【実施例】
【0063】
次に、具体的な合成例、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0064】
<合成例1>(5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物の製造)
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、官能基当量1,750mg/molの両末端エポキシ変性反応性シリコーンオイル(商品名:X22−163B、信越化学工業(株)製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬製)20部と、N−メチル−2−ピロリドン100部とを仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて16時間反応を行った。反応終了後の溶液に、400部のヘキサンを加えて希釈した。希釈後の溶液を、分液ロートに移し、分液ロート中で食塩水にて4回洗浄を行うことにより、溶液中から、N−メチル−2−ピロリドン及びヨウ化ナトリウムを除去した。洗浄後に得られたヘキサン層をロータリーエバポレーターに移し、ヘキサンを蒸発留去することによって、透明なオイル状物質として、環状カーボネート変性シリコーンオイルを得た。
【0065】
上記で得たオイル状物質を、IR分析(堀場製作所製の赤外分光光度計FT−720にて測定。以下の合成例、実施例でも同様)したところ、910cm
-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1,800cm
-1付近に、原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。
図1に、その際のIRチャートを示した。
【0066】
また、上記で得たオイル状物質について、THFを移動相としたGPC分析(東ソー製のGPC−8220で測定。以下の合成例、実施例でも同様)をしたところ、重量平均分子量は3,800(ポリスチレンで換算)であった。以上のことから、このオイル状物質は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により5員環環状カーボネート基が導入された、シロキサン骨格を有する下記式で表わされる構造の化合物と確認された。これをA−1と略称した。A−1の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、2.5%である(化学構造式上の分子量からの計算値)。
【0067】
【0068】
<合成例2>(5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物の製造)
両末端エポキシ変性シリコーンオイルとして、官能基当量500mg/molのシリコーンオイル(商品名:X22−169−AS、信越化学工業(株)製)を使用した以外は合成例1と同様の方法で、下記式で表される、シロキサン骨格を有する5員環環状カーボネート化合物(A−2)を合成した。IR分析の結果は、A−1と同様であり、GPC分析による重量平均分子量は1,200であった。また、A−2の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、8.1%である(化学構造式上の分子量からの計算値)。
【0069】
【0070】
<合成例3>(不飽和基含有5員環環状カーボネート化合物の製造)
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、分子量142.1のグリシジルメタクリレート(商品名:アクリエステルG、三菱レイヨン製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬製)20部と、N−メチル−2−ピロリドン100部とを仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間反応を行った。反応終了後の溶液に、水200部とトルエン200部を添加し混合した。混合液を分液ロートに移し、分離した水槽(下層)を除去し、その後同様にして、分液ロート中で水50部にて3回の洗浄を行うことにより反応液から触媒を除去した。洗浄後のトルエン層(上層)からロータリーエバポレーターにてトルエンを蒸発留去し、淡黄色の液状物質を得た。その収率は93%であった。
【0071】
上記で得た液状物質を、IR分析したところ、910cm
-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1,800cm
-1付近に、原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。
