【実施例】
【0044】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0045】
<銀ナノワイヤの製造>
まず、硝酸銀(AgNO
3)12.99gをエチレングリコール497.7gに溶解したAgNO
3溶液、ワイヤ発生剤の塩化ナトリウム(NaCl)をエチレングリコールに溶解したNaCl溶液(NaCl濃度:0.1mol/L)、および成長方向制御剤のポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)(重量平均分子量55,000)22.5gをエチレングリコール449.7gに溶解したポリビニルピロリドン溶液を、各々調製した。次に、AgNO
3溶液をポリビニルピロリドン溶液に加え、撹拌しながらさらにNaCl溶液を100.5g加えた。そのまま室温下で40分間撹拌を続けた後、AgNO
3溶液、ポリビニルピロリドン溶液、およびNaCl溶液の混合液を、130℃に加熱したエチレングリコール826.4gに、300mL/分の速度で撹拌しながら加えた。そして、130℃下で撹拌しながら2.5時間反応させた。それから、175℃まで昇温し、昇温開始から2.5時間後に反応を終了して、混合液の白濁を確認した。反応後の混合液を水冷した後、混合液にアセトンを加えて静置した。上澄み液を除去して、沈殿した固形物(銀ナノワイヤ)を回収した。
【0046】
続いて、得られた銀ナノワイヤの洗浄処理を行った。まず、回収した銀ナノワイヤにイソプロピルアルコールを加えて、銀ナノワイヤ分散液を調製した。次に、分散液を80℃に加熱して、20分間撹拌した(加熱撹拌処理)。分散液を放冷した後、アセトンを加えて静置した。上澄み液を除去して、沈殿した銀ナノワイヤを回収した。回収した銀ナノワイヤに対して、上記同様の加熱撹拌処理を二回行い、精製された銀ナノワイヤを得た。洗浄処理後の銀ナノワイヤ(以下、「精製銀ナノワイヤ」と称す)を熱重量分析したところ、金属分は、98.4質量%であった。一方、洗浄処理前の銀ナノワイヤ(以下、「未精製銀ナノワイヤ」と称す)を熱重量分析したところ、金属分は、74.8質量%であった。熱重量分析においては、銀ナノワイヤの約5mgを室温から1000℃まで20℃/分の速度で昇温し、加熱前後の質量変化を測定した。
【0047】
<導電性材料の製造>
[実施例1]
ポリマーがアクリルゴムである導電性材料を製造した。まず、n−ブチルアクリレート(98質量%)と2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2質量%)との共重合体であるヒドロキシル基含有アクリルゴムポリマー(Tg:−35℃、重量平均分子量90万程度)100質量部と、架橋剤のエチレンジアミン0.1質量部と、をロール練り機にて混合し、アクリルゴム組成物を調製した。続いて、調製したアクリルゴム組成物を、ブチルセロソルブアセテート(大伸化学(株)製)2300質量部に溶解させて、アクリルゴム溶液を調製した。このアクリルゴム溶液に、精製銀ナノワイヤ300質量部を添加、攪拌して導電塗料を調製した。次に、調製した導電塗料を基材のポリウレタンシート表面にバーコート法により塗布し、150℃で2時間乾燥させて、導電膜を製造した。得られた導電膜を実施例1の導電膜と称す。実施例1の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。
【0048】
実施例1の導電膜の断面をSEMにて観察した。
図3に、実施例1の導電膜の断面のSEM写真を示す。
図3中、実線で囲んで示すように、アクリルゴム中には、複数の銀ナノワイヤが集まったワイヤ束部が多数存在している。ワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤは、200nm未満の距離で隣接または接触している。ワイヤ束部は、3μm未満の間隔で、アクリルゴム中に分散している。SEM写真によると、隣接するワイヤ束部の最大距離は、0.5μmであった。一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は40.7個であった。銀ナノワイヤの長手方向の平均長さは1364nm、短手方向の平均長さは39nmであった。いずれの平均長さも、銀ナノワイヤ20個の算術平均値である(以下同じ)。
【0049】
[実施例2]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤの配合量を200質量部に減らし、その分、フレーク状の銀粉末(福田金属箔粉工業(株)製「Ag−XF301」、平均粒子径5.5μm、平均アスペクト比25)を100質量部配合して、導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は2である。得られた導電膜を実施例2の導電膜と称す。実施例2の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。
【0050】
実施例2の導電膜の断面をSEMにて観察した。
図4に、実施例2の導電膜の断面のSEM写真を示す。
図4に示すように、アクリルゴム中には、複数の銀ナノワイヤが集まったワイヤ束部(実線で囲んで示す)と、フレーク状の銀粒子と、が存在している。ワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤは、200nm未満の距離で隣接または接触している。ワイヤ束部は、3μm未満の間隔で、アクリルゴム中に分散している。SEM写真によると、隣接するワイヤ束部の最大距離は、0.5μmであった。一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は44.7個であった。
【0051】
