(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5876490
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】焼結複合体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/05 20060101AFI20160218BHJP
C22C 29/08 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
C22C1/05 G
C22C29/08
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-529659(P2013-529659)
(86)(22)【出願日】2011年9月23日
(65)【公表番号】特表2013-543539(P2013-543539A)
(43)【公表日】2013年12月5日
(86)【国際出願番号】EP2011066575
(87)【国際公開番号】WO2012038529
(87)【国際公開日】20120329
【審査請求日】2014年7月23日
(31)【優先権主張番号】61/389,912
(32)【優先日】2010年10月5日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】10179490.7
(32)【優先日】2010年9月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】ジェーン スミス
(72)【発明者】
【氏名】ピーター チャン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル カーペンター
【審査官】
米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−123952(JP,A)
【文献】
特開昭63−045346(JP,A)
【文献】
特開平07−157837(JP,A)
【文献】
特開2001−220604(JP,A)
【文献】
特開2000−328170(JP,A)
【文献】
特開平07−003306(JP,A)
【文献】
特開2003−073766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
C22C 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金マトリックス中に分散された立方晶窒化ホウ素粒子を含んでなる焼結複合体を製造する方法であって、立方晶窒化ホウ素粒子と超硬合金粉末とを含んでなる混合物を1200℃より高く1350℃より低い焼結温度にて大気圧に等しいかまたはそれ以下である圧力で焼結し、前記混合物が、4質量%以下の量の立方晶窒化ホウ素粒子を含んでなり、かつ、前記焼結の圧力が200mbar未満であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
温度が1340℃以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
焼結時間が20〜120分である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
焼結を真空焼結炉中で実施する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
超硬合金粉末が、6〜16質量%のバインダー相の量を含んでなる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
超硬合金粉末が炭化タングステンとコバルトとを含んでなる、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金マトリックス中に分散された立方晶窒化ホウ素粒子を含んでなる耐摩耗性焼結複合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超硬合金は、硬度、強度および耐摩耗性の固有の組み合わせを有する。したがって、それらは、切削工具、切り抜き型および摩耗部品など工業用途で広範囲にわたって用いられる。超硬合金は、一般的に、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化チタン、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ジルコニウム、炭化ニオブおよび/または炭化クロムなどの炭化物粒子を含んでなる。これらの炭化物粒子は、コバルト、ニッケル、鉄およびそれらの合金などの金属によって一緒に結合される。結合する金属は、典型的には3〜40質量パーセントの範囲内である。部品は、一般的に、超硬合金を1400℃程度以上の温度で焼結して、完全密度無孔体を製造することによって製造される。
