特許第5876631号(P5876631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5876631ポリオレフィン多層微多孔膜及び電池用セパレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5876631
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】ポリオレフィン多層微多孔膜及び電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20160218BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20160218BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20160218BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20160218BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20160218BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20160218BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20160218BHJP
【FI】
   B32B27/32 E
   C08J9/00 ACES
   C08J9/28 101
   C08L23/06
   C08L23/12
   H01M2/16 P
   H01M10/0525
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-548517(P2015-548517)
(86)(22)【出願日】2015年5月28日
(86)【国際出願番号】JP2015065348
【審査請求日】2015年10月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-112048(P2014-112048)
(32)【優先日】2014年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510157580
【氏名又は名称】東レバッテリーセパレータフィルム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三浦 由起子
(72)【発明者】
【氏名】光岡 秀人
(72)【発明者】
【氏名】窪田 隆
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−35293(JP,A)
【文献】 特開2010−245028(JP,A)
【文献】 特開2011−126275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C08J 9/00−9/42
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
H01M 2/14−2/18
10/05−10/0587
10/36−10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の微多孔質層が両表面層であり、第二の微多孔質層が中間層である、少なくとも3層を有するポリオレフィン多層微多孔膜であって、
前記第一の微多孔質層は、重量平均分子量1×10以上である超高分子量ポリエチレンを30質量%以上70質量%未満含むポリエチレン系樹脂からなり、
前記第二の微多孔質層は、重量平均分子量1×10以上×10未満である高密度ポリエチレンを50質量%以上と、ポリプロピレンと、を含むポリオレフィン系樹脂からなり、
前記多層微多孔質膜中のポリプロピレンの含有量は、前記両表面層及び前記中間層に含まれる前記ポリエチレン系樹脂及び前記ポリオレフィン系樹脂の合計100質量%に対して、5質量%以上15質量%以下であり、
下記(I)〜(III)の要件を満たすことを特徴とするポリオレフィン多層微多孔膜。
(I)突刺強度が25g/μm以上である。
(II)アルミニウム箔に対する、前記両表面層におけるMD方向及びTD方向それぞれの静摩擦係数が0.40以上である。
(III)メルトダウン温度が180℃以上である。
【請求項2】
平均孔径が0.001μm以上0.030μm未満であることを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項3】
膜厚が1μm以上20μm未満であり、かつ、透気度が600sec/100cc以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項4】
リチウムイオン二次電池の正極と負極の間に配置し、150℃で1時間暴露した際、面積保持率が90%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔質膜を用いてなる電池用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン多層微多孔膜及びそれを用いた電池用セパレータに関し、より詳しくは、機械的強度、耐熱性及び電解液の濡れ性に優れたポリオレフィン多層微多孔膜及びそれを用いた電池用セパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、小型、軽量かつ高エネルギー密度であるため、携帯用電子機器の主電源や、ハイブリット自動車等の車両駆動用電源として、広く使用されている。リチウムイオン二次電池は、正極と負極の間にセパレータを配置する。セパレータは、両極活物質の接触による短絡を防ぐと共に、その空孔内に電解液を保持してイオン伝導の通路を形成している。
【0003】
近年のリチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化に伴い電池部材への負荷が大きくなっており、セパレータに対してもより高度な安全性能が求められている。そこで、リチウムイオン二次電池のセパレータとしては、械的強度に優れるとともに、電池とした状態で、米国規格UL−1642(Underwriters Laboratories)や国際電気標準会議規格IEC−61960(International Electrotechnical Commission)などに規定される電池安全性を評価する試験である高温サイクル試験、オーブン試験などにおいて優れた結果を示すなど、高温下での熱収縮特性にも優れる必要がある。
【0004】
従来から、リチウムイオン二次電池のセパレータとして、ポリオレフィン系微多孔膜が使用されてきた。ポリオレフィン系微多孔膜の中でも、特にポリエチレン系樹脂からなる微多孔膜は、電池の温度が上昇したときに、多孔膜の微細孔が閉塞して電流の流れを遮断するシャットダウン機能に優れることが知られている。
【0005】
しかし、シャットダウン機能が作動した後、さらに電池温度が上昇することがあり、このような場合、セパレータの溶融(いわゆるメルトダウン)が進行して電池内部で短絡が生じ、これに伴って大量の熱を発して発煙・発火・爆発といった危険が生じることがある。このため、セパレータには、シャットダウン機能に加えて、シャットダウン機能が発現する温度より高い温度に達した場合にも短絡が生じるおそれがなく、シャットダウン温度より高い温度にある程度の時間保持されても短絡の危険性が抑えられた優れた耐熱性を有していることが求められる。
【0006】
そこで、セパレータの耐熱性を向上させるため、ポリエチレンよりも高い融点を有するポリプロピレンを含むポリオレフィン微多孔質膜が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、ポリプロピレン系樹脂を含む微多孔膜では、メルトダウン温度は高いものの、シャットダウン温度も高くなってしまうという問題があった。
【0007】
また、シャットダウン特性とメルトダウン特性を両立させるため、ポリエチレンとポリプロピレンをブレンドしたり、ポリエチレン系樹脂からなる微多孔膜とポリプロピレン系樹脂からなる微多孔膜を積層させたりすることも提案されている。
【0008】
