特許第5876662号(P5876662)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5876662
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】油圧式道路舗装機械の緊急油圧駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F15B 20/00 20060101AFI20160218BHJP
   E01C 19/00 20060101ALI20160218BHJP
   E02F 9/24 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   F15B20/00 Z
   E01C19/00
   E02F9/24 C
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-71971(P2011-71971)
(22)【出願日】2011年3月29日
(65)【公開番号】特開2012-207688(P2012-207688A)
(43)【公開日】2012年10月25日
【審査請求日】2013年5月17日
【審判番号】不服2015-3569(P2015-3569/J1)
【審判請求日】2015年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】502246528
【氏名又は名称】住友建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【弁理士】
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】美濃 寿保
【合議体】
【審判長】 藤井 昇
【審判官】 新海 岳
【審判官】 松永 謙一
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3145668(JP,B2)
【文献】 特開平11−141503(JP,A)
【文献】 特開2001−32207(JP,A)
【文献】 特開2006−307486(JP,A)
【文献】 特開2010−101028(JP,A)
【文献】 特開2010−180537(JP,A)
【文献】 特開2000−110801(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3153759(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 20/00
F15B 1/00
F15B 11/00-11/22
E02F 9/24
E01C 19/00-19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の圧油接続口を介して油圧式道路舗装機械と接続されると油圧式道路舗装機械に搭載された走行用HSTモータとの間で油圧閉回路を構成する閉回路用油圧ポンプと、第2の圧油接続口を介して油圧式道路舗装機械と接続されると油圧式道路舗装機械に搭載された走行用油圧モータとの間で油圧開回路を構成する開回路用油圧ポンプと、前記閉回路用油圧ポンプおよび前記開回路用油圧ポンプを駆動するエンジンと、前記油圧開回路を流れる油を貯める油タンクとを備えた油圧式道路舗装機械の緊急油圧駆動装置。
【請求項2】
前記第1の圧油接続口および前記閉回路用油圧ポンプの組みを複数備え、油圧式道路舗装機械に搭載された複数の前記走行用HSTモータとの間でそれぞれ油圧閉回路を構成することを特徴とする請求項1に記載の油圧式道路舗装機械の緊急油圧駆動装置。
【請求項3】
前記閉回路用油圧ポンプは吐出油制御手段を備え、前記走行用HSTモータの駆動状態を前記吐出油制御手段により制御し、前記油圧開回路は方向流量制御弁を備え、前記走行用油圧モータの駆動状態を前記方向流量制御弁により制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の油圧式道路舗装機械の緊急油圧駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式道路舗装機械と接続されて油圧式道路舗装機械に搭載された油圧モータを緊急駆動させる油圧式道路舗装機械の緊急油圧駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路舗装機械による、高速道路や国道等の一般道の舗装施工は、一般的に道路を閉鎖して行われる。その場合には道路の閉鎖および開放時間が決められ、決められた時間内に舗装施工を終了させなければならない。また、飛行場における空港内での舗装施工も、同様である。このような舗装施工中に道路舗装機械に不具合が発生し、道路舗装機械のエンジンが停止した場合には、施工が継続できないだけでなく、道路舗装機械自体をその場から移動させて、開放時間までに現場を復旧させる必要がある。
