(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
往路側導体と復路側導体からなるケーブル本体を有して、高周波電源の出力端子に接続され、その先端に出力変成器を介して加熱コイルが接続される高周波加熱用の出力ケーブルであって、
前記ケーブル本体は、多数本の裸銅線が束ねられてその外周部が内部絶縁体でそれぞれ被覆された複数本の導体と、前記導体の端末部が捻られた状態とされてその先端に圧着固定された圧着端子と、前記導体の端末部以外が捻られることなく束ねられて内部に嵌挿配置された外部絶縁体とを有し、前記複数本の導体のうち、隣接する導体の一方が前記往路側導体として使用可能で他方が復路側導体として使用可能に構成されていることを特徴とする高周波加熱用の出力ケーブル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような出力ケーブルにあっては、高周波電源から高周波電流が供給される導体として多数本の細い銅線が編まれた状態の一対の網導線が使用され、その一方の網導線が往路側導体を形成し他方の網導線が復路側導体を形成しているため、ケーブルの途中が金属部材に接触したり金属部材の近傍に配置されると、網導線から発生する磁束により金属部材に誘導加熱現象が発生し、該金属部材を発熱させてしまい、出力ケーブルの配置に細心の注意を払う必要がある等、誘導加熱の作業性が劣る。特に、例えばジェットタービン等のように大きなワークの複数のネジ部を、加熱コイルを移動させながら誘導加熱する場合等に、加熱コイルの移動と共に出力ケーブル自体が移動してその位置が変化し、ワークの誘導加熱しない部分等に接触し易いことから、その改善が望まれている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、ケーブル自体から発生する磁束を少なくして、出力ケーブルの配置に気を使う必要がなく加熱作業の作業性等を向上させ得る高周波加熱用の出力ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、往路側導体と復路側導体からなるケーブル本体を有して、高周波電源の出力端子に接続され、その先端に出力変成器を介して加熱コイルが接続される高周波加熱用の出力ケーブルであって、前記ケーブル本体は、多数本の
裸銅線が束ねられてその外周部が内部絶縁体でそれぞれ被覆された複数本の導体と、前記導体の端末部が捻られた状態とされてその先端に圧着固定された圧着端子と、前記導体の端末部以外が捻られることなく束ねられて内部に嵌挿配置された外部絶縁体とを有し、前記複数本の導体のうち、隣接する導体の一方が前記往路側導体として使用可能で他方が復路側導体として使用可能に構成されていることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、前記複数本の導体が、該導体に隣接する全ての導体が同一路側導体とならないように構成されていることを特徴とする。さらに、請求項3に記載の発明は、前記
内部絶縁体及びまたは外部絶縁体がシリコンで形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1に記載の発明によれば、多数本の導線が内部絶縁体でそれぞれ被覆された複数本の導体と、該導体を束ねた状態でその外周部を被覆する外部絶縁体とを有するケーブル本体の複数本の導体のうち、隣接する導体の一方が往路側導体として使用可能で他方が復路側導体として使用可能に構成されているため、ケーブル自体から発生する磁束が電流方向が互いに逆となる導体を隣接させることで打ち消されて少なくなり、ケーブル自体による誘導加熱現象を抑制して、その配置に気を使う必要がなくなる等、加熱作業の作業性を向上させることができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、ケーブル本体の所定の導体に隣接する全ての導体が同一路側導体とならないように構成されているため、各導体(ケーブル本体)から発生する磁束の打ち消し効果が高められて、ケーブル自体による誘導加熱現象を一層抑制することができる。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、
請求項1または2に記載の発明の効果に加え、ケーブル本体
の内部絶縁体や外部絶縁体がシリコンで形成されているため、ケーブル本体に十分な可撓性を確保できて、長さが長い出力ケーブルであっても、その配置を容易に行うことができる等、加熱作業の作業性を一層向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜
