特許第5876836号(P5876836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5876836セメント混和材、セメント組成物、及びそれを用いた六価クロム低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5876836
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】セメント混和材、セメント組成物、及びそれを用いた六価クロム低減方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/06 20060101AFI20160218BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20160218BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20160218BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20160218BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20160218BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20160218BHJP
   C04B 103/60 20060101ALN20160218BHJP
【FI】
   C04B22/06 Z
   C04B22/14 D
   C04B22/08 A
   C04B22/08 Z
   C04B22/14 B
   C04B22/14 A
   C04B22/10
   C04B24/32 A
   C04B28/02
   C04B103:60
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-547739(P2012-547739)
(86)(22)【出願日】2011年10月24日
(86)【国際出願番号】JP2011074379
(87)【国際公開番号】WO2012077418
(87)【国際公開日】20120614
【審査請求日】2014年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2010-273747(P2010-273747)
(32)【優先日】2010年12月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】樋口隆行
(72)【発明者】
【氏名】木田勉
(72)【発明者】
【氏名】吉野亮悦
【審査官】 相田 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−173494(JP,A)
【文献】 特開2002−293592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00〜28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有する膨張材と、硫酸スズ含有物質とを含むことを特徴とするセメント混和材。
【請求項2】
前記硫酸スズ含有物質が、前記膨張材と硫酸スズ含有物質の合計100質量部中、硫酸スズ換算で0.2〜8質量部であることを特徴とする請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
前記膨張材が、炭酸ガスによる炭酸化反応生成物である炭酸カルシウムを含有させたものであることを特徴とする請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項4】
前記膨張材が、収縮低減剤表面処理がされているものであることを特徴とする請求項1記載のセメント混和材。
【請求項5】
セメントと、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセメント混和材を含有することを特徴とするセメント組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のセメント組成物を用いることを特徴とする六価クロム低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築分野において使用されるコンクリート混和材、セメント組成物、及びそれを用いた六価クロム低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントコンクリートの初期強度増進、ひび割れ抑制やケミカルプレストレスの導入を目的に従来から膨張材が使用されている(特許文献1〜4)。
