(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1、
図2に示す水素貯蔵容器1は、例えば水素ガスを燃料とする車両に搭載され、高圧の水素ガスを貯蔵するものである。
【0016】
ハイブリッドタイプの水素貯蔵容器1は、高圧の水素ガスが充填される中空状のライナ(メインタンク)2と、このライナ2の内側に設けられる中空状のサブタンク11と、このサブタンク11の内側に収容される水素貯蔵物質9(
図2参照)と、この水素貯蔵物質9を冷却、加熱する熱交換パイプ50とを備える。なお、
図1はサブタンク11に水素貯蔵物質9が収容されていない状態を便宜上示している。
【0017】
サブタンク11の内側に収容される水素貯蔵物質9として、例えば粉末状の水素貯蔵合金が用いられる。この水素貯蔵合金には、大気中に比べて数100倍以上の水素ガスが貯蔵される。
【0018】
水素貯蔵容器1への水素ガス充填時には、高圧の水素ガスがライナ2内に供給されるとともに、熱交換パイプ50に低温の熱交換媒体(冷却媒体)が供給されて水素貯蔵物質9が冷却されることにより、水素貯蔵物質9に水素ガスが貯蔵されることが促される。
【0019】
一方、水素貯蔵容器1から水素ガスが取り出される時には、熱交換パイプ50に高温の熱交換媒体が供給されることにより水素貯蔵物質9が加熱され、水素貯蔵物質9から水素ガスが放出されることが促される。
【0020】
熱交換パイプ50に供給される熱交換媒体としては、例えば水が用いられる。
【0021】
水素貯蔵容器1は、高圧の水素ガスが充填される中空状のライナ(メインタンク)2と、このライナ2の外面を包囲する補強スリーブ4を備える。
【0022】
ライナ2は、円筒状のライナ胴部21と、このライナ胴部21の両端をドーム状に塞ぐライナ端部22とを有する。
【0023】
ライナ端部22は、円筒状のライナ胴部21の両端からドーム状に絞られるライナ肩部23と、それぞれの中央部に開口するライナ開口部24とを有する。
【0024】
ライナ2は、例えばアルミニウム合金を材質として形成される。これにより、ライナ2は、その内面が水素ガスに晒されても脆化することが防止され、耐食性が確保さる。
【0025】
ライナ2の外面を包囲する補強スリーブ4は、ライナ2より引っ張り強度が高く、熱膨張率が小さい金属として、例えば高張力鋼を材質とする。
【0026】
補強スリーブ4は、ライナ胴部21の外周面に嵌合する円筒状のスリーブ胴部41と、このスリーブ胴部41の端部から延びてライナ肩部23に当接するスリーブ肩部42とを有する。
【0027】
水素貯蔵容器1への水素ガスが充填される時には、ライナ2の内部圧力が高まってライナ2が膨張するが、ライナ2を囲む補強スリーブ4によってライナ2の膨張が抑えられ、ライナ2に生じる内部応力が低減される。
【0028】
水素貯蔵容器1は、ライナ2の両端に開口して水素ガスが導かれるライナ開口部24と、このライナ開口部24に対してサブタンク11の両端を支持する一対のサブタンク支持部17を備える。サブタンク11は、このサブタンク支持部17によってライナ2内に宙吊りに支持され、ライナ2の内壁面に対して環状の間隙8を持つ。
【0029】
サブタンク支持部17は、ライナ2の外側からライナ開口部24に差し込まれるプラグ25と、ライナ2の内側からプラグ25に差し込まれるサブタンク支柱30と、プラグ25に取り付けられ水素ガスと熱交換媒体をそれぞれ導くポートブロック35とを備える。
【0030】
プラグ25は、ライナ開口部24に差し込まれるプラグ円筒部26と、ライナ2の端面に当接するプラグフランジ部27とを有する。
【0031】
プラグ円筒部26は、その外周にネジが形成され、ライナ開口部24に螺合して組み付けられる。
【0032】
プラグ円筒部26は、その端面に開口する取付穴28を有し、この取付穴28にサブタンク支柱30が挿入して組み付けられる。
【0033】
