特許第5874972号(P5874972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ いすゞ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5874972-路車間通信システム 図000002
  • 特許5874972-路車間通信システム 図000003
  • 特許5874972-路車間通信システム 図000004
  • 特許5874972-路車間通信システム 図000005
  • 特許5874972-路車間通信システム 図000006
  • 特許5874972-路車間通信システム 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874972
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】路車間通信システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/09 20060101AFI20160218BHJP
   H04B 10/11 20130101ALI20160218BHJP
【FI】
   G08G1/09 F
   H04B9/00 R
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-3428(P2012-3428)
(22)【出願日】2012年1月11日
(65)【公開番号】特開2013-143043(P2013-143043A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2014年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】滝波 茂
【審査官】 白石 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−015970(JP,A)
【文献】 特開2006−260523(JP,A)
【文献】 特開2008−158588(JP,A)
【文献】 特開2008−293280(JP,A)
【文献】 特開2009−118180(JP,A)
【文献】 特開2007−264905(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0119489(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/09
H04B 10/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行路の近傍に設置される交通信号機と、前記車両に搭載される車載器とを備えた路車間通信システムであって、
前記交通信号機は、
LEDを光源とし、所定の交通信号に対応する発光色で発光するLED表示部と、
前記交通信号機が設置されている地域の商用交流電源周期の1/2の点滅周期で前記LED表示部を発光させるLED駆動部と、
前記LED駆動部を制御し、ビット列によって構成されるデータの各ビットを前記LED表示部の点滅周期の2周期分に対応させ、前記データのビット列に従って前記LED表示部の点滅状態を変調するLED駆動制御部と、を備え、
前記車載器は、
前記商用電源周期と略同一の周期で前記車両の進行方向前方の走行路を連続して撮像して画像情報を出力する撮像手段と、
前記撮像手段が出力した連続する画像情報の各々から前記交通信号機の画像を抽出し、前記LED表示部の点滅状態を連続して検出する信号機画像抽出部と、
前記信号機画像抽出部が検出した前記LED表示部の連続する点滅状態を前記ビット列に復調して前記データを取得するデータ取得部と、を備える
ことを特徴とする路車間通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の路車間通信システムであって、
前記LED駆動制御部は、前記LED表示部の点滅周期の2周期分の前半及び後半のうち予め定めた一方の1周期では、前記各ビットに択一的に設定される2つの状態が何れの状態であっても前記LED表示部が点滅し、他方の1周期では、前記各ビットに択一的に設定される2つの状態に応じて前記LED表示部が点滅又は消灯するように、前記各ビットに択一的に設定される2つの状態のうち一方の状態が設定されたビットに対応して、前記LED表示部の点滅周期に従って前記LED表示部を2回点滅させ、前記2つの状態のうち他方の状態が設定されたビットに対応して、前記点滅周期の2周期分のうち前記一方の1周期に前記LED表示部を1回点滅させ前記他方の1周期に前記LED表示部を消灯させ