例えば、特許文献2では、少なくとも三層からなるポリオレフィン多層微多孔膜において、両面の表層をポリエチレン系樹脂のみからなる層とし、かつポリエチレン系樹脂と、走査型示差熱量計により測定した融解熱(ΔH)が90J/g以上のポリプロピレンとを含み、これらの配合割合を調整した内層を、両ポリエチレン系樹脂層の間に介在させている。この場合には、低いシャットダウン温度、高いシャットダウン速度及び高いメルトダウン温度を示し、かつ成膜性に優れたポリオレフィン多層微多孔膜が得られることが開示されている。
【0009】
また、特許文献3では、重量平均分子量が1×10以上の超高分子量ポリエチレンの割合が8質量%以上の第一のポリエチレン系樹脂を含む第一の微多孔層と、前記超高分子量ポリエチレンの割合が7質量%以下の第二のポリエチレン系樹脂を含み、水銀圧入法により求めた孔径分布曲線が少なくとも二つのピークを有する構造を有する第二の微多孔層とを設け、第一及び第二の微多孔層の合計厚さを100%として、前記第一の微多孔層の厚さを15〜60%としている。この場合には、透過性、機械的強度、メルトダウン特性、電解液吸収性及び電解液保持性のバランスに優れたポリオレフィン多層微多孔膜が得られることが開示されている。
【0010】
こうした状況下、従来のポリオレフィン多層微多孔膜の持つ問題点を解消し、リチウムイオン二次電池の高性能化に伴い、さらなる機械的強度及び耐熱性の向上を追及したオレフィン多層微多孔膜及びそれを用いた電池用セパレータの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2004/089627号
【特許文献2】国際公開第2007/010878号
【特許文献3】特開2008−255306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、上記した従来技術の問題点に鑑み、機械的強度、耐熱性及び電解液の濡れ性に優れたポリオレフィン多層微多孔膜及びそれを用いた電池用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、ポリオレフィン多層微多孔膜と電極との密着性を向上させることで、リチウムイオン二次電池のセパレータとして用いた場合の耐熱性がさらに向上するのではないかと着想した。そして、超高分子量ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂からなる第一の微多孔質層(表面層)と、高密度ポリエチレン及びポリプロピレンを含むポリオレフィン樹脂からなる第二の微多孔質層(中間層)と、を含む少なくとも3層を有し、(I)突刺強度、(II)金属箔に対する静摩擦係数及び(III)メルトダウン温度が特定の範囲であるポリオレフィン多層微多孔膜により、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、第一の微多孔質層が両表面層であり、第二の微多孔質層が中間層である、少なくとも3層を有するポリオレフィン多層微多孔膜であって、前記第一の微多孔質層は、重量平均分子量1×10以上である超高分子量ポリエチレンを30質量%以上70質量%未満含むポリエチレン系樹脂からなり、前記第二の微多孔質層は、重量平均分子量1×10以上8×10未満である高密度ポリエチレンを50質量%以上と、ポリプロピレンと、を含むポリオレフィン系樹脂からなり、前記多層微多孔質膜中のポリプロピレンの含有量は、前記両表面層及び前記中間層に含まれる前記ポリエチレン系樹脂及び前記ポリオレフィン系樹脂の合計100質量%に対して、5質量%以上15質量%以下であり、下記(I)〜(III)の要件を満たすことを特徴とする。
(I)突刺強度が25g/μm以上である。
(II)アルミニウム箔に対する、前記両表面層におけるMD方向及びTD方向それぞれの静摩擦係数が0.40以上である。
(III)メルトダウン温度が180℃以上である。
【0015】
また、前記ポリオレフィン多層微多孔膜は、平均孔径が0.001μm以上0.030μm未満であることが好ましい。
また、前記ポリオレフィン多層微多孔膜は、膜厚が1μm以上20μm未満であり、かつ、透気度が600sec/100cc以下であることが好ましい。
さらに、前記ポリオレフィン多層微多孔膜は、リチウムイオン二次電池の正極と負極の間に配置し、150℃で1時間暴露した際、面積保持率が90%以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の電池用セパレータは、前記ポリオレフィン多層微多孔膜を用いてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、機械的強度及び電解液との濡れ性に優れ、かつ、電極との密着性に優れるため、耐熱性に非常に優れる。また、電池用セパレータとして用いた場合、十分な機械的強度とシャットダウン特性を有し、かつ、熱暴走や発火などが抑制された安全性の高い非水電解質電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、ダイのリップ先端と冷却ロール頂点との角度θを示した説明図である。
図2図2は、150℃暴露試験の形状を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.ポリオレフィン多層微多孔膜
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、第一の微多孔質層が両表面層であり、第二の微多孔質層が中間層である、少なくとも3層を有し、前記第一の微多孔質層が特定量の超高分子量ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂からなり、前記第二の微多孔質層が特定量の高密度ポリエチレンと、ポリプロピレンとを含有するポリオレフィン系樹脂からなるものであり、機械的強度、耐熱性、電極との密着性及び電解液の濡れ性等に優れ、二次電池用セパレータに好適に用いることができる。
以下、本発明について、各項目毎に説明する。
【0020】
(1)第一の微多孔質層
第一の微多孔質層は、超高分子量ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂からなる。表面層を形成する第一の微多孔質層において、超高分子量ポリエチレンを使用することにより、薄膜化した際にも高い機械強度が得ることができ、電池セパレータとして正極と負極との間に配置した際、該セパレータがシャットダウンした状態(135℃以上180℃以下)でも膜の形状を保持することができる。
【0021】
(i)超高分子量ポリエチレン
本発明に用いられる超高分子量ポリエチレンは、質量平均分子量(Mw)が1×10以上であり、好ましくは1×10〜15×10、より好ましくは1×10〜5×10、さらに好ましくは1.5×10〜3×10である。Mwが上記範囲であることにより、成形性が良好となる。
なお、Mwは、後述するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
【0022】
超高分子量ポリエチレンは、上記Mwを満たす範囲おいて、特に限定されず従来公知のものを用いることができ、エチレンの単独重合体のみならず、他のα−オレフィンを少量含有するエチレン・α−オレフィン共重合体を用いることができる。
エチレン以外のα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル及びスチレンが好ましい。エチレン以外のα−オレフィンの含有量は、5mol%以下が好ましい。
【0023】
超高分子量ポリエチレンは1種を単独で、または2種以上を併用して用いることができ、例えばMwの異なる二種以上の超高分子量ポリエチレン同士を混合して用いてもよい。
【0024】
前記ポリエチレン系樹脂中の超高分子量ポリエチレンの含有量は、前記ポリエチレン系樹脂全体100質量%に対して、30質量%以上70質量%未満であり、好ましくは30質量%以上60質量%未満、より好ましくは35質量%以上55質量%未満である。超高分子ポリエチレンの含有量が上記範囲であることにより、ポリオレフィン多層微多孔質膜を薄膜化した際にも高い機械強度を得ることができ、さらに電池セパレータとして正極と負極との間に配置した際、該セパレータがシャットダウンした状態(135℃以上180℃以下)でも膜の形状を保持することができる。
【0025】
(ii)その他の樹脂成分
前記ポリエチレン系樹脂は、超高分子量ポリエチレン以外の樹脂成分として、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどのポリチレンを含むことができ、好ましくはMwが5×10以上8×10未満である高密度ポリエチレン、さらに好ましくはMwが1×10以上7×10未満である高密度ポリエチレンを含む。また、高密度ポリエチレンの密度は0.940〜0.98g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.950〜0.970g/cmである。
