(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5875440
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】外乱磁場の推定方法及びシステム並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 33/025 20060101AFI20160218BHJP
G01R 35/00 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
G01R33/025
G01R35/00 M
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-76907(P2012-76907)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-205342(P2013-205342A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110711
【弁理士】
【氏名又は名称】市東 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100078798
【弁理士】
【氏名又は名称】市東 禮次郎
(72)【発明者】
【氏名】宇治川 智
(72)【発明者】
【氏名】新納 敏文
【審査官】
續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−033669(JP,A)
【文献】
特開2009−175067(JP,A)
【文献】
特表2001−524213(JP,A)
【文献】
米国特許第07525314(US,B1)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外乱磁場に曝される対象位置から離れた複数の所定位置に磁気センサを設置し,前記対象位置及び各センサ位置を含む空間に外乱磁場の共通の勾配方向を仮定して当該勾配方向を各センサの位置及び計測値から算出し,前記対象位置を通る算出方向の直線上に各センサ位置を垂直に下ろした射影位置と各センサ計測値とから外乱磁場の距離減衰式に基づき対象位置の外乱磁場を推定してなる外乱磁場の推定方法。
【請求項2】
請求項1の推定方法において,前記磁気センサを3以上の所定位置に設置し,前記勾配方向として外乱磁場の共通の単位勾配ベクトルを仮定し且つ外乱磁場のテイラー展開式の一次近似又は高次近似に各センサの位置及び計測値を代入することにより当該勾配ベクトルを算出してなる外乱磁場の推定方法。
【請求項3】
請求項1又は2の方法において,前記各センサ射影位置と各センサ計測値とから対象位置付近の外乱磁場の距離減衰式を作成し,当該距離減衰式に基づき対象位置の外乱磁場を推定してなる外乱磁場の推定方法。
【請求項4】
請求項1又は2の方法において,前記対象位置に試験的に磁気センサを設置して対象位置から異なる所定距離に磁場発生試験体を順次配置したときの試験的計測値から対象位置付近の外乱磁場の距離減衰式を作成し,当該距離減衰式に基づき対象位置の外乱磁場を推定してなる外乱磁場の推定方法。
【請求項5】
外乱磁場に曝される対象位置から離れた複数の所定位置に設置する磁気センサ,前記対象位置及び各センサ位置を含む空間に外乱磁場の共通の勾配方向を仮定して当該勾配方向を各センサの位置及び計測値から算出する勾配方向算出手段,並びに前記対象位置を通る算出方向の直線上に各センサ位置を垂直に下ろした射影位置と各センサ計測値とから外乱磁場の距離減衰式に基づき対象位置の外乱磁場を推定する磁場推定手段を備えてなる外乱磁場の推定システム。
【請求項6】
請求項5のシステムにおいて,前記磁気センサを3以上の所定位置に設置し,前記勾配方向算出手段により前記勾配方向として外乱磁場の共通の単位勾配ベクトルを仮定し且つ外乱磁場のテイラー展開式の一次近似又は高次近似に各センサの位置及び計測値を代入することにより当該勾配ベクトルを算出してなる外乱磁場の推定システム。
【請求項7】
請求項5又は6のシステムにおいて,前記各センサ射影位置と各センサ計測値とから対象位置付近の外乱磁場の距離減衰式を作成する減衰式作成手段を設け,前記磁場推定手段により当該距離減衰式に基づき対象位置の外乱磁場を推定してなる外磁場の推定システム。
【請求項8】
請求項5又は6のシステムにおいて,前記対象位置に試験的に磁気センサを設置して対象位置から異なる所定距離に磁場発生試験体を順次配置したときの試験的計測値から対象位置付近の外乱磁場の距離減衰式を作成する減衰式作成手段を設け,前記磁場推定手段により当該距離減衰式に基づき対象位置の外乱磁場を推定してなる外磁場の推定システム。
【請求項9】
外乱磁場に曝される対象位置の外乱磁場を推定するためコンピュータを,前記対象位置から離れた複数の所定位置に設置した各磁気センサの計測値を入力する入力手段,前記対象位置及び各センサ位置を記憶する記憶手段,前記対象位置及び各センサ位置を含む空間に外乱磁場の共通の勾配方向を仮定して当該勾配方向を各センサの位置及び計測値から算出する勾配方向算出手段,並びに前記対象位置を通る算出方向の直線上に各センサ位置を垂直に下ろした射影位置と各センサ計測値とから外乱磁場の距離減衰式に基づき対象位置の外乱磁場を推定する磁場推定手段として機能させる外磁場の推定プログラム。
【請求項10】