【0003】
一方、セメントコンクリートから溶出する六価クロムを低減する材料として硫酸スズが有効であることが知られている(特許文献5、非特許文献1、2)。
特許文献5には、「硬化促進剤、硬化遅延剤、収縮低減剤、鉄筋防錆剤等、公知の添加剤や膨張材等の特殊混和材を添加することができ、これらを添加しても特段の問題を生じない」との記載はあるが、硫酸スズと膨張材を併用することによって、六価クロムが低減できることについては記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭42−021840号公報
【特許文献2】特公昭53−031170号公報
【特許文献3】特開平07−232944号公報
【特許文献4】特開2001−064054号公報
【特許文献5】特開2009−173494号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】World Cement,107-112,September,2007The debate Continues, Mario Chiruzzi、Riccardo Stoppa(Grace Construction Products)
【非特許文献2】World Cement,89-91,February,2007,ResearchStudy:Stannous Sulfate, Matteo Magistri(Mapei SpA)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
下水汚泥焼却灰にはリンや六価クロムを多く含んだものが存在する。このため下水汚泥焼却灰を配合したコンクリート製品を製造する場合、リンがセメントの反応を遅延してコンクリートの初期強度が低下し、硬化体から六価クロムが溶出する場合がある。
【0007】
硫酸スズは、六価クロム低減効果が高いものの、下水汚泥焼却灰を配合したコンクリートでは効果が充分でなかった。また、硫酸スズは遊離石灰や水分と反応して六価クロム低減効果の小さい水酸化スズに変化しやすいため、吸湿性の高い遊離石灰を多く含んだ材料と混合すると貯蔵に伴って性能が劣化する場合があるという課題があった。
【0008】
本発明は、コンクリートの初期強度発現性に優れ、六価クロム低減効果が高く、セメント混和材として貯蔵しても六価クロム低減効果の低下が少ないセメント混和材、セメント組成物、及びそれを用いた六価クロム低減方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明は、(1)遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有する膨張材と、硫酸スズ含有物質とを含むことを特徴とするセメント混和材である。
(2)前記膨張材と硫酸スズ含有物質の合計100質量部中、硫酸スズ含有物質が硫酸スズ換算で0.2〜8質量部であることを特徴とする前記(1)のセメント混和材である。
(3)前記膨張材が、炭酸ガスによる炭酸化反応生成物である炭酸カルシウムを含有させたものであることを特徴とする前記(1)又は(2)のセメント混和材である。
(4)前記膨張材が、収縮低減剤表面処理がされているものであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかのセメント混和材である。
(5)セメントと、前記(1)〜(4)のいずれかのセメント混和材を含有することを特徴とするセメント組成物である。
(6)前記(5)のセメント組成物を用いることを特徴とする六価クロム低減方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセメント混和材を使用することにより、コンクリートの初期強度発現性に優れ、六価クロム低減効果が高く、セメント混和材として貯蔵しても六価クロム低減効果の低下が少ないという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で使用する部、%は、特に規定しない限り質量基準である。
また、本発明でいうコンクリートとは、セメントペースト、セメントモルタル、及びセメントコンクリートを総称するものである。
【0012】
本発明で使用する膨張材は、CaO原料、Al2O3原料、Fe2O3原料、SiO2原料、及びCaSO4原料を適宜混合して熱処理して得られる、遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有する膨張材、又は膨張材を炭酸ガスで処理して得られるものである。
【0013】
本発明でいう遊離石灰とは、通常f−CaOと呼ばれるものである。
【0014】
