特許第5876618号(P5876618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5876618導電性材料およびそれを用いたトランスデューサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5876618
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】導電性材料およびそれを用いたトランスデューサ
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20160218BHJP
   C08K 13/04 20060101ALI20160218BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20160218BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20160218BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20160218BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   C08L101/12
   C08K13/04
   C08K3/08
   H01B1/22 A
   H01B1/00 H
   H01B5/14 Z
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-517547(P2015-517547)
(86)(22)【出願日】2014年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2014075851
(87)【国際公開番号】WO2015083421
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2015年4月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-249076(P2013-249076)
(32)【優先日】2013年12月2日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】田口 祐太朗
(72)【発明者】
【氏名】吉川 均
(72)【発明者】
【氏名】鳥原 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】辻 正治
(72)【発明者】
【氏名】高原 淳
【審査官】 新留 豊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−070968(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/107694(WO,A1)
【文献】 特開2011−029099(JP,A)
【文献】 特開2012−009383(JP,A)
【文献】 特開2012−138260(JP,A)
【文献】 特開2010−153364(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0162870(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/047197(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00−101/14
C08K3/00−13/08
H01B1/00−1/24
H01B5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度(Tg)が25℃以下のポリマーと、金属分が85質量%以上99.5質量%以下である金属ナノワイヤを含む金属フィラーと、を有し、
該ポリマー中に、複数の該金属ナノワイヤが集まって形成されるワイヤ束部が分散した構造を有し、
一つの該ワイヤ束部を構成する該金属ナノワイヤの平均個数は100個以下であることを特徴とする導電性材料。
【請求項2】
前記金属ナノワイヤの短手方向の平均長さは、200nm以下である請求項1に記載の導電性材料。
【請求項3】
前記金属フィラーは、さらにフレーク状の金属粒子を含む請求項1または請求項2に記載の導電性材料。
【請求項4】
前記金属ナノワイヤは銀を含む請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の導電性材料。
【請求項5】
前記金属フィラーの配合量は、前記ポリマーの100質量部に対して350質量部以下である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の導電性材料。
【請求項6】
エラストマー製の誘電層と、該誘電層を介して配置されている複数の電極と、複数の該電極と各々接続されている配線と、を備え、
該電極および該配線の少なくとも一方は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の導電性材料からなることを特徴とするトランスデューサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノワイヤを含む柔軟な導電性材料、およびそれを配線等の材料として用いたトランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
エラストマー等の高分子材料を利用して、柔軟性が高く、小型で軽量なトランスデューサが開発されている。この種のトランスデューサは、例えば、電極間にエラストマー製の誘電層を介装して構成される。電極間の印加電圧を変化させると、誘電層が伸縮する。したがって、柔軟なトランスデューサにおいては、電極や配線においても、誘電層の変形に追従できるよう、伸縮性が要求される。伸縮可能な導電性材料としては、例えば、特許文献1、2に、エラストマーにフレーク状、ファイバー状等の金属フィラーを分散させた導電膜が開示されている。一方、特許文献3〜5に開示されているように、ディスプレイやタッチパネル等の透明電極として、金属ナノワイヤを含む透明導電膜が用いられている。金属ナノワイヤは、導電性が高いため、導電材として好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−138260号公報
【特許文献2】特開2010−153364号公報
【特許文献3】特開2009−140788号公報
【特許文献4】国際公開第2009/107694号
