特許第5876620号(P5876620)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5876620脊髄投与のためのアセトアミノフェン注入用溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5876620
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】脊髄投与のためのアセトアミノフェン注入用溶液
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/167 20060101AFI20160218BHJP
   A61K 31/245 20060101ALI20160218BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20160218BHJP
   A61P 23/02 20060101ALI20160218BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20160218BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   A61K31/167
   A61K31/245
   A61P29/00
   A61P23/02
   A61K9/08
   A61K45/00
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-519450(P2015-519450)
(86)(22)【出願日】2013年6月27日
(65)【公表番号】特表2015-522004(P2015-522004A)
(43)【公表日】2015年8月3日
(86)【国際出願番号】IB2013055277
(87)【国際公開番号】WO2014002042
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2015年7月3日
(31)【優先権主張番号】MI2012A001154
(32)【優先日】2012年6月29日
(33)【優先権主張国】IT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508069051
【氏名又は名称】シンテティカ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100130029
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 道雄
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(72)【発明者】
【氏名】ミティディエリ アウグストロ
(72)【発明者】
【氏名】ドナティ エリザベッタ
(72)【発明者】
【氏名】カロンゾロ ニコラ
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/001494(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第01752139(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/80
A61K 9/00−9/72
A61K 45/00−45/08
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊髄投与による鎮痛用途のための安定なアセトアミノフェン過飽和注入用水溶液であって、前記過飽和注入用水溶液が、脱気されているか又は酸素若しくは空気を実質的に含んでいない溶媒を含み、アセトアミノフェンを1.8%w/v以上の濃度で含む、アセトアミノフェン過飽和注入用水溶液。
【請求項2】
前記アセトアミノフェンの濃度が1.8〜8.0%w/vである、請求項1に記載されるアセトアミノフェン過飽和注入用水溶液。
【請求項3】
前記注入用水溶液が、保存剤、及び/又は添加剤及び/又は共溶媒を実質的に含んでいない、請求項1又は2に記載されるアセトアミノフェン過飽和注入用水溶液。
【請求項4】
不活性ガスの流れにより水を脱気し、ここにアセトアミノフェンを過飽和溶液を与える量で溶解させることによって得られる、請求項1に記載されるアセトアミノフェン過飽和注入用水溶液。
【請求項5】
手術後の痛みの治療における請求項1〜4のいずれか1項に記載されるアセトアミノフェン過飽和水溶液。
【請求項6】
局所麻酔薬との同時、個別又は逐次的な脊髄投与を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載されるアセトアミノフェン過飽和水溶液。
【請求項7】
前記アセトアミノフェンの溶液が、脊髄投与のための局所麻酔薬の溶液に加えられるか又は該局所麻酔薬の溶液と混合される、請求項6に記載されるアセトアミノフェン過飽和水溶液。
【請求項8】
前記局所麻酔薬が、リドカイン、アルチカイン、オキシブプロカイン、クロロプロカインから選択される短時間作用局所麻酔薬、又はプリロカイン、メピバカイン、エチドカインから選択される中間作用局所麻酔薬、又はロピバカイン、ブピバカイン、シンコカイン、レボブピバカイン、プロキシメタカイン、テトラカインから選択される長時間作用局所麻酔薬である、請求項6又は7に記載されるアセトアミノフェン過飽和水溶液。
【請求項9】
鎮痛・麻酔複合治療のための、請求項6に記載されるアセトアミノフェン過飽和水溶液。
【請求項10】
アセトアミノフェンの鎮痛効果は、持続時間が前記局所麻酔薬の鎮痛効果よりも長い、請求項6に記載されるアセトアミノフェン過飽和水溶液。
【請求項11】
前記局所麻酔薬及びアセトアミノフェンが、該局所麻酔薬によって生じる麻酔効果が終わっても鎮痛効果を発揮する、請求項6に記載されるアセトアミノフェン過飽和水溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊髄投与のためのアセトアミノフェン注入用溶液に関するものである。
【0002】
本発明は、脊髄投与に適した液体形態の薬の分野が起源である。
【0003】
