【文献】
菊地賢司; 加治芳行,粒界損傷率パラメータの提案,材料,日本,1995年10月,Vol.44 No.505,1244-1248
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記損傷粒界判断ステップでは、前記垂直粒界データに対応する粒界の長さとボイド長さの比率に基づいて、前記垂直粒界データが前記損傷粒界データか否かを判断させることを特徴とする請求項1に記載の余寿命診断装置。
前記余寿命診断ステップでは、Dパラメータと時間分数との相関関係を示すマスターカーブを予め取得しておき、前記垂直粒界データに対応する粒界の数、及び、前記損傷粒界データに対応する粒界の数に基づくDパラメータを前記マスターカーブにあてはめることで、前記金属の余寿命を診断することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の余寿命診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。まず、余寿命診断装置としての余寿命診断システムについて説明する。
図1に示すように、本実施形態の余寿命診断システム1は、走査型電子顕微鏡2(以下単にSEM2という)と診断用コンピュータ3とを有する。
【0017】
SEM2は、電子線を絞って電子ビームとして測定対象(後述するレプリカ)に照射し、この測定対象から放出される二次電子を検出することで測定対象の画像データを得る装置である。SEM2は、例えば
図2に示すように、電子銃21と、磁界レンズ22と、試料ステージ23と、二次電子検出器24とを備えている。
【0018】
電子銃21は電子線を放出する部分であり、例えば熱電子を電位差によって加速させて放出する。磁界レンズ22は電子線を集束させる部分であり、例えば磁界を発生させるコイルを備えている。このコイルに流す電流を調整することで発生される磁界の強さを変えることができ、電子銃21から放出された電子線の集束度合いを調整できる。試料ステージ23は測定対象となる試料(レプリカ)が載置される部分であり、測定対象の向きや高さを調整することができる。これにより、測定対象における所望の位置に電子線を照射することができる。二次電子検出器24は、電子線の照射によって測定対象から放出された二次電子を検出する部分である。検出された二次電子の量に応じた画像信号が診断用コンピュータ3に送信される。
【0019】
診断用コンピュータ3は、SEM2と通信してSEM2の動作制御を行うとともに、SEM2から受信した画像信号からSEM画像データを得る装置である。そして、得られたSEM画像データに基づいて余寿命診断を行う。診断用コンピュータ3は、例えば
図2に示すように、コンピュータ本体31と、表示部32と、入力部33とを有する。
【0020】
コンピュータ本体31は、診断用コンピュータ3による各種制御を行う部分であり、CPU34と、メモリ35と、データ記憶部36とを有している。CPU34は、制御の中心となる部分であり、メモリ35に記憶された動作プログラムに従って動作する。メモリ35は、SRAMやハードディスクといった各種の記憶デバイスによって構成され、動作プログラムを記憶する他、ワークエリアを確保する。データ記憶部36もまた、SRAMやハードディスクといった各種の記憶デバイスによって構成され、各種の画像データや診断用のマスターカーブ(
図13を参照)の基となるデータなどが記憶される。表示部32は、SEM画像やSEM2に対する操作画像といった各種の画像を表示する部分であり、例えば液晶ディスプレイによって構成される。入力部33は作業者の各種操作を受け付ける部分であり、例えばキーボード33aやマウス33bによって構成される。
【0021】
この余寿命診断システム1では、SEM2の動作が診断用コンピュータ3を通じて制御される。そして、診断用コンピュータ3では、SEM2から送信された画像信号に基づいてサンプルのSEM画像データを取得し、余寿命を診断する。以下、余寿命の診断処理について説明する。
【0022】
図3は、余寿命の診断処理を説明するフローチャートである。この診断処理では、レプリカ採取処理(S1)、SEM観察処理(S2)、観察画像取得処理(S3)、画像調整処理(S4)、参照線描画・垂直粒界抽出処理(S5)、損傷粒界認識処理(S6)、Dパラメータ算出処理(S7)、及び、余寿命診断評価(S8)を順に行う。