本発明でいう水硬性化合物とは、3CaO・3Al2O3・CaSO4で表されるアウイン、3CaO・SiO2(C3Sと略記)や2CaO・SiO2(C2Sと略記)で表されるカルシウムシリケート、4CaO・Al2O3・Fe2O3(C4AFと略記)や6CaO・2Al2O3・Fe2O3(C6A2Fと略記)、6CaO・Al2O3・Fe2O3(C6AFと略記)で表されるカルシウムアルミノフェライト、2CaO・Fe2O3(C2Fと略記)等のカルシウムフェライトなどであり、これらのうちの一種又は二種以上を含むことが好ましい。
本発明で使用する膨張材に含まれる炭酸カルシウムの形態は特に限定されるものではない。
【0015】
CaO原料としては石灰石や消石灰が挙げられ、Al2O3原料としてはボーキサイトやアルミ残灰等が挙げられ、Fe2O3原料としては銅カラミや市販の酸化鉄が挙げられ、SiO2原料としては珪石等が挙げられ、CaSO4原料としては二水石膏、半水石膏、及び無水石膏が挙げられる。
これら原料には不純物を含む場合があるが、本発明の効果を阻害しない範囲内では特に問題とはならない。不純物としては、MgO、TiO2、ZrO2、MnO、P2O5、Na2O、K2O、Li2O、硫黄、フッ素、及び塩素等が挙げられる。
【0016】
本発明で使用する膨張材を調製する熱処理方法は、特に限定されるものではないが、電気炉やキルンなどを用いて、1,100〜1,600℃の温度で焼成することが好ましく、1,200〜1,500℃の温度で焼成することがより好ましい。
【0017】
本発明で使用する膨張材に含まれる各鉱物の割合は、以下の範囲であることが好ましい。
遊離石灰の含有量は、膨張材100部中、10〜70部が好ましく、18〜60部がより好ましい。水硬性化合物の含有量は、膨張材100部中、10〜50部が好ましく、20〜40部がより好ましい。無水石膏の含有量は、膨張材100部中、1〜55部が好ましく、20〜50部がより好ましい。
【0018】
また、炭酸ガスで処理し炭酸カルシウムを生成させる場合の炭酸カルシウムの割合は、膨張材100部中、0.1〜10部であることが好ましく、1〜5部がより好ましい。前記範囲外では、初期強度の増進効果や貯蔵性が不充分になる可能性がある。
【0019】
各鉱物の含有量は、従来、一般の分析方法で確認することができる。例えば、粉砕した試料を粉末X線回折装置にかけ、生成鉱物を確認するとともにデータをリートベルト法にて解析し、鉱物を定量することができる。また、化学成分と粉末X線回折の同定結果に基づいて、鉱物量を計算によって求めることもできる。炭酸カルシウムの含有量は、示唆熱天秤(TG−DTA)や示唆熱熱量測定(DSC)などによって、炭酸カルシウムの脱炭酸に伴う重量変化から定量することができる。
【0020】
炭酸ガスで処理し炭酸カルシウムが生成したかどうかは電子顕微鏡等によって確認することができる。具体的には、膨張材を樹脂で包埋し、アルゴンイオンビームで表面処理を行い、粒子断面の組織を観察するとともに、元素分析を行うことで、炭酸カルシウムが他の鉱物と同一粒子内に存在しているか確認することができる。
【0021】
本発明で使用する膨張材の炭酸ガスの処理条件は以下の範囲であることが好ましい。
炭酸化処理容器への炭酸ガスの流量は、炭酸化処理容器の容積1L当たり、0.01〜0.1L/minであることが好ましい。この範囲より少ないと、膨張材の炭酸化に時間がかかる場合があり、この範囲より多くしても更なる炭酸化処理速度の向上が得られず不経済である。なお、本条件は、炭酸化処理容器としてるつぼを使用し、るつぼを電気炉内に静置し、炭酸ガスを流して反応させた場合の条件であり、他の方法でクリンカと炭酸ガスを反応させる場合はこの限りではない。
炭酸化処理容器の温度は、200〜800℃とすることが好ましい。この範囲より低いと膨張材の炭酸化反応が進行しない場合があり、この範囲より高いと一度炭酸カルシウムに変化したとしても再び脱炭酸化反応が生じ、炭酸カルシウムを生成させることができない場合がある。
なお、膨張材の炭酸化は未粉砕の膨張材クリンカをそのまま炭酸化しても良いし、膨張材クリンカを粉砕してから炭酸化しても良い。
本発明でいう炭酸化処理容器は特に限定されるものではなく、膨張材と炭酸ガスを接触させ反応させることができればよく、電気炉でも良いし、流動層式加熱炉でも良いし、膨張材クリンカを粉砕するミルでも良い。
【0022】
本発明で使用する膨張材を収縮低減剤で表面処理することによって、六価クロム低減効果を長期に渡って得ることができる。
収縮低減剤の種類は限定されるものではないが、低分子量アルキレンオキシド共重合体系収縮低減剤、グリコールエーテル・アミノアルコール誘導体系収縮低減剤、及び低級アルコールのアルキレンオキシド付加物系収縮低減剤が好ましく、市販品では、電気化学工業社製商品名「エスケーガード」などが挙げられる。