図2に、その際のIRチャートを示した。また、ガスクロマトグラフ(島津製作所製のGC−2014で測定。カラムはDB−1。以下、GCと略記)による分析の結果、原材料アリルグリシジルエーテルのピークが消失し、原材料より保持時間の長い新たなピークの出現が確認された。この出現したピーク物質は、単純面積百分率法による純度が97%であった。以上のことから、この液状物質は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により5員環環状カーボネート基が導入された、不飽和基を有する下記式で表わされる構造の化合物と確認された。これをB−1と略称した。B−1の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、23.6%である(化学構造式上の分子量からの計算値)。
【0072】
【0073】
<合成例4>(不飽和基含有5員環環状カーボネート化合物の製造)
エポキシ化合物として、分子量114.1のアリルグリシジルエーテル(商品名:ネオアリルG、ダイソー(株)製)を用いた以外は合成例3と同様の方法で、下記式で表される、不飽和基を有する環状カーボネート化合物(B−2)を合成した(収率92%)。IR分析の結果は、B−1と同様であり、GC分析による純度は98%であった。また、B−2の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、27.8%である(計算値)。
【0074】
【0075】
<実施例1>
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、合成例1で得たシロキサン骨格を有する環状カーボネート化合物A−1を100部、ヘキサメチレンジアミン6.5部、トルエンの117部を仕込み、80℃にて撹拌しながら反応を行った。反応の進行はサンプリングした反応液のアミン濃度を中和滴定(JIS K7237)することにより確認し、アミン濃度が理論値まで減少した時点で反応を終了した。反応時間は8時間であった。反応後の溶液のIR分析では、1,760cm
-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認され、1,800cm
-1付近の5員環環状カーボネートのカルボニル由来のピークは消失していたことから、5員環環状カーボネート化合物の両末端にヘキサメチレンジアミンが付加した化合物(中間体A)であることが確認された。
【0076】
次に、上記で得た中間体Aを含んだ反応液中に、合成例3で得た不飽和基を有する5員環環状カーボネート化合物B−1を10.4部添加した後、60℃にて撹拌しながら反応を継続した。反応の進行は、上記と同様にアミン濃度により確認し、アミン濃度が0(非検出)となった点で終了とした。反応時間は10時間であった。反応後の溶液を、ロータリーエバポレーターに移し、トルエンを減圧留去することにより、透明で流動性のある物質を得た。
【0077】
得られた物質のIR分析では、新しく加えた化合物B−1の5員環環状カーボネートのカルボニル由来の1,800cm
-1付近のピークは消失し、1,760cm
-1付近のウレタン結合のカルボニル基由来のピーク強度が強くなっていることが確認された。また、得られた物質の水酸基価(JIS K1557)を測定したところ、42.1mgKOH/gであった。また、THFを移動相としたGPC分析(東ソー製、GPC−8020;カラムSuper AW2500+AW3000+AW4000+AW5000;以下の実施例も同様)における重量平均分子量は5,300(分子量はポリエチレングリコール標準による換算値。以下の実施例も同様)であった。
【0078】
以上のことより、両末端にヒドロキシウレタン結合を介して不飽和基を含有する本発明の反応性ポリシロキサン化合物が合成できていることが確認された。この化合物をC−1と略称した。
図3に、C−1のIRチャートを示した。また、C−1の化学構造中に二酸化炭素由来の成分の占める割合は4.2%であった(合成例記載のA−1及びB−1の二酸化炭素量含有質量%と本実施例の配合比率からの計算値。以下の実施例も同様)。
【0079】
上記で得た実施例1の化合物C−1の100部に、光開始剤としてイルガキュア500(BASF社製光重合開始剤)を5部添加し、塗工液を作成した。作成した塗工液を、基材である厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:ルミラーS10、東レ(株)製)に、バーコーターを用い膜厚が5μmになるように塗布し、塗布面の上方からメタルハライドランプにて積算光量が800mJ/cm
2となるように紫外線を照射し、硬化被膜(塗膜)を形成させた。そして、これをC−1の評価試料とした。
【0080】
<実施例2>
環状カーボネート化合物A−2を100部と、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン(商品名:EDR−148、HUNTSMAN社製)27.2部、トルエンの127.2部を用いた以外は、実施例1と同様に反応を行い、中間体を得た。そして、得られた中間体に対して、環状カーボネート化合物B−1を34.2部添加し、実施例1同様に反応させて、本発明の反応性ポリシロキサン化合物C−2を得た。
【0081】
