特許第5876841号(P5876841)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5876841
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20060101AFI20160218BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
   C08J7/04 ZCFD
   B32B27/36
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-19013(P2013-19013)
(22)【出願日】2013年2月2日
(65)【公開番号】特開2014-148134(P2014-148134A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2013年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006172
【氏名又は名称】三菱樹脂株式会社
(72)【発明者】
【氏名】開 俊啓
(72)【発明者】
【氏名】川崎 泰史
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−292640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J7/04−7/06
B05D1/00−7/26
B32B1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を0.0005〜3重量%含有するポリエステルフィルムの少なくとも片面に、実質的にポリカルボン酸化合物を含有せず、ポリアリルアミンを含有する塗布液から形成された塗布層を有することを特徴とする光学用積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
アルキル鎖を有するポリアミンが炭素数18以下のアミン化合物をモノマーとして含有しているポリマーである請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリエステルフィルムに関するものであり、詳しくはオリゴマー(ポリエステルの低分子量成分、特にエステル環状三量体)の析出量が極力少ない積層ポリエステルフィルムに関するものである。さらに詳しくは、本発明は、例えば、液晶ディスプレイ(以下、LCDと略記する)、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと略記する)、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと略記する)等、表示部材製造用等の光学用途のほか、フィルム表面にオリゴマーの異物が存在することを極端に嫌う用途に好適な積層ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルフィルム上に接着性、帯電防止性等の各種機能を有する塗布層が設けられた積層ポリエステルフィルムが液晶偏光板、位相差板、PDP、有機EL等の表示部材製造用等をはじめ、各種光学用途等に使用されている。積層ポリエステルフィルム使用上の問題点として、高温下、塗布層表面に析出するオリゴマーが製造工程内において各種不具合を生じることが挙げられる。例えば、表示部材製造用途においては、フィルム表面に存在する異物が表示画面の輝度むら等の不具合を生じる場合がある。
【0003】
近年、IT(Information Technology)分野の躍進に伴い、LCD、PDP、有機EL等の表示部材製造時に使用される積層ポリエステルフィルムの品質向上と共にオリゴマーの析出に伴う各種不具合がさらに顕在化する傾向にある。
【0004】
LCD用ディスプレイ製造時に使用する粘着剤層保護用離型フィルムを構成する基材フィルム、ブラウン管(以下CRTと略記する)用あるいはLCD用ディスプレイの反射防止フィルム用基材フィルム、タッチパネル用基材フィルム、液晶表示装置の構成部材であるプリズムレンズシート用基材フィルム、CRTのガラス飛散防止フィルム用基材フィルム、電子ペーパー用基材フィルム等には、特に優れた透明性が要求される。
【0005】
上述の各種基材フィルムとして積層ポリエステルフィルムを用いた場合、特に光を透過して見る、いわゆる視認性が極めて重視される用途でもあるため、フィルム表面の異物の存在なども、通常のフィルム用途では全く問題とならない異物でさえ、極力少ないことが望まれている。
【0006】
異物の一形態としてオリゴマーに着目した場合、オリゴマー析出防止策として、例えば、固相重合により原料中に含まれるオリゴマーの低減を図ったり、末端封鎖剤を用いてポリエステルフィルムの耐加水分解性を向上させたりする等の対策が講じられてきた。しかしながら、固相重合の場合には押出条件によっては押出時にオリゴマーが増加してしまったり、固相重合のためコストが上昇してしまったりする等の問題を抱えている。そのため、熱処理工程等の製造工程を経てもオリゴマーの析出が極力少ない積層ポリエステルフィルムが望まれている。
【0007】
オリゴマーの析出を防止するフィルムとしては、フィルム中に含有しているオリゴマー量の少ないポリエステルフィルム(特許文献1)やコーティングによりオリゴマーの析出を抑制するポリエステルフィルム(特許文献2)などが提案されているが、近年の光学用途やフィルム表面にオリゴマー起因の異物が存在することを極端に嫌う用途に用いられるポリエステルフィルムには、より過酷な熱条件下においてもオリゴマーが析出しない性能が求められてきており、前記の手法では何れもオリゴマー析出を抑制する性能が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−339423号公報
