特許第5874981号(P5874981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許58749812次元薄膜原子構造の層数決定方法および2次元薄膜原子構造の層数決定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5874981
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】2次元薄膜原子構造の層数決定方法および2次元薄膜原子構造の層数決定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/225 20060101AFI20160218BHJP
   G01N 23/203 20060101ALI20160218BHJP
   C01B 31/02 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   G01N23/225 310
   G01N23/203
   C01B31/02 101Z
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-521560(P2012-521560)
(86)(22)【出願日】2011年6月22日
(86)【国際出願番号】JP2011064861
(87)【国際公開番号】WO2011162411
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2014年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2010-145314(P2010-145314)
(32)【優先日】2010年6月25日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、企業研究者活用型基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100082924
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】日浦 英文
(72)【発明者】
【氏名】塚越 一仁
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 久生
【審査官】 小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−009807(JP,A)
【文献】 特開平05−093618(JP,A)
【文献】 特開2002−131036(JP,A)
【文献】 特表2003−504609(JP,A)
【文献】 特開2010−043987(JP,A)
【文献】 H.Hibino、外5名,Dependence of electronic properties of epitaxial few-layer graphene on the number of layers investigated by photoelectron emission microscopy,Physical Review B,The American Physical Society,2009年 3月,VOL.79,No.12,,p.125437-1〜125437-7
【文献】 日比野 浩樹、外2名,単結晶グラフェン基板の創製に向けたSiC 上エピタキシャル少数層グラフェンの層数解析,Journal of the Vacuum Society of Japan,2010年 2月,Vol.53,No.2,p.101-108
【文献】 Z.H.Ni、外7名,Graphene Thickness Determination Using Reflection and Contrast Spectroscopy,Nano Letters,American Chemical Society,2007年 7月26日,Vol.7,No.9,p.2758-2763
【文献】 P.E.Gaskell、外3名,Counting graphene layers on glass via optical refrection microscopy,American Institute of Physics,Applied Physics Letters,2009年 4月 6日,Vol.94,No.14,p.143101-1〜143101-3
【文献】 P.Blake、外7名,Making graphene visible,Applied Physics Letters,American Institute of Physics,2007年 8月10日,Vol.91,No.6,p.063124-1〜063124-3
【文献】 Hidefumi Hiura、外2名,Determination of the Number of Graphene Layers: Discrete Distributionof the Secondary Electron Intensity Stemming from Individual Graphene Layers,Applied Physics Express,社団法人 応用物理学会,2010年 9月25日,Vol.3,No.9,p.095101-1〜095101-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 − G01N 23/227
G01B 11/00 − G01B 11/30
G01B 15/00 − G01B 15/08
C01B 31/00 − C01B 31/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層数未知の2次元原子層薄膜とそれを支持する基板に電子線を照射して、発生した反射電子または2次電子の電子像を取得する(a)と、
前記基板の電子像に対する前記2次元原子層薄膜の電子像の相対強度比を求める、(b)と、
前記相対強度比に基づいて2次元原子層薄膜の層数を決定する(c)と、を有する2次元薄膜原子構造の層数決定方法。
【請求項2】
