【実施例】
【0037】
〈実施例1〉
AlN基板の両面にアルミニウム合金が溶湯接合(直接接合)された放熱基板「アルミック」(商標登録)を用いて、ろう付けにより液冷一体型基板を製作するための基礎試験を行った。
【0038】
まず、長さ40mm×幅40mm×厚さ4mmの板材、長さ40mm×幅40mm×6mmの板材、長さ40mm×幅40mm×8mmの板材の3種類の、材質が合金番号A1100材(純アルミニウム)からなる放熱器と、
図4に示す長さ40mm×幅40mm×厚さ8.08mmの多孔管(材質:合金番号A6063アルミニウム合金製)からなる放熱器を準備した。多孔管からなる放熱器には、
図4の通り多数の冷媒の流路の管が連続して並んでおり、前記冷媒の流路である溝幅W(管の幅)が1.515mm、溝深さD(管の高さ)が6.06mm、仕切り板の幅(リブ厚さ、放熱フィン厚さ)が0.707mm、上板(天板)と下板(底板)の厚さがそれぞれ1.01mmであった。
【0039】
また、小型放熱基板として、アルミニウム合金からなる金属回路板の寸法が長さ15.7mm×幅26.4mm×厚さ0.6mm(t1)であって、セラミックス基板の寸法が長さ18.1mm×幅28.8mm×厚さ0.64mm、アルミニウム合金からなる金属ベース板20の寸法が長さ15.7mm×幅26.4mm×厚さ1.6mm(t2)を準備した。さらに、金属ベース板の20の厚さ(t2)が0.6mmである以外は同じ構成である小型放熱基板を準備した。金属回路板および金属ベース板の材質は、0.4mass%Si−0.04mass%B−残部Alとした。なお、小型放熱基板の金属回路板及び金属ベース板は、いずれも直方体(板形状)であり、セラミックス基板の中央に配置、接合されている。
【0040】
図5に示すように、放熱器の上に、小型放熱基板の金属ベース板のアルミ部分と同一サイズ(長さおよび幅)のろう材(組成:10mass%Si−1mass%Mg−残部Al、厚さ15μm)をセットして、さらにろう材の上に放熱基板を置き、その上に治具を介して「インコネル」(登録商標)の皿バネをセットして所定の荷重(面圧)が負荷されるようにボルトで締め付けた。次に、窒素雰囲気中のろう付け炉内にセットした後、500℃まで50℃/min、605℃までは10℃/minで昇温して、ろう付け温度である605℃で10分間保持し、その後250℃までは15℃/minで冷却した。このようにろう付けした後、放熱基板の金属回路板表面の反り量(26.4mm長手方向)を測定した。結果を表1に示す。なお、反り量は、金属回路板の端部と中央部の高さの差を3次元表面粗さ計で測定した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から明らかなように、面圧が増加するに従い、また、放熱器(アルミ材)の断面2次モーメントが増加するに従い、放熱基板表面の反り量は減少する。また、
図6に示すように、反り量と放熱器(アルミ材)の断面2次モーメントとの間には、良い相関関係があることがわかった。放熱基板の金属ベース板の厚さを変化させても反り量には差が見られなかったので、放熱基板の金属ベース板の厚さは、反りには影響しないと考えられる。ただし、過渡熱特性などの放熱性や信頼性を考慮すると、金属ベース板の厚さは大きい方が好ましい。反りが大きいと、半導体チップを半田付けによって金属回路板表面に接合する際などに不具合が発生するため、目標としている反り量は60μm以下であり、望ましくは50μm以下である。
図7に示すように、反り量を60μm以下、あるいは50μm以下にするための、面圧と断面2次モーメントの範囲が存在することがわかった。つまり、
面圧(N/mm
2)=−1.25×10
−3×(放熱器の断面2次モーメント)+2.0・・・(1)
反り量の目標を50μmとすれば、(1)式を満足すれば、目標を達成できる。
【0043】
〈実施例2〉
図4に示すような、多数の冷媒の流路の管が連続して並んでおり、冷媒の流路である溝幅W(管の幅)が1.515mm、溝深さD(管の高さ)が6.06mm、仕切り板の幅(リブ厚さ、放熱フィン厚さ)Tが0.707mm、天板と底板の厚さがそれぞれ1.01mmである多孔管を、110mm(押出方向)×135mmに切断して多孔管からなる放熱器とし、その両側にφ18mm(内径16mm)のパイプを、蓋材としてろう付けした。図示しない冷却液循環機構により、冷媒は一方のパイプから供給され、多孔管を通過して他方のパイプから排出される構造となっている。また、多孔管の表面に、小型放熱基板(アルミ合金からなる金属回路板として15.7mm×26.4mm×0.6mm、アルミ合金からなる金属ベース板として15.7mm×26.4mm×0.6mm、セラミックス(AlN基板)18.1mm×28.8mm×0.64mm)を4枚ろう付けした。金属回路板15および金属ベース板20の材質は、0.4mass%Si−0.04mass%B−残部Alとした。このときの荷重を3500N、すなわち面圧を2.1N/mm