【0023】
以下、各処理について説明する。なお、本実施形態では、ボイラー機器に広く使用されている2.25%Cr−1%Mo鋼といった低合金鋼配管の溶接熱影響部(HAZ部)の余寿命を診断する場合について説明する。
【0024】
レプリカ採取処理(S1)は、測定対象物(本実施形態では鋼管)における損傷が予測されるHAZ部について、組織をプラスチックフィルムに転写し、測定対象としてのレプリカを採取する処理である。このレプリカ採取処理では、HAZ部をグラインダー等で鏡面に研磨した後にエッチングを行う。次に、プラスチックフィルムをHAZ部に張り付けて組織を転写することで、レプリカ(組織が転写されたプラスチックフィルム)を採取する。
【0025】
SEM観察処理(S2)は、採取されたレプリカをSEM2で観察する処理である。このSEM観察処理では、前処理として金又は白金の蒸着処理を行い、レプリカの表面に金などの蒸着膜を形成する。蒸着膜を形成したならば、SEM2による観察を行う。例えば、試料ステージ23の上に蒸着膜が形成されたレプリカを載置し、診断用コンピュータ3を操作してレプリカの表面形状を観察する。
【0026】
この場合において、診断用コンピュータ3は、SEM2から送信された画像信号に基づいてレプリカのSEM画像データを生成し、表示部32に表示させる。作業者は、入力部33を操作することで、粒界が表示部32で視認できるように表示倍率を定める。また、作業者は、入力部33を操作することで試料ステージ23を動作させ、レプリカの観察方向を定める。具体的には、測定対象物としての鋼管に作用する応力方向(応力方向と推定される方向)が所定方向になるように、レプリカの観察方向を定める。本実施形態では、応力方向が表示部32の表示画面において縦方向(矩形状画面の側縁と平行な方向)となるように観察方向を定める。
【0027】
観察画像取得処理(S3)では、診断用コンピュータ3が、SEM2で撮影された観察画像に対応するSEM画像データを取得する。例えば、作業者からの入力部33への操作によって撮影が指示されると、診断用コンピュータ3は、生成したSEM画像データをデータ記憶部36に記憶させる。このとき、診断用コンピュータ3はSEM2を制御し、平面方向に対してマトリクス状(行列状)に複数のSEM画像データを撮影させる。すなわち、撮影対象位置を変えながら、レプリカを複数回顕微鏡撮影させることで、複数の画像を取得する。これにより、Dパラメータの算出に必要な平面範囲に亘って、複数のSEM画像データが取得される。このSEM画像データは、表示部32での表示画面に対応した横長矩形状範囲の画像データである。このため、表示画像と同様に、縦方向が応力方向(応力方向と推定される方向)に相当する。
【0028】
なお、本実施形態では、
図4に示すように、A列〜G列、及び、第1行〜第6行からなる42枚の画像データGRを取得した場合を例に挙げて説明する。便宜上、以下の説明では、A列第1行のSEM画像データを画像データGR(A1)と、B列第1行のSEM画像データを画像データGR(B1)と表し、以下同様に、G列第6行のSEM画像データを画像データGR(G6)と表す。
【0029】
各画像データGR(A1)〜GR(G6)には、粒界の画像データL、ボイドの画像データV、及び、ゴミの画像データNが含まれている。これらの画像データのうち、粒界の画像データLは、例えば、始点座標と終点座標とを有する直線の画像データとして取得される。また、ボイドの画像データVやゴミの画像データNは、例えば、ボイドやゴミの外周に添った円、楕円、多角形の画像データとして取得される。すなわち、中心と半径、長軸と短軸、多角形の頂点座標と短い直線の組み合わせからなる画像データとして取得される。
【0030】
また、
図5及び
図6に一部を示すように、各画像データGR(A1)〜GR(G6)は、隣接する他の画像データGRとの間で、ハッチングで示す縁部分EDのデータを共有している。これにより、Dパラメータの算出に必要とされる平面範囲を隈無く網羅している。
【0031】
画像調整処理(S4)では、診断用コンピュータ3が、取得した各画像データGR(A1)〜GR(G6)に対して各種の調整を行う。例えば、