サブタンク11は、円筒状のサブタンク胴部12と、このサブタンク胴部12の両端に装着される円盤状のサブタンク端部13と、このサブタンク端部13から突出してライナ2に支持される前記のサブタンク支柱30とを備える。
【0034】
円筒状のサブタンク支柱30は、水素貯蔵容器1の中心線O上に配置され、円盤状のサブタンク端部13の中央部を貫通して組み付けられる。
【0035】
ライナ2とサブタンク11は、水素貯蔵容器1の中心線Oについて略対称的に形成される。
【0036】
サブタンク胴部12の内側には各サブタンク端部13の間に円柱状の空間が画成され、この空間に水素貯蔵物質9と熱交換パイプ50が共に収容される。
【0037】
円盤状のサブタンク端部13には、水素ガスを通すフィルタ15が多孔板14を介して取り付けられる。円盤状の多孔板14は、複数のボルト32を介してサブタンク端部13に締結される。
【0038】
熱交換パイプ50は、その両端部としてパイプ基端部51とパイプ先端部54がサブタンク支持部17の通孔31にそれぞれ挿入されることによってサブタンク11内に宙吊りに支持される。
【0039】
熱交換パイプ50は、サブタンク支持部17の通孔31から突出されるパイプ基端部51の先端(
図1にて右側の端部)から曲折してコイル状に延びるパイプ螺旋部52と、このパイプ螺旋部52の先端(
図1にて右側の端部)から曲折してパイプ螺旋部52の内側にてU字状に延びるパイプ往復部53とを有し、このパイプ往復部53の先端(
図1にて右側の端部)がサブタンク支持部17の通孔31に挿入されるパイプ先端部54となる。
【0040】
熱交換パイプ50は、水素貯蔵物質9と共にサブタンク11内に収容され、パイプ螺旋部52とパイプ往復部53の外表面が水素貯蔵物質9に接触する。
【0041】
熱交換パイプ50は、例えばステンレス等の金属材によって形成される。
【0042】
図1にて左側のポートブロック35には、矢印で示すように水素ガスが給排される水素ガス給排ポート36と、矢印で示すように熱交換媒体が供給される熱交換媒体供給ポート37とが形成される。水素ガス給排ポート36には、水素ガスを導く図示しない配管が接続される。熱交換媒体供給ポート37には熱交換媒体を導く図示しない配管が接続される。
【0043】
図1にて右側のポートブロック35には、矢印で示すように水素ガスが給排される水素ガス給排ポート36と、矢印で示すように熱交換媒体が排出される熱交換媒体排出ポート38とが形成される。水素ガス給排ポート36には、水素ガスを導く図示しない配管が接続される。熱交換媒体排出ポート38には熱交換媒体を導く図示しない配管が接続される。
【0044】
ポートブロック35とプラグ25とは、複数のボルト16を介して締結され、両者の間にはコネクタ45が介装される。ポートブロック35とコネクタ45の間にはフィルタ39が介装される。
【0045】
各サブタンク支持部17には、コネクタ45を介して水素ガスが出入りする水素ガス通路18と、熱交換媒体が出入りする熱交換媒体通路19とがそれぞれ設けられる。
【0046】
水素ガス通路18は、水素ガス給排ポート36、コネクタ45の通孔46、プラグ25の通孔47によって構成される。
【0047】
熱交換媒体通路19は、熱交換媒体供給ポート37、コネクタ45の通孔48、プラグ25の通孔49、サブタンク支柱30の通孔31によって構成される。
【0048】
水素貯蔵容器1は、以下の工程を経て製造される。
・直円筒状のライナ2に一方のライナ端部22及びライナ開口部24を絞り加工によって形成する。
・ライナ2内にサブタンク11を介装し、このサブタンク11の一端をライナ開口部24にサブタンク支持部17を介して支持する。
・ライナ2に他方のライナ端部22及びライナ開口部24を絞り加工によって形成する。
・サブタンク11の他端をライナ開口部24にサブタンク支持部17を介して支持する。
・直円筒状の補強スリーブ4をライナ2に例えば圧入によって嵌合する。
・ライナ2に嵌合した直円筒状の補強スリーブ4の両端部を絞る成形加工を行う。