前記撮像手段は、前記LED表示部の前記他方の1周期の状態を撮像可能なタイミングで撮像する
ことを特徴とする路車間通信システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の路車間通信システムであって、
前記LED駆動部は、発光開始から所定時間が経過したときに前記LED表示部の発光を終了し、
前記データは、前記交通信号機を特定する信号機識別情報と、前記LED表示部の発光色を特定する発光色情報と、前記LED表示部が発光を終了するまでの時間を示す発光残余時間情報とを含む
ことを特徴とする路車間通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通信号機を使った路車間通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2008−15970号公報には、光通信システムが記載されている。この光通信システムでは、LED信号機のIDやLEDランプ切り替えまでの時間等の情報を200bpsのマンチェスタ符号化信号に変換し、この符号化信号と200Hzの符号化同期信号パルスとによって交通信号機を光変調して点滅させる。LED信号機の点滅状態は、LED信号機に向かって走行してくる車両のカメラによって1200fpsのデータ読み取りタイミングで撮影され、撮影されたLED信号機の点滅状態を復号化することによって上記情報が車両側に取得される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−15970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
LEDを光源とする通常のLED信号機(交通信号機)は、交通信号機が設置されている地域の商用交流電源(60Hz又は50Hz)を全波整流し商用交流電源周期の1/2の点滅周期で点滅駆動される場合が多い。しかし、上記特許文献1に記載のシステムでは符号化された上記情報のビットレート(200bps)に同期してLEDを点滅させているため光通信システム専用のLED点滅機能が必要になり、交通信号機側のLED点滅駆動処理が複雑化するおそれがある。また、交通信号機の1回の点滅を複数回撮影して点滅状態を復号化しているので、車両側には、NTSC仕様等の規格化された撮像周期を有するカメラと比較して高速の撮像(1200fps)が可能なカメラが使用されており、撮影した画像の処理にも高速の画像処理機能が要求される可能性がある。このように上記特許文献1に記載の光通信システムにおいては、交通信号機側のLED点滅駆動処理の複雑化等や車両側の画像処理の高速化等によって交通信号機側及び車両側の双方において大幅なコストの上昇を招くおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、交通信号機側及び車両側の双方の処理を簡素化することによってコストの上昇を抑制することが可能な路車間通信システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、本発明の路車間通信システムは、車両の走行路の近傍に設置される交通信号機と、車両に搭載される車載器とを備える。交通信号機は、LED表示部と、LED駆動部と、LED駆動制御部とを備えている。LED表示部は、LEDを光源とし、所定の交通信号に対応する発光色で発光する。LED駆動部は、交通信号機が設置されている地域の商用交流電源周期の1/2の点滅周期でLED表示部を発光させる。LED駆動制御部は、LED駆動部を制御し、ビット列によって構成されるデータの各ビットをLED表示部の点滅周期の2周期分に対応させ、データのビット列に従ってLED表示部の点滅状態を変調する。車載器は、撮像手段と、信号機画像抽出部と、データ取得部とを備える。撮像手段は、商用電源周期と略同一の周期で車両の進行方向前方の走行路を連続して撮像して画像情報を出力する。信号機画像抽出部は、撮像手段が出力した連続する画像情報の各々から交通信号機の画像を抽出し、LED表示部の点滅状態を連続して検出する。データ取得部は、信号機画像抽出部が検出したLED表示部の連続する点滅状態をビット列に復調してデータを取得する。