より具体的に、本発明は、脊髄投与による手術後の痛みの治療のための活性成分としてアセトアミノフェンを含有する注入用医薬品製剤に関するものである。
【背景技術】
【0004】
アセトアミノフェン(アセチル−p−アミノフェノール)は、パラセタモール(CAS番号:103−90−2)として一般に知られており、医療行為に広く使用される鎮痛及び解熱活性を持つ活性成分であって、急性及び慢性疼痛を軽減したり、体温が生理値を超える場合にこれを下げたりする。
【0005】
パラセタモールは、一般的に使用される鎮痛剤の大部分とは反対に、抗凝集及び抗炎症活性をほとんど持っていないので、NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)ではない。この分子を1878年に初めて合成し、その医療分野での使用を100年以上かけて確立したが、その作用機構については今までほとんど知られないままである。
【0006】
臨床分野において、アセトアミノフェンは、根本的に、軽い中程度の痛みの治療における鎮痛剤として、また、大人及び子供の発熱状態の治療における解熱剤として使用される。
【0007】
この活性成分に最も一般的な医薬品形態は固形である。最も典型的なパラセタモール系医薬品製剤は、固体の錠剤、顆粒又は坐薬の形態である。また、静脈内注射用の溶液形態であるアセトアミノフェンを含有する製剤も市場では見られる。これらは、中程度の痛み、特には外科的介入を受けて経験するタイプの痛みの短期治療に用いられる製剤である。静脈内投与は、臨床的観点から緊急の場合の痛み及び/又は高熱を治療する必要がある場合や、他の投与法を実行することが不可能である場合に準備される。
【0008】
伝統的な方法に代わる方法によってアセトアミノフェンを投与することは、広範囲に亘って未だ調査されておらず、鎮痛療法の分野における明確な適用は本質的に見出されていない。
【0009】
アセトアミノフェンは麻酔作用を持っていないため、脊髄麻酔等の全体的、局所的又は局所領域の麻酔の分野において未だ使用されていない。脊髄麻酔は、局所麻酔活性を持つ活性成分を含有する注入用溶液を、硬膜、即ち脊髄を保護する外側髄膜を通して、その髄管中に注入される麻酔技術である。脊髄注入は、通常、高い能力のある医療関係者によって、通常腰髄領域の、2つの椎骨の棘突起間で、細長い特定の針を用いて行われる。
【0010】
局所麻酔活性を持つ活性成分を含有する溶液は、インサイチュウで一度注入されると、脳脊髄液、即ち脊髄を浸けている脊髄と硬膜間に位置する体液と混ざる。脊髄注入の間、神経障害を引き起こす危険は、脊柱が髄膜の最内部にある軟膜によって保護されるという事実によって制限される。
【0011】
注入過程の間、局所麻酔薬を含有する溶液は、脳脊髄液と混ざり、それ故に神経系を経由した脳へのインパルスの伝導をブロックし、運動麻痺を伴う場合もある感度の可逆的な喪失を引き起こす。それ故、麻酔は、運動神経が始まる脊髄の前方部分と、感覚神経が入る後方部分の両方から実行される。次いで、麻酔薬を含有する溶液の投与は、問題になっている神経根から神経支配された領域の感度の欠如と、同時に筋肉及び感覚の活動の阻害とを引き起こす。
【0012】
一般に、脊髄麻酔は、小骨盤の器官及び下肢での介入に使用される。局所麻酔が使用される典型的な例としては、虫垂切除、ヘルニア根治術、帝王切開、関節鏡検査、下肢の整形外科手術等がある。
【0013】
脊髄麻酔技術の中では、硬膜外注射と髄腔内(IT)注射の間で区別できている。後者のケースでは、局所麻酔薬を含有する溶液を、くも膜下腔として知られるところに注入する。
【0014】
髄腔内技術は、注入が脊椎の深い領域で行われるため、硬膜外技術よりも浸潤性が高い一方で、局所麻酔薬の比較できるほどに低い用量を必要とする利点がある。この側面は、局所麻酔薬が特定の神経毒性を有するため、一般に利点を構成する。
【0015】
使用される局所麻酔薬に応じて、脊髄麻酔は、およそ1時間から3時間持続することができる。この作用が終わった時点で、患者は徐々に運動性及び感度を取り戻す;外科的処置の影響により時間が経過するにつれて痛みの認識は増加する。
【0016】
それ故に、局所麻酔薬の鎮痛作用は、基本的に、外科的介入の期間に限定されている。そのため、手術直後の期間における適切な鎮痛療法を確立することが不可欠である。外科的介入を受けた最初の1時間で、全身性疼痛の感覚は、創傷領域に局在し、実際には特に強いものであり、それ故に、効果的で且つ迅速な鎮痛療法を確立することが必要である。
【0017】
しかしながら、医療行為において観察されるのは、手術後の適切な鎮痛効果を得るため、多量の鎮痛剤を投与したり又はオピオイド薬の投与を用いたりすることを必要とするということである。
【0018】
これらの治療的アプローチは両方とも、投与される薬の種類及び量に応じて異なる一連の起こり得る副作用を患者に受けさせるだけでなく、多くの場合で、適切な鎮痛反応を提供しない。
【0019】
それ故に、現在では、局所麻酔効果が低下したり又は終わったりしたときに効果的な鎮痛作用を提供するため、局所又は局所領域の麻酔と適合する新しい鎮痛療法を提供することが必要である。
【発明の概要】
【0020】
それ故に、本発明の目的の1つは、手術後の急性疼痛の場合に効果的な鎮痛作用を得ることが可能である脊髄投与のための医薬品製剤を提供することにある。
【0021】
本発明の他の目的は、局所領域麻酔の場合の脊髄投与に適した鎮痛活性成分を含有する注入用溶液を提供することにあり、前述の溶液は、局所麻酔薬の作用が切れたときに患者に対して効果的で且つ長持ちする鎮痛作用を有する。
【0022】
本特許出願の発明者は、アセトアミノフェンの過飽和水溶液を脊髄経路により投与することで、副作用が実質的にない鎮痛効果の延長が驚くべきことに得られることを見出した。
【0023】
第1の態様によれば、本発明は、脊髄投与による鎮痛用途のためのアセトアミノフェン過飽和注入用溶液を提供するものであり、ここで、前述の過飽和注入用水溶液は、濃度1.3〜8%w/vのアセトアミノフェンを含む。
【0024】
濃度が1.3〜8%w/vである本発明に従うアセトアミノフェン過飽和水溶液は、18ヶ月を超える貯蔵期間の後でさえも予想外に安定している。
【0025】