【0026】
Mwが1×10以上8×10未満の高密度ポリエチレンとしては、特に限定されず、従来公知のポリエチレンを用いることができ、エチレンの単独重合体のみならず、エチレン以外のα−オレフィンを少量含有する共重合体でもよく、シングルサイト触媒により製造されたものが好ましい。エチレン以外のα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1等が挙げられる。
なお、Mwは、後述するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
【0027】
前記エチレン系樹脂中の超高分子量ポリエチレン以外の樹脂成分の含有量は、前記ポリエチレン系樹脂全体100質量%に対して、好ましくは30質量%以上70質量%未満、より好ましくは40質量%以上65質量%未満である。特に、Mwが5×10以上8×10未満である高密度ポリエチレンを上記範囲で含有させることにより、製膜の安定性と最終的に得られる膜の高い突刺強度とを両立することができる。
【0028】
また、上記ポリエチレン以外の他のポリオレフィンを含んでもよく、Mwが1×10〜4×10のポリブテン−1ポリブテン−1、ポリペンテン−1、ポリヘキセン−1、ポリオクテン−1及びMwが1×10〜1×10のポリエチレンワックスからなる群から選ばれた少なくとも一種を用いてもよい。
【0029】
ポリエチレン以外のポリオレフィンの含有量は、前記ポリエチレン系樹脂全体100質量%に対して、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
また、前記ポリエチレン系樹脂は、ポリプロピレンを実質的に含まないことが好ましい。ここで、実質的に含まないとは、ポリプロピレンの含有量が前記ポリエチレン系樹脂全体100質量%に対して、7質量%以下であることをいい、好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは0質量%である。
【0030】
なお、超高分子量ポリエチレン以外の樹脂成分は1種を単独で、または2種以上を併用して用いることができる。例えばMwの異なる二種以上の高密度ポリエチレン同士、中密度ポリエチレン同士、または、低密度ポリエチレン同士を混合して用いてもよい。
【0031】
(iii)ポリエチレン系樹脂
本発明においては、表面層である第一の微多孔質層を、上記の樹脂成分を含むポリエチレン系樹脂により成形することにより、金属箔(Al)に対する静摩擦係数0.4以上となり電極に密着しやすいポリオレフィン多層微多孔質層が得られる。
本発明に用いられるポリエチレン系樹脂(全体)のMwは、特に限定されないが、好ましくは1×10〜1×10であり、より好ましくは5×10〜15×10であり、特に好ましくは1×10〜10×10である。ポリエチレン系樹脂のMwが15×10以下であると、溶融押出が容易となる。
【0032】
(2)第二の微多孔質層
第二の微多孔質層は、高密度ポリエチレン及びポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂からなる。中間層を形成する第二の微多孔質層において、ポリプロピレンを必須成分として使用することにより、良好なメルトダウン特性を得ることができ、耐熱性が向上する。また、ポリプロピレン単独よりも高密度ポリエチレンを混練することで溶融押出が容易となる。
【0033】
(i)高密度ポリエチレン
ポリオレフィン系樹脂に用いられる高密度ポリエチレンは、密度が0.940〜0.98g/cmであり、好ましくは0.950〜0.970g/cmであるポリエチレンである。
高密度ポリエチレンのMwは、1×10以上8×10未満であり、好ましくは5×10以上×8×10未満、より好ましくは1×10以上7×10未満である。
【0034】
高密度ポリエチレンとしては、特に限定されず、従来公知のポリエチレンを用いることができ、エチレンの単独重合体のみならず、エチレン以外のα−オレフィンを少量含有する共重合体でもよく、シングルサイト触媒により製造されたものが好ましい。エチレン以外のα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1等が挙げられる。
【0035】
前記ポリオレフィン系樹脂中の高密度ポリエチレンの含有量は、前記ポリオレフィン系樹脂全体100質量%に対して、50質量%以上、好ましくは50質量%以上質量%80未満、より好ましくは50質量%以上70質量%未満である。特に、Mwが1×10以上8×10未満である高密度ポリエチレンを上記範囲で含有させることにより、溶融押出が容易となる。
【0036】
(ii)ポリプロピレン
本発明に用いられるポリプロピレンの種類は特に限定されず、プロピレンの単独重合体、プロピレンと他のα−オレフィン及び/又はジオレフィンとの共重合体、あるいはこれらの混合物のいずれでも良いが、単独重合体が好ましい。共重合体としてはランダム共重合体又はブロック共重合体のいずれも用いることができる。α−オレフィンの炭素数は8以下が好ましい。炭素数が8以下のα−オレフィンとして、エチレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレン等が挙げられる。ジオレフィンの炭素数は4〜14が好ましい。炭素数が4〜14のジオレフィンとして、例えばブタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン等が挙げられる。他のα−オレフィン又はジオレフィンの含有量は、プロピレン共重合体を100モル%として10モル%未満であるのが好ましい。
【0037】
ポリプロピレンのMwは1×10〜5×10が好ましく、1×10〜4×10がより好ましく、5×10〜3×10が特に好ましい。Mwが1×10未満のポリプロピレンを用いると、メルトダウン特性が低下してしまう。一方Mwが4×10超のポリプロピレンを用いると、ポリエチレン系樹脂との混練が困難になる。ポリプロピレンの分子量分布(Mw/Mn)は1.01〜100が好ましく、1.1〜50がより好ましい。ポリプロピレンの融点は155〜175℃が好ましく、163℃〜175℃がより好ましい。ここで融点はJIS K7121により測定することができる。
【0038】
成膜性向上のために、粉末状のポリプロピレンを用いてもよい。粉末状ポリプロピレンは平均粒径が100〜2,000μmで、かつ粒径分布が50〜3,000であるのが好ましい。ここで平均粒径及び粒径分布はJIS K0069により測定することができる。
【0039】
ポリプロピレンの含有量は、前記両表面層及び前記中間層に含まれる前記ポリエチレン系樹脂及び前記ポリオレフィン系樹脂の合計100質量%に対して、5質量%以上15質量%以下であり、好ましくは7質量%以上15質量%未満、さらに好ましくは7質量%以上10質量%未満である。ポリプロピレンを上記範囲で含むことにより、耐熱性と機械的強度のバランスを向上させることが出来る。
また、前記中間層における前記ポリオレフィン系樹脂中のポリプロピレンの含有量は、前記ポリオレフィン系樹脂全体100質量%に対して、好ましくは25質量%以上60質量%未満、より好ましくは30質量%以上50質量%以下である。
【0040】
(iii)その他の樹脂成分
ポリオレフィン組成物は、必要に応じて高密度ポリエチレン及びポリプロピレン以外のその他の樹脂成分を含んでもよい。ポリプロピレン以外の樹脂成分としては、融点が150℃以上の結晶性樹脂(部分的に結晶性である樹脂を含む)、及び/又はガラス転移温度(Tg)が150℃以上の非晶性樹脂が好ましい。ここでTgはJIS K7121により測定することができる。
【0041】
樹脂成分の具体例としては、ポリエステル、ポリメチルペンテン[PMP又はTPX(トランスパレントポリマーX)、融点:230〜245℃]、ポリアミド(PA、融点:215〜265℃)、ポリアリレンスルフィド(PAS)、フッ素樹脂、ポリスチレン(PS、融点:230℃)、ポリビニルアルコール(PVA、融点:220〜240℃)、ポリイミド(PI、Tg:280℃以上)、ポリアミドイミド(PAI、Tg:280℃)、ポリエーテルサルフォン(PES、Tg:223℃)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、融点:334℃)、ポリカーボネート(PC、融点:220〜240℃)、セルロースアセテート(融点:220℃)、セルローストリアセテート(融点:300℃)、ポリスルホン(Tg:190℃)、ポリエーテルイミド(融点:216℃)等が挙げられる。樹脂成分は、単一樹脂成分からなるものに限定されず、複数の樹脂成分からなるものでもよい。樹脂成分の好ましいMwは、樹脂の種類により異なるが、一般的に1×10〜1×10であり、より好ましくは1×10〜7×10である。