図4は、本発明に係わる高周波加熱用の出力ケーブルの一実施形態を示している。
図1及び
図2に示すように、高周波加熱装置1は、所定周波数の高周波電流を出力可能な高周波電源2(高周波発信器)と、この高周波電源2の前面に設けた出力端子に接続され、先端に出力変成器4を介して加熱コイル5が接続された出力ケーブル3を有している。なお、高周波電源2に併設して冷却水供給装置6が設けられ、この冷却水供給装置6と前記加熱コイル5が、高周波電源2を中継して往路側と復路側からなる一対の冷却ホース7で接続されている。
【0014】
前記高周波電源2は、例えば半導体スイッチング素子を使用したフルブリッジ回路等からなるインバータ回路を有するトランジスタインバータで構成され、所定周波数の高周波電流をその出力端子から出力可能となっている。また、例えば高周波電源2に設けた図示しない制御装置には、「加熱入」「加熱切」「タイマセット」「非常停止」等の操作ボタンが設けられた手操作ボックス8が、所定長さのケーブルで有線接続されるかもしくは無線接続されている。
【0015】
この高周波電源2の出力端子に接続される前記出力ケーブル3は、
図3及び
図4(a)に示すように、外部絶縁体11の内部に複数本の導体10が嵌挿されたケーブル本体3aと、十分な可撓性を有してケーブル本体3aの外周部を覆う絶縁チューブ3bを有している。ケーブル本体3aは、複数本の導体10からなる往路側導体10Aと、該往路側導体10Aと同一本数の導体10からなる復路側導体10Bを有し、これら導体10A、10Bがシリコンからなる前記外部絶縁体11で被覆されている。なお、
図4(a)においては、各導体10間に隙間が形成された状態となっているが、これは作図上の問題であって、実際には、各導体10は密着した状態で外部絶縁体11で被覆されている。このことは、後述する変形例においても同様である。
【0016】
前記往路側導体11Aと復路側導体10Bを形成する複数本の導体10は、
図4(b)に示すように、多数本の導線としての裸銅線12と、この裸銅線12を束ねた状態でその外周部を被覆する内部絶縁体13を有している。この内部絶縁体13は、導体10の外径が例えば5mm程度と比較的小さく導体10自体が細くて所定の可撓性を有していることから、所定色のポリエチレン等が使用されるが、前記外部絶縁体11と同様のシリコン等の可撓性に優れた材質を使用することも可能である。
【0017】
また、往路側導体10Aと復路側導体10Bを構成する複数本の導体10は、
図4(a)に示すように、往路側と復路側が交互に隣接する、すなわち隣接する複数本の導体10が全て同一路側の導体とならないように設定されている。このとき、各導体10は、前述した内部絶縁体13の色が、例えば
図4(a)で斜めのハッチングで示す往路側導体10Aが「青色」で、
図4(a)で格子状のハッチングで示す復路側導体10Bが「赤色」に設定されている。そして、「青色」の複数本の導体10を並列接続状態とすることで1本の往路側導体10Aとして機能し、「赤色」の複数本の導体10を並列接続状態とすることで1本の復路側導体10Bとして機能するようになっている。
【0018】
また、前記往路側導体10Aと復路側導体10Bを形成する複数本の導体10は、
図3に示すように、所定長さの端末部が捻られた状態とされて、その先端に圧着端子14が絶縁スリーブ15を介してそれぞれ圧着固定され、この一対の圧着端子14が高周波電源2の出力端子や出力変成器4の入力端子に接続固定されるようになっている。なお、ケーブル本体3aの端末部以外の内部の導体10は、捻れることなく外部絶縁体11内に嵌挿配置されている。また、ケーブル本体3aの外部絶縁体11の端末部は、熱収縮性絶縁体16で被覆され、また、ケーブル本体3aの外周部を被覆する前記絶縁チューブ3bは、その端末部分がインシュロック17(締結バンド)によりケーブル本体3aに固定されている。
【0019】
この出力ケーブル3の先端に接続される前記出力変成器4は、例えば特許第3397267号に示す外形形状が円筒形状の出力変成器が使用され、変成器4自体の小型化が図られると共に、
図1及び
図2に示すように、外周ケース4aに設けた取手4bを持つことにより容易に移動ができて、使い勝手の向上が図られている。また、この出力変成器4の出力端子に接続される前記加熱コイル5は、誘導加熱するワーク自体や加熱部位の形態に応じて、銅パイプを所定形状に屈曲させる等した適宜形状の加熱コイルが使用されている。そして、この加熱コイル5の両端部に前記一対の冷却ホース7が接続され、冷却水供給装置6から冷却水が加熱コイル5の銅パイプ内に循環供給されて、加熱コイル5への高周波電流供給時の、該加熱コイル5自体の発熱が抑えられるようになっている。
【0020】