本発明者は、アセトアミノフェン過飽和注入用水溶液の脊髄投与によって、予想外に長期の持続時間、典型的には24時間以上の持続時間の効果的な鎮痛効果を得ることが可能であることを見出した。特に、本発明に従うアセトアミノフェン過飽和溶液の脊髄投与は、カラギーナンによって誘発される炎症性の痛み及び手術後の痛みの場合においてマウス及びラットにおいて少なくとも24時間の効果的な鎮痛をもたらす。
【0026】
本発明者はまた、アセトアミノフェン過飽和水溶液が局所麻酔薬の通常の溶液に適合し、それ故に、脊髄投与によって同時投与できることを見出した。本発明に従う溶液は飽和アセトアミノフェン溶液よりも少ない量の溶媒を有するため、局所麻酔薬との同時投与が可能であり又はどんな場合でも容易にする。
【0027】
脊髄投与による注入用溶液の投与は、一般に制限を示す。脊髄麻酔の場合、制限された量の溶液が注入できる規定された閉鎖空間に薬がかん流されるため、第1の制限は、身体的タイプである。アセトアミノフェン超飽和溶液の場合、治療効果のある量の活性成分が同活性成分の通常の飽和溶液と比べて減少した量の溶媒中に溶解するため、この制限は克服される。
【0028】
鎮痛治療反応を得るのに必要とされる過飽和溶液の低体積は、局所麻酔溶液との同時投与を可能にする。
【0029】
例えば、硬膜下腔(髄腔内)に課せられる生理的制限を超えずに脊髄投与によって投与できる約1〜6mlの全溶液を得るため、水の量が約0.5〜1.5mlであるアセトアミノフェン過飽和溶液を、同体積の局所麻酔薬の溶液に加えることができる。
【0030】
それ故、特には局所麻酔薬が短時間作用又は中間作用麻酔薬である場合に、局所麻酔薬の活性期間より長い期間での効果的な鎮痛を得るため、アセトアミノフェン過飽和溶液を、通常の局所麻酔薬溶液に加えたり及び/又は混合したりすることができる。
【0031】
加えて、アセトアミノフェン溶液及び局所麻酔薬溶液は、物理化学的適合性が増大し、それらの溶液を同時に又は混合物として使用することが可能になる。
【0032】
本発明の第2の態様によれば、アセトアミノフェン過飽和水溶液は、局所麻酔薬との同時、個別又は逐次的な脊髄投与を含む鎮痛用途のために提供される。
【0033】
また、アセトアミノフェン過飽和水溶液の局所麻酔薬との同時、個別又は逐次的な脊髄投与は、アセトアミノフェン過飽和水溶液それ自体又は通常の局所麻酔薬との混合物としての安定性の増大によって可能になる。
【0034】
一部の実施態様においては、アセトアミノフェン過飽和溶液の脊髄投与が、痛みに気付く前に、典型的には外科的介入の前に実行される。そのアセトアミノフェンによって決定される鎮痛作用は、局所麻酔薬により生じる麻酔に対して相乗効果ではない追加のプラス効果を有する。感覚及び運動のブロック期間には変化がない。それ故に、麻酔薬の薬物動態は変化がなく、臨床行為において短時間作用麻酔薬との共同投与の場合に患者の迅速な退院を可能にする。
【0035】
本発明の第3の態様によれば、特には上述したタイプの、アセトアミノフェン過飽和水溶液の調製方法を提供する。
【0036】
本発明に従うアセトアミノフェン過飽和水溶液の調製方法では、溶媒中の酸素又は溶解空気の存在を典型的に除去し又は実質的に低減し、それ故に、アセトアミノフェン溶液の安定性の増加をもたらす。
【0037】
本発明のこの態様によれば、アセトアミノフェン過飽和溶液の調製方法は、例えば不活性ガスの流れ、典型的には窒素及び/又は不活性ガス、例えばアルゴンの流れによって脱気することによる、脱酸素水系溶媒中におけるアセトアミノフェンの溶解を含む。
【0038】
本発明に従う方法によって得られるアセトアミノフェン過飽和溶液は、非常に安定であり、溶媒中におけるアセトアミノフェン濃度が増加しており、また、単一投与過程における脊髄投与によって注入可能な量に適合する全体積の溶液を得るために通常の局所麻酔薬の溶液と混合させることができる。
【0039】
本発明の更なる態様によれば、濃度が1.3〜8%w/vであるアセトアミノフェン過飽和注入用水溶液の治療的に有効な量での脊髄注入を含む、痛み、特には手術後の急性疼痛の治療方法を提供する。アセトアミノフェン過飽和溶液の脊髄投与は、局所麻酔薬の投与と同時に、別々に又は連続して実行できる。
【0040】
一部の実施態様において、本発明に従う鎮痛療法は、痛みに気付く前に、典型的には外科的介入の前に、治療的に有効な量のアセトアミノフェン過飽和溶液の投与を含む。これらの状態においては、達成される鎮痛効果が、予想外に長期の持続時間を有しており、例えば24時間を超える。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】末梢性炎症の誘発によって引き起こされる痛覚過敏において、アセトアミノフェンをそれぞれ10及び100μg含有する2つの溶液についての経時的な鎮痛効果を説明するグラフを示す。
図2】実験用マウスの足の体積の増加として測定される、末梢性炎症によって生じる浮腫の発達を説明するグラフを示す。
図3】ラットでの手術後の疼痛のモデルにおいて200μgのアセトアミノフェンを含有する溶液についての経時的な鎮痛効果を説明するグラフを示す。
図4】アセトアミノフェン(200μg)及び3%クロロプロカイン溶液(20μL)の同時投与の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
第1の態様によれば、本発明は、脊髄投与による鎮痛用途のためのアセトアミノフェン注入用水溶液に関し、ここで、前述の注入用溶液は、過飽和しており、水中に溶解した濃度が1.3〜8%w/vであるアセトアミノフェンを都合良く含む。
【0043】
一部の実施態様によれば、アセトアミノフェン注入用水溶液は、過飽和しており、アセトアミノフェンの濃度が1.8〜8.0w/vである。
【0044】
一部の実施態様によれば、アセトアミノフェン注入用水溶液は、過飽和しており、濃度が1.3〜2.3%w/vである。
【0045】
出願人は、アセトアミノフェン過飽和溶液の使用により、髄腔内空間に投与される溶媒の量を減少でき、それ故に、通常の局所麻酔薬の注入用溶液との同時投与を可能にすることを見出した。
【0046】
濃度が1.3%以上であるアセトアミノフェンの溶液は本発明の範囲内で使用できる。これらの注入用溶液は、用途の良好な適合性及び管理容易性を提供する。
