特許第5876634号(P5876634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5876634
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】有機塩素系農薬分解剤及び浄化方法
(51)【国際特許分類】
   A62D 3/34 20070101AFI20160218BHJP
   A62D 3/37 20070101ALI20160218BHJP
   B09C 1/02 20060101ALI20160218BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20160218BHJP
   C02F 1/70 20060101ALI20160218BHJP
   C07B 35/06 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   A62D3/34
   A62D3/37
   B09B3/00 304K
   C02F1/70
   C07B35/06ZAB
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2008-177780(P2008-177780)
(22)【出願日】2008年7月8日
(65)【公開番号】特開2010-17219(P2010-17219A)
(43)【公開日】2010年1月28日
【審査請求日】2011年6月24日
【審判番号】不服2014-11020(P2014-11020/J1)
【審判請求日】2014年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】506347517
【氏名又は名称】DOWAエコシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(72)【発明者】
【氏名】上原 大志
【合議体】
【審判長】 星野 紹英
【審判官】 國島 明弘
【審判官】 日比野 隆治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−9179(JP,A)
【文献】 特開2004−57881(JP,A)
【文献】 特開2004−211088(JP,A)
【文献】 特開2003−334534(JP,A)
【文献】 特開2006−75591(JP,A)
【文献】 国際公開第90/02789(WO,A1)
【文献】 特開2002−069425(JP,A)
【文献】 特開2003−253309(JP,A)
【文献】 特開2004−211088(JP,A)
【文献】 特開2004−057881(JP,A)
【文献】 特開2007−229669(JP,A)
【文献】 特開2006−272118(JP,A)
【文献】 特表2001−518057(JP,A)
【文献】 特開2009−72742(JP,A)
【文献】 特開2007−215552(JP,A)
【文献】 特開2007−209824(JP,A)
【文献】 特開2007−63528(JP,A)
【文献】 特開2006−247483(JP,A)
【文献】 特開2006−193671(JP,A)
【文献】 特開2005−66456(JP,A)
【文献】 特開2004−115411(JP,A)
【文献】 特開2004−113907(JP,A)
【文献】 特開2003−339902(JP,A)
【文献】 特開2003−136051(JP,A)
【文献】 特開2003−89785(JP,A)
【文献】 特開2001−9475(JP,A)
【文献】 再公表特許第00/29137(JP,A1)
【文献】 特開2000−5740(JP,A)
【文献】 特開平7−313619(JP,A)
【文献】 特開平1−203265(JP,A)
【文献】 特開平1−131676(JP,A)
【文献】 特開昭54−131589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D3/34,3/37
C02F1/70
B09C1/02,1/08