【特許文献2】特開2006−137045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、エステル環状三量体の析出量が極力少ない積層ポリエステルフィルムを提供することにあり、例えば、液晶偏光板、位相差板等の液晶構成部材製造時に使用する粘着剤層保護用離型フィルムを構成する基材フィルム等、LCD、PDP、有機EL等の表示部材製造時に使用される各種光学用途の基材フィルム等、フィルム表面にエステル環状三量体起因の異物が存在することを嫌う用途に好適な積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記実状に鑑み、鋭意検討した結果、特定の構成からなる積層ポリエステルフィルムを用いれば、上述の課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、粒子を0.0005〜3重量%含有するポリエステルフィルムの少なくとも片面に、実質的にポリカルボン酸化合物を含有せず、ポリアリルアミンを含有する塗布液から形成された塗布層を有することを特徴とする光学用積層ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層ポリエステルフィルムによれば、エステル環状三量体析出量が極力少ない積層ポリエステルフィルムを提供することができ、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における積層ポリエステルフィルムの基体であるポリエステルフィルムは単層構成であっても積層構成であってもよく、2層、3層構成以外にも本発明の要旨を越えない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、特に限定されるものではない。
【0014】
本発明においてフィルムに使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−オキシ安息香酸など)等の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。
【0015】
本発明のフィルムのポリエステル層中には、易滑性付与を主たる目的として粒子を配合することも可能である。配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子や熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の耐熱性有機粒子が挙げられる。さらに、フィルム原料の製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0016】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0017】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常5μm以下、好ましくは0.01〜3μmの範囲である。平均粒径が0.01μm未満の場合には、粒子が凝集しやすく、分散性が不十分な場合があり、一方、5μmを超える場合には、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎて、後工程において種々の表面機能層を塗設させる場合等に不具合が生じる場合がある。
【0018】
さらにポリエステル層中の粒子含有量については、粒子を含有するポリエステル層に対し、通常5重量%以下、好ましくは0.0005〜3重量%の範囲である。粒子が無い場合、あるいは少ない場合は、フィルムの透明性が高くなり、良好なフィルムとなるが、易滑性が不十分となる場合があるため、塗布層中に粒子を入れることにより、易滑性を向上させる等の工夫が必要な場合がある。一方、粒子含有量が5重量%を超えて添加する場合にはフィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0019】
ポリエステル層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリマーを製造する任意の段階において添加することができる。
【0020】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0021】
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常5〜250μm、好ましくは10〜200μmの範囲である。
【0022】
次に本発明におけるポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。
【0023】
すなわち、先に述べたポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高める必要があり、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70〜170℃であり、延伸倍率は通常3.0〜7倍、好ましくは3.5〜6倍である。そして、引き続き180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0024】