図4に示すように、SEM2から得られた画像データGRには、ゴミ画像Nや余分な粒界画像LXが存在する。また、符号LYで示すように、粒界画像同士の間が欠けていたりする。このような画像データGRをそのまま用いて処理を進めると、求められたAパラメータの精度が損なわれ、ひいては余寿命の診断結果にまで影響が及んでしまう。そこで、画像調整処理では、ゴミ画像Nの除去、余分な粒界画像LXの除去、欠けている粒界画像LY同士の補間などが行われる。
【0032】
図4に示すゴミ画像Nは、粒界画像Lの上に位置していないことから、ボイド画像Vとは異なるものとして区別できる。なお、ゴミ画像Nについては、形状が細長い場合やボイド画像Vよりも有意に大きい場合にも、ボイド画像Vとは異なるものとして区別できる。
【0033】
また、
図4の画像データGR(D3),GR(E4),GR(F5)において、余分な粒界画像LXが存在する。これらの粒界画像LXは、その延長線上に対応する粒界画像が存在しない。このため、余分な粒界画像であると判断できる。一方、画像データGR(D1)〜(E1),GR(D2),GR(E3),GR(E5)において、途中で途切れている粒界画像LYが存在する。これらの粒界画像LYについては、その延長線上に対応する粒界画像LYが存在したり、他の粒界画像Lの端点PLが存在したりするため、画像を補間することにより1つの粒界として扱うことができる。
【0034】
これらのゴミ除去処理、余分な粒界画像LXの除去処理、及び、途切れた粒界画像LYの補間処理を、各画像データGR(A1)〜GR(G6)に対して行うと、
図7に示すように、各画像データGRにおいてゴミ画像Nや余分な粒界画像LXが除去され、かつ、途切れた粒界画像LYが補間される。これにより、診断に適したクリアな画像データが得られる。そして、診断用コンピュータ3は、各処理がなされたSEM画像データについて、各粒界の始点座標と終点座標を含む粒界データを、観察対象となる平面範囲に存在する全ての粒界について取得する。
【0035】
このように本実施形態では、この画像調整処理(S4)が、鋼管(金属)のレプリカを顕微鏡撮影することで得られた、金属表面における複数の粒界に対応するSEM画像データ(粒界画像データ)を診断用コンピュータ3に取得させる、粒界画像データ取得ステップに相当する。また、粒界画像データから、各粒界の始点座標と終点座標を含む粒界データを診断用コンピュータ3に取得させる、粒界データ取得ステップにも相当する。
【0036】
この画像調整処理(S4)で取得された粒界画像データや全ての粒界の粒界データは、データ記憶部36に記憶され、その後の処理で参照される。また、ボイドの画像データVについても同様に、データ記憶部36に記憶される。ボイドの画像データVとしては円形データと楕円形データの2種類が用意されている。円形データの場合、中心座標のデータ及び半径のデータ等、円の位置と大きさを特定できるデータが記憶される。楕円形データの場合、焦点の座標データ、長軸長さのデータ、短軸長さのデータ等、楕円の位置と大きさと傾きを特定できるデータが記憶される。
【0037】
前述したように、各画像データGR(A1)〜GR(G6)は、隣接する画像データGRとの間で、ハッチングで示す縁部分EDのデータを共有している(
図5を参照)。この縁部分ED(重複部分)のデータを複数の画像データGRに割り当ててしまうと、同一の粒界画像Lやボイド画像Vであるにも拘わらず、別の粒界画像Lやボイド画像Vとしてカウントされてしまう虞がある。そこで、画像調整処理では、各画像データGRの縁部分EDについて1つの画像データGRに割り振るようにし、他の画像データGRについては対象外領域として設定している。
【0038】
例えば、
図6に示すように、各画像データGRにおける右端部から下端部に亘って倒L状の対象外領域EXを設定する。これにより、画像データGR(A1)、画像データGR(B1)、画像データGR(A2)及び画像データGR(B2)の4つが重なっている重複部分ED1については画像データGR(B2)に割り振られる。また、重複部分ED1から横方向(長辺方向)に延びる重複部分ED2については画像データGR(A2)に割り振られ、重複部分X5から縦方向(短辺方向)に延びる重複部分X7については画像データGR(B1)に割り振られる。その結果、異なる画像データGRに存在する同一の粒界画像Lやボイド画像Vを、重複してカウントしてしまう不具合を防止できる。
