特許第5875954号(P5875954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5875954シアノボレート化合物、並びに、これを用いた電解質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5875954
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】シアノボレート化合物、並びに、これを用いた電解質
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20160218BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20160218BHJP
【FI】
   C07F5/02 F
   H01M10/0568
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-162118(P2012-162118)
(22)【出願日】2012年7月20日
(65)【公開番号】特開2014-5261(P2014-5261A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年2月5日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2012/051275
(32)【優先日】2012年1月20日
(33)【優先権主張国】WO
(31)【優先権主張番号】特願2012-126604(P2012-126604)
(32)【優先日】2012年6月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(74)【代理人】
【識別番号】100149021
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 有佳理
(72)【発明者】
【氏名】小畠 貴之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 出穂
【審査官】 緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−110235(JP,A)
【文献】 特開2008−218487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/02
H01M 10/0568
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるシアノボレート化合物。
【化1】

(式(1)中、Mm+はプロトン、1価、2価、または3価の有機又は無機カチオンを表し、Yはハロゲンまたはシアノ基を表し、mは1〜3の整数を表し、nは0を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の化合物と媒体を含むことを特徴とする組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物を含有することを特徴とする電解質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアノボレート化合物、並びに、これを用いた電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン性化合物やこれを含む電解質材料は、イオン伝導による各種電池などのイオン伝導体に使用されており、一次電池、リチウムイオン二次電池や燃料電池などの充放電機構を有する電池の他、電界コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、太陽電池、エレクトロクロミック表示素子などの電気化学デバイスに用いられている。
【0003】
これらの電気化学デバイスに好適に用いられるイオン性化合物としては種々多様な化合物が検討されており、例えば、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、トリフルオロメチルスルホニルイミド(TFSI)、ジシアノアミド(DCA)、トリシアノメチド(TCM)などのアルカリ金属塩又は有機カチオン塩が提案されている。
【0004】
特に、中心元素がホウ素であるシアノボレートをアニオンとするイオン性化合物に関して、例えば、特許文献1、2には、テトラシアノボレート([B-(CN)4]、以下TCBと称することがある)をアニオンとするイオン性化合物(TCB塩)が記載されている。TCB塩は、イオン性液体としての性質、すなわち、室温でも液体であり、熱的、物理的、電気化学的にも安定といった性質を示すことから、その製造方法に加えて、様々な用途への応用が検討されている(特許文献1、2)。
【0005】
また、特許文献3には、TCBのホウ素に結合するシアノ基の一部がアルコキシ基又はチオアルコキシ基で置換されたイオン性化合物が開示されており、当該イオン性化合物がイオン性液体などとして有用である旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−517546号公報
【特許文献2】国際公開第2010/021391号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2010/086131号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、上記イオン性化合物の用途としては、携帯電話、パーソナルコンピューター、家庭用電化製品、さらには自動車等の電源に用いられる蓄電デバイスが検討されている。これらの用途では、小型化や高性能化の要求が年々高まっており、蓄電デバイスには高出力化、さらには長期にわたる安定的な容量維持が求められている。
【0008】
蓄電デバイス性能の向上については、イオン性化合物の検討も考えられる。すなわち、シアノボレートの置換基を任意の置換基に変換できれば、TCBとしての性質を持ちつつも、用途に応じて、融点や有機溶媒への溶解性等の物性が変更できるようになり、上記要望にかなうイオン性化合物の提供が可能になると考えられる。
【0009】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、シアノボレートの置換基を種々検討することにより、蓄電デバイスにおいて高出力、長期にわたる安定的な容量維持を可能とする電解質として好適に使用できる新規なシアノボレート化合物を提供することを目的とする。またそれを用いた電解質を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、シアノボレート化合物を種々検討した結果、特定の置換基を有する新規なシアノボレート化合物を見出し、当該シアノボレート化合物が蓄電デバイスの電解質として好適に使用できることを見出した。本発明のシアノボレートとは、一般式(1)で表されるシアノボレート化合物であるところに特徴を有する。
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、Mm+はプロトン(H+)、1価、2価、または3価の有機又は無機カチオンを表し、YはH、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、シアノ基、−C(O)R14、−S(O)l14、Z(R142又はXR14を表し、R14は、H、ハロゲン、又は、主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、ZはN又はPを表し、XはO又はSを表し、lは1〜2の整数を表し、mは1〜3の整数を表し、nは0〜10の整数を表す。)