また、本発明においては積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法とは、前記の未延伸シートを通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、170〜250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0025】
さらに上述のポリエステルフィルムの延伸工程中にフィルム表面を処理する、いわゆるインラインコーティングを施すことができる。インラインコーティングによりポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、延伸と同時に塗布が可能となると共に、塗布層の厚みを延伸倍率により変化させることができるため、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
【0026】
また、本発明においては、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、いわゆるオフラインコーティングを採用してもよく、さらに両者を併用してもよい。
【0027】
インラインコーティングについては以下に限定するものではないが、例えば、逐次二軸延伸においては特に縦延伸が終了して、横延伸前にコーティング処理を施すことができる。塗布延伸法によりポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、製膜と同時に塗布が可能になると共に塗布層を高温で処理することができ、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
【0028】
上述のコーティング処理を施すにあたり、塗布剤のフィルムへの塗布性および接着性を改良するため、塗布前にフィルムに化学処理や放電処理を施してもよい。また本発明のフィルムの塗布層の表面特性を改良するため、塗布層形成後に塗布層面に放電処理やオフラインコートで各種のコートを施してもよい。
【0029】
また、本発明の積層フィルムが有する塗布層面の反対面に、要求特性に応じて必要な特性、例えば接着性、帯電防止性、耐候性および表面硬度の向上のため、インラインコートを行ってもよい。また、積層フィルムの製造後に前述の塗布層面の反対面に、オフラインコートで各種のコートを行ってもよい。
【0030】
本発明では、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、実質的にポリカルボン酸化合物を含有せず、アルキル鎖を有するポリアミンを含有する塗布液から形成された塗布層を有することを必須の要件とするものである。
【0031】
発明におけるアルキル鎖を有するポリアミンとは、非環式およびまたは環式の脂肪族化合物の分子内に1級、2級および3級のアミンを複数含有している化合物のことであり、アルキル鎖を有するポリアミンは合成上可能であるならば、どの様な構造であっても本発明において用いることができる。
【0032】
本発明においてはエステル環状三量体の析出を抑制する観点から、アルキル鎖を有するポリアミンの中でもポリマーを使用することが好ましい。
【0033】
アルキル鎖を有するポリアミンのポリマーにおいては、分子中におけるアミンの含有量が多いポリマーの使用が好ましく、好ましくは炭素数18以下のアミン化合物をモノマーとして含有しているポリマー、より好ましくは炭素数12以下のアミン化合物をモノマーとして含有しているポリマー、さらに好ましくは炭素数6以下のアミン化合物をモノマーとして含有しているポリマー、最も好ましくは炭素数3以下のアミン化合物をモノマーとして含有しているポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリトリメチレンイミン等のポリマーである。
【0034】
本発明におけるアルキル鎖を有するポリアミンとは、非環式およびまたは環式の脂肪族化合物の分子内に1級、2級および3級のアミンを複数含有している化合物のことであり、アルキル鎖を有するポリアミンは合成上可能であるならば、どの様な構造であっても本発明において用いることができる。
【0035】
本発明においてはエステル環状三量体の析出防止の観点から、アルキル鎖を有するポリアミンの中でもポリマーを使用することが好ましい。アルキル鎖を有するポリアミンのポリマーにおいては、分子中におけるアミンの含有量が多いポリマーの使用が好ましく、好ましくは炭素数18以下のアミン化合物をモノマーとして含有しているポリマー、より好ましくは炭素数12以下のアミン化合物をモノマーとして含有しているポリマー、さらに好ましくは炭素数6以下のアミン化合物をモノマーとして含有しているポリマー、最も好ましくは炭素数3以下のアミン化合物をモノマーとして含有しているポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリトリメチレンイミン等のポリマーで、これらの中でもポリアリルアミンの使用が好ましい。
【0036】
上記記載の炭素数は、アミンの窒素原子と結合しており、かつポリマーを形成することに関与する部分の炭素数を意味している。ポリマーの形成に関与していない、アミンの窒素原子に結合している炭素数に関しては、本発明の要旨を逸脱しない限り、その炭素数に制限はない。
【0037】
本発明で使用することのできるポリアリルアミンとは、アリルアミンのホモ重合体やアリルアミンと他の重合性のモノマーとの共重合体など、アリルアミン構造が組み込まれたポリマーのことであり、合成上可能であるならば、どのような構造のポリアリルアミンであってもよい。