[実施例3]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤの配合量を100質量部に減らし、その分、フレーク状の銀粉末(同上)を200質量部配合して、導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は0.5である。なお、本実施例においては、アクリルゴム溶液の溶媒であるブチルセロソルブアセテートの配合量を、1800質量部とした。得られた導電膜を実施例3の導電膜と称す。実施例3の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例3の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は1.2μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は70.3個であった。
【0052】
[実施例4]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤの配合量を200質量部に減らし、フレーク状の銀粉末(同上)を50質量部配合して、導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は4である。得られた導電膜を実施例4の導電膜と称す。実施例4の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例4の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は0.5μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は50.6個であった。
【0053】
[実施例5]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤの配合量を100質量部に減らし、フレーク状の銀粉末(同上)を250質量部配合して、導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は0.4である。得られた導電膜を実施例5の導電膜と称す。実施例5の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例5の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は1.7μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は74.6個であった。
【0054】
[実施例6]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤの配合量を50質量部に減らし、フレーク状の銀粉末(同上)を250質量部配合して、導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は0.2である。得られた導電膜を実施例6の導電膜と称す。実施例6の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例6の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は2.8μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は80.3個であった。
【0055】
[実施例7]
ポリマーがポリエステル樹脂である導電膜を製造した。まず、ポリエステル樹脂(ユニチカ(株)製「エリーテル(登録商標)EU3220」、Tg:5℃)100質量部を、イソホロン(大伸化学(株)製)2300質量部に溶解させて、ポリエステル樹脂溶液を調製した。このポリエステル樹脂溶液に、精製銀ナノワイヤ200質量部を添加、攪拌して導電塗料を調製した。次に、調製した導電塗料を基材のポリウレタンシート表面にバーコート法により塗布し、150℃で2時間乾燥させて、導電膜を製造した。得られた導電膜を実施例7の導電膜と称す。実施例7の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例7の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は0.6μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は46.2個であった。
【0056】
[実施例8]
実施例7の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤに加えて、フレーク状の銀粉末(同上)を100質量部配合して、導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は2である。なお、本実施例においては、ポリエステル樹脂溶液の溶媒を、ブチルセロソルブアセテート(同上)に変更した。得られた導電膜を実施例8の導電膜と称す。実施例8の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例8の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は0.7μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は47.8個であった。
【0057】
[実施例9]
架橋剤を変更し、導電塗料の調製方法を変更した以外は、実施例2の導電膜と同様にして、導電膜を製造した。まず、n−ブチルアクリレートと2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体であるヒドロキシル基含有アクリルゴムポリマー(同上)100質量部を、ブチルセロソルブアセテート(同上)2300質量部に溶解させて、アクリルゴム溶液を調製した。次に、調製したアクリルゴム溶液に、架橋剤のヘキサメチレンジイソシアネート3質量部と、精製銀ナノワイヤ200質量部と、フレーク状の銀粉末(同上)100質量部と、を添加、攪拌して導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は2である。得られた導電膜を実施例9の導電膜と称す。実施例9の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。