【0013】
本発明に係るイオン性化合物は、上記一般式(1)において、Yが、シアノ基又はハロゲンであるのがより好ましい。また、上記一般式(1)において、Mm+が金属イオンであるイオン性化合物、上記Mm+が有機カチオンであるイオン性化合物は、いずれも本発明の好ましい実施態様である。
本発明には、一般式(1)で表されるシアノボレート化合物と媒体を含む組成物、及び、上記シアノボレート化合物を含有する電解質も含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るシアノボレート化合物は、ホウ素にシアノ基と、エステル結合、置換基Yが結合した構造を有しており、ホウ素に直接シアノ基のみが結合したTCB塩とは構造が異なるため、融点や有機溶媒への溶解性の点で、TCB塩とは異なる物性を有することが期待される。また、ホウ素に結合したエステル結合が適度に分解すると予測され、このシアノボレート塩を電解質とする電解液を各種蓄電デバイスに用いることで、蓄電デバイスの電極表面に皮膜が形成され、また、溶媒や電解液中に含まれる添加剤等の分解が抑制され、安定した容量維持を発揮することが期待できる。また、シアノ基が存在することによりTCB塩と同様の、耐電圧の向上による使用電圧帯の向上も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、リチウムシアノ(フルオロ)オキサラトボレートのLSV測定結果を示す図である。
図2図2は、リチウムジシアノオキサラトボレートのLSV測定結果を示す図である。
図3図3は、リチウムジフルオロオキサラトボレートのLSV測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.シアノボレート化合物
本発明に係るイオン性化合物は、一般式(1):
【0017】
【化2】
【0018】
で表されるシアノボレート化合物(以下、化合物(1)と称する)である。なお、上記式(1)中、Mm+はプロトン、1価、2価、または3価の有機又は無機カチオンを表し、YはH、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、シアノ基、−C(O)R14、−S(O)l14、−Z(R142又は−XR14を表し、R14は、H、ハロゲン、又は、主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、ZはN又はPを表し、XはO又はSを表し、lは1〜2の整数を表し、mは1〜3の整数を表し、nは0〜10の整数を表す。
【0019】
本発明に係るシアノボレート化合物(1)において、この化合物(1)を構成するシアノボレートアニオンが、ホウ素に結合する置換基のうち、2つがエステル結合であり、たがいに結合して環状となっている点に特徴を有する。すなわち、TCB塩がホウ素に直接シアノ基のみが結合した構造を有するのに対して、本発明に係る化合物(1)は、ホウ素にシアノ基と、エステル結合、置換基Yが結合した構造を有している。したがって、斯かる構造の違いから、融点や有機溶媒への溶解性の点で、TCB塩とは異なる物性を有することが期待される。また、ホウ素に結合したエステル結合が適度に分解すると予測され、このシアノボレート塩を電解質とする電解液を各種蓄電デバイスに用いることで、蓄電デバイスの電極表面に皮膜を形成し、溶媒や電解液中に含まれる添加剤等の分解を抑制し、安定した容量維持を発揮することが期待できる。また、シアノ基が存在することによりTCB塩と同様の、耐電圧の向上による使用電圧帯の向上も期待できる。以下、本発明に係るイオン性化合物を構成するアニオン、カチオンについて順に説明する。
【0020】
1−1.シアノボレートアニオン
上記一般式(1)で表されるシアノボレートアニオン中、nは、0〜10の整数を表し、ホウ素に結合する二つのエステル結合を互いに結合させている直接結合またはメチレン基の炭素数を示す。nは好ましくは0〜4であり、より好ましくは0〜2である。
【0021】
従って、本発明のシアノボレートアニオンとしては、シアノオキサラトボレート(n=0)、シアノマロナトボレート(n=1)、シアノスクシナトボレート(n=2)、シアノグルタラトボレート(n=3)、シアノアジポラトボレート(n=4)などが挙げられる。上記一般式で表されるシアノボレートアニオン中、Yは、H、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、シアノ基、−C(O)R14、−S(O)l14、−Z(R142又は−XR14を表す。
【0022】
上記シアノボレートアニオンを構成する置換基Yがハロゲンの場合、Yとしては、F、Cl、Br又はIが挙げられる。ハロゲンの中でも、F(フッ素)がホウ素原子との親和性が高くB−F結合が安定なため、好ましい。
【0023】
上記置換基Yが主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基の場合は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜10のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、メチルシクロヘキセニル基、エチルシクロヘキセニル基等の炭素数1〜10のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基、シクロヘキシルエチニル基、フェニルエチニル基等の炭素数1〜10のアルキニル基;フェニル基、ベンジル基、チエニル基、ピリジル基、イミダゾリル基等の炭素数6〜10のアリール基又はヘテロ原子含有アリール基;が挙げられる。
【0024】
主鎖の炭素数が1〜10のハロゲン化炭化水素基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロクロロメチル基、フルオロジクロロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、フルオロクロロエチル基、クロロエチル基、フルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、フルオロクロロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロオクチル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロヘキシル基、ペンタフルオロフェニル基、パークロロフェニル基、フルオロメチレン基、フルオロエチレン基、フルオロシクロヘキセン基等、上記炭化水素基の水素原子の一部又は全てがハロゲン(F、Cl、Br又はI)で置換されたハロゲン化アルキル基又はハロゲン化アリール基等が挙げられる。
【0025】
上記ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基Yは、置換基(たとえば、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基等)を有していてもよい。また、Si、B、O、N、Alなどのヘテロ原子を含む官能基を有していてもよい。ヘテロ原子を含む官能基としては、例えば、シアノ基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメトキシアルミニウム基、−CH2CH2B(CN)3、−C36B(CN)3などが挙げられる。置換基Yにシアノ基など電気吸引性置換基を含む場合はシアノボレート塩の耐電圧が高くなることが期待され、好ましい。
【0026】