収縮低減剤の配合量は特に限定されるものではないが、膨張材100部に対して、0.5〜15部配合して表面処理することが好ましい。
【0023】
本発明で使用する膨張材の粉末度は、ブレーン比表面積(以下、ブレーン値という)で1,500〜9,000cm2/gが好ましく、2,000〜7,000cm2/gがより好ましい。
【0024】
膨張材のセメント混和材への配合量は、特に限定されるものではないが、通常、膨張材と硫酸スズ含有物質からなるセメント混和材100部中、膨張材の配合量が90〜99.7部となるように配合することが好ましい。前記範囲外では、六価クロムの低減効果が小さくなるとともに、コンクリートの強度発現性が低下する場合がある。
【0025】
本発明で使用する硫酸スズ含有物質は、特に限定されるものではなく、硫酸スズを含有するものであれば使用可能である。六価クロムを低減する材料としては、硫酸スズの他に硫酸鉄系の材料が一般的に知られているが、本発明では硫酸スズを用いた方がより六価クロム低減効果が高く好ましい。
硫酸スズ含有物質中の硫酸スズの含有率は、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。この範囲より少ないと所定の性能を得るための配合量が多くなるため好ましくない。
【0026】
硫酸スズ含有物質のセメント混和材への配合量は、特に限定されるものではないが、通常、膨張材と硫酸スズ含有物質からなるセメント混和材100部中、硫酸スズ含有物質の配合量が硫酸スズ換算で0.2〜8部となるように配合することが好ましい。前記範囲外では、六価クロム低減効果が不充分の場合や初期強度の増進効果が少なくなる場合がある。
【0027】
本発明のセメント混和材の使用量は、コンクリートの配合によって変化するため特に限定されるものではないが、通常、セメントとセメント混和材からなるセメント組成物100部中、3〜15部が好ましく、5〜12部がより好ましい。前記範囲外では、六価クロム低減効果が不充分の場合や初期強度の増進効果が少なくなる場合がある。
【0028】
本発明のセメント組成物で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカを混合した各種混合セメント、並びに、石灰石粉末を混合したフィラーセメントなどが挙げられる。
【0029】
本発明では、砂や砂利の他、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、高分子エマルジョン、及び凝結調整剤、並びに、セメント急硬材、ベントナイトなどの粘土鉱物、ゼオライトなどのイオン交換体、シリカ質微粉末、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、石膏、及びケイ酸カルシウムなどを併用することが可能である。有機系材料としては、ビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維等の繊維状物質等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例で詳細に説明する。
【0031】
実験例1
膨張材と硫酸スズ含有物質からなるセメント混和材100部中、膨張材と硫酸スズの割合を表1に示すように変化させてセメント混和材を調製した。
次にセメント405g、下水汚泥焼却灰量45g、水量225g、及び砂1,350gからなる基準モルタルを調合した。
さらに、セメント混和材をセメント内割で表1に示す量配合したモルタルを20℃環境で調合した。材齢1日で脱型し、6日間20℃水中で養生した後、圧縮強度と硬化体からの六価クロム溶出量を評価した。
なお、比較例として、硫酸スズの代わりに硫酸第一鉄を用いた場合も実施した。結果を表1に示す。
【0032】
<使用材料>
セメント :普通ポルトランドセメント、密度3.16g/cm3
下水汚泥焼却灰:東京都下水汚泥焼却灰「スーパーアッシュ」、密度2.60g/cm3、平均粒子径30μm
膨張材A :市販品、遊離石灰21部、アウイン32部、及び無水石膏47部、密度2.90g/cm3、ブレーン値6,000cm2/g
硫酸スズ含有物質:グレースケミカルズ社製商品名「SYNCRO」、硫酸スズ含有率75%
硫酸第一鉄:試薬
砂 :JIS標準砂
水 :水道水
【0033】
<試験方法>
圧縮強度 :JIS R 5201に準じて4×4×16cmの試験体を作製し、材齢7日の圧縮強度を測定した。
六価クロム溶出量:環境庁告示第46号に準拠して、六価クロムの溶出試験及び定量を行った。
【0034】
【表1】
【0035】