次に、このように構成された前記高周波加熱装置1の動作の一例について説明する。先ず、高周波電源2の出力端子に作業現場に対応した所定長さの出力ケーブル3の基端部を接続すると共に、冷却水供給装置6と加熱コイル5を出力ケーブル3と同一長さの冷却ホース7で接続する。このとき、一対の冷却ホース7と出力ケーブル3は、その所定位置が締結バンド等により結束されており、出力ケーブル3と冷却ホース7が一体的に移動可能となっている。
【0021】
そして、作業者が出力変成器4の取手4bを握持して加熱コイル5をワークの誘導加熱位置まで移動させ、この状態で前記手操作ボックス8の「加熱入」ボタンを押すと、高周波電源2から出力変成器4に予め加熱部位の形態等に応じて設定した所定周波数の高周波電流が供給される。出力変成器4に高周波電流が供給されると、これが該変成器4で所定出力の電流に変換されて加熱コイル5に供給され、加熱コイル5から発生する磁束でワークの加熱部位に渦電流が誘起されて該部分が短時間で誘導加熱される。
【0022】
この誘導加熱時に高周波電流は、高周波電源2の一方の出力端子、ケーブル本体3aの往路側導体10A、出力変成器4の往路側、加熱コイル5、出力変成器4の復路側、ケーブル本体3aの復路側導体10B、高周波電源2の他方の出力端子に流れる。そして、この高周波電流は、ケーブル本体3aの各導体10部分において、表皮効果により各導体10の表面に集中して流れる表皮電流になると共に、ケーブル本体3aを流れる場合に、各導体10aから少なからず磁束が発生した状態となる。
【0023】
このとき、前記出力ケーブル3の場合、ケーブル本体3aの隣接する導体10を流れる電流の向きが逆方向となっていることから、各導体10から発生する磁束が互いに打ち消される状態となって、従来の電流方向がそれぞれ一定の網銅線からなる導体に比較して、ケーブル本体3aから発生する磁束の量が低減する。したがって、例えば長さが数十メートルと長い出力ケーブル3を加熱コイル5の位置変更により移動させた場合で、出力ケーブル3の途中が作業現場の金属部材やワークの非加熱部位に接触したり近接した場合等であっても、これらの部材の誘導加熱現象が抑えられることになる。
【0024】
そして、加熱部位が所定時間誘導加熱されたら、手操作ボックス8の「加熱切」ボタンを押して、加熱コイル5への高周波電流の供給を停止させる。これにより、ワークの所定の加熱部位の誘導加熱作業が完了する。なお、加熱コイル5による誘導加熱時間は、作業者が誘導加熱部位の加熱状態を目視で確認しながら入切しても良いし、手操作ボックス8の「タイマセット」ボタンで設定した時間を使用しても良い。そして、ワークの所定の加熱部位の加熱が終了したら、加熱コイル5を同じワークの次の加熱部位に移動させて、該部位を同様に誘導加熱する。この加熱コイル5(出力変成器4)の移動時に、出力ケーブル3の外部絶縁体11が前述したようにシリコンで形成されて十分な可撓性を有していたり、絶縁チューブ3bや冷却ホース7も十分な可撓性を有していることから、出力ケーブル3が加熱コイル5等に追従して良好に移動することになる。
【0025】
このように、前記実施形態の出力ケーブル3を使用した高周波加熱装置1においては、多数本の裸銅線12が内部絶縁体13でそれぞれ被覆された複数本の導体10と、該導体10を束ねた状態でその外周部を被覆する外部絶縁体11とを有するケーブル本体3aの複数本の導体10のうち、隣接する導体10の一方が往路側導体10Aとして使用され他方が復路側導体10Bとして使用可能に構成されているため、出力ケーブル3自体から発生する磁束が、電流方向が互いに逆となる隣接する導体10により打ち消されて少なくなり、出力ケーブル3自体による誘導加熱現象を抑制して、その配置に気を使う必要がなくなる等、誘導加熱作業の作業性を向上させることができる。
【0026】
特に、所定の導体10に隣接する全ての導体10が同一路側導体とならないように構成されているため、各導体10から発生する磁束の打ち消し効果が高められて、出力ケーブル3自体による誘導加熱現象を一層抑制することができると共に、ケーブル本体3aの端末部における往路側導体10Aの複数本の導体10と、復路側導体10Bの複数本の導体10が、それぞれ捻られた状態となっているため、各往路側及び復路側の導体10A、10Bから発生する磁束の打ち消し効果をより一層高めることが可能になる。
【0027】
また、ケーブル本体3aの最外側に位置する外部絶縁体3bがシリコンで形成されているため、ケーブル本体3aに十分な可撓性を確保できて、長さが長い出力ケーブル3であっても、その配置に気を使うことなく容易に移動させることができると共に、出力ケーブル3の先端に接続された出力変成器4に設けた取手4bの握持により、加熱コイル5等をケーブル本体3aと共に所望位置に容易に移動させることができて、誘導加熱作業時の作業性を一層向上させることができる。