上記の通り、Yがハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基である場合、シアノボレート塩の有機溶媒への溶解性が向上するため、蓄電デバイス等の電解液として用いる際に高性能な電解液とすることが可能となり、好ましい。
【0027】
上記−C(O)R14、−S(O)l14、−Z(R142及び−XR14中、R14は、H、ハロゲン、又は、主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表す。ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、又は、ヨウ素などが好ましい。上記有機置換基は、直鎖状、分岐鎖状、環状の何れであってもよく、これらの内2以上の構造を併せ持っていてもよく、また、置換基を有していてもよい。さらに、有機置換基R14は不飽和結合を含んでいてもよい。有機置換基R14の主鎖の原子数は上述の通りであるが、有機置換基R14に含まれる炭素の数(置換基を含む)は1〜20の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜10の範囲である。有機置換基R14には、炭素および水素以外のヘテロ原子(O、N、S、Si等)やハロゲン原子(F、Cl、Br等)が含まれていてもよく、その数や位置にも特に制限は無い。したがって、例えば、一般式(1)中のYについて、YがXR14の場合、Xに隣接する原子の種類は、特に炭素に限定されるものではなく、例えばSiやAl等のヘテロ原子であってもよい。また、有機置換基R14は、炭素以外の原子のみから構成されるものであってもよい。
【0028】
具体的な有機置換基R14としては、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、シアノ化炭化水素基、アルコキシ化及び又はアリールオキシ化炭化水素基、アルカノイル基を含む有機置換基、エステル結合を有する有機置換基、含窒素有機置換基、チオアルコキシ構造を有する基、スルフィニル基を有する有機置換基、スルホニル基を有する有機置換基、ヘテロ原子を有する有機置換基、−CH2CH2OB(CN)3、−C36OB(CN)3;等を挙げることができる。上記有機置換基R14は、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含んでいてもよい。
【0029】
上記Yが−C(O)R14で表される場合は、R14が、飽和又は不飽和の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基、アルコキシ化又はアリールオキシ化炭化水素基、又は、含窒素有機置換基であるのが好ましく、R14が、メチル基、エチル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基であるものがより好ましい。従って、置換基Yとしては、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソブタノイル基、トリフルオロアセチル基、ベンゾイル基、ペンタフルオロベンゾイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メチルオキサリル基(−COCOCH3)、メチルマロニル基(−COCH2COCH3)、メチルスクシニル基(−COCH2CH2COCH3)等の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むアルカノイル基を含む有機置換基、アセトキシメチルカルボニル基、アセトキシエチルカルボニル基、ベンゾイルオキシエチルカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、メトキシエチレンオキシカルボニル基等の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むエステル結合を有する有機置換基;アミド基、N−アルキルアミド基、N−フェニルアミド基等の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含む含窒素有機置換基が挙げられる。
【0030】
Yが−S(O)l14で表される場合は、R14が、ハロゲン、又は、飽和又は不飽和の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基であるものが好ましく、より好ましくはハロゲン、ハロゲン化炭化水素基である。具体的には、−S(O)l14としては、フルオロスルフィニル基、クロロスルフィニル基、トリフルオロメチルスルフィニル基、ペンタフルオロエチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ペンタフルオロフェニルスルフィニル基、トリルスルフィニル基等のスルフィニル基(l=1)、フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、ペンタフルオロエチルスルホニル基、トリルスルホニル基、フェニルスルホニル基、ペンタフルオロフェニルスルホニル基等のスルホニル基(l=2)がより好ましいものとして挙げられる。
【0031】
−C(O)R14や−S(O)l14は、シアノ基同様電子求引性の置換基であり、中心元素に帯電した負電荷を非局在化させる。そのためシアノ基と同様に耐電圧の向上が期待できる。
【0032】
上記Yが−Z(R142で表される場合は、ジメチルアミノ基、エチルメチルアミノ基等のZがNであるアミノ基;ジフェニルホスフィノ基、ジシクロヘキシルホスフィノ基等のZがPであるホスフィノ基;が挙げられる。
【0033】
上記Yが−XR14で表される場合は、XがOであって、R14がハロゲンを有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基)である基; XがOであって、R14がアルキルシリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等)である基;XがOであって、R14が1価の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せから選択されるアルカノイル基(例えば、アセチル基、トリフルオロアセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソプロパノイル基、イソブタノイル基、ベンゾイル基、ペンタフルオロベンゾイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メチルオキサリル基、メチルマロニル基、メチルスクシニル基等)である基;XがOであって、R14がスルフィニル基(例えば、フルオロスルフィニル基、クロロスルフィニル基、トリフルオロメチルスルフィニル基、トリルスルフィニル基等)、又は、スルホニル基(フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、トリルスルホニル基等)である基;XがSであって、R14がハロゲンを有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である基(例えば、メチルチオ基、トリフルオロメチルチオ基等);等が挙げられる。なお、Xは、O又はSであるが、原料の入手のしやすさ、コストの面から、XはOであることが好ましい。
【0034】
シアノボレート塩にZ(R142やXR14を導入すると、高耐電圧はもちろん、溶媒への溶解性に優れた塩となる。この場合、R14に電子吸引性の置換基が含まれていると、シアノボレートアニオンの耐電圧性が増すため好ましい。具体的には、R14にアルカノイル基、スルフィニル基、スルホニル基が含まれていることが好ましい。同様に、R14はフッ素、又は、フルオロアルキル基等フッ素を含む基であることも好ましい。
