(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5875862
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】離型剤
(51)【国際特許分類】
B22C 3/00 20060101AFI20160218BHJP
B22D 17/20 20060101ALI20160218BHJP
C09K 11/80 20060101ALI20160218BHJP
C09K 11/82 20060101ALI20160218BHJP
C09K 11/70 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
B22C3/00 D
B22D17/20 D
C09K11/80CPM
C09K11/82CQA
C09K11/70CPW
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-289643(P2011-289643)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-139495(P2013-139495A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】390031808
【氏名又は名称】根本特殊化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】塩原 雅美
(72)【発明者】
【氏名】佐戸 武史
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 高志
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−068751(JP,A)
【文献】
特開2008−127509(JP,A)
【文献】
特開2008−111080(JP,A)
【文献】
特開平04−158250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 3/00−3/02,
B22D 17/20,
B29C 33/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の内面に付着させて使用する離型剤であり、次に掲げる無機蛍光体の群から選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とした離型剤;
(Ba,Mg)2Al16O24:Eu、(Sr,Ba,Ca)5(PO4)3Cl:Eu、Sr4Al14O25:Eu、Sr3Si3O8Cl2:Eu、Sr4Si3O8Cl4:Eu、BaMg2Al16O27:Eu,Mn、(Ba,Mg)2Al16O24:Eu,Mn、Y2SiO5:Ce,Tb、YMgB5O10:Ce,Tb、LaPO4:Ce,Tb、Y3Al5O12:Ce、YVO4:Eu、Y(P,V)O4:Eu、(Sr,Mg)3(PO4)2:Sn、3.5MgO・0.5BeO・GeO2:Mn、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn。
【請求項2】
無機蛍光体は、母体の構成元素の一部を他の元素で置換したことを特徴とした請求項1記載の離型剤。
【請求項3】
無機蛍光体の粒径は、D50において0.1μm以上50μm以下の微粒子であることを特徴とした請求項1または2記載の離型剤。
【請求項4】
無機蛍光体の粒子形状は、略球形状であり、粒子の長径をa、短径をbとすると、0.6≦(b/a)≦1であることを特徴とした請求項1ないし3いずれか一つ記載の離型剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造における成形品の離型を目的として金型に塗布されて使用される離型剤に関する。特にダイカスト用離型剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋳造では金型に製品が付着しないように離型剤が用いられている。特にダイカスト鋳造では、アルミニウム合金などの溶湯と金型との反応による焼き付きを防止し連続鋳造を可能とするため、および金型と製品との間の潤滑不足による型残りや変形などを防止するため、型開き後に金型内面に離型剤を吹き付け塗布し、離型皮膜を形成し、金型表面の潤滑を行っていた。
この離型剤の吹き付け塗布は、ダイカスト鋳造において製品の品質を左右する重要な工程の一つである。