C07B35/06
A62D101/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポーラス状鉄粉と、銅源とを回転ボールミルで機械的混合してなり、表面に凹凸及び空隙を有するポーラス状銅含有鉄粉を含み、BET比表面積が2.71mgであり、
α−BHC、β−BHC、γ−BHC及びδ−BHCから選択される少なくとも1種のヘキサクロロシクロへキサン(BHC)の分解作用を有することを特徴とする有機塩素系農薬分解剤。
【請求項2】
ポーラス状鉄粉が還元鉄粉を含み、銅源が銅塩、金属銅又は銅溶液を含む請求項1に記載の有機塩素系農薬分解剤。
【請求項3】
ポーラス状銅含有鉄粉中の銅の含有量が、鉄に対する銅の割合(Cu/Fe)の質量%換算で、0.1質量%〜10質量%である請求項1から2のいずれかに記載の有機塩素系農薬分解剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の有機塩素系農薬分解剤を、ヘキサクロロシクロへキサン(BHC)で汚染された土壌、及びBHCで汚染された水の少なくともいずれかに付与して、汚染土壌及び汚染水中のBHCを分解することを特徴とする浄化方法。
【請求項5】
副生成物がベンゼン及び塩化物イオンのみである請求項4に記載の浄化方法。
【請求項6】
ヘキサクロロシクロへキサン(BHC)が、α−BHC、β−BHC、γ−BHC及びδ−BHCから選択される少なくとも1種である請求項4から5のいずれかに記載の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌、及び地下水等の水に含有される有機塩素系農薬であるヘキサクロロシクロへキサンの分解に使用される有機塩素系農薬分解剤及び浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサクロロシクロヘキサン(BHC;1,2,3,4,5,6-Hexachlorocyclohexane)のうちγ−BHCは有機塩素系農薬として広く使用されてきたが、その残留性の高さから環境汚染源となる可能性がある。このため、前記BHCについて種々の処理方法が提案されている。
例えばBHCで汚染された土壌等を高温で加熱燃焼させる燃焼法が採用されているが、加熱分解処理の際に大量のダイオキシン類の分解か、発生の抑制をしなければならないという問題がある。
また、特許文献1には、難分解性有機ハロゲン化合物を含有する土壌、汚泥等の汚染物質から、沸点が80℃〜200℃の芳香族系炭化水素又は脂環式炭化水素からなる溶剤により前記難分解性有機ハロゲン化合物を抽出し、抽出された難分解性有機ハロゲン化合物に、沸点がアルカリ金属の融点よりも高い芳香族系炭化水素からなる分散媒にアルカリ金属を分散させたアルカリ金属分散体を反応させて、前記難分解性有機ハロゲン化合物を脱ハロゲン化処理することが提案されている。
しかし、この提案では、加熱が必要となり、浄化に大掛かりな工事を要するという問題があるのが現状である。
【0003】
【特許文献1】特開2004−113907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、簡易かつ短期での有機塩素系農薬としてのヘキサクロロシクロヘキサン(BHC)の浄化が可能であり、有害かつ難処理の副生成物が残留しない有機塩素系農薬分解剤、及び該有機塩素系農薬分解剤を用いた浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> ポーラス状鉄粉と、銅源とを機械的混合してなるポーラス状銅含有鉄粉を含むことを特徴とする有機塩素系農薬分解剤である。
<2> ポーラス状鉄粉が還元鉄粉を含み、銅源が銅塩、金属銅又は銅溶液を含む前記<1>に記載の有機塩素系農薬分解剤である。
<3> 機械的混合が、振動ボールミル、回転ボールミル等の容器内で粉砕用媒体を駆動させるタイプの粉砕・混合装置を用いて行われる前記<1>から<2>のいずれかに記載の有機塩素系農薬分解剤である。
