【実施例】
【0023】
実施例1:バイオリアクターシステムにおけるSe還元・気化特性
実施例1では、バイオリアクターシステムによるセレン酸および亜セレン酸の還元最適条件を検討した。
(1)実験材料および方法
(1−1)培養方法
5 L容ジャーファーメンター(Bioneer-C500N型5L(S)、株式会社丸菱バイオエンジ)にTSB培地3000 mlを入れ、オートクレーブ処理を行った。500 mmol/Lのセレン酸溶液もしくは亜セレン酸溶液を3 ml本培地に添加した。12時間前培養を行った培養液を遠心分離により集菌し、OD
660=1.0に調整後、30 ml(1%)接種した。各培養条件で培養を行った。
【0024】
(1−2)サンプリングと測定試料調製
ジャーファーメンターより培養液を適当量採取し、菌体濁度(O.D.
600)を測定した。培養液を2 ml分取し、15,000rpm、5分間の条件で遠心分離を行った。遠心分離後、上清をフィルタレーション(0.2 μm孔)した試料を上清試料とし、遠心分離により得られたペレットを沈澱試料とした。
【0025】
(1−3)セレン酸および亜セレン酸濃度の測定
上記の上清試料100 μlを分取し、超純水900 μlにて1/10倍希釈した。この希釈液をイオンクロマトグラフィー(ICS-1100;検出器、DS6 HEATED CONDUCTIVITY CELL;カラム、IonPac AS12A;ガードカラム、AG12A;サプレッサー、ASRS300;溶離液、3.0 mM Na
2CO
3;流速、1.5 ml/min、ダイオネクス社)に供し、セレン酸および亜セレン酸の濃度を測定した。
【0026】
(1−4)溶存セレン濃度の測定
上清試料1000 μlを、濃硝酸100 μlを添加した超純水8900 μlに添加し、1/10倍希釈した。この溶液を測定試料とし、ICP-AES(iCAP 6300 Duo、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)により全セレン濃度の測定を行った。
【0027】
(1−5)元素態セレン濃度の測定
沈澱試料に超純水2 mlを加え、ボルテックスにより洗浄後、遠心分離により沈殿を回収した。繰り返し、洗浄作業を行った後、沈澱試料に1500 μlの濃硝酸と50 μlの濃硫酸を添加し、ボルテックスにより沈殿物を溶解させた。
溶解液を15,000rpm、5分間の条件で遠心分離を行い、上清と沈殿物を分離した。上澄みの溶液は10 mlメスフラスコに分取した。沈澱物は、再度同条件で溶解操作を行い、上清を回収し、上澄み溶液を回収したメスフラスコに分取した。10 mlメスフラスコに超純水を標線まで足し、定容したものを測定試料とした。測定試料はICP-AESによりセレン濃度の測定を行った。
【0028】
(1−6)気体の回収
ジャーファーメンターの排気口にファーメードチューブを接続し、250 ml容の試薬瓶に添加した濃硝酸150 mlへバブリングを行った。濃硝酸との接触面にはエアーストーンを接続した。濃硝酸は経過時的にサンプリングし、ICP-AESによりセレン濃度を測定した。
【0029】
(1−7)生菌数の計測と菌体濁度(O.D.
600)の相関性
NT-I株の菌体あたりの還元速度を算出するため、経時的にNT-I株の菌体数とO.D.
600を測定し、相関を求めた。
培養にはジャーファーメンターを用い、38℃、pH9.0、1 L/miin、250rpmの条件下において、2.1の培養方法で培養を行った。実験開始後、経時的に培養液を採取し、菌体数とO.D.
600を測定した。菌体数は、カウンティングチャンバー内の60区画内の菌数を、位相差顕微鏡(DM1000、Laica)を用いてカウントし、平均値を求めた。O.D.
600の測定には分光光度計(V-600、日本分光株式会社)を用いた。
【0030】
(2)実験結果および考察
(2−1)ジャーファーメンターにおける還元特性
ジャーファーメンターによる培養におけるNT-I株のセレン酸および亜セレン酸の還元特性を典型的な経時変化の例として、38℃、pH調整なし(初期pH7.0)、1 L/min、120rpmの培養条件下における培養の結果を
図1に示す。0.5 mMのセレン酸を添加すると、約2時間の誘導機の後にセレン酸還元が開始し、4時間以内にすべてのセレン酸が還元され、蓄積した亜セレン酸も22時間以内に培養液中から完全に消失した。三角フラスコにおける実験においては、セレン酸の還元は10時間以内、亜セレン酸の還元は16時間以内に行われている。このことから本培養条件においては、三角フラスコに比べセレン酸の還元が促進され、亜セレン酸の還元が遅くなっていると言える。
【0031】
亜セレン酸の還元に伴う元素態セレンの蓄積は、最大でも0.1 mmol/L以下であり、固体Seとしては20%以下の回収率になる。溶液中の溶存セレンもほとんど検出されていないことから、元素態セレンから気体Seへの移行が非常に速やかに行われていると考えられる。
【0032】
(2−2)生菌数の計測と菌体濁度(O.D.
600)の相関性
ジャーファーメンターを用いた増殖系におけるNT-I株の菌体数の経時変化を
図2に示す。この結果より、NT-I株の対数増殖期は約7時間であり、以降は定常期に達することがわかる。 O.D.
600の値もNT-I株の増殖に伴って増加することがわかった(
図3)。
この時の比例係数を用いてO.D.
600の値から菌体数を算出した。
【0033】
(2−3)比還元速度の算出
各培養条件の変化とセレン酸還元速度の関係を評価するために、各変数における単位時間当たりのセレン酸減少量をセレン酸還元速度(mmol/cell/hr)とし算出した。一例として、
図4に38℃、pH調整なし(初期pH7.0)、1 L/min、120rpmの培養条件下におけるセレン酸濃度の経時変化を示す。セレン酸還元速度(mmol/cell/hr)は、まず直線的にセレン酸濃度が減少する期間において、その勾配(mmol/3 L/hr)を求めた。さらにセレン還元速度を算出した前後の菌体数(cell/ml)をO.D.