請求項9のプログラムにおいて,前記入力手段により3以上の所定位置に設置した磁気センサの計測値を入力し,前記勾配方向算出手段により前記勾配方向として外乱磁場の共通の単位勾配ベクトルを仮定し且つ外乱磁場のテイラー展開式の一次近似又は高次近似に各センサの位置及び計測値を代入することにより当該勾配ベクトルを算出してなる外乱磁場の推定プログラム。
【請求項11】
請求項9又は10のプログラムにおいて,前記コンピュータを更に,前記各センサ射影位置と各センサ計測値とから対象位置付近の外乱磁場の距離減衰式を作成する減衰式作成手段として機能させ,前記磁場推定手段により当該距離減衰式に基づき対象位置の外乱磁場を推定してなる外磁場の推定プログラム。
【請求項12】
請求項9又は10のプログラムにおいて,前記入力手段により対象位置から異なる所定距離に磁場発生試験体を順次配置したときの対象位置に試験的に設置した磁気センサの試験的計測値を入力し,前記コンピュータを更に,前記試験的計測値から対象位置付近の外乱磁場の距離減衰式を作成する減衰式作成手段として機能させ,前記磁場推定手段により当該距離減衰式に基づき対象位置の外乱磁場を推定してなる外磁場の推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は外乱磁場の推定方法及びシステム並びにプログラムに関し,とくに対象位置の外乱磁場を離れた位置の磁気センサの計測値から推定する方法及びシステム並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造施設で用いる電子顕微鏡,EB露光装置,EBステッパー等の電子ビーム応用装置は,例えば100nT(1mG)程度の微弱な磁気ノイズでも電子ビームの軌道が変化するので,製品の品質を確保するために外乱磁場(環境磁場)の影響を避ける必要がある。また,医療施設等で用いるMRI装置,NMR装置,脳磁計や心磁計等のSQUID(超電導量子干渉素子)応用装置も,超微弱な磁気を正確に測定するために外乱磁場の遮断が求められる。このような外乱磁場の影響を嫌う装置(嫌磁気装置)を外乱磁場から保護して正常な動作を保証するため,施設内に磁気シールド室(シールド空間)を設けることがある。例えば強磁性材料で周囲を覆うことでパッシブ型(受動型)の磁気シールド室とするが,パッシブ型のシールド室は施工費用が嵩む等の問題点がある。このため最近は,周囲に補償磁場発生用のコイル(以下,補償コイルということがある)を配置し,補償コイルに補償磁場を発生させて外乱磁場を打ち消すアクティブ型(能動型)の磁気シールド室とし,必要最低限の領域のみを効率的・経済的にシールドすることが増えている。
【0003】
一般的なアクティブ磁気シールドは,例えば
図9に示すように,シールド室3の周囲に配置した補償コイル6a〜6dと,シールド室3の内側又は外側に設置した磁気センサ20と,磁気センサ20の計測値(磁束密度)を入力して補償コイル6を駆動する制御装置11とで構成されている。例えばシールド対象の嫌磁気装置(例えばMRI装置等)5をシールド室3内のシールド対象位置Pに設置し,その対象位置PのX軸上に補償コイル6の中心軸線を位置合わせすることにより,補償コイル6の発生する補償磁場Cで対象位置PのX軸方向の外乱磁場を相殺する。図示例はX軸方向の補償コイル6a〜6dのみを示しているが,Y軸方向及びZ軸方向についても同様に補償コイル6を配置することで,あらゆる方向の外乱磁場を相殺できる。
【0004】
アクティブ磁気シールドの磁気センサ20は,外乱磁場を相殺すべき対象位置P又はその近傍に設置することが望ましいが,例えば強磁場を発生する嫌磁気装置5(例えばMRI装置のデュワ部)の近くでは微弱な外乱磁場を計測すること自体が難しい場合があり,利用者のハンドリング等のため装置5の近くに設置スペースを確保できない場合もあり,現実には対象位置Pから離して設置せざるを得ないことも多い。対象位置Pとセンサ位置Sとが離れていても,外乱磁場の分布が空間的に準一様又は時間的に不変とみなせるときは,センサ位置Sの計測値を対象位置Pの外乱磁場とみなして相殺することができる。しかし,実際の外乱磁場は発生源からの距離に応じて減衰し且つ時間的に変動する勾配を有していることが多く,センサ位置Sの計測値と対象位置Pの外乱磁場との間にズレが生じると,センサ位置Sの計測値に基づいて補償コイル6を駆動しても対象位置Pの外乱磁場を充分に打ち消すことができず,アクティブ磁気シールドの性能が劣化してしまう。また,補償コイル6の駆動により外乱磁場が逆に大きくなり,アクティブ磁気シールドが外乱要因となることも起こり得る。
【0005】
対象位置Pとセンサ位置Sとが離れたアクティブ磁気シールドの性能劣化や外乱要因化を避ける対策として,
図9に示すように,シールド室3内の対象位置Pを囲む複数のセンサ位置S1,S2,S3,S4(同一直線上又は正n角形の各頂点上の位置)にそれぞれ磁気センサ20を配置し,複数の磁気センサ20の計測値から線形補完によって対象位置Pの外乱磁場を推定する方法が提案されている(特許文献1及び非特許文献1参照)。図示例の対象位置P1,P2はセンサ位置S2,S4を結ぶ直線上に配置されており,センサ位置S2,S4の計測値を按分(平均操作)することで対象位置P1,P2の外乱磁場を推定できる。また,センサ位置S1,S3を結ぶ直線上に配置された対象位置P3,P4の外乱磁場も,同様にセンサ位置S1,S3の計測値から按分(平均操作)により推定できる。外乱磁場が勾配を有している場合でも,対象位置Pの周囲に複数のセンサ位置S1〜S4を設け,各センサ位置S1〜S4の計測値の按分によって対象位置Pの外乱磁場を推定すれば,その推定値に基づき補償コイル6a〜6dを駆動制御して対象位置Pの外乱磁場を相殺することが期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−175067号公報
