(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の光偏向器では、上記のように、2つのトーションバーが配置される直径方向と2つの結合バーが配置される直径方向とが直交関係となっている。すなわち、2つのトーションバーと2つの結合バーとは周方向に90°間隔で交互に配置されている。
【0006】
従来の光偏向器に対し、発明者は、円環部が共振している時の円環部の各部位の振幅を調べた。それによると、円環部において2つのトーションバーが配置される直径方向に対して垂直な直径方向の部位は、共振振動の腹に相当し、両直径方向に対してほぼ45°の直径方向の部位が円環部において共振振動時の節に相当することを知見した。
【0007】
一方、光偏向器の反射部を軸線回りに高周波数で往復揺動させる場合は、共振を利用することが有利であるので、一般的に、円環は共振振動数で作動する。また、大きい回転角で往復揺動する反射部では、反射面の動的な変形を抑制するために、反射部の裏面側に補強部が設けられることがある。その場合、補強部が付加された分、反射部の慣性モーメントは増大するので、結合バーが円環部の共振時の腹の相当位置に結合していることは、結合バーの耐久性にとって不利である。
【0008】
本発明は、圧電素子により反射部をトーションバーの軸線の回りに往復揺動させつつ、反射部に光束を入射させて、反射光を走査用光束として出射する光偏向器において、圧電素子が固着されている環状部を支持する結合バーの耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の光偏向器は、光源からの光束を反射する反射部と、前記反射部と同心に配置され前記反射部の径方向外側から前記反射部を包囲する湾曲輪郭の環状部と、前記反射部と同心に配置され前記環状部の外周側から前記環状部を包囲する支持部と、前記反射部の往復揺動軸線上でかつ前記反射部の両側に配置されて前記反射部と前記環状部とを結合する2つのトーションバーと、45°を含む所定角度範囲内で前記反射部の中心点において前記往復揺動軸線と交差する2つの交差軸線上でかつ前記環状部の両側に配置されて前記環状部と前記支持部とを結合する4つの結合バーと、前記環状部に固着され印加電圧により収縮して前記反射部を前記往復揺動軸線の回りに往復揺動させる圧電素子とを備えることを特徴とする。
【0010】
第1発明によれば、結合バーは、環状部において反射部の共振振動時に節位置になっている交差軸線上で環状部と結合するので、結合バーの耐久性を向上させることができる。
【0011】
第1発明によれば、結合バーは合計4つ設けられるので、反射部の良好な共振振動を確保しつつ、結合バーが2つである従来の光偏向器に比して、環状部の支持を安定化させることができる。
【0012】
第2発明の光偏向器は、第1発明において、前記圧電素子は、前記2つの交差軸線上を外した前記環状部の部位に固設されていることを特徴とする。
【0013】
第2発明によれば、圧電素子は、交差軸線上にならない環状部上の位置、すなわち、反射部の共振振動時に環状部の腹位置において環状部に固設される。この結果、圧電素子の収縮に伴い、環状部が共振振動の腹部の部位において大きく変位するので、圧電素子による往復揺動軸線回りの反射部の往復揺動の増進効果が高まる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1において、走査光生成装置1は光偏向器2と光源3と制御装置4とを備える。制御装置4は光偏向器2及び光源3へ制御信号を送る。制御装置4から光偏向器2への制御信号は反射部9の往復揺動を制御する。制御装置4から光源3への制御信号は光源3のオン・オフ(点灯・消灯)を反射部9の往復揺動に同期して制御する。走査光生成装置1の作動中は、光源3を常時、点灯状態にして、制御装置4から光源3への制御信号は省略することもできる。
【0016】
図2は、光偏向器2を前面側から見た斜視図である。光偏向器2は、半導体プロセスやマイクロマシン技術を用いた周知のMEMS(micro electro mechanical systems)デバイスとして、半導体基板上にミラーや圧電アクチュエータ等の機構部品を一体的に形成して、製造される(例:本出願人による特開2009−169326号公報及び特開2009−223165号公報等)。
【0017】
光偏向器2は、中心Oに揃えて同心に配設された反射部9、環状部10及び支持枠部11を内側から外側へ順番に有する。円形の反射部9は前面側が鏡面になっている。環状部10は、内外周の輪郭が円形の円環として形成され、内周側において反射部9を包囲する。支持枠部11は、中心Oを中心とする内周12を有し、内周12において環状部10を包囲する。
【0018】