【0049】
水素貯蔵容器1への水素ガス充填時には、水素ガス給排ポート36に供給される高圧の水素ガスが、フィルタ39、コネクタ45の通孔46、プラグ25の通孔47を通ってライナ2内に流入する。水素ガス通路18からライナ2内に流入した水素ガスは、間隙8、多孔板14、フィルタ15を通ってサブタンク11の内側に入り、水素貯蔵物質9に貯蔵される。こうして水素貯蔵容器1にはその両端から水素ガスが充填される。
【0050】
上記の水素ガスの充填時には、熱交換媒体供給ポート37に供給される低温の熱交換媒体(冷却媒体)が、コネクタ45の通孔48、プラグ25の通孔49、サブタンク支柱30の通孔31を通って熱交換パイプ50へと導かれる。こうして熱交換媒体通路19から熱交換パイプ50のパイプ基端部51へと導かれる熱交換媒体は、パイプ螺旋部52と、パイプ往復部53を通り、この過程で熱交換パイプ50を介して水素貯蔵物質9との間で熱交換し、水素貯蔵物質9を冷却する。これにより、水素貯蔵物質9に水素ガスが貯蔵されることが促される。こうして水素貯蔵物質9の熱を吸収した熱交換媒体は、パイプ先端部54からサブタンク支柱30の通孔31、プラグ25の通孔49、コネクタ45の通孔48を通って熱交換媒体排出ポート38から排出される。
【0051】
一方、水素貯蔵容器1から水素ガスが取り出される時には、ライナ2内の水素ガスが、プラグ25の通孔47、コネクタ45の通孔46、フィルタ39を通って水素ガス給排ポート36へと流出する。こうして水素貯蔵容器1に貯蔵された水素ガスは、水素貯蔵容器1の両端から取り出される。
【0052】
上記の水素ガスが取り出し時には、熱交換媒体供給ポート37に供給される高温の熱交換媒体が、コネクタ45の通孔48、プラグ25の通孔49、サブタンク支柱30の通孔31を通って熱交換パイプ50へと導かれる。こうして熱交換媒体通路19から熱交換パイプ50のパイプ基端部51へと導かれる熱交換媒体は、パイプ螺旋部52と、パイプ往復部53を通り、この過程で熱交換パイプ50を介して水素貯蔵物質9との間で熱交換し、水素貯蔵物質9を加熱する。これにより、水素貯蔵物質9から水素ガスが放出されることが促される。
【0053】
本実施形態では、ライナ2が一対のライナ開口部24を有し、サブタンク11が一対のサブタンク支持部17を介してライナ開口部24に両持ち支持される構成としたが、これに限らず、ライナ2が一つのライナ開口部24を有し、サブタンク11が一つのサブタンク支持部17を介してライナ開口部24に片持ち支持される構成としてもよい。
【0054】
以下、本実施形態の要旨と作用、効果を説明する。
【0055】
本実施形態では、水素ガスを貯蔵する水素貯蔵物質9を用いて水素ガスを貯蔵する水素貯蔵容器1であって、水素ガスが導かれるライナ開口部24を有して水素ガスを貯蔵する中空状のライナ2と、このライナ2の内側に配置されて水素貯蔵物質9を収容する中空状のサブタンク11と、このサブタンク11の内側に配置されて熱交換媒体が導かれる熱交換パイプ50と、ライナ開口部24に対してサブタンク11の端部を支持するサブタンク支持部17と、このサブタンク支持部17を貫通し熱交換媒体が導かれる熱交換媒体通路19とを備え、熱交換パイプ50のパイプ端部51がサブタンク支持部17に支持される構成とする。
【0056】
上記構成に基づき、熱交換パイプ50の外表面が水素貯蔵物質9に接触するため、熱交換パイプがサブタンクの外周に巻き付けられる従来装置に比べて、熱交換媒体と水素貯蔵物質9との間で熱交換が効率よく行われ、水素貯蔵物質9の冷却、加熱を行う熱制御性を高められる。
【0057】
熱交換パイプ50は、そのパイプ端部51がサブタンク支持部17に支持される構造のため、熱交換パイプの開口端を溶接によって接続する従来装置に比べて、振動や衝撃を受けて熱交換パイプ50の接続部が破損することを防止できる。
【0058】