【特許文献2】特開2012−033669号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】國分誠・石川登「勾配磁気雑音に対応したアクティブ磁気シールドシステムの開発勾配磁気雑音に対応したアクティブ磁気シールドシステムの開発」清水建設研究報告第88号,2011年2月発行,インターネット<http://www.shimz.co.jp/tw/sit/report/vol88/pdf/88_006.pdf>
【非特許文献2】後藤憲一・山崎修一郎「詳解電磁気学演習」共立出版,1970年発行,pp186−187
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし,
図9に示す特許文献1の外乱磁場の推定方法は,外乱磁場の線形的な減衰勾配(距離に比例した減衰)を前提としているため,対象位置Pとセンサ位置Sとの間隔が外乱磁場の減衰勾配を線形的とみなせる比較的狭い範囲内にあるときは有効であるが,それ以上に対象位置Pとセンサ位置Sとが離れていると外乱磁場の推定誤差が大きくなる問題点がある。すなわち,以下に説明するように実際の外乱磁場の多くは磁場発生源からの距離rの逆べき乗に応じて減衰する非線形な特性を有しているため,外乱磁場の線形的な減衰勾配を前提とする特許文献1の推定方法では,そのような非線形な減衰勾配の外乱磁場を精度良く推定することができない。
【0009】
例えば,磁気シールド室の周辺を往来する車両(自動車,列車等)やエレベータ等は強磁性体を含んでおり,地磁気中の移動その他の理由により磁化されて外乱磁場の発生源となりうる。
図6(A)に示すように,そのような磁場発生源30は,2つの点磁荷+e,−eが微小間隔dを隔てて結合した磁気双極子(磁気モーメント
m=ed)として近似することができる(特許文献2参照)。また,発生源30の磁気モーメントベクトル
mとシールド室3内のセンサ位置Sとを含む平面上において,磁気双極子の中点(発生源位置)Qを原点とし,その原点Qから見たセンサ位置Sを位置ベクトル
r(その大きさはQS間の離隔距離r)とし,磁気モーメントベクトル
mと位置ベクトル
rとのなす相対角度をθとし,磁気モーメントベクトル
mの方向を基線とする極座標をとると,センサ位置Sの外乱磁場Hs[A/m]のr軸方向及びθ軸方向の成分H
r,H
θはそれぞれ(1)式で表わすことができる(非特許文献2参照)。(1)式は,磁場発生源30を磁気双極子で近似した場合に,センサ位置Sの外乱磁場Hsが発生源位置Qとの離隔距離rの3乗に応じて減衰することを示しており,μ
0は真空中の透磁率(=4π×10
−7[H/m])を表している。
【0010】
【0011】
図6(A)において,センサ位置Sの外乱磁場Hsは,上述したr軸方向及びθ軸方向の成分H
r,H
θと単位ベクトル
vr,
vθとによって表わされる(Hs=H
r・v
r+H
θ・v
θ)。従って,磁場発生源30の位置座標をr
mとすると,センサ位置Sの座標xにおける外乱磁場の磁束密度B(x)(=μ
0Hs)は(2)式で表わすことができる(以下,外乱磁場の磁束密度Bを単に外乱磁場Bということがある)。
図6(B)は,磁場発生源30(車両等)が近辺を移動する磁気シールド室3において,発生源30の位置に応じてシールド室3内のセンサ位置Sに生じた外乱磁場Bx,By,Bzの測定値の変化と,その発生源30を磁気双極子で近似して(2)式により算出したセンサ位置Sの外乱磁場Bx,By,Bzの理論値の変化とを併せて示している。同図の外乱磁場Bx,By,Bzの測定値と理論値とは何れの軸方向においてもほぼ一致しており,車両,エレベータ等の磁場発生源30を磁気双極子で近似することにより外乱磁場を高い精度で推定できることを表わしている。
【0012】
(3)式は,基準点x
ref(基準距離(x
ref−r
m))における外乱磁場B(x
ref)を100%としたときの任意座標x(任意距離(x−r
m))の外乱磁場B(x)の距離減衰式を示し,外乱磁場B(x)が磁場発生源30からの離隔距離rのべき乗(べき指数n)に応じて減衰することを表わしている。上述したように磁場発生源30を磁気双極子で近似した場合,(3)式はべき指数n=3(逆3乗の距離減衰式)となり,
図7のグラフA1(離隔距離r
ref=3mを基準点とした場合)のように表わすことができる。なお,磁場発生源30が比較的遠方に存在する場合は,発生源30を磁気双極子ではなく磁荷(単磁極)で近似することが適切な場合もあり,その場合の(3)式はべき指数n=2(逆2乗の距離減衰式)となり,
図7のグラフA2のように表わされる。
【0013】
図8は,特許文献1が前提とする線形的な距離減衰グラフと,上述した車両,エレベータ等の磁場発生源(磁気双極子又は磁荷)の発生する外乱磁場の逆べき乗の距離減衰グラフ(
図7のグラフA1,A2)とを比較して示したものである。同図のセンサ位置S3,S4のように磁気センサ20が対象位置Pの比較的近くにあるときは,そのセンサ位置S3,S4の範囲内において逆べき乗の距離減衰をほぼ線形勾配とみなすことができるので,各センサ20の磁束密度から特許文献1の方法により対象位置Pの磁束密度を充分な精度で推定できる。しかし,同図のセンサ位置S1,S2のように逆べき乗の距離減衰が線形勾配とみなせる範囲を超えて磁気センサ30が対象位置Pから離れると,特許文献1の方法では線形的な距離減衰グラフに沿った磁束密度しか推定できないので,逆べき乗の距離減衰グラフに添った対象位置Pの実際の磁束密度との誤差が大きくなる。この推定誤差は,対象位置Pとセンサ位置Sとの間隔が大きくなるに従って一層顕著になる。すなわち,特許文献1の外乱磁場の推定方法では,対象位置Pとセンサ位置Sとの間隔が大きくなると,磁場発生源(磁気双極子又は磁荷)の発生する非線形な外乱磁場を正確に推定して相殺することができなくなる。