<4> ポーラス状銅含有鉄粉中の銅の含有量が、鉄に対する銅の割合(Cu/Fe)の質量%換算で、0.1質量%〜10質量%である前記<1>から<3>のいずれかに記載の有機塩素系農薬分解剤である。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の有機塩素系農薬分解剤を、有機塩素系農薬で汚染された土壌、及び有機塩素系農薬で汚染された水の少なくともいずれかに付与して、汚染土壌及び汚染水中の有機塩素系農薬を分解することを特徴とする浄化方法である。
<6> 有機塩素系農薬が、ヘキサクロロシクロへキサン(BHC)である前記<5>に記載の浄化方法である。
<7> ヘキサクロロシクロへキサンを分解した後、残留するベンゼンを揮発させた後に回収、又は微生物分解処理する前記<6>に記載の浄化方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、簡易かつ短期での有機塩素系農薬としてのヘキサクロロシクロヘキサン(BHC)の浄化が可能であり、有害かつ難処理の副生成物が残留しない有機塩素系農薬分解剤、及び該有機塩素系農薬分解剤を用いた浄化方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(有機塩素系農薬分解剤)
本発明の有機塩素系農薬分解剤は、ポーラス状鉄粉と、銅源とを機械的混合してなるポーラス状銅含有鉄粉を含み、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0008】
−ポーラス状鉄粉−
前記ポーラス状鉄粉とは、鉄粉を構成する粒子群が、それぞれ内部に大小さまざまな空孔をもつことを意味する。前記空孔は、粒子外部と接触している場合も、独立している場合もある。
前記ポーラス状鉄粉は、還元鉄粉を含むことが好ましい。該還元鉄粉としては、鉄鉱石の還元により製造されたものが好ましく、該還元鉄粉の粒径などついては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記原料鉄粉としては鉄を主成分としていればよく、2次汚染源となるクロム、鉛等の成分を含有しないものが好ましい。前記原料鉄粉の組成については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、全鉄が80%以上、金属鉄が75%以上であることが好ましい。
前記還元鉄粉としては、特に制限はなく、市販品を用いることができ、該市販品としては、例えばDOWA IP クリエイション社製の還元鉄粉(ロータリーキルン粉)、などが好適に用いられる。
【0009】
−銅源−
前記銅源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば銅塩、金属銅、又は銅溶液などが挙げられる。
前記銅塩としては、銅源となり、鉄粉表面において更に小さく接触し、点在できれば特に制限はなく、各種銅塩を用いることができるが、硫酸銅が特に好ましい。
前記硫酸銅は、結晶水を持つCuSO・5HOの形態で通常入手できるが、本発明においては、結晶水はできるだけ除去しておく方が好ましい。結晶水からの水分や、ミル表面の付着水分や雰囲気中の水分等は、還元鉄粉と硫酸銅粉との混合中に硫酸銅水溶液が生成し、その水溶液中のCuイオンが鉄の粒子表面で還元されて金属銅として析出し,この析出した金属銅の被膜で鉄粒子表面を被覆してしまうことがある。鉄粉粒子表面が金属銅で完全に覆われてしまうと、有機塩素系農薬分解剤としての機能が低下することがある。したがって、硫酸銅の結晶水はできるだけ除去するのが好ましく、また水分ができるだけ混入しないような乾式で鉄粉との混合処理を行うのがよく、不活性ガス雰囲気中で混合処理を行うのがよい。なお、CuSO4・5HOは加熱によって結晶水を除去することができ、例えば45℃加熱で2分子の除去、110℃加熱で4分子の除去、250℃加熱で全分子の除去が行える。
前記銅源として金属銅粉を使用できるほか、銅塩を溶液に溶解させた溶液、例えば硫酸銅を溶解した硫酸銅溶液などを前述のポーラス状鉄粉と接触させることにより、鉄粒子表面に金属銅もしくは銅塩を析出させる方法などがある。
【0010】