前記(c)は、前記相対強度比と前記層数の関係を示す検量線を用い、前記検量線上における、前記(b)で求めた前記相対強度比に対応する層数を、層数未知の前記2次元原子層薄膜の層数とする請求項記載の2次元薄膜原子構造の層数決定方法。
【請求項3】
層数が異なる複数の2次元原子層薄膜とそれを支持する基板に電子線を照射して、発生した反射電子または2次電子の電子像を取得する(d)と、
前記基板の電子像に対する前記複数の2次元原子層薄膜の電子像の相対強度比をそれぞれ求める、(e)と、
前記複数の2次元原子層薄膜の電子像の相対強度比と層数との関係をプロットして検量線を作成する(f)と、
をさらに有し、
前記(c)は、前記(f)で作成した検量線を用いて層数未知の前記2次元原子層薄膜の層数を決定する請求項またはのいずれか一項に記載の2次元薄膜原子構造の層数決定方法。
【請求項4】
前記(f)は、前記複数の2次元原子層薄膜の電子像の相対強度比を1から順に自然数で除して共通の値を抽出することにより1層ごとの相対強度比の変化量Δを求め、前記Δの整数倍に対応する相対強度比を各層の相対強度比として検量線を作成する請求項記載の2次元薄膜原子構造の層数決定方法。
【請求項5】
層数が異なる複数の2次元原子層薄膜の層数を反射光強度に基づく光学的方法で予め決定する(g)を有し、
前記(f)は、前記(g)で決定した層数と、前記(e)で測定した相対強度比から検量線を作成する請求項記載の2次元薄膜原子構造の層数決定方法。
【請求項6】
前記基板は、シリコン基板、サファイヤ基板、マイカ基板のいずれかである請求項のいずれか一項に記載の2次元薄膜原子構造の層数決定方法。
【請求項7】
前記2次元薄膜原子構造はグラフェンである請求項のいずれか一項に記載の2次元薄膜原子構造の層数決定方法。
【請求項8】
層数未知の2次元原子層薄膜とそれを支持する基板に電子線を照射して、発生した反射電子または2次電子の電子像を取得する電子像取得部と、
前記基板の電子像に対する前記2次元原子層薄膜の電子像の相対強度比を求める、強度比解析部と、
前記相対強度比に基づいて2次元原子層薄膜の層数を決定する層数決定部と、を有する2次元薄膜原子構造の層数決定装置。
【請求項9】
前記層数決定部は、前記相対強度比と前記層数の関係を示す検量線を用い、前記検量線上における、前記強度比解析部で求めた前記相対強度比に対応する層数を、層数未知の前記2次元原子層薄膜の層数とする請求項記載の2次元薄膜原子構造の層数決定装置。
【請求項10】
層数が異なる複数の2次元原子層薄膜とそれを支持する基板に電子線を照射して、発生した反射電子または2次電子の電子像を取得する標準電子像取得部と、
前記基板の電子像に対する前記複数の2次元原子層薄膜の電子像の相対強度比をそれぞれ求める、標準強度比解析部と、
前記複数の2次元原子層薄膜の電子像の相対強度比と層数との関係をプロットして検量線を作成する検量線作成部と、
をさらに有し、
前記層数決定部は、前記検量線作成部で作成した検量線を用いて層数未知の前記2次元原子層薄膜の層数を決定する請求項またはのいずれか一項に記載の2次元薄膜原子構造の層数決定装置。
【請求項11】
前記検量線作成部は、前記複数の2次元原子層薄膜の電子像の相対強度比を1から順に自然数で除して共通の値を抽出することにより1層ごとの相対強度比の変化量Δを求め、前記Δの整数倍に対応する相対強度比を各層の相対強度比として検量線を作成する請求項10記載の2次元薄膜原子構造の層数決定装置。
【請求項12】
層数が異なる複数の2次元原子層薄膜の層数を反射光強度に基づく光学的方法で予め決定する標準層数決定部を有し、
前記検量線作成部は、前記標準層数決定部で決定した層数と、前記標準強度比解析部で測定した相対強度比から検量線を作成する請求項10記載の2次元薄膜原子構造の層数決定装置。
【請求項13】
前記基板は、シリコン基板、サファイヤ基板、マイカ基板のいずれかであることを請求項12のいずれか一項に記載の2次元薄膜原子構造の層数決定装置。
【請求項14】
前記2次元薄膜原子構造はグラフェンである請求項13のいずれか一項に記載の2次元薄膜原子構造の層数決定装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、2次元原子層薄膜の層数を決定する方法および装置に関し、特に、例外的な電子物性や光学特性、優れた機械的特性や化学的特性に由来する、次世代のエレクトロニクス、オプトエレクトロニクス、スピントロニクスに応用できる2次元原子層薄膜の層数を決定する方法に関する。
近年、半導体産業においてシリコンの材料的・物理的限界が指摘されており、シリコンに替わる新規半導体材料や新概念に基づく素子構造が求められている。
究極の薄さである2次元原子層薄膜、特にグラフェンはこの要請に応える大きな潜在性を秘める新規半導体材料であり、それらの優れた物性を活用することで、既存素子の性能を凌駕する新素子が実現できる可能性がある。
2次元原子層薄膜は2次元平面に原子が安定に配列した結晶ならびにそれがナノメートルオーダーの厚さで積層した結晶を指す。
代表的な2次元原子層薄膜としてはグラフェンがまず挙げられる。グラフェンはsp混成の炭素のみで構成される層状物質であるグラファイトを1層だけ取り出したものであり、非常に安定な単原子層平面物質である。
グラフェンの構造は、炭素原子を頂点とする正6角形の六炭素環を隙間なく敷き詰めた蜂の巣(ハニカム、honeycomb)状の擬2次元シートで、炭素−炭素間距離は約1.42オングストローム(1.42×10−10m)、層の厚さは、下地がグラファイトならば、3.3〜3.4オングストローム(3.3〜3.4×10−10m)、その他の基板上では10オングストローム(10×10−10m)程度である。
グラフェン平面の大きさは、一片の長さがナノメートルオーダーの分子サイズから理論上は無限大まで、様々なサイズを想定することが出来る。通常、グラフェンはグラファイト1層を指すが、層数が2層以上のものを含む場合も多い。その場合、1層、2層、3層のものは、それぞれ、単層(モノレイヤー、monolayer)グラフェン、2層(バイレイヤー、bilayer)グラフェン、3層(トリレイヤー、trilayer)グラフェンと呼ばれ、10層程度までのものをまとめて数層(フューレイヤー、few−layer)グラフェンと呼ぶ。また、単層グラフェン以外は多層グラフェンと言い表す。