【0014】
上述したように,実際のアクティブ磁気シールド現場ではセンサ位置Sと対象位置Pとを大きく離さざるを得ないことも多く,例えばMRI装置を設置するアクティブ磁気シールド室等では遮蔽すべきMRI装置から大きく離れた天井面等に磁気センサを設置することも通常である。このようにセンサ位置Sと対象位置Pとが離れたアクティブ磁気シールド室において,周辺を移動する車両・エレベータ等の発生する外乱磁場を相殺するためには,上述した逆べき乗の距離減衰曲線に基づいて外乱磁場を推定することが必要である。
【0015】
そこで本発明の目的は,対象位置の外乱磁場を離れた位置の磁気センサの計測値から逆べき乗の距離減衰式に基づき推定できる方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
図1の実施例及び
図2の流れ図を参照するに,本発明による外乱磁場の推定方法は,外乱磁場Bに曝される対象位置Pから離れた複数の所定位置Sに磁気センサ20を設置し(ステップS102),対象位置P及び各センサ位置Sを含む空間に外乱磁場Bの共通の勾配方向g
0を仮定してその勾配方向g
0を各センサ20の位置S及び計測値Bsから算出し(ステップS105,
図3(B)〜(E)参照),対象位置Pを通る算出方向g
0の直線I上に各センサ位置Sを垂直に下ろした射影位置R(
図4(A)参照)と各センサ計測値Bsとから外乱磁場Bの距離減衰式A(例えば
図7の逆べき乗の距離減衰式A1,A2等)に基づき対象位置Pの外乱磁場Bpを推定してなるものである(ステップS106〜S107,
図4(B)〜(C)参照)。
【0017】
また,
図1のブロック図を参照するに,本発明による外乱磁場の推定システムは,外乱磁場Bに曝される対象位置Pから離れた複数の所定位置Sに設置する磁気センサ20,対象位置P及び各センサ位置Sを含む空間に外乱磁場Bの共通の勾配方向g
0を仮定してその勾配方向g
0を各センサ20の位置S及び計測値Bsから算出する勾配方向算出手段14(
図3(B)〜(E)参照),並びに対象位置Pを通る算出方向g
0の直線I上に各センサ位置Sを垂直に下ろした射影位置R(
図4(A)参照)と各センサ計測値Bsとから外乱磁場Bの距離減衰式A(例えば
図7の逆べき乗の距離減衰式A1,A2等)に基づき対象位置Pの外乱磁場Bpを推定する磁場推定手段15(
図4(B)〜(C)参照)を備えてなるものである。
【0018】
好ましくは,
図3(E)に示すように,磁気センサ20を3以上の所定位置S1,S2,S3に設置し,勾配方向算出手段14により勾配方向g
0として外乱磁場の共通の単位勾配ベクトルg
0を仮定し且つ外乱磁場Bのテイラー展開式の一次近似又は高次近似に各センサ20の位置S1,S2,S3及び計測値B1,B2,B3を代入することによりその勾配ベクトルg
0を算出する。
【0019】
更に好ましくは,
図4(C)に示すように,各センサ射影位置Rと各センサ計測値Bsとから対象位置P付近の外乱磁場Bの距離減衰式Aを作成する減衰式作成手段17を設け,磁場推定手段15によりその距離減衰式Aに基づき対象位置Pの外乱磁場Bpを推定する。或いは,
図1に点線で示すように,対象位置Pに試験的に磁気センサ21を設置して対象位置Pから異なる所定距離Q1,Q2,……に磁場発生試験体31を順次配置したときの試験的計測値Bから対象位置P付近の外乱磁場の距離減衰式Aを作成する減衰式作成手段18を設け,磁場推定手段15によりその距離減衰式Aに基づき対象位置Pの外乱磁場Bpを推定することも可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明による外乱磁場の推定方法及びシステムは,先ず
図3(B)〜(E)に示すように対象位置P及び複数の所定位置Sを含む空間の外乱磁場Bの勾配方向g
0が共通であると仮定してその勾配方向g
0を各センサ20の位置S及び計測値Bsから算出し,次いで
図4(A)に示すように対象位置Pを通る算出方向g
0の直線Iを想定してその直線I上に各センサ位置Sを垂直に下ろして射影位置Rとしたのち,
図4(B)〜(C)に示すように各センサ射影位置Rと各センサ計測値Bsとから外乱磁場Bの距離減衰式Aに基づき対象位置Pの外乱磁場Bpを推定するので,次の効果を奏する。
【0021】
(イ)各センサ位置Sの計測値Bsから対象位置Pの外乱磁場Bpを直接推定するのではなく,先ず外乱磁場Bの勾配方向g
0を推定し,次いで対象位置Pを通る勾配方向g
0の直線I上に各センサ位置Sを垂直方向に射影して割り付けることにより,その直線Iに沿った逆べき乗の距離減衰式Aに基づき対象位置Pの外乱磁場Bpを推定することができる。
(ロ)逆べき乗の距離減衰式Aに基づくことにより,センサ位置Sが対象位置Pから大きく離れている場合でも,そのセンサ位置Sの計測値Bsから対象位置Pの外乱磁場Bpを高い精度で推定することができる。
(ハ)本発明を用いてアクティブ磁気シールドを構築することにより,従来のように線形的に距離減衰する外乱磁場だけでなく,車両やエレベータ等の発生する逆べき乗の距離減衰の外乱磁場についても充分に打ち消すことが可能となる。
【0022】
