特許第5875135号(P5875135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5875135
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】RI製造装置
(51)【国際特許分類】
   G21G 1/10 20060101AFI20160218BHJP
【FI】
   G21G1/10
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-45283(P2011-45283)
(22)【出願日】2011年3月2日
(65)【公開番号】特開2012-181145(P2012-181145A)
(43)【公開日】2012年9月20日
【審査請求日】2013年4月12日
【審判番号】不服2014-17373(P2014-17373/J1)
【審判請求日】2014年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117499
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 誠
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀樹
【合議体】
【審判長】 森林 克郎
【審判官】 川端 修
【審判官】 今浦 陽恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−127901(JP,A)
【文献】 特開2007−95553(JP,A)
【文献】 特開2010−223944(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/129157(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21G 1/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を加速させる加速器と、
前記加速器で加速された前記荷電粒子が照射されて放射性同位元素を製造するターゲットと、
前記加速器及び前記ターゲットを取り囲んで放射線を遮蔽する壁体である自己シールドと、
前記自己シールドによって囲まれるように形成された内部空間において前記自己シールドと前記加速器との間に配置され、前記ターゲットを取り囲んで放射線を遮蔽する壁体であるターゲットシールドと、を備え、
前記自己シールドは複数のパーツからなり、前記複数のパーツのうちの少なくとも一つは移動可能な構成とされ、
前記ターゲットシールドは、
開閉可能な扉を有し、
前記扉を閉じた状態において、前記扉と当該扉に隣接する他の部材とのつなぎ目である面が、前記自己シールドの前記複数のパーツ同士のつなぎ目である面とずれた位置に形成され、同一平面上に配置されないように構成されている
ことを特徴とするRI製造装置。
【請求項2】
前記ターゲットシールドは、
ガンマ線を遮蔽するガンマ線遮蔽板と、
当該ガンマ線遮蔽板の前記ターゲット側に配置され、中性子線を遮蔽する中性子線遮蔽板と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のRI製造装置。
【請求項3】
前記ターゲット内の放射性同位元素を導出する導出管を通過させる切欠き部が、前記ターゲットシールドの下面側に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のRI製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RI(放射性同位元素)製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばポジトロン断層撮影(PET;Positron Emission Tomography)に用いる、放射性元素で標識された検査用薬剤の製造や、放射線治療においては、サイクロトロン等の粒子加速器が使用される。粒子加速器の稼動時には、中性子線やガンマ線などの放射線が発生するため、放射線を遮蔽する必要がある。
【0003】
放射線の遮蔽は、従来より、粒子加速器が設置される建屋自体を放射線遮蔽壁体により被覆することで行ってきたが、近年、建屋の重量及びコストの低減を図る観点から、粒子加速器自体を放射線遮蔽壁体により取り囲んで遮蔽する、いわゆる自己シールド型の粒子加速器システムが開発されてきている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の加速器システムでは、加速器自体を取り囲む自己シールド(放射線遮蔽壁体)が、固定側の放射線遮蔽壁体と可動側の放射線遮蔽壁体とに分割されて形成され、可動側の放射線遮蔽壁体を移動させて内部を開放できるように構成されている。例えば、加速器であるサイクロトロンをメンテナンスするときは、可動側のブロックを移動させて内部を開放することで、容易に内部にアクセスできるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−127901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