【特許文献5】特開2011−70968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トランスデューサ等の変形を伴う電子部品に用いられる電極や配線には、変形に追従して伸縮可能であることに加えて、伸張された際に電気抵抗の変化が小さいことも要求される。従来のフレーク状の金属フィラーは、アスペクト比が小さい球状の金属フィラーと比較すれば、フィラー同士が接触しやすい。このため、変形が比較的小さい場合には、伸張されても所望の導電性を確保することができる。しかし、変形が大きくなると、伸張により金属フィラーによる導電経路が絶たれてしまい、所望の導電性を確保することができないのが現状である。金属フィラーのアスペクト比を大きくして、フィラー同士の接触点を多くするという手法も考えられるが、現状では、金属フィラーの厚さを薄くするのには限界があり、さらなる薄片化によりアスペクト比を大きくすることは難しい。
【0005】
この点、上記特許文献3〜5に開示された金属ナノワイヤは、比較的大きなアスペクト比を有する。しかし、金属ナノワイヤは、凝集しやすい。例えば、銀ナノワイヤの製造には、銀ナノワイヤの成長方向制御剤として、ポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性高分子が用いられる。成長方向制御剤は、銀粒子の表面に付着して、銀粒子を一方向に成長させる。このため、製造された銀ナノワイヤの表面には、ポリビニルピロリドンが付着している。ポリビニルピロリドンは親水性であるため、疎水性のポリマーとの相溶性が低い。したがって、ポリビニルピロリドンが付着した銀ナノワイヤをポリマーに配合すると、銀ナノワイヤが凝集して絡み合い、大きな凝集塊が形成される。この場合、凝集塊の導電領域がポリマーの非導電領域に分断されるため、ポリマー中に充分な導電経路を形成することができない。よって、所望の導電性を得ることが難しく、伸張されると電気抵抗が大幅に増加してしまう。また、伸張時に、凝集塊とポリマーとの界面にクラックが生じやすいため、材料が破壊されやすい。一方、銀ナノワイヤから成長方向制御剤を完全に除去するなどして、ポリマー中に銀ナノワイヤを単独の状態で分散させると、銀ナノワイヤ同士の接触点が少なくなってしまう。このため、伸張時に電気抵抗の増加を招くおそれがある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、金属ナノワイヤを含み、伸張性に優れ、かつ伸張時にも電気抵抗が増加しにくい導電性材料を提供することを課題とする。また、このような導電性材料を電極や配線の材料に用いることにより、性能が低下しにくく耐久性に優れたトランスデューサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するため、本発明の導電性材料は、ガラス転移温度(Tg)が25℃以下のポリマーと、金属ナノワイヤを含む金属フィラーと、を有し、該ポリマー中に、複数の該金属ナノワイヤが集まって形成されるワイヤ束部が分散した構造を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の導電性材料においては、金属ナノワイヤの一つ一つが単独で分散しているのではなく、複数の金属ナノワイヤが集合したワイヤ束部が分散している。このため、単独分散の場合と比較して、金属ナノワイヤ同士の接触点が多くなる。したがって、大きく伸張されても、金属ナノワイヤによる導電経路が絶たれにくく、導電性を確保することができる。また、金属ナノワイヤが凝集して大きな凝集塊が形成される場合とは異なり、ワイヤ束部の大きさは比較的小さく、かつ、ポリマー中に多数のワイヤ束部が比較的近接して存在している。このため、ポリマー中に確実に導電経路を形成することができ、大きく伸張されても、電気抵抗が増加しにくい。また、伸張時にクラックが生じにくいため、伸張を繰り返しても導電性材料が破壊されにくい。
【0009】
このように、本発明の導電性材料においては、金属ナノワイヤを適度に凝集させつつ分散させている。これにより、大きく伸張されても電気抵抗が増加しにくいという、従来にはない特性を発現することができる。また、本発明の導電性材料においては、Tgが25℃以下のポリマーが母材になる。このため、本発明の導電性材料は、柔軟である。なお、本発明の導電性材料は、ワイヤ束を形成せずに単独で存在する金属ナノワイヤを有していてもよい。また、金属ナノワイヤ以外の金属フィラーを有していてもよい。
【0010】
(2)本発明のトランスデューサは、エラストマー製の誘電層と、該誘電層を介して配置されている複数の電極と、複数の該電極と各々接続されている配線と、を備え、該電極および該配線の少なくとも一方は、上記本発明の導電性材料からなることを特徴とする。
【0011】
トランスデューサには、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ、発電素子等、あるいは音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン等がある。本発明のトランスデューサによると、電極および配線の少なくとも一方が、上記本発明の導電性材料からなる。このため、誘電層が変形すると、当該変形に追従して、電極や配線が伸縮する。したがって、本発明のトランスデューサによると、誘電層の動きが、電極や配線により規制されにくい。また、本発明の導電性材料からなる電極や配線は、高い導電性を有し、伸張時にも電気抵抗が増加しにくい。このため、本発明のトランスデューサにおいては、電極や配線に起因した性能の低下が生じにくい。したがって、本発明のトランスデューサは、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のトランスデューサの一実施形態である静電容量型センサの上面図である。
図2図1のII−II断面図である。
図3】実施例1の導電膜の断面のSEM写真である(倍率2万倍)。
図4】実施例2の導電膜の断面のSEM写真である(倍率2万倍)。
図5】比較例1の導電膜の断面のSEM写真である(倍率2万倍)。
図6】比較例2の導電膜の断面のSEM写真である(倍率8千倍)。
【符号の説明】
【0013】
2:静電容量型センサ(トランスデューサ)、20:誘電層、21a、21b:電極、22a、22b:配線、23a、23b:カバーフィルム、24:コネクタ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の導電性材料およびトランスデューサの実施の形態について説明する。なお、本発明の導電性材料およびトランスデューサは、以下の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0015】
<導電性材料>
本発明の導電性材料は、ガラス転移温度(Tg)が25℃以下のポリマーと、金属ナノワイヤを含む金属フィラーと、を有し、該ポリマー中に、複数の該金属ナノワイヤが集まって形成されるワイヤ束部が分散した構造を有する。
【0016】
[ポリマー]