600の値から算出し、勾配を菌体数で割ることでセレン酸還元速度(mmol/cell/hr)を算出した。亜セレン酸還元速度についても、同様に算出した。
【0034】
(2−4)セレン酸、亜セレン酸還元に及ぼすpHの影響
これまでの知見から、NT-I株はpH6.0-9.0のpH域で増殖可能であり、増殖における最適pHは7.0であることが明らかになっている。そこでNT-I株のセレン酸、亜セレン酸還元に及ぼすpHの影響を調べた。
セレン酸還元については、pH6.5-9.0の範囲において4-5時間で0.5 mmol/Lのセレン酸を還元できることがわかった(
図5)。また、pH10.0においては、生育が非常に遅いものの、60時間以降にセレン酸の還元が観察された(data not shown)。菌体あたりの比還元速度を算出した結果を
図6に示した。この結果、ジャーファーメンター培養によるNT-I株のセレン酸還元は、pH7.5-8.0が最適であることがわかった。
【0035】
亜セレン酸の還元については、0.5 mmol/Lの亜セレン酸を基質として添加し、培養を行った。この結果、pH7.0-9.0の範囲において、24時間以内に亜セレン酸を還元できることがわかった(
図7)。特にpH9.0における還元は非常に速く15時間以内に亜セレン酸を還元することがわかった。菌体あたりの比還元速度を算出したところ、pH7.0-8.5まではほとんど活性が変わらず、pH9.0において2倍以上の比還元速度が得られた(
図8)。これまでの三角フラスコにおける検討では、pH7.0が最適であったが、ジャーファーメンター培養においてはpHを9.0に維持することで、非常に速やかに亜セレン酸の還元が行われることがわかった。
【0036】
(2−5)セレン酸、亜セレン酸還元に及ぼす温度の影響
これまでにNT-I株は10-42℃の温度域で増殖可能であり、38℃が増殖における最適温度であることが分かっている。そこでジャーファーメンター培養において、30-40℃に設定をして還元最適試験を行った。
この結果、30-40℃の範囲において、5時間以内にセレン酸が還元されることがわかった(
図9)。特に38℃においてセレン酸が4時間で消失しており、最も早かった。比還元速度を算出したところ、35-38℃において高い比還元速度が得られた(
図10)。これらの結果から、セレン酸還元における最適温度は38℃であると言える。
【0037】
亜セレン酸の還元については、0.5 mmol/Lの亜セレン酸を基質として添加し、培養を行った。亜セレン酸の還元は、30-40℃の範囲において、18時間以内に亜セレン酸が還元されることがわかった(
図11)。亜セレン酸の還元は38℃が最も早く15時間で還元が終わった。比還元速度を算出したところ、30-38℃においてほぼ同等の高い値が得られた(
図12)。これらの結果から、亜セレン酸の還元は38℃が最適であることがわかった。
【0038】
(2−6)セレン酸に及ぼす通気・攪拌の影響
NT-I株のセレン酸・亜セレン酸の還元における酸素移動速度に影響を及ぼす因子の検討は、三角フラスコなどを用いた培養であったためにこれまでに行われていない。本来嫌気的反応である還元反応が好気条件において迅速に進むNT-I株の還元反応は非常に興味深い。そこでジャーファーメンター培養において、通気および攪拌について検討を行った。
セレン酸還元における通気量の変化の影響を
図13に示した。この結果、0-5 L/minのどの通気量においても、4時間以内にセレン酸の還元が速やかに行われることがわかった。3時間時点でのセレン酸濃度は、通気量が大きいほど高くなっている。菌体数は通気量が大きいほど増殖が速く、0 L/minでは顕著に菌体の増殖が抑制された。比還元速度の比較においては、還元速度はほとんど変わらないものの、菌体数が抑制されていることから、0 L/minの比還元速度が高くなっている(
図14)。これらのことから、NT-I株はセレン酸の還元について菌体数に依存しておらず、少量の菌体でも速やかに還元が進んでいることから、NT-I株は非常に高い還元能を持っていると考えられる。一方で、セレン酸還元が始まる点はどの時間においても2時間目以降であり、還元開始に他の因子が影響している可能性がある。
【0039】
次に、セレン酸還元における攪拌の影響を
図15に示した。この結果120-200rpmにおいては、5時間以内にセレン酸の還元は速やかに行われることがわかった。攪拌速度に対しての比還元速度の関係を図にすると、比還元速度が攪拌速度に反比例して高くなることがわかった(
図16)。250rpmにおいても6時間以内にセレン酸はほとんど還元される。一方で、300rpmにおいてはセレン酸の還元が明らかに抑制され、9時間までに約半分のセレン酸が還元されるものの、それ以降セレン酸の還元は進まないことがわかった(data not shown)。菌体の増殖は、攪拌速度に比例して促進されていることから、セレン酸の還元は菌体数ではなく別の因子によって影響を受けていると考えられる(
図15)。
【0040】
(2−7)セレン酸還元と溶存酸素(DO)の相関
攪拌による培地中の酸素移動速度の影響を検討するために、溶存酸素(DO)とセレン酸還元の比較を行った(
図17)。これらの図を比較すると、セレン酸還元はDOが0%になってから開始することがわかった。本来還元反応は嫌気条件下において進む反応であることから、菌体が増殖し、培養液中の酸素が消費されることで、微嫌気的な状況ができ、その後セレン酸の還元が進んでいるものと考えられる。300rpmにおいては、セレン酸還元途中でDOが上昇し、同時にセレン酸還元が停止していることからも、DOが0%まで低下するとセレン酸還元が進行し、DOが0%から増加すると還元が進まないことがわかる。