RIを製造するRI製造装置のターゲットは、直接、荷電粒子ビームに曝されるため、日々の運転により放射化が進行する。放射化が進行すると、運転停止後(荷電粒子ビームの照射停止後)であってもターゲットから放射線が放射されるため、自己シールド内部に設けられたターゲット以外の機器のメンテナンスの際には放射線の減衰を待ってから自己シールドを開放する必要があった。そのため、運転停止時間が長くなるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、自己シールド内に配置された機器のメンテナンスの際に、放射化されたターゲットからの被爆のおそれを低減することができ、放射線の減衰のための待機時間を短縮することが可能なRI製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のRI製造装置は、荷電粒子を加速させる加速器と、加速器で加速された荷電粒子が照射されて放射性同位元素を製造するターゲットと、加速器及びターゲットを取り囲んで放射線を遮する壁体である自己シールドと、自己シールドによって囲まれるように形成された内部空間において自己シールドと加速器との間に配置され、ターゲットを取り囲んで放射線を遮蔽する壁体であるターゲットシールドと、を備え、自己シールドは複数のパーツからなり、複数のパーツのうちの少なくとも一つは移動可能な構成とされ、ターゲットシールドは、開閉可能な扉を有し、扉を閉じた状態において、扉と当該扉に隣接する他の部材とのつなぎ目である面が、自己シールドの複数のパーツ同士のつなぎ目である面とずれた位置に形成され、同一平面上に配置されないように構成されていることを特徴としている。
【0009】
このように構成されたRI製造装置によれば、自己シールドより内側に、ターゲットを取り囲んで放射線を遮蔽する壁体であるターゲットシールドを備える構成であるため、放射化されたターゲットから放射される放射線を遮蔽することができる。そのため、自己シールドを開放しても、ターゲットからの放射線はターゲットシールドによって遮蔽されるため、自己シールドより内側に配置されたターゲット以外の機器をメンテナンスする際には、放射線の減衰を待たずに作業を行うことが可能であり、作業者の被爆のおそれを低減することができる。また、自己シールドより内側にターゲットシールドを備える構成であるため、ターゲットシールドよりも外側に配置された自己シールドは、従来よりも少ない遮蔽材料で従来と同じ遮蔽効果を生むことになる。
また、このRI製造装置においては、自己シールドは複数のパーツからなり、複数のパーツのうちの少なくとも一つは移動可能な構成とされ、ターゲットシールドは、開閉可能な扉を有し、扉を閉じた状態において、扉と当該扉に隣接する他の部材とのつなぎ目である面が、自己シールドの複数のパーツ同士のつなぎ目である面とずれた位置に形成され、同一平面上に配置されないように構成されている。このように、ターゲットシールドに扉が設けられていると、内側に配置されたターゲットをメンテナンスする際には、扉を開放することで容易にアクセスすることが可能であるため、ターゲットの交換作業などのメンテナンス作業を容易とすることが可能となる。また、ターゲットシールドの扉のつなぎ目と、外側の自己シールドのつなぎ目とが、ずれた位置に配置されることで、上記の両方のつなぎ目が同一平面上に配置されることを回避して、つなぎ目からの放射線の透過のおそれを防止することができる。
【0010】
ここで、ターゲットシールドは、ガンマ線を遮蔽するガンマ線遮蔽板と、当該ガンマ線遮蔽板のターゲット側に配置され、中性子線を遮蔽する中性子線遮蔽板と、を備える構成であることが好適である。このようにターゲット側に中性子線遮蔽板を備え、その外側にガンマ線遮蔽板を備える構成であると、中性子線が中性子線遮蔽板に当たることで発生するガンマ線を外側のガンマ線遮蔽板によって遮蔽することができる。
【0012】