【0042】
(3)ポリオレフィン多層微多孔膜
(i)各層の構成
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、第一の微多孔質層が両表面層であり、第二の微多孔質層が中間層である、少なくとも3層を有し、好ましくは、第一の微多孔質層/第二の微多孔質層/第一の微多孔質層である。
なお、本明細書において、中間層とは、両表面層間に介在する層であって、第二の微多孔質層からなる層をいう。
【0043】
両表層を形成する第一の微多孔質層(ポリエチレン系樹脂)の組成は、各層で同じであっても、異なっていてもよいが、同じであるのが好ましい。
また、中間層である第二の微多孔質層は通常一層でよいが、必要に応じて多層にしてもよい。例えば組成の異なる複数の第二の微多孔質層を設けてもよい。さらに、中間層である第二の微多孔質層以外の層を、両表面層間に設けてもよく、両表層と組成の異なる第一の多孔質層を設けてもよい。
さらに、ポリオレフィン多層微多孔膜は、必要に応じて、第一及び第二の微多孔質層以外の他の層を設けて、三層以上にすることもできる。また、ポリオレフィン多層微多孔膜は、必要に応じて、片面あるいは両面にコーティングを行うこともできる。
【0044】
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の各層の厚さは、特に限定されないが、第一の多孔質層/第二の多孔質層(固形分質量比)が好ましくは90/10〜10/90、より好ましくは90/10〜60/40である。両表面層を構成する第一の多孔質層の厚みは同じであっても異なっていてもよいが、生産性等の観点からは、同じであることが好ましい。
【0045】
(ii)各特性
(突刺強度)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の突刺強度は25g/μm以上であり、好ましくは27g/μm以上、より好ましくは30g/μm以上である。突刺強度が上記範囲であることにより、前記多層微多孔膜の機械的強度が優れ、電池用セパレータとして用いた場合、電極活物質などによる破膜が防止される。
突刺強度は、表層の超高分子量ポリエチレンの含有量を30質量%以上に調製したり、延伸温度を115℃以下にしたりすることなどにより、上記範囲に制御することができる。
なお、突刺強度は、後述の実施例に記載の方法により測定される値である。
【0046】
(静摩擦係数)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、金属箔(アルミニウム箔)に対する、前記両表面層におけるMD方向及びTD方向それぞれの静摩擦係数が、0.4以上、好ましくは0.4〜0.9、より好ましくは、0.4〜0.8である。静摩擦係数が上記範囲であることにより、前記多層微多孔膜を電池用セパレータとして用いた場合、隣接する電極(正極、負極)との密着性が向上し、電池とした際の高温時のセパレータの形状保持特性に優れ、結果として耐熱性が向上する。これは、電極との摩擦力の増大により熱による収縮が抑制され、それにより形状保持特性が向上するものと推察される。
また、本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、金属箔(アルミニウム箔)に対する、前記両表面層におけるMD方向及びTD方向それぞれの静摩擦係数の平均が、好ましくは0.4〜0.9、より好ましくは0.4〜0.8である。また摩擦係数のMD/TDの比率は0.8〜1.2が望ましい。
静摩擦係数は、例えば、両表層を形成する第一の微多孔質層の超高分子量ポリエチレン含有量を30質量%以上、多層ダイのリップ先端1と冷却ロール頂点2との角度θを45度以上、延伸温度を115℃以下に調製することなどより、上記範囲とすることができる。
なお、静摩擦係数は、JIS K7125に準拠し、後述の実施例に記載の方法により測定される値である。
【0047】
(メルトダウン温度)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜のメルトダウン温度は、180℃以上、好ましくは180〜190℃である。メルトダウン温度が上記範囲であることにより、より耐熱性に優れる。
メルトダウン温度は、多層微多孔膜中のポリプロピレンの含有量を5質量%〜15質量%に調製することなどより、上記範囲とすることができる。
なお、メルトダウン温度は、後述の実施例に記載の方法により測定される値である。
【0048】
(透気抵抗度)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の透気度は、好ましくは600sec/100cc以下であり、より好ましくは400sec/100cc以下である。透気度が上記範囲であることにより、セパレータとして用いた場合、イオン透過性に優れる。
透気度は、多層微多孔膜(多層膜全体)中のポリプロピレンの含有量を5〜15質量%とし、延伸温度や再延伸温度などを適宜調整することにより、上記範囲とすることができる。
なお、透気抵抗度(sec/100cc)は、JIS P−8117に準拠して測定される値である。
【0049】
(膜厚)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の膜厚は、1μm以上20μm未満、好ましくは3μm以上19μm未満、より好ましくは3μm以上16μm以下、更に好ましくは3μm以上13μm以下である。本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、膜厚が上記範囲であっても、十分な機械的強度及び耐熱性を有する。
なお、膜厚は、後述の実施例に記載の方法により測定される値である。
【0050】
(平均孔径)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜の平均孔径は、好ましくは0.001μm以上0.030μm未満、より好ましくは0.010μm以上0.030μm未満であることが好ましい。平均孔径は、第一の微多孔層及び第二の微多孔層のポリオレフィンの配合を調製したり、延伸温度を110〜115℃に調整したりすること等により制御することができる。平均孔径が0.001μm未満であると、電池用セパレータとして用いる場合において電解液の空孔内への充填が物理的に困難となり、充填できたとしてもイオンの通過に支障をきたしやすくなる。
なお、平均孔径は、後述の実施例に記載の方法により測定される値である。
【0051】
(BP細孔径)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜におけるバブルポイント(BP)細孔径(最大孔径)は、パームポロメータを用いて測定した最大孔径をいう。本発明のポリオレフィン多層微多孔膜においては、[BP細孔径(nm)]−[平均孔径(nm)]が15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。差が15nm以上であると孔径分布が広くなり、安全性能のバラツキも大きくなる。
【0052】
(耐熱性)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、正極と負極の間に配置し、150℃で1時間暴露した際の面積保持率が90%以上であることが好ましい。面積保持率が90%未満である場合、多層微多孔膜を電池用セパレータとして用いた場合、電池の発熱によりセパレータが収縮し、その端部で短絡が発生する可能性が高くなる。
なお、面積保持率は、後述の実施例に記載の方法により測定される値である。
【0053】
(空孔率)
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、空孔率が好ましくは20〜80%、より好ましくは30〜70%、さらに好ましくは35〜55%である。
なお、空孔率は、後述の実施例に記載の方法により測定される値である。
【0054】