【0007】
LED駆動制御部は、LED表示部の点滅周期の2周期分の前半及び後半のうち予め定めた一方の1周期では、各ビットに択一的に設定される2つの状態が何れの状態であってもLED表示部が点滅し、他方の1周期では、各ビットに択一的に設定される2つの状態に応じてLED表示部が点滅又は消灯するように、各ビットに択一的に設定される2つの状態のうち一方の状態が設定されたビットに対応して、LED表示部の点滅周期に従ってLED表示部を2回点滅させ、2つの状態のうち他方の状態が設定されたビットに対応して、LED表示部の点滅周期の2周期分のうち上記一方の1周期にLED表示部を1回点滅させ上記他方の1周期にLED表示部を消灯させてもよく、撮像手段は、LED表示部の上記他方の1周期の状態を撮像可能なタイミングで撮像してもよい

【0008】
上記構成では、商用交流電源周期(60Hz又は50Hz)の1/2の点滅周期で点滅しているLED表示部の点滅周期の2周期分をデータのビット列の各ビットに対応させ、ビット列に従って点滅状態を変調する。例えば、ビットが“0”の場合、2周期分とも点滅させ、ビットが“1”の場合、前半の1周期分のみ点滅し後半の1周期分は消灯するように変調する。このように、商用交流電源周期をビット列のデータの各ビットに対応させているので、多くの交通信号機が通常備えている全波整流型のLED駆動部をLED駆動制御部によって制御することにより、LED表示部の点滅状態を容易に変調することができる。従って、LED表示部の点滅駆動処理等が簡素化される。
【0009】
また、車両側では、交通信号機が撮像手段によって撮像される。LED表示部の点滅状態は、商用交流電源周期に対応して変調されているので、交通信号機を商用交流電源周期と略同一の周期で撮像することによってLED表示部の点滅状態は容易に検出される。すなわち、商用交流電源が60Hzの場合は、撮像手段として、例えばNTSC方式のカメラを使用することによって、信号機画像抽出部は、カメラが出力する毎秒略60枚の画像からLED表示部の点滅状態を検出できる。また、商用交流電源が50Hzの場合は、PAL方式のカメラを使用することによって、信号機画像抽出部は、カメラが出力する毎秒50枚の画像からLED表示部の点滅状態を検出できる。データ取得部は、検出されたLED表示部の2周期分の点滅周期のうち後半の1周期が点滅した場合に“0”、消灯していた場合に“1”とするビット列に復調することによってデータを取得する。規格化されたカメラを使用することによって車両に搭載されたドライブレコーダ等にカメラを接続することが容易となり、ドライブレコーダに信号機画像抽出部及びデータ取得部の機能を付加することによって車両側の処理が簡素化される。このように、上記構成によれば、交通信号機と車両との路車間通信において、交通信号機側及び車両側の双方の処理が簡素化されコストの上昇を抑制することが可能となる。
【0010】
また、LED駆動部は、発光開始から所定時間が経過したときにLED表示部の発光を終了し、上記データは、交通信号機を特定する信号機識別情報と、LED表示部の発光色を特定する発光色情報と、LED表示部が発光を終了するまでの時間を示す発光残余時間情報とを含むものであってもよい。
【0011】
上記構成では、車両が交通信号機を特定する信号機識別情報を取得することによって、撮像手段が複数の交通信号機を同時に撮像した場合であっても、車両のナビゲーション装置に予め設定しておいた信号機識別情報との照合等により、路車間通信の対象となる交通信号機をナビゲーション装置上で容易に特定することができる。また、交通信号機のLED表示部の発光色情報と、LED表示部が発光を終了するまでの時間を示す発光残余時間情報とを取得することによって、車両の無駄な加減速やアイドリングの抑制による省エネルギ効果が期待できる。また、ドライバの交通信号の見落としや交差点への無理な進入等に起因した交通事故の防止効果が期待できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、交通信号機と車両との路車間通信システムにおいて、交通信号機側及び車両側の双方の処理が簡素化されコストの上昇を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態における路車間通信システムのシステム構成図である。
図2】交通信号機の要部を示す模式図である。
図3】ビット列データの構成を示す図である。