また、ターゲット内の放射性同位元素を導出する導出管を通過させる切欠き部が、ターゲットシールドの下面側に設けられていることが好ましい。ターゲット内に収容されている放射性同位元素は、導出管を通過してRI製造装置の外部まで導出される。このとき、放射線を遮蔽する必要が少ないターゲットの下面側に、導出管を通過させる切欠き部が設けられていると、この切欠き部を通過した放射線は、床面に当たって反射することで減衰されること、さらに、反射することで距離が増加して距離による減衰が大きくなることにより、作業者の被爆のおそれを低減される。また、作業者がメンテナンスの際にターゲットシールドの直下に入り込む必要もなく、下方に直進する放射線による被曝を考慮する必要もないことから、ターゲットの底面側を覆う放射線遮蔽壁体がない場合でも特に問題にならない。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によれば、ターゲットを取り囲んで放射線を遮蔽するターゲットシールドを備えているため、自己シールドを開放した場合であっても放射化されたターゲットからの被爆のおそれを低減することができ、自己シールド内に配置されたターゲット以外の機器のメンテナンスの際に、放射線の減衰のための待機時間を短縮することができ、運転停止時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るRI製造装置のXY面に沿った断面図である。
図2】本発明の実施形態に係るRI製造装置のZX面に沿った断面図である。
図3】本発明の実施形態に係るRI製造装置のXY面に沿った断面図であり、ターゲットシールドが開放された状態を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係るRI製造装置の加速器を示す斜視図である。
図5】本発明の実施形態に係るRI製造装置のターゲットシールド(左側)を拡大して示す断面図である。
図6】本発明の実施形態に係るRI製造装置のターゲットシールド(右側)を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明によるRI製造装置の好適な実施形態について、図1図6を参照しながら説明する。なお、図面の説明において、同一又は相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、図面の位置関係に基づくものとする。
【0016】
(RI製造装置)
図1は、本発明の実施形態に係るRI製造装置の断面図である。本実施形態に係るRI製造装置1は、放射性同位元素(RI)を製造するものである。RI製造装置1は、例えばPET用サイクロトロンとして使用可能であり、RI製造装置1で製造されたRIは、例えば放射性同位元素標識化合物(RI化合物)である放射性薬剤(放射性医薬品を含む)の製造に用いられる。病院等のPET検査(陽電子断層撮影検査)に使用される放射性同位元素標識化合物としては、18F−FLT(フルオロチミジン)、18F−FMISO(フルオロソニダゾール)、11C−ラクロプライド等がある。
【0017】
RI製造装置1は、いわゆる自己シールド型の粒子加速器システムであり、荷電粒子を加速させる加速器(サイクロトロン)2と、この加速器2を取り囲んで放射線を遮蔽するための放射線シールド(壁体)である自己シールド6とを備えている。自己シールド6によって囲まれるように形成された内部空間Sには、加速器2の他に、RIを製造するために用いられるターゲット3、加速器2の内部を真空にするための真空ポンプ4などが配置されている。さらに、内部空間には、加速器2の運転に必要な付属品、ターゲット3内のRIを装置外に導出するための導出チューブ(図示せず)、ターゲット3の冷却に用いられる付属機器などが配置されている。
【0018】
(加速器)
加速器2は、図4に示すように、いわゆる縦型のサイクロトロンであり、一対の磁極22と、真空箱23と、これらの一対の磁極22及び真空箱23を取り囲む環状のヨーク24とを有している。一対の磁極22は、一部が真空箱23内で上面同士が所定間隔空けて対面している。これらの一対の磁極22の隙間内で、水素イオン等の荷電粒子が多重加速される。真空ポンプ4は、加速器2内の真空環境を維持するために使用されるものであり、例えば加速器2の側部に固定されている。
【0019】
(ターゲット)
ターゲット3は、加速器2から照射された荷電粒子ビームを受けてRIを製造するためのものであり、内部に原料(例えばターゲット水)を収容する収容部が形成されている。ターゲット3は、一般的に、図1及び図2に示すように加速器2の側部に固定されている。ターゲット3は、荷電粒子ビームに最も曝される部位であり、運転中に放射化され運転停止後であっても放射線を放出するようになる。本実施形態のRI製造装置1では、複数のターゲット3を備えている。ターゲット3は、加速器2を挟んで図示X方向の両側に配置されている。例えば、図示左側に配置されたターゲット3(3A)は上段側に配置され、図示右側に配置されたターゲット3(3B)は下段側に配置されている(図2参照)。導出チューブは、ターゲット3の収容部に連通すると共に接続され製造されたRIをRI製造装置1外へ導出する流体通路を形成している。
【0020】
(自己シールド)