2.ポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法
ポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法としては、特に限定されず、特許文献2、3に開示されるような、従来公知の方法を用いることができるが、例えば、下記の工程(1)〜(6)を含むことが好ましく、さらに下記の工程(7)を含むこともできる。
(1)各層を構成する原料(ポリエチレン系樹脂及びポリオレフィン系樹脂)と成膜用溶剤とをそれぞれ溶融混練し、第一及び第二のポリオレフィン溶液を調製する工程
(2)前記第一及び第二のポリオレフィン溶液を共押出し、積層シートを形成した後、冷却し、ゲル状積層シートを形成する工程
(3)前記ゲル状積層シートを延伸する工程
(4)前記延伸後のゲル状積層シートから成膜用溶剤を除去する工程
(5)前記成膜用溶剤除去後の積層シートを乾燥する工程
(6)前記乾燥後の積層シートを再延伸する工程
(7)前記延伸工程後の積層シートに対して架橋処理、親水化処理する工程
特に、工程(2)において、特定の条件下、第一及び第二のポリオレフィン溶液を、多層ダイにより同時に押出し、多層シートを形成することにより、各層間の密着性に優れ、かつ、電池用セパレータとして用いた場合、電極との密着性に優れるポリオレフィン多層微多孔膜を製造することができる。
以下、各工程についてそれぞれ説明する。
【0055】
(1)第一及び第二のポリオレフィン溶液の調製工程
前記ポリエチレン系樹脂及び前記ポリオレフィン系樹脂に、それぞれ適当な成膜用溶剤を添加した後、溶融混練し、第一及び第二のポリオレフィン溶液を調製する。第一及び第二のポリオレフィン溶液には必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤、顔料、染料、無機充填材等の各種添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。例えば、孔形成剤として微粉珪酸を添加できる。
【0056】
成膜用溶剤としては液体溶剤及び固体溶剤のいずれも使用できる。液体溶剤としてはノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の脂肪族又は環式の炭化水素、及び沸点がこれらに対応する鉱油留分が挙げられる。溶剤含有量が安定したゲル状シートを得るためには、流動パラフィンのような不揮発性の液体溶剤を用いるのが好ましい。固体溶剤は融点が80℃以下のものが好ましく、このような固体溶剤としてパラフィンワックス、セリルアルコール、ステアリルアルコール、ジシクロヘキシルフタレート等が挙げられる。液体溶剤と固体溶剤を併用してもよい。
【0057】
第一のポリオレフィン溶液中、ポリエチレン系樹脂と成膜用溶剤との配合割合は、特に限定されないが、ポリエチレン系樹脂又はポリオレフィン系樹脂20〜30質量部に対して、成膜溶剤70〜80質量部であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂の割合を20質量部未満にすると、第一又は第二のポリオレフィン溶液を押し出す際にダイ出口でスウェルやネックインが大きくなり、押出し成形体(ゲル状成形体)の成形性及び自己支持性が低下する。一方、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂の割合が30質量部を超えるとゲル状成形体の成形性が低下する。
【0058】
第一及び第二のポリオレフィン溶液の均一な溶融混練は特に限定されないが、二軸押出機中で行うのが好ましい。二軸押出機中での溶融混練は高濃度のポリオレフィン溶液を調製するのに適する。
【0059】
溶融混練温度は、ポリエチレン系樹脂の場合、ポリエチレン系樹脂の融点+10℃〜融点+100℃の範囲内とするのが好ましい。具体的には溶融混練温度は140〜250℃であるのが好ましく、170〜240℃であるのがより好ましい。
一方、ポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂の場合、ポリプロピレンの融点〜融点+70℃の範囲内とするのが好ましい。具体的には、融混練温度は170〜280℃であるのが好ましく、200〜270℃であるのがより好ましい。
また、ポリオレフィン系樹脂が、さらに耐熱性樹脂を含む場合、溶融混練温度を耐熱性樹脂の種類に応じて結晶性耐熱性樹脂の融点又は非晶性耐熱性樹脂のガラス転移温度(Tg)以上とするのが好ましい。
【0060】
成膜用溶剤は混練開始前に添加しても、混練中に二軸押出機の途中から添加してもよいが、後者が好ましい。溶融混練にあたってはポリエチレン系樹脂の酸化を防止するために酸化防止剤を添加するのが好ましい。
【0061】
(2)ゲル状シートの形成工程
第一及び第二のポリオレフィン溶液をそれぞれ押出機から1つのダイに送給し、そこで両溶液を層状に組合せ、シート状に押し出す。三層以上の構造を有する多層微多孔膜を製造する場合、第一のポリオレフィン溶液が少なくとも両表面層を形成し、第二のポリオレフィン溶液が両表層間の少なくとも一層を形成するように(好ましくは、両表面層の一方又は両方に接触するように)両溶液を層状に組合せ、シート状に押し出す。
【0062】
押出方法はフラットダイ法及びインフレーション法のいずれでもよい。いずれの方法でも、溶液を別々のマニホールドに供給して多層用ダイのリップ入口で層状に積層する方法(多数マニホールド法)、又は溶液を予め層状の流れにしてダイに供給する方法(ブロック法)を用いることができる。多数マニホールド法及びブロック法自体は公知であるので、それらの詳細な説明は省略する。多層用フラットダイのギャップは0.1〜3mmであり、押出し温度は140〜250℃が好ましく、押出速度は0.2〜15m/分が好ましい。第一及び第二のポリオレフィン溶液の各押出量を調節することにより、第一及び第二の微多孔層の膜厚比を調節することができる。
【0063】
また、このようにしてダイスから押し出された溶液は、ネックインが大きくなり、押出し成形体の成形性と、ポリオレフィン多層微多孔膜の平均孔径微細化、さらには表面層の金属箔に対する静摩擦係数の制御の観点から、図1に示されるように、多層ダイのリップ先端1と冷却ロール頂点2との角度θは45度以上にすることが好ましく、より好ましくは50〜90度、さらに好ましくは55〜85度である。
【0064】
ここで、多層ダイのリップ先端1と冷却ロール頂点2との角度θについて詳述する。まず、既述の図1について説明する。この図1は、冷却ロール2aを長手方向における一端側から見た図であり、当該冷却ロール2aの外周面(円状の外面)に沿って溶液が図1中反時計回り(左回り)に通流するように描画されている。従って、多層ダイにおける溶液の吐出口(リップ先端1)は、冷却ロール2aの長手方向に沿って伸びるように形成されている。
【0065】
冷却ロール2aに吐出された溶液は、後述するように、この冷却ロール2aにて冷却されてゲル状シートとなり、図1中右側に配置された延伸装置や巻取装置など(図示せず)に向かって通流していく。そのため、図1中左側から右側に向かう方向を「フィルム進行方向」と呼ぶ。
【0066】
この図1において、前記リップ先端1の下端面を通る水平な仮想上の面(以下、「第一の面」と呼ぶ)に符号「11」を付す。また、この第一の面11に対して平行で且つ冷却ロール2aの上面側外周部に接触する仮想上の面(以下、「第二の面」と呼ぶ)に符号「12」を付す。そして、図1において、リップ先端1から見て、第一の面11において既述のフィルム進行方向に沿って離間した任意の部位(図1中多層ダイよりも右側の部位)に符号「A」を付すとともに、前記第二の面12と冷却ロール2aとの接触点(実際には冷却ロール2aの長さ方向に沿って伸びる直線)に符号「B」を付すと、既述の角度θとは、図1において∠AOBを指している(ここで「O」は、既述のリップ先端1を表しており、接触点Bは冷却ロール頂点2と同義である)。
【0067】
従って、「角度θが90度」とは、リップ先端1の直下に既述の接触点Bが位置していることを表している。また、角度θが90度よりも小さい場合には、既述の図1を平面で見たとき(多層ダイや冷却ロール2a)を上方側から見たとき)、多層ダイに対して冷却ロール2aがフィルム進行方向に離間していることを表している。
また、Tダイのリップから冷却ロールまでの距離を300mm以下とし、角度θを上記範囲とすることにより、ゲル状成形体の成形性に優れ、冷却速度を50℃/分以上にすることができる。
【0068】