【0003】
このような要請から、従来、この種の道路舗装機械といった油圧式建設機械を緊急駆動させる装置が開発されており、例えば、特許文献1には、油圧式建設機械の非常用脱出装置が開示されている。この非常用脱出装置は、油圧式建設機械本体とは別に油圧源ユニットおよびモータユニットを備えて構成されている。これら油圧源ユニットおよびモータユニットは、油圧カプラおよび油圧ホースによって油圧式建設機械本体に接続される。油圧式建設機械は、走行用のコントロールバルブなどが故障した場合に、非常用脱出装置が接続されることにより圧油が供給されて走行用油圧モータが駆動させられ、作業現場から脱出させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3145668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の上記従来の非常用脱出装置は、油圧回路が閉回路で構成されるHST(Hydro-Static Transmission)と称される走行系油圧ユニットで走行する油圧式建設機械には、接続することができなかった。このような走行系油圧ユニットは、原動機であるエンジンと駆動輪との間に設けられ、エンジンによって駆動される走行用油圧ポンプから供給される圧油が閉回路内を循環し、循環するこの圧油によって走行用油圧モータが駆動される。このため、上記従来の非常用脱出装置では、油圧式建設機械の稼働中に油圧閉回路で構成される走行系油圧ユニットに故障が発生した場合、故障現場から油圧式建設機械を移動させることができなかった。
【0006】
また、この問題を解決するため、本出願人は、特願2010−169976の特許出願において、走行系油圧回路が閉回路で構成される油圧式建設機械を非常用脱出装置と接続する場合に、走行系油圧回路を開回路にする操作ユニットを提案している。しかし、この操作ユニットは、構造が複雑であったり、非常用脱出装置とは別に用意する必要があって管理が複雑となっている。さらに、この操作ユニットでは、走行系閉回路の利点である圧油の流量制御によるブレーキ力発生を行うために、カウンタバランス弁等の回路構成が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
第1の圧油接続口を介して油圧式道路舗装機械と接続されると油圧式道路舗装機械に搭載された走行用HSTモータとの間で油圧閉回路を構成する閉回路用油圧ポンプと、第2の圧油接続口を介して油圧式道路舗装機械と接続されると油圧式道路舗装機械に搭載された走行用油圧モータとの間で油圧開回路を構成する開回路用油圧ポンプと、閉回路用油圧ポンプおよび開回路用油圧ポンプを駆動するエンジンと、油圧開回路を流れる油を貯める油タンクとを備え、油圧式道路舗装機械の緊急油圧駆動装置を構成した。
【0008】
この構成によれば、油圧式道路舗装機械が閉回路で構成される走行系油圧回路を備えている場合、第1の圧油接続口を介して油圧式道路舗装機械と緊急油圧駆動装置とが接続されると、油圧式道路舗装機械に搭載された走行用HSTモータと緊急油圧駆動装置の閉回路用油圧ポンプとの間で油圧閉回路が構成される。また、油圧式道路舗装機械が開回路で構成される走行系油圧回路を備えている場合、第2の圧油接続口を介して油圧式道路舗装機械と緊急油圧駆動装置とが接続されると、油圧式道路舗装機械に搭載された走行用油圧モータと緊急油圧駆動装置の開回路用油圧ポンプとの間で油圧開回路が構成される。
【0009】
このため、油圧式道路舗装機械が閉回路および開回路のいずれで構成される走行系油圧回路を備えていても、第1の圧油接続口または第2の圧油接続口を介して油圧式道路舗装機械と緊急油圧駆動装置とが接続されることで、油圧式道路舗装機械に搭載された油圧モータが緊急駆動されて、油圧式道路舗装機械は緊急走行することができる。しかも、このように油圧式道路舗装機械を緊急駆動できる緊急油圧駆動装置は、閉回路用油圧ポンプと開回路用油圧ポンプとを具備することで簡単な構造で提供され、また、単体で機能するために管理がし易く、また、カウンタバランス弁等の回路構成を必要とせずに、走行系閉回路の利点である圧油の流量制御によるブレーキ力を発生できる。
【0010】