図4】LEDランプの点滅を利用したビット列データの変復調を示す図である。
図5】通信データ送信処理を示すフローチャートである。
図6】通信データ受信処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。図1に示すように、本実施形態に係わる路車間通信システムは交通信号機1と車両12に搭載された車載器13等とから構成される。交通信号機1は、車両12の走行路近傍に設置され、青、黄、赤等のランプによって所定の交通信号を表示し、走行路を通過する車両の流れを制御する。交通信号機1は、電源部2、LED駆動部3、信号切替部6、LED表示部7、及びECU9等を備えている。
【0015】
LED表示部7は、青色、黄色、赤色等のLED(発光ダイオード)を光源とする複数個のLEDランプ8を有し、信号切替部6によって指定されたLEDランプ8を発光させる。
【0016】
電源部2は、交通信号機1の設置されている地域の商用交流電源(50Hz又は60Hz)の電圧を所定の交流電圧に調整してLED駆動部3に供給する。
【0017】
LED駆動部3は、整流回路部4と点滅制御リレー5とを有する。整流回路部4は電源部2から供給される交流電圧を整流し、信号切替部6を介してLED表示部7のLEDランプ8に電圧を供給する。整流回路部4の出力電圧値が所定電圧V1よりも低い期間においてはLEDランプ8が発光せず、整流回路部4の出力電圧値が所定電圧V1以上の期間においてはLEDランプ8が発光がするので、LEDランプ8は商用交流電源周期の1/2の点滅周期(100Hz又は120Hz)で点滅(点灯及び消灯)を繰返す。図2に示すように点滅制御リレー5は、整流回路部4の回路内に配置される。点滅制御リレー5の接点が閉じたオンの場合は、整流回路部4は商用交流電源周期の1周期のなかで、整流回路部4に交流電源の正の電圧が供給されるプラス側の1/2周期及び整流回路部4に負の電圧が供給されるマイナス側の1/2周期ともに整流した電圧を出力する全波整流回路として機能するので、LEDランプ8は商用交流電源周期の1/2の点滅周期で点滅する。点滅制御リレー5の接点が開いたオフの場合は、整流回路部4は商用交流電源周期のプラス側の1/2周期のみ整流した電圧を出力し、マイナス側の1/2周期には整流した電圧を出力しない半波整流回路として機能するので、LEDランプ8は、商用交流電源周期のプラス側の1/2周期に1回点滅し、マイナス側の1/2周期は消灯する。
【0018】
信号切替部6は、交通信号機ごとに予め設定されているLEDランプ8の発光順序及びLEDランプ8の発光継続時間に従って、点灯させるべきLEDランプ8を切替える。なお、LEDランプ8の発光順序及び発光継続時間は、交通管制センタ等によって遠隔設定されてもよい。信号切替部6は、ECU9に対して現在発光させているLEDランプ8の発光色を示す発光色データ(発光色情報)と現在発光中のLEDランプ8の発光が終了するまでの残り時間を示す発光残余時間データ(発光残余時間情報)とをECU9へ出力する。
【0019】
ECU9は、CPU(Central Processing Unit)とROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)とを備える。CPUはROMに格納された通信データ送信処理プログラムを読み出して通信データ送信処理を実行することによって、通信データ作成部10及びLED点滅制御部11として機能する。RAMは後述の変換テーブル等の記憶領域として機能する。
【0020】
通信データ作成部10(LED駆動制御部)は、予め与えられる交通信号機1に固有の信号機ID番号を示すID番号データ(信号機識別情報)と、信号切替部6が出力する現在発光中のLEDランプ8の発光色データと、現在発光中のLEDランプ8の発光終了までの発光残余時間データとから構成される通信データ(データ)を作成し、通信データを、交通信号機1側から車両12側に送信するための送信データに変換する。送信データは、図3に示すようにビット列データによって形成され、ビット列データは各ビットが“0”又は“1”に対応する21ビットのデータ部Aと4ビットの区切コード部Bとから構成される合計25ビットのデータ長を有する。区切コード部Bは連続して送信される送信データから1回分の送信データを識別するために設けられ、本実施形態では4ビット連続する“0”コードで構成される。