【0038】
これらポリアリルアミンの中でも、エステル環状三量体の析出防止の観点から、アリルアミンのホモ重合体を使用することが好ましい。本発明におけるポリアリルアミンのホモ重合体の具体的な一例としては、下記化学式(1)のような構造が挙げられる。
【0039】
【化1】
【0040】
上記化学式(1)中、R、Rには、通常、水素(H)やメチル基、エチル基等のアルキル基が用いられるが、合成上可能であるならば、どのような構造であっても構わない。また、R、Rは同じ構造の基であっても、それぞれ異なる構造の基であってもよい。本発明においては、エステル環状三量体の析出防止の観点から、上記化学式(1)のR、Rがともに水素(H)である構造のポリアリルアミンのホモ重合体の使用が特に好ましい。
【0041】
本発明において使用するポリアリルアミンの重量平均分子量に特に制限はないが、好ましくは1000以上、より好ましくは2000〜200000、さらに好ましくは5000〜100000の範囲である。上記下限の範囲から外れる場合には、エステル環状三量体の析出を抑制する効果が悪化する懸念があり、上限の範囲から外れる場合には、液の取り扱い性が悪化する懸念がある。
【0042】
塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、ポリアリルアミンは通常15重量%以上の範囲、好ましくは40重量%以上の範囲、より好ましくは90重量%以上の範囲である。15重量%未満の場合、積層フィルムからのエステル環状三量体の析出を抑制する効果が低下する恐れがある。
【0043】
本発明においては、塗布液中にポリカルボン酸化合物が存在すると、塗布層のエステル環状三量体を抑制する性能が著しく低下することが判明したことから、前記塗布液中に実質的にポリカルボン酸化合物を含有しないことを特徴とする。
【0044】
実質的にポリカルボン酸化合物を含有しないとは、意図して用いないことを意味し、具体的には塗布層を形成する全不揮発成分の割合で好ましくは1重量%以下の範囲、より好ましくは0.5重量%以下の範囲、さらに好ましくは0.1重量%以下の範囲である。
エステル環状三量体を抑制する性能が著しく低下原因としては、ポリカルボン酸化合物が有するカルボキシル基とアルキル鎖を有するポリアミンが有するアミノ基が反応していることが原因として考えられる。
【0045】
本発明におけるポリカルボン酸化合物とは、カルボキシル基を1つ以上含有する構造のモノマーのみを使い単独重合/縮合もしくは共重合/縮合してなるポリマーのことである。具体的には、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、アクリル酸-メタクリル酸共重合体、ポリマレイン酸、カルボキシル基含有脂肪族系ポリアミド、カルボキシル基含有芳香族系ポリアミドなどが例示できる。
【0046】
本発明では塗膜の造膜性を向上させる目的で前記塗布液中に、ポリカルボン酸化合物以外のポリマーを1種もしくは2種以上含有していても良く、かかるポリマーとしては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール等のビニル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0047】
また、これらは、それぞれの骨格構造が共重合等により実質的に複合構造を有していてもよく、複合構造を持つポリマーとしては、例えば、アクリル樹脂グラフトポリエステル、アクリル樹脂グラフトポリウレタン、ビニル樹脂グラフトポリエステル、ビニル樹脂グラフトポリウレタン等が挙げられる。
【0048】
上記のポリマーの中でも、エステル環状三量体の抑制効果を低下させずに造膜性の改良を行う観点から、ポリマーとしてはポリビニルアルコールやアクリル樹脂を用いることが好ましい。
【0049】
また、前述のとおりポリカルボン酸化合物はエステル環状三量体を抑制する性能が著しく低下させることから、カルボキシル基含有化合物は用いないことが好ましいが、カルボキシル基含有のポリマーを用いる場合は塗布液中において、ポリカルボン酸化合物の分子構造中のカルボキシル基のモル数とアルキル鎖を含有するポリアミンの分子構造中のアミノ基のモル数が、30:100より少なくなるように混合する範囲で使用することが可能である。
【0050】
本発明では、前記塗布液中に架橋剤を含有してもよい。架橋剤としてはメラミン化合物、グアナミン系、アルキルアミド系、ポリアミド系の化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、アジリジン化合物、ブロックイソシアネート化合物、シランカップリング剤、ジアルコールアルミネート系カップリング剤、ジアルデヒド化合物、ジルコアルミネート系カップリング剤、過酸化物、熱または光反応性のビニル化合物や感光性樹脂等が挙げられるが、エステル環状三量体の抑制効果を低下させずに塗膜強度の改良を行う観点から、特にメラミン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物の使用が好ましく、オキサゾリン化合物、シランカップリング剤の使用は更に好ましい。また、本発明においては複数種の架橋剤を併用して使用しても構わない。
【0051】
なお、これら架橋剤は、乾燥過程や製膜過程において、反応させて塗布層の性能を向上させる設計で用いている。よって、出来上がった塗布層中には、これら架橋剤の未反応物、反応後の化合物、あるいはそれらの混合物が存在しているものと推測できる。