また、本発明は、第1の圧油接続口および閉回路用油圧ポンプの組みを複数備え、油圧式道路舗装機械に搭載された複数の走行用HSTモータとの間でそれぞれ油圧閉回路を構成することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、走行装置がクローラ式の油圧式道路舗装機械については、左右それぞれの走行系油圧回路を、第1の圧油接続口および閉回路用油圧ポンプの複数の組みによって互いに独立した油圧閉回路で構成できる。このため、機械本体左右のクローラの駆動速度をそれぞれ独立に変化させることで、油圧式道路舗装機械にステアリング機能を持たすことができる。
【0012】
また、本発明は、閉回路用油圧ポンプが吐出油制御手段を備え、走行用HSTモータの駆動状態を吐出油制御手段により制御し、油圧開回路が方向流量制御弁を備え、走行用油圧モータの駆動状態を方向流量制御弁により制御することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、閉回路用油圧ポンプに備えられた吐出油制御手段の操作により、油圧式道路舗装機械に搭載された走行用HSTモータと緊急油圧駆動装置の閉回路用油圧ポンプとの間で構成される油圧閉回路を流れる圧油の流量や方向が、任意に変えられる。このため、走行系油圧回路が閉回路で構成される油圧式道路舗装機械の走行速度や前後進、クローラ式の道路舗装機械にあってはステアリングなどの機械操作が、吐出油制御手段の操作によって任意に行える
【0014】
た、油圧開回路に備えられた方向流量制御弁の操作により、油圧式道路舗装機械に搭載された走行用油圧モータと緊急油圧駆動装置の開回路用油圧ポンプとの間で構成される油圧開回路を流れる圧油の流量や方向が、任意に変えられる。このため、走行系油圧回路が開回路で構成される油圧式道路舗装機械の走行速度や前後進、クローラ式の道路舗装機械にあってはステアリングなどの機械操作が、方向流量制御弁の操作によって任意に行える
【発明の効果】
【0015】
発明によれば、上記のように、閉回路および開回路のいずれで構成される走行系油圧回路を備えている油圧式道路舗装機械であっても、緊急走行することができる緊急油圧駆動装置が、簡単な構造で、しかも、管理がし易く、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態による油圧式建設機械の緊急油圧駆動装置の概略構成を示す図である。
図2図1に示す緊急油圧駆動装置が、油圧閉回路で構成されるタイヤ式走行装置を持つ油圧式建設機械に接続された場合の油圧回路構成を示す図である。
図3図1に示す緊急油圧駆動装置が、油圧閉回路で構成されるクローラ式走行装置を持つ油圧式建設機械に接続された場合の油圧回路構成を示す図である。
図4図1に示す緊急油圧駆動装置が、油圧開回路で構成されるクローラ式走行装置を持つ油圧式建設機械に接続された場合の油圧回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明による油圧式建設機械の緊急油圧駆動装置を実施するための一形態について説明する。
【0018】
図1は、この一実施の形態による油圧式建設機械の緊急油圧駆動装置1の概略構成を示す図である。
【0019】
緊急油圧駆動装置1は、エンジン2によって駆動される2つのHSTポンプ3、4および2つの油圧ポンプ5、6を備えて構成されている。
【0020】
HSTポンプ3は、その一対の圧油入出力口が一対の圧油接続口7a、7bに管路によってつながっており、HSTポンプ4は、その一対の圧油入出力口が一対の圧油接続口8a、8bに管路によってつながっている。HSTポンプ3、4は、可変吐出量形油圧ポンプであり、斜板の傾転角がポンプ傾転制御ユニット3a、4aの操作によって変えられることで、圧油の吐出量や流れる方向が制御される。圧油接続口7a、7bおよび圧油接続口8a、8bはそれぞれ第1の圧油接続口を構成し、HSTポンプ3、4は、それぞれ、第1の圧油接続口を介して油圧式建設機械と接続されると、油圧式建設機械に搭載された油圧モータとの間で油圧閉回路を構成する閉回路用油圧ポンプを構成する。本実施形態における緊急油圧駆動装置1は、これら第1の圧油接続口および閉回路用油圧ポンプの組みを2組み備える。また、ポンプ傾転制御ユニット3a、4aは各閉回路用油圧ポンプに備えられた吐出油制御手段を構成する。
【0021】