(ニ)また,センサ計測値Bsから対象位置Pの外乱磁場Bpを推定するサイクルを繰り返すことにより,磁束密度分布が時間と共に変化するような外乱磁場を精度良く推定することも可能であり,従来のアクティブ型シールドでは対応できずパッシブ型シールドに依存していた変動する外乱磁場Bpについてもアクティブ型シールドのみで対応することが可能となる。
(ホ)一般的な物理法則(例えば(1)式)から導出した逆べき乗の距離減衰式(例えば
図7の逆べき乗の距離減衰式A1,A2等)を用いて外乱磁場Bpを推定することもできるが,予め対象位置Pに試験的に磁気センサ21を設置し,対象位置Pに影響が及ぶ範囲の異なる所定距離Q1,Q2に磁場発生試験体31を順次配置したとき磁気センサ21の試験的計測値Bを求め,その計測値Bから対象位置P付近に特有の外乱磁場の逆べき乗の距離減衰式A(例えば
図5のグラフA2)を作成して用いることにより,対象位置Pの外乱磁場Bpの推定精度を高めることができる。
(ヘ)或いは,事前に導出又は作成した距離減衰式Aを用いるのではなく,対象位置Pを通る直線I上に各センサ射影位置Rと各センサ計測値Bsとを割り付けたうえで対象位置P付近に特有の外乱磁場の逆べき乗の距離減衰式Aを統計的に作成することも可能であり,距離減衰式Aを実時間(リアルタイム)で更新しながら変動する外乱磁場Bpの精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下,添付図面を参照して本発明を実施するための形態及び実施例を説明する。
【
図1】は,本発明による外乱磁場の推定システムの一実施例の説明図である。
【
図2】は,本発明による外乱磁場の推定方法の流れ図の一例である。
【
図3】は,外乱磁場の勾配方向の算出手法の説明図である。
【
図4】は,外乱磁場の逆べき乗の距離減衰式に基づく推定手法の説明図である。
【
図5】は,対象位置付近に特有の外乱磁場の逆べき乗の距離減衰式の説明図である。
【
図6】は,磁気双極子で近似した磁場発生源(車両等)及びその発生する外乱磁場の一例を示すグラフである。
【
図7】は,磁気双極子又は磁荷で近似した磁場発生源の発生する外乱磁場の逆べき乗の距離減衰式の説明図である。
【
図8】は,均一な勾配の距離減衰特性と逆べき乗の距離減衰特性との相違を示す説明図である。
【
図9】従来のアクティブ磁気シールドシステムの一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は,本発明の外乱磁場推定システムを,車両(磁場発生源)30の通路2に隣接する医療施設等の建築物1内に設けたアクティブ磁気シールド室3に適用した実施例を示す。
図1(A)に示すシールド室3内の対象位置Pには,例えばMRI装置等の嫌磁気装置5を設置する。
図1(B)に示すアクティブ磁気シールドシステムは,
図9に示す従来例と同様に,シールド室3の対象位置Pの周囲に配置する補償コイル6a,6bと,対象位置Pから離れたシールド室3の内側又は外側の複数の所定位置Sに設置する磁気センサ20と,磁気センサ20の計測値Bsに基づき補償コイル6を駆動する制御装置11とを有し,補償コイル6の発生する補償磁場Cにより例えば周辺の車両30の発生する外乱磁場Bを対象位置Pにおいて相殺する。
【0025】
図示例の制御装置11は,磁気センサ20から計測値Bsを入力して補償コイル6a,6bの制御信号(補償コイル6a,6bの発生すべき補償磁場C)を算出するコンピュータ10と,その制御信号を入力して補償コイル6a,6bを選択的に駆動するセレクタ7及び増幅器(アンプ)8とを有する。本発明の外乱磁場推定システムは,図示例のコンピュータ10に内蔵プログラムとして組み込むことができる。以下,コンピュータ10の内蔵プログラムとして本発明を説明するが,本発明はアナログ演算回路として構成することも可能である。また,本発明はアクティブ磁気シールドへの適用に限定されるものではなく,対象位置Pの外乱磁場Bpを離れた位置Sの磁気センサ20の計測値Bsから推測する場合に広く適用可能である。
【0026】
図示例の磁気センサ20は,少なくとも1軸方向,好ましくは3軸方向(例えば
図9に示すXYZ軸方向)の磁束密度Bsを計測できるものであればとくに制限はなく,従来のアクティブ磁気シールドと同様のもの,例えば磁気変調方式のフラックスゲート型磁気センサ(FGセンサ),高感度マイクロ磁気センサ(MIセンサ),ホール素子を用いた磁気センサ,磁気抵抗効果素子を用いた磁気センサ(MRセンサ),磁性薄膜を用いた高周波駆動型の磁気センサ(TMFセンサ)等とすることができる。また,磁気センサ20は対象位置Pから離れた少なくとも2箇所に設置するものとし,好ましくは図示例のように3以上のセンサ位置S1,S2,S3に設置する。後述するように,少なくとも2箇所のセンサ位置Sの計測値Bsから対象位置Pの外乱磁場Bpを推定できるが,センサ位置Sの数を3以上とすることでの対象位置Pの外乱磁場Bpの推定精度を高めることができる。
【0027】
図示例のコンピュータ10は,各センサ位置Sから磁気センサ20の計測値Bsを入力する入力手段12,各センサ位置Sを対象位置Pと共に記憶する記憶手段19,対象位置P及び各センサ位置Sを含む空間の外乱磁場Bの勾配方向g
0を算出する勾配方向算出手段14,並びにその算出した勾配方向g
0と各センサ位置Sと各センサ計測値Bsとから外乱磁場Bの逆べき乗の距離減衰式Aに基づき対象位置Pの外乱磁場Bpを推定する磁場推定手段15を有している。
【0028】