【0052】
本発明においては、塗布層の滑り性改良のために塗布層の形成に粒子を使用していてもよい。粒子としてはシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、二酸化チタン等の不活性無機粒子やポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリビニル系樹脂から得られる微粒子あるいはこれらの架橋粒子に代表される有機粒子が例示される。
【0053】
また、塗布層を得るために用いられる塗布液は、必要に応じ消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、帯電防止剤、離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤等を含有していてもよい。
【0054】
なお、前述の塗布層中の成分の分析は、例えば、TOF−SIMS、ESCA、蛍光X線等の分析によって行うことができる。
【0055】
さらに塗布液は、水を主たる媒体とすることが好ましく、水への分散を改良する目的あるいは造膜性能を改良する目的で少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤は主たる媒体である水と混合して使用する場合、水に溶解する範囲で使用することが望ましい。有機溶剤としては、例えばn−ブチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール等の脂肪族または脂環族アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、n−ブチルセルソルブ、エチルセルソルブ、メチルセルソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール誘導体、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸アミル等のエステル類、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、N−メチルピロリドン等のアミド類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの有機溶剤は単独で用いてもよいが、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0056】
本発明のフィルムに塗布層を設ける場合、その厚みは、最終的な乾燥後の厚さで通常0.001〜0.5μm、好ましくは0.02〜0.3μm、さらに好ましくは0.05〜0.2μmである。塗布層の厚さが0.5μmを超えると、フィルムが相互にブロッキングしやすくなることがある。塗布層の厚さが0.001μm未満では、エステル環状三量体の析出を封止する効果が小さくなる恐れがある。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、本発明で用いた物性測定法を以下に示す。
【0058】
(1)固有粘度IV(dl/g)
ポリエステル1gに対し、フェノール/テトラクロロエタン:50/50(重量比)の混合溶媒を100mlの比で加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0059】
(2)添加粒子の平均粒子径(μm)
株式会社島津製作所製遠心沈降式粒度分布測定装置SA−CP3型を用いて、ストークスの抵抗則に基づく沈降法によって粒子の大きさを測定した。測定により得られた粒子の等価球形分布における積算(体積基準)50%の値を用いて平均粒径とした。
【0060】
(3)塗布層の膜厚測定方法
塗布層の表面をRuOで染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により作成した切片をRuOで染色し、塗布層断面をTEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 H−7650、加速電圧100V)を用いて測定した。
【0061】
(4)積層ポリエステルフィルムにおける一方の塗布層表面から抽出されるエステル環状三量体量の測定
あらかじめ、未熱処理の積層ポリエステルフィルムを空気中、180℃で30分間加熱する。その後、熱処理をした該フィルムを上部が開放され、底辺の面積が250cm2となるように折り、四角の箱を作成する。塗布層を設けている場合は、塗布層面が内側となるようにする。次いで、上記の方法で作成した箱の中にジメチルホルムアミド10mlを入れて3分間放置した後、ジメチルホルムアミドを回収する。回収したジメチルホルムアミドを液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製:LC−7A)に供給して、ジメチルホルムアミド中のエステル環状三量体量を求め、この値を、ジメチルホルムアミドを接触させたフィルム面積で割って、フィルム表面エステル環状三量体量(mg/cm)とする。ジメチルホルムアミド中のエステル環状三量体量は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。
【0062】
標準試料の作成は、あらかじめ分取したエステル環状三量体(環状三量体)を正確に秤量し、正確に秤量したジメチルホルムアミドに溶解させ作成した。標準試料の濃度は、0.001〜0.01mg/mlの範囲が好ましい。なお、液体クロマトグラフの条件は下記のとおりとした。
【0063】