また、データ部Aには、3ビットごとに“1”のビットが強制的に割り付けられ、データ部Aと区切コード部Bとの境界にあるデータ部Aの最終ビットは “1”に設定されるので、車載器13側で送信データを受信する際に4ビット連続する“0”で構成される区切コード部Bを識別することができる。図3は無信号状態のビット列データを示す。データ部Aの3ビットごとに“1”のビットを割り付けるため、データ部Aのビットの組み合わせにはいくつかの無効な組み合わせが発生し、ビット列データで表される数値の有効数が減少する。例えば、ビット列データの長さが9ビットの場合、本来であれば0〜511の数値で表される512個の有効数を有するが、本実施形態では、0、1、9、73等が無効となるため、これらの数値を除く216個が有効数として使用される。ビット列データには、図3の左から右に向かって各ビットに1から25までのビット番号が付される。ビット番号1〜9にID番号データ、ビット番号10〜12に発光色データ、ビット番号13〜21に発光残余時間データ(秒)の各通信データが割り付けられ、ビット番号22〜25に区切コード部Bが付加される。ID番号データは、1基の交通信号機に対して1個のID番号を割り当てるので、4差路交差点でも通常4個のID番号が必要となるが、ID番号の割り当ての範囲は後述のビデオカメラが認識可能な距離を基準とした一定のエリア内で重複しなければよく、全国全ての交通信号機に固有のID番号を割り当てる必要はないので、216個の有効数で足りる。発光色データは、赤色、黄色、青色、右矢印、直進矢印及びその他の信号状況の6つの状態をコード化して割り当てる。ビット列データには上記のように無効な数値が存在するので、通信データとビット列データとの対応を示す変換テーブルを予め設定しておき、通信データ作成部10は、変換テーブルを参照して各通信データをビット列データに変換する。
【0021】
LED点滅制御部11(LED駆動制御部)は、LED駆動部3に設けられた点滅制御リレー5を制御し、通信データ作成部10が作成したビット列データに対応してLED表示部7のLEDランプ8の点滅を変調する。すなわち、ビット列データのビットが“0”のときは商用交流電源電圧のプラス側から始まる1周期分の期間にわたって点滅制御リレー5の接点をオンにする。この結果、LED駆動部3の整流回路部4は全波整流モードになり、LEDランプ8は商用交流電源周期の1周期分の期間に2回点滅する。ビットが“1”のときは商用交流電源電圧のプラス側から始まる1周期分の期間にわたって点滅制御リレー5の接点をオフにする。この結果、LED駆動部3の整流回路部4は半波整流モードになり、LEDランプ8は商用交流電源電圧がプラス側の前半の1/2周期の期間に1回点滅し、商用交流電源電圧がマイナス側の後半の1/2周期の期間は消灯する。図4(a),(b),(c)に、商用交流電源周期と、ビット列データに対応して変調されるLEDランプ8の点滅状態との関係を示す。
【0022】
次に、ECU9が実行する通信データ送信処理について、図5のフローチャートに基づいて説明する。本処理は、電源部2の商用交流電源周期(50Hz又は60Hz)に同期して毎秒50回又は60回の割合で繰返して実行される。ECU9は先ず、ビットカウンタCが25よりも大きいか否かを判定する(ステップS1)。ビットカウンタCが25以下の場合には、ステップS5に進み、LEDランプ8の点滅を変調する。ビットカウンタCが25よりも大きい場合は1回の通信データの送信が終了しているので、ビットカウンタCを初期設定値の1に設定する(ステップS2)。次に、ECU9は、ステップS3に進み、車両12側に送信するためのID番号データ、発光色データ及び発光残余時間データの各通信データを取得する。続いて、取得した通信データをビット列データに変換し区切コード部Bを付加して25ビットの送信データを作成する(ステップS4)。
【0023】
次に、ステップS5に進み、ビット列データの中で、ビットカウンタCのカウント値と同一のビット番号のビットに対応させてLEDランプ8の点滅を制御し、点滅状態を変調する。すなわち、ビットカウンタCのカウント値と同一のビット番号のビットが“0”の場合は点滅制御リレー5をオンにして整流回路部4を全波整流モードにする。ビットが“1”の場合は点滅制御リレー5をオフにして整流回路部4を半波整流モードにする。次に、ビットカウンタCのカウント値に1を加算して(ステップS6)本処理を終了する。このように、ビット列データのビット番号の小さい順にLEDランプ8の点滅が変調され、最後に区切コード部Bによる変調が実行されて1回の送信が終了する。本実施形態では、1回の送信データの送信に商用交流電源周期の25周期分を対応させているので、商用電源周波数が50Hzの場合は、1秒間に2回の送信が実行される。