得られた積層押出し成形体を冷却することによりゲル状積層シートを形成する。冷却方法としては、冷媒で冷却したロールに接触させて冷却させることが好ましい。冷却ロールの温度は40℃以下にすることが好ましく、より好ましくは、10℃〜35℃、さらに好ましくは15〜32℃である。冷却ロールの温度を上記範囲にすることにより、得られるゲル状積層シートの高次構造が密になるからである。
また、冷却ロールの表面は、鏡面加工されていることが好ましい。
【0069】
冷却は少なくともゲル化温度までは50℃/分以上の冷却速度で行うのが好ましい。冷却は25℃以下まで行うのが好ましい。冷却により、成膜用溶剤によって分離された第一及び第二のポリオレフィンのミクロ相を固定化することができる。一般に冷却速度を遅くすると擬似細胞単位が大きくなり、得られるゲル状積層シートの高次構造が粗くなるが、冷却速度を速くすると密な細胞単位となる。冷却速度を50℃/分未満にすると結晶化度が上昇し、延伸に適したゲル状積層シートとなりにくい。冷却方法としては冷風、冷却水等の冷媒に接触させる方法、冷却ロールに接触させる方法等を用いることができる。
【0070】
(3)ゲル状積層シートの延伸
得られたゲル状積層シートを少なくとも二軸方向に延伸する。ゲル状積層シートは成膜用溶剤を含むので、均一に延伸できる。ゲル状積層シートは、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、又はこれらの組合せにより所定の倍率で延伸するのが好ましい。延伸は二軸延伸が好ましく、同時二軸延伸、逐次延伸及び多段延伸(例えば同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれでもよい。
【0071】
延伸倍率は、二軸延伸ではいずれの方向でも3倍以上が好ましい(面積倍率で9倍以上が好ましく、16倍以上がより好ましく、25倍以上が特に好ましい)。面積倍率を9倍以上とすることにより突刺強度が向上する。面積倍率が400倍を超えると、延伸装置、延伸操作等の点で制約が生じる。
【0072】
延伸温度は、110℃〜115℃の範囲内にするのが特に好ましい。
延伸温度が110℃未満ではポリエチレン系樹脂の軟化が不十分で、延伸により破膜しやすく、高倍率の延伸ができない。また、116℃以上の延伸温度では機械的強度が向上しにくい。
【0073】
以上のような延伸によりポリエチレンラメラ間に開裂が起こり、ポリエチレン相が微細化し、多数のフィブリルが形成される。フィブリルは三次元的に不規則に連結した網目構造を形成する。延伸により機械的強度が向上するとともに、細孔が拡大するので、電池用セパレータに好適である。
【0074】
所望の物性に応じて、膜厚方向に温度分布を設けて延伸してもよく、これにより一層機械的強度に優れた多層微多孔膜が得られる。その方法の詳細は日本国特許第3347854号に記載されている。
【0075】
(4)成膜用溶剤の除去
成膜用溶剤の除去(洗浄)に洗浄溶媒を用いる。第一及び第二のポリオレフィン相は成膜用溶剤相と分離しているので、成膜用溶剤を除去すると、微細な三次元網目構造を形成するフィブリルからなり、三次元的に不規則に連通する孔(空隙)を有する多孔質の膜が得られる。適当な洗浄溶媒としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、メチルエチルケトン等のケトン類、三フッ化エタン,C14,C16等の鎖状フルオロカーボン、C等の環状ハイドロフルオロカーボン、COCH,COC等のハイドロフルオロエーテル、COCF,COC等のパーフルオロエーテル等の易揮発性溶媒が挙げられる。
【0076】
ゲル状積層シートの洗浄は、洗浄溶媒に浸漬する方法、洗浄溶媒をシャワーする方法、又はこれらの組合せにより行うことができる。洗浄溶媒は、膜100質量部に対し、300〜30,000質量部使用するのが好ましい。洗浄温度は15〜30℃でよく、必要に応じて加熱洗浄すればよい。加熱洗浄の温度は80℃以下であるのが好ましい。洗浄溶媒による洗浄は、液体溶剤の残留量が当初の添加量の1質量%未満になるまで行うのが好ましい。
【0077】
(5)乾燥
成膜用溶剤を除去した積層微多孔膜を、加熱乾燥法又は風乾法により乾燥する。乾燥は、積層微多孔膜を100質量%(乾燥重量)として、残存洗浄溶媒が5質量%以下になるまで行うのが好ましく、3質量%以下になるまで行うのがより好ましい。乾燥が不十分であると、後段の積層微多孔膜の延伸工程及び熱処理工程を行ったときに積層微多孔膜の空孔率が低下し、透過性が悪化する。
【0078】
(6)再延伸
乾燥後の積層微多孔膜を、少なくとも一軸方向に延伸(再延伸)する。積層微多孔膜の延伸は、加熱しながら上記と同様にテンター法等により行うことができる。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸及び逐次延伸のいずれでもよいが、同時二軸延伸が好ましい。なお再延伸は通常延伸ゲル状積層シートから得られた長尺シート状の積層微多孔膜に対して行うので、再延伸におけるMD方向及びTD方向とゲル状積層シートの延伸におけるMD方向及びTD方向とは一致する。これは他の製造方法例でも同じである。
再延伸温度は、特に限定されないが、通常90〜135℃であり、より好ましくは95〜130℃である。
【0079】
積層微多孔膜の再延伸の一軸方向への倍率は1.1〜1.8倍とするのが好ましい。一軸延伸の場合、長手方向(MD方向)又は横手方向(TD方向)に1.1〜1.8倍とする。二軸延伸の場合、長手方向及び横手方向に各々1.1〜1.8倍とし、長手方向と横手方向で互いに同じでも異なってもよいが、同じであるのが好ましい。
【0080】
第一の微多孔質層は、超高分子量ポリエチレンの割合が30質量%以上であるので、1.1〜1.8倍に延伸しても、第二の微多孔質層に比べて、平均孔径が大きくならない。また、第二の微多孔質層もポリプロピレン含有量を25質量%以上60質量%未満、より好ましくは30質量%以上50質量%以下とすることで、平均孔径が小さくなる。第二の微多孔質層のポリプロピレン含有量を25質量%以下とすると、平均孔径は0.030μm以上となりやすくなる。
積層微多孔膜の再延伸倍率を1.1倍未満とすると、第二の微多孔質層に、ハイブリッド構造が形成されず、透過性、電解液吸収性及び電解液保持性が低下する。一方延伸倍率を1.8倍超とすると、フィブリルが細くなり過ぎ、しかも耐熱収縮性及び電解液保持性が低下する。延伸倍率は1.2〜1.6倍とするのがより好ましい。
【0081】
(7)架橋処理、親水化処理
また、接合後又は延伸後の多層微多孔質膜に対して、さらに、架橋処理および親水化処理を行うこともできる。
例えば、積層微多孔膜に対して、α線、β線、γ線、電子線等の電離放射線の照射することに、架橋処理を行う。電子線の照射の場合、0.1〜100Mradの電子線量が好ましく、100〜300kVの加速電圧が好ましい。架橋処理により積層微多孔膜のメルトダウン温度が上昇する。
また、親水化処理は、モノマーグラフト、界面活性剤処理、コロナ放電等により行うことができる。モノマーグラフトは架橋処理後に行うのが好ましい。
【0082】
3.電池用セパレータ
本発明のポリオレフィン多層微多孔膜は、ニッケル−水素電池、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、銀−亜鉛電池、リチウム二次電池、リチウムポリマー二次電池等の二次電池のセパレータとして好ましく用いることができるが、特にリチウム二次電池のセパレータとして用いるのが好ましい。以下リチウム二次電池を例にとって説明する。
【0083】
リチウム二次電池は、正極と負極がセパレータを介して積層されており、セパレータが電解液(電解質)を含有している。電極の構造は特に限定されず、従来公知の構造を用いることができ、例えば、円盤状の正極及び負極が対向するように配設された電極構造(コイン型)、平板状の正極及び負極が交互に積層された電極構造(積層型)、積層された帯状の正極及び負極が巻回された電極構造(捲回型)等にすることができる。これらの中でも、捲回型が好ましい。
【0084】
正極は、通常集電体と、その表面に形成され、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含む層とを有する。正極活物質としては、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物(リチウム複合酸化物)、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられ、遷移金属としては、V、Mn、Fe、Co、Ni等が挙げられる。リチウム複合酸化物の好ましい例としては、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、α−NaFeO型構造を母体とする層状リチウム複合酸化物等が挙げられる。