前記ポーラス状銅含有鉄粉中の銅の含有量が、鉄に対する銅の割合(Cu/Fe)の質量%換算で、0.1質量%〜10質量%であることが好ましく、0.1質量%〜1質量%がより好ましい。前記含有量が、0.1質量%未満であると、必要とされる有機塩素系農薬の分解能力を満たさない、もしくは鉄粉内にその性能の偏在が生じることがあり、10質量%を超えると、鉄粒子表面のFe/Cuバランスから、添加した銅量に見合う性能が得られない、もしくは過剰な銅が銅イオンとして地下水中などに拡散・流出する原因となることがある。
【0011】
前記有機塩素系農薬分解剤の製造方法は、原料鉄粉の粒子に剪断力や圧力を加え、原料鉄粉を解砕程度の粉砕をしながら、硫酸銅(粉)を原料鉄粉に添加する。粉砕時においては、鉄粉表面のポーラス状態(凹凸、空隙)が潰れた平滑にならない程度の粉砕強度とする。原料鉄粉が粉砕される程度の強さであれば硫酸銅が原料鉄粉に付着し、固着するには十分な強さである。
前記ポーラス状鉄粉と、銅源との機械的混合は、振動ボールミル、回転ボールミル等の容器内で粉砕用媒体を駆動させるタイプの粉砕・混合装置を用いて行われることが好ましく、通常のボールミルでの混合や粉砕処理を円滑にするために使用される分散剤や潤滑剤などは本発明では使用しないのが好ましい。
前記銅源が、銅溶液の場合であっても、処理操作は銅塩又は銅粉の場合と同様である。混合強度、時間、配合量比を適宜設定すればよい。銅溶液であれば鉄粉との接触だけでもイオン化傾向から鉄粉表面に銅が析出するからである。
【0012】
前記ポーラス状銅含有鉄粉の平均径は1μm〜500μmが好ましく、25μm〜250μmがより好ましく、代表的には平均平面径が50μm〜500μmの範囲、平均厚さが1μm〜50μmの範囲であるのが好ましい。
【0013】
本発明の有機塩素系農薬分解剤は、有機塩素系農薬であるBHCで汚染された水、土壌、無機物、有機物、又はこれらの混合物などについて、その有機塩素系農薬を分解することができ、特に環境分野においては有機塩素系農薬で汚染された排水、地下水、土壌、排ガス等の浄化に用いることができる。
【0014】
(浄化方法)
本発明の浄化方法は、本発明の前記有機塩素系農薬分解剤を、有機塩素系農薬で汚染された土壌、及び有機塩素系農薬で汚染された水の少なくともいずれかに付与して、汚染土壌及び汚染水中の有機塩素系農薬を分解する。
【0015】
前記有機塩素系農薬としては、BHCが好適に挙げられる。このBHCの物性及び概要は以下の通りである。
【化1】
(出展:環境省編「農薬等の環境残留実態調査分析法」)
【0016】
前記BHCは、シクロヘキサンの各炭素に付加した2つの水素基のうち1つがそれぞれ塩素基に置換された構造を持つ。BHCはいくつかの立体配座異性体を持ち、その中でもγ体はリンデンと呼ばれ、有機塩素系農薬として一般的に広く使用されている。
【0017】
本発明の浄化方法は、例えば図1に示すようにして行うことができる。
前記BHCは水への溶解度が非常に低いため、土壌中での物質移動が小さい。このため有機塩素系農薬分解剤との接触機会を増加させるため、適宜混練を行うことが好ましい。
有機塩素系農薬分解剤によるBHC分解速度は非常に速いので、混練1日後に土壌のBHC分析を行い、浄化確認を行う。BHCが指針値をクリアした時点で、残留するベンゼンを揮発させた後に回収処理を行い、浄化土壌を得る。
【0018】
本発明の浄化方法は、脱塩素速度が早いので、短期の浄化が可能となり、副生成物としてベンゼン及び塩化物イオンのみが生成するので、ベンゼンを揮発させた後に回収処理することにより安全かつ簡易な処理が可能である。また、処理対象土壌中にてベンゼンを分解する微生物を添加、又は培養する方法を用いてもよい。前記微生物処理は、浄化期間が長期化となるが、処理コストが低いなどの有意な点もある。微生物は、元土、水に存在しているので、ベンゼンを分解する微生物を培養し、用いると効率的である。なお、外部の効果的な微生物を利用してもよい。
【0019】
本発明の前記有機塩素系農薬分解剤の汚染土壌及び汚染水への付与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記分解剤を水に分散させた状態で汚染土壌に噴霧したり、汚染土壌に散水したり、汚染水と混合したりして使用することができる。