Ando,”The electronic properties of graphene and carbon nanotubus”NPG asiamaterials 1(1),2009,p17−21(非特許文献1)に記載されているように、グラフェンの電子状態は低エネルギー領域においてディラック方程式で記述できる。この点、グラフェン以外の物質の電子状態がシュレディンガー方程式で良く記述されるのと好対照である。
グラフェンの電子エネルギーはK点近傍で波数に対して線形の分散関係を持ち、より詳しくは、伝導帯と荷電子帯に対応する正と負の傾きを持つ2つの直線で表現できる。それらが交差する点はディラックポイントと呼ばれ、そこでグラフェンの電子は有効質量ゼロのフェルミオンとして振舞うという特異な電子物性を持つ。これに由来して、グラフェンの移動度は10cm−1−1以上という既存物質中で最高の値を示し、しかも温度依存性が小さいという特長を持つ。
単層グラフェンは基本的にバンドギャップがゼロの金属もしくは半金属である。しかしながら、大きさがナノメートルオーダーになるとバンドギャップが開き、グラフェンの幅と端構造に依存して、有限のバンドギャップを持つ半導体となる。また、2層グラフェンは摂動なしではバンドギャップがゼロであるが、2枚のグラフェン間の鏡面対称性を崩すような摂動、例えば、電界を加えると、電界の大きさに応じて有限のギャップを持つようになる。
例えば、3Vnm−1の電界でギャップは0.25eV程度開く。3層グラフェンの場合は伝導帯と荷電子帯が30meV程度の幅で重ね合わさる半金属的な電子物性を呈する。伝導帯と荷電子帯が重なるという点はバルクのグラファイトに近い。4層以上のグラフェンも半金属的物性を呈し、層数が増えるに従って、バルクのグラファイトの電子物性に漸近して行く。
また、グラフェンは機械的特性にも優れ、グラフェン1層のヤング率は2TPa(テラパスカル)と跳びぬけて大きい。引っ張り強度は既存物質中最高レベルである。
その他、グラフェンは独特の光学特性を持つ。例えば、紫外光領域(波長:〜200nm)からテラヘルツ光近傍領域(波長:〜300μm)までの幅広い電磁波領域において、グラフェンの透過率は、1−nα(n:グラフェンの層数、n=1〜10程度、α:微細構造定数、α=e/2hcε=0.0229253012、e:電気素量、h:プランク定数、ε:真空の誘電率)と、グラフェンの物質定数ではなく、基本物理定数のみで表される。これは他の物質材料では見られない、グラフェン特有の特徴である。
さらに、グラフェンの透過率と反射率はテラヘルツ光領域でキャリア密度依存性を示す。これは電界効果に基づいてグラフェンの光学特性を制御できることを意味する。他の2次元原子層薄膜も次元性に基づく特異な物性を持つことが知られている。
上述の如く、グラフェンの例外的な電子物性や光学特性、優れた機械的特性や化学的特性を持つことから、化学からエレクトロニクスまで幅広い産業分野での利用が期待される。特に、次世代エレクトロニクス、スピントロニクス、オプトエレクトロニクス、マイクロ・ナノメカニクス、バイオエレクトロニクス分野の半導体装置や微小機械装置への展開が世界各国で進められている。他の2次元原子層薄膜に関してもグラフェン同様、産業利用を目的とした研究開発が活発に行われている。
2次元原子層薄膜の産業上の利用において、その層数決定法は非常に重要である。なぜならば、グラフェンは層数に依存して電子物性や光学特性が顕著に変化するので、所望の機能を発揮させるためには、予めグラフェンの層数を決定してデバイスを作製しなければならないからである。
現在、グラフェンの層数を決定する方法としては以下の3種類が知られている。すなわち、P.Blake et al.,“Making graphene visible”,Applied Physics Letters,vol91,2007,063124−1−3.(非特許文献2)に記載された光学顕微鏡を用いた方法、H.Hiura,T.W.Ebbesen,J.Fujita,K.Tanigaki and T.Takada,“Role of sp defect structures in graphite and carbon nanotubes”,Letters to nature,January 1994,vol 367,p148−151.(非特許文献3)やThomas W.Ebbesen and Hidefumi Hiura,“Graphene in 3−Dimensions:Towards Graphite Origami”,Advanced Materials,vol7,No6,1995,p582−586.(非特許文献4)に記載された原子間力顕微鏡(AFM)や走査トンネル顕微鏡(STM)のような表面プローブ顕微鏡を用いた方法、および、A.C.Ferrai et al,“Ramman Spectrum of Graphene and Graphene layers”,Physical Review Letters,vol97,2006,p187401−1−4(非特許文献5)に記載されたラマン分光を用いた方法がある。
光学顕微鏡を用いたグラフェン層数決定法では、酸化シリコン(SiO)で覆われたシリコン(Si)基板上にあるグラフェンにおいて、SiO/Si界面とSiO表面からの光学的反射光の干渉効果がグラフェンの層数に応じてずれることにより、SiO表面とグラフェンのコントラストが肉眼で確認できるほどの変化(約15%以上)が生じることを原理としている。ここで、SiO膜の厚さは、入射光とSi界面からの反射光の干渉効果がある90nmもしく300nmに限られる。この方法の手順は、次の通りで、まず、適当な方法でグラフェンをSiO/Si基板に貼り付け、次いで、グラフェンの光学顕微鏡像を取得し、最後にSiO表面とグラフェンの光学顕微鏡像のコントラスト比を比較する。例えば、SiO表面の階調を規格化して100%とすると、酸化膜厚が90nmの場合、グラフェン部分の規格化された階調は層数が1層増える毎に約6.45%ずつ減少する。酸化膜厚が300nmの場合はこの減少分が若干増加する。例えば、単層グラフェンは約93.55%、2層グラフェンは約87.10%、3層グラフェンは約80.65%、4層グラフェンは約74.20%、5層グラフェンは約67.75%、6層グラフェンは約61.30%となる。このようにして、凡そ6層まで光学的に層数を決定できる。