表1から、セメント混和材を使用しない実験No.1-12では六価クロム溶出量は21.0ppbであり、膨張材のみを使用した実験No.1- 1では、18.8ppbまでしか六価クロム溶出量は低減せず、硫酸スズのみを使用した実験No.1-9では13.5ppbまでしか低減しないが、膨張材と硫酸スズを併用した実験No.1- 4では六価クロム溶出量は8.3ppbと大きく低減し、膨張材と硫酸スズ併用の相乗効果を示すことがわかる。
【0036】
実験例2
膨張材と硫酸スズ含有物質からなるセメント混和材100部中、硫酸スズ含有物質を1.0部に固定し、膨張材の種類を変え、セメント混和材の貯蔵試験の前後の評価を行ったこと以外は実験例1と同様に行った。なお、比較例として、硫酸スズ含有物質を配合せず各膨張材単独についても評価を行った。結果を表2に示す。
【0037】
<使用材料>
膨張材B :膨張材Aをアルミナ製るつぼに入れて電気炉内にセットし、炭酸ガスを電気炉の内容積1L当たり、0.05L/min流しながら、焼成温度600℃、30分反応させて合成したもの。遊離石灰19部、アウイン30部、無水石膏45部、及び炭酸カルシウム1部、密度2.90g/cm3、ブレーン値6,000cm2/g
膨張材C :膨張材A100部に対して、収縮低減剤2部を添加して表面処理したもの、密度2.90g/cm3、ブレーン値6,000cm2/g
膨張材D :遊離石灰21部、アウイン32部、及び無水石膏47部、密度2.90g/cm3、ブレーン値3,000cm2/g
膨張材E :市販品、遊離石灰50部、アウイン10部、C4AF5部、C2S5部、及び無水石膏30部、密度3.05g/cm3、ブレーン値3,000cm2/g
膨張材F :膨張材Cをアルミナ製るつぼに入れて電気炉内にセットし、炭酸ガスを電気炉の内容積1L当たり、0.05L/min流しながら、焼成温度600℃、30分反応させて合成したもの。遊離石灰49部、アウイン10部、C4AF5部、C2S5部、無水石膏30部、及び炭酸カルシウム1部、密度3.05g/cm3、ブレーン値3,000cm2/g
膨張材G :遊離石灰20部、C4AF5部、C2S30部、及び無水石膏45部、密度2.93g/cm3、ブレーン値6,000cm2/g
膨張材H :遊離石灰50部、C4AF15部、C2S5部、及び無水石膏30部、密度3.05g/cm3、ブレーン値3,000cm2/g
炭酸ガス :市販品
収縮低減剤:低分子量アルキレンオキシド共重合体系収縮低減剤、電気化学工業社製商品名「エスケーガード」
【0038】
<試験方法>
促進貯蔵試験:セメント混和材100gを、20×20cm角のステンレス製トレーに載せて広げ、上面を開放した状態で、20℃、60%RH室内に3日間放置した。3日後に回収したサンプルを用いてモルタルを調製し、物性評価を行った。
【0039】
【表2】
【0040】
表2から、セメント混和材を使用しない実験No.1-12では六価クロム溶出量は21.0ppbであり、膨張材のみを使用した実験No.1- 1、実験No.2- 8〜実験No.2-12では、六価クロム溶出量は17.5〜19.3ppbまでしか低減せず、硫酸スズのみを使用した実験No.1- 9、実験No.2-13では、13.5ppb、15.7ppbまでしか低減しないが、本発明の膨張材と硫酸スズを併用した実験No.2- 1〜実験No.2- 7では、6.1〜11.6ppbと大きく低減し、相乗効果を発揮することが明らかである。
【0041】
実験例3
膨張材Aと硫酸スズ含有物質からなるセメント混和材100部中、硫酸スズ含有物質の配合量を1.0部に固定しコンクリートで性能を評価した。
コンクリート配合は、単位セメント量460kg、単位下水汚泥焼却灰量48kg、単位水量198kg、単位減水剤量5.3kg、S/a=55%とし、セメント混和材はセメント内割で20kg配合した。コンクリートの打ち込みは20℃で行い、20℃で2時間前置養生した後、昇温速度20℃/hr、最高温度60℃で4時間保持し、その後自然冷却した。材齢1日で脱型し、20℃水中で6日間養生した後、圧縮強度と六価クロム溶出試験を行った。結果を表3に示す。
なお、比較のため、膨張材のみ添加した場合、硫酸スズのみ添加した場合、及びセメント混和材なしの場合も同様に行った。
【0042】
<使用材料>
細骨材 :姫川産、5mm下、密度2.60g/cm3
粗骨材 :姫川産、25mm下、密度2.67g/cm3
減水剤 :ナフタレンスルホン酸、花王社製商品名「マイテイ150」
【0043】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のセメント混和材を使用することにより、コンクリートの初期強度発現性に優れ、六価クロム低減効果が高く、セメント混和材として貯蔵しても、六価クロム低減効果の低下が少ないという効果を奏するため、六価クロムを多く含んだセメントや下水汚泥焼却灰を用いたコンクリート製品の製造に有効である。