自己シールド6は、図1図3に示すように、複数のパーツからなり、複数のパーツとしてリア壁体62とフロント壁体63とを備えている。リア壁体62は、加速器2の背面側を覆うように配置されている。リア壁体62は、例えば、加速器2の背面の全部、加速器2の側部の両側のうち背面側の半分、加速器2の天井側の面のうち背面側の半分を覆うように形成されている。
【0021】
フロント壁体63は、加速器2の正面側を覆うように配置されている。フロント壁体63は、例えば、加速器2の正面の全部、加速器2の側部の両側のうち正面側の半分、加速器2の天井側の面のうち正面側の半分を覆うように形成されている。リア壁体62とフロント壁体63とは、加速器2を挟んで互いに対向して配置され、加速器2及びターゲット3などを取り囲んで放射線を遮蔽する壁体である。
【0022】
リア壁体62は、床面に固定された固定側の放射線遮蔽壁体として機能し、フロント壁体63は、床面上を移動可能な可動側の放射線遮蔽壁体として機能する。可動側の放射線遮蔽壁体は、固定側の放射線遮蔽壁体に対して接近、離間するように移動可能な構成とされている。なお、リア壁体62及びフロント壁体63のうち少なくとも一方を移動可能な構成とすればよく、両方を移動可能な構成としてもよい。自己シールド6は、リア壁体62及びフロント壁体63とは異なる他の放射線遮蔽壁体を備える構成でもよい。フロント壁体63の移動には、レールとローラーとによる移動機構などを用いることができる。
【0023】
自己シールド6を構成する放射線遮蔽壁体は、主にコンクリートによって構成されている。具体的には、金属製の枠体内に、コンクリートが充填されている。使用されるコンクリートとしては、放射線遮蔽能の観点から比重の大きいコンクリート、例えば、磁鉄鋼などの比重が大きい骨材を使用した高密度の遮蔽用コンクリートを使用することが好適である。また、コンクリートの内面側に、鉛、ポリエチレンなどの他の放射線遮蔽材料を備える構成としてもよい。
【0024】
(ターゲットシールド)
ここで、本実施形態に係るRI製造装置1は、自己シールド6と加速器2との間に配置され、ターゲット3を取り囲んで放射線を遮蔽する壁体であるターゲットシールド7,8を備えている。ターゲットシールド7は、左側の側部に配置されたターゲット3A(3)を覆うように形成されターゲット3Aからの放射線を遮蔽する。ターゲットシールド8は右側の側部に配置されたターゲット3B(3)を覆うように形成され、ターゲット3Bからの放射線を遮蔽する。ターゲット3A,3Bからの放射線としては、運転中において核反応により生じる中性子線、ガンマ線があり、運転停止後において放射化されたターゲット3A,3B自体から発生するガンマ線がある。
【0025】
ターゲットシールド7は、ターゲット3Aの正面側を覆う正面板71、ターゲット3Aの側面側を覆う側面板72、ターゲット3Aの背面側を覆う背面板73、ターゲット3Aの上面側を覆う天板74、及びターゲット3Aの底面側を覆う底板75を備えている。正面板71及び背面板73は、ターゲット3Aを挟んで図示Y方向に対向して配置されている。また、正面板71は、図1に示すように、外側の端部が内側の端部(加速器2側の端部)よりも後方に配置されるように傾斜している。側面板72は、ターゲット3Aを挟んで加速器2と対向して配置されている。天板74及び底板75は、ターゲット3Aを挟んで図示Z方向に対向して配置されている。
【0026】
ターゲットシールド8は、ターゲット3Bの正面側を覆う正面板81、ターゲット3Bの側面側を覆う側面板82、ターゲット3Bの背面側を覆う背面板83、及びターゲット3Bの上面側を覆う天板84を備えている。正面板81及び背面板83は、ターゲット3Bを挟んで図示Y方向に対向して配置されている。また、正面板81は、図1に示すように、外側の端部が内側の端部(加速器2側の端部)より後方に配置されるように傾斜している。側面板82は、ターゲット3Bを挟んで、加速器2と対向して配置されている。天板84及び底板85は、ターゲット3Bを挟んで図示Z方向に対向して配置されている。
【0027】
ターゲットシールド8では、底面側には、放射線遮蔽壁体が配置されていない。また、ターゲットシールド8では、図1に示すように、ターゲット3Bの背面に配置された真空ポンプ4の背面側に背面板83が配置されている。ターゲットシールド8によって囲まれた空間に真空ポンプ4が配置されているが、背面板83は、ターゲット3Bと真空ポンプ4との間に配置されていてもよい。また、ターゲットシールド8によって囲まれる空間内にターゲット3以外の部品を配置する場合には、上下方向Zにおいて、ターゲット3に対応する部分にのみ放射線遮蔽壁体を配置する構成でもよい。ターゲットシールド8の側面板82は、前後方向Yにおいて複数(本実施形態では2つ)に分割されている構成でもよい。
【0028】