【0041】
(2−8)亜セレン酸に及ぼす通気・攪拌の影響
亜セレン酸還元における攪拌速度の変化の影響を
図18に示した。この結果、120-400rpmの範囲において、15時間以内に亜セレン酸の還元が速やかに行われることがわかった。特に300rpmにおいて12時間で亜セレン酸が消失しており、最も早いことがわかった。菌体数の増殖に関しては、300rpmで菌体の生育が早く、400rpmでは菌体の生育速度は早いものの誘導期が長くなっていることがわかる。これらの結果から、亜セレン酸還元における最適攪拌速度は300rpmであると言える。
【0042】
溶存酸素(DO)と亜セレン酸還元の比較を
図19に示した。120-300rpmにおいては、DOが減少した後に亜セレン酸の還元が進行している。DOの減少は、
図19における増殖曲線からも、菌体の増殖によるものと考えられる。このことから、亜セレン酸の還元はある程度菌体数が増加した状況下において進行しているものと考えられた。一方で、400rpmにおける結果では、DOが0%まで下がらない状態においても亜セレン酸の還元が進行していることから、亜セレン酸還元では、DOが0%になることは必要条件ではないと言える。
【0043】
還元最適条件下において、NT-I株を12時間培養後、セレン酸を添加し、通気を1 L/minに保った場合と、0 L/minに変更し通気を止めた場合の結果を
図20に示した。どちらの条件においても、セレン酸添加後から速やかに亜セレン酸が生成し、亜セレン酸の還元が進行することがわかった。亜セレン酸の還元速度を算出したところ、通気した場合には9.6 ×10
-18 mol/cell/hr、通気を止めた場合には3.8 ×10
-18 mol/cell/hrとなり、通気をすることで約2.5倍に促進されることがわかった(
図20B)。これらの結果から、亜セレン酸の還元は、酸素を消費する反応である可能性が考えられる。
【0044】
(2−9)セレン酸、亜セレン酸還元の最適化まとめ
セレン酸および亜セレン酸の還元における最適条件を表1にまとめた。最適化前の条件下(38℃、pH調整なし、120rpm、1 L/min)においては、セレン酸還元は4時間以内に終わる一方で、亜セレン酸還元終了までには22時間かかっている(
図1)。つまりセレン酸から元素態セレンまでの還元においては、亜セレン酸の還元が律速となっていることがわかる。このことから、セレン酸の還元が阻害されず、亜セレン酸の還元が最適となる条件を、セレンオキシアニオン還元最適条件とした。
【0045】
セレンオキシアニオン還元最適条件としては、セレン酸の最適還元条件と亜セレン酸の最適還元条件を採用し、培養中に培養条件を切り替える培養方法も考えられる。しかし、実際の廃棄物や排水においては不純物の混入といった、不確定因子による影響などによりセレン酸の還元時間が不明確となること、セレン酸の測定に30分近く時間を要するため、リアルタイムでモニタリングすることが難しいことなどの理由から、培養条件は初期設定条件から一定に保つことを選定基準とした。
【0046】
以上の結果をまとめた上で、セレンオキシアニオン還元最適条件における培養の結果を
図21に示す。還元条件最適化前の培養に比べ(
図1)、セレン酸から亜セレン酸還元終了までにかかる時間が、22時間から7時間にまで1/3に短縮された。元素態セレンの濃度も亜セレン酸還元に伴い上昇が観察された。生成した元素態セレンは、その後速やかに減少しており、気体セレンの生成が速やかに進んでいる可能性がある。元素態セレンからの気体セレンへの培養については、実施例2で検討した。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例2:ラボスケール・リアクターによるSe気化・回収プロセスの検討
気体セレンの生成を制御することは、固体セレンの回収率向上を図る上でも、重要なポイントである。そこで、実施例2では、微生物によるSe回収プロセス確立のために、気体セレンの回収方法を検討すると共に、気体セレン生成の制御方法を検討することで、固体セレン回収および気体セレン回収の検討を行った。また固体セレン回収条件を決定後、本プロジェクトの達成目標であるSe含有率30%以上の高濃度のSe汚泥回収を検討した。
【0049】
(1)実験材料および方法
(1−1)固体回収の培養方法
5 L容ジャーファーメンターにTSB培地3000 mlを入れ、オートクレーブ処理を行った。38℃、250rpm、1 L/minの条件で1時間通気を行った。12時間前培養を行ったNT-I前培養液を遠心分離により集菌し、再懸濁してO.D.
660=1.0に調整後、30 ml(1%)接種した。38℃、pH9.0、250rpm、1 L/minの培養条件で培養を行った。培養開始12時間後に、500mmol /Lのセレン酸溶液を3 ml本培養液に添加し培養を行った。
【0050】
(1−2)気体回収の培養方法
5 L容ジャーファーメンターにTSB培地3000 mlを入れ、オートクレーブ処理を行った。38℃、250rpm、1 L/minの条件で1時間通気を行った。500mmol/Lのセレン酸溶液を3 ml本培地に添加した。12時間前培養を行ったNT-I前培養液を遠心分離により集菌し、再懸濁してO.D.