【0003】
立方晶窒化ホウ素(cBN)は、硬度がダイヤモンドに次ぐ超硬物質であり、例えば、砥石車、切削工具などの機械加工工具などの応用で広く用いられている。cBNは、高温および高圧条件下で作製され、この物質は、1400℃より低い温度で結晶学的に安定である。超硬合金マトリックス中に分散されたcBN粒子から構成される超硬合金・cBN複合体は以前から知られている。一般的に、これらの複合体は、低硬度六方晶多形の窒化ホウ素(hBN)の形成を回避するために高圧焼結技術を使用して製造される。しかしながら、そのような焼結技術が関与する製造経路は費用がかかるので、あまり費用がかからない技術を開発する試みがなされてきた。
【0004】
欧州特許出願公開第0774527号は、直接抵抗加熱および加圧焼結を用いたWC−Co−cBN複合体の製造を開示している。“Making hardmetal even harder with dispersed CBN”, Metal Powder Report, Vol. 62, Issue 6, June 2007, p. 14-17は、別の直接抵抗加熱技術(Field Assisted Sintering Technology)を開示している。しかしながら、そのような製造法で用いられる装置は、小さなバッチ量についてのみ好適であり、その結果、生産コストが高くなる。
【0005】
欧州特許出願公開第0256829号は、立方晶窒化ホウ素を含有する超硬合金の研磨および摩耗耐性材料ならびにその製造を開示している。しかしながら、開示された方法は、それでもやはり比較的高価であるか、または焼結複合体の所望の特性を提供することができない。
【0006】
したがって、超硬合金マトリックス中に分散された立方晶窒化ホウ素粒子を含んでなる焼結複合体を提供するための好適な製造法がいまだ必要とされていることは明らかである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超硬合金マトリックス中に分散された立方晶窒化ホウ素粒子を含んでなる焼結複合体を製造するための費用効果的な方法を提供することが本発明の1つの目的である。
【0008】
超硬合金マトリックス中に分散された立方晶窒化ホウ素粒子を含んでなる高耐摩耗体を提供することが本発明のさらなる目的である。
【0009】
上記目的は、立方晶窒化ホウ素粒子と超硬合金粉末とを含んでなる混合物を1350℃より低い焼結温度にて圧力を加えることなく焼結することを含んでなる、焼結複合体を製造する方法によって達成できることが判明した。
【0010】
さらなる目的は、ばらばらの立方晶窒化ホウ素粒子が超硬合金マトリックス全体にわたって分散された超硬合金マトリックスを含んでなる焼結複合体であって、立方晶窒化ホウ素粒子の含有量が4質量%以下である焼結複合体によって達成されることが判明した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の態様としては、次の態様が挙げられる。
〈1〉超硬合金マトリックス中に分散された立方晶窒化ホウ素粒子を含んでなる焼結複合体を製造する方法であって、立方晶窒化ホウ素粒子と超硬合金粉末とを含んでなる混合物を1350℃より低い焼結温度にて圧力を加えることなく焼結することを特徴とする、方法。
〈2〉圧力が200mbar未満である、〈1〉項に記載の方法。
〈3〉温度が1340℃以下である、〈1〉〜〈2〉項のいずれかに記載の方法。
〈4〉焼結温度が1200℃よりも高い、〈1〉〜〈3〉項のいずれかに記載の方法。
〈5〉焼結時間が20〜120分である、〈1〉〜〈4〉項のいずれかに記載の方法。
〈6〉焼結を真空焼結炉中で実施する、〈1〉〜〈5〉項のいずれかに記載の方法。
〈7〉混合物が、4質量%以下の量の立方晶窒化ホウ素粒子を含んでなる、〈1〉〜〈6〉項のいずれかに記載の方法。
〈8〉超硬合金粉末が、6〜16質量%のバインダー相の量を含んでなる、〈1〉〜〈7〉項のいずれかに記載の方法。
〈9〉超硬合金粉末が炭化タングステンとコバルトとを含んでなる、〈1〉〜〈8〉項のいずれかに記載の方法。
〈10〉超硬合金マトリックス全体にわたってばらばらの立方晶窒化ホウ素粒子が分散されている超硬合金マトリックスを含んでなり、4質量%以下の立方晶窒化ホウ素粒子の含有量を特徴とする、焼結複合体。
〈11〉立方晶窒化ホウ素粒子の含有量が0.1〜1.2質量%である、〈10〉項に記載の焼結複合体。
〈12〉立方晶窒化ホウ素粒子が1〜100μmの粒子サイズを有する、〈10〉〜〈11〉項のいずれかに記載の焼結複合体。