上記で得た化合物C−2のIR分析の結果はC−1と同様であり、その水酸基価は48.4mgKOH/gであり、GPC分析による重量平均分子量は2,810であった。また、C−2の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は7.3%であった(実施例1同様の計算値)。得られたC−2を用い、実施例1と同様にして、基材である100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに5μm厚にコーティングし、実施例1と同様に紫外線照射により硬化させて、硬化被膜を形成させた。そして、これをC−2の評価試料とした。
【0082】
<実施例3>
環状カーボネート化合物A−1を100部と、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(商品名:ワンダミンHM、新日本理化製)11.7部、トルエン120.1部を用いた以外は、実施例1と同様に反応を行い、中間体を得た。そして、得られた中間体に対して、環状カーボネート化合物B−2を8.8部添加し、実施例1同様に反応させ反応性ポリシロキサン化合物C−3を得た。
【0083】
上記で得た化合物C−3のIR分析の結果はC−1と同様であり、その水酸基価は27.1mgKOH/gであり、GPC分析による重量平均分子量は4,950であった。また、C−3の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は4.1%であった(実施例1同様の計算値)。得られたC−3を用い、実施例1と同様にして、基材である100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに5μm厚にコーティングし、実施例1と同様に紫外線照射により硬化させて、硬化被膜を形成させた。そして、これを評価試料とした。
【0084】
<実施例4>
実施例1で得られた反応性ポリシロキサン化合物C−1の30部に、多官能アクリレートモノマーとしてペンタエリスリトールトリアクリレート(商品名:PETIA、ダイセルサイテック社製)70部、光開始剤としてイルガキュア500(BASF社製光重合開始剤)10部を添加して撹拌することにより、塗工液を作製した。作製した塗工液を用いて、実施例1と同様にして、100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに5μm厚にコーティングし、実施例1と同様に紫外線照射により硬化させて、硬化性被膜を形成した。そして、これを評価試料とした。
【0085】
<実施例5>
実施例2で得られた反応性ポリシロキサン化合物C−2の30部に、反応性オリゴマーとしてエチレングリコールジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物(商品名:エポキシエステル40EM、共栄社化学(株)製、表1では40EMと略称)70部、光開始剤としてイルガキュア500(BASF社製光重合開始剤)10部を添加し塗工液を作製した。作製した塗工液を用いて、実施例1と同様にして、基材である100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに5μm厚にコーティングし、実施例1と同様に紫外線照射により硬化させて、硬化性被膜を形成した。そして、これを評価試料とした。
【0086】
<比較例1>
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、水酸基当量62mgKOH/gである両末端カルビノール変性シリコーンオイル(商品名:KF−6001、信越化学工業(株)製)100部、ヘキサメチレンジイソシアネート(商品名:HDI、日本ポリウレタン工業(株)製)18.6部、反応溶剤としてトルエン57部、触媒としてジブチル錫ジラウレートを0.02部添加した。そして、100℃まで昇温し、撹拌しながら反応液中のイソシアネート基含有率(JIS K1603)が理論量まで減少するまで、6時間の反応を行った。次いで、反応容器内にメタクリル酸2−ヒドロキシエチルを14.4部添加し、80℃にて6時間反応を継続した。反応後の溶液をIRにて分析したところ、2,200cm
-1のイソシアネート基由来のピークは消失し、1,760cm
-1にウレタン結合のカルボニル由来のピークが生成していたことから、反応が進行したことを確認した。反応後の溶液をロータリーエバポレーターに移し、トルエンを減圧留去することにより、透明で流動性のある物質を得た。
【0087】
得られた物質は、ポリシロキサンセグメントの両側に通常のウレタン結合を介してアクリル基が導入されたポリシロキサン化合物であり、これをC−4と略称する。C−4は化学構造中に二酸化炭素由来の成分を有しておらず、水酸基も含有していない。上記で得た化合物C−4を使用し、実施例1と同様にして、基材である100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに5μm厚にコーティングし、実施例1と同様に紫外線照射により硬化させて、硬化被膜を形成させた。そして、これを評価試料とした。
【0088】
<比較例2>