660=1.0に調整後、30 ml(1%)接種した。38℃、pH9.0、250rpm、1 L/minの培養条件で培養を行った。
【0051】
(1−3)各相の分析方法
測定試料の調製および、各相の測定方法は実施例1に従った。
また、気相部の定性・定量としてGC-MSによる測定を行った。ジメチルセレン(DMSe)、ジメチルジセレン(DMDSe)、ジメチルスルフィド(DMS)、ジメチルジスルフィド(DMDS)については、評品を用いて保持時間により定性を行い、検量線を作成し定量を行った。ジメチルスルホセレナイド(DMSSe)については、GC-MS-MSにより構造を推定し、保持時間を決定した。
【0052】
(1−4)硝酸への通気による気体Seトラップの検討
ジャーファーメンターの排気口にファーメードチューブを接続し、250 ml容の試薬瓶に添加した濃硝酸150 mlへバブリングを行った。濃硝酸との接触面にはエアーストーンを接続した。濃硝酸は経過時的にサンプリングし、ICP-AESによりセレン濃度を測定した。
また濃硝酸が入った試薬瓶の前には、水蒸気トラップ用に250 ml容の空の試薬瓶を接続した。
【0053】
(1−5)活性炭による気体Seトラップの検討
活性炭(SKC社製 Anasorb CSC、coconut charcoal 226-16)による気体Se回収を検討するため、ジャーファーメンター排気管にファーメードチューブを使って活性炭を直列に2本接続した。接続した活性炭の後には、硝酸への通気を接続した。活性炭にはヤシガラ活性炭を用いた。また前部の活性炭の前には、水蒸気トラップ用に250 ml容の空の試薬瓶を接続した。
【0054】
活性炭は48時間で回収し、ジエチルエーテル20 mlを添加し、超音波装置により30分間抽出を行った。抽出液は、GC-MSにより定性・定量を行うと共に、ICP-AESにより全Se量を測定した。
【0055】
(1−6)固体Seの高濃度回収の検討
目標値であるSe含有率30%以上の高濃度のSe汚泥回収を行うため、セレン酸の終濃度が通常の10倍の5 mmol/Lになるように添加し、固体回収条件において培養を行った。培養液は、全量遠心分離により沈殿を回収した。得られた沈澱は、洗浄のため70%エタノールにて懸濁し遠心分離をして沈殿を回収した。洗浄操作を再度行った後、沈澱を100%エタノールに懸濁し、ドラフトチャンバー内で乾燥したものをSe汚泥とした。Se汚泥は元素態セレンの溶解と同じ方法で溶解し、ICP-AESによりSe濃度を測定した。
【0056】
(2)実験結果および考察
(2−1)元素態セレン減少量への通気の影響
還元最適条件下において、NT-I株を12時間培養後、セレン酸を添加し、通気を1 L/minに保った場合と、0 L/minに変更し通気を止めた場合の結果を
図22に示した。どちらの条件においても、セレン酸添加後から速やかに元素態セレンが生成することがわかった。元素態セレンの生成は通気をした場合のほうが早く、元素態セレンの最大濃度は0.37 mmol/Lであった。通気を止めた場合には元素態セレンの生成がやや遅れるものの、元素態セレンの最大濃度は0.44 mmol/Lと通気をした場合よりも高くなった(
図22A)。
【0057】
この結果から、元素態セレンの減少は明らかに通気の影響を受けており、通気をすることで、元素態セレンの減少が促進されることがわかった。元素態セレン減少速度を算出したところ、通気した場合には元素態セレンの減少速度が2.6 ×10
-18 mol/cell/hr、通気を止めた場合には0.5 ×10
-18 mol/cell/hrとなり、通気をすることで約5.3倍に促進されることがわかった(
図22B)。
【0058】
これらの結果から、還元最適条件を気体セレン回収条件とした。また、固体セレン回収条件は、38℃、pH9.0、250rpm、0 L/minとした。通気を停止した場合、菌体生育への影響が大きいことから、還元最適条件において菌体を12時間培養後、基質を添加することで固体セレン回収を行うこととした。
【0059】
(2−2)気体セレンの定性
元素態セレンの減少に伴い発生すると考えられる気体セレンの定性を行うため、GC−MSを用いて気相の測定を行った。典型的な測定結果を
図23に示した。この結果、ジャーファーメンター培養においては、DMDSeがメインピークとして検出された。またDMSSeに当たる保持時間にピークが検出された。スルフィドとしては、DMDSが検出されている。
DMSSeについては、DMDSeとDMDSの存在下において、平衡反応により生成することが考えられた。そこで、室温において99.4 ×10
3mg/LのDMDSe 350 μ、53 ×10
3mg/LのDMDS 350 μl を混合し、常温において保存バイアル瓶を用いて密閉下で12時間静置した後、GC-MSにより液相を測定した。この結果、保持時間12.7 min付近にDMSSeのピークが確認された(
図24)。このことから、今回培養中の気相部から検出されたDMSSeについても、微生物反応により生成したDMDSeとDMDSが平衡反応を起こすことで生成した可能性も考えられる。
【0060】
(2−3)硝酸トラップによる気体回収とマスバランス
元素態セレンの減少に伴い生成する気体セレンの経時的な定量を行うため、ジャーファーメンター培養の排気を、硝酸に通すことで気体セレンをトラップし気体回収を試みた。還元最適条件下において、セレン酸を添加し培養を行った結果を
図25に示した。
【0061】
この結果、セレン酸・亜セレン酸の還元が進行し元素態セレンが生成した後に、元素態セレンの減少が始まり、気体セレンが生成していることがわかった。培養120時間後の各相の収量を算出したところ、気体セレンが0.356 mmol/Lで71.2%の回収率であった(表2)。硝酸トラップによるDMDSeの回収効率は81.3%という値が得られている。この値を用いて補正すると、87.6%が気体セレンとして生成していると考えられた。微生物の生成する気体セレンを定量的に回収した前例はなく、今回70%以上の高回収率で気体セレンを回収し経時的に測定できたことは世界でも初めての結果である。
【0062】