【0024】
車両12側は、車載器13及び表示器18等を備えている。車載器13は、ビデオカメラ14(撮像手段)とECU15とを有する。
【0025】
ビデオカメラ14は、車両12の前部に配置されて車両12の進行方向前方の走行路を撮像し、連続した画像情報をECU15へ出力する。ビデオカメラ14は、規格化された撮像方式であるNTSC方式とPAL方式とが切替え可能である。NTSC方式のときは毎秒60枚のインターレース画像を撮像し、PAL方式のときは毎秒50枚のインターレース画像を撮像してECU15に出力する。ビデオカメラ14は、エンジンの始動と共に撮像を開始し、エンジンの停止またはバックアップ電源(バッテリー)からの電力供給の停止と共に撮像を終了する。また、交差点等におけるエンジンのアイドリングストップ時は撮像を継続する。
【0026】
ECU15は、CPU(Central Processing Unit)とROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)とを備える。CPUはROMに格納された通信データ受信処理プログラムを読み出して通信データ受信処理を実行することによって、信号機画像抽出部16及び通信データ取得部17として機能する。RAMは、ECU15がビデオカメラ14から取得した画像、後述のビット列データ及び変換テーブル等の記憶領域として機能する。
【0027】
信号機画像抽出部16は、ビデオカメラ14が撮像した連続する車両前方の画像情報から交通信号機1の画像を抽出し、撮像されている交通信号機1のLEDランプ8の点滅を連続して検出する。交通信号機1は、予め設定された交通信号機1の画像サンプルとのパターンマッチング等によって撮像された画像から抽出される。LEDランプ8の点滅状態は、点滅周期の2周期分の区間のうち後半の1周期の区間での点灯あるいは消灯を検出することによって識別できるので、ビデオカメラ14の撮像周期は交通信号機1の電源部2の交流電源周期と略同期させる。すなわち、電源部2が50Hzの場合はPAL方式で毎秒50枚の連続する画像を取得し、電源部2が60Hzの場合はNTSC方式に切替えて毎秒略60枚の連続する画像を取得する。
【0028】
通信データ取得部17(データ取得部)は、信号機画像抽出部16が検出したLEDランプ8の点滅の状態をビット列データに復調し、ビット列データから通信データへの変換を行う。すなわち、検出されたLEDランプ8の画像が、点灯状態の時は“0”、消灯状態の時は“1”とするビット列に復調し、ビット番号を付してビット列データを作成する(図4(c)〜(f)参照)。復調されたビット列データの中から4ビット継続する“0”で構成される区切コード部Bを検出し、データ部Aのビット番号1〜9のビット列データをID番号データ、ビット番号10〜12のビット列データを発光色データ、ビット番号13〜21のビット列データを発光残余時間データとして、通信データに変換する。変換の際は、ビット列データと通信データとの対応を示す変換テーブルを参照する。通信データ取得部17は、ECU15からの表示指令により取得した通信データを表示器18に出力する。
【0029】
表示器18は、車室内の例えばインストルメントパネル(図示省略)に設けられ、ECU15からの表示指令を受信したとき、通信データ取得部17が出力する交通信号機1のID番号、発光色及び発光残余時間を表示して運転者の運転を支援する。
【0030】
次に、ECU15が実行する通信データ受信処理について、図6のフローチャートに基づいて説明する。本処理は、ビデオカメラ14の撮像のタイミングに同期して繰り返し実行される。ビデオカメラ14には、撮像のフレームレート、絞り値、シャッタースピードが予め所定の値に設定されている。なお、ビデオカメラ14のフレームレートにはNTSC方式が初期設定されており、毎秒略60枚のインターレース画像を撮像する。従って、本処理は毎秒略60回の周期で繰り返し実行されるが、ビデオカメラ14の撮像方式がPAL方式に切替えられた場合には、ビデオカメラ14の撮像のタイミングに同期して毎秒50回の周期で繰り返し実行される。ECU15は、まずビデオカメラ14が撮像した車両前方の画像を取得する(ステップS10)。次に、今回取得した画像の中から交通信号機1の画像の抽出処理を行う(ステップS11)。