【0003】
ところで、離型剤を金型内面に吹き付け塗布して、離型皮膜を形成する工程において、離型剤の塗りムラが生じることある。特に複雑な形状の金型の場合、離型剤が充分に均一に塗布されにくいという問題がある。
この問題を解決するために、例えばダイカスト用離型剤において、塗布状態を確認する手段として光顔料を発色剤として含むという提案がなされている(例えば、特許文献1参照。)。
この特許文献1中には、光顔料として、有機物系の蛍光顔料を用いることが提案されている。しかしながら、有機物系の蛍光顔料は温度上昇により発光しなくなる問題や、蛍光体自体が分解してしまう問題がある。実際に特許文献1の出願人の製品においても、250℃以下でないと蛍光が観察できないという問題がある。
一般的な金型の使用温度は300℃〜400℃程度と言われており、少なくともこの使用温度の範囲においても塗布状態が確認できる離型剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−68751号公報(第2−3頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来あるダイカスト用離型剤では、一般的な金型の使用温度である300℃〜400℃において、蛍光による塗布状態の確認ができないという問題がある。
本発明は、この問題を鑑み、金型が少なくとも300℃〜400℃という高温の温度範囲にあっても、蛍光発光により塗布状態の確認が可能となる離型剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、上記の課題を解決するために種々の検討を行った結果、次に掲げる群から選ばれる無機蛍光体を用いた場合に、少なくとも300℃〜400℃の温度範囲においても、蛍光発光により塗布状態の確認が可能な離型剤となることを見出した。
【0007】
第1の発明の離型剤は、次に掲げる無機蛍光体の群から選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴としている;
(Ba,Mg)
2Al
16O
24:Eu、(Sr,Ba,Ca)
5(PO
4)
3Cl:Eu、Sr
4Al
14O
25:Eu、Sr
3Si
3O
8Cl
2:Eu、Sr
4Si
3O
8Cl
4:Eu、BaMg
2Al
16O
27:Eu,Mn、(Ba,Mg)
2Al
16O
24:Eu,Mn、Y
2SiO
5:Ce,Tb、YMgB
5O
10:Ce,Tb、LaPO
4:Ce,Tb、Y
3Al
5O
12:Ce、YVO
4:Eu、Y(P,V)O
4:Eu、(Sr,Mg)
3(PO
4)
2:Sn、3.5MgO・0.5BeO・GeO
2:Mn、3.5MgO・0.5MgF
2・GeO
2:Mn。
そして、これら無機蛍光体は、常温はもとより300℃〜400℃といった高温状態でも紫外線の照射により発光するため、これらを含む離型剤は300℃〜400℃の温度範囲においても、蛍光発光により塗布状態の確認が可能となる優れた特性を有する離型剤となる。
なお、上記無機蛍光体の母体を構成する元素の一部を他の元素に置き換えたとしても、同様に用いることができる。
第2の発明の離型剤は、上記無機蛍光体の粒径がD
50において0.1μm以上50μm以下の微粒子であることを特徴としている。そして、この範囲の粒径の微粒子とすることにより、離型剤中の無機蛍光体の分散性が良好となり蛍光発光強度に優れた、バランスが良い離型剤となる。
第3の発明の離型剤は、上記無機蛍光体の粒子形状粒が略球形状であり、粒子の長径をa、短径をbとすると、0.6≦(b/a)≦1であることを特徴としている。そして、粒子形状を略球形状とすることにより、離型剤中の無機蛍光体の分散性が良好となり、吹き付け塗布する際の均一性が良好な離型剤となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の離型剤によれば、常温から高温、特に300℃〜400℃といった高温状態でも、紫外線の照射により発光する優れた特性を有しており、金型温度が300℃〜400℃という高温状態においても蛍光発光により塗布状態の確認が可能となる優れた特性を有する離型剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の離型剤は、吹き付け等の手段により金型の内面に塗布され付着される。このとき、本発明の離型剤は特定の無機蛍光体を含有しているため、紫外線等の光の刺激により蛍光を発する。本発明の離型剤を金型へ吹き付ける際または吹き付けた後に、紫外線等の光を照射すると、金型に付着した離型剤の量に比例して発せられる蛍光の強度が変化する。