正極の製造方法としては、特に限定されず、例えば、正極活物質、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極ペーストを作製する。得られた正極ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させ、正極とすることができる。
【0085】
負極は、集電体と、その表面に形成され、負極活物質を含む層とを有する。負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック等の炭素質材料が挙げられる。負極の製造方法としては、特に限定されず、例えば、負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えて、負極ペーストを作成する。得られた負極ペーストを、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮し、負極とすることができる。
【0086】
電解液はリチウム塩を有機溶媒に溶解することにより得られる。リチウム塩としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、Li10Cl10、LiN(CSO、LiPF(CF、LiPF(C、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等の高沸点及び高誘電率の有機溶媒や、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキソラン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の低沸点及び低粘度の有機溶媒が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。特に高誘電率の有機溶媒は粘度が高く、低粘度の有機溶媒は誘電率が低いため、両者の混合物を用いるのが好ましい。
【0087】
電池を組み立てる際、セパレータに電解液を含浸させる。これによりセパレータ(多層微多孔膜)にイオン透過性を付与することができる。通常、含浸処理は多層微多孔膜を常温で電解液に浸漬することにより行う。円筒型電池を組み立てる場合、例えば正極シート、多層微多孔膜からなるセパレータ、及び負極シートをこの順に積層し、得られた積層体を一端より巻き取って捲回型電極素子とする。得られた電極素子を電池缶に挿入し、上記電解液を含浸させ、さらに安全弁を備えた正極端子を兼ねる電池蓋を、ガスケットを介してかしめることにより電池を作製することができる。
【0088】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものでなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【実施例】
【0089】
本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明の実施態様は、これらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で用いた評価法、分析の各法および材料は、以下の通りである。
【0090】
1.評価方法、分析方法
(1)透気抵抗度(sec/100cc)
旭精工(株)社製のデジタル型王研式透気度試験機EGO1を使用して、本発明のポリオレフィン製積層微多孔膜を測定部にシワが入らないように固定し、JIS P−8117(2009)に従って測定した。試料は5cm角とし、測定点は試料の中央部の1点として、測定値を当該試料の透気度[秒]とした。同様の測定を任意のフィルム位置から採取した10個の試験片について行い、10個の測定値の平均値を当該ポリオレフィン製積層微多孔膜の透気度とした(sec/100ml)。
【0091】
(2)膜厚(μm)
ポリオレフィン製積層微多孔膜の任意の位置からを長手方向5cm、幅方向5cmの正方形に切り出し、試験片を作製した。この試験片の任意の5点を厚み接触厚さ計により測定し、平均することにより、当該試験片の厚みとした。同一のポリオレフィン製積層微多孔膜について、10個の試験片を用意し、測定を行った。試験片10個の全ての平均値を当該ポリオレフィン製積層微多孔膜の厚みとした。
厚み測定機はミツトヨ(Mitsutoyo)製ライトマチックVL−50Aを用いた。
【0092】
(3)空孔率(%)
微多孔質膜の重量w1とそれと等価な空孔のないポリマーの重量w2(幅、長さ、組成の同じポリマー)とを比較した、以下の式によって、測定される。
空孔率(%)=(w2−w1)/w2×100
【0093】
(4)突刺強度(gf、g/μm)
先端が球面(曲率半径R:0.5mm)の直径1mmの針で、膜厚T1の多層微多孔膜を2mm/秒の速度で突刺したときの最大荷重を測定した。
【0094】
(5)平均孔径(平均流量孔径)及びバブルポイント(BP)細孔径(nm)
PMI社のパームポロメータ(商品名、型式:CFP−1500A)を用いて、Dry−up、Wet−upの順で測定した。Wet−upには表面張力が既知のGalwick(商品名)で十分に浸した微多孔膜に圧力をかけ、空気が貫通し始める圧力から換算される孔径を最大孔径とした。平均流量径については、Dry−up測定で圧力、流量曲線の1/2の傾きを示す曲線と、Wet−up測定の曲線が交わる点の圧力から孔径を換算した。圧力と孔径の換算は下記の数式を用いた。
d=C・γ/P
式中、「d(μm)」は微多孔膜の孔径、「γ(mN/m)」は液体の表面張力、「P(Pa)」は圧力、「C」は定数とした。
【0095】
(6)静摩擦係数
測定には島津製作所製オートグラフ(AGS−J)を用いた。ポリオレフィン微多孔膜の表(おもて)面A及び裏面Bのそれぞれ縦方向(MD)及び幅方向(TD)について、おのおの厚み50μmのアルミ箔(株式会社UACJ製箔社製硬質アルミ箔)との静摩擦係数を、JIS K7125(1999)に準拠して3回測定し平均した。なお、表面Aとは、冷却ロールに接触した面とは反対側(エア側)の面をいい、裏面Bとは冷却ロールに接触した面をいう。
【0096】
(7)落球メルトダウン温度
50mm角のポリオレフィン微多孔質膜を直径12mmの穴を有する金属製のブロック枠を用いて挟み、タングステンカーバイド製の直径10mmの球を前記多孔質膜上(ブロック枠における前記穴に重なる位置)に設置する。前記多孔質膜は水平方向に平面を有するように設置される。30℃からスタートし、5℃/分で昇温する。前記多孔質膜がボールによって破膜されたときの温度を3回測定し、平均温度をメルトダウン温度とした。
【0097】
(8)耐熱性の評価(150℃暴露試験)
50mm角のポリオレフィン微多孔膜を、50mm角の正極(コバルト酸リチウム:パイオトレック社製)と負極(グラファイト:パイオトレック社製)との間に挟み、それをガラス板(3t×50×80mm)2枚との間に、ガラス板の長辺がMD方向となるよう正極、ポリオレフィン微多孔膜、負極の順で挟んだサンプルを入れ、外側からガラス板の短辺のみをクリップで10mmの位置で固定し、評価用サンプルとした(図2)。前記サンプルを150℃のオーブン中に1時間静置した。その後、サンプルをオーブンから取り出し、十分、冷却した後、試験前のサンプル面積100%として、試験後のサンプルの面積保持率を測定した。耐熱性評価として、面積保持率が95%以上である場合を○(優)、90%〜95%である場合を△(良)、90%以下である場合を×(不可)と評価した。
【0098】
(9)重量平均分子量(Mw)
UHMWPE及びHDPEのMwは以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。
・測定装置:Waters Corporation製GPC−150C
・カラム:昭和電工株式会社製Shodex UT806M
・カラム温度:135℃
・溶媒(移動相):o−ジクロルベンゼン
・溶媒流速:1.0 ml/分
・試料濃度:0.1 wt%(溶解条件:135℃/1h)
・インジェクション量:500μl
・検出器:Waters Corporation製ディファレンシャルリフラクトメーター(RI検出器)
・検量線:単分散ポリスチレン標準試料を用いて得られた検量線から、所定の換算定数を用いて作成した。