本実施形態では、ライナ2が一対のライナ開口部24を有し、サブタンク11が一対のサブタンク支持部17を介してライナ開口部24に両持ち支持され、熱交換パイプ50の両パイプ端部51、54がサブタンク支持部17にそれぞれ支持される構成とする。
【0059】
上記構成に基づき、サブタンク11の両端部が一対のサブタンク支持部17に支持されるとともに、熱交換パイプ50の両パイプ端部51、54が一対のサブタンク支持部17にそれぞれ支持される構造のため、振動や衝撃を受けてサブタンク支持部17や熱交換パイプ50の接続部が破損することを防止できる。
【0060】
次に
図3、
図4に示す他の実施形態を説明する。これは
図1、
図2の実施形態と基本的に同じ構成を有し、相違する部分のみを説明する。なお、前記実施形態と同一構成部には同一符号を付す。
【0061】
図3に示すように、熱交換パイプ60は、前記実施形態における熱交換パイプ50と同様に、一方のサブタンク支持部17の通孔31に挿入されるパイプ基端部61と、パイプ基端部61から曲折してコイル状に延びるパイプ螺旋部62と、このパイプ螺旋部62から曲折してパイプ螺旋部62の内側にてU字状に延びるパイプ往復部(図示せず)と、他方のサブタンク支持部17の通孔31に挿入されるパイプ先端部(図示せず)とを有する。
【0062】
熱交換パイプ60の断面形状は、パイプ基端部61とパイプ先端部にて円環状に形成され、サブタンク支持部17の通孔31に対する挿入部に隙間が空くことが回避され、熱交換媒体の洩れが防止される。
【0063】
熱交換パイプ60の断面形状は、パイプ螺旋部62にて非円環状に形成され、水素貯蔵物質9に対する接触面積が大きく確保される。
【0064】
図4に示すように、熱交換パイプ60の断面は、放射状に突出する複数(5つ)の管凸部63と、隣り合う管凸部63の間で窪む複数(4つ)の管凹部64とを有する環状に形成される。
【0065】
換言すると、断面U字状の管凸部63と断面U字状の管凹部64とが周方向について交互に並ぶ環状に形成される。
【0066】
管凸部63と管凹部64は、熱交換パイプ60の軸方向(長手方向)について直線状に延びる。
【0067】
熱交換パイプ60は、例えばステンレス等の金属材によって形成される。
【0068】
前記実施形態と同様に、熱交換パイプ60に導かれる熱交換媒体は、熱交換パイプ60を介して水素貯蔵物質9との間で熱交換を行い、水素貯蔵物質9の冷却、加熱が行われる。
【0069】
本実施形態では、熱交換パイプ60は、複数の管凸部63が放射状に突出する環状の断面を有する構成としたため、前記実施形態における円環状の断面を有する熱交換パイプ50に比べて、それぞれの流路断面積が等しい条件において、表面積(水素貯蔵物質9に対する接触面積)が大きくなり、水素貯蔵物質9との間で熱交換が行われる熱量を高められる。これにより、水素貯蔵物質9の冷却、加熱が効率よく行われ、水素貯蔵物質9による水素ガスの貯蔵、放出を速やかに行うことができる。
【0070】
熱交換パイプ60は、複数の管凸部63が放射状に突出する環状の断面を有する構成としたため、振動や衝撃に対する強度を高められる。
【0071】
さらに、他の実施形態として、
図5に示すように、熱交換パイプ70の管凸部73と管凹部74が、熱交換パイプ70の軸方向(長手方向)について螺旋状に延びる構成としてもよい。
【0072】
この場合に、熱交換パイプ70は、前記実施形態における管凸部73と管凹部74が直線状に延びるものに比べて、それぞれの流路断面積が等しい条件において、表面積(水素貯蔵物質9に対する接触面積)が大きくなるとともに、これを通って螺旋状に流れる熱交換媒体に働く遠心力によって管凸部73内の先端領域における流速が高められるため、水素貯蔵物質9との間で熱交換が行われる熱量を高められる。これにより、水素貯蔵物質9の冷却、加熱が効率よく行われ、水素貯蔵物質9による水素ガスの貯蔵、放出を速やかに行うことができる。
【0073】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。