本発明の導電性材料のポリマーとしては、柔軟性を考慮して、Tgが25℃以下のものを用いる。Tgが低くなると結晶性が低下するため、ポリマーの柔軟性が向上する。このため、Tgが5℃以下のものを用いるとより好適である。本明細書においては、Tgとして、JIS K7121(1987)に準じて測定した中間点ガラス転移温度を採用する。
【0017】
ポリマーとしては、一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。例えば、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、エチレンオキシド−エピクロロヒドリン共重合体、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、シリコーンゴム、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂等が挙げられる。なかでも、アクリルゴムは、結晶性が低く分子間力が弱いため、他のゴムと比較してTgが低い。このため、柔軟で伸びがよい。また、トランスデューサを構成した場合に、ニトリルゴム製の誘電層との粘着性に優れ、イオン性不純物が少ない。よって、本発明の導電性材料を、トランスデューサの電極、配線材料として用いるには、アクリルゴムが好適である。また、ポリエステル樹脂やポリエステルウレタン樹脂の中でTgが低いものは、破断強度が高い割に破断伸びが大きい。このため、ポリエステル樹脂やポリエステルウレタン樹脂も好適である。
【0018】
[金属フィラー]
ポリマーに配合される金属フィラーは、金属ナノワイヤを含む。金属ナノワイヤの材質は、特に限定されない。金属としては、例えば、銀、金、銅、白金、ニッケル等が挙げられる。ナノワイヤを構成する金属は、一種でも二種以上でもよい。なかでも銀を含む銀ナノワイヤは、導電性が高く、比較的安価なため好適である。導電性材料に含有される金属ナノワイヤは、一種でも二種以上でもよい。
【0019】
金属ナノワイヤの大きさは、特に限定されない。例えば、金属ナノワイヤの短手方向長さ(直径)が小さいと、つまり、金属ナノワイヤが細くなると、凝集力が大きくなり、ワイヤ束部が形成されやすくなる。これにより、金属ナノワイヤ同士の接触点が多くなり、伸張時の電気抵抗増加の抑制効果が高くなる。したがって、金属ナノワイヤの短手方向の平均長さは、200nm以下が望ましい。150nm以下であるとより好適である。また、金属ナノワイヤの長手方向長さが小さいと、つまり、金属ナノワイヤが短いと、金属ナノワイヤ同士が接触しにくくなる。よって、導電経路が形成されにくい。また、接触点が少なくなると、伸張時に電気抵抗が大きくなりやすい。したがって、金属ナノワイヤの長手方向の平均長さは、1μm以上であることが望ましい。2μm以上であるとより好適である。金属ナノワイヤの大きさは、導電性材料の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等により観察して、個々の金属ナノワイヤの長さを測定し、所定の数の測定値の算術平均から求めればよい。測定する金属ナノワイヤの数は、少なくとも20個以上が望ましい。
【0020】
本発明の導電性材料においては、複数の金属ナノワイヤが集まってワイヤ束部が形成される。ワイヤ束部の有無については、導電性材料の断面をSEMやTEM等により観察して、確認すればよい。例えば、金属ナノワイヤ同士が200nm未満の距離で隣接または接触して集合している部分を、ワイヤ束部と認定することができる。
【0021】
一つのワイヤ束部を構成する金属ナノワイヤの個数は、特に限定されない。例えば、金属ナノワイヤが2個以上400個以下であると好適である。ワイヤ束部の大きさが大き過ぎると、変形時に材料破壊の起点となるおそれがある。このため、一つのワイヤ束部を構成する金属ナノワイヤの平均個数は、100個以下、さらには50個以下であるとより好適である。
【0022】
ワイヤ束部は、ポリマー中に分散している。伸張時の電気抵抗増加を効果的に抑制するためには、隣接するワイヤ束部間の距離は、3μm未満であることが望ましい。
【0023】
上述したように、精製していない金属ナノワイヤの表面には、製造時に使用した親水性高分子が付着している。親水性高分子が付着したままの金属ナノワイヤを用いると、ワイヤ束ではなく、金属ナノワイヤが多数凝集した凝集塊が形成されやすい。したがって、ポリマーに配合する前に、金属ナノワイヤを洗浄処理して、表面に付着した親水性高分子を除去しておくことが望ましい。但し、親水性高分子を完全に除去してしまうと凝集力が小さくなり、ワイヤ束部が形成されにくくなる。このため、金属ナノワイヤの金属分が、85質量%以上99.5質量%以下になるように、洗浄処理を行うことが望ましい。金属ナノワイヤの洗浄処理は、例えば、合成された金属ナノワイヤに溶剤を加えて、加熱下で撹拌すればよい。この場合、親水性高分子の除去の程度は、加熱撹拌処理の温度、撹拌時間、繰り返し回数、溶剤量等により調整すればよい。金属ナノワイヤの金属分は、熱重量分析(TG)により求めることができる。具体的には、金属ナノワイヤの約5mgを室温から1000℃まで20℃/分の速度で昇温し、加熱前の質量に対する加熱後の質量割合を算出すればよい。
【0024】
このように、本発明の導電性材料においては、親水性高分子をある程度除去した金属ナノワイヤを用いることが望ましい。金属ナノワイヤの表面に親水性高分子を若干残存させることにより、金属ナノワイヤの凝集力を利用しつつ、適度に分散した状態を実現することができると考えられる。
【0025】
金属フィラーは、金属ナノワイヤに加えて、他の金属粒子を含んでいてもよい。他の金属粒子を混合することにより、導電性材料の体積抵抗率をより小さくすることができる。また、金属粒子が占有していない部分に金属ナノワイヤが充填されるため、ワイヤ束部を構成する金属ナノワイヤの個数が多くなり、導電性が向上する。
【0026】
他の金属粒子としては、銀、金、銅、ニッケル、ロジウム、パラジウム、クロム、チタン、白金、鉄、およびこれらの合金等の粒子が挙げられる。フィラー同士の接触点を多くするという観点から、フレーク状、ファイバー状等の金属粒子が好適である。金属粒子の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば2.5μm以上15μm以下とすることが望ましい。本明細書においては、金属粒子の平均粒子径として、日機装(株)製「マイクロトラック粒度分布測定装置MT3300EXII」により測定された値を採用する。
【0027】
金属粒子がフレーク状またはファイバー状である場合、金属粒子粉末の平均アスペクト比が10以上のものを用いると好適である。平均アスペクト比とは、フレーク状の金属粒子粉末の場合は「フレーク幅の平均値/フレーク厚さの平均値」、ファイバー状の金属粒子粉末の場合には「ファイバー長さの平均値/ファイバー径の平均値」により算出される値である。フレーク幅等の平均値は、金属粒子粉末をSEMやTEM等で観察して個々の粒子の長さを測定し、所定の粒子数の測定値の算術平均から求めればよい。測定する粒子数は20個以上が望ましい。