表面プローブ顕微鏡を用いた方法では、AFMの高い空間分解能により、適当な基板上に貼り付けられたグラフェンの高さ方向の絶対距離を計測する。nを層数とすれば、AFMで計測されるグラフェンの厚さ:tはt=t+0.34×(n−1)[nm]と表される。tは単層グラファイトの厚さに対応するが、基板の種類毎に異なる定数で、例えば、基板がSiOならば、t≒1[nm]である。STMによる層数決定法もAFMによるそれとほぼ同様である。但し、STMの場合、グラフェンを載せる基板は導電性のものに限られる。
ラマン分光による層数決定では、グラフェンのGバンドと2Dバンド(G‘バンドとも呼ばれる)の相対強度比、2Dバンドの波数(エネルギー)、2Dバンドの形状などを基にグラフェン層数を決める。
【発明の開示】
【0002】
しかしながら、上記したグラフェン層数の決定方法には以下のような問題点があった。
まず、光学顕微鏡を用いたグラフェンの層数決定方法では、以下のような問題があった。
(1)使用可能な基板の制約:
光学顕微鏡を用いたグラフェンの層数決定方法の場合、使用可能な基板は酸化膜付きのSi基板の1種類のみであり、さらに、その酸化膜は膜厚が90nmか300nmのいずれかに限られる。この原因は層数決定のために光学的干渉効果を利用していることに起因する。即ち、光学的干渉効果を肉眼で確認するにはコントラスト比が概ね15%以上必要であるからである。特定のSi基板しか使用できないことはグラフェン応用に大いに足枷となる。例えば、グラフェンデバイス作製の基板を選択できないことはグラフェンデバイスの応用範囲を大幅に狭める。
(2)層数を決定可能なグラフェンの大きさの制約:
光学顕微鏡を用いたグラフェンの層数決定方法の場合、約500nm以下の大きさのグラフェンの層数を決定できない。これはグラフェンの計測に可視光を使用するため、回折限界のために可視光の波長程度(約500nm)以下の大きさのものを識別できないためである。このことはサブマイクロン以下に微細加工されたグラフェンやグラフェンデバイスの層数を決めることが不可能であることを意味する。前述の通り、グラフェンは層数により電子物性が全く変わるので、微細加工されたグラフェンの層数を知ることができないことは、グラフェンのデバイス応用を著しく制限することになる。
(3)決定可能な層数の制約:
光学顕微鏡を用いたグラフェンの層数決定方法では、決定できる層数が6層程度まででしかない。この原因はグラフェン層数とコントラスト比の線形性が1〜6層程度までしか保存されないことに起因する。前述の通り、この方法ではグラフェン層数が増加するに従って、下地のSiOとのコントラスト比がある一定の割合で減少することを利用して層数を決定する。この線形性はグラフェン層数が6層程度まで保たれるが、それより層数が大きい場合、非線形性が現れるために、確実に層数を決定することが困難となる。
一方、表面プローブ顕微鏡を用いた方法では、以下のような問題があった。
(1)測定精度:
表面プローブ顕微鏡を用いた方法では層数決定に曖昧さ、不確定さが残るという問題がある。この原因は、前述の通り、AFMで計測されるグラフェンの厚さ:tは、t=t+0.34×(n−1)[nm]であることに起因する(n:層数、t:基板毎に異なる定数)。tは基板とグラフェンの原子間力の違い、すなわち、両者に対するAFMチップの摩擦係数等の違いを反映するので、AFMチップの形状・材質にも依存する。すなわち、tは測定系毎に異なるため、tの決定には常に曖昧さが残ることになる。また、上式の比例項はAFMを駆動するピエゾ素子の応答が線形であることが前提であるが、この前提条件は必ずしも満たされず、校正を行うとしても非常に煩雑な作業となり実用的ではない。以上の理由により、上式を逆算して得られる層数:nは不確定さを何重にも含むことになる。
(2)実用性:
表面プローブ顕微鏡を用いた方法では、表面プローブ顕微鏡は産業上の一般使用は限定的であり、実用性が乏しいということである。この原因は測定範囲が狭く、測定時間が長いという欠点に起因する。また、別の原因は走査プローブ顕微鏡が起伏の大きい基板表面には適用が困難である欠点に起因する。理由はピエゾ素子にフィードバックを掛けながらプローブが表面をなぞるように計測するためである。従って、産業上、表面プローブ顕微鏡をグラフェン層数決定に用いるのは実用的ではない。
さらに、ラマン分光を用いたグラフェンの層数決定方法では、以下のような問題があった。
(1)決定可能な層数の制約:
ラマン分光を用いたグラフェンの層数決定方法で、決定可能な層数は5層より少ない。この原因は層数が増すにつれて、各層数のグラフェンを特長付けるラマンバンドの位置や形状が不規則に変化することに起因する。
(2)破壊検査であること:
ラマン分光を用いたグラフェンの層数決定方法では高密度のレーザー照射を行うため、グラフェンが非結晶化し、グラフェンの特性を著しく劣化させてしまう。この理由はマイクロメートルオーダーの微小なグラフェンのラマンスペクトルを得るにはレーザー光を集光せざるを得ないためである。たとえ、1mW以下のエネルギーであっても、波長程度までレーザー光を絞るとグラフェンはアモルファス炭素と化してしまう。そのため、ラマン分光を用いるグラフェンの層数決定方法は破壊検査にならざるを得ない。
このように、上記の3つの方法はいずれも短所があり。これらを克服する、汎用的なグラフェン層数の決定法が望まれている。また、グラフェン以外の他の2次元原子層薄膜の層数評価法は知られておらず、その開発が待たれているのが現状である。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来よりも汎用的な2次元原子層薄膜の層数決定方法を提供することにある。
前記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、層数未知の2次元薄膜原子構造に電子線を照射し、発生した反射電子または2次電子の強度を元に層数を決定する2次元薄膜原子構造の層数決定方法である。
本発明の第2の態様は、層数未知の2次元薄膜原子構造に電子線を照射し、発生した反射電子または2次電子の強度を元に層数を決定する層数決定機構を有する2次元薄膜原子構造の層数決定装置である。
(発明の効果)
本発明によれば、従来よりも汎用的な2次元原子層薄膜の層数決定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0003】