これまでにセレン酸を-2価の気体状セレンまで還元することが知られている微生物の気化速度は遅く、Bacillus sp. STG-83株は 1 mmol/Lのセレン酸をLB培地に添加した場合、4日間で約0.03%、Enterobacter cloacae SLD1a-1株は1 mmol/Lの亜セレン酸をTSB培地に添加した場合10日間で約0.5%を気化すると報告されている。これらの微生物と比べて、NT-I株によるジャーファーメンター培養では、非常に速い速度で気体セレンが生成していると言える。
【0063】
また、セレン酸および亜セレン酸が還元された後にも、溶存セレン濃度が減少しないことから、DMDSeなどが一度液相に溶出している可能性が考えられる。
培養120時間後の各相の収量を合計すると85.8%となり(表2)、これに硝酸による気体セレンの回収率を考慮した場合、102.2%となることから、NT-I株によるセレン酸還元における気相、液相、固相のマスバランスがとれていると言える。
【0064】
【表2】
【0065】
(2−4)活性炭での気体セレン回収の検討
気体セレンの回収方法として、運搬が簡便であり、危険性の伴わない活性炭を用いた気体セレンの回収を試みた。還元最適条件下において、セレン酸を添加し、NT-I株によるジャーファーメンター培養を行った。ジャーファーメンターの排気管に活性炭を直列に2本接続し、ジャーファーメンターに近いものを活性炭(1)、次を活性炭(2)とした。活性炭の後ろには硝酸を介して通気を行った。各活性炭および硝酸の元素測定結果を
図26に示した。
【0066】
この結果、添加したセレン酸の量から、元素態セレンおよび溶存セレンの量を引いた予想気化量に対して、前部に接続した活性炭(1)で79.9%、後部に接続した活性炭(2)で7.6%の気体セレンが吸着していることがわかった。このうち活性炭(1)においては59.5%が、活性炭(2)においては14.6%がDMDSeであることをGC-MSにより確認した。DMSSeのピークも検出されたことから、残りはDMSSeであると考えられた。これらの活性炭の後に接続した硝酸トラップからはセレンは検出されておらず、ほぼすべての気体セレンが活性炭に吸着されたものと考えられる。2本の活性炭による吸着量は合計で87.5%となる。約10%の誤差は、活性炭からのジエチルエーテルによる抽出効率や、抽出操作中のメチル化Seの揮発などの影響が考えられる。活性炭を用いて微生物由来のメチル化セレンを回収した前例はなく、本結果は高効率で活性炭によりメチル化セレンを濃縮回収した初めての知見である。
また活性炭による吸着において、水蒸気による脱離も考えられることから、活性炭による吸着操作の前段階において水蒸気を効率的にトラップすることで、活性炭による気体セレンの吸着効率が向上する可能性も考えられる。
【0067】
(2−5)通気制御による高濃度固体セレン回収
上記(2−1)において、通気を制御することで元素態セレンが蓄積するという結果が得られたことから、固体セレンの回収を試みた。セレン酸の終濃度が通常の10倍の5 mmol/Lになるように添加し、固体回収条件において培養を行った結果を
図27に示した。培養中、亜セレン酸濃度の減少が停止したため、途中で1 L/minの通気を行った。通気は還元速度の減少が観察された時間に行い、33時間目に1 L/min、250rpmの条件で10分間、50時間目に1 L/min、120rpmの条件で1時間、122時間目に1 L/min、250rpmの条件で8時間の通気を行った。
【0068】
培養後、168時間ですべての亜セレン酸が還元され、4.39 mmol/Lの元素態セレンが生成した。このときの回収率は87.9%であり、0.5 mmol/Lのセレン酸を添加し同条件で培養を行った場合の87.8%とほぼ同等の回収率が得られた。
【0069】
亜セレン酸の還元が終了した培養168時間目に培養液を全量回収し、エタノールにて洗浄後、乾燥させた。この乾燥した回収物をSe汚泥とし、セレン含有量を測定した。この結果、乾燥重量当たり47.1%(w/w)のセレンを含有していることがわかった(表3)。本プロジェクトにおける目標値は30%であり、目標値は達成することができた。
【0070】
【表3】
【0071】
実施例3:実排水からのSe回収の検討
(1)材料と実験方法
(1−1)排水の分析
2種類のSe含有排水を、溶液試料1、溶液試料2とした。実験には溶液試A料2を使用した。測定は、溶液試料1、溶液試料2を1/10、 1/100希釈測定溶液を調製し、液性を整えたのち、 ICP-AESにより測定を行った。測定回数はn=3で行った。
【0072】
(1−2)固体回収の培養方法
5 L容ジャーファーメンターにTSB培地2700 mlを入れ、オートクレーブ処理を行った。38℃、250rpm、1 L/minの条件で1時間通気を行った。12時間前培養を行ったNT-I株の前培養液を遠心分離により集菌し、再懸濁してOD
660=1.0に調整後、ジャーファーメンターに30 ml(1%)接種した。38℃、pH9.0、250rpm、1 L/minの培養条件で培養を行った。培養開始12時間後に、溶液試料2(300 ml)を滅菌せずに本培養液に添加した。
【0073】
(1−3)気体回収の培養方法
5 L容ジャーファーメンターにTSB培地2700 mlを入れ、オートクレーブ処理を行った。38℃、250rpm、1 L/minの条件で1時間通気を行った。溶液試料2(300 ml)を滅菌せずに本培地に添加した。12時間前培養を行ったNT-I株の前培養液を遠心分離により集菌し、再懸濁してOD
660=1.0に調整後、ジャーファーメンターに30 ml(1%)接種した。38℃、pH9.0、250rpm、1 L/minの培養条件で120時間培養を行った。
【0074】
(1−4)各相の分析方法
測定試料の調製および、各相の測定方法は上記に従った。
【0075】
(2)結果と考察
(2−1)溶液試料の分析
溶液試料のSe含有量を表4に示した。溶液2について、イオンクロマトグラフィーによる定量を行ったところ、セレン酸が4.54 mmol/L、亜セレン酸が0.791 mmol/Lであった。この値は、ICP-AESによる測定結果5.53 mmol/Lとほぼ一致する。
Se含有排水としては、セレン酸の含有量が高いため、物理化学的方法では処理が難しい排水である。溶液試料1と溶液試料2は、同じ場所から採取したが、濃度は約5〜10 mmol/Lと約2倍の差が得られた。他の元素としてSiをはじめとしてほとんどの元素が、溶液試料1の濃度が溶液試料2よりも高いという結果が得られた。
【0076】