また、汚染土壌の浄化方法としては、例えば従来の工法に用いるアースオーガ等の重機をそのまま用いることも可能である。また、有機塩素系農薬分解剤の保管は、フレコン、紙袋等の市販の包装容器で十分であり、ハンドリング及び保管のいずれにおいても優れている。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
−BHC分解用鉄粉の製造試験−
還元鉄粉(DOWA IP クリエイション社製、ロータリーキルン粉)500gと、事前に200℃空気気流中にて2hrの熱処理を行い結晶水の脱水処理を行った硫酸銅(1水塩)粉14.0gとを回転ボールミルに装入して乾式で機械混合し、両粉の粒子が接合したポーラス状銅含有鉄粉を得た。以下、得られたポーラス状銅含有鉄粉を単に「本銅含有鉄粉」という。
本銅含有鉄粉の粒度分布、及びBET値(BET1点法)を表1に示す。粒度分布はレーザー回折式粒度分布測定装置により測定した。
なお、表1には参考として特開2007−9179号公報に記載の扁平鉄粉の結果を併記した。また、本銅含有鉄粉のSEM写真を図2に示す。図2のSEM写真から、本銅含有鉄粉の表面は凹凸が密に有り、空隙がありポーラス状となっていることが分かった。
【0022】
【表1】
*BHC分解性能は、初期濃度3.3mg/lのβ−BHCに対して、下記実験を行った場合の24時間経過後のβ−BHC分解量(%)を表す。
【0023】
−水溶液系での処理試験−
擬似汚染水としたBHC水溶液と、本銅含有鉄粉のみの単純系にて、本製造法にて試作した鉄粉のBHC処理効果を確認するための試験を下記の通り実施した。処理試験の方法及び条件を図3に示す。
【0024】
(1)BHC濃度の低減効果
BHC分析は、「農薬等の環境残留実態調査分析法」に基づく方法及び条件にて実施した。各構造異性体の試験サンプルについて、試験開始から20日間経過後の結果を表2に示す。
【0025】
【表2】
表2の結果から、4種の各構造異性体全てにおいてBHC濃度の低下が認められ、20日間の処理時間で最も残留量の高いδ−BHCにおいても初期濃度の1/1,000以下となる1μg/Lオーダーまで低下しており、本銅含有鉄粉によるBHC分解が進行していることが示唆された。
【0026】
<副生成物の評価>
(1)POPs分析法
POPs分析手法でのGC−MS結果から、分解による最終生成物及び副生成物の評価を実施したところ、直鎖、芳香族、シクロヘキサンを基本骨格とする化合物の可能性がある微少ピークの存在はあるものの、塩素化有機化合物の存在の可能性は非常に小さいという結果となった。
【0027】
(2)ヘッドスペース・ガス評価(GC−FID)
密閉系試験についてはBHC分解の過程で密閉バイアル瓶のヘッドスペース・ガスを採取し、GC−MS、GC−FIDによるガス分析を実施した。その結果、BHC濃度の減少に伴ってベンゼンの生成が確認された。即ち、ベンゼン濃度を測定することによりBHCの分解状況を評価した。ベンゼン濃度が上昇すれば、BHCはより多く分解されたと言える。
β−BHCに対して鉄粉処理を実施した場合のベンゼンの生成量(β−BHC初期濃度:3.8mg/L=1.3×10―2mmol/L)について、図4に示す。
ここで、図4中、「特殊鉄粉」は、本銅含有鉄粉を意味する。
「鉄粉E200」は、DOWA IP クリエイション社にて製造する還元鉄粉の1銘柄を意味する。
「鉄粉E401」は、DOWA IP クリエイション社にて製造する土壌・地下水浄化用鉄粉の1銘柄を意味する。
図4の結果から、本銅含有鉄粉では、試験液のBHC初期濃度に対し生成物の99.9%以上はベンゼンであることが確認できた。更に他の副生成物の存在が認められないことから、BHCのほぼ全量が二分子的脱塩素反応で最終生成物としてベンゼンに至ることが確認された。
【0028】
(実施例2)
BHC溶液50mlと、実施例1にて製造したポーラス状銅含有鉄粉0.5gとをバイアル瓶内に同伴させ、静置において分解試験を行った。そのフローを図5に示す。BHCの分解状況は1時間毎に、ベンゼン濃度と、BHC溶液中の塩素イオン濃度を測定し、評価した。ベンゼンの分析方法は実施例1と同様である。塩素イオンは、水溶液中の塩化物イオンをイオンクロマトグラフによって分析した。結果を表3に示す。また、表3によりBHCの初期濃度から分解による生成物の比率をプロットした結果を図6に示す。