図1は層数決定装置の概略を示すブロック図である。
図2図1の詳細図である。
図3図2の記憶部を示す図である。
図4は検量線データの模式図である。
図5は層数決定方法の概略を示すフローチャートである。
図6は層数決定方法の詳細を示すフローチャートである。
図7はグラフェンSEM像の2次電子強度とグラフェン層数の間に直線性が現れる理由を説明するための模式図である。
図8はグラフェン・グラファイトSEM像の1次電子加速電圧依存性を示すグラフである。
図9はグラフェン片(1層グラフェン1、1層グラフェン2、2層グラフェン)ならびにグラファイト片の電子像を模した図の例である。
図10図9と同じグラフェン片を光学顕微鏡で観察した際の光学顕微鏡像を模した図である。
図11は検量線データの取得方法を示すフローチャートである。
図12はSEMを用いるグラフェン層数の決定方法の具体例を示す図である。
図13は光学的手法によるグラフェン層数決定法を示す図である。
図14はSiO膜付きSi基板を用いた場合のグラフェンの基板表面に対する2次電子強度の相対値とグラフェン層数の関係を示す図である。
図15はサファイヤ基板を用いた場合のグラフェンの基板表面に対する2次電子強度の相対値とグラフェン層数の関係を示す図である。
図16はマイカ基板を用いた場合のグラフェンの基板表面に対する2次電子強度の相対値とグラフェン層数の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0004】
1 基板
2 グラフェン
3 1次電子ビーム
4 2次電子発生の基板表層内部
5 グラフェンを通過しない2次電子
6 1層のグラフェンを通過した2次電子
7 2層のグラフェンを通過した2次電子
8 3層のグラフェンを通過した2次電子
9 4層のグラフェンを通過した2次電子
10 グラフェンがない場合の2次電子発生過程
11 グラフェンが1層ある場合の2次電子発生過程
12 グラフェンが2層ある場合の2次電子発生過程
13 グラフェンが3層ある場合の2次電子発生過程
14 グラフェンが4層ある場合の2次電子発生過程
15 グラフェンが1層の場合に2次電子が減衰する箇所
16 グラフェンが2層の場合に2次電子が減衰する箇所
17 グラフェンが3層の場合に2次電子が減衰する箇所
18 グラフェンが4層の場合に2次電子が減衰する箇所
19 ケーブル
21 層数決定装置
23 測定部
25 層数決定部
31 照射部
33 検出部
35 外部接続部
37 バス
41 外部接続部
43 制御部
45 記憶部
47 入力部
48 出力部
49 層数決定プログラム
50 バス
51 検量線データ
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下、図面に基づいて本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
まず、本実施形態に係る層数決定装置21の構成について、図1〜4を参照して説明する。
図1に示すように、層数決定装置21は、2次元原子層薄膜に電子線を照射し、発生した反射電子または2次電子の強度を測定する測定部23と、測定部23が測定した2次電子の強度を元に2次元原子層薄膜の層数を決定する層数決定部25を有しており、測定部23と層数決定部25で層数決定機構を構成している。
測定部23は例えばSEM(走査型電子顕微鏡)であり、図2に示すように、電子線を照射する照射部31、反射電子または2次電子を検出して電子像を取得する検出部33、および測定部23を外部と接続する外部接続部35を有し、照射部31、検出部33、外部接続部35はバス37等で接続されている。
層数決定部25は例えばコンピュータであり、層数決定部25をケーブル19等で外部と接続するための外部接続部41、各構成要素を駆動制御するためのCPU、ROM、RAM等を備えた制御部43、各構成要素を動作させるためのプログラムを有する記憶部45、測定条件等の入力を行うための、マウス、キーボード等の入力部47、測定結果を出力するための出力部48を有し、各構成要素はバス50で接続されている。
図3に示すように、記憶部45は、層数決定装置21を動作させるための層数決定プログラム49および層数決定に用いる検量線のデータである検量線データ51を有している。
図4に示すように、検量線データ51は、反射電子または2次電子の強度(ここでは基板との相対強度)と層数の関係を示すデータであり、図4に示すように直線関係を有している。なお、後述するように、この直線関係は特定の条件(特に加速電圧)で電子線を照射した場合にのみ得られる。
次に、層数決定装置21を用いた2次元原子層薄膜の層数決定方法について、図5図13を参照して説明する。
なお、ここでは2次元原子層薄膜として、グラフェンを例にして説明する。
まず、層数決定方法の概略について、図5を参照して説明する。
図5に示すように、まず、層数決定装置21は、測定部23を用いて層数未知のグラフェンに電子線(1次電子)を照射する(S1)。
次に、図5に示すように、層数決定装置21は、層数決定部25を用いて、電子線の照射によって生じた反射電子または2次電子の強度から層数未知のグラフェンの層数を決定する(S2)。
次に、層数決定方法の詳細について、図6図13を参照して説明する。
まず、図6に示すように、制御部43は、記憶部45に格納された層数決定プログラム49を起動し、グラフェンの検量線データ51を取得する(S101、検量線データ51の取得方法は後述する)。
ここで、検量線データ51が図4に示すような直線性を有する理由について図7を参照して説明する。