なお、ターゲットシールドの形状及び配置は、上記のもの限定されず、その他のターゲットシールドでもよい、要は、ターゲット3(3A,3B)を取り囲むように配置され、ターゲット3から生じる放射線を遮蔽可能な構成であればよい。例えば、天板71,81及び/又は底板75を備えていない構成でも良い。水平面(XY平面)と交差する面に進行する放射線を遮蔽する壁体であるターゲットシールドでもよい。
【0029】
(ターゲットシールド:2重構造)
図5は、ターゲットシールド7を拡大して示す断面図である。ターゲットシールド7は、図5に示すように、ガンマ線を遮蔽するガンマ線遮蔽板(71A,72A,73A)と、ガンマ線遮蔽板のターゲット3側に配置され、中性子線を遮蔽する中性子線遮蔽板(71B,72B,73B)とを備えている。正面板71は、板厚方向の外側に配置されたガンマ線遮蔽板71Aと、内側に配置された中性子線遮蔽板71Bとが積層されて構成されている。側面板72は、板厚方向の外側に配置されたガンマ線遮蔽板72Aと、内側に配置された中性子線遮蔽板72Bとが積層されて構成されている。背面板73は、板厚方向の外側に配置されたガンマ線遮蔽板73Aと、内側に配置された中性子線遮蔽板73Bとが積層されて構成されている。同様に、天板74及び底板75も、ガンマ線遮蔽板と中性子線遮蔽板とが積層されて構成されている。
【0030】
図6は、ターゲットシールド8を拡大して示す断面図である。ターゲットシールド8は、図6に示すように、ガンマ線を遮蔽するガンマ線遮蔽板(81A,82A,83A)と、ガンマ線遮蔽板のターゲット3側に配置され、中性子線を遮蔽する中性子線遮蔽板(81B,82B,83C)とを備えている。正面板81は、板厚方向の外側に配置されたガンマ線遮蔽板81Aと、内側に配置された中性子線遮蔽板81Bとが積層されて構成されている。側面板82は、板厚方向の外側に配置されたガンマ線遮蔽板82Aと、内側に配置された中性子線遮蔽板82Bとが積層されて構成されている。背面板83は、板厚方向の外側に配置されたガンマ線遮蔽板83Aと、内側に配置された中性子線遮蔽板83Bとが積層されて構成されている。同様に、天板84も、ガンマ線遮蔽板と中性子線遮蔽板とが積層されて構成されている。
【0031】
中性子線遮蔽板は、例えば、ボルトナットを用いてガンマ線遮蔽板の内側(ターゲット3側の面)に固定されている。中性子線を遮蔽する放射線遮蔽材料としては、ポリエチレン(PE)、水(HO)などが挙げられる。ガンマ線を遮蔽する放射線遮蔽材料としては、鉛(Pb)、タングステン(W)などが挙げられる。また、ガンマ線を遮蔽する放射線遮蔽材料としては、鉄(Fe)以上の密度を有する物質でもよい。放射線遮蔽材料としては、その他の材料を用いてもよい。
【0032】
(ターゲットシールド:扉)
図3は、ターゲットシールドの扉が開放された状態を示す図である。図3に示すように、ターゲットシールド7,8は開閉可能な扉7D,8Dを有する構成である。ターゲットシールド7では、正面板71、側面板72、天板74及び底板75が一体的に形成され、開閉可能な扉7Dとして機能する。ターゲットシールド8では、正面板81、側面板82及び天板84が一体的に形成され、開閉可能な扉8Dとして機能する。
【0033】
ターゲットシールド7の扉7Dは、ヒンジ78を有し、Z軸方向に延在する中心軸周りに揺動可能な構成とされている。ターゲットシールド8の扉8Dは、ヒンジ88を有し、Z軸方向に延在する中心軸周りに揺動可能な構成とされている。また、扉7D,8Dの構成は、ヒンジ78,88を備える構成に限定されず、例えば、ターゲットシールド7,8の壁体の一部がスライドすることで、開閉されるものでもよい。
【0034】
また、図1に示すように、扉7Dを閉じた状態において、ターゲットシールド7の扉7Dと背面板73とのつなぎ目(接合面)F1は、自己シールド6のパーツ同士(リア壁体62,フロント壁体63)のつなぎ目F2とずれた位置に形成され、同一直線上に配置されないように構成されている。同様に、扉8Dを閉じた状態において、ターゲットシールド8の扉8Dと他の部材とのつなぎ目は、自己シールド6同士のつなぎ目F4とずれた位置に形成され、同一直線上に配置されないように構成されている。
【0035】
(ターゲットシールド:切欠き部)
また、ターゲットシールド7には、製造されたRIをターゲット3から抜き出すための導出管を通過させる切欠き部75aが形成されている。この切欠き部75aは、ターゲットシールド7の下面側に設けられていることが好適である。本実施形態のターゲットシールド7では、底板75に、切欠き部75aが設けられ、導出管はこの切欠き部75aを通り、ターゲットシールド7外へ導出されている。導出管は、床面に設けられたピット内を通じて、RI製造装置外へ送り出される。
【0036】
(作用)
次にこのように構成されたRI製造装置1の作用について説明する。まず、加速器2によって荷電粒子が加速され、荷電粒子ビームがターゲット3へ照射される。ターゲット3の収容部内のターゲット水は、荷電粒子ビームが照射されて核反応しRIを製造する。製造されたRIは導出管内を流れRI製造装置1外に送られる。例えば、製造されたRIは、RI化合物を合成するための放射性化合物合成装置(RI化合物合成装置)へ供給される。RI化合物合成装置で合成されたRI化合物は、放射性薬剤濃縮装置へ供給されて濃縮され放射性薬剤(製品)として回収される。