NT-I株は50 mmol/L の高濃度においても、セレン酸・亜セレン酸の還元能を維持することから、本排水に適用することは可能であると考えられた。他の元素としても、生育の阻害になるような元素は検出されておらず、微生物処理に適した排水であると言える。
【0077】
【表4】
【0078】
(2−2)実排水からのSe固体回収の検討
固体回収条件における培養の結果を
図28および表5に示した。固体回収条件において、排水から78.8%が固体Seとして回収された。モデル系においては、固体回収条件において87.7%の回収率が得られている。今回、モデル系と比較し回収率が若干低下したものの、高い回収率が得られた。セレン酸・亜セレン酸の還元についても非常に速やかであり、モデル系と遜色がなかった。これらの結果から、本排水からの固体Se回収が可能であると言える。
【0079】
回収点において、液体Seとして8.6%、予想される気体Seとして12.5%が存在している。このことから、固体Seからさらに反応が進行してメチル化による揮発化が進行している可能性が考えられる。今後、より高い固体Se回収率を得るためには、通気の制御などによるハンドリングの検討が必要であると考えられる。
【0080】
【表5】
【0081】
(2−3)実排水からのSe気体回収の検討
気体回収条件における培養の結果を
図29および表6に示した。気体回収条件において、排水から38.9%(実測値)が気体Seとして回収された。モデル系においては、気体回収条件において71.2%(実測値)の回収率が得られている。今回、モデル系と比較すると約半分の回収率であった。
セレン酸・亜セレン酸の還元についても非常に速やかであり、オキサニオンの還元においてはモデル系と遜色がなかった。回収時における固体の含有量は3.8%であり、モデル系における4.0%と同じ水準まで減少している。一方で、液体Seの含有量が非常に高く、モデル系の10.5%に比べ、排水では35.9%となっている。
【0082】
これらのことから、気体Seの回収率低下は、固体Seからのメチル化による揮発化において、液中にSeが残存していることに起因していると考えられる。モデル系と比べ、排水中には、KやCaといった元素が含まれている。これらの元素が影響している可能性が考えられる。
【0083】
【表6】
【0084】
【表7】
【0085】
実施例4:太陽光パネルからのSe回収の検討
実施例4では、最適化したジャーファーメンターを用いた培養系による、CIGS系(銅(Cu)とインジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)の化合物を材料とする薄膜状態の物質)の太陽光パネルの粉末試料を用いたセレン回収実験を行った。
【0086】
(1)材料と実験方法
(1−1)粉末試料の分析方法
マイクロウェーブ試料分解装置により、分解溶液を用いて試料溶液化を行った。分解溶液は濃硝酸4 ml、濃フッ化水素酸4 mlを用いた。また、レアアースの溶解を行うために、分解操作後、ホウ酸1 gを添加し、再度分解操作を行った。測定は、各試料の液性を整えたのち、原液測定試料、1/1000、 1/100000希釈測定溶液を調製し、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)(X-Series 2、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株))により測定を行った。測定回数はn=3で行った。
【0087】
(1−2)溶液試料1の調製と分析方法
粉末試料を1 g、電子天秤により秤量し、50 mlコーニングチューブに分取した。これに濃硝酸を5 ml分注し、試料を溶解した。更に10 mlピペッターにより95 mlの超純水を加え、全量100 mlとした。これを5分間、遠心分離(15,000rpm)にかけ、得られた上澄み溶液をディスクフィルター(0.2μm孔)によりフィルトレーションした。ここで得られた溶液を溶液試料1とし、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)(iCAP 6300 Duo、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株))で測定をした。ICP-AESでの測定は、各試料を1/10、 1/100、 1/1000希釈測定溶液を調製し、液性を整えたのち、 ICP-AESにより測定を行った。測定回数はn=3で行った。
【0088】
(1−3)溶液試料2および中和試料の作製
粉末試料を1 g、電子天秤により秤量し、50 mlコーニングチューブに分取した。これに濃塩酸を4 ml、濃硝酸を1 ml分注し、超音波で30分間試料を溶解した。更に10 mlピペッターにより95 mlの超純水を加え、全量100 mlとした。これを5分間、遠心分離(15,000rpm)にかけ、得られた上澄み溶液をディスクフィルター(0.2 μm孔)によりフィルトレーションした。ここで得られた溶液を溶液試料2とし、遠心分離にて得られた沈澱物を酸溶解残渣として、ICP-AESで測定をした。溶液試料2に5N 水酸化ナトリウム溶液を10 ml加え、遠心分離を行い、上清と沈澱に分けた。ここで得られた上清を中和溶液試料、沈澱を中和沈殿物として、ICP-AESで測定をした。ICP-AESでの測定は、各試料を1/10、 1/100希釈測定溶液を調製し、液性を整えたのち、 ICP-AESにより測定を行った。測定回数はn=3で行った。
【0089】
(1−4)固体回収の培養方法
5 L容ジャーファーメンターにTSB培地3000 mlを入れ、オートクレーブ処理を行った。38℃、250rpm、1 L/minの条件で1時間通気を行った。12時間前培養を行ったNT-I前培養液を遠心分離により集菌し、再懸濁後OD
660=1.0に調整後、30 ml(1%)接種した。38℃、pH9.0、250rpm、1 L/minの培養条件で培養を行った。培養開始12時間後に、溶液試料130 mlもしくは中和溶液試料40 mlを本培養液に添加し培養を行った。
【0090】
(1−5)気体回収の培養方法
5 L容ジャーファーメンターにTSB培地3000 mlを入れ、オートクレーブ処理を行った。38℃、250rpm、1 L/minの条件で1時間通気を行った。溶液試料1(30 ml)もしくは溶液試料2(35 ml)または中和溶液試料40 mlを滅菌せずに本培地に添加した。12時間前培養を行ったNT-I前培養液を遠心分離により集菌し、再懸濁後OD