図7において、1は基板、2はグラフェンを表し、10はグラフェンがない場合の2次電子発生の過程を表すのに対し、11、12、13、14は、それぞれグラフェンが1層、2層、3層、4層ある場合の2次電子発生の過程を示す。S1で説明したように、基板1上に(1次)電子線3が照射されると、1次電子は基板表層内部4で衝突を繰り返し2次電子が発生し、その一部が基板1から抜け出し、2次電子5、6、7、8、9となって検出部33の図示しない検知器へ到達し、2次電子が計数される。1次電子の運動エネルギーは1000eV(電子ボルト)程度と、2次電子の運動エネルギー(数eV)と比較して大きいため、グラフェンによる遮蔽の影響を殆ど受けずに基板表層内部4まで到達する。これに対し、2次電子の運動エネルギーは前述のように数eVであり、1次電子の運動エネルギーより小さいため、グラフェンによる遮蔽効果が大きく、2次電子の強度はグラフェンを通過すると減衰する。2次電子強度が減衰する箇所はグラフェンが1層、2層、3層、4層の場合、それぞれ15、16、17、18であり、減衰は層が増えるに従い増加する。これらの関係を数式で表すと以下となる。まず、簡単のため、グラフェンがない場合10の2次電子5の強度を1に規格化する。また、グラフェン2と基板1の2次電子発生能は一般に相違するので、グラフェン2と基板1の2次電子発生能の比をαとする。すると、先程述べたグラフェン通過に伴う減衰量はグラフェン層数に比例すると考えられるので、この減衰量をΔとすると、グラフェンが1層、2層、3層、4層の場合の11、12、13、15では、2次電子6、7、8、9の強度は、それぞれ、α−1Δ、α−2Δ、α−3Δ、α−4Δとなる。さらに、グラフェン層数がn層ならば、その2次電子強度はα−nΔ(nは自然数)である。これにより、グラフェンSEM像の2次電子強度とグラフェン層数の間の直線性が現れる理由が説明される。
なお、検量線データ51が既に取得済みの場合はS101は不要である。
次に、図6に示すように、層数未知のグラフェン、即ち層数を決定したいグラフェンを基板上に配置する(S102)。
グラフェンは、例えば、天然グラファイトを粘着テープで薄く剥がすことによって得られる。グラフェンの原料としては上記の天然グラファイトのほか、HOPG(Highly Oriented Pyroritic Graphite)、Kish(キッシュ)グラファイト、CVD(Chemical Vapor Deposition、化学気相成長)グラフェン、SiC(炭化ケイ素)熱分解エピタキシャル成長グラファイトを用いることができる。
また、基板には、Si基板、GaAs(ガリウムヒ素)など半導体基板、サファイヤ、マイカ、ガラスなどの絶縁体基板、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリエチレンなどのプラスチック基板、銅、スチール、アルミニウムなどの金属基板を用いることができる。また、観察の妨げにならないように、基板は予め、洗浄や酸素プラズマなどで清浄化することが望ましい。CVDグラフェン、SiC熱分解エピタキシャル成長グラファイトの場合、基板機械的な剥離・貼り付けのプロセスなしに成長基板をそのまま用いることも可能である。
次に、制御部43は層数決定プログラム49に基づき、所定の条件にて基板および基板上に配置されたグラフェンに電子線を照射するように指示し、照射部31は電子線を照射する(S103、(a)、電子像取得部)。
この際、2次電子加速電圧は反射電子または2次電子の強度に影響するため、検量線データ51のように、グラフェンの層数と反射電子または2次電子の間に直線関係が得られる範囲の加速電圧を選択する。
一例として、グラフェン・グラファイトSEM像の1次電子加速電圧依存性をグラフにしたものを図8に示す。図8の縦軸は下地のSiOに対するグラフェン片(2層)およびグラファイト片(>>10層)のSEM像の相対2次電子強度、横軸はSEM観察に用いた1次電子の加速電圧(Vacc)である。なお、グラフェン等の2次電子強度を基板表面の2次電子強度で除し、相対値として規格化することで、1次電子の絶対強度や2次電子検知器の感度特性などの装置関数の影響を排除している。図8中の(a)に示すように、Vaccが約2kV以下でグラフェンは2次電子強度の相対値が1以上であり(斜線部)、(b)で示すように、グラファイト片はどのVaccでも相対値が1より小さい。また、加速電圧が低い程、2次電子強度の相対値が高くなる様子が見て取れる。上記の例ではグラフェンの層数は1層と2層の場合のみであるが、別の観察によると、Vacc<2.0kVの場合、グラフェンの層数が十数層程度までグラフェンは下地のSiOと比較して2次電子強度が相対的に高い。SEM観察時にグラフェンが一際明るく観察されるので、グラフェンとグラファイトとが共存している状況で、グラフェンをひと目で識別できる。
グラフェンのSEM像で重要な点は、ある特定の1次電子加速電圧の範囲でグラフェンをSEM観察する場合、グラフェンの層数が増加するに従い、グラフェンSEM像の2次電子強度が減少することである。これはグラフェンの2次電子強度を指標とすることで、グラフェンの層数を決定できること、具体的には図4に示すような検量線データ51が得られることを意味する。詳細は後述するが、図4に示す検量線データ51のように、グラフェンSEM像の2次電子強度と層数の間に直線関係が見られるのは、例えば、グラフェンを配置する基板がSiO膜付Si基板の場合は0.5kV<Vacc<1.6kV、サファイヤ基板の場合は0.5kV<Vacc≦2.0kV、マイカ基板の場合は0.5kV≦Vacc≦2.0kV、の範囲の1次電子加速電圧を用いる場合である。他の基板でも、1次電子の加速電圧が概ね、0.5kV<Vacc<2.0kVの範囲にある場合に直線関係が見られる。即ち、S103では、制御部43はVaccが上記範囲内になるように加速電圧を制御する。
次に、制御部43は検出部33を制御してグラフェンの2次電子または反射電子像(以下、SEM像と略す)を取得する(S104、(a)、電子像取得部)。
90nm膜厚のSiO膜で覆われたSi基板上のグラフェン片(1層グラフェン1、1層グラフェン2、2層グラフェン)ならびにグラファイト片の電子像を模した図の例を図9に示す、また、参考のため、同じグラフェンを光学顕微鏡で観察した際の光学顕微鏡像を模した図を図10に示す。
なお、図9の左肩の数値はSEM取得時の1次電子加速電圧を示し、(a)はVacc=0.5kV、(b)はVacc=0.7kV、(c)はVacc=1.0kV、(d)はVacc=1.2kV、(e)はVacc=1.5kV、(f)はVacc=2.0kV、(g)はVacc=3.0kV、(h)はVacc=5.0kV、(i)はVacc=10kVの場合である。図9から明らかなように、SEM像(電子像)の顕著な点は、Vacc<2.0kVの場合、グラフェン片が下地のSiOより明るく観察される一方で、グラファイト片はどのVaccでも下地のSiOより暗く観察されることである。なお、ここで述べる明るさとはSEMの2次電子(反射電子を含む、以下同じ)強度のことを指す。