【0039】
加えて、1つの粒界が複数の画像データGRに跨って存在する場合、診断用コンピュータ3は、各画像データGRに存在する粒界データ同士をリンクさせ、1つの粒界として扱えるようにしている。
【0040】
図6の例では、粒界データLAが画像データGR(A1)と画像データGR(B1)に跨って存在する。そこで、診断用コンピュータ3は、粒界データLAの画像データGR(A1)に属する部分のデータLA1と、粒界データLAの画像データGR(B1)に属する部分のデータLA2とを個別に記憶し、データLA1とデータLA2とが同じ粒界のデータであることを示す属性データを付与する。診断用コンピュータ3は、属性データに基づいてデータLA1とデータLA2とが同じ粒界LAのデータであることを認識する。
【0041】
同様に、粒界データLBが画像データGR(A1)と画像データGR(A2)に跨って存在する。そこで、診断用コンピュータ3は、粒界データLBの画像データGR(A1)に属する部分のデータLB1と、粒界データLBの画像データGR(A2)に属する部分のデータLB2とを個別に記憶し、データLB1とデータLB2とが同じ粒界のデータであることを示す属性データを付与する。診断用コンピュータ3は、属性データに基づいてデータLB1とデータLB2とが同じ粒界LBのデータであることを認識する。
【0042】
以上の画像調整処理が終了したならば、参照線描画・垂直粒界抽出処理(S5)が行われる。この参照線描画処理において、診断用コンピュータ3は、鋼管(金属)の応力方向に垂直な参照方向を示す参照線を表示部32に描画する。言い換えれば、参照方向を示す参照方向データを画像データGRに設定する。本実施形態では、
図8に示すように、応力方向が画像データGRの短辺方向に定められている。このため、診断用コンピュータ3は、参照方向データRLを画像データGRの長辺方向に設定する。この参照方向データRLは、垂直粒界抽出処理において、画像データGRに含まれる粒界データのうち、判断対象となる粒界データを特定するために用いられる。すなわち、この参照方向データRLで描かれる参照線と交差する位置に形成された粒界の粒界データLが判断対象になる。
【0043】
この場合において、診断用コンピュータ3は、応力方向の位置を所定ピッチで変えながら参照方向データRLを繰り返し設定する。これは、画像データGRに含まれる粒界データLを、診断用コンピュータ3によってもれなく認識するためである。
図8の例では、画像データGR(A1)に5つの粒界データLA〜LEが含まれている。仮に、短辺方向のほぼ中心に位置する参照方向データRLAだけを設定した場合、このデータRLAの参照線と交差する粒界の粒界データLC,LA,LEのみが判断対象とされる。そして、粒界データLB,LDについては、他の画像データGRで判断対象とされなければ、判断対象から漏れてしまう。このような不具合を防止するため、参照方向データRLを繰り返し設定している。
【0044】
垂直粒界抽出処理において、診断用コンピュータ3は、画像データGRに含まれる各粒界データLについて、応力方向とほぼ垂直方向に形成された垂直粒界の粒界データであるか否かを判断し、垂直粒界の粒界データを垂直粒界データL´として抽出する。このため、診断用コンピュータ3は、参照線と交差する粒界の粒界データLを抽出し、抽出した粒界データLの始点座標及び終点座標から粒界の角度を求め、求めた角度を参照線の角度と比較することで、抽出した粒界データLが垂直粒界データL´であるか否かを判断する。本実施形態では、参照線の角度を中心(0°)として±30°の角度範囲に存在する粒界の粒界データLを、垂直粒界データL´としている。
【0045】
この垂直粒界抽出処理は、参照方向データRLが切り換えられる毎に行われる。すなわち、参照線描画処理と垂直粒界抽出処理とが交互に行われる。そして、垂直粒界抽出処理では、既に判断された粒界については判断を行わないようにしている。このため、データ記憶部36には、垂直粒界データL´であるか否かの情報が粒界データLのそれぞれについて記憶される。これらの処理を画像データGR(A1)から画像データGR(G6)までの各データについて行ったならば、参照線描画・垂直粒界抽出処理(S5)を終了する。これにより、例えば