移動相A:アセトニトリル
移動相B:2%酢酸水溶液
カラム:三菱化学株式会社製『MCI GEL ODS 1HU』
カラム温度:40℃
流速:1ml/分
検出波長:254nm
【0064】
本発明においては、下記基準によりエステル環状三量体の抑制評価を行った。
製品使用上の性能を鑑みて、○以上の評価を合格とした。
◎:フィルム表面エステル環状三量体量が3.0×10−5(mg/cm)未満
○:フィルム表面エステル環状三量体量が3.0×10−5(mg/cm)以上、1.0×10−4(mg/cm)未満
△:フィルム表面エステル環状三量体量が1.0×10−4(mg/cm)以上、5.0×10−4(mg/cm)未満
×:フィルム表面エステル環状三量体量が5.0×10−4(mg/cm)以上
【0065】
実施例および比較例で用いた塗布層を構成する組成成分は、以下に示すとおりである。
なお、実施例および比較例で用いている重量%とは、不揮発分での重量%を意味している。
【0066】
[塗布層を構成する組成成分]
(A)ポリアリルアミン
(A−1):明細書中記載の(1)式の重量平均分子量が25000であるアリルアミンのホモ重合体
(A−2):明細書中記載の(1)式の重量平均分子量が8000であるアリルアミンのホモ重合体
(A−3):明細書中記載の(1)式の重量平均分子量が1600であるアリルアミンのホモ重合体
【0067】
(B)帯電防止剤
対イオンがメチルスルホネートである、2−ヒドロキシ3−メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩ポリマー。数平均分子量:30000。
(C)ポリマー
ケン化度が88%の重合度500のポリビニルアルコール
【0068】
(D)架橋剤
(D−1):N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン
(D−2):オキサゾリン化合物であるエポクロス WS−300(株式会社日本触媒製)
(D−3):ポリグリセロールポリグリシジルエーテル。
(D−4):ヘキサメトキシメチロールメラミン
(D−5):ポリカルボジイミド化合物 カルボジライト SV−02(日清紡株式会社製)
【0069】
(E)ポリカルボン酸化合物
重量平均分子量が140000であるポリアクリル酸のナトリウム塩。
(F)粒子
平均粒径0.07μmのシリカ粒子
【0070】
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
【0071】
〈ポリエステルの製造〉
ジメチルテレフタレート100部、エチレングリコール60部および酢酸マグネシウム・4水塩0.09部を反応器にとり、加熱昇温すると共にメタノールを留去し、エステル交換反応を行い、反応開始から4時間を要して230℃に昇温し、実質的にエステル交換反応を終了した。次いで、エチルアシッドフォスフェート0.04部、三酸化アンチモン0.03部、平均粒径1.5μmのシリカ粒子を0.01部添加した後、100分で温度を280℃、圧力を15mmHgに達せしめ、以後も徐々に圧力を減じ、最終的に0.3mmHgとした。4時間後、系内を常圧に戻し、固有粘度0.61のポリエチレンテレフタレートを得た。
【0072】
実施例1:
製造したポリエチレンテレフタレートを180℃で4時間、不活性ガス雰囲気中で乾燥し、溶融押出機により290℃で溶融し、口金から押出し静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して未延伸シートを得た。次に得られた未延伸シートをまず、95℃で3.6倍に縦延伸し、下記表1に示す塗布液1を塗布した後、テンターに導き、横方向に4.3倍の逐次二軸延伸を行った。その後、230℃にて熱固定し、塗布厚が0.09μmの下記表1に示す塗布液を用いて形成された塗布層が設けられた、厚さ38μmのフィルムを得た。でき上がった積層ポリエステルフィルムは下記表1に示すとおり、加熱後のエステル環状三量体析出量が極めて少なく良好であった。
【0073】
実施例2〜18:
実施例1において塗布する、塗布液を下記表1に示す塗布剤組成と塗布厚に変更する以外は実施例1と同様にして積層ポリエステルフィルムを得た。でき上がった積層ポリエステルフィルムは下記表1に示すとおり、加熱後のエステル環状三量体析出量が極めて少なく良好であった。
【0074】
比較例1:
実施例1において、塗布液を塗布しないこと以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。でき上がったポリエステルフィルムは下記表2に示すとおり、加熱後のエステル環状三量体析出量が極めて多かった。
【0075】
比較例2〜4:
実施例1において塗布する、塗布液を下記表2に示す塗布剤組成と塗布厚に変更する以外は実施例1と同様にして積層ポリエステルフィルムを得た。なお、すべての比較例において、帯電防止剤を配合しなかった。でき上がった積層ポリエステルフィルムは下記表2に示すとおり、比較例3および4の加熱後のエステル環状三量体析出量は極めて多く、比較例2もエステル環状三量体析出量が実施例と比較して多かった。
【0076】
なお、表1および2の配合成分欄中に記載してある比の数値は、塗布液中の不揮発分での重量比を表している。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、例えば、LCD、PDP、有機EL等、表示部材製造用等の光学用途のほか、フィルム表面にエステル環状三量体起因の異物が存在することを嫌う用途に好適に利用することができ、本発明の工業的価値は高い。