【0028】
本発明の導電性材料における金属フィラーの含有量は、導電性と柔軟性とを考慮して適宜決定すればよい。例えば、金属フィラーの配合量を、ポリマーの100質量部に対して350質量部以下とすることが望ましい。この場合、金属ナノワイヤを少なくとも50質量部以上含めることが望ましい。
【0029】
<導電性材料の製造方法>
本発明の導電性材料は、例えば、ポリマーを溶剤に溶解した溶液に金属フィラーを添加して導電塗料を調製し、調製した導電塗料を基材に塗布し、加熱により乾燥させて製造することができる。ポリマーが架橋ゴムの場合には、加熱時に架橋反応を進行させればよい。導電塗料には、必要に応じて可塑剤、加工助剤、架橋剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、軟化剤、着色剤等の添加剤を配合してもよい。ここで、導電塗料の溶媒の選択、すなわち、ポリマーを溶解し金属フィラーを分散させる溶剤の選択は、ポリマー中にワイヤ束部が分散した構造を実現するために重要である。具体的には、ポリマーと、金属ナノワイヤに付着した親水性高分子と、の両方を溶解可能な溶剤を選択することが望ましい。例えば、N−メチル−2−ピロリドンやジメチルホルムアミドは、ポリマーを溶解することができる。また、これらの溶剤を各々単独で使用した場合は、金属ナノワイヤを分散させることができる。しかし、N−メチル−2−ピロリドンまたはジメチルホルムアミドにポリマーを溶解した溶液に金属ナノワイヤを分散させると、固形物と溶液とが分離して、液安定性が悪化するおそれがある。
【0030】
基材としては、エラストマー製の誘電層の他、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等からなる、屈曲性または伸縮性を有するフィルムやシートが挙げられる。導電塗料の塗布方法は、既に公知の種々の方法を採用することができる。例えば、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、パッド印刷、リソグラフィー等の印刷法の他、ディップ法、スプレー法、バーコート法等が挙げられる。例えば、本発明の導電性材料を、トランスデューサ等の電子部品の電極、配線材料として用いる場合、小型化、薄型化、誘電層等の変形に対する影響をできるだけ小さくする等の観点から、導電性材料を薄膜状に形成することが望ましい。例えば、導電性材料の厚さを、4μm以上100μm以下とすることが望ましい。
【0031】
金属フィラーのうち、金属ナノワイヤの製造方法は特に限定されない。金属ナノワイヤは、公知の液相法、気相法、ガスアトマイズ法、水溶液電解法等により製造すればよい。例えば、金属化合物を溶剤に溶解した金属化合物溶液と、成長方向制御剤を溶剤に溶解した成長方向制御剤溶液と、ワイヤ発生剤を溶剤に溶解したワイヤ発生剤溶液と、を混合し、混合液中で金属化合物を反応させて、金属ナノワイヤを長手方向に成長させることができる。
【0032】
金属化合物は、金属ナノワイヤの種類に応じて適宜選択すればよい。金属化合物としては、金属イオンを供給できる硝酸塩、塩化物、硫酸塩、炭酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩等の無機酸塩、および酢酸塩、乳酸塩等の有機酸塩が挙げられる。なかでも、硝酸塩が好適である。成長方向制御剤としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸塩等の親水性高分子を用いる。ワイヤ発生剤としては、塩化物イオンを生成できる無機塩化物または有機塩化物を用いる。なかでも、核となる金属ナノ粒子が形成されやすい、残留塩を除去しやすい等の理由から、塩化ナトリウムが好適である。溶剤は、金属イオンを還元できるものであれば、特に限定されない。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のポリオール類、アルコール、エーテル等が挙げられる。
【0033】
反応は、加熱、加圧、マイクロ波照射等の条件を、適宜選択して行えばよい。例えば、混合液を加熱する場合、反応温度は、30〜290℃程度であることが望ましい。反応が進行すると、混合液が白濁する。これにより、金属ナノワイヤの生成を確認することができる。白濁を確認した後、30分程度は反応を続けることが望ましい。反応終了後、加熱して反応を行った場合には混合液を冷却して、混合液中に生成した金属ナノワイヤを回収する。金属ナノワイヤの回収は、ろ過、遠心分離、再沈等の方法を用いればよい。生成された金属ナノワイヤには、表面に付着した成長方向制御剤を除去するための洗浄処理を施すことが望ましい。
【0034】
<トランスデューサ>
本発明のトランスデューサは、エラストマー製の誘電層と、該誘電層を介して配置されている複数の電極と、複数の該電極と各々接続されている配線と、を備える。本発明のトランスデューサにおいて、誘電層は一層でも二層以上でもよい。ここで、「エラストマー製」とは、誘電層のベース材料が、エラストマーであることを意味する。よって、誘電層は、エラストマー成分の他に、他の成分を含んでいても構わない。誘電層としては、例えば、エラストマーのみからなるエラストマー層、エラストマーと絶縁性の無機粒子とを含む高抵抗層、エラストマーとイオン成分とを含むイオン成分含有層、エラストマーと半導体とを含む半導体含有層等、種々の層が挙げられる。また、本発明のトランスデューサは、誘電層と電極とを交互に積層させた積層構造を有していてもよい。
【0035】
トランスデューサの変位量および発生力を大きくするという観点から、エラストマーとしては、常温における比誘電率(100Hz)が2以上、さらには5以上のものが望ましい。例えば、シリコーンゴム、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、アクリルゴム、ウレタンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン等が好適である。
【0036】
本発明のトランスデューサにおいて、電極および配線の少なくとも一方は、本発明の導電性材料からなる。本発明の導電性材料の構成、および製造方法については、上述した通りである。よって、ここでは説明を省略する。また、本発明のトランスデューサの電極、配線においても、本発明の導電性材料の好適な態様を採用することが望ましい。以下、本発明のトランスデューサの一例として、静電容量型センサの実施形態を説明する。
【0037】
まず、本実施形態の静電容量型センサの構成について説明する。図1に、静電容量型センサの上面図を示す。図2に、図1のII−II断面図を示す。図1図2に示すように、静電容量型センサ2は、誘電層20と、一対の電極21a、21bと、配線22a、22bと、カバーフィルム23a、23bと、を備えている。