〈13〉超硬合金が、80〜94質量%の炭化タングステンおよび6〜16質量%のバインダー相を含んでなる、〈10〉〜〈12〉項のいずれかに記載の焼結複合体。
〈14〉超硬合金が、コバルト、鉄、もしくはニッケル、またはそれらの混合物のバインダー相を含んでなる、〈10〉〜〈13〉項のいずれかに記載の焼結複合体。
〈15〉摩耗部品として、請求項10〜14のいずれかに記載の焼結複合体を使用する方法。
〈16〉油およびガススタビライザーブランクとして、〈10〉〜〈14〉項のいずれかに記載の焼結複合体を使用する方法。
〈17〉ローラーコーンビット中のインサートとして、〈10〉〜〈14〉項のいずれかに記載の焼結複合体を使用する方法。
そして、本発明によれば、立方晶窒化ホウ素粒子と超硬合金粉末とを含んでなる混合物を1350℃より低い焼結温度にて圧力を加えることなく焼結することを含んでなる、焼結複合体を製造する方法が提供される。圧力を加えることなく、とは、本明細書中では大気圧に等しいかまたはそれ以下である圧力を意味する。
【0012】
ばらばらの立方晶窒化ホウ素粒子がマトリックス全体にわたって分散された高密度化超硬合金マトリックスは、常圧焼結を用いることによって、すなわち、ガス、機械的手段、または他の手段によって圧力を加えることなく、1350℃より低い焼結温度で得ることができることが判明した。したがって、焼結は、通常の真空焼結炉中、すなわち対流および輻射、ならびに大気圧以下のガス圧力によって混合物に熱を伝える通常の発熱体で実施することができる。全く驚くべきことに、立方晶窒化ホウ素粒子を超硬合金混合物に導入することで焼結温度を著しく低下させることができ、その一方で、依然として完全高密度化焼結体を得ることができることが判明した。さらに、焼結体は優れた耐摩耗性を有する。
【0013】
好適には、焼結複合体は焼結材料の理論的密度の少なくとも99%の密度を有する。
【0014】
好適な処理ステップは:
・好適には、オブリコン(oblicone)、y−ブレンダーまたはレーディゲミキサーなどの粉末プロセス装置を用いて乾式混合して粉末を混合すること
・例えば一軸、押出、ドライバッグなどの通常の加圧技術により圧縮(compactation)して素地を形成すること
・グラファイトトレイ上の適切にコーティングされたバリア上の素地を焼結すること
を含んでなる。
【0015】
任意の処理ステップとして、焼結前に冷却圧縮を用いて混合物を圧縮する。
【0016】
焼結サイクルは、好適には通常のサイズの炉によるが、特別に低い焼結温度、好ましくは各超硬合金グレードの公称焼結温度よりも少なくとも50℃低い焼結温度を用いる。
【0017】
1つの例示的な約12時間の長さの焼結サイクルは:
・段階1:加熱し、例えば約1時間450℃で保持することを含む、水素下での潤滑剤除去
・段階2:例えば1時間のランプ時間で温度を焼結温度まで上昇させることを含む、真空+アルゴンの分圧でのプレ焼結
・段階3:アルゴン下で、例えば1時間焼結すること
・段階4:アルゴン下で、例えば約7時間冷却すること
を含んでなる。
【0018】
好適には、焼結は200mbar未満、好ましくは100mbar未満の圧力で実施する。
【0019】
1つの実施形態において、焼結は、1mbar未満、好ましくは10
-3mbar未満の真空中で実施される。
【0020】
1つの実施形態において、焼結温度は1340℃以下である。
【0021】
焼結温度は、好ましくは1200℃超、さらに好ましくは1250℃超である。焼結温度が低すぎる場合、結果として得られる物体は、硬度、ひいては摩耗特性に負の影響を及ぼす量の孔を有する。低い有孔率は、硬度に悪影響を及ぼさないので、許容される可能性がある。しかしながら、完全高密度化体を得るために焼結温度を選択することが好ましい。
【0022】
好適な焼結時間は20〜120分である。しかしながら、焼結時間をバッチサイズ、焼結装置、超硬合金組成などに関して適切に調節して、同時にcBNからhBNへの変換を回避しつつ、高密度焼結体を得る。
【0023】
1つの実施形態において、焼結は真空焼結炉中で実施する。
【0024】
1つの実施形態において、200bar未満の圧力を用いるシンターヒップ(sinterhip)またはポストヒップ(post hip)によって、焼結複合体をさらに処理する。温度は、好適には1400℃より低い。処理は、例えば、本発明による焼結直後であるが冷却前にシンターヒップステップとして、焼結サイクル中に含めることができる。さらなる処理に先行する焼結で、密閉気孔率を有する高密度化体を得る。あるいは、処理を、焼結サイクル完了後に別の処理として実施する。
【0025】
混合物が4質量%以下の量の立方晶窒化ホウ素粒子を含んでなるのが好ましい。
【0026】