軸線C1〜C4は、反射部9の鏡面を含む平面内に存在するものとして定義しており、軸線C1は、反射部9の揺動軸線に一致するものとして定義している。なお、厳密には、軸線C1と反射部9の揺動軸線とは反射部9の厚さの1/2だけずれるが、反射部9の厚さは微小であるので、ずれは無視することができる。
【0019】
軸線C1〜C4は共に中心Oを通過する。軸線C1〜C4は、光偏向器2の前面に正対する側から光偏向器2を見て,時計方向にその順番で45°間隔で配置されている。
【0020】
トーションバー13a,13bは、軸線C1上において中心Oの両側に配設され、反射部9の周部と環状部10の内周部とを連結する。結合バー14a,14cは軸線C3上において中心Oの両側に配設され、結合バー14b,14dは軸線C4上において中心Oの両側に配設される。結合バー14a〜14dは環状部10の外周部と内周12とを連結する。
【0021】
圧電素子15a〜15fは、環状部10の前面に積層により固着され、制御装置4からの制御信号により環状部10の周方向に収縮する。環状部10における各圧電素子15a〜15fの周方向位置は後述の
図6で説明する環状部10の共振振動の腹に相当する部位となっている。圧電素子15a〜15fの収縮により環状部10における圧電素子15a〜15fの設置部位は圧電素子15a〜15f内に撓み込まれ、この結果、トーションバー13a,13bを軸線C1の回りにねじる。
【0022】
環状部10において、圧電素子15a,15fはトーションバー13aを周方向に間に挟んで固設され、圧電素子15c,15dはトーションバー13bを周方向に間に挟んで固設され、圧電素子15b,15eは軸線C2にまたがって固設されている。圧電素子15b,圧電素子15eの周方向寸法は圧電素子15a,15c,15d,15fの周方向寸法の2倍となっている。
【0023】
光偏向器2の作動について説明する。なお、支持枠部11は本発明の支持部に相当する。反射部9、環状部10及びトーションバー13a,13bは、軸線C1の回りに一体的に往復揺動するのに伴い、
図4で後述のz軸方向に所定の共振振動を行う。以下、該共振振動時の周波数を「共振周波数」という。
【0024】
制御装置4は、軸線C1に対して一方の側の圧電素子15a〜15cの組と、他方の側の圧電素子15d〜15fの組とを、収縮が相互に逆の関係になるように、かつ共振周波数の半周期ごとに収縮と収縮解除とが交互に切り替わるように、圧電素子15a〜15fに対して駆動電圧を送る。この結果、トーションバー13a,13bは、軸線C1の回りに共振周波数の半周期ごとにねじりの向きを切替えられるとともに、反射部9は、軸線C1の回りに共振周波数を往復揺動周波数として往復揺動する。
【0025】
光源3は、光束5を反射部9の中心Oへ向けて出射し、反射部9は、光源3からの光束5を各時点における反射部9の揺動角に対応する反射角で反射する。反射部9からの反射光は、照射点の光スポットを所定の軌跡で移動させる走査光となる。軸線C1の回りの反射部9の往復揺動周波数は、共振周波数に等しいので、走査光が走査方向に往復する走査周波数は共振周波数に等しくなる。
【0026】
後述の
図6で説明するように、結合バー14a〜14dの周方向位置は、共振振動時の節の位置に相当する。したがって、共振振動時の結合バー14a〜14dのz軸方向(後述の
図4)の変位量は小さく、これにより、結合バー14a〜14dの耐久性が向上する。
【0027】
結合バー14a〜14dは、計4つ存在するので、従来の光偏向器の場合の2つの結合バーに比べて、個数が増大するとともに、周方向の配置密度も増大する。したがって、光偏向器2では、結合バー14a〜14dの太さを細くしつつ、反射部9の支持を安定化することができる。
【0028】
制御装置4は、光源3を常時点灯することなく、軸線C1回りの反射部9の一方の回転方向の期間(走査方向の往路に対応する。)のみ光源3を点灯させ、他方の回転方向の期間(走査方向の復路に対応する。)では光源3を消灯させることもできる。
【0029】
図3は光偏向器2の変形例としての光偏向器17の斜視図である。
図3(a)及び(b)は光偏向器17をそれぞれ前面側及び後面側から見ている。光偏向器17の各構成部において、光偏向器2に対応構成部があるものは、該対応構成部に付けた符号と同一の符号が付けられている。光偏向器17については、光偏向器2との相違点を中心に説明する。
【0030】
光偏向器17では、補強環18が反射部9の裏面(後面)側に設けられている。補強環18は、反射部9の裏面側において反射部9の周部に沿って形成され反射部9から所定寸法、起立している。補強環18は反射部9の剛性を増大させる。
【0031】
軸線C1回りの反射部9の往復揺動が高速となったり、往復揺動角が大きくなったりすると、反射部9の鏡面が歪んで、反射部9から反射光として出射する光束5の方向が乱れる原因になる。光偏向器17は、反射部9の鏡面の歪みを抑制する役目を果たす。
【0032】
