.9As層25に対して、所定の周期構造の空孔251を、最大幅dがd≦200nm、深さhと最大幅dの比が1.3≦h/d≦5となるようにエッチングにより形成する(
図10(b))。これにより、2次元フォトニック結晶層25Aが得られる。その後、空孔251が形成されたAl
0.1Ga
0.9As層(2次元フォトニック結晶層)25Aの上にp型のAl
0.65Ga
0.35As層(p型クラッド層)26をエピタキシャル成長により形成し、その上にp型のGaAs層(コンタクト層)27を設ける(
図10(c))。そして、基板21の下に下部電極(窓状電極)27を、p型GaAs層26の上に上部電極28を、それぞれ設ける(
図10(d))。これにより、レーザ特性の高い2次元フォトニック結晶レーザを作製することができる。なお、2次元フォトニック結晶層25Aの母材の材料は(Al
βGa
1-β)
γIn
1-γP系(0≦β<1, 0<γ<1)であっても良い。
【0033】
なお、上記方法では、再成長前の空孔251の平面形状については特に指定していなかったが、
図7〜9に示したように、p型Al
0.65Ga
0.35As層26をエピタキシャル成長により形成するときの成長面に基づいて、この平面形状を適切に決定すれば、2次元フォトニック結晶層25の性能をより高めることができ、その結果、高いレーザ特性を得ることができる。
【0034】
また、
図10の(b)と(c)の間において、空孔251の側壁及び底部にAl
xGa
1-xAs系材料のエピタキシャル成長を阻害するSiO
2、Si
3N
4、ZnO、ZrO
2等の成長阻害材料から成る成長阻害膜を形成する工程を有していても良い。この変形例を
図11を用いて説明する。
【0035】
まず、空孔251が形成されたAl
0.1Ga
0.9As層25A(
図11(a))に、SiO
2の膜30を形成する(
図11(b))。そして、SiO
2膜30をドライエッチングにより除去する(
図11(c))。Al
0.1Ga
0.9As層25Aの表面252と空孔251の内部とではエッチングレートが異なるため、ステップS32の処理によって空孔251の内部にのみSiO
2膜30が残る。この空孔251の内部に残ったSiO
2膜30がAl
xGa
1-xAs系材料のエピタキシャル成長を阻害する成長阻害膜として機能するため、ステップS4において結晶が空孔251の内部に形成されることを更に抑制することができる。
【0036】
なお、成長阻害膜を空孔251内に形成する場合、再成長前の空孔251の縦断面形状及び/又は平面(横断面)形状を上記の方法により形成することが望ましいが、成長阻害膜を空孔251内に形成するだけでも、レーザ特性を高める効果が得られる。
【0037】
上記の実施例はあくまで一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜に変形や修正、追加などを行っても構わない。例えば、上記実施例では母材層25としてAl
0.1Ga
0.9As層が一層のみの構造としたが、αの異なる複数のAl
αGa
1-αAs層を積層させた構造であっても良く、さらにそのうちの一部の層がGaAsの層や他の半導体の層に置き換わっていても良い。母材層として(Al
βGa
1-β)
γIn
1-γP系材料を用いた場合も、同様にβとγが異なる複数の層を積層させた構造としたり、そのうちの一部の層をGaAsの層や他の半導体の層に置き換えたりすることができる。