2とした。ろう付け条件は実施例1と同様であるが、多孔管とパイプとのろう付けにはフラックスを塗布した。多孔管と小型放熱基板、および多孔管とパイプは同時に接合した。
図8(a)に示すように小型放熱基板(5−1、5−2、5−3、5−4)の長手方向が多孔管の仕切り板に対して平行方向(冷媒の流路の方向)に沿ってろう付けしたタイプ(平行タイプと称す)と、
図8(b)に示すように小型放熱基板(6−1、6−2、6−3、6−4)の長手方向が多孔管の仕切り板に対して垂直方向(冷媒の流路に直角方向)にろう付けしたタイプ(垂直タイプと称す)を試作した。これらの金属回路板表面の反り量の測定結果を
図9に示す。反り量は、X方向(仕切り板に対して平行方向)の金属回路板表面、Y方向(仕切り板に対して垂直方向)の金属回路板表面、斜め方向(金属回路板の対角線方向)の金属回路板表面について、いずれも金属回路板の端部と中央部の高さの差として3次元表面粗さ計で測定した。
【0044】
図9から明らかなように、実施例1で得られた(1)式に基づいて面圧を設定したことにより、小型放熱基板を4枚ろう付けした場合でも、目標とする反り量50μm以下を達成することができた。
【0045】
また、仕切り板の方向によって断面2次モーメントが変化するので、
図9に示すように反り量も変化する。そこで、X方向及びY方向の断面2次モーメントをそれぞれ計算して、さらに反り量を単位長さ当たりとして計算した結果を
図10に示す。
図10に示すように、仕切り板の方向が異なり断面2次モーメントが変化した場合でも、反り量は同一線上に分布することがわかり、反り量への影響因子として断面2次モーメントが妥当であることが判明した。
【0046】
〈実施例3〉
次に、長さ40mm×幅40mm×厚さ4mmの板材、長さ40mm×幅40mm×8mmの板材の2種類の、材質がA1100材からなる放熱器と、
図4に示す長さ40mm×幅40mm×厚さ8.08mmの多孔管(材質:A6063合金製)からなる放熱器を準備した。多孔管からなる放熱器には
図4の通り多数の冷媒の流路の管が連続して並んでおり、冷媒の流路である溝幅W(管の幅)が1.515mm、溝深さD(管の高さ)が6.06mm、仕切り板の幅(放熱フィン厚さ、リブ厚さ)が0.707mm、天板と底板の厚さがそれぞれ1.01mmであった。
【0047】
また、放熱基板(アルミック)として、アルミニウム合金からなる金属回路板の寸法が長さ27.4mm×幅32.4mm×厚さ0.6mm(t1)であって、セラミックス基板の寸法が28.8mm×38.8mm×0.64mmであり、アルミニウム合金からなる金属ベース板20の寸法が長さ27.4mm×幅32.4mm×厚さ1.6mm(t2)の大型放熱基板を準備した。金属回路板15および金属ベース板20の材質は、0.4mass%Si−0.04mass%B−残部Alとした。
【0048】
図5に示すように、放熱器の上に、放熱基板の金属ベース板のアルミ部分と同一サイズ(長さと幅)のろう材(組成:10mass%Si−1mass%Mg−残部Al、厚さ15μm)をセットして、さらにろう材の上に放熱基板を置き、ろう付けした。ろう接の条件は、面圧以外、実施例1と同様である。このとき得られた大型放熱基板の金属回路板表面の反り量(32.4mm方向)を実施例1と同様に測定した。なお、ろう付け時の荷重を、1150N(面圧1.31N/mm
2)、1600N(面圧1.82N/mm
2)の2通りに設定して試験を行った。
【0049】
図11に示すように、大型放熱基板の場合でも、断面2次モーメントと反り量は良い相関関係を示すことがわかった。また、前述の厚さ4mmのアルミ板からなる放熱器及び多孔管からなる放熱器に、前記小型放熱基板及び前記大型放熱基板をろう付けした時の面圧と反り量との関係を
図12に示す。放熱基板のサイズが異なるので、反り量は放熱基板のサイズで割った値を用いた。
図12から明らかなように、多孔管からなる放熱器の場合、反り量(反り量/放熱基板のサイズ)は、面圧と良い相関関係が見られており、放熱基板のサイズの影響は見られなかった。前記厚さ4mmのアルミ板からなる放熱器でも同様の結果となった。以上の結果より、放熱基板のサイズが異なっても、本発明の(1)式が適用できることがわかった。
【0050】
小型放熱基板の結果である
図7に、大型放熱基板の結果を合わせた結果を
図13に示す。尚、大型放熱基板の反り量を小型放熱基板の反り量に補正した。すなわち、大型放熱基板の反り量を1.18(32.4/27.4)で割った値で反り量を評価した。