油圧ポンプ5は、圧油吸入口が管路によって作動油タンク11につながっており、圧油吐出口が管路によって方向流量制御弁12を介して圧油接続口9a、9bにつながっている。また、油圧ポンプ6は、圧油吸入口が管路によって作動油タンク11につながっており、圧油吐出口が管路によって圧油接続口10につながっている。各油圧ポンプ5、6の圧油吐出口側の管路と圧油吸入口側の管路との間には、圧力調整弁13、14が設けられている。圧油接続口9a、9bおよび圧油接続口10はそれぞれ第2の圧油接続口を構成し、油圧ポンプ5、6は、それぞれ、第2の圧油接続口を介して油圧式建設機械と接続されると、油圧式建設機械に搭載された油圧モータとの間で油圧開回路を構成する開回路用油圧ポンプを構成している。また、作動油タンク11は、この油圧開回路を流れる作動油を貯める油タンクを構成している。また、圧油接続口9a、9bおよび油圧ポンプ5から構成される油圧開回路は方向流量制御弁12を備える。
【0022】
図2は、図1に示す上記の緊急油圧駆動装置1が、タイヤ式走行装置を持つ油圧式建設機械21に接続された場合の油圧回路構成を示す図である。なお、同図において図1と同一部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0023】
油圧式建設機械21のタイヤ式走行装置は、走行系油圧回路が閉回路で構成され、この油圧閉回路内には一対の走行用HSTモータ22a、22bが設けられている。左右のタイヤ23a、23bはこの走行用HSTモータ22a、22bによってそれぞれ回転駆動される。この油圧閉回路は、管路に設けられた図示しないマニホールド等によって分岐し、油圧式建設機械21の機械本体に設けられた圧油接続口24a、24bにつながっている。
【0024】
油圧式建設機械21のエンジン不具合によってエンジンが始動できなくなった場合などに、圧油接続口24a、24bは、両端にカプラが設けられた油圧ホース25a、25bにより、緊急油圧駆動装置1の圧油接続口7a、7bに接続される。緊急油圧駆動装置1内のHSTポンプ3は、圧油接続口7a、7bが油圧ホース25a、25bを介して油圧式建設機械21の圧油接続口24a、24bに接続されると、油圧式建設機械21に搭載された走行用HSTモータ22a、22bとの間で油圧閉回路を構成する。
【0025】
このため、緊急油圧駆動装置1内のHSTポンプ3に備えられたポンプ傾転制御ユニット3aを操作し、HSTポンプ3の圧油吐出量を変化させ、緊急油圧駆動装置1と油圧式建設機械21との間で構成される油圧閉回路内を流れる圧油の流量を変えることで、油圧式建設機械21における走行用HSTモータ22a、22bの回転速度を変えて、油圧式建設機械21の走行速度を調整することが可能となる。また、ポンプ傾転制御ユニット3aを操作することで、HSTポンプ3の圧油吐出方向も変えることができ、緊急油圧駆動装置1と油圧式建設機械21との間で構成される油圧閉回路内を流れる圧油の向きを変えて、油圧式建設機械21の前後進方向を変更することも可能となる。
【0026】
図3は、図1に示す上記の緊急油圧駆動装置1が、クローラ式走行装置を持つ油圧式建設機械31に接続された場合の油圧回路構成を示す図である。なお、同図において図1と同一部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0027】
油圧式建設機械31のクローラ式走行装置は、走行系油圧回路が左右のクローラ32a、32bについて独立の閉回路で構成され、各油圧閉回路内には一対の走行用HSTモータ33a、33bが設けられている。左右のクローラ32a、32bは各走行用HSTモータ33a、33bによってそれぞれ回転駆動される。走行用HSTモータ33aが設けられた左側の油圧閉回路は、管路に設けられた図示しないマニホールド等によって分岐し、油圧式建設機械31の機械本体に設けられた圧油接続口34a、34bにつながっている。また、走行用HSTモータ33bが設けられた右側の油圧閉回路は、管路に設けられた図示しないマニホールド等によって分岐し、油圧式建設機械31の機械本体に設けられた圧油接続口35a、35bにつながっている。
【0028】
油圧式建設機械31のエンジン不具合によってエンジンが始動できなくなった場合などに、圧油接続口34a、34bは、両端にカプラが設けられた油圧ホース36a、36bによって緊急油圧駆動装置1の圧油接続口7a、7bに接続され、圧油接続口35a、35bは、両端にカプラが設けられた油圧ホース37a、37bによって緊急油圧駆動装置1の圧油接続口8a、8bに接続される。緊急油圧駆動装置1内のHSTポンプ3は、圧油接続口7a、7bが油圧ホース36a、36bを介して油圧式建設機械31の圧油接続口34a、34bに接続されると、油圧式建設機械31に搭載された左側の走行用HSTモータ33aとの間で油圧閉回路を構成する。また、緊急油圧駆動装置1内のHSTポンプ4は、圧油接続口8a、8bが油圧ホース37a、37bを介して油圧式建設機械31の圧油接続口35a、35bに接続されると、油圧式建設機械31に搭載された右側の走行用HSTモータ33bとの間で油圧閉回路を構成する。