交通信号機1の画像が抽出されたか否かを判断し、抽出されなかった場合は処理を終了する(ステップS12)。交通信号機1の画像が抽出された場合は、抽出された信号機が複数個であるか否かを判定し(ステップS13)、複数個が抽出された場合は、車両12に最も近接する交通信号機を選択する(ステップS14)。抽出された交通信号機の選択は、例えば撮像された複数の交通信号機の大きさを比較し、最も大きな交通信号機を最も近接する交通信号機と判断して選択する。次に、抽出された交通信号機1のLEDランプ8の点滅状態をビット列データに復調する。すなわち、今回の撮像画面から抽出された交通信号機1のLEDランプ8が点灯状態にある場合には、ビット列データの今回の値を“0”とし、消灯状態にある場合には、ビット列データの今回の値を“1”としてビット番号を付し、ビット列データとして記憶領域に記憶する(ステップS15)。次に、LEDランプ8の点滅の有無を検出する(ステップS16)。LEDランプ8の点滅状態は、変調されるビット列データによって変化するので、記憶領域に記憶された今回復調されたビット番号よりもビット番号の小さいビット列データを参照して点滅の有無を判断する。今回復調されたビットが“0”のとき(LEDランプ8が点灯状態)では、今回復調されたビットを含め区切コード部Bの4ビットを超えて5ビット以上連続して“0”である場合、または、今回復調されたビットが1のとき(LEDランプ8が消灯状態)では、データ部Aの21ビットを超えて22ビット以上連続して1である場合は、LEDランプ8の点滅が検出されないと判断する(ステップS16の判定がNO)。ビデオカメラ14による交通信号機1の撮像のタイミングは、図4(d)に示すように、点滅周期の2周期分の区間の後半の1周期の期間中央付近が望ましいが、LEDランプ8の点滅が正しく検出できない場合は、撮像のタイミングが、区間中央付近からずれている可能性があるのでビデオカメラ14の撮像のタイミングを調整し、必要に応じて絞り値やシャッタースピードを調整する(ステップS22)。点滅状態が検出された場合(ステップS16の判定がYES)は、ビット列データから区切コード部Bを検出する。すなわち、ビット列データが4ビット連続して“0”であるか否かを判定し(ステップS17)、4ビット連続して“0”でない場合は(ステップS17の判定がNO)、ステップ20へ進み、送信データ1回分のビット列データをすでに検出しているか否かを判定する。ステップS20の判定がYESの場合は、送信データ1回分のビット列データに区切コード部Bが検出されておらず、LEDランプ8の点滅の周期とビデオカメラ14の撮像の周期の不一致が考えられる。この場合は、ビデオカメラ14の撮像方式をNTSC方式からPAL方式へ、あるいはPAL方式からNTSC方式へ切替える(ステップS21)。ステップS20の判定がNOの場合は処理を終了する。今回で4ビット連続して“0”となり区切コード部Bが検出された場合は、変換テーブルを参照してデータ部Aの21ビットのビット列を、ID番号データ、発光色データ、発光残余時間データの各通信データに変換する(ステップS18)。次に、変換された各通信データを表示器18に表示する(ステップS19)。
【0031】
本実施形態では、商用交流電源周期の1/2の点滅周期でLEDランプ8を点滅させ、点滅周期の2周期分を送信データのビット列の各ビットに対応させて点滅状態を変調する。すなわち、ビットが“0”の場合、2周期分とも点滅させ、ビットが“1”の場合、前半の1周期分のみ点滅し後半の1周期分は消灯するように変調する。このため、多くの交通信号機が通常備えている全波整流型のLED駆動部3に点滅制御リレー5を設けてLED点滅制御部11によって制御することにより、LEDランプ8の点滅状態を容易に変調することができる。従って、交通信号機1側では、LEDランプ8を点滅駆動するための装置や処理が簡素化される。
【0032】
車両12側では、ビデオカメラ14を使ってLEDランプ8の点滅状態を検出する。交通信号機1のLEDランプ8の点滅状態は、商用交流電源周期に対応して変調されているので、商用交流電源周期と略同一の周期で撮像することによってLEDランプ8の点滅状態は容易に検出される。すなわち、商用交流電源が50Hzの場合はPAL方式、60Hzの場合はNTSC方式のそれぞれ規格化されたビデオカメラが使用できる。本実施形態では、PAL方式及びNTSC方式相互の切替えが可能なビデオカメラ14を使用することによって、50Hz又は60Hzのいずれの商用交流電源にも対応できる。検出されたLEDランプ8の点滅状態は、通信データ取得部17によってビット列データに復調され通信データに変換される。規格化された撮像方式のビデオカメラ14を使うことによって、通信データを取得するための画像処理等が簡素化される。