図13に示すように、大型放熱基板の結果は小型放熱基板の結果とほぼ一致した。つまり、放熱基板のサイズが変化しても(1)式が適用できることがわかった。
【0051】
以上の結果より、高放熱基板の反り量を50μm以下とするためには、(1)式を満足させることが必要であることがわかった。
【0052】
〈実施例4〉
放熱器の大きさを50mm×70mmとし、放熱器として用いる多孔管の溝幅W、溝深さD、仕切り板の幅T(
図4参照)を変化させて熱解析を行い、好適な溝幅Wと溝深さD、及び溝幅Wと仕切り板の幅T/溝幅W比との関係を求めた。さらに、多孔管の製造における押出し限界を求めた。
【0053】
図14に、溝幅Wと溝深さDの関係を示す。
図14に示すように、
D=3.3W
は、熱性能が好適となる下限であり、これより下方(Dが3.3Wより小さい場合)では熱性能が低下する。また、
D=10W
は、押出し加工の限界となる上限であり、これを超えるすなわちDが10Wより大きいと、押出しができない。さらに、溝幅Wと仕切り板の幅T/溝幅W比の関係を
図15に示す。
図15に示すように、
−W+1.4=T/W (0.4≦W≦1.0の場合)
−0.2W+0.7=T/W (1.0<W<2.0の場合)
で示される下限は押出し加工の限界であり、
T/W=−1.5W+3.275
で示される上限は熱性能が好適となる限界で、これを超えると熱性能が低下する。
図14および
図15に示すように、熱性能と押出し限界から、溝幅W、溝深さD、仕切り板の幅Tの寸法に制約があることがわかった。なお、熱性能が好適となる下限は、金属回路基板にたとえばIGBTなどのパワー半導体チップを搭載したときの放熱性を考慮して設定したものである。
【0054】
図4に示すような多孔管の場合、放熱基板に負荷した荷重は、仕切り板(リブ、放熱フィン)に負荷される。アルミニウム合金からなる金属回路板および金属ベース板の寸法が長さ15.7mm×幅26.4mm、セラミックス基板の寸法が長さ18.1mm×幅28.8mm×厚さ0.64mm、アルミニウム合金の金属回路板15の厚さt1と金属ベース板20の厚さt2がそれぞれ0.6mm(t1)、1.6mm(t2)の放熱基板と
図4に示す寸法の多孔管(40mm×40mm×8.08mm、材質A6063合金)からなる放熱器を、350N(仕切り板の面圧2.3MPa)、850N(仕切り板の面圧5.7MPa)、1100N(仕切り板の面圧7.4MPa)の3通りの荷重で、実施例1と同様にろう付けした。金属回路板15および金属ベース板20の材質は、0.4mass%Si−0.04mass%B−残部Alとした。
【0055】
ろう付け後の溝深さと仕切り板の変形状態
は、面圧7.4MPaでは仕切り板が大きく変形(座屈)し、溝深さが0.3mm減少した。面圧5.7MPaでは仕切り板の変形は小さくなり、溝深さは0.15mm減少した。面圧2.3MPaでは仕切り板の変形は非常に小さくなり、溝深さには変化が見られなかった。面圧7.3MPaの状態では冷却水の流れが不安定となり、熱性能がやや低下するが、許容範囲である。その限界の面圧は全体高さによって変化する。仕切り板の高さD‘が接合前の高さD(仕切り板の高さ、溝深さ)よりも10%変形すると、熱性能が金属回路板に半導体チップを搭載したときにその冷却に影響がでる程度に低下するので、それを指標として、仕切り板の変形量が10%以下となる溝幅を決定した。その結果を
図16に示す。そのときの仕切り板の幅は、1.0mm一定とした。溝幅が減少すると仕切り板の本数が増加するので、
図16から明らかなように、溝幅が減少するに従って、仕切り板が10%変形する荷重(限界荷重)は増加する。また、多孔管の高さが増加するに従い、限界荷重は減少する。
【0056】
図16の結果より、各溝幅での限界荷重を求めて、その荷重を仕切り板面積で除した値を限界面圧(MPa)とした。
図17に示すように、その限界面圧は、多孔管の全体高さと良い相関関係にある。また、溝幅が増加するに従い限界面圧は減少するので、溝幅の小さい1.0mmで限界面圧を決定した。
【0057】
熱性能の低下が無い限界面圧は、−0.5×D(溝深さ、仕切り板の高さ)+10で求められ、それ以下の面圧を設定することで仕切り板の変形が無い冷却器を得ることができる。それ以上の面圧を加えると、仕切り板の座屈がさらに増えて溝幅W1の変化が大きくなるので、仕切り板の面圧を、−0.5×D(溝深さ、仕切り板の高さ)+10(MPa)以下とした。一方、大型放熱基板の場合には、荷重1100N(面圧4.1MPa)で、仕切り板の変形は無かった。なお、仕切り板の座屈は、金属回路板の反り量を小さくする効果があると考えられるので、前述の通り10%以内の変形量であれば熱性能の低下もなく、むしろ積極的に座屈を利用しても良い。