また図示例のコンピュータ10は,対象位置Pの外乱磁場Bpを打ち消すために必要な補償コイル6a,6bの制御信号(補償磁場C)を算出する制御信号算出手段16と,その制御信号をセレクタ7及び増幅器8へ出力して補償コイル6a,6bを駆動する出力手段13とを有している。ただし,制御信号算出手段16は本発明に必須のものではない。更に図示例のコンピュータ10は,必要に応じて対象位置P付近の外乱磁場Bの逆べき乗の距離減衰式Aを作成する減衰式作成手段17,18を有する。入力手段12,出力手段13,勾配方向算出手段14,磁場推定手段15,制御信号算出手段16,及び減衰式作成手段17,18は何れもコンピュータ10の内蔵プログラムである。
【0029】
図2は,
図1のコンピュータ10を用いて,センサ位置Sの計測値Bsから対象位置Pの外乱磁場Bpを推定する方法の流れ図を示す。以下,
図2を参照して
図1のコンピュータ10の各内蔵プログラムの機能を説明する。先ずステップS101において,外乱磁場Bpを推定すべき対象位置Pの座標をコンピュータ10の記憶手段19に入力手段12経由で登録する。図示例のようにアクティブ磁気シールドに適用した場合は,対象位置Pを登録すると共に,その周囲に補償コイル6a,6bを配置することができる。次いでステップS102において,対象位置P付近の複数の所定位置Sにそれぞれ磁気センサ20を設置し,そのセンサ位置Sの座標をコンピュータ10の記憶手段19に入力手段12経由で登録する。磁気センサ20は,
図9の従来例のように外乱磁場Bの減衰勾配を線形的とみなせる対象位置Pの近くに限らず,対象位置Pと同じ外乱磁場Bに晒される空間内の任意位置Sを選択して設置することができる。
【0030】
図2のステップS103において,推定すべき外乱磁場Bの距離減衰式Aをコンピュータ10の記憶手段19に登録する。外乱磁場Bの距離減衰式Aは一般的な物理法則(例えば(1)式)から導出することができ,例えば磁場発生源30が磁気双極子(棒磁石)として近似できる車両,エレベータ等である場合は,上述したように磁気双極子の発生する外乱磁場の逆3乗の距離減衰式A1(べき指数n=3の(3)式,
図7参照)を登録する。また,磁場発生源30が磁荷(単磁極)で近似できる場合は,その磁荷の発生する外乱磁場の逆2乗の距離減衰式A2(べき指数n=2の(3)式,
図7参照)を登録する。ただし,磁場発生源30は未知であることが多く,また複数の発生源30の重畳や周囲の建築物の配置・大きさ等によって外乱磁場Bの距離減衰式A(例えば(3)式のべき指数n)が影響を受けるので,望ましくは対象位置P付近に特有の逆べき乗の距離減衰式Aを試験的に求めて登録する。
【0031】
ステップS103では,必要に応じてコンピュータ10の減衰式作成手段18により,対象位置P付近に特有の外乱磁場Bの距離減衰式Aを試験的に求めて登録することができる。例えば
図1(A)に示すように,対象位置Pからの離隔距離rが異なる複数の所定位置Q1,Q2,……に一定の磁場を発生する試験体31を順次移動させ,対象位置Pに試験的に設置した磁気センサ21により各所定位置Q1,Q2,……で発生した外乱磁場Bpを順次計測し,各離隔距離rにおける磁気センサ21の試験的計測値Bを入力手段12経由で減衰式作成手段18へ入力する。図示例のようにシールド室3の周辺を移動する車両やエレベータ等の磁場発生源30の離隔距離rが分かる場合は,その車両やエレベータを磁場発生試験体31として利用してもよい。距離減衰式Aの算出精度を高めるためには,離隔距離rが異なるできるだけ多くの位置Qに試験体31を移動させて試験的計測値Bを求めることが望ましい。
【0032】
図示例の減衰式作成手段18は,例えば試験的計測値Bが最大となる離隔距離rを基準点として検出し,離隔距離rの相違(基準点の離隔距離rとの差)に応じた試験的計測値Bの減衰率(基準点の外乱磁場に対する割合)を求めることにより,対象位置P付近に特有の外乱磁場Bの距離減衰式Aを作成して記憶手段19に登録する。
図5のグラフA3は,減衰式作成手段18により作成した距離減衰式Aの一例を示す。同グラフから,この実施例のシールド室3付近では,周辺の建築物の影響等によって離隔距離rの3乗ではなくほぼ2.6乗に反比例して外乱磁場Bが減衰していることが分かる。このように対象位置P付近の外乱磁場Bの距離減衰式Aを作成して登録しておくことにより,後述する対象位置Pの外乱磁場Bpの推定(ステップS107)において推定精度を高めることができる。減衰式作成手段18において作成する距離減衰式Aは(3)式のような逆べき乗式に限らず,例えば多数の試験的計測値Qから距離減衰式Aを多項式回帰モデルとして作成することも可能である。
【0033】
ステップS101〜S103の前処理が終了したのち,
図2のステップS104において各センサ20の計測値Bsをコンピュータ10に入力し,ステップS105においてコンピュータ10の勾配方向算出手段14により各センサ20の位置S及び計測値Bsから対象位置Pにおける外乱磁場Bの勾配方向を算出する。
図3(A)は,例えば周辺の車両の移動に伴って図示例のシールド室3に生じる複雑な外乱磁場分布の一例を示す。同図に示すように,外乱磁場Bの勾配方向は一般に対象位置Pと各センサ位置Sとで相違しており,各センサ位置Sの計測値Bsから直接的に対象位置Pの勾配方向を推定することは困難である。勾配方向算出手段14は,
図3(B)に示すように対象位置P及び各センサ位置Sを含む空間(図示例ではシールド室3)に外乱磁場Bの共通の勾配方向g
0を仮定し,その勾配方向g
0を各センサ20の位置S及び計測値Bsから算出する。対象位置Pと各センサ位置Sとを含む空間で外乱磁場Bの勾配方向g
0が共通であると仮定すると,