【0029】
このため、緊急油圧駆動装置1内のHSTポンプ3、4に備えられた各ポンプ傾転制御ユニット3a、4bを操作し、HSTポンプ3、4の圧油吐出量を変化させ、緊急油圧駆動装置1と油圧式建設機械31との間で構成される各油圧閉回路内を流れる圧油の流量を変えることで、油圧式建設機械31における走行用HSTモータ33a、33bの回転速度を変えて、油圧式建設機械31の走行速度を調整することが可能となる。また、ポンプ傾転制御ユニット3a、4bを操作して、各HSTポンプ3、4の圧油吐出量や圧油吐出方向をそれぞれ独立に調整し、緊急油圧駆動装置1と油圧式建設機械31との間で構成される各油圧閉回路内を流れる圧油の流量や向きをそれぞれ独立に変えることで、油圧式建設機械31のステアリングを行ったり、前後進方向を変更することも可能となる。
【0030】
図4は、図1に示す上記の緊急油圧駆動装置1が、クローラ式走行装置を持つ油圧式建設機械41に接続された場合の油圧回路構成を示す図である。なお、同図において図1と同一部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0031】
油圧式建設機械41のクローラ式走行装置は、走行系油圧回路が開回路で構成され、この油圧開回路には一対の走行用モータ43a、43bが設けられている。左右のクローラ42a、42bは各走行用モータ43a、43bによってそれぞれ回転駆動される。走行用モータ43a、43bが設けられた各油圧回路はコントロールバルブ44に接続されており、コントロールバルブ44は油圧式建設機械41の機械本体に設けられた圧油接続口45a、45bに管路を介してつながっている。
【0032】
油圧式建設機械41のエンジン不具合によってエンジンが始動できなくなった場合などに、圧油接続口45a、45bは、両端にカプラが設けられた油圧ホース46a、46bによって緊急油圧駆動装置1の圧油接続口9a、9bに接続される。緊急油圧駆動装置1内の油圧ポンプ5は、圧油接続口9a、9bが油圧ホース46a、46bを介して油圧式建設機械41の圧油接続口45a、45bに接続されると、油圧式建設機械41に搭載された走行用油圧モータ43a、43bとの間で油圧開回路を構成する。
【0033】
このため、緊急油圧駆動装置1内の油圧開回路に備えられた方向流量制御弁12を操作し、緊急油圧駆動装置1と油圧式建設機械41との間で構成される油圧開回路内を流れる圧油の流量や向きを変え、油圧式建設機械41における走行用モータ43a、43bの回転速度や回転方向を変えることで、油圧式建設機械41の走行速度を調整したり、ステアリングを行ったり、前後進方向を変更することが可能となる。
【0034】
このような本実施形態による緊急油圧駆動装置1によれば、図2および図3に示すように、油圧式建設機械21、31が閉回路で構成される走行系油圧回路を備えている場合、圧油接続口7a、7bおよび8a、8bの第1の圧油接続口を介して油圧式建設機械21、31と緊急油圧駆動装置1とが接続されると、油圧式建設機械21、31に搭載された走行用HSTモータ22a、22bまたは33a、33bと緊急油圧駆動装置1のHSTポンプ3または4との間で、油圧閉回路が構成される。また、図4に示すように、油圧式建設機械41が開回路で構成される走行系油圧回路を備えている場合、圧油接続口9a、9bの第2の圧油接続口を介して油圧式建設機械41と緊急油圧駆動装置1とが接続されると、油圧式建設機械41に搭載された走行用モータ43a、43bと緊急油圧駆動装置1の油圧ポンプ5との間で、油圧開回路が構成される。
【0035】
このため、油圧式建設機械21、31、41が閉回路および開回路のいずれで構成される走行系油圧回路を備えていても、第1の圧油接続口または第2の圧油接続口を介して油圧式建設機械21、31、41と緊急油圧駆動装置1とが接続されることで、油圧式建設機械21、31、41に搭載された走行用HSTモータ22a、22bもしくは33a、33bまたは走行用モータ43a、43bが緊急駆動されて、油圧式建設機械21、31、41は緊急走行をすることができる。よって、舗装施工中に道路舗装機械に不具合が発生し、道路舗装機械のエンジンが停止した場合などにも、機械を移動、待避できるので、開放時間までに現場を復旧させて、道路閉鎖時間を守ることができる。しかも、このように油圧式建設機械21、31、41を緊急駆動できる緊急油圧駆動装置1は、閉回路用のHSTポンプ3、4と開回路用の油圧ポンプ5、6とを具備することで簡単な構造で提供され、また、単体で機能するために管理がし易く、また、カウンタバランス弁等の回路構成を必要とせずに、走行系閉回路の利点である圧油の流量制御によるブレーキ力を発生できる。