図9や
図10に示すように、複数の粒界データL(点線)のうちの一部が、垂直粒界データL´(実線)として抽出される。なお、これらの図において、ボイドの画像Vは図示を省略している。
【0046】
このように本実施形態では、参照線描画・垂直粒界抽出処理(S5)が、配管(金属)の応力方向に垂直な参照方向を示す参照方向データRLを、診断用コンピュータ3によってSEM画像データ(粒界画像データ)に設定する参照方向データ設定ステップに相当する。また、参照方向データに基づいて、複数の粒界データLの中から、参照方向を中心とする所定の角度範囲に属する垂直粒界データL´を抽出させる垂直粒界データ抽出ステップに相当する。
【0047】
垂直粒界データL´が抽出されたならば、損傷粒界認識処理(S6)が行われる。この損傷粒界認識処理において、診断用コンピュータ3は、データ記憶部36に記憶された垂直粒界データL´と、この垂直粒界データL´に対応する垂直粒界に形成されたボイドの画像データVを読み出す。そして、この垂直粒界におけるボイドの占める比率を求め、損傷粒界に対応する損傷粒界データL″(
図11,
図12参照)か否かを判断する。
【0048】
図11(a)〜(e)は、粒界とボイドの関係を損傷の度合い毎に示す図である。すなわち、
図11(a)はボイドが発生していない状態を示し、
図11(b)は径が0.5μm以上のボイドが発生した状態を示す。
図11(c)は径が0.5μm以上のボイドが飽和した状態を示し、
図11(d)はボイドが成長している状態を示し、
図11(e)はボイドが連結した状態を示す。
【0049】
これらの図に示すように、粒界のボイドによる損傷は、極めて小さなボイドが粒界上に発生することから始まる(
図11(b)の状態)。そして、粒界上のボイド数が飽和すると(
図11(c)の状態)、各ボイドが成長して大きくなり(
図11(d)の状態)、隣接するボイド同士が合体する(
図11(d)の状態)。本実施形態では、ボイド数が飽和したことをもって、当該粒界が損傷していると判断する。この判断を行うため、診断用コンピュータ3は、垂直粒界データL´から垂直粒界の長さLLを取得する。また、ボイドの画像データVからボイドの幅Wを取得する。ここで、複数のボイドが粒界上に存在する場合は、各ボイドの幅W1〜Wn(
図11の例ではn=4)を合算することでボイドの幅Wを求める。そして、垂直粒界の長さLLにおけるボイドの幅Wの占める比率を算出し、この比率が判断基準値以上(
図11の例では50%以上)であれば、その垂直粒界は損傷粒界と判定する。この場合、データ記憶部36には、損傷粒界データL″である旨を示す情報が、対応する粒界データLに記憶される。
【0050】
この処理を、抽出された全ての垂直粒界データL´について行ったならば、損傷粒界認識処理(S6)を終了する。これにより、例えば
図12に示すように、複数の垂直粒界データL´(実線・細線)のうちの一部が、損傷粒界データL″(実線・太線)として抽出される。
【0051】
このように本実施形態では、損傷粒界認識処理(S6)が、垂直粒界データに対応する粒界上のボイド形成状態に基づいて、当該垂直粒界データが損傷粒界に対応する損傷粒界データか否かを、診断用コンピュータ3が判断する損傷粒界判断ステップに相当する。
【0052】
続くDパラメータ算出処理(S7)において、診断用コンピュータ3は、垂直粒界データに対応する垂直粒界の数、及び、損傷粒界データに対応する損傷粒界の数に基づいてDパラメータを算出する。ここで、Dパラメータは、次式(1)に基づいて算出される。すなわち、観察領域(観察画像の範囲)における損傷粒界の数を、観察領域における損傷粒界の全数で除することにより、算出される。そして、診断用コンピュータ3は、算出したDパラメータの値をデータ記憶部36に記憶させ、この処理を終了する。
【数1】
【0053】
余寿命診断評価(S8)において、診断用コンピュータ3は、マスターカーブをデータ記憶部36から読み出し、算出したDパラメータの値をあてはめることで、鋼管(金属)の時間分数(すなわち余寿命)を取得する。ここで、マスターカーブは、例えば