【0038】
誘電層20は、H−NBR製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。誘電層20の厚さは、約300μmである。
【0039】
電極21aは、長方形状を呈している。電極21aは、誘電層20の上面に、スクリーン印刷により三つ形成されている。同様に、電極21bは、長方形状を呈している。電極21bは、誘電層20を挟んで電極21aと対向するように、誘電層20の下面に三つ形成されている。電極21bは、誘電層20の下面に、スクリーン印刷されている。このように、誘電層20を挟んで、電極21a、21bが三対配置されている。電極21a、21bは、アクリルゴムと銀ナノワイヤとを有し、アクリルゴム中に銀ナノワイヤのワイヤ束部が分散した構造を有する本発明の導電性材料からなる(後述する実施例1の導電膜に相当)。
【0040】
配線22aは、誘電層20の上面に形成された電極21aの一つ一つに、それぞれ接続されている。配線22aにより、電極21aとコネクタ24とが結線されている。配線22aは、誘電層20の上面に、スクリーン印刷により形成されている。同様に、配線22bは、誘電層20の下面に形成された電極21bの一つ一つに、それぞれ接続されている(図2中、点線で示す)。配線22bにより、電極21bとコネクタ(図略)とが結線されている。配線22bは、誘電層20の下面に、スクリーン印刷により形成されている。配線22a、22bは、アクリルゴムと銀ナノワイヤとフレーク状の銀粉末とを有し、アクリルゴム中に銀ナノワイヤのワイヤ束部が分散した構造を有する本発明の導電性材料からなる(後述する実施例2の導電膜に相当)。
【0041】
カバーフィルム23aは、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム23aは、誘電層20、電極21a、配線22aの上面を覆っている。同様に、カバーフィルム23bは、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム23bは、誘電層20、電極21b、配線22bの下面を覆っている。
【0042】
次に、静電容量型センサ2の動きについて説明する。例えば、静電容量型センサ2が上方から押圧されると、誘電層20、電極21a、カバーフィルム23aは一体となって、下方に湾曲する。圧縮により、誘電層20の厚さは薄くなる。その結果、電極21a、21b間のキャパシタンスは大きくなる。このキャパシタンス変化により、圧縮による変形が検出される。
【0043】
次に、静電容量型センサ2の作用効果について説明する。本実施形態によると、電極21a、21bおよび配線22a、22bは、柔軟である。このため、誘電層20の動きが、電極21a、21bおよび配線22a、22bにより、規制されにくい。したがって、静電容量型センサ2の応答性は良好である。また、電極21a、21bおよび配線22a、22bは、高い導電性を有する。加えて、伸張されても、電気抵抗が増加しにくい。このため、静電容量型センサ2においては、電極21a、21bおよび配線22a、22bに起因した性能の低下が、生じにくい。したがって、静電容量型センサ2は耐久性に優れる。
【実施例】
【0044】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0045】
<銀ナノワイヤの製造>
まず、硝酸銀(AgNO)12.99gをエチレングリコール497.7gに溶解したAgNO溶液、ワイヤ発生剤の塩化ナトリウム(NaCl)をエチレングリコールに溶解したNaCl溶液(NaCl濃度:0.1mol/L)、および成長方向制御剤のポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)(重量平均分子量55,000)22.5gをエチレングリコール449.7gに溶解したポリビニルピロリドン溶液を、各々調製した。次に、AgNO溶液をポリビニルピロリドン溶液に加え、撹拌しながらさらにNaCl溶液を100.5g加えた。そのまま室温下で40分間撹拌を続けた後、AgNO溶液、ポリビニルピロリドン溶液、およびNaCl溶液の混合液を、130℃に加熱したエチレングリコール826.4gに、300mL/分の速度で撹拌しながら加えた。そして、130℃下で撹拌しながら2.5時間反応させた。それから、175℃まで昇温し、昇温開始から2.5時間後に反応を終了して、混合液の白濁を確認した。反応後の混合液を水冷した後、混合液にアセトンを加えて静置した。上澄み液を除去して、沈殿した固形物(銀ナノワイヤ)を回収した。
【0046】
続いて、得られた銀ナノワイヤの洗浄処理を行った。まず、回収した銀ナノワイヤにイソプロピルアルコールを加えて、銀ナノワイヤ分散液を調製した。次に、分散液を80℃に加熱して、20分間撹拌した(加熱撹拌処理)。分散液を放冷した後、アセトンを加えて静置した。上澄み液を除去して、沈殿した銀ナノワイヤを回収した。回収した銀ナノワイヤに対して、上記同様の加熱撹拌処理を二回行い、精製された銀ナノワイヤを得た。洗浄処理後の銀ナノワイヤ(以下、「精製銀ナノワイヤ」と称す)を熱重量分析したところ、金属分は、98.4質量%であった。一方、洗浄処理前の銀ナノワイヤ(以下、「未精製銀ナノワイヤ」と称す)を熱重量分析したところ、金属分は、74.8質量%であった。熱重量分析においては、銀ナノワイヤの約5mgを室温から1000℃まで20℃/分の速度で昇温し、加熱前後の質量変化を測定した。
【0047】
<導電性材料の製造>
[実施例1]
ポリマーがアクリルゴムである導電性材料を製造した。まず、n−ブチルアクリレート(98質量%)と2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2質量%)との共重合体であるヒドロキシル基含有アクリルゴムポリマー(Tg:−35℃、重量平均分子量90万程度)100質量部と、架橋剤のエチレンジアミン0.1質量部と、をロール練り機にて混合し、アクリルゴム組成物を調製した。続いて、調製したアクリルゴム組成物を、ブチルセロソルブアセテート(大伸化学(株)製)2300質量部に溶解させて、アクリルゴム溶液を調製した。このアクリルゴム溶液に、精製銀ナノワイヤ300質量部を添加、攪拌して導電塗料を調製した。次に、調製した導電塗料を基材のポリウレタンシート表面にバーコート法により塗布し、150℃で2時間乾燥させて、導電膜を製造した。得られた導電膜を実施例1の導電膜と称す。実施例1の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。
【0048】