このため、金型に対して離型剤が均一に塗布されているか、塗りムラが無いかどうかを、肉眼による視認または光学的手段(例えばビデオカメラ等の撮像手段)により確認することができる。
【0010】
紫外線等の光源としては、例えば365nm付近に発光ピーク波長を有するブラックライトを好適に用いることができる。このほか、290nm〜310nm付近に発光ピーク波長を有する、いわゆるUV−Bランプや、254nm付近の波長を発する殺菌ランプなどを用いることもできる。
【0011】
無機蛍光体としては、次に掲げる群の蛍光体が、常温はもとより300℃〜400℃といった高温状態でも紫外線等により効率良く発光するため、好適に用いることができる。
青色発光:(Ba,Mg)
2Al
16O
24:Eu
青緑色発光:(Sr,Ba,Ca)
5(PO
4)
3Cl:Eu、Sr
4Al
14O
25:Eu、Sr
3Si
3O
8Cl
2:Eu、Sr
4Si
3O
8Cl
4:Eu
緑色発光:BaMg
2Al
16O
27:Eu,Mn、(Ba,Mg)
2Al
16O
24:Eu,Mn、Y
2SiO
5:Ce,Tb、YMgB
5O
10:Ce,Tb、LaPO
4:Ce,Tb
黄色発光:Y
3Al
5O
12:Ce
赤色発光:YVO
4:Eu、Y(P,V)O
4:Eu、(Sr,Mg)
3(PO
4)
2:Sn、3.5MgO・0.5BeO・GeO
2:Mn、3.5MgO・0.5MgF
2・GeO
2:Mn
上記いずれの無機蛍光体でも、好適に用いることができるが、特に緑色および黄色に発光をする無機蛍光体であれば、視感度が高い蛍光を有するため、視感輝度が高く、視認しやすく、より好適に用いることができる。
また、紫外線光源としてブラックライトを用いた場合、紫外線とともに青色領域の光も照射されるため、青色の中で対比して確認しやすい黄色から赤色に発光する無機蛍光体、例えばY
3Al
5O
12:Ce、YVO
4:Eu、Y(P,V)O
4:Eu、(Sr,Mg)
3(PO
4)
2:Sn等の蛍光体が視認しやすく、好適に用いることができる。
【0012】
無機蛍光体の粒径は、無機蛍光体の種類、ベースとなる離型剤の組成および金型等の相性により、適宜選択することができる。実際には、無機蛍光体の粒径はD
50において0.1μm〜50μm程度の範囲の微粒子が好ましい。粒径が大きすぎると離型剤に均一に分散しにくくなったり、吹き付け塗布等する際の液滴が大きくなりすぎたり、吹き付け塗布するノズルが詰まる等の悪影響を及ぼす傾向がある。粒径が小さくなりすぎると、発光輝度が著しく低下する傾向がある。
無機蛍光体の粒子形状は、分散性や吹き付け塗布する際の均一性を鑑みると、略球形状のものがより好ましい。ここで略球形状の長径をa、短径をbとすると、(b/a)は0.6以上が好ましく、1に近いほうがより好ましい。
(b/a)を測定するには、例えば電子顕微鏡写真により無機蛍光体粒子を撮影し、顕微鏡写真より複数個の長径aと短径bを測定し、(b/a)の平均値を求める方法がある。
略球形状の粒子形状を有する無機蛍光体を得るには様々な手段があるが、例えば蛍光体材料を溶液にして混合し、噴霧等により液滴状のまま乾燥あるいは焼成まで行う方法や、蛍光体材料の中で母体の主要部分となる材料の粒子径状をあらかじめ略球状のものを採用する方法等が有効である。
【0013】
ベースとなる離型剤は、従来から鋳造用離型剤として用いられているものを、目的に応じて適宜選択できる。例えば、離型潤滑成分として例えばシリコーン油や有機モリブデン化合物などと、媒体として例えば鉱物油や合成油などの油脂類(例えばスピンドル系油やマシン油など)または溶剤などを適宜充分に混合したものを使用できる。
【0014】
ベースとなる離型剤と前述の無機蛍光体とを充分に混合し、分散させて本発明の離型剤となる。
無機蛍光体の含有量は、無機蛍光体の種類や粒径、ベースとなる離型剤の組成、離型剤の塗布量および使用する金型等の相性などにより、適宜調整し決定できる。
照射する紫外線の強さが一定で塗布量も一定であれば、無機蛍光体の含有量が多いほど、強く蛍光を発する。また、無機蛍光体の含有量が一定で、塗布量が一定であれば、照射する紫外線の強度を強くすれば、強い蛍光を発する。
すなわち、さまざまな制約で仮に離型剤中に含まれる無機蛍光体の含有量が少なくなった場合でも、照射する紫外線強度を強くすれば、離型剤の塗布状態に応じた蛍光が観察可能である。
【0015】