【0035】
また、本発明のシアノボレート化合物のアニオンとしては、下記一般式(8−1)、(8−2)で表されるシアノボレートアニオン類等であってもよい。
【0036】
【化3】

(一般式(8−1)、(8−2)中、XはOであり、pは0〜10の整数を表す。好ましくは、XはO、pは0〜4であり、pは0〜1であるのがより好ましい。)
【0037】
より具体的な本発明のシアノボレート化合物のアニオンとしては、下記式(10−1)〜(10−14)で表されるものが挙げられる(nは0〜2の整数であるが、0または1が好ましく、0がさらに好ましい)。好ましいアニオンとしては(10−1),(10−2),(10−3),(10−4),(10−7),(10−9)及び(10−10)が挙げられる。
【0038】
【化4】
【0039】
1−2.プロトン(H+)、有機又は無機カチオン;Mm+
本発明に係るイオン性化合物を構成する有機カチオンMm+としては、一般式(2):L+−RS(式中、Lは、C、Si、N、P、S又はOを表し、Rは、同一若しくは異なる有機基であり、互いに結合していてもよい。sはLに結合するRの数を表し、2、3又は4である。なお、sは、元素Lの価数およびLに直接結合する二重結合の数によって決まる値である)で表されるオニウムカチオンが好適である。
【0040】
上記Rで示される「有機基」としては、水素原子、フッ素原子、又は、炭素原子を少なくとも1個有する基を意味する。上記「炭素原子を少なくとも1個有する基」は、炭素原子を少なくとも1個有してさえいればよく、また、ハロゲン原子やヘテロ原子などの他の原子や、置換基などを有していてもよい。置換基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル結合を有する基、チオエーテル結合を有する基、エステル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、ジスルフィド基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホニル基などが挙げられる。
【0041】
一般式(2)で表されるオニウムカチオンとしては、たとえば、下記一般式で表されるものが挙げられる。
【0042】
【化5】

(式中のRは、一般式(2)と同様)
【0043】
上記一般式で表される6つのオニウムカチオンの中でも、LがN,P,SまたはOであるものがより好ましく、さらに好ましいのはLがNのオニウムカチオンである。上記オニウムカチオンは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。具体的に、LがN,P,SまたはOであるオニウムカチオンとしては、下記一般式(3)〜(5)で表されるものが好ましいオニウムカチオンとして挙げられる。
【0044】
一般式(3):
【0045】
【化6】

で表される15種類の複素環オニウムカチオンの内の少なくとも一種。
【0046】
上記有機基R1〜R8は、一般式(2)で例示した有機基Rと同様のものが挙げられる。より詳しくは、R1〜R8は、水素原子、フッ素原子、又は、有機基であり、有機基としては、直鎖、分岐鎖又は環状(但し、R1〜R8が互いに結合して環を形成しているものを除く)の炭素数1〜18の炭化水素基、あるいは炭化フッ素基であるのが好ましく、より好ましいものは炭素数1〜8の炭化水素基、炭化フッ素基である。また、有機基は、上記一般式(2)に関して例示した置換基や、N、O、Sなどのヘテロ原子及びハロゲン原子を含んでいてもよい。
【0047】
一般式(4):
【0048】
【化7】

(式中、R1〜R12は、一般式(3)のR1〜R8と同様)
で表される9種類の飽和環オニウムカチオンの内の少なくとも一種。
【0049】
一般式(5):
【0050】
【化8】

(式中、R1〜R4は、一般式(3)のR1〜R8と同様)
で表される鎖状オニウムカチオン。
【0051】
例えば、一般式(5)で表される鎖状オニウムカチオンとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、メトキシエチルジエチルメチルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ジメチルジステアリルアンモニウム、ジアリルジメチルアンモニウム、2−メトキシエトキシメチルトリメチルアンモニウムおよびテトラキス(ペンタフルオロエチル)アンモニウム、N−メトキシトリメチルアンモニウム、N−エトキシトリメチルアンモニウム、N−プロポキシトリメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム類、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウム等の第3級アンモニウム類、ジメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、ジブチルアンモニウム等の第2級アンモニウム類、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、オクチルアンモニウム等の第1級アンモニウム類、およびNH4で表されるアンモニウム化合物等が挙げられる。
【0052】
上記一般式(3)〜(5)のオニウムカチオンの中でも、窒素原子を含むオニウムカチオンがより好ましく、さらに好ましいものとしては、下記一般式;
【0053】
【化9】

(式中、R1〜R12は、一般式(3)のR1〜R8と同様である。)
で表される6種類のオニウムカチオンの少なくとも1種が挙げられる。
【0054】
上記6種類のオニウムカチオンの中でも、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム及びトリエチルメチルアンモニウム等の鎖状第4級アンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウム及びジメチルエチルアンモニウム等の鎖状第3級アンモニウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム及び1,2,3−トリメチルイミダゾリウム等のイミダゾリウム、N,N−ジメチルピロリジニウム及びN−エチル−N−メチルピロリジニウム等のピロリジニウムは入手容易であるためより好ましい。さらに好ましいものとしては、第4級アンモニウム、イミダゾリウムが挙げられる。なお、耐還元性の観点からは、上記鎖状オニウムカチオンに分類されるテトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムおよびトリエチルメチルアンモニウムなどの第4級アンモニウムがさらに好ましい。
【0055】
無機カチオンMm+としては、Li+、Na+、K+、Cs+等の1価の無機カチオンM1+;Mg2+、Ca2+、Zn2+、Pd2+、Sn2+、Hg2+、Rh2+、Cu2+、Be2+、Sr2+、Ba2+、Pb2+等の2価の無機カチオンM2+;および、Ga3+等の3価の無機カチオンM3+が挙げられる。これらの中でも、Li+、Na+、Mg2+およびCa2+はイオン半径が小さく蓄電デバイス等に利用し易いため好ましく、より好ましい無機カチオンMm+はLi+である。
【0056】