【0047】
特定の実施態様において、アセトアミノフェン過飽和溶液は、濃度が1.3〜8%w/v、1.8〜8%w/v、1.8〜3%w/v、1.3〜2.3%w/vである。
【0048】
特定の実施態様において、本発明のアセトアミノフェン過飽和溶液は、濃度が1.8%w/v以上である
【0049】
本発明の範囲内で、アセトアミノフェン溶液は、治療的に活性のある量の活性成分を投与するために実行される。
【0050】
「治療的に活性のある」との用語は、アセトアミノフェン過飽和溶液が投与される対象に有意な鎮痛反応を引き起こす用量を意味する。この用量は、患者の状態、年齢及び体重によって異なる。
【0051】
一部の実施態様によれば、アセトアミノフェンによって生じる鎮痛効果は、局所麻酔薬によって生じる麻酔に対して相乗的な作用ではない追加のプラス作用を有する。感覚及び運動のブロック期間には変化がない。それ故に、麻酔薬の薬物動態には変化がなく、ヒトの臨床行為における短時間作用麻酔薬との共同投与の場合において患者の迅速な退院を可能にする。
【0052】
本発明の範囲内で、「飽和溶液」の用語は、特定の温度、典型的には20℃に設定された温度にて可能である最大量の溶質を溶解している溶液を意味する。
【0053】
「過飽和」溶液の用語は、溶質の濃度が、水中、特には医薬用途の蒸留水中に、20℃の温度にて溶解できる濃度より大きい溶液を意味する。
【0054】
典型的に、本発明に従う過飽和溶液においては、アセトアミノフェンが、結晶化により自然発生的に分離しない過剰の溶質を表す。これは「ヒステリシス」現象であり、物理的過程において広く認識され、対照的な因子間の「衝突」によって引き起こされる。該因子には、その現象を一方向にけん引しようとするものと(例えば、過剰の溶質の結晶化を促進するであろう、熱力学)、代わりに妨害するものがある(例えば、溶液の粘度と、とりわけ結晶化を可能にする除核中心の不在であり、これらは全て結晶化過程を遅らせる因子である)。
【0055】
特に、本発明の範囲内で、「アセトアミノフェン過飽和溶液」の用語は、アセトアミノフェン濃度が20℃の温度にて水中約13mg/ml又は1.3%w/v以上である溶液を意味する。
【0056】
「アセトアミノフェン用量」の用語は、脊髄投与を経由したかん流を受けた中枢局所領域での麻酔を効果的に引き起こすことができるアセトアミノフェン及び/又はその塩若しくは誘導体の量を意味する。
【0057】
アセトアミノフェン過飽和溶液は、アセトアミノフェン濃度が、10%w/vに対応する100mg/mlより大きくなくてもよい。それを超えると、活性成分の再結晶が起こる場合がある。
【0058】
典型的に、本発明に従うアセトアミノフェン過飽和溶液は、アセトアミノフェン濃度が1.3〜2.3%である。
【0059】
本発明に従うアセトアミノフェン過飽和溶液において、溶媒相は、水系であり、典型的には無菌で、非発熱性である。
【0060】
一部の実施態様によれば、アセトアミノフェン過飽和溶液は、保存剤、及び/又は添加剤及び/又は共溶媒を実質的に含んでいない。
【0061】
一部の実施態様によれば、本発明に従う過飽和溶液は、pHが4.5〜6.5である。一部の実施態様において、このpH範囲は、適切な量の緩衝剤を加えることによって調節される。
【0062】
一部の実施態様によれば、本発明に従うアセトアミノフェン溶液は、pHが実質的に5.5に等しい。
【0063】
本発明の一部の実施態様によれば、本発明に従うアセトアミノフェン過飽和溶液は、1種以上の緩衝剤を含む。
【0064】
本発明に従う溶液のpHを所定の範囲に調節するため、脊髄投与によって注入できる溶液の製剤中に使用されるどんな緩衝剤も使用することができる。例として、適切な緩衝剤は、クエン酸等のカルボン酸、又はリン酸二水素ナトリウム(NaHPO)等のアルカリ若しくはアルカリ土類のリン酸塩又は重リン酸塩を含む。
【0065】
一部の実施態様によれば、本発明に従うアセトアミノフェン溶液は、オスモル濃度が80〜310mOsm/kgである。溶液それ自身のオスモル濃度を変更するため、等浸透圧剤を使用することができる。
【0066】
一部の実施態様において、本発明に従うアセトアミノフェン溶液は、20℃での相対密度が1.003〜1.075g/gである。
【0067】
典型的に、本発明に従うアセトアミノフェン過飽和水溶液は、痛みの治療及び/又は予防、特には手術後の鎮痛治療において使用される。例として、アセトアミノフェン過飽和溶液は、虫垂切除、ヘルニア根治術、帝王切開、関節鏡検査、下肢の整形外科手術等の外科的介入についての手術後の鎮痛療法において使用される。
【0068】
一部の実施態様においては、効果的な鎮痛効果を得るため、6〜60mg、典型的には8〜40mgの量のアセトアミノフェンが脊髄投与によって注入される。
【0069】
例として、これらの治療用量を得るため、アセトアミノフェンを1.8%w/v含有する過飽和溶液を0.5〜1.3mlの量で投与することができる。
【0070】
同等の反応を得るために他の投与方法に求められるものよりもかなり少ない量のアセトアミノフェンの脊髄投与の結果として達成される治療効果は、本発明の利点の1つを表す。
【0071】
例として、本発明に従う過飽和溶液の形態として脊髄投与によって投与されるアセトアミノフェンの有効量は、同一の鎮痛反応を得るために必要となる経口投与されるアセトアミノフェンの用量の約1/100である。実際、ヒトにおいては、24時間以内に認められる最大経口用量が4gに等しい。ヒトの臨床行為において想定される最大脊髄用量は40mgに等しく、これは肝臓病理の患者にも使用できる用量である。
【0072】
鎮痛反応を得るのに必要な活性成分の用量についてのこの大幅な低下は、薬の全身毒性及び副作用の低下の観点から、一連の利点を含む。特に、本発明に従う製剤の脊髄投与によって鎮痛効果を得るのに必要であるアセトアミノフェンの少ない用量は、アセトアミノフェンの投与に関連する肝臓毒性の危険をかなり低減する。
【0073】
加えて、適切な治療反応を得るのに必要とされるアセトアミノフェン飽和溶液の低体積は、脳脊髄液の体積における注入後の増加が生理制限内に戻るため、前述の溶液を、脊髄投与によって注入できる溶液形態の他の活性成分と混合したり又は同時に投与したりすることが可能になる。