【0058】
実施例9の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は0.7μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は41.6個であった。
【0059】
[実施例10]
ポリマーがシリコーンゴム(Tg:−120℃)である導電膜を製造した。まず、シリコーンゴムポリマー(信越化学工業(株)製、二液型液状シリコーン「KE1935」)100質量部を、イソパラフィン系炭化水素(出光興産(株)製「IPソルベント2028」)1000質量部に溶解させて、シリコーン溶液を調製した。このシリコーン溶液に、実施例2の導電膜と同様に精製銀ナノワイヤ200質量部と、フレーク状の銀粉末(同上)100質量部と、を添加、攪拌して導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する精製銀ナノワイヤの質量比は2である。次に、調製した導電塗料を基材のポリウレタンシート表面にバーコート法により塗布し、150℃で2時間乾燥させて、導電膜を製造した。得られた導電膜を実施例10の導電膜と称す。実施例10の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例10の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は1.2μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は65.0個であった。
【0060】
[実施例11]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤの配合量を100質量部に減らし、アクリルゴム溶液の溶媒であるブチルセロソルブアセテートの配合量を1500質量部にして、導電塗料を調製した。得られた導電膜を実施例11の導電膜と称す。実施例11の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例11の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は2.1μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は49.0個であった。
【0061】
[実施例12]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤに代えて、後述する方法により製造された「さらに長手方向に成長させた精製銀ナノワイヤ」を使用すると共にフレーク状の銀粉末も配合して、導電塗料を調製した。すなわち、調製したアクリルゴム溶液に、さらに長手方向に成長させた精製銀ナノワイヤ66質量部と、フレーク状の銀粉末(同上)33質量部と、を添加、攪拌して導電塗料を調製した。フレーク状の銀粉末に対する、さらに長手方向に成長させた精製銀ナノワイヤの質量比は2である。なお、本実施例においては、アクリルゴム溶液の溶媒であるブチルセロソルブアセテートの配合量を1500質量部とした。得られた導電膜を実施例12の導電膜と称す。実施例12の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例12の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は2.5μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は55.0個であった。また、銀ナノワイヤの長手方向の平均長さは8320nm、短手方向の平均長さは52nmであった。
【0062】
以下、さらに長手方向に成長させた精製銀ナノワイヤの製造方法を説明する。まず、硝酸銀(AgNO
3)12.99gをエチレングリコール497.7gに溶解したAgNO
3溶液、ワイヤ発生剤の塩化ナトリウム(NaCl)をエチレングリコールに溶解したNaCl溶液(NaCl濃度:0.1mol/L)、および成長方向制御剤のポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)(重量平均分子量55,000)22.5gをエチレングリコール449.7gに溶解したポリビニルピロリドン溶液を、各々調製した。次に、AgNO
3溶液をポリビニルピロリドン溶液に加え、撹拌しながらさらにNaCl溶液を50.3g加えた。そのまま室温下で40分間撹拌を続けた後、AgNO
3溶液、ポリビニルピロリドン溶液、およびNaCl溶液の混合液を、130℃に加熱した反応釜に120mL/分の速度で撹拌しながら加えた。そのまま130℃下で1時間撹拌を続けた後、硝酸銀36.4gをエチレングリコール174.4gに溶解したAgNO
3溶液、およびポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)(同上)8.82gをエチレングリコール174.4gに溶解したポリビニルピロリドン溶液を、各々1mL/分の速度で撹拌しながら加えた。それから4時間撹拌を続けた後、反応を終了して、混合液の白濁を確認した。反応後の混合液を水冷した後、混合液にアセトンを加えて静置した。上澄み液を除去して、沈殿した固形物(銀ナノワイヤ)を回収した。
【0063】