【0036】
また、本実施形態による緊急油圧駆動装置1によれば、第1の圧油接続口および閉回路用油圧ポンプの組みを複数備えるので、図3に示すように走行装置がクローラ式の油圧式建設機械31については、左右それぞれの走行系油圧回路を、圧油接続口7a、7bおよび走行用HSTポンプ3の組みによる油圧閉回路と、圧油接続口8a、8bおよび走行用HSTポンプ4の組みによる油圧閉回路とで、互いに独立して構成できる。このため、機械本体左右のクローラ32a、32bの駆動速度をそれぞれ独立に変化させることで、油圧式建設機械31にステアリング機能を持たすことができる。
【0037】
また、本実施形態による緊急油圧駆動装置1によれば、走行用HSTポンプ3、4がポンプ傾転制御ユニット3a、4aを備え、油圧ポンプ5によって構成される油圧開回路が方向流量制御弁12を備える。従って、走行用HSTポンプ3、4に備えられたポンプ傾転制御ユニット3a、4aの操作により、油圧式建設機械21、31に搭載された走行用HSTモータ22a、22bまたは33a、33bと、緊急油圧駆動装置1の走行用HSTポンプ3、4との間で構成される油圧閉回路を流れる圧油の流量や方向が、任意に変えられる。このため、走行系油圧回路が閉回路で構成される油圧式建設機械21の走行速度や前後進、クローラ式の建設機械31にあってはステアリングなどの機械操作が、ポンプ傾転制御ユニット3a、4aの操作によって任意に行える。
【0038】
また、油圧開回路に備えられた方向流量制御弁12の操作により、油圧式建設機械41に搭載された走行用モータ43a、43bと緊急油圧駆動装置1の開回路用の油圧ポンプ5との間で構成される油圧開回路を流れる圧油の流量や方向が、任意に変えられる。このため、走行系油圧回路が開回路で構成される油圧式建設機械41の走行速度や前後進、クローラ式の建設機械41にあってはステアリングなどの機械操作が、方向流量制御弁12の操作によって任意に行える。
【0039】
なお、上記実施形態では、油圧式建設機械21、31、41の閉回路または開回路で構成される走行系油圧回路が、緊急油圧駆動装置1に接続されて緊急走行する場合について説明した。しかし、本発明はこれに限定されることはなく、油圧式建設機械21、31、41の閉回路または開回路で構成される作業系油圧回路が、緊急油圧駆動装置1に接続されて緊急作業する場合についても、同様に適用することが可能である。閉回路で構成される作業系油圧回路を備えた油圧式建設機械は、緊急油圧駆動装置1の圧油接続口7a、7bまたは8a、8bに接続されて緊急油圧駆動装置1との間で油圧閉回路が構成されることで、また、開回路で構成される作業系油圧回路を備えた油圧式建設機械は、緊急油圧駆動装置1の圧油接続口9a、9bまたは10に接続されて緊急油圧駆動装置1との間で油圧開回路が構成されることで、作業用アクチュエータに圧油が供給されて駆動され、上記実施形態と同様な作用・効果が奏される。この際、作業系油圧回路が閉回路で構成される油圧式建設機械による作業操作は、ポンプ傾転制御ユニット3a、4aの操作によって任意に行える。また、作業系油圧回路が開回路で構成される油圧式建設機械による作業操作は、方向流量制御弁12の操作によって任意に行える。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明による緊急油圧駆動装置1は、アスファルトフィニッシャや、移動式クレーン、油圧ショベルなどの油圧式建設機械に適用することが可能である。このような油圧式建設機械に適用されることで、上記実施形態のような作用・効果が奏される。
【符号の説明】
【0041】
1…緊急油圧駆動装置
2…エンジン
3、4…走行用HSTポンプ(閉回路用油圧ポンプ)
3a、4a…ポンプ傾転制御ユニット(吐出油制御手段)
5、6…油圧ポンプ(開回路用油圧ポンプ)
7a、7b、8a、8b…圧油接続口(第1の圧油接続口)
9a、9b、10…圧油接続口(第2の圧油接続口)
11…作動油タンク
12…方向流量制御弁
13、14…圧力調整弁
21、31、41…油圧式建設機械
22a、22b、33a、33b…走行用HSTモータ
43a、43b…走行用モータ
44…コントロールバルブ
図1
図2
図3
図4