図13に示すように、横軸を時間分数とし、縦軸をDパラメータとした場合の相関関係を示すグラフであり、鋼管のクリープ促進試験によって予め取得されたものである。そして、時間分数は、破断時での経過時間を値「1」とした場合の経過時間を比率で示すものである。このため、鋼管の余寿命を表す指標でもある。従って、このマスターカーブは、Dパラメータと鋼管の余寿命との相関関係を示しているといえる。
【0054】
このように、診断用コンピュータ3は、算出したDパラメータの値をマスターカーブにあてはめることで鋼管の余寿命を診断する。従って、この余寿命診断評価は、Dパラメータ法を用いて鋼管(金属)の余寿命を、診断用コンピュータ3に診断させる余寿命診断ステップに相当する。そして、余寿命に基づいて交換時期と判断された場合には、その旨を表示部32で表示することで作業者に報知する。また、十分に余寿命がある場合にも、その余寿命を表示部32で表示することで作業者に報知する。
【0055】
この余寿命診断評価が終了すると一連の診断処理が終了し、次のレプリカに対する診断が前述した手順に則って繰り返し行われる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態によれば、参照線描画・垂直粒界抽出処理(S5)にて、配管の応力方向に垂直な参照方向を示す参照方向データを、粒界画像データに設定させるとともに、この参照方向データに基づいて、複数の粒界データの中から、参照方向を中心とする所定の角度範囲に属する垂直粒界データを抽出させているので、手作業では困難な垂直粒界データの抽出を迅速かつ確実に行うことができる。また、損傷粒界認識処理(S6)にて、抽出された垂直粒界データとボイドの情報とに基づいて損傷粒界データか否かを判断する際に、その判断処理を容易化することができる。その結果、クリープ損傷を受ける配管の余寿命をDパラメータ法で診断するに際し、余寿命診断処理の容易化が図れる。
【0057】
また、参照方向データを設定するに際し、応力方向の位置を変えながら前記参照方向データを繰り返し設定させているので、複数の粒界データの中から垂直粒界データをもれなく確実に抽出することができる。
【0058】
また、損傷粒界データか否かを判断するに際し、垂直粒界データに対応する粒界の長さLLとボイドの幅(長さ)Wの比率を用いているので、診断用コンピュータによる判断の確実性を高めることができる。
【0059】
また、SEM画像データ(粒界画像データ)を取得するに際し、撮影対象位置を変えながら複数回顕微鏡撮影させており、参照方向データを設定するに際し、各SEM画像データのそれぞれを対象にしており、かつ、垂直粒界データを抽出するに際しても、各SEM画像データのそれぞれを対象にしているので、顕微鏡で撮影された画像を敷き詰めてつなぎ合わせるタイリングを行わずに済み、作業効率を高めることができる。
【0060】
また、余寿命を診断するに際し、Dパラメータと時間分数との相関関係を示すマスターカーブを予め取得しておき、Dパラメータをマスターカーブにあてはめているので、余寿命を容易に診断することができる。
【0061】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。例えば、次のように構成してもよい。
【0062】
本発明に係る余寿命診断装置に関し、前述の実施形態では、SEM2が診断用コンピュータ3と一体に設けられた余寿命診断システム1を例示したが、診断用コンピュータ3だけで構成してもよい。この場合、SEM2で得られたSEM画像データを診断用コンピュータ3に入力すればよい。
【0063】
また、撮影に用いる顕微鏡に関し、前述の実施形態ではSEM2を例示したが、他の型式の電子顕微鏡(例えば透過型電子顕微鏡)であってもよいし、光学顕微鏡であってもよい。要するに、レプリカに転写された組織(粒界やボイド)を確認できる性能を有するものであれば用いることができる。
【0064】
診断対象に関し、前述の実施形態では、動力用配管等に用いられる鋼管を例示したが、これに限定されない。例えば、ボイラーやタービンの隔壁であってもよい。要するに、高温高圧環境下に曝され、その余寿命をDパラメータによって診断できる金属であれば、本発明を適用できる。