本発明に係る化合物(1)には、上記カチオンとアニオンの組み合わせからなるものは全て含まれる。具体的なイオン性化合物(1)としては、トリエチルメチルアンモニウムシアノフルオロオキサラトボレート、トリエチルアンモニウムジシアノオキサラトボレート、トリブチルアンモニウムジシアノオキサラトボレート、トリエチルアンモニウムジシアノマロナトボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノオキサラトボレート、トリエチルメチルアンモニウムジシアノスクシナトボレート、トリエチルメチルアンモニウムジシアノオキサラトボレート(トリエチルメチルアンモニウムジシアノオキサリルボレート)、トリエチルメチルアンモニウムメチルシアノオキサラトボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリフルオロメチルシアノオキサラトボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムシアノフェニルマロナトボレート等の有機カチオンの塩;リチウムシアノフェニルオキサラトボレート、ナトリウムジシアノオキサラトボレート、マグネシウムビス(ジシアノオキサラトボレート)、リチウムトリフルオロメチルシアノスクシナトボレート、リチウムシアノフェニルオキサラトエトキシボレート、リチウムシアノペンタフルオロフェノキシオキサラトブトキシボレート、リチウムトリフルオロメトキシシアノマロナトボレート、リチウムシアノ(ペンタフルオロフェノキシ)スクシナトボレート、リチウムシアノ(アセトキシ)オキサラトボレート、リチウムシアノ(トリフルオロアセトキシ)マロナトボレート、リチウムシアノ((メトキシカルボニル)オキソ)オキサラトボレート、リチウムシアノ(フルオロスルホナート)オキサラトボレート、リチウムシアノ(トリフルオロメタンスルホナート)オキサラトボレート、リチウムシアノ(メタンスルホナート)オキサラトボレート、リチウムシアノ(p−トルエンスルホナート)オキサラトボレート、リチウムシアノ(フルオロスルホニル)オキサラトボレート、リチウムシアノ(アセチル)オキサラトボレート、リチウムシアノ(トリフルオロアセチル)オキサラトボレート、リチウムシアノ(トリメチルシロキシ)オキサラトボレート、リチウムジシアノオキサラトボレート(リチウムジシアノオキサリルボレート)、リチウムシアノフルオロオキサラトボレート(リチウムシアノフルオロオキサリルボレート)等の無機カチオンの塩;が挙げられる。
【0057】
2−1.製造方法
本発明には、化合物(1)の製造方法も含まれる。
一般式(1)で表されるシアノボレート化合物は、特定のホウ素化合物と、アルキルシリル化合物、または金属シアニドを反応させることにより製造することができる。なお、上記反応には、必要に応じて、有機又は無機カチオンのハロゲン塩を用いてもよい。
【0058】
本発明の製造方法で使用できる好ましいホウ素化合物としては、B(Y’)q(X153-q又はM+B(Y’)q(X154-qの一般式で表される有機ハロゲン化合物が挙げられる(Y’、M+は一般式(1)のY、m=1であるMm+と同様、X15はハロゲン、qは2または3を表す)。この中でも、B(Y)t(X)1-t(OCO(CH2nCOO)又はM+B(Y)t(X)2-t(OCO(CH2COO) (ここでYは一般式(1)での定義と同様、Xはハロゲン、n=0〜10,t=0または1)の一般式で表されるものが好適に使用できる。具体的には、LiB(F)2(OCOCOO)、LiB(F)(Me)(OCOCOO)、LiB(F)(CF3)(OCOCOO)、LiB(F)(OSO2CF3)(OCOCOO)、LiB(F)2(OCOCH2COO)、LiB(Cl)(OCH2CH=CH2)(OCOCOO)、LiB(OSO2F)(F)(OCOCH2CH2COO)、Et3NHB(F)(OCOCF3)(OCOCOO)、Et3MeNB(Ph)(F)(OCOCOO)、EMImB(OCOCH3)(Cl)(OCOCH2COO)、Et4NB(OCF3)(F)(OCOCOO)、Et3MeNB(OCOPh)(F)(OCOCOO)、LiB(OMe)(F)(OCOCOO)、LiB(CH2CH=CH2)(F)(OCOCOO)等の、ハロゲンと、アルキル基、アリール基、又はアルカノイル基等の有機基とが、ホウ素に結合した有機ハロゲン化ホウ素化合物が挙げられる。なお、上記の有機ハロゲン化ホウ素化合物は、例えば、Chemistry−A European Journal 2009, 15, 10,p2270−p2272.に記載の方法を参照して製造することができる。
【0059】
上記の有機ハロゲン化ホウ素化合物にシアノ基を導入するシアン源としては、アルキルシリル化合物又は金属シアニドを用いることができる。具体例なアルキルシリル化合物としては、トリメチルシリルシアニド、トリエチルシリルシアニド、トリイソプロピルシリルシアニド、エチルジメチルシリルシアニド、イソプロピルジメチルシリルクロリド、tert-ブチルジメチルシリルシアニド等のアルキルシリルシアニド;ジメチルフェニルシリルシアニド、フェニルジメチルシリルシアニド等のアルキルアリールシリルシアニドが挙げられる。金属シアニドとしては、銅シアニド、亜鉛シアニド、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化リチウム等が挙げられる。中でも、アルキルシリルシアニド又はアルキルアリールシリルシアニドが好適に用いられる。より好ましくはトリアルキルシリルシアニドである。さらに好ましくはトリメチルシリルシアニドである。
【0060】
本発明の製造方法は、有機又は無機カチオンのハロゲン塩の存在下で行ってもよい。
有機又は無機カチオンのハロゲン塩を構成するハロゲンとしては、F、Cl、Br及びIが好ましく、より好ましくはCl又はBrである。一方、有機又は無機カチオンのハロゲン塩を構成する有機又は無機カチオンとしては、上述した化合物(1)を構成する有機又は無機カチオンが挙げられる。
【0061】
好ましい有機又は無機カチオンのハロゲン塩としては、トリエチルアンモニウムブロマイド、トリブチルアンモニウムブロマイド、トリエチルメチルアンモニウムブロマイド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、リチウムブロマイド、トリエチルアンモニウムクロライド、トリブチルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、リチウムクロライドが挙げられる。より好ましい有機又は無機カチオンのハロゲン塩は、トリエチルアンモニウムブロマイド、トリエチルメチルアンモニウムブロマイド、リチウムブロマイド、トリエチルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、リチウムクロライドであり、さらに好ましくは、トリエチルアンモニウムブロマイド、トリエチルメチルアンモニウムブロマイド、リチウムブロマイドである。
【0062】
上記有機又は無機カチオンのハロゲン塩の使用量は、ホウ素化合物に対して、1:5〜5:1(ホウ素化合物:有機又は無機カチオンのハロゲン塩、モル比)とするのが好ましい。より好ましくは1:2〜2:1であり、さらに好ましくは1:0.8〜1:1.2である。有機又は無機カチオンのハロゲン塩の配合量が少なすぎると、副生成物の除去が不十分となったり、カチオン量が不足して効率よく目的物を生成できない場合がある。一方、有機又は無機カチオンのハロゲン塩の配合量が多すぎると、有機又は無機カチオンのハロゲン塩が不純物として残存する傾向がある。
【0063】