【0074】
一部の実施態様によれば、アセトアミノフェン過飽和溶液は髄腔内に投与される。
【0075】
一部の実施態様において、本発明に従うアセトアミノフェン過飽和溶液は、水溶媒に溶解している空気又は酸素の含有量が200ppb未満である。
【0076】
酸素のかなりの欠如は、本発明に従うアセトアミノフェン溶液の安定性を増大し、それを長期間保存することを可能にし、最大で18ヶ月を超える。また、その安定性は、4℃、40℃及び60℃で研究を行うことで低温及び高温でも確認され、その溶液自体はそれぞれ少なくとも3、6、3ヶ月間安定であることが実証された。
【0077】
一部の実施態様において、アセトアミノフェン過飽和溶液は、脱酸素水を溶媒として含有する。
【0078】
本発明の第2の態様によれば、窒素のフラッシングによる脱酸素水中において13mg/ml(1.3%w/v)以上の量のアセトアミノフェンの可溶化を含む、アセトアミノフェン過飽和溶液の調製方法を提供する。
【0079】
一部の実施態様において、本発明に従う溶液の調製方法は、注入による水とアセトアミノフェンとの窒素雰囲気下又は窒素流れの存在下における混合を含み、ここで、アセトアミノフェンは、アセトアミノフェン過飽和薬用溶液を与えるための量で提供される。
【0080】
特定の実施態様によれば、本発明のアセトアミノフェン溶液の調製方法は、酸素の除去工程又は溶媒、典型的には水の脱気工程を含む。
【0081】
一部の実施態様において、酸素の除去又は水の脱気は、不活性ガス、典型的には窒素及び/又は希ガス、例えばアルゴンによる水の処理工程を含む。
【0082】
一部の実施態様によれば、アセトアミノフェン過飽和溶液を製造する方法は、以下の工程を含む:
a)好都合なことには窒素流れの通過による、脱酸素化又は脱気した水中におけるアセトアミノフェンの溶解
b)窒素流れにおける得られたアセトアミノフェン溶液のろ過
c)窒素流れにおけるその溶液の分配
d)その溶液の滅菌
【0083】
一部の実施態様において、工程a)は、室温より高い温度、例えば55〜70℃で行われ、アセトアミノフェンの過飽和溶液を作る。
【0084】
本方法の一部の実施態様によれば、前述の水溶液のpHを例えば4.5〜6.5に調節するため、水中におけるアセトアミノフェンの溶解についての最初の工程において、1種以上の緩衝剤、典型的にはクエン酸及び/又はリン酸二水素ナトリウムを加える。
【0085】
一部の実施態様によれば、アセトアミノフェン溶液のろ過についての工程b)は、滅菌フィルタによって行われる。工程b)は、周囲温度より高い温度、例えば70〜80℃にて行うことができる。
【0086】
一部の実施態様において、分配の工程c)は、室温より高い温度、例えば55〜75℃にて行われる。
【0087】
一部の実施態様によれば、アセトアミノフェン溶液の滅菌についての工程d)は、典型的には、滅菌に適した期間、例えば15分以上の間、100℃を超える温度への、加熱によって行われる。
【0088】
一部の実施態様によれば、本発明のアセトアミノフェン過飽和溶液は、以下に示す工程を含む方法によって得られる:
a)例えば、室温より高い温度、好都合なことには55〜70℃での窒素流れにおいて脱気することによる、脱酸素水中におけるアセトアミノフェンの溶解
b)室温より高い温度、例えば70〜80℃での窒素流れにおけるその溶液のろ過
c)室温より高い温度、例えば55〜75℃での窒素流れにおけるその溶液の分配
【0089】
一部の実施態様によれば、溶液の安定性を落とし得る酸化現象を防ぐため、不活性ガス、典型的には窒素の存在下、適切な滅菌バイアル中にアセトアミノフェン過飽和溶液を詰める。
【0090】
本発明の第3の態様によれば、局所麻酔薬との同時、個別又は逐次的な脊髄投与を含む鎮痛用途のためのアセトアミノフェン過飽和水溶液を提供する。
【0091】
他の態様によれば、本発明は、先に記載される実施態様のいずれか1つに従うアセトアミノフェン過飽和溶液の脊髄投与を含む鎮痛療法を提供する。
【0092】
出願人によって行われた動物モデルに関する実験結果は、先に記載したタイプの、パラセタモール水溶液の脊髄投与が、カラギーナンの足底内投与によって生じる手術後の急性炎症性疼痛等の疼痛モデルにおいてパラセタモールの抗痛覚過敏効果及び抗アロディニア効果を決定することを実証した。
【0093】
実験データは、炎症性又は手術後の疼痛モデルにおいて、本発明のパラセタモール溶液の投与が、文献データから予測できない効果的で且つ長期の鎮痛及び抗アロディニア作用を発揮することを示す。
【0094】
特に、本発明のアセトアミノフェン溶液をテストした実験条件下では、ニューロン発射の活性化が患部において誘発され、ここで、パラセタモールは、上昇する刺激の強度を制御する上で効果的であり、疼痛閾値の認識及び感度を減少して、それ故に予想外に長期の鎮痛効果を決定する。
【0095】
一部の実施態様において、アセトアミノフェン過飽和溶液は、局所麻酔薬の投与と同時に投与される。
【0096】
一部の実施態様において、その同時投与は、アセトアミノフェン溶液の局所麻酔薬溶液との混合を必要とする。
【0097】
アセトアミノフェン過飽和溶液の利点の1つは、減少した量の溶媒中における上昇した含有量の活性成分を有する可能性によって提供される。本発明に従うアセトアミノフェン溶液は、典型的に、溶媒1ml、典型的には注入用水1mlにつき1.3〜2.3mgを含有する。
【0098】
これらの溶液は、通常の局所麻酔薬の溶液と混合することができ、典型的には体積が1〜2.5mlであり、好都合なことには全体積が2〜4mlである注入用最終混合物を得る。
【0099】
局所麻酔薬及びアセトアミノフェン過飽和溶液の同時脊髄投与は、単一の脊髄注入を行うことによって、麻酔及び鎮痛複合効果を得ることを可能にし、それ故に患者の脊髄への損傷の危険を制限し、麻酔・鎮痛複合治療への適合性を増大させる。
【0100】
更なる態様によれば、本発明は、麻酔・鎮痛複合治療の方法を提供し、それは、アセトアミノフェン過飽和溶液と局所麻酔薬溶液の同時、個別又は逐次的な投与を含む。
【0101】
本発明に従うアセトアミノフェン溶液の更なる利点は、通常の局所麻酔薬との適合性にある。