続いて、得られた銀ナノワイヤの洗浄処理を行った。まず、回収した銀ナノワイヤにイソプロピルアルコールを加えて、銀ナノワイヤ分散液を調製した。次に、分散液を80℃に加熱して、20分間撹拌した(加熱撹拌処理)。分散液を放冷した後、アセトンを加えて静置した。上澄み液を除去して、沈殿した銀ナノワイヤを回収した。回収した銀ナノワイヤに対して、上記同様の加熱撹拌処理を二回行い、精製された銀ナノワイヤを得た。洗浄処理後の銀ナノワイヤ(さらに長手方向に成長させた精製銀ナノワイヤ)を、上述した方法と同じ方法で熱重量分析したところ、金属分は、88.4質量%であった。
【0064】
[実施例13]
実施例12の導電膜の製造において、フレーク状の銀粉末を配合しないで、導電塗料を調製した。得られた導電膜を実施例13の導電膜と称す。実施例13の導電膜は、本発明の導電性材料に含まれる。実施例13の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、ワイヤ束部の分散構造が確認された。隣接するワイヤ束部の最大距離は2.0μmであり、一つのワイヤ束部を構成する銀ナノワイヤの平均個数は39.0個であった。
【0065】
[比較例1]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤに代えて、フレーク状の銀粉末(同上)を300質量部配合して、導電塗料を調製した。なお、本比較例においては、アクリルゴム溶液の溶媒であるブチルセロソルブアセテートの配合量を、300質量部とした。得られた導電膜を比較例1の導電膜と称す。
【0066】
比較例1の導電膜の断面をSEMにて観察した。
図5に、比較例1の導電膜の断面のSEM写真を示す。
図5に示すように、アクリルゴム中には、フレーク状の銀粒子が分散している。
【0067】
[比較例2]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤに代えて、未精製銀ナノワイヤを300質量部配合して、導電塗料を調製した。得られた導電膜を比較例2の導電膜と称す。
【0068】
比較例2の導電膜の断面をSEMにて観察した。
図6に、比較例2の導電膜の断面のSEM写真を示す。
図6に示すように、銀ナノワイヤが多数凝集して形成された凝集塊が、SEM写真の左半分を占めている。銀ナノワイヤのワイヤ束部は、ほとんど見られない。
【0069】
[比較例3]
実施例1の導電膜の製造において、精製銀ナノワイヤの配合量を200質量部に減らすと共に、アクリルゴム溶液の溶媒を、ブチルセロソルブアセテートからイソパラフィン系炭化水素(同上)に変更して、導電塗料を調製した。得られた導電膜を比較例3の導電膜と称す。比較例3の導電膜の断面をSEMにて観察したところ、銀ナノワイヤが多数凝集して形成された凝集塊が観察された。
【0070】
<評価>
実施例および比較例の各導電膜について、導電特性を評価した。
【0071】
[評価方法]
(1)体積抵抗率
実施例および比較例の各導電膜の体積抵抗率を、抵抗率計((株)三菱化学アナリテック製「ロレスタ(登録商標)GP」を用いて測定した。
【0072】
(2)伸縮に対する導電性維持力
まず、実施例および比較例の各導電膜から、JIS K6251(2010)に規定されているダンベル状2号形の試験片を作製した。試験片(導電膜)は、基材のポリウレタンシート上に配置されている。次に、未伸張状態(自然状態)における試験片の長さ方向両端部間の電気抵抗を、計測システム(日本ナショナルインスツルメンツ(株)製「PXIe−1071/PXI−2530B」)を用いて測定した。続いて、試験片の長さ方向両端部を基材と共に把持具で把持し、一方の端部を固定した状態で他方の端部を水平方向に往復動して、試験片を伸縮させた。伸張時の試験片の伸び率は40%、伸縮回数は5500回とした。試験片の伸び率は、次式(1)により算出した値である。
伸び率(%)=(ΔL
0/L
0)×100・・・(1)
[L
0:試験片の標線間距離、ΔL
0:試験片の標線間距離の伸張による増加分]
試験片を伸張するごとに、試験片の長さ方向両端部間の電気抵抗を計測システム(同上)により測定し、伸縮時における最大抵抗値を求めた。そして、最大抵抗値を未伸張状態の抵抗値で除することにより、電気抵抗の増加率を算出した。
【0073】
[評価結果]
表1および表2に、実施例の導電膜の評価結果を示す。表3に、比較例の導電膜の評価結果を示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0074】
表1、表2に示すように、ワイヤ束部の分散構造を有する実施例1〜13の導電膜においては、いずれも体積抵抗率が小さく、伸縮を繰り返した場合の電気抵抗の増加率も100倍以内であった。特に、金属フィラーとして銀ナノワイヤのみを含む実施例1、7、11、13の導電膜においては、ポリマーが同じでフレーク状の銀粉末を混合した導電膜と比較して、伸縮を繰り返した場合の電気抵抗の増加率が小さくなった。また、フレーク状の銀粉末を混合した実施例2〜6、8の導電膜においては、ポリマーが同じで銀ナノワイヤのみを含む導電膜と比較して、体積抵抗率が小さくなった。
【0075】
これに対して、銀ナノワイヤを含まない比較例1の導電膜においては、体積抵抗率は最も小さかったが、伸縮を繰り返した場合の電気抵抗の増加率が500倍を超えた。すなわち、伸張時に電気抵抗が大幅に増加した。また、未精製銀ナノワイヤを含む比較例2の導電膜においては、銀ナノワイヤが凝集していまい、ワイヤ束部の分散構造を実現することができなかった。このため、伸縮を繰り返した場合の電気抵抗の増加率が100倍を超えた。また、比較例3の導電膜においては、精製銀ナノワイヤを含むにも関わらず、ワイヤ束部の分散構造を実現することができなかった。比較例3の導電膜においては、アクリルゴム溶液の溶媒として、ポリビニルピロリドンと相溶性が低いイソパラフィン系炭化水素を用いた。精製銀ナノワイヤの表面には、若干ポリビニルピロリドンが残存しているため、イソパラフィン系炭化水素を溶媒とする導電塗料において、銀ナノワイヤが凝集しやすくなったと考えられる。
【0076】
以上より、本発明の導電性材料は、導電性に優れ、伸縮を繰り返しても電気抵抗が増加しにくいことが確認された。