【0037】
また、運転中において、自己シールド6及びターゲットシールド7,8は閉じられた状態で使用される。RI製造装置1の運転において、ターゲット3で発生した放射線は、ターゲットシールド7,8によって遮蔽されると共に、自己シールド6によって遮蔽されることになる。
【0038】
続いて、運転停止状態において、RI製造装置1のメンテナンスを実施する場合には、自己シールド6のフロント壁体63を移動させて、内部を開放する。このとき、ターゲットシールド7,8は、閉じられている状態であるため、ターゲット3が放射化されている場合であっても、ターゲット3から発生する放射線は、ターゲットシールド7,8によって遮蔽されることになる。これにより、ターゲット3以外の機器類を整備する場合には、ターゲット3からの放射線の減衰を待つことなく、メンテナンス作業を開始することができる。そのため、従前のようにターゲット3からの放射線の減衰を待つ必要がないため、メンテナンス作業のための運転停止時間を短縮することができる。
【0039】
このように本実施形態のRI製造装置1では、ターゲット3を取り囲んで放射線を遮蔽するターゲットシールド3を備えているため、放射化されたターゲット3から放射される放射線を遮蔽することが可能である。そのため、作業者の被爆のおそれを低減することができる。また、自己シールド6よりも内側に、ターゲットシールド7,8を備える構成であるため、ターゲットシールド7,8よりも外側に配置された自己シールド6は、従来よりも少ない遮蔽材料で従来と同じ遮蔽効果を生むことになり、遮蔽材料の使用量を削減することができる。
【0040】
また、ターゲットシールド7,8は、ガンマ線遮蔽板の内側(ターゲット3側)に、中性子線遮蔽板が設けられているため、ターゲット3からの中性子線が中性子線遮蔽板に当たることで発生するガンマ線を外側のガンマ線遮蔽板によって遮蔽することができる。
【0041】
また、ターゲットシールド7,8は、扉を有する構成であるため、ターゲット3をメンテナンスする際には、扉を開放することで容易にアクセスすることができる。また、ターゲットシールド7,8と隣接する部材とのつなぎ目と、自己シールド6同士のつなぎ目とが同一直線上に配置されないように構成されているため、放射線遮蔽壁のつなぎ目から放射線が透過するおそれを抑制することができる。
【0042】
また、ターゲットの底板75に切欠き部75aが設けられ、この切欠き部75aは、導出管を通過させるための開口部として利用されている。このように、導出管を通過させる切欠き部が、ターゲット3の底面側に設けられていると、この切欠き部を通過した放射線が、床面(例えば、コンクリートなど)に当たって反射することで減衰される。また、放射線が反射することで、放射線の距離による減衰も大きくなる。そのため、作業者の被爆のおそれを低減することができる。また、作業者がメンテナンスの際に、ターゲットシールド7,8の真下に入り込む必要もないため、下方に直進する放射線による被曝のおそれは少ない。
【0043】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態にあっては、ターゲットシールドは、ガンマ線遮蔽板と中性子線遮蔽板とを備える構成であるが、ガンマ線遮蔽板からなるターゲットシールドでもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、導出管を通過させる切欠き部が底板に形成されているが、切欠き部の位置は、底板に限定されない。その他の背面板、天板などに導出管などを通過させる開口が設けられている構成でもよい。
【0045】
また、ターゲットシールドは、加速器側に固定されている構成に限定されず、例えば、移動しないリア壁体62に固定されたターゲットシールドや、支持部材を介し床面に固定されたターゲットシールドでもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、加速器をサイクロトロンとして説明しているが、加速器はサイクロトロンに限定されず、他の加速器(例えばシンクロサイクロトロンやシンクロトロン)でも良い。
【符号の説明】
【0047】
1…RI製造装置、2…加速器、3…ターゲット、4…真空ポンプ、5…導出チューブ、6…自己シールド、7、8…ターゲットシールド、71,81…正面板、72,82…側面板、73,83…背面板、74,84…天板、75…底板、75a…切欠き部、78,88…ヒンジ、S…内部空間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6