本発明の製造方法では、反応を均一に進行させるため、反応溶媒を用いるのが好ましい。反応溶媒としては、上記原料が溶解するものであれば特に限定されず、水又は有機溶媒が用いられる。有機溶媒としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、へキサン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、ジエチルエーテル、シクロヘキシルメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、アセトニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらの反応溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。好ましくは、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、アセトニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒である。さらに好ましくはニトリル系溶媒である。反応条件は特に限定されず、例えば、反応温度は20℃〜150℃(より好ましくは30℃〜120℃、さらに好ましくは50℃〜100℃)とすればよく、反応時間は1時間〜50時間(より好ましくは2時間〜10時間)とすればよい。
【0064】
2−2.カチオン交換反応
上記製造方法により得られたシアノボレート化合物は、さらに、カチオン交換反応を行ってもよい。一般式(1)で表されるシアノボレート化合物の特性はカチオン種に依存するので、カチオン交換反応を行うことで、特性の異なるシアノボレート塩を容易に得ることができる。
【0065】
カチオン交換反応は、上記製造方法により得られた一般式(1)で表されるシアノボレート化合物と所望のカチオンを有するイオン性物質とを反応させればよい。上記イオン性物質としては、所望のカチオンを有する化合物であれば良く、例えば水酸化物、ハロゲン塩、四フッ化ホウ酸塩、六フッ化リン酸塩、過塩素酸塩、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩等が挙げられる。カチオン交換反応の際の条件も特に限定されず、反応温度や時間は、反応の進行状況に応じて適宜調整すればよい。また、必要に応じて溶媒を使用してもよく、例えば、上述した反応溶媒が好ましく用いられる。
【0066】
2−3.精製
本発明の製造方法においては、上記反応後、生成した化合物(1)(粗生成物)中の不純物量を一層低減させ、純度を高めるため精製を行ってもよい。精製法は特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒、およびこれらの混合溶媒での生成物の洗浄、生成物を酸化剤と接触させる酸化剤処理や、吸着精製法、再沈殿法、分液抽出法、再結晶法、晶析法及びクロマトグラフィー等による精製など従来公知の精製方法はいずれも採用できる。
【0067】
これらの精製法は1種を単独で実施しても、2種以上を組み合わせてもよい。なお、上記不純物を低減させる観点からは、酸化剤処理、吸着精製法、分液抽出法、晶析法の1種以上を採用するのが好ましく、特に、これらを全て実施することが好ましい。
【0068】
3.組成物
本発明には、本発明のシアノボレート化合物と媒体を含む組成物も含まれる。
上記媒体としては特に限定されるものではないが、非水系溶媒、ポリマー、ポリマーゲル等が挙げられる。非水系溶媒としては、誘電率が大きく、化合物(1)の溶解性が高く、沸点が60℃以上であり、且つ、電気化学的安定範囲が広い溶媒が好適である。より好ましくは、含有水分量が低い有機溶媒(非水系溶媒)である。このような有機溶媒としては、エチレングリコールジメチルエーテル(1,2−ジメトキシエタン)、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,6−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ−テル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類;炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル(メチルエチルカーボネート)、炭酸ジエチル(ジエチルカーボネート)、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン(エチレンカーボネート)、炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート)、2,3−ジメチル炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、2−ビニル炭酸エチレン等の環状炭酸エステル類;蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル等の脂肪族カルボン酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等のカルボン酸エステル類;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル、バレロニトリル、ブチロニトリル、イソブチルニトリル等のニトリル類;N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、N−ビニルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等の硫黄化合物類:エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル類;ニトロメタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン等を挙げることができる。これらの中でも、鎖状炭酸エステル類、環状炭酸エステル類、脂肪族カルボン酸エステル類、カルボン酸エステル類、エーテル類が好ましく、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等がより好ましい。上記溶媒は1種を単独で用いてもよく、又、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
媒体として用いられるポリマーとしては、エポキシ化合物(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、アリルグリシジルエーテル等)の単独重合体又は共重合体であるポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系ポリマー)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのメタクリル系ポリマー、ポリアクリロニトリル(PAN)等のニトリル系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンなどのフッ素系ポリマー、および、これらの共重合体等が挙げられる。また、これらのポリマーと他の有機溶媒とを混合したポリマーゲルも本発明に係る媒体として用いることができる。他の有機溶媒としては上述の非プロトン性溶媒が挙げられる。
【0070】
上記ポリマーゲルを媒体とする場合は、従来公知の方法で成膜したポリマーに、上述の非プロトン性溶媒に化合物(1)を溶解させた溶液を滴下して、化合物(1)並びに非プロトン性溶媒を含浸、担持させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーと化合物(1)とを溶融、混合した後、成膜し、ここに非プロトン有機溶媒を含浸させる方法;予め有機溶媒に溶解させた化合物(1)溶液とポリマーとを混合した後、これをキャスト法やコーティング法により成膜し、有機溶媒を揮発させる方法(以上、ゲル電解質);ポリマーの融点以上の温度でポリマーと化合物(1)とを溶融し、混合して成形する方法(真性ポリマー電解質);等が挙げられる。
【0071】