実施例1の導電膜の断面をSEMにて観察した。図3に、実施例1の導電膜の断面のSEM写真を示す。図3中、実線で囲んで示すように、アクリルゴム中には、複数の銀ナノワイヤが集まったワイヤ束部が多数存在している。ワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤは、200nm未満の距離で隣接または接触している。ワイヤ束部は、3μm未満の間隔で、アクリルゴム中に分散している。SEM写真によると、隣接するワイヤ束部の最大距離は、0.5μmであった。一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は40.7個であった。銀ナノワイヤの長手方向の平均長さは1364nm、短手方向の平均長さは39nmであった。いずれの平均長さも、銀ナノワイヤ20個の算術平均値である(以下同じ)。
【0049】
[実施例2]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤの配合量を200質量部に減らし、その分、フレーク状の銀粉末(福田金属箔粉工業(株)製「Ag−XF301」、平均粒子径5.5μm、平均アスペクト比25)を100質量部配合して、導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は2である。得られた導電膜を実施例2の導電膜と称す。実施例2の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。
【0050】
実施例2の導電膜の断面をSEMにて観察した。図4に、実施例2の導電膜の断面のSEM写真を示す。図4に示すように、アクリルゴム中には、複数の銀ナノワイヤが集まったワイヤ束部(実線で囲んで示す)と、フレーク状の銀粒子と、が存在している。ワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤは、200nm未満の距離で隣接または接触している。ワイヤ束部は、3μm未満の間隔で、アクリルゴム中に分散している。SEM写真によると、隣接するワイヤ束部の最大距離は、0.5μmであった。一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は44.7個であった。
【0051】
[実施例3]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤの配合量を100質量部に減らし、その分、フレーク状の銀粉末(同上)を200質量部配合して、導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は0.5である。なお、本実施例においては、アクリルゴム溶液の溶媒であるブチルセロソルブアセテートの配合量を、1800質量部とした。得られた導電膜を実施例3の導電膜と称す。実施例3の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例3の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は1.2μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は70.3個であった。
【0052】
[実施例4]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤの配合量を200質量部に減らし、フレーク状の銀粉末(同上)を50質量部配合して、導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は4である。得られた導電膜を実施例4の導電膜と称す。実施例4の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例4の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は0.5μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は50.6個であった。
【0053】
[実施例5]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤの配合量を100質量部に減らし、フレーク状の銀粉末(同上)を250質量部配合して、導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は0.4である。得られた導電膜を実施例5の導電膜と称す。実施例5の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例5の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は1.7μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は74.6個であった。
【0054】
[実施例6]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤの配合量を50質量部に減らし、フレーク状の銀粉末(同上)を250質量部配合して、導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は0.2である。得られた導電膜を実施例6の導電膜と称す。実施例6の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例6の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は2.8μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は80.3個であった。
【0055】
[実施例7]
ポリマーがポリエステル樹脂である導電膜を製造した。まず、ポリエステル樹脂(ユニチカ(株)製「エリーテル(登録商標)EU3220」、Tg:5℃)100質量部を、イソホロン(大伸化学(株)製)2300質量部に溶解させて、ポリエステル樹脂溶液を調製した。このポリエステル樹脂溶液に、精製銀ナノワイヤ200質量部を添加、攪拌して導電塗料を調製した。次に、調製した導電塗料を基材のポリウレタンシート表面にバーコート法により塗布し、150℃で2時間乾燥させて、導電膜を製造した。得られた導電膜を実施例7の導電膜と称す。実施例7の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例7の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は0.6μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は46.2個であった。
【0056】
[実施例8]