この図6の結果から、BHC初期濃度に対し、生成物の発生比率が1となることでBHCがほぼ全量分解されたことが分かった。
【0029】
【表3-1】
【0030】
【表3-2】
【0031】
(実施例3)
−土壌を用いた処理試験−
模擬的にAサイト及びBサイトの土壌試料を用いて、還元鉄粉(DOWA IP クリエイション社製、ロータリーキルン粉)500gと、事前に200℃空気気流中にて2hrの熱処理を行い結晶水の脱水処理を行った硫酸銅(1水塩)粉14.0gとを回転ボールミルに装入して乾式で機械混合し、両粉の粒子が接合したポーラス状銅含有鉄粉(本銅含有鉄粉)によるBHCの分解処理が、実施例1の水溶液系と同様に可能であるかを確認するため、下記に示す試験を実施した。
【0032】
−土壌試料−
本銅含有鉄粉による処理試験前の土壌のBHC溶出値を表4に示す。
【表4】
【0033】
−試験方法及び条件−
各サイトの土壌試料に対して、図7に示す試験方法及び条件で本銅含有鉄粉でのBHC処理試験を実施した。
本銅含有鉄粉混合を実施した土壌試料は15℃恒温室に静置し、設定した評価期間毎に土壌もしくはヘッドスペース・ガスのサンプリングを行い、分析を実施した。実施例1,2と同様にベンゼン濃度を測定し、その値から土壌中の残存BHC分解量を換算した。
【0034】
<BHC濃度の低減効果>
Aサイトの鉄粉処理結果(本銅含有鉄粉混合25日後)を表5に示す。
【表5】
【0035】
Aサイトの鉄粉処理結果本銅含有鉄粉混合50日後)を表6に示す。
【表6】
【0036】
Bサイトの鉄粉処理結果(本銅含有鉄粉混合25日後)を表7に示す。
【表7】
【0037】
Bサイトの鉄粉処理結果(本銅含有鉄粉混合50日後)を表8に示す。
【表8】
【0038】
表5〜表8の結果から、総BHC及び各構造異性体ともに減少傾向が確認でき、構造異性体に関わらず濃度減少が進行することが確認された。
【0039】
<副生成物の評価>
実施例1の水溶液系試験と同様にしてPOPs分析法、ヘッドスペース・ガス分析、及びイオンクロマトグラフ分析を実施したところ、ベンゼン以外の有機化合物の検出は認められなかった。
【0040】
以上の結果から、本銅含有鉄粉を混合することにより、BHC濃度の低減と、それに伴い脱塩素生成物であるベンゼンの生成が確認された。実際のBHC汚染土壌の浄化にあたっては、鉄粉処理を実施し、BHCをベンゼンに変換させた後、ホットソイル工法などベンゼンの揮発・回収処理プロセスを加えることにより、BHC汚染土壌の無害化処理を行うことができると判断した。この場合、本銅含有鉄粉によってBHC濃度が農薬環境管理指針値0.013mg/L以下となることが必要条件となる。今回の試験の範囲では、BHCについて指針値を下回ることが可能であると判断した。
また、BHCの分解に伴う生成物はベンゼンである。その他、二次汚染の原因となるような有害な副生成物は検出されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の有機塩素系農薬分解剤は、簡易かつ短期での有機塩素系農薬としてのヘキサクロロシクロヘキサン(BHC)の浄化が可能であり、有害かつ難処理の副生成物が残留しないので、BHCで汚染された排水、地下水、土壌、排ガス等の浄化に幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、本発明の土壌の浄化方法の一例を示す工程図である。
図2図2は、本銅含有鉄粉のSEM写真である。
図3図3は、BHC水溶液と本銅含有鉄粉のみの単純系にて、本銅含有鉄粉のBHC処理効果を確認する試験の方法及び条件を示す図である。
図4図4は、本銅含有鉄粉によるBHC処理試験におけるベンゼン生成量を示すグラフである。
図5図5は、実施例2の分解試験のフローを示す図である。
図6図6は、実施例2におけるBHCの初期濃度から分解による生成物の比率をプロットしたグラフである。
図7図7は、土壌を用いた処理試験の方法及び条件を示す図である。
図1
図3
図4
図5
図6
図7
図2