本発明の組成物は、本発明に係るシアノボレート化合物(1)と媒体のみを含むものであってもよいが、シアノボレート化合物(1)以外の他の電解質が含まれていてもよい。他の電解質を用いることで、組成物中のイオンの絶対量を増加させることができ、当該組成物を電解質又は電解液材料とした場合に電気伝導度の向上を図ることができる。
【0072】
他の電解質としては、組成物中での解離定数が大きく、また、上記非水系溶媒と溶媒和し難いアニオンを有するものが好ましい。他の電解質を構成するカチオン種としては、例えば、Li+、Na+、K+等のアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+等のアルカリ土類金属イオン、及び、上述のオニウムカチオンが挙げられ、特に、鎖状第4級アンモニウム又はリチウムイオンが好ましい。一方、アニオン種としては、PF6-、BF4-、Cl-、Br-、ClO4-、AlCl4-、C[(CN)3-、N[(CN)2-、N[(SO2CF32-、N[(SO2F)2-、CF3(SO3-、C[(CF3SO23-、AsF6-、SbF6-およびジシアノトリアゾレートイオン(DCTA)等が挙げられる。これらの中でも、PF6-、BF4-がより好ましい。具体的には、カチオン成分としてトリエチルメチルアンモニウム、アニオン成分としてBF4-を含むトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、カチオン成分としてテトラエチルアンモニウム、アニオン成分としてBF4-を含むテトラエチルアンモニウムフルオロボレート、カチオン成分としてトリエチルメチルアンモニウム、アニオン成分としてPF6-を含むヘキサフルオロリン酸トリエチルメチルアンモニウム、カチオン成分としてリチウム、アニオン成分としてPF6-を含むヘキサフルオロリン酸リチウム等が好ましい他の電解質として挙げられる。
【0073】
具体的な他の電解質としては、LiCF3SO3、NaCF3SO3、KCF3SO3等のトリフロロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiC(CF3SO23、LiN(CF3CF2SO22、LiN(FSO22等のパーフロロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiPF6、NaPF6、KPF6等のヘキサフルオロリン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiClO4、NaClO4等の過塩素酸アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiBF4、NaBF4等のテトラフルオロ硼酸塩;LiAsF6、LiI、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiCl、NaI、NaAsF6、KI等のアルカリ金属塩;過塩素酸テトラエチルアンモニウム等の過塩素酸の第4級アンモニウム塩;(C254NBF4、(C253(CH3)NBF4等のテトラフルオロ硼酸の第4級アンモニウム塩、(C254NPF6等の第4級アンモニウム塩;(CH34P・BF4、(C254P・BF4等の第4級ホスホニウム塩などが他の電解質として好適である。これらの中でも、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩が好適である。また、非プロトン性有機溶媒中での溶解性、イオン伝導度の観点からは、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、パーフロロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、鎖状第4級アンモニウム塩が好ましく、耐還元性の観点からは、鎖状第4級アンモニウム塩が好ましい。なお、アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好適であり、アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩が好適である。より好ましいのはリチウム塩である。
【0074】
なお、他の電解質を併用する場合、その使用量は、上記シアノボレート化合物(1)100質量部に対して、0.1質量部以上とするのが好ましく、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上であり、好ましくは100質量部以下とするのが好ましく、より好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。
【0075】
4.用途
本発明のシアノボレート化合物及びこれを含む本発明の組成物は、各種蓄電デバイスの電解質又は電解液材料として好適に用いられる。本発明の電解液を備えた蓄電デバイスとしては、一次電池、リチウム(イオン)二次電池、燃料電池、溶融塩電池などの充電及び放電機構を有する電池の他、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、太陽電池等の電解質として好適に用いることができる。電解質または電解液材料としては、上記の各種蓄電デバイスの電解液の、主たる電解質として、あるいは副電解質として、またさらに電解液の添加剤として用いることができる。
【0076】
尚、本発明に係る化合物(1)は、カチオンMm+を選択することで、100℃以下で液体の状態をとるイオン性液体になることが期待される。一般にイオン性液体は、イオン性の結合を持つ液体であるという特徴から、電気化学的、熱的安定性が高く、さらに、二酸化炭素などの特定のガスを選択的に吸収する性質を有することも知られており、本発明に係る化合物(1)も、これらと同様の特徴を有すると考えられる。したがって、本発明のシアノボレート化合物(1)は、上述した各種蓄電デバイスなどの電気化学材料用途の他にも、熱的安定性が高いことを利用した、繰り返し利用可能な有機合成の反応溶媒や、機械可動部のシール剤や潤滑剤としての使用、カラーフィルターなどの光学フィルター用の着色剤に用いるカチオン染料としての使用、塗料、粘・接着剤、コーティング剤のカチオン重合開始剤や、化学増幅型レジスト用酸発生剤として利用可能な酸発生剤としての使用、帯電防止剤、化学センサー用電解質、電気化学特性と熱的安定性とを併せ持つことを利用した樹脂や塗料、ガラス等への導電性付与剤としての使用、ガス吸収能を有することから二酸化炭素などのガス吸収剤としての使用が期待される。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0078】
[NMR測定]
Varian社製「Unity Plus」(400MHz)を用いて、1H−NMR、13C−NMR、19F−NMRスペクトルを測定し、プロトン、カーボン、フッ素のピーク強度に基づいて試料の構造を分析した。11B−NMRスペクトルの測定には、Bruker社製「Advance 400M」(400MHz)を使用した。
【0079】
なお、NMRスペクトルの測定は、重ジメチルスルホキシドに、濃度が1質量%〜5質量%となるように反応溶液または得られた塩を溶解させた測定試料を、ホウ素元素を含まない、酸化アルミニウム製のNMRチューブに入れ、室温(25℃)、積算回数64回で測定した。また、1H−NMRおよび13C−NMRスペクトルの測定では、テトラメチル
シランを標準物質とし、19F−NMRスペクトルの測定では、トリクロロフルオロメタンを標準物質とし、11B−NMRスペクトルの測定では、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボランを検量用標準物質として定量した。
【0080】