660=1.0に調整後、30 ml(1%)接種した。38℃、pH9.0、250rpm、1 L/minの培養条件で培養を行った。
【0091】
(1−6)各相の分析方法
測定試料の調製および、各相の測定方法は上記に従った。また硝酸イオン、亜硝酸イオンの定量はイオンクロマトグラフィー(ICS-1100、日本ダイオネクス(株))を用い、測定方法は上記に従った。
【0092】
(1−7)付着物の回収と測定
気体回収条件において容器壁面についた付着物を回収し、元素分析を行った。分取したサンプルは沈澱試料の測定と同様の方法で溶解し、ICP-AESによる分析を行った。
【0093】
(2)結果と考察
(2−1)粉末試料および溶液試料の分析結果
粉末試料のSe組成、溶液試料のSe組成を、表8に示した。溶液試料について、イオンクロマトグラフィーによる定量を行ったところ、セレン酸は検出されず、亜セレン酸が45.5 mmol/Lであった。この値は、ICP-AESで定量した値44.9 mmol/Lとほぼ一致した(表8)
【0094】
【表8】
【0095】
微生物と反応させるため、粉末試料を酸溶解した組成結果を表9に、溶液試料2を中和した組成結果を表9に示した。中和処理と遠心分離することにより、Se、 Gaは上清に、In、 Cuは沈殿に分別することができた。
【0096】
【表9】
【0097】
(2−2)溶液試料1からのSe固体回収の検討
溶液試料1からの固体回収条件における培養の結果を
図30および表10に示した。固体回収条件において、溶液試料1から27.5%が固体Seとして回収された。モデル系においては、固体回収条件において87.7%の回収率が得られていることから、回収率が低下していることがわかる。特に亜セレン酸の還元が明らかに阻害されている。この原因として粉末試料の溶解に使用した硝酸の影響や、共存するCIGS系の他の金属元素による影響が考えられた。硝酸・亜硝酸の挙動を
図31に示す。硝酸が還元され精製した亜硝酸が還元され、それと並行するように亜セレン酸の還元が徐々に進んでいることがわかる。このことから硝酸の存在が、亜セレン酸の還元に何らかの影響を及ぼしていると考えられる。
【0098】
【表10】
【0099】
(2−3)中和溶液試料からのSe固体回収の検討
硝酸の影響を抑えるために、硝酸の濃度を減らして粉末試料を溶解した。また、他の金属元素の影響を除くために、中和を行った中和溶液試料を用いて培養を行った。中和試料からの固体回収条件における培養の結果を
図32および表11に示した。固体回収条件において、中和溶液試料から60.0%が固体Seとして回収された。中和溶液試料においては、亜セレン酸の還元は非常に速やかであり、溶液試料1に比べ回収率が約2.2倍に向上した。
【0100】
培養中、溶液試料1においては、培養液が黒茶色に変色する現象が観察された。中和溶液試料を用いた場合には、この現象は確認されなかったことから、中和によりCuやInが除去されたことで回収率が向上した可能性も考えられる。
【0101】
今回、中和試料からの回収において、元素態セレンの最大濃度0.39 mmol/Lは、添加濃度の60.0%であり、その後元素態セレンは減少し120時間では23.8%にまで減少した。モデル系においては、元素態セレンの回収率は最大で87.8%で133時間では75.7%まで減少していることから、モデル系に比べ減少量が大きく気体セレンの生成が進んでいると考えられる。気体セレンの生成には通気が大きく影響することから、基質添加前の12時間の培養における通気の制御などを工夫することで元素態セレンの減少を防ぎ、回収率を向上できる可能性がある。
【0102】
【表11】
【0103】
実施例4におけるジャーファーメンターを用いた培養系による、CIGS系(銅(Cu)とインジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)の化合物を材料とする薄膜状態の物質)の太陽光パネルの粉末試料を用いたレアメタル回収のまとめを
図39に示す。
【0104】
(2−4)溶液試料からのSe気体回収の検討
溶液試料1からの気体回収条件における培養の結果を
図33および表12に示した。気体回収条件において、溶液試料1から11.9%(実測値)が気体Seとして回収された。モデル系においては、気体回収条件において71.2%(実測値)の回収率が得られていることから、回収率が非常に低下している。
しかし、ここでは、固体回収条件において見られた、亜セレン酸の還元への阻害は観察されなかった。
図34に示した硝酸・亜硝酸の挙動においては、硝酸は速やかに還元されるものの、亜硝酸は還元されないことがわかった。
【0105】
亜セレン酸還元が速やかに進んでいる一方で、気体Seの回収率は非常に低い。元素態セレンの測定においては、その値が不安定であったことから、生成した固体Seが均一に分散されず凝集が起こっている可能性が考えられた。固体Seが凝集することにより、気体セレンの生成が抑制された可能性も考えられる。
【0106】
【表12】
【0107】
(2−5)溶液試料2からのSe気体回収の検討
溶液試料2からの気体回収条件における培養の結果を
図35および表13に示した。気体回収条件において、溶液試料2から14.4%(実測値)が気体Seとして回収された。モデル系においては、気体回収条件において71.2%(実測値)の回収率が得られていることから、溶液試料1に比べ若干改善したものの回収率は依然として低い。
この結果から、Se気体回収においては、硝酸濃度よりも、共存するCuやInといった金属元素の存在が悪影響していることが示唆された。
【0108】
【表13】
【0109】
(2−6)中和溶液試料からのSe気体回収の検討
中和溶液試料からの気体回収条件における培養の結果を
図36および表14に示した。気体回収条件において、中和溶液試料から44.3%(実測値)が気体Seとして回収された。中和溶液試料を用いた回収においては、溶液試料1に比べ回収率が約3.7倍に向上した。
この原因としては、中和によりCuやInが除去されたことで、溶液試料1からの気体セレン回収実験において観察されたような凝集が解消され、気体セレンが生成し易くなっためであると考えられる。元素態セレンの測定においても、CuやInが原因と思われる凝集による不均一が原因と考えられる元素態セレンの測定値のばらつきは観察されなかった。