図4は共振振動時の光偏向器40における環状部10上の各部位の変位を測定した時の各部位を定義する説明図である。光偏向器40は従来構造の光偏向器として図示している。光偏向器40の構造部において、光偏向器2に同一の構造部が存在するものは、該同一の構造部に付けた符号と同一の符号で指示する。光偏向器40の構造について、光偏向器2との相違点を中心に説明する。
【0033】
光偏向器40は、光偏向器2,17のように、結合バー14a〜14dが軸線C3,C4上に配設されたものではなく、結合バー41a,41bが軸線C2上に配設されたものとなっている。すなわち、光偏向器40における結合バー41a,41bの周方向位置はトーションバー13a,13bの周方向位置から90°離れた位置になっている。
【0034】
半軸線D1〜D5は、軸線C1〜C4(
図2)の場合と同じく、反射部9の鏡面を含む平面上に定義される。中心Oを端点とする半直線としての半軸線D1〜D5は、中心Oの回りに22.5°間隔で定義されている。半軸線D1は軸線C1に含まれ、半軸線D5は軸線C2に含まれ、半軸線D3は軸線C3に含まれる。Lは、半径が環状部10の内周の半径と外周の半径との平均値であり、中心Oを中心とする半円弧となっている。
【0035】
位置P1〜P5は半軸線D1〜D5とLとの交点である。位置P0は、半軸線D5を中心Oから位置P5とは反対方向へ延長したときの延長線とLとの交点である。位置P0と位置P5とはLの両端でもある。
【0036】
x軸は半軸線D5に対して平行な方向、yは半軸線D1に対して平行な方向として定義される。z軸はx軸及びy軸の両方に直角な方向として定義される。なお、
図4で定義しているx−y−z座標系の原点は、反射部9の中心Oではなく、光偏向器40の前方から光偏向器40を見たときの支持枠部11の右上付近の位置に設定している。
【0037】
図5は光偏向器40の共振振動時の環状部10上の各部位のz軸方向の振幅を測定したものである。各部位の座標及び振幅の単位はすべてmmとなっている。各部位の振幅は円の直径の大きさに対応している。
図5では、位置P1〜P5の振幅と共に、環状部10上にあって位置P1〜P5とはx座標が同一でかつy軸方向両側から位置P1〜P5を挟んでいる近傍点の振幅も測定している。
【0038】
図5から、共振振動時の位置P1〜P5のz軸方向振幅について、位置P3が最小の0.3mm、位置P1が最大の4.4mm、位置P5は2.2mmとなっている。また、位置P2及び位置P4の振幅はそれぞれ中間の1.6mm,1.5mmとなっている。
【0039】
位置P5が位置P1より振幅が小さいのは、結合バー41a,41bが位置P5に存在するためと考えられる。結合バー41a,41bが存在しなければ、位置P5の振幅は位置P1の振幅と同程度と推測される。したがって、軸線C2上に結合バーが存在しない光偏向器2,17では、共振時の位置P5の振幅は2.2mmより大と推測される。
【0040】
従来構造の光偏向器40では、結合バー41a,41bが振幅の大きい部位に存在している事が知見されるとともに、位置P3は共振振動の節の部位となり、位置P1,P5は共振振動の腹の部位となっていることが知見される。
【0041】
図6は
図5の測定結果に基づいて共振振動時のL上の各部位のz軸方向の振動状態を表している。環状部10において共振振動時の腹に相当する周方向部位は、位置P0,P1,P5となり、節に相当する周方向部位は腹と腹との間の位置P3であることが知見できた。
【0042】
光偏向器2,17では、前述したように、
図5の知見に基づいて、結合バー14a〜14dの周方向位置は共振振動時の環状部10の節位置に合わせているとともに、圧電素子15a〜15fの周方向位置は共振振動時の環状部10の腹位置に合わせている。
【0043】
この結果、結合バー14a〜14dの耐久性が向上するとともに、圧電素子15a〜15fによるトーションバー13a,13bの軸線回りの反射部9の往復揺動の増進効果が高まる。
【0044】
さらに、環状部10は、周方向に等角度間隔の4つの結合バー14a〜14dにより支持枠部11に支持されるので、2つの結合バーにより支持される場合に比して、軸線C1の回りの反射部9の往復揺動が安定化する。
【0045】
本発明を実施の形態について説明したが、本発明は、実施の形態に限定されることなく、発明の要旨の範囲内で種々に変形して、実施可能である。
【0046】
例えは、発明の実施の形態では、円環の環状部10が使用されているが、該環状部10に代えて、内外周が楕円の環状部を採用することもできる。
【0047】
発明の実施の形態では、結合バー14a〜14dの周方向位置は、軸線C1に対して±45°の軸線C3,C4上になっているが、所定の範囲で軸線C3,C4からずらした軸線上、例えば、軸線C1に対して±30°〜±60°の軸線上としても、結合バー14a〜14dの所定の耐久性向上が確保される。特に、環状部が、円環ではなく、楕円型の環状部とされた場合は、節位置は軸線C3,C4上の周方向位置から所定の角度範囲内でずれる。