【0033】
このように、本実施形態によれば交通信号機1と車両12との路車間通信において、交通信号機1側及び車両12側の双方の装置や処理が簡素化されコストの上昇を抑制することが可能となる。
【0034】
また、車両12が取得した交通信号機1を特定するID番号データを、車両12のナビゲーション装置に予め設定しておいたID番号と照合することより、交通信号機がビデオカメラ14の撮像範囲に複数基設置されている環境であっても、路車間通信をしている交通信号機1をナビゲーション装置上で容易に特定することができる。また、交通信号機1の発光色データと、発光残余時間データとを取得することによって、車両12の無駄な加減速やアイドリングの抑制等による省エネルギ効果が期待できる。また、ドライバの交通信号の見落としや交差点への無理な進入等に起因した交通事故の防止効果が期待できる。
【0035】
なお、本実施形態では、ビット列データのビットが“0”のときは商用交流電源周期の1周期分の期間を点滅制御リレー5の接点をオンにし、ビットが“1”の場合は、点滅制御リレー5の接点をオフにしたが、ビット列データのビットが“0”のときは商用交流電源周期の1周期分の期間を点滅制御リレー5の接点をオフにし、ビットが“1”の場合は、点滅制御リレー5の接点をオンにしてもよい。この場合は、ビット列データのビットが“0”のとき、LEDランプ8は商用交流電源周期の前半の1/2周期の期間に1回点滅し、後半の1/2周期分の期間は消灯し、ビット列データのビットが“1”のとき、LEDランプ8は商用交流電源周期の1周期の期間に2回点滅する。また、LEDランプ8を商用交流電源周期の1周期分の期間に1回点滅させる場合、前半の1/2周期の期間は消灯させ、後半の1/2周期分の期間に点灯させてもよい。この場合は、ビデオカメラ14の撮像のタイミングは商用交流電源周期の前半の1/2周期の期間中央付近にすることが望ましい。
【0036】
また、1回の通信データのビット列データは本実施形態の25ビットに限定されず、必要に応じて25ビットよりも拡張又は短縮してもよい。また、通信データの区切コード部B及びデータ部Aのビット列の形式は、本実施形態(区切コード部Bは4ビット連続“0”であり、データ部Aは3ビットごと“1”を立てる)に限定されず、通信データのデータ部が区切コード部によって識別できるものであればよい。例えばデータ部との識別が可能な特殊なビットパターン等であってもよく、また区切コード部をデータ部の開始部分及び終了部分等の複数箇所に設けてもよい。
【0037】
また、ECU15は、本実施形態の路車間通信システムによって車両12側に取得された交通信号機1のID番号、LEDランプ8の発光色、発光残余時間を車両12の表示器18に表示したが、これらの情報を必要とする例えば車両の運転支援装置等に出力してもよい。また、交通信号機1から送信されるデータは、交通信号機1のID番号、LEDランプ8の発光色、発光残余時間に限定されない。
【0038】
また、ECU15の機能は、車両12に搭載される車両運行管理用のドライブレコーダ等の車載装置に付加されてもよい。撮像方式が規格化されているのでビデオカメラ14はドライブレコーダ等に容易に接続が可能であり、車両12側の装置や処理がより簡素化される。また、交通信号機のID番号、発光色及び発光残余時間を容易に記録することができる。
【0039】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、LEDを光源とする交通信号機と車両との路車間通信システムとして広く適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 交通信号機
2 電源部
3 LED駆動部
4 整流回路部
5 点滅制御リレー
6 信号切替部
7 LED表示部
8 LEDランプ
9 ECU
10 通信データ作成部(LED駆動制御部)
11 LED点滅制御部(LED駆動制御部)
12 車両
13 車載器
14 ビデオカメラ(撮像手段)
15 ECU
16 信号機画像抽出部
17 通信データ取得部(データ取得部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6