図3(B)に点線で示すように勾配方向g
0と垂直な方向に外乱磁場Bが等しい等高線を想定することができ,その等高線を利用して対象位置Pの勾配方向g
0を算出することが可能となる。
【0034】
例えば,
図3(C)に示すように磁気センサ20を3以上の所定位置S1,S2,S3に設置し,各センサ20の計測値B1,B2,B3がそれぞれ相違している場合は,何れか2つのセンサ位置S1,S2(センサ計測値B1,B2)を通る直線上に,他のセンサ位置S3の計測値B3と外乱磁場Bが等しくなる等高位置Mを線形補完によって検出することができる。その等高位置Mとセンサ位置S3とを結ぶ方向は等高線に平行とみなすことができ,その等高線に垂直な方向として外乱磁場Bの勾配方向g
0を算出することができる。
【0035】
また,
図3(D)に示すように,2以上のセンサ位置S1,S2の計測値B1,B2が同一又は近接している場合は,その両センサ位置S1,S2を結ぶ方向が等高線に平行とみなすことができ,その等高線に垂直な方向として外乱磁場Bの勾配方向g
0を算出することができる。このように少なくとも2箇所のセンサ位置S1,S2における外来磁場の計測値B1,B2から,対象位置Pにおける外乱磁場Bの勾配方向g
0を算出することができるが,図示例のように主要な外乱磁場の発生源(例えば車両)30の位置は未定であるが方向が推定できるときは,その発生源30の方向を考慮して対象位置Pにおける外乱磁場Bの勾配方向g
0の算出精度を高めることも可能である。
【0036】
好ましくは,
図3(E)に示すように,磁気センサ20を3以上の所定位置S1,S2,S3に設置し,勾配方向算出手段14において勾配方向g
0として,以下に説明するように外乱磁場Bの共通の単位勾配ベクトルg
0(外乱磁場Bがスカラの場合。外乱磁場Bがベクトルの場合は各成分の単位勾配ベクトルgx
0,gy
0,gz
0)を仮定し,外乱磁場Bのテイラー展開式の一次近似又は高次近似に各センサ20の位置S1,S2,S3及び計測値B1,B2,B3を代入する代数的手法によって,対象位置Pにおける外乱磁場Bの単位勾配ベクトルg
0(又はgx
0,gy
0,gz
0)を算出する。
【0037】
(10)式は,例えば合成磁場のようにスカラで表わせる外乱磁場B(x)において仮定した共通の勾配ベクトルを示す。また(11)式は外乱磁場B(x)の対象位置Pにおけるテイラー展開式の一次近似を示し,この一次近似は
図3(E)に示すような直線Iで表すことができる。
図3(E)において,各センサ位置S1,S2,S3は計測値B1,B2,B3を維持したまま等高線に沿って直線I上に移動させることができ,(11)式に各センサ位置S1,S2,S3及び各センサ計測値B1,B2,B3を代入すると(12)〜(14)式が得られる。更に,(12)〜(14)式から未知である対象位置Pの外乱磁場B(P)を消去して変形することにより(15)〜(17)式が得られ,この(15)〜(17)式から定数倍を除いて勾配ベクトルgのx成分,y成分,z成分の比率を求めることにより,(18)式のように単位勾配ベクトルg
0を代数的に算出することができる。
【0039】
外乱磁場B(x)がベクトル磁場(Bx,By,Bz)である場合も,その各成分(例えばBx)の勾配ベクトルは(10)式で表わすことができ,上述した(11)〜(18)式に沿って各成分の単位勾配ベクトルg
0(すなわちgx
0,gy
0,gz
0)をそれぞれ算出することができる。このような代数的手法によれば,センサ位置Sを更に増やすことで単位勾配ベクトルg
0の算出精度を高めることができ,テイラー展開式の一次近似に代えて二次以上の高次近似を用いて単位勾配ベクトルg
0の算出精度を高めることも可能である。
【0040】
図2のステップS106において,ステップS105で算出した外乱磁場Bの勾配方向をコンピュータ10の磁場推定手段15へ入力する。磁場推定手段15は,
図4(A)に示すように,対象位置Pを通る算出方向(勾配方向)g
0の直線Iを想定し,その直線I上に各センサ位置S1,S2,S3を垂直に下ろした射影位置R1,R2,R3の座標を検出する。上述したように,各センサ位置Sを勾配方向g
0と垂直な等高線に沿って移動させてもセンサ計測値Bsは維持されるので,
図4(A)に示す射影によって直線I上の各射影位置R1,R2,R3に各センサ位置S1,S2,S3の計測値B1,B2,B3を割り付けることができる。また,各射影位置R1,R2,R3の座標からそれぞれの対象位置Pとの間隔L1,L2,L3を求めることにより,直線Iに沿って逆べき乗の距離減衰式Aを適用することが可能となる。
【0041】
図2のステップS107は,磁場推定手段15により,対象位置Pを通る直線I上に割り付けた各射影位置R1,R2,R3と対象位置Pとの間隔L1,L2,L3から,距離減衰式Aに基づき対象位置Pの外乱磁場Bpを推定する処理を示す。
図4(B)は,ステップS103で登録した例えば逆3乗の距離減衰式A(
図7のグラフA1参照)に基づく推定方法の一例を示し,間隔L1,L2,L3から対象位置Pの座標を定めて距離減衰式Aへ代入することにより,対象位置Pの外乱磁場Bpが推定できることを示している。
図4(B)において,必要に応じて各射影位置R1,R2,R3の計測値B1,B2,B3に基づき距離減衰式Aを補正することができ,距離減衰式Aの補正により対象位置Pの外乱磁場Bpの推定精度を高めることができる。なお,外乱磁場Bがベクトルである場合は,
図4(A)〜(B)の方法を成分毎に適用することによりベクトル磁場Bの各成分を推定することができる。
【0042】