なお、これまでダイカスト用離型剤として本発明の離型剤を説明してきたが、本発明の離型剤はダイカスト法に限らず、その他の鋳造法、押し出し成型、圧延プレス成型、インジェクション成型、スクイズキャスティング成型にも好適に使用することができる。
【0016】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は本発明の好適な例を示したものに過ぎず、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
実施例1の離型剤に用いる無機蛍光体は、Y
3Al
5O
12:Ce蛍光体を用いた。この無機蛍光体は略球状の粒子径状を有し、粒径はD
50において8.6μmであった。電子顕微鏡写真で確認した(b/a)の平均値は0.89であった。
上記Y
3Al
5O
12:Ce蛍光体を0.5質量%、スピンドル油87.5質量%、高粘度鉱油5質量%、ナタネ油1質量%、シリコーン油5質量%、有機モリブデン1質量%の比率で充分に混合し、本発明の実施例1の離型剤とした。
【0018】
評価のため、加熱した金型の代わりに400℃に加熱した鋼板を用意し、これに実施例1の離型剤を吹き付け塗布した。その後にブラックライトで紫外線を照射し、目視で観察した。その結果、実施例1の離型剤を吹き付け塗布した箇所で、黄色の発光を視認することができ、その蛍光から離型剤の塗布状況を確認することができた。
【実施例2】
【0019】
実施例2の離型剤に用いる無機蛍光体は、YVO
4:Eu蛍光体を用いた。この無機蛍光体は略球状の粒子径状を有し、粒径はD
50において0.6μmであった。電子顕微鏡写真で確認した(b/a)の平均値は0.92であった。
上記YVO
4:Eu蛍光体を1質量%、イソパラフィン系溶剤87質量%、高粘度鉱油5質量%、ナタネ油1質量%、シリコーン油5質量%、有機モリブデン1質量%の比率で充分に混合し、本発明の実施例2の離型剤とした。
【0020】
評価のため、実施例1と同様に350℃に加熱した鋼板を用意し、これに実施例2の離型剤を吹き付け塗布した。その後にブラックライトで紫外線を照射し、目視で観察した。その結果、実施例2の離型剤を吹き付け塗布した箇所で、赤色の発光を視認することができ、その蛍光から離型剤の塗布状況を確認することができた。
なお、実施例2に用いたYVO
4:Eu蛍光体は、室温から高温になるに伴い365nmの紫外線励起による発光効率が大幅に高まり、約300℃〜350℃付近で最高の発光効率となる。このことから、本発明の300〜400℃といった高温状態における使用用途に適している。
【実施例3】
【0021】
実施例3の離型剤に用いる無機蛍光体は、(Sr,Mg)
3(PO
4)
2:Sn蛍光体を用いた。この無機蛍光体は略球状の粒子径状を有し、粒径はD
50において32μmであった。電子顕微鏡写真で確認した(b/a)の平均値は0.68であった。
上記(Sr,Mg)
3(PO
4)
2:Sn蛍光体を2質量%、イソパラフィン系溶剤86質量%、高粘度鉱油5質量%、ナタネ油1質量%、シリコーン油5質量%、有機モリブデン1質量%の比率で充分に混合し、本発明の実施例3の離型剤とした。
【0022】
評価のため、実施例1と同様に300℃に加熱した鋼板を用意し、これに実施例3の離型剤を吹き付け塗布した。その後にブラックライトで紫外線を照射し、目視で観察した。その結果、実施例3の離型剤を吹き付け塗布した箇所で、オレンジ色から赤色の発光を視認することができ、その蛍光から離型剤の塗布状況を確認することができた。
なお、実施例3に用いた(Sr,Mg)
3(PO
4)
2:Sn蛍光体は、室温から高温になるに伴い発光色が短波長側にシフトするため、実質的な視感輝度が高まる。このことから、本発明の300〜400℃といった高温状態における使用用途に適している。
【0023】
以上のことから、本発明の離型剤は、300〜400℃といった高温状態においてもブラックライトなどの紫外線光源を用いて紫外線を照射することで蛍光を発するため、実際の使用条件温度において、金型内面への離型剤の塗布状況を目視等で確認することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の離型剤は、300℃〜400℃という高温の温度範囲においても、蛍光発光により塗布状態の確認が可能となる優れた特性を有するため、特に金型温度を下げる必要が無く、金型の実際の使用温度条件においても蛍光発光により塗布状態の確認が可能となるため、高温で成型するダイカスト等の離型剤として好適に用いることができる。