また、図10(a)および(c)に示すように、相対反射光強度(グラフェン層数に相当)と相対頻度の関係から、図10(b)の左端の白色の点線で囲まれた部分のグラフェンは1層、図10(b)の左端から2番目の白色の点線で囲まれた部分のグラフェンは2層と同定される。なお、光学的グラフェン層数の決定には、下地のSiOの反射光強度を100%とした時、グラフェンの反射光強度は層数が1層増える毎に6.45%ずつ減少することを用いている。
図9図10から明らかなように、図10(b)の光学顕微鏡像を模した図の場合、1層グラフェン2付近には3本の1層グラフェンしか視認できないが、図9(a)〜(f)のSEM像を模した図の場合では、上記3本に加え、少なくとも5本の細いグラフェン片(幅:〜500nm以下)が確認できる。この観察結果は光学顕微鏡では光学限界のために光の波長以下のグラフェンを評価できないが、SEMならばナノサイズのグラフェンも評価できることを物語る。本発明に依れば、後述の画像解析を行うことで、ナノサイズのグラフェンの層数決定を行うことも可能である。また、図9は同じグラフェン試料を様々な1次電子加速電圧で取得しているが、グラフェン試料に損傷は見られず、非破壊でグラフェンを評価できることを示している。
次に、図6に示すように、基板と層数未知のグラフェンの電子像の相対強度比を求める(S105、(b)、強度比解析部)。
具体的には、グラフェンの2次電子強度を基板表面の2次電子強度で除し、相対値として規格化することによりグラフェンの電子像の相対強度比を求める。
このように、相対強度比を用いることで、1次電子の絶対強度や2次電子検知器の感度特性などの装置関数の影響を排除することができる。
次に、図6に示すように、相対強度比を検量線に当てはめ、グラフェンの層数を決定する(S106、(c)、層数決定部)。
具体的には、図4に示す検量線データ51のグラフ線上における、相対強度比に対応する層数をグラフェンの層数とする。
以上が層数決定方法である。
ここで、S101の検量線データ51の取得方法について、図11を参照して説明する。
まず、層数が異なる複数のグラフェンを用意し、これらを基板に貼り付ける(S201)。基板は層数未知のグラフェンを貼り付ける基板と同じ材料のものを用いる。
次に、可能な場合は、光学測定、ラマン測定、AFM測定等により各グラフェンの層数を決定する(S202、(g)、標準層数決定部)。
具体的には、光学測定の場合、基板とグラフェンの反射光強度から層数を決定する。
例えば、基板をSiOとした場合、SiOの反射光強度を100%とした時、グラフェンの反射光強度は層数が1層増える毎に6.45%ずつ減少するため、グラフェンの反射光強度のSiOの反射光強度に対する減少の度合いからグラフェンの層数を決定する。
なお、S202は、検量線データ51の取得を簡略化するための予備的なプロセスなので、行わなくても良い。
次に、図11に示すように、制御部43は層数決定プログラム49に基づき、S103と同じ条件にて基板および基板上に配置されたグラフェンに電子線を照射するように指示し、照射部31は電子線(1次電子)を照射する(S203、(d)、標準電子像取得部)。
次に、制御部43は検出部33を制御してグラフェンの反射電子または2次電子像(SEM像)を取得する(S204、(d)、標準電子像取得部)。
次に、図11に示すように、基板とグラフェンの電子像の相対強度比を求める(S205、(e)、標準強度比解析部)。相対強度比を求める方法はS105と同様である。
次に、図11に示すように、制御部43はグラフェン層数が既知か否か(即ちS202を行っているか)を判断し、既知の場合はS207に進み、未知の場合S208に進む(S206)。
グラフェン層数が既知の場合は、制御部43はグラフェン層数と相対強度比の関係をプロットして最小2乗方法等でフィッティングすることにより検量線データ51を作成し、記憶部45に保存する(S207、(f)、検量線作成部)。
グラフェン層数が未知の場合、制御部43は相対強度比の減衰量Δを求める(S208、(f)、検量線作成部)。
具体的には、各グラフェンについて、各々の2次電子相対強度を1から順に自然数で除し、ある共通の値を抽出し、それを減衰量Δとする。
例えば、減衰量Δの値は、基板がSiO膜付Si基板の場合で約5.8×10−2、サファイヤ基板の場合で約1.8×10−2、マイカ基板の場合で約3.3×10−2である。Δの値を求める際、基板表面の2次電子強度に対するグラフェンの2次電子強度の相対値を用いることで、SEMの1次電子の絶対強度、2次電子の捕捉効率、2次電子検知器の感度特性などの装置関数の影響を排除することができるので、他のSEMを用いても同じ結果が得られる。この点は本発明の一般性・汎用性を証明する重要な証拠である。
次に、図11に示すように、制御部43は減衰量Δからグラフェンの層数を決定する(S209、(f)、検量線作成部)。
具体的には以下のようにして、グラフェンの層数を決定する。
まず、グラフェン2と基板1の2次電子発生能の比をαとすると、前述のように、グラフェン通過に伴う減衰量Δはグラフェン層数に比例するため、グラフェンが1層、2層、3層、4層…n層の場合の2次電子の強度は、それぞれ、α−1Δ、α−2Δ、α−3Δ、α−4Δ…α−nΔとなる。
αは基板の種類が決まれば決まるため、α−nΔより、グラフェンの層数を決定する。
グラフェンの層数が決定されると、制御部43はグラフェン層数と相対強度比の関係をプロットして最小2乗方法等でフィッティングすることにより検量線データ51を作成し、記憶部45に保存する(S207、(f)、検量線作成部)。
以上が検量線の作成方法である。
このように、本実施形態によれば、層数決定装置21は、グラフェンに電子線を照射し、発生した反射電子または2次電子の強度を測定する測定部23と、測定部23が測定した2次電子の強度を元に2次元原子層薄膜の層数を決定する層数決定部25を有し、グラフェンに電子線を照射し、発生した反射電子または2次電子の強度からグラフェンの層数を決定している。
そのため、層数決定装置21は、従来よりも汎用的にグラフェンの層数を決定することができる。
【実施例】
【0006】
以下、実施例に基づき本発明をより詳細に説明する。