実施例7の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤに加えて、フレーク状の銀粉末(同上)を100質量部配合して、導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は2である。なお、本実施例においては、ポリエステル樹脂溶液の溶媒を、ブチルセロソルブアセテート(同上)に変更した。得られた導電膜を実施例8の導電膜と称す。実施例8の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例8の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は0.7μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は47.8個であった。
【0057】
[実施例9]
架橋剤を変更し、導電塗料の調製方法を変更した以外は、実施例2の導電膜と同様にして、導電膜を製造した。まず、n−ブチルアクリレートと2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体であるヒドロキシル基含有アクリルゴムポリマー(同上)100質量部を、ブチルセロソルブアセテート(同上)2300質量部に溶解させて、アクリルゴム溶液を調製した。次に、調製したアクリルゴム溶液に、架橋剤のヘキサメチレンジイソシアネート3質量部と、精製銀ナノワイヤ200質量部と、フレーク状の銀粉末(同上)100質量部と、を添加、攪拌して導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は2である。得られた導電膜を実施例9の導電膜と称す。実施例9の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。
【0058】
実施例9の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は0.7μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は41.6個であった。
【0059】
[実施例10]
ポリマーがシリコーンゴム(Tg:−120℃)である導電膜を製造した。まず、シリコーンゴムポリマー(信越化学工業(株)製、二液型液状シリコーン「KE1935」)100質量部を、イソパラフィン系炭化水素(出光興産(株)製「IPソルベント2028」)1000質量部に溶解させて、シリコーン溶液を調製した。このシリコーン溶液に、実施例2の導電膜と同様に精製銀ナノワイヤ200質量部と、フレーク状の銀粉末(同上)100質量部と、を添加、攪拌して導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は2である。次に、調製した導電塗料を基材のポリウレタンシート表面にバーコート法により塗布し、150℃で2時間乾燥させて、導電膜を製造した。得られた導電膜を実施例10の導電膜と称す。実施例10の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例10の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は1.2μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は65.0個であった。
【0060】
[実施例11]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤの配合量を100質量部に減らし、アクリルゴム溶液の溶媒であるブチルセロソルブアセテートの配合量を1500質量部にして、導電塗料を調製した。得られた導電膜を実施例11の導電膜と称す。実施例11の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例11の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は2.1μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は49.0個であった。
【0061】
[実施例12]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤに代えて、後述する方法により製造された「さらに長手方向に成長させた精製銀ナノワイヤ」を使用すると共にフレーク状の銀粉末も配合して、導電塗料を調製した。すなわち、調製したアクリルゴム溶液に、さらに長手方向に成長させた精製銀ナノワイヤ66質量部と、フレーク状の銀粉末(同上)33質量部と、を添加、攪拌して導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する、さらに長手方向に成長させた精製銀ナノワイヤの質量比は2である。なお、本実施例においては、アクリルゴム溶液の溶媒であるブチルセロソルブアセテートの配合量を1500質量部とした。得られた導電膜を実施例12の導電膜と称す。実施例12の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例12の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は2.5μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は55.0個であった。また、銀ナノワイヤの長手方向の平均長さは8320nm、短手方向の平均長さは52nmであった。
【0062】
以下、さらに長手方向に成長させた精製銀ナノワイヤの製造方法を説明する。まず、硝酸銀(AgNO)12.99gをエチレングリコール497.7gに溶解したAgNO溶液、ワイヤ発生剤の塩化ナトリウム(NaCl)をエチレングリコールに溶解したNaCl溶液(NaCl濃度:0.1mol/L)、および成長方向制御剤のポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)(重量平均分子量55,000)22.5gをエチレングリコール449.7gに溶解したポリビニルピロリドン溶液を、各々調製した。次に、AgNO溶液をポリビニルピロリドン溶液に加え、撹拌しながらさらにNaCl溶液を50.3g加えた。そのまま室温下で40分間撹拌を続けた後、AgNO溶液、ポリビニルピロリドン溶液、およびNaCl溶液の混合液を、130℃に加熱した反応釜に120mL/分の速度で撹拌しながら加えた。そのまま130℃下で1時間撹拌を続けた後、硝酸銀36.4gをエチレングリコール174.4gに溶解したAgNO溶液、およびポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)(同上)8.82gをエチレングリコール174.4gに溶解したポリビニルピロリドン溶液を、各々1mL/分の速度で撹拌しながら加えた。それから4時間撹拌を続けた後、反応を終了して、混合液の白濁を確認した。反応後の混合液を水冷した後、混合液にアセトンを加えて静置した。上澄み液を除去して、沈殿した固形物(銀ナノワイヤ)を回収した。
【0063】