【0102】
しかしながら、本発明の範囲内で、脊髄投与によって投与できるどんな麻酔薬も、その作用期間と関係なく、使用することが可能である。
【0103】
例えば、リドカイン、アルチカイン、オキシブプロカイン、クロロプロカイン等の短時間作用局所麻酔薬、又はプリロカイン、メピバカイン、エチドカインから選択される中間作用局所麻酔薬、又はロピバカイン、ブピバカイン、シンコカイン、レボブピバカイン、プロキシメタカイン及びテトラカインから選択される長時間作用局所麻酔薬が本発明の範囲内で使用される。
【0104】
本発明は、2012年6月29日のイタリア特許出願MI2012A001154の優先権を主張するものであり、その内容は参照することによりここに完全に組み込まれる。
【0105】
以下に示す例を参照して本発明を説明するが、該例は、純粋に説明目的のために提供されるものであり、本発明を制限するものとして理解されるものではない。
【実施例】
【0106】
例1
以下に示す処方を有する、脊髄投与によって注入可能なアセトアミノフェン過飽和溶液:
アセトアミノフェン 15mg
注入用滅菌水 1ml
溶液のpHは5.7であった。
【0107】
例2
以下に示す処方を有する、脊髄投与によって注入可能なアセトアミノフェン過飽和緩衝液:
アセトアミノフェン 20mg
注入用滅菌水 1ml
クエン酸 0.45mg
リン酸二水素ナトリウム 0.91mg
溶液のpHはおよそ5.5であった。
【0108】
例3
以下に示す処方を有する、脊髄投与によって注入可能なアセトアミノフェン過飽和緩衝液:
アセトアミノフェン 80mg
注入用滅菌水 1ml
クエン酸 0.45mg
リン酸二水素ナトリウム 0.91mg
溶液のpHはおよそ5.5であった。
【0109】
例4
以下に示す処方を有する、脊髄投与によって注入可能な、麻酔・鎮痛複合製剤:
アセトアミノフェン 20mg
クロロプロカイン 10mg
注入用滅菌水 5ml
【0110】
例5
濃度が異なる3つのアセトアミノフェン溶液について研究した:
10mg/ml(1.0%)のアセトアミノフェンを含有する不飽和溶液
15mg/ml(1.5%)のアセトアミノフェンを含有する過飽和溶液
20mg/ml(2.0%)のアセトアミノフェンを含有する過飽和溶液
25mg/ml(2.5%)を含有する超飽和溶液
及び2つの製剤:水中のアセトアミノフェンと水+クエン酸塩緩衝剤中のアセトアミノフェン
【0111】
アセトアミノフェン溶液は、窒素のフラッシングによって脱酸素化した水を用いて調製された(酸素残分<200ppb);アセトアミノフェン単独の溶液の場合、およそ6.0の初期pH値をアセトアミノフェン自体の濃度に関係なく得、どんな場合でも4.5〜6.5であった。
【0112】
規定された条件(およそ50℃)において、加熱した水中、活性成分を可溶化した。そのようにして得られた溶液は、広範囲の温度で、アセトアミノフェンの再沈殿及び/又は化学的変質がなく、長期間保存できる。
【0113】
20℃でのアセトアミノフェンの溶解度は、およそ13mg/ml(1.3%w/v)であった。
【0114】
以下に示す概略工程を必要とする方法によって、アセトアミノフェン溶液を得た:
a)窒素流れにおいて脱気することによって脱酸素化した水中における、活性成分と、存在する製剤の賦形剤の溶解
b)その溶液の窒素流れにおけるろ過
c)その溶液の窒素流れにおける分配
d)そのバイアルの121℃にて15分間の滅菌
【0115】
以下に示す注入用溶液を得た:
【0116】
【表1】
【0117】
溶解機の中に投入したら、沸騰により注入用水を脱気し、次いで60℃に冷却した。アセトアミノフェンと、緩衝液についてはクエン酸及びリン酸2ナトリウムとを加えた。その溶液を、撹拌下、一定の窒素流入を維持して、25分間放置した。
【0118】
この調製過程で測定されたpH値は以下に示す結果を示した:
【0119】
【表2】
【0120】
活性成分及び賦形剤の添加から25分して40℃に到達した後、その溶液を窒素圧下でろ過し、不活性ガス(N)で予めパージしたフラスコ中に集めた。窒素流れにおいてその溶液をバイアル中に分配し、過剰殺菌条件(121℃15分間)のオートクレーブ中においてそのバイアルを最終滅菌した。
【0121】
滅菌後のバイアルに対して行った分析は、以下に示す結果を提供した:
【0122】
【表3】
【0123】
研究したアセトアミノフェン溶液の安定性
安定性:それぞれのアセトアミノフェン濃度が1%、1.5%及び2%w/vである3つのバッチを4℃、25℃、30℃、40℃及び60℃に置いた。
【0124】
4℃のサンプルに対しては物理化学分析を行わなかった。低温保存の目的は、活性成分のあらゆる再結晶を確認することにあった。この目的のため、サンプルは、週に一度の視覚分析を受けた。3ヶ月後、沈殿物の存在は、テストした溶液のいずれにおいても見られなかった。
【0125】
25及び30℃で9ヶ月後、40℃で6ヶ月後、並びに60℃で3ヶ月後、物理化学的観点から溶液に変化はなかった。
【0126】
緩衝化していない溶液のpHは、上昇傾向を示し、およそ6.0の値から開始して、最大ストレスの条件(60℃)下で6.5に達する。
【0127】
アセトアミノフェンの力価には変化がない。酸化の生成物である4−アミノフェノールは、常に、分析に用いたHPLC法の検出限界を下回ったままである。二量体の濃度は、常に0.10%未満のままである。他の不純物は観察されない。
【0128】
例6
濃度が異なるアセトアミノフェンの溶液5つを分析した。
アセトアミノフェン含有量が20mg/ml(2.0%)である過飽和溶液、5mlバイアルに3mlまで入れた
アセトアミノフェン含有量が25mg/ml(2.5%)である過飽和溶液、5mlバイアルに3mlまで入れた
アセトアミノフェン含有量が30mg/ml(3.0%)である過飽和溶液、5mlバイアルに3mlまで入れた
アセトアミノフェン含有量が50mg/ml(5.0%)である過飽和溶液、5mlバイアルに3mlまで入れた
アセトアミノフェン含有量が80mg/ml(8.0%)である過飽和溶液、5mlバイアルに3mlまで入れた
【0129】
アセトアミノフェン溶液は、ニトロ化によって脱酸素化した水を用いて調製された(残留酸素<200ppb)。およそ5.5の初期pH値を得、アセトアミノフェン自体の濃度に関係なく、それぞれの場合において4.5〜6.5であった。