(実施例1)
SEMを用いたグラフェン層数の決定方法(本発明)と光学的手法によるグラフェン層数決定法(従来例)により層数未知のグラフェンの層数の決定を試みた。
まず、SEMを用いたグラフェン層数の決定を以下の手順で行った。
まず、グラファイトからグラフェンを粘着テープで剥ぎ取り、300nm膜厚のSiO膜付Si基板上に貼り付けた。
次に、グラフェンのSEM像を取得し、層数の決定を行った。
なお、画像解析を行うため、SEM像はデジタルデータとして取得し、画像ピクセルごとの256階調の輝度が2次電子強度に相当するようにした。
結果を図12に示す。
なお、図12(a)はSEM像を模した図、図12(b)、(c)はそれぞれ図12(a)の矩形で囲んだ部分に対する、横軸が2次電子強度、縦軸が頻度のヒストグラムである。また、図12(d)は下地のSiO表面の2次電子強度に対するグラフェンの2次電子強度の相対値とグラフェン層数の関係であり、図中の直線は検量線を表す。この検量線は、様々な層数のグラフェンSEM像の解析から、減衰量:Δを見積もることにより得たものである。
図12(a)から明らかなように、定性的には、グラフェンは明瞭なSEM像として観察された。また、図12(b)、(c)から、グラフェンの強度が層数毎に離散的に分布し、異なる層数のグラフェンは明瞭に分離されたヒストグラムとして、定量的に評価できることが分かった。すなわち、図12(d)の検量線を用いると、図12(a)のグラフェン1において矩形で囲まれた部分には層数が2層、3層のグラフェンが含まれ、グラフェン2において矩形で囲まれた部分には1層、3層、5層のグラフェンが含まれていることが分かる。
次に、上記の試料の光学顕微鏡を取得し、層数の決定を行った。
結果を図13に示す。
図13(a)は光学顕微鏡像を模した図、図13(b)、(c)はそれぞれ図13(a)の矩形で囲んだ部分の反射光強度の頻度、図13(d)は下地のSiO表面の反射光強度に対するグラフェンの反射強度の相対値とグラフェン層数の関係を示す。図13(d)に示すように、従来技術の光学的手段ではグラフェンが6層程度までしか評価できないことが分かった。
以上の結果より、本発明のSEM像を用いた層数の決定方法では10層以上のグラフェン層数の評価が可能であり、SEM像を用いるグラフェン層数の決定方法の、光学的手法によるグラフェン層数決定法に対する有効性・優位性が証明された。
(実施例2)
SiO膜付きSi基板上で、SEMを使用してグラフェン層数を決定する際に、使用すべき1次電子加速電圧の有効範囲を特定するため、様々な1次電子加速電圧:Vaccを用いて、グラフェンの基板表面に対する2次電子強度の相対値とグラフェン層数の関係を調べた。グラフェン試料は実施例1と同様の方法で用意し、SEM測定は、SiO膜厚が300nm、グラフェン層数が1層から11層、Vacc=0.5〜20kVの条件で行った。上記方法でグラフェンSEM像の解析を行い、図14に示す結果を得た。
図14に示すように、グラフェンの2次電子強度の相対値とグラフェン層数の間に広い層数範囲で直線性が確保できるのはVacc=0.8kV、1.0kV、1.2kV、1.4kVの場合であった。一方、Vacc=0.5kVでは非線形性が強く現れ、Vacc=1.6kVではグラフェンが6層程度まで線形であるが、7層以上で非線形となっていた。従って、SEMのみで検量線データ51を求める場合、減衰量:Δは層数無依存を仮定しているので、Vaccの有効範囲は0.5kV<Vacc<1.6kVとなった。しかしながら、光学的測定・ラマン測定・AFM測定を併用して層数を既知として検量線データ51を求める場合、Δを直接求める必要がないので、低加速電圧領域のVacc<2.0kVがVaccの有効範囲であった。
(実施例3)
サファイヤ基板上で、SEMを使用してグラフェン層数を決定する際に、使用すべき1次電子加速電圧の有効範囲を特定するため、様々なVaccを用いて、グラフェンの基板表面に対する2次電子強度の相対値とグラフェン層数の関係を調べた。グラフェン試料は実施例1と同様の方法で用意し、SEM測定はグラフェン層数が1層から12層、Vacc=0.5〜20kVの条件で行った。上記方法でグラフェンSEM像の解析を行い、図15に示す結果を得た。
図15に示すように、グラフェンの2次電子強度の相対値とグラフェン層数の間に直線性が確保できるのはVacc=1.0kV、2.0kVの場合であった。Vacc=0.5kVでは2次電子強度の相対値は層数に殆んど依存しない。従って、サファイヤ基板を用いる場合、Vaccの有効範囲は0.5kV<Vacc≦2.0kVであることが分かった。
(実施例4)
マイカ基板上で、SEMを使用してグラフェン層数を決定する際に、使用すべき1次電子加速電圧の有効範囲を特定するため、様々なVaccを用いて、グラフェンの基板表面に対する2次電子強度の相対値とグラフェン層数の関係を調べた。グラフェン試料は実施例1と同様の方法で用意し、SEM測定はグラフェン層数が1層から20層、Vacc=0.5〜20kVの条件で行った。上記方法でグラフェンSEM像の解析を行い、図16に示す結果を得た。
図16に示すように、グラフェンが12層までの範囲で、グラフェンの2次電子強度の相対値とグラフェン層数の間に直線性が現れるが、12層を越えると、層数依存性が見られなくなっていた。従って、マイカ基板を用いる場合、Vaccの有効範囲は0.5kV≦Vacc≦2.0kVであることが分かった。
以上、本発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、本実施形態および実施例では2次元原子層薄膜として、グラフェンを例にして説明および実験を行ったが、2次元原子層薄膜であれば、グラフェン以外の材料にも本発明を適用可能である。
また、本実施形態では層数決定装置21として、SEMとコンピュータを有する装置を例示したが、電子線を照射して2次電子または反射電子の強度を解析可能なものであれば、上記構成には限定されない。
また、本出願は、2010年6月25日に出願された、日本国特許出願第2010−145314号からの優先権を基礎として、その利益を主張するものであり、その開示はここに全体として参考文献として取り込む。
図1
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