続いて、得られた銀ナノワイヤの洗浄処理を行った。まず、回収した銀ナノワイヤにイソプロピルアルコールを加えて、銀ナノワイヤ分散液を調製した。次に、分散液を80℃に加熱して、20分間撹拌した(加熱撹拌処理)。分散液を放冷した後、アセトンを加えて静置した。上澄み液を除去して、沈殿した銀ナノワイヤを回収した。回収した銀ナノワイヤに対して、上記同様の加熱撹拌処理を二回行い、精製された銀ナノワイヤを得た。洗浄処理後の銀ナノワイヤ(さらに長手方向に成長させた精製銀ナノワイヤ)を、上述した方法と同じ方法で熱重量分析したところ、金属分は、88.4質量%であった。
【0064】
[実施例13]
実施例12の導電膜の製造において、フレーク状の銀粉末を配合しないで、導電塗料を調製した。得られた導電膜を実施例13の導電膜と称す。実施例13の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例13の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は2.0μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は39.0個であった。
【0065】
[比較例1]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤに代えて、フレーク状の銀粉末(同上)を300質量部配合して、導電塗料を調製した。なお、本比較例においては、アクリルゴム溶液の溶媒であるブチルセロソルブアセテートの配合量を、300質量部とした。得られた導電膜を比較例1の導電膜と称す。
【0066】
比較例1の導電膜の断面をSEMにて観察した。図5に、比較例1の導電膜の断面のSEM写真を示す。図5に示すように、アクリルゴム中には、フレーク状の銀粒子が分散している。
【0067】
[比較例2]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤに代えて、未精製銀ナノワイヤを300質量部配合して、導電塗料を調製した。得られた導電膜を比較例2の導電膜と称す。
【0068】
比較例2の導電膜の断面をSEMにて観察した。図6に、比較例2の導電膜の断面のSEM写真を示す。図6に示すように、銀ナノワイヤが多数凝集して形成された凝集塊が、SEM写真の左半分を占めている。銀ナノワイヤのワイヤ束部は、ほとんど見られない。
【0069】
[比較例3]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤの配合量を200質量部に減らすと共に、アクリルゴム溶液の溶媒を、ブチルセロソルブアセテートからイソパラフィン系炭化水素(同上)に変更して、導電塗料を調製した。得られた導電膜を比較例3の導電膜と称す。比較例3の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、銀ナノワイヤが多数凝集して形成された凝集塊が観察された。
【0070】
<評価>
実施例および比較例の各導電膜について、導電特性を評価した。
【0071】
[評価方法]
(1)体積抵抗率
実施例および比較例の各導電膜の体積抵抗率を、抵抗率計((株)三菱化学アナリテック製「ロレスタ(登録商標)GP」を用いて測定した。
【0072】
(2)伸縮に対する導電性維持力
まず、実施例および比較例の各導電膜から、JIS K6251(2010)に規定されているダンベル状2号形の試験片を作製した。試験片(導電膜)は、基材のポリウレタンシート上に配置されている。次に、未伸張状態(自然状態)における試験片の長さ方向両端部間の電気抵抗を、計測システム(日本ナショナルインスツルメンツ(株)製「PXIe−1071/PXI−2530B」)を用いて測定した。続いて、試験片の長さ方向両端部を基材と共に把持具で把持し、一方の端部を固定した状態で他方の端部を水平方向に往復動して、試験片を伸縮させた。伸張時の試験片の伸び率は40%、伸縮回数は5500回とした。試験片の伸び率は、次式(1)により算出した値である。
伸び率(%)=(ΔL/L)×100・・・(1)
[L:試験片の標線間距離、ΔL:試験片の標線間距離の伸張による増加分]
試験片を伸張するごとに、試験片の長さ方向両端部間の電気抵抗を計測システム(同上)により測定し、伸縮時における最大抵抗値を求めた。そして、最大抵抗値を未伸張状態の抵抗値で除することにより、電気抵抗の増加率を算出した。
【0073】
[評価結果]
表1および表2に、実施例の導電膜の評価結果を示す。表3に、比較例の導電膜の評価結果を示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0074】
表1、表2に示すように、ワイヤ束部の分散構造を有する実施例1〜13の導電膜においては、いずれも体積抵抗率が小さく、伸縮を繰り返した場合の電気抵抗の増加率も100倍以内であった。特に、金属フィラーとして銀ナノワイヤのみを含む実施例1、7、11、13の導電膜においては、ポリマーが同じでフレーク状の銀粉末を混合した導電膜と比較して、伸縮を繰り返した場合の電気抵抗の増加率が小さくなった。また、フレーク状の銀粉末を混合した実施例2〜6、8の導電膜においては、ポリマーが同じで銀ナノワイヤのみを含む導電膜と比較して、体積抵抗率が小さくなった。
【0075】
これに対して、銀ナノワイヤを含まない比較例1の導電膜においては、体積抵抗率は最も小さかったが、伸縮を繰り返した場合の電気抵抗の増加率が500倍を超えた。すなわち、伸張時に電気抵抗が大幅に増加した。また、未精製銀ナノワイヤを含む比較例2の導電膜においては、銀ナノワイヤが凝集していまい、ワイヤ束部の分散構造を実現することができなかった。このため、伸縮を繰り返した場合の電気抵抗の増加率が100倍を超えた。また、比較例3の導電膜においては、精製銀ナノワイヤを含むにも関わらず、ワイヤ束部の分散構造を実現することができなかった。比較例3の導電膜においては、アクリルゴム溶液の溶媒として、ポリビニルピロリドンと相溶性が低いイソパラフィン系炭化水素を用いた。精製銀ナノワイヤの表面には、若干ポリビニルピロリドンが残存しているため、イソパラフィン系炭化水素を溶媒とする導電塗料において、銀ナノワイヤが凝集しやすくなったと考えられる。
【0076】
以上より、本発明の導電性材料は、導電性に優れ、伸縮を繰り返しても電気抵抗が増加しにくいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の導電性材料は、柔軟なトランスデューサの電極、配線材料に好適である。また、ロボットや産業用機械の可動部の制御、ウェアラブルデバイス、屈曲可能なディスプレイ等に使用されるフレキシブル配線板の配線材料に好適である。さらに、変形を伴う部位に配置される電磁波シールド、導電性接着剤としても好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6