【0130】
55〜70℃の温度に維持された注入用水中において、活性成分の可溶化を行った。そのようにして得られた溶液は、これらの温度条件下で、アセトアミノフェンの沈殿及び/又は化学的変質がなく、長期に保存できる。
【0131】
以下に示す概略工程に備える方法によって、アセトアミノフェン溶液を得た:
a)55〜70℃の温度での窒素流れにおける、脱気による脱酸素水中での活性成分の溶解
b)70〜80℃の温度での窒素流れにおける、その溶液のろ過
c)55〜75℃の温度での窒素流れにおける、その溶液の分配
d)そのバイアルの121℃にて15分間の滅菌
【0132】
以下に示す注入用溶液を作った:
【0133】
【表4】
【0134】
溶解機に取り込んだら、沸騰により注入用水を脱気し、次いで70℃に冷却した。アセトアミノフェンを加えた。その溶液を、撹拌下、一定の窒素流入と55℃以上の温度を維持しながら、25分間放置した。
【0135】
この調製時の約55℃で測定されたpH値は以下に示す結果を与えた:
【0136】
【表5】
【0137】
活性成分を加えて25分後に、溶液を80℃にし、窒素圧下でろ過し、不活性ガス(N)で予めパージされているフラスコ中に集めた。窒素流れにおいてバイアル中への分配を行い、過剰殺菌条件(121℃15分間)下、オートクレーブ中においてそのバイアルを最終滅菌した。
【0138】
滅菌を受けたバイアルに対して行った分析は、以下に示す結果を与えた:
【0139】
【表6】
【0140】
研究したアセトアミノフェン溶液の安定性
安定性:アセトアミノフェン濃度がそれぞれ2.0%、2.5%、3%、5%及び8%w/vである5つのバッチを4℃、25℃及び40℃に置いた。
【0141】
4℃のサンプルに対しては物理化学分析を行わなかった。低温保存の目的は、活性成分のあらゆる再結晶をチェックすることにあった。この目的のため、サンプルは、週に一度の視覚分析を受けた。2ヶ月後、テストした溶液において沈殿物の存在の証拠はなかった。
【0142】
25、40及び4℃で2ヶ月後、物理化学的観点から溶液に変化はなかった。
【0143】
溶液のpHは、増加傾向を示し、約5.5の値から開始して、最大ストレスの条件(40℃)下で6.0に達する。
【0144】
アセトアミノフェンの力価には変化がない。4−アミノフェノール不純物は、常に、分析に用いたHPLC法の検出限界を下回ったままである。二量体の濃度は、常に0.1%未満である。他の不純物は検出されなかった。
【0145】
例7
アセトアミノフェンと脊髄用の局所麻酔薬の混合物の物理化学的安定性
例5のアセトアミノフェン濃度が1.5%と2%w/vの溶液と、脊髄用の各種麻酔薬(アミド類及びエステル類からのもの、例えばブピバカインHCl、リドカインHCl、プリロカインHCl、クロロプロカインHCl、メピバカインHCl、ロピバカインHCl)を、これら麻酔薬それぞれの既知の全用量範囲と10mg〜60mgのアセトアミノフェンの用量範囲とをカバーするために様々な割合で、混合した。
【0146】
かかる混合物は、麻酔医によって一般的に使用される装置及び手順を用いて調製された(シリンジ、針及び成分の添加順序)。
【0147】
行われたテストでは、以下に示す脊髄用の麻酔薬を含んだ:
・クロロプロカイン1%:最小用量:4ml;最大用量5ml
・クロロプロカイン3%:最小用量:1.3ml;最大用量1.7ml
・高圧プリロカイン2%:最小用量:2ml;最大用量3ml
・プリロカイン2%:最小用量:2.5ml;最大用量4ml
・ロピバカイン5mg/ml:最小用量:3ml;最大用量5ml
・ロピバカイン10mg/ml:最小用量:1.5ml;最大用量2.5ml
・高圧ブピバカイン0.5%:最小用量:1.5ml;最大用量4ml
・メピバカイン2%:最小用量:1ml;最大用量3ml
・メピバカイン4%:最小用量:0.5ml;最大用量1.5ml
・リドカイン0.5%:最小用量:8ml;最大用量16ml
・リドカイン2%:最小用量:2ml;最大用量4ml
【0148】
用量が10mg〜60mgであるアセトアミノフェン1.5%及び2%の溶液との混合物は、脊髄用の各麻酔薬の最小及び最大の用量それぞれについて調製された:
・アセトアミノフェン1.5%:最小用量:0.7ml;最大用量4ml
・アセトアミノフェン2%:最小用量:0.5ml;最大用量3ml
【0149】
上記2つの製品(麻酔薬及びアセトアミノフェン)を、麻酔薬の分野において一般的に使用される作業手順に従って混合した。その溶液は、同一の滅菌シリンジを用いて直径18Gの針を通し、また、このようにして作られた混合物を脊髄麻酔薬用の針(使用した直径は24G、25G及び27Gであった)を用いてガラスバイアル中に分注することによって、引き出された。
【0150】
記録と結果混合物の両方を評価するために何回も溶液を引き出す順番(最初が麻酔薬、次にアセトアミノフェン、及びその逆)を変え、沈殿物がないことを評価するために10日間監視した。
【0151】
調製から10日に至るまでで沈殿物の存在を示す調製溶液はなかった。
【0152】
高圧ブピバカイン0.5%の最小用量(1.5ml)とアセトアミノフェン2%の最大用量(3ml)の混合物を3回調製した。1回目は通常の作業手順に従い、2回目はシリンジ中に混合物を残し、それを4℃の温度にて10日間置いておき、3回目は混合物を15℃の温度にて調製した。これらのケースではいずれも結晶及び/又は沈殿物の存在が観察されなかった。
【0153】
麻酔薬を加えないがアセトアミノフェン2%を取り込んだ2つのテストも行った。最初のテストでは、18Gの針を通してシリンジによってアセトアミノフェンを引き出し、27Gの針を通してガラスバイアル中に分注した。溶液の分注から1時間後、結晶及び/又は沈殿物の存在の兆候はなかった;調製から19時間後、針状の結晶の存在が観察された。
【0154】
2回目のテストでは、18Gの針を通してシリンジによってアセトアミノフェン2%を引き出し、該シリンジ中に放置した。30分後に溶液内での結晶の形成が観察された。
【0155】