【0099】
(10)電解液の濡れ性
50mm角のポリオレフィン微多孔膜を65×100mm角のガラス板上に設置し、炭酸プロピレン0.5mlを膜に滴下し、浸透時間を5回測定し、すべて5分以内である場合を○(優)、1つでも5分以上である場合を×(不可)と評価した。
【0100】
2.実施例
(実施例1)
(1)第一のポリオレフィン溶液の調製
Mwが2.0×10の超高分子量ポリエチレン(UHPE)40質量%及びMwが5.6×10の高密度ポリチレン(HDPE)60質量%からなるポリエチレン系樹脂100質量部に、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、混合物を調製した。
得られた混合物25質量部を強混練タイプの二軸押出機に投入し、二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン[35cSt(40℃)]75質量部を供給し、230℃及び250rpmの条件で溶融混練して、第一のポリオレフィン溶液を調製した。
【0101】
(2)第二のポリオレフィン溶液の調製
Mwが5.6×10の高密度ポリチレン(HDPE)及びMwが1.6×10のポリプロピレン(PP)50質量%からなるポリオレフィン系樹脂100質量部に、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、混合物を調製した。
得られた混合物30質量部を、上記と同タイプの別の二軸押出機に投入し、二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン[35cSt(40℃)]70質量部を供給し、上記と同条件で溶融混練して、第二のポリオレフィン溶液を調製した。
【0102】
(3)押出
第一及び第二のポリオレフィン溶液を、各二軸押出機から三層用Tダイに供給し、第一のポリオレフィン溶液/第二のポリオレフィン溶液/第一のポリオレフィン溶液の層厚比が40/20/40となるように押し出した。押出し成形体を、31℃に温調した冷却ロール(直径500mm)に引き取りながら冷却し、ゲル状三層シートを形成した。このとき、ダイリップと冷却ロールとの角度θは45度となるように調整した。
(4)ゲル状積層シートの延伸、成膜溶剤の除去、乾燥
ゲル状三層シートを、114℃で5×5倍に同時2軸延伸を行い、延伸膜を得た。得られた延伸膜を塩化メチレンで洗浄して残留する流動パラフィンを抽出除去し、乾燥した。
(5)積層微多孔質膜の再延伸、熱固定
得られた積層微多孔質膜を、テンター延伸機により124℃の温度でTD方向に1.6倍に再延伸した後、そのままテンター延伸機内で幅を固定しポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
作成したポリオレフィン三層微多孔膜の各成分の配合割合、製造条件、評価結果等を表1に記載した。
【0103】
(実施例2)
ポリオレフィン三層微多孔膜の厚み比を42.5/15/42.5とし、冷却ロールまでの角度θを75度とし、再延伸、熱固定は127℃の温度でTD方向に1.6倍に再延伸した以外は、実施例1と同様な条件により、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
【0104】
(実施例3)
冷却ロールの温度を18℃とし、再延伸、熱固定は125℃の温度でTD方向に1.6倍に再延伸した以外は、実施例2と同様な条件により、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
【0105】
(実施例4)
表1に示す割合で樹脂を混合し、ポリオレフィン三層微多孔膜の厚み比を35/30/35とし、冷却ロールまでの角度θを75度、冷却ロール温度を37℃とし、延伸温度を114℃、再延伸、熱固定は124℃の温度でTD方向に1.4倍に再延伸した以外は、実施例1と同様な条件により、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
(実施例5)
ポリオレフィン三層微多孔膜の再延伸、熱固定温度を123℃の温度にし、膜厚を8μmとした以外は、実施例4と同様な条件により、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
(実施例6)
再延伸、熱固定を126℃で行った以外は実施例3と同様の条件により膜厚が6μmのポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
【0106】
(比較例1)
表1に示す割合で樹脂を混合し、両表面層を第二のポリオレフィン溶液、中間層を第一のポリオレフィン溶液を用い、厚み比を15/70/15とし、冷却ロール温度を20℃、延伸温度を116℃、再延伸、熱固定は124℃の温度でTD方向に1.3倍に再延伸したとした以外は、実施例1と同様な条件により、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
【0107】
(比較例2)
厚み比を10/80/10とし、再延伸、熱固定は125℃の温度でTD方向に1.3倍に再延伸した以外は、比較例1と同様な条件により、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
【0108】
(比較例3)
表1に示す割合で樹脂を混合し、厚み比を10/80/10、冷却ロールからの角度θを41度、冷却ロール温度を29℃、延伸温度を115℃、再延伸、熱固定は125℃の温度でTD方向に1.4倍に再延伸した以外は、比較例1と同様な条件により、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
【0109】
(比較例4)
冷却ロール温度を15℃とし、再延伸、熱固定は124℃の温度でTD方向に1.3倍に再延伸した以外は、比較例2と同様な条件により、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
【0110】
(比較例5)
表1に示す割合で樹脂を混合し、厚み比を7.5/85/7.5、冷却ロールまでの角度θを43度、冷却ロール温度を40℃、再延伸、熱固定は125℃の温度でTD方向に1.4倍に再延伸した以外は、比較例1と同様な条件により、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
【0111】
(比較例6)
表1に示す割合で樹脂を混合し、厚み比を40/20/40、冷却ロールまでの角度θを37度、冷却ロール温度を21℃、延伸温度を115℃、再延伸、熱固定は126℃の温度でTD方向に1.4倍に再延伸した以外は、実施例5と同様な条件により、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
【0112】
【表1】
【0113】
本発明の要件を満たす実施例1〜6では、突刺強度等の機械的強度が十分であり、また、静摩擦係数がすべての条件で0.4以上であり、メルトダウン温度も180℃以上であるため、150℃暴露試験においても、面積保持率が90%以上であり、耐熱性に優れることが明かである。
一方、比較例1〜4では、表面層がポリオレフィン系樹脂からなり、中間層がポリエチレン系樹脂からなるため、片面あるいは両面のMD及びTD方向のいずれかの静摩擦係数が0.4以下となり、メルトダウン温度が180℃以上とならない。また。比較例5では、表層のポリプロピレン含有量多いため、電解液の濡れ性が悪く、電解液透気抵抗度が600sec/100cc以上であり電池性能が悪化する。さらに、比較例6では、層構造は実施例4、5と同様であるが、製造条件が異なるため、片面あるいは両面のMD及びTD方向のいずれかの静摩擦係数が0.4以下となり、メルトダウン温度が180℃以上とならない。
【符号の説明】
【0114】
1(O) リップ先端
2(B) 冷却ロール頂点
3、θ ダイリップと冷却ロールとの角度

【要約】
機械的強度及び耐熱性に優れたポリオレフィン多層微多孔膜及び電池用セパレータの提供。
超高分子量ポリエチレンを含むポリエチレン系樹脂からなる第一の微多孔質層(表面層)と、高密度ポリエチレン及びポリプロピレンを含むポリオレフィン樹脂からなる第二の微多孔質層(中間層)と、を含む少なくとも3層を有し、(I)突刺強度がが25g/μm以上、(II)アルミニウム箔に対する静摩擦係数が0.40以上及び(III)メルトダウン温度が180℃以上であるポリオレフィン多層微多孔膜による。
図1
図2