実験例1 リチウムシアノ(フルオロ)オキサラトボレート(LiB(CN)(F)(OC(O)C(O)O))の合成
構造式を下記式に示す。
【0081】
【化10】
【0082】
攪拌装置を備えた容量100mLの3つ口フラスコに、リチウムジフルオロオキサラトボレート(リチウムジフルオロオキサリルボレート)2.19g(15.2mmol、なお、リチウムジフルオロオキサラトボレートは、Chemistry−A European Journal 2009,15,10,p2270−p2272.に記載の方法を参照して製造した)を加え、フラスコ内を窒素ガスで置換した。ここに、20mLのイソブチロニトリルを加え、得られた混合溶液を攪拌しながら、トリメチルシリルシアニド4.7mL(37.9mmol、ホウ素化合物に対して2.5当量)を室温で滴下して添加した後、オイルバスにより反応溶液を80℃に加熱し、この温度で2.5時間攪拌を続け、反応させた。
【0083】
その後、得られた黄色溶液から有機溶媒を減圧留去して濃縮し、薄黄色固体(リチウムシアノ(フルオロ)オキサラトボレート)を得た。(収量:0.55g(3.65mmol)、収率:73%)。
19F−NMR(d6−DMSO)δ-140.79 (q, J=30.8 Hz)
11B−NMR(d6−DMSO)δ-0.37(d, J=30.8 Hz)
【0084】
実験例2 リチウムジシアノオキサラトボレート(LiB(CN)2(OC(O)C(O)O))の合成
構造式を下記式に示す。
【0085】
【化11】
【0086】
攪拌装置を備えた容量100mLの3つ口フラスコに、リチウムジフルオロオキサラトボレート(リチウムジフルオロオキサリルボレート)0.72g(5.0mmol)を加え、フラスコ内を窒素ガスで置換した。ここに、5mLのベンゾニトリルを加えた。得られた混合溶液を攪拌しながら、トリメチルシリルシアニド1.6mL(12.9mmol、ホウ素化合物に対して2.4当量)を室温(25℃)で滴下して添加した。その後、オイルバスにより反応溶液を80℃に加熱し、同温度で47時間攪拌を続け、反応させた。
【0087】
その後、得られた黄色溶液から有機溶媒を減圧留去して濃縮し、薄黄色固体(リチウムジシアノオキサラトボレート)を得た。(収量:0.40g(2.53mmol)、収率:51%)。
11B−NMR(d6−DMSO)δ−6.9(s)
【0088】
実験例3 LSV測定
リニアスィープボルタンメトリー(LSV)測定により、実験例1で合成したリチウムシアノ(フルオロ)オキサラトボレート、実験例2で合成したリチウムジシアノオキサラトボレート、及び、リチウムジフルオロオキサラトボレートの耐電圧範囲を測定した。測定用溶液としては、実験例1および2で得られた塩を脱水エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(1:1v/v%)(キシダ化学製)に溶解させ、濃度1.0M(=mol/L)に調整したものを用いた。以下に測定条件、図1〜3に結果を示す。
【0089】
[LSV測定]
耐電圧範囲の測定は、20℃に設定されたドライルーム中で、3極セルを用いたスタンダードボルタンメトリックツールHZ−3000(商品名、北斗電工社製)を使用して行った。なお、測定条件は下記の通りである。
作用極:グラッシーカーボン電極(電極面積:7.85×10-3cm2
参照極:Ag電極、対極:白金電極
溶液濃度:1.0M(=mol/L)
溶媒:エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(1:1v/v%)
掃引速度:100mV/s
掃引範囲:自然電位〜+10V
基準電流値:0.1mA
【0090】
図1に示された結果から、10V(銀電極基準)まで電流(0.1mA以上、上記測定条件から換算すると12.7mA/cm2以上)は観測されておらず、本発明のリチウムジシアノオキサラトボレートを電解質とする電解液は、高い電圧範囲で用いても電解液の分解を生じ難いものと考えられる。
【0091】
また、図2図3に示された結果より、ボレート化合物にシアノ基を導入することによって耐電圧性が向上しており、リチウムシアノ(フルオロ)オキサラトボレートを電解質とする電解液は、リチウムジフルオロオキサラトボレートを電解質とする電解液と比較して高い電圧範囲で用いても電解液の分解を生じ難いものと考えられる。
【0092】
実験例4 電池特性評価
<非水電解液の調製>
電解質であるヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6、キシダ化学株式会社製、LBGグレード)、上記実験例1、2で得られたリチウムシアノ(フルオロ)オキサラトボレート(LiBFCN(C24))、リチウムジシアノオキサラトボレート(LiB(CN)2(C24))を、表1に示す組成となるように非水溶媒であるエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒に(EC:EMC=3:7(体積比)、いずれもキシダ化学株式会社製、LBGグレード)に溶解させて、非水電解液A〜Eを調製した。
【0093】
【表1】
【0094】
<コイン型リチウム電池の作製>
市販の三元系正極シート(正極集電体;アルミ箔、正極活物質:LNMC、初期充電容量:2.0mAh/cm2)及び市販の負極シート(負極集電体;銅箔、負極活物質:人造黒鉛、初期充電容量:2.4mAh/cm2)を円形に打ち抜いた。また、ポリエチレン製セパレータも円形に打ち抜いた。上記正極、負極シート、セパレータ及び宝泉株式会社より購入したCR2032コイン型電池用部品(正極ケース(SUS316L製、アルミクラッド処理品)、負極封口板(SUS316L製)、スペーサー(1mm厚、SUS316L製)、ウェーブワッシャー(SUS316L製)、ガスケット(ポリプロピレン製))を用いて、ガスケットを装着した負極封口板、ウェーブワッシャー、スペーサー、負極集電体、セパレータの順に重ねた後、上記非水電解液A〜Eをセパレータ上にそれぞれ含浸させた。次いで、正極活物質層形成面が負極活物質層形成面と対向するように正極を設置し、さらにその上に正極ケースを重ね、カシメ機でかしめることによりコイン型リチウム電池を作製した。
【0095】
<高温保存試験>
非水電解液A〜Eを用いた各コイン型リチウム電池について、充放電試験装置(「ACD−01」、アスカ電子株式会社製)を用いて、25℃の温度条件下、充電速度0.5C(定電流定電圧モード) で、4.4Vまで充電を行い、その後、放電速度0.5C(定電流モード)で3.0Vまで放電を行った。この時の放電容量を初期放電容量(A)とする。次いで、再び、各コイン型リチウム電池を、25℃の温度条件下、充電速度0.5C(定電流定電圧モード)で、4.4Vまで充電を行った後、60℃で1週間保管した。その後、放電速度0.5C(定電流モード)で、3.0Vカットまで放電を行い、充電速度0.5C(定電流定電圧モード)で充電を行った後、放電速度0.5C(定電流モード)で、3.0Vカットまで放電を行った。この時の放電容量を高温保存後の回復容量(B)とする。高温保管後の容量回復率(保存特性)を下記式より算出した。その結果を表2に示す。
容量回復率(%)=(高温保存後の回復容量(B)/初期放電容量(A))×100
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示す(LiBFCN(C))、(LiB(CN)(C))を電解質として含む非水電解液B〜Eを採用した本発明のコイン型リチウム電池と、LiPFのみを電解質として含む非水電解液Aを採用したコイン型リチウム電池との比較から、上記シアノボレート化合物を使用することにより、高温保存後にもインピーダンス上昇を抑制でき、また、容量回復率を向上させられることがわかる。
図1
図2
図3