【0028】
さらに、出力ケーブル3の先端側に接続された出力変成器4が、外形形状が円筒形状に形成されて、その内部構造により効率的な変成器として作用するため、この出力変成器4の移動をより一層容易に行うことができると共に、高周波電源2を移動させることなく大きなワークの複数箇所の加熱部位に加熱コイル5を容易に移動させることができ、加熱コイル5の使い勝手を向上させて各種形態のワークに容易に適用することが可能になる。
【0029】
また、ケーブル本体3aに高周波電流を供給すると、高周波電流が該ケーブル本体3aの導体10の表面に表皮電流として流れることになるが、従来の網導線のように互いに接触状態の銅線を使用した場合、網銅線が1本の導体となってその外周面が表面となって表皮電流が流れることになる。しかし、前記出力ケーブル3の場合は、各導体10が多数本の裸銅線12が内部絶縁体13で被覆された状態で裸銅線12が多数本並列状態とされているため、多数本の裸銅線の外周面、すなわち導体10の外周面に表皮電流がそれぞれ流れることになり、この導体10が複数本並列接続状態とされていることから、ケーブル本体3aの電流容量を大きくすることができる。
【0030】
また、ケーブル本体3aの往路側導体10Aと復路側導体10Bを形成する各導体10が隣接状態で外部絶縁体11内に嵌挿配置されているため、従来の往路側と復路側の一対の網銅線の間隔に対して、往路側導体10Aと復路側導体10B間及び各導体10間の間隔を狭めることができて、ケーブル本体3aの往路側導体10Aと復路側導体10B間等のインピーダンス(インダクタンス等)を小さくすることができる。これらのことから、出力ケーブル3に高周波電流が流れる際の電流伝達ロスを低減できて、出力ケーブル3の電流効率を高め、例えば所定の出力に対して出力ケーブル3自体を従来に比較して細く形成できる等、出力ケーブル3のコストダウンを図ること等が可能になる。
【0031】
さらにまた、出力ケーブル3が、導体10と外部絶縁体11からなるケーブル本体3aと絶縁チューブ3bで構成されて、出力ケーブル3自体を冷却水で冷却する必要がなくなり、加熱コイル5のみの冷却で対応できるため、冷却水供給装置6の小型化が図れると共に、従来行われていた高周波電流が流れる網導線(導体)を冷却水チューブ内に嵌挿する場合に生じ易い、冷却水による導体10の変色や腐食による劣化がなくなり、ケーブル本体3aの寿命を延ばすことができる等、コスト的に有利な出力ケーブル3を得ることができる。
【0032】
図5は、前記出力ケーブル3の変形例を示している。以下、前記実施形態と同一部位には、同一符号を付して説明する。
図5(a)に示す出力ケーブル3は、前記ケーブル本体3aを2本とし、これらを束ねた状態で外周絶縁体18で被覆したものである。この例の出力ケーブル3は、各ケーブル本体3aに複数本(図では3本)の導体10からなる往路側導体10Aと復路側導体10Bをぞれぞれ形成し、各ケーブル本体3aの往路側導体10Aと復路側導体10Bの端末部を前記実施形態と同様に圧着端子14等で固着して合計6本の導体10で往路側導体10Aや復路側導体10Bが形成されている。
【0033】
また、
図5(b)に示す出力ケーブル3は、
図5(a)におけるケーブル本体3aを増やして4本にすると共に、各ケーブル本体3aに4本の導体10を設けたものである。そして、各ケーブル本体3aの2本(合計8本)の導体10を往路側導体10Aとし、他の2本(合計8本)の導体10を復路側導体10Bとして使用する。このように、ケーブル本体3a自体の本数や各ケーブル本体3aの導体10の本数も、隣接する導体10が全て同一路側導体とならないような適宜の構成を採用することができる。
【0034】
なお、
図5に示す各変形例において、外周絶縁体18も前記外部絶縁体11と同様に、シリコンで形成することが好ましい。これらの変形例においても、隣接する導体10に流れる高周波電流の向きが逆となり、各導体10から発生する磁束が打ち消されて出力ケーブル3による誘導加熱現象を抑制することが可能になる。また、これらの各変形例においては、導体10の本数を増やすことができるため、ケーブル本体3aにおける導体10の表面積が大きくなって高周波の表皮電流の増大化が図れ、各種出力容量の加熱装置に適用することができる。
【0035】
なお、前記実施形態における、出力ケーブル3内の各導体10の嵌挿構造、出力変成器4の形態等は一例で
あって、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜の構成を採用することができる。