比較例1で得られたポリシロキサン化合物C−4の30部と、多官能アクリレートモノマーとしてペンタエリスリトールトリアクリレート(商品名:PETIA、ダイセルサイテック社製)70部、光開始剤としてイルガキュア500(BASF社製光重合開始剤)10部を添加し塗工液を作製した。そして、得られた塗工液を用いて、実施例1と同様にして100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに5μm厚にコーティングし、実施例1と同様に紫外線照射により硬化させて、硬化被膜を形成させた。そして、これを評価試料とした。
しかしながら、この評価試料の塗膜表面状態は、不均一に成分が分離した状態であり、且つ、表面にベトつきがあった。このことから、硬化が不十分である判断されたため、硬化被膜(塗膜)の評価は実施しなかった。
【0089】
<比較例3>
比較例1で得られたポリシロキサン化合物C−4の30部に、反応性オリゴマーとしてエチレングリコールジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物(商品名:エポキシエステル40EM、共栄社化学(株)製、表1では40EMと略称)70部、光開始剤としてイルガキュア500(BASF社製光重合開始剤)10部を添加し塗工液を作製した。得られた塗工液を用いて、実施例1と同様にして100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに5μm厚にコーティングし、実施例1と同様に紫外線照射により硬化させて、硬化被膜(塗膜)を形成させた。そして、これを評価試料とした。
しかしながら、この評価試料の塗膜表面状態は比較例2と同様に不均一に成分が分離した状態であり、且つ、表面にベトつきがあった。このことから、比較例2と同様に、硬化が不十分と判断されたため、硬化被膜(塗膜)の評価は実施しなかった。
【0090】
(評価)
上記の各実施例で得られた評価試料を以下の項目及び評価基準により評価した。そして、得られた評価結果を表1にまとめて示した。
【0091】
[耐溶剤性]
各評価試料の塗膜(硬化被膜)の硬化状態を確認するために、メチルエチルケトン(MEK)及び酢酸エチル(EAc)を用いたラビング試験を行い評価した。試験は荷重500g×10往復の条件で行い、ラビング試験後の塗膜表面を目視で評価し判定した。
○:いずれの溶剤においても塗膜に変化は見られなかった。
×:塗膜の溶解や剥がれが確認された。
【0092】
[撥水性]
20℃における水の接触角を測定し、以下基準で4段階に評価した。
◎:105°以上
○:95°以上105°未満
△:85°以上95°未満
×:85°未満
【0093】
[離型性]
各評価試料の塗膜にセロハンテープを貼り付けて、180°剥離における剥離強度を測定した。剥離強度が弱い物を離型性が良好であるとし、以下の基準により3段階で評価した。
○:剥離強度が20g未満
△:剥離強度が20g以上100g未満
×:剥離強度が100g以上
【0094】
[基材密着性]
実施例及び比較例で調製した基材を含む硬化塗膜(硬化被膜)を、3cm×3cmに切り取った物を評価試料とした。試料の中央部の塗布面を上とし反対側に180°に折り目が付くまで折り曲げ目視にて塗膜の状態を観察し、基材密着性を以下の基準により3段階で評価した。
○:塗膜の割れや剥がれは確認できない。
△:塗膜は剥がれていないが折り曲げ部に亀裂が発生している。
×:塗膜の一部が剥がれ落ちた。
【0095】
[汚染除去性]
各評価試料の塗膜に黒マジック(マジックインキ No.500)で線を引き、5分間放置した後に、乾いたティッシュペーパーにて拭き取りを行い、インクの残り具合を観察し、汚染除去性を以下の基準により3段階で評価した。
○:インクが完全に除去できる。
△:インクの大部分を除去できるが跡が残る。
×:インクが除去できない。
【0096】
[環境対応性]
以下の基準により塗膜を形成している成分の環境対応性を3段階で評価した。
○:材料の一部が二酸化炭素であり、且つ有機錫触媒を使用していない。
△:材料の一部が二酸化炭素であるか有機錫触媒を使用していないかのどちらかの条件を満たしている。
×:材料に二酸化炭素を使用しておらず、有機錫触媒を使用している。
【0097】
【0098】
表1から明らかなように、本発明の実施例の反応性ポリシロキサン化合物(C−1〜C−3)を使用して得られた各硬化塗膜はいずれも、従来の製造方法で得られたポリシロキサン化合物(C−4)の硬化塗膜と比較して同等の表面特性を有した物でありながら、基材への密着性が大きく改善されており、これは、その構造中に導入されたヒドロキシウレタン結合による改質効果である。また離型性にも向上が見られておりこれはヒドロキシウレタン結合の親水性が強いことよりシリコーンセグメントの塗膜表面への配向が起こり易いためであると考えられる。また、本発明の実施例の反応性ポリシロキサン化合物は、他の有機成分との相溶性が良好であり、様々な配合で使用することができることを確認した。特に、反応性希釈剤との併用は、コーティング時における粘度のコントロールに有用であると共に、汚染除去性の結果に見られるように塗膜表面の機能性制御にも活用できる。更に、環境対応性の評価においては、本発明の実施例の反応性ポリシロキサン化合物は有機錫触媒に代表される触媒類を一切使用せずに製造することが可能であり、且つ、二酸化炭素を原材料の一部として使用していることより、比較例で用いた従来の製造方法で得られた反応性ポリシロキサン化合物と比較し優れた環境対応性を有している。