図2のステップS108は,例えば出力手段13を介して,ステップS107で推定した対象位置Pの外乱磁場Bpをコンピュータ10から出力する処理を示す。図示例のようにアクティブ磁気シールドに適用した場合は,推定した外乱磁場Bpを制御信号算出手段16へ入力して外乱磁場Bpを打ち消すために必要な補償磁場C(補償コイル6a,6bの制御信号)を算出し,その制御信号をセレクタ7及び増幅器8に出力して補償コイル6a,6bを駆動することができる。
【0043】
図2のステップS109において外乱磁場Bsの制御を終了するか否かを判断し,継続する場合はステップS104へ戻り,上述したステップS104〜S105を繰り返す。例えば,ステップS104〜S105を充分短い時間サイクルで繰り返することにより,磁束密度分布が時間と共に変化するような外乱磁場Bpを実時間(リアルタイム)で推定することもできる。実時間で推定した外乱磁場Bpを制御信号算出手段16へ入力して補助コイル6を駆動することにより,従来のアクティブ型シールドでは対応が困難であった時間と共に変動する外乱磁場Bpを打ち消すことも可能である。
【0044】
本発明によれば,特許文献1と同様の線形的な距離減衰式を用いることもできるが,逆べき乗の距離減衰式Aを用いて対象位置Pの外乱磁場Bpを推定することができるので,センサ位置Sが対象位置Pから大きく離れている場合でも,そのセンサ位置Sの計測値Bsから対象位置Pの外乱磁場Bpを高い精度で推定することができる。また,対象位置Pにおける外乱磁場Bpの推定サイクルを繰り返すことにより,例えば車両やエレベータ等のように発生する外乱磁場Bpが変動する場合でも精度良く推定することが可能である。更に,外乱磁場Bpの変動に伴って距離減衰式Aも変化するような場合であっても,各センサ位置Sの計測値Bsに基づき距離減衰式Aを補正することが可能であり,補正した距離減衰式Aを利用することで外乱磁場Bpの高い推定精度を維持することができる。
【0045】
こうして本発明の目的である「対象位置の外乱磁場を離れた位置の磁気センサの計測値から逆べき乗の距離減衰式に基づき推定できる方法及びシステム」の提供を達成することができる。
【実施例1】
【0046】
図2のステップS106では,上述したステップS103において事前に導出又は作成して登録した距離減衰式Aに代えて,必要に応じてコンピュータ10の減衰式作成手段17により,対象位置Pを通る直線I上に割り付けた各センサ射影位置Rと各センサ計測値Bsとから,外乱磁場の逆べき乗の距離減衰式Aを実時間(リアルタイム)で作成することも可能である。上述したように,外乱磁場Bの逆べき乗の距離減衰式Aは複数の磁場発生源30の重畳や周囲の建築物等によって影響を受けるので,とくに発生源30が車両やエレベータのように移動する場合は,その発生源30の発生する外乱磁場の距離減衰式Aも時間と共に変化することがあり得る。ステップS106において距離減衰式Aを実時間で作成・更新し,ステップS107においてその距離減衰式Aに基づき対象位置Pの外乱磁場Bpを推定することにより,たとえ距離減衰式Aが時間と共に変化する場合でも外乱磁場Bpを高い精度で推定することができる。
【0047】
図4(C)は,減衰式作成手段17において距離減衰式Aを実時間で作成する方法の一例を示す。上述した(3)式で一般的に表わされるように,磁場発生源30の発生する外乱磁場の距離減衰式Aは,べき指数nと基準距離(x
ref−r
m)との2つの未知数を含む。従って,上述したように対象位置Pを通る直線I上に割り付けた各射影位置R1,R2,R3の対象位置Pとの間隔L1,L2,L3,および各射影位置R1,R2,R3に割り付けた計測値B1,B2,B3を(3)式へ代入して2つの未知数を特定することにより,例えば
図5のグラフA2のような距離減衰式Aを実時間(リアルタイム)で作成することができる。図示例のように主要な外乱磁場の発生源(例えば車両)30の位置r
m又は方向が推定できるときは,その位置r
m又は方向を考慮して距離減衰式Aを作成することも可能である。
【0048】
(3)式のように逆べき乗の距離減衰式Aは、少なくとも2射影位置の間隔及び計測値から2つの未知数を特定することにより作成できる。距離減衰式Aの精度を高めるためには3以上のセンサ位置Sを設け、対象位置Pを通る直線I上に3以上の射影位置を割り付けて未知数を特定することが望ましい。また、多数のセンサ位置Sを設けた場合は、減衰式作成手段17において,(3)式のような逆べき乗の距離減衰式Aに代えて,例えば距離減衰式Aを多項式回帰モデルとして最小二乗法等により作成することも可能である。減衰式作成手段17で作成した距離減衰式Aを記憶手段19に登録し,ステップS107における外乱磁場Bpの推定に利用する。
【符号の説明】
【0049】
1…建築物 2…通路(車道)
3…遮蔽対象空間(シールドルーム) 5…嫌磁気装置(シールド対象機器)
6…補償コイル 7…セレクタ
8…増幅器(アンプ)
10…コンピュータ 11…制御装置
12…入力手段 13…出力手段
14…勾配方向算出手段 15…磁場推定手段
16…制御信号算出手段 17…減衰式作成手段
18…減衰式作成手段 19…記憶手段
20…磁気センサ 21…試験用の磁気センサ
30…磁場発生源 31…磁場発生試験体
A…距離減衰式 B…外乱磁場
C…補償磁場 d…磁気双極子の微小間隔
e…磁荷 g
0…外乱磁場の勾配方向
Hs…センサ位置の外乱磁場 I…想定直線
M…等高位置 m…磁気モーメント
P…対象位置 Q…磁場発生源位置
R…射影位置
r…センサ位置から磁場発生源位置までの離隔距離
S…センサ位置