モデル系の気体Se回収率(71.1%)に比べ、回収率が低いものの、より厳密に阻害金属元素を除去することで、回収率はさらに向上するものと考えられる。
【0110】
【表14】
【0111】
実施例5:
実施例5では、ジャーファーメンターを用いた培養系による、Seを含む太陽光パネル廃棄物を用いたSe回収実験を行った。
【0112】
(1)材料と実験方法
(1−1)粉末試料の作製と分析方法
Seを含む廃棄物粉末試料0.25 gを分取し、分解溶液として濃硝酸10 mlを用いた。マイクロウェーブ試料分解装置により、分解溶液を用いて試料溶液化を行った。測定は、各試料の液性を整えたのち、原液測定試料、1/1000、 1/100000希釈測定溶液を調製し、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)(iCAP 6300 Duo、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株))により測定を行った。測定回数はn=3で行った。
【0113】
(1−2)溶液試料の調製と分析方法
粉末試料を2 g、電子天秤により秤量し50 mlコーニングチューブに分取した。これに濃硝酸1 mlずつ1000 ul可変式マイクロピペッターを用いて10 ml分注し、試料を溶解した。更に10 mlピペッターにより20 mlの超純水を加え、全量30 mlとした。これを5分間、遠心分離(15,000rpm)にかけ、得られた上澄み溶液をディスクフィルター(0.2 μm孔)によりフィルトレーションした。ここで得られた溶液を酸溶解試料とし、遠心分離にて得られた沈澱物を酸溶解残渣として、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)(iCAP 6300 Duo、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株))で測定をした。得られた酸溶解試料に5N水酸化ナトリウム溶液を30 ml加えた。生成された沈殿物除去のため、5分間遠心分離(15,000rpm)にかけ、上澄み溶液と沈殿物を分離した。ここで得られた沈殿物を中和沈殿物とした。 ここで得られた上澄み溶液はディスクフィルター(0.2 μm孔)を用いてフィルトレーションを行った。
【0114】
上記までの操作を3回繰返し、各溶液を混合し、全量150 mlの溶液試料を調製した。溶液試料の測定は、各試料を1/10、 1/100、 1/1000希釈測定溶液を調製し、液性を整えたのち、 ICP-AESにより測定を行った。測定回数はn=3で行った。
【0115】
(1−3)固体回収の培養方法
5 L容ジャーファーメンターにTSB培地3000 mlを入れ、オートクレーブ処理を行った。
38℃、250rpm、1 L/minの条件で1時間通気を行った。12時間前培養を行ったNT-I前培養液を遠心分離により集菌し、再懸濁後OD
660=1.0に調整後、30 ml(1%)接種した。38℃、pH9.0、250rpm、1 L/minの培養条件で培養を行った。培養開始12時間後に、溶液試料50 mlを本培養液に添加し培養を行った。
【0116】
(1−4)気体回収の培養方法
5 L容ジャーファーメンターにTSB培地3000 mlを入れ、オートクレーブ処理を行った。38℃、250rpm、1 L/minの条件で1時間通気を行った。溶液試料50 mlを滅菌せずに本培地に添加した。12時間前培養を行ったNT-I前培養液を遠心分離により集菌し、再懸濁後OD
660=1.0に調整後、30 ml(1%)接種した。38℃、pH9.0、250rpm、1 L/minの培養条件で培養を行った。
【0117】
(1−5)各相の分析方法
測定試料の調製および、各相の測定方法は上記に従った。
【0118】
(2)結果と考察
(2−1)粉末試料の分析結果および溶液試料の調製と調整過程における各元素濃度の変化
粉末試料の測定を行った結果、セレンを含む廃棄物の主成分であるSeが検出された。Se濃度は、908 mmol/kgであった。
溶液試料のSe濃度は30.6 mmol/Lであり、イオンクロマトグラフィーによる定量を行ったところ、セレン酸は検出されず、亜セレン酸が28.6 mmol/Lであることがわかった。
【0119】
(2−2)溶液試料からのSe固体回収の検討
固体回収条件における培養の結果を
図37および表15に示した。固体回収条件において、廃棄物の溶解溶液から83.6%が固体Seとして回収された。モデル系においては、固体回収条件において87.7%の回収率が得られていることから、モデル系と同程度の高い回収率が得られた。セレン酸・亜セレン酸の還元についても非常に速やかであり、本Seを含む廃棄物からの固体Se回収が可能であると言える。
【0120】
【表15】
【0121】
(2−3)溶液試料からのSe気体回収の検討
気体回収条件における培養の結果を
図38および表16に示した。21.1%(実測値)が気体セレンとして回収された。モデル系においては、気体回収条件において71.2%(実測値)の回収率が得られており、モデル系と比較すると約3分の1の回収率であった。
セレン酸・亜セレン酸の還元については非常に速やかであり、オキサニオンの還元においてはモデル系と遜色がなかった。固体Seの減少も速やかであり、気体回収時(48h)における固体Seは12.7%であるものの、144時間目には4.0%まで減少しており、モデル系における4.0%と同じ水準であると言える。一方で、液体Seの含有量が非常に高く、気体回収時(48h)における液体Seは49.5%で、144時間目でも53.9%となり、モデル系の10.5%に比べ非常に高くなっている。
【0122】
以上の結果から、気体Seの回収率低下は、固体Seからのメチル化による揮発化において、液中に未同定のSeが残存していることに起因していると考えられる。この原因としては、溶液試料中に残存している廃棄物由来の元素が影響している可能性が考えられる。
【0123】
【表16】
【0124】
実施例6:
上記の実施例において生成した元素態セレンの写真を
図40に示す。
【0125】
実施例7:CIGS太陽電池粉末からのレアメタル回収試算
CIGS太陽電池粉末からのレアメタル回収試算を
図41に示す。