アセトアミノフェンと麻酔薬の活性成分について、化学的観点から、このようにして作られたすべての混合物を分析した。いずれの場合も、24時間以内で、分解についての重要な事実は観察されなかった。
【0156】
例8
カラギーナン(50μl 1%)の足底内注入(左後足での注入、以下、「炎症部位」と称される)によって誘発される、マウスの炎症性疼痛のモデルにおける予備実験によって、脊髄投与(IT)によって投与されたアセトアミノフェン過飽和溶液の有効性をテストした。
【0157】
機械的刺激を受けた疼痛閾値(グラムで表される)を炎症の誘発から2、4、6及び24時間後に測定した。この閾値は、炎症性疼痛の指標と見なされるものである。
【0158】
炎症部位での浮腫の発達を測定し、炎症部位の体積(mL)の増加として表した。
【0159】
マウスでの脊髄投与をFairbanks(2003)に記載されるように行った。
【0160】
実験群
N=5マウスは、脊髄ビヒクル(IT;プラセボとして理解される)及びカラギーナンの足底内投与を受けた
N=7マウスは、アセトアミノフェンIT(10μg)及びカラギーナンの足底内投与を受けた
N=7マウスは、アセトアミノフェンIT(100μg)及びカラギーナンの足底内投与を受けた
【0161】
結果
マウスにつき用量100μgのITアセトアミノフェンは、マウスの炎症性疼痛の減少において効果的であった。ITアセトアミノフェンが100μgの用量で投与されたマウスは、炎症部位の機械的刺激を受けて著しく高い疼痛閾値を有していた(図1)。
【0162】
マウスにつき用量100μgのITアセトアミノフェンは、誘発を受けて最初の2時間で、炎症部位の浮腫の発達のわずかな減少のみ(およそ20%)を生じた(図2)。
【0163】
マウスにつき用量10μgのITアセトアミノフェンは、炎症性疼痛の減少において効果的ではなく、コントロールマウス群と比較してわずかであった(図1)。
【0164】
テストされた全ての用量で、ITアセトアミノフェンは、毒性の明確な兆候も行動及び運動上の明確な変化も生じなかった。
【0165】
添付の図1は、プラセボ、アセトアミノフェン10μg及びアセトアミノフェン100μgのIT投与後に炎症部位で機械的衝撃を受けた疼痛閾値を示す。
【0166】
図2は、プラセボ、アセトアミノフェン10μg及びアセトアミノフェン100μgのIT投与後に、誘発後の最初の2時間における炎症部位の浮腫の発達を示す。例6の生データと相対的統計分析を以下に示す。
【0167】
【表7】
【0168】
【表8】
【0169】
各カラムは異なる実験対象を表す
【0170】
例9
ラットの手術後の痛みのモデルにおける予備実験によって、脊髄投与(IT)によって投与されたアセトアミノフェン過飽和溶液の有効性をテストした。手術後の痛みは、Timothy J.Brennan(1996)に記載されるように、左後足の足底下部(subplantar region)の切開及びその後の縫合によって引き起こされた。
【0171】
機械的刺激を受けた疼痛閾値(グラムで表される)を切開から2、4、6及び24時間後に測定した。この閾値は、外科的介入の影響を受ける領域の痛み及び痛覚過敏の指標であると見なされる。
【0172】
実験群
N=5ラットは、外科的処置の直前に脊髄ビヒクル(IT;プラセボとして理解される)を受けた
N=5ラットは、外科的処置の直前にアセトアミノフェンIT(200μg)を受けた
【0173】
結果
ラットにつき用量200μgのITアセトアミノフェンは、図3に示されるように、手術後の痛みの減少において効果的であった。ITアセトアミノフェンが200μgの用量で投与されたラットは、切開部位の機械的刺激を受けて著しく高い疼痛閾値を有していた(図3)。用量200μgのITアセトアミノフェンは、24時間に亘って著しい累積的な鎮痛を生じた。
【0174】
ITアセトアミノフェンは、毒性の明確な兆候も行動又は運動上の明確な変化も生じなかった。本例に従う生データと相対的統計分析を以下に示す。
【0175】
【表9】
【0176】
例10
ラットの手術後の痛みのモデルにおける予備実験によって、脊髄投与(IT)によって投与されたアセトアミノフェン過飽和溶液の有効性を、クロロプロカイン3%の溶液と組み合わせて、テストした。
【0177】
手術後の痛みは、Timothy J.Brennan(1996)に記載されるように、左後足の足底下部の切開及びその後の縫合によって引き起こされた。
【0178】
機械的刺激を受けた疼痛閾値(グラムで表される)を切開から4時間後に測定した。この期間内で、脊髄クロロプロカインの麻酔効果の完全な減少を予期する。疼痛閾値の減少は、外科的介入の影響を受ける領域の痛み及び痛覚過敏の指標であると見なされる。
【0179】
実験群
N=5ラットは、外科的処置の直前に脊髄ビヒクル(IT;プラセボとして理解される)を受けた
N=5ラットは、外科的処置の直前にアセトアミノフェンIT(200μg)を受けた
N=4ラットは、外科的処置の直前にクロロプロカインIT(3%、20μL)を受けた
N=4ラットは、外科的処置の直前にアセトアミノフェンIT(200μg)+クロロプロカインIT(3%、20μL)を受けた
【0180】
結果
ラットにつき用量200μgのITアセトアミノフェンは、図4に示されるように、手術後の痛みの減少において効果的であった。ITアセトアミノフェンが200μgの用量で投与されたラットは、切開部位の機械的刺激を受けて著しく高い疼痛閾値を有していた(図4)。
【0181】
ラットに対するITクロロプロカイン(3%、20μL)は、切開部位の機械的刺激を受けて疼痛閾値の変化がなく、麻酔効果の終了を示した。
【0182】
ラットに対して用量200μgのITアセトアミノフェンは、クロロプロカイン(3%、20μL)との同時投与において、切開部位の機械的刺激を受けて疼痛閾値の著しい上昇を生じ、追加の鎮痛効果を示唆する傾向があった。
【0183】
ラットに対して用量200μgのITアセトアミノフェンは、クロロプロカイン(3%、20μL)との同時投与において、毒性の明確な兆候も行動又は運動上の明確な変化も生じなかった。クロロプロカイン(3%、20μL)を受けたラットは、4時間後、後ろ肢の歩行及び張力の観点から完全な回復を有していた。
【0184】
本例に従う生データを以下に示す。
【0185】
【表10】
図1
図2
図3
図4