1つの実施形態において、混合物は、0.1〜1.2質量%の立方晶窒化ホウ素粒子の量を含んでなる。
【0027】
別の実施形態において、混合物は、2.5〜3.5質量%の量の立方晶窒化ホウ素粒子を含んでなる。
【0028】
1つの実施形態において、立方晶窒化ホウ素粒子を、金属元素を含んでなる薄層でコーティングする。好適には、層の厚さは0.1〜50μmである。1つの例示的実施形態において、層はチタンを含んでなる。
【0029】
1つの別の実施形態において、立方晶窒化ホウ素粒子はコーティングされない。
【0030】
超硬合金粉末中のバインダー相の量は、3〜40質量%の領域内である。好ましくは、バインダー相は、コバルト、鉄、もしくはニッケル、またはそれらの混合物を含んでなる。
【0031】
1つの好ましい実施形態において、超硬合金粉末中のバインダー相の量は、6〜16質量%である。
【0032】
好ましくは、超硬合金の硬質相は、少なくとも70質量%の炭化タングステンを含んでなる。
【0033】
1つの実施形態において、超硬合金粉末中の炭化タングステンの量は80〜94質量%の範囲内である。
【0034】
1つの好ましい実施形態において、超硬合金粉末は、炭化タングステンとコバルトとを含んでなる。
【0035】
cBN/Co比が高すぎると、焼結の間の凝集およびその後の分割(partitioning)によって望ましくない影響を及ぼす可能性があることが判明した。
【0036】
1つの実施形態において、cBN/Coの質量比は、0.35未満、好ましくは0.25〜0.35の範囲内である。
【0037】
別の実施形態において、cBN/Coの質量比は、0.01〜0.03の範囲内である。
【0038】
さらに別の実施形態において、cBN/Coの質量比は、0.06〜0.08の範囲内である。
【0039】
本発明による焼結複合体は、ばらばらの立方晶窒化ホウ素粒子が超硬合金マトリックス全体にわたって分散された超硬合金マトリックスを含んでなり、この場合、立方晶窒化ホウ素粒子の含有量は4質量%以下である。
【0040】
好適には、焼結複合体は完全高密度化超硬合金マトリックスを有する。
【0041】
驚くべきことに、立方晶窒化ホウ素粒子の含有量をあるレベルまで減少させると摩耗特性が改善されることが判明した。
【0042】
1つの実施形態において、焼結複合体は0.1〜1.2質量%の立方晶窒化ホウ素粒子の含有量を有する。1つの好ましい範囲は、焼結複合体中0.6〜1.0質量%の立方晶窒化ホウ素粒子である。
【0043】
立方晶窒化ホウ素粒子は、好ましくは、1〜100μmの粒子サイズを有する。1つの実施形態において、立方晶窒化ホウ素粒子は、1〜25μmの平均粒子サイズを有する。1つの別の実施形態において、立方晶窒化ホウ素粒子は、12〜35μm、好ましくは14〜25μmの平均粒子サイズを有する。
【0044】
1つの実施形態において、超硬合金は、炭化タングステンを含んでなる硬質相と、コバルト、鉄、もしくはニッケル、またはそれらの混合物を含んでなるバインダー相とを含んでなる。クロムおよび/またはモリブデンなどのバインダー相中のさらなる合金化元素は、ある適用で、例えば改善された耐食性が有用である場合に好適である可能性がある。好適には、クロムおよび/またはモリブデンの含有量は、バインダー相の12〜16質量%である。
【0045】
1つの例示的実施形態において、腐食耐性バインダー相は、ニッケル、クロムおよびモリブデンから構成される。
【0046】
1つの実施形態において、超硬合金は、80〜94質量%の炭化タングステンと、6〜16質量%のバインダー相であって、好ましくはコバルトを含んでなるバインダー相とを含んでなる。
【0047】
好適には、炭化タングステン粒子の粒子サイズは、0.1〜15μmの範囲内である。
【0048】
本発明はさらに、当該方法によって得ることができる焼結複合体に関する。
【0049】
本発明はさらに、焼結複合体の摩耗部品としての使用に関する。
【0050】
1つの実施形態では、焼結複合体を油およびガススタビライザーブランク(stabiliser blank)として使用する。
【0051】
別の実施形態では、焼結複合体をローラーコーンビット(roller cone bit)中でインサート(insert)として使用する。
【0052】
実施例1
表1のとおりの組成を有する超硬合金/cBN複合体グレードを、約3μmのFisherサブシーブサイズ分析粒子サイズを有するWCを用いて本発明のプロセスにしたがって製造した。焼結温度での時間は1時間であった。
【0054】
複合超硬合金/cBN候補グレード試験クーポンをISO4505にしたがって物理的および微細構造特性について試験した。材料をさらに、ASTM B611耐摩耗性についても試験した。結果を表2に示す。