【実施例】
【0025】
1.生物阻害判定法の工程
本実施例では、硝化細菌(アンモニア酸化細菌、亜硝酸酸化細菌)は、アンモニウムイオンを酸化する際に酸素(0
2 )を消費する。逆に、酸素の消費が阻害されれば、硝化反応が阻害されることとなる。この原理を利用して、硝化細菌を含む活性汚泥の呼吸阻害率を求めることにより、対象汚水の硝化阻害レベルを判定することができる。その手順は、次の通りである。
【0026】
1)汚泥調整
使用した活性汚泥液は、生物処理施設好気槽の活性汚泥液を用いた。汚泥の調整は、遠心分離機により汚泥をMLSS値を約2000mg/Lとなるように調整し、生理食塩水に懸濁した。尚、本実施例では、実験条件を統一するために生理食塩水を使用したが、ブランク測定と同一の液であれば、排水(例:生物処理施設の流量調整水)を使用しても良いことは言うまでもない。
【0027】
2)曝気処理
前記活性汚泥液90mLに対して供給空気量約0.25L/(分・100mL)以上、35℃の条件で20分以上曝気した。尚、活性汚泥の呼吸速度は、液温が下がるに従って低下し、それに伴い硝化速度も低下する。硝化阻害性はどの温度帯においても変わらないため、呼吸速度を求める際は、微生物が活性化する30℃以上で判定した方が阻害を見極めやすい。但し、40℃以上ではNH
4+が揮発する可能性があり正確な硝化阻害判定ができないため、曝気温度は35℃とした。
【0028】
3)DO測定
曝気後、25%NH
4Cl0.4mLと、判定対象液10mLを添加し、1N硫酸または1N苛性ソーダにより検水をpH7.0に調整した後、DOメーターにより検水中の溶存酸素濃度を5分間以上測定した。
図4は得られた酸素消費曲線である。
【0029】
4)酸素消費速度の算出
図4は酸素消費曲線から酸素消費速度を算出を示す説明図である。
図4に示す通り、得られた酸素消費曲線において、3点以上から構成される最も急な直線の傾きを求め、酸素消費速度(mg/L/min)とした。
【0030】
5)呼吸阻害率の算出
前記操作の判定対象液をブランク水(生理食塩水)に置き換えて実施し、ブランク水の酸素消費速度を求めた。その値を用いて、以下の式によって呼吸阻害率を求めた。
(呼吸阻害率%)={(ブランク水の酸素消費速度)−(判定対象液の酸素消費速度)}/(ブランク水の酸素消費速度) ×100
【0031】
2.硝化阻害レベル
前記判定法により得られた呼吸阻害率(%)と硝化阻害率(%)の一致率を確認するため、種々硝化阻害物質に対して、呼吸阻害率と硝化阻害率を求めた。ここで、硝化阻害率は、以下の方法により算出した。
【0032】
(硝化阻害判定手順)
(1) 汚泥調整
呼吸阻害判定と同様に、汚泥をMLSS約2000mg/Lに調製した。
(2) 検液、及び資材の添加
上記活性汚泥液に対して判定対象液(予めpH7.0に調整)を10mL添加し、25%NH
4Cl 0.4mLを適量添加(検液中のNH
4+濃度が200mg/L程度となるように添加)、リン酸を0.08mLを添加して検水を100mLとし、1N硫酸または1N苛性ソーダによりpH7.0に調整した。
【0033】
(3) 曝気処理
上記検水100mLに対して供給空気量0.5L/(分・100mL)、35℃の条件で24時間曝気した。
(4) アンモニウムイオン(NH
4+)濃度の測定
曝気0、6、24時間後の検水中のアンモニウムイオン(NH
4+)濃度を測定した(イオンクロマトグラフ法により測定)。そのNH
4+濃度から、以下の値を求めた。
(NH
4+除去率%)=(NH
4+初濃度−処理後濃度)/初濃度 × 100
(硝化速度mg・NH
4/hr) =(NH
4+初濃度−処理後濃度)×検水容量0.1 L/曝気時間
【0034】
(5) 硝化阻害率の算出
前記操作の判定対象液をブランク水(生理食塩水)に置き換えて実施し、ブランク水の硝化速度及びNH
4+除去率を求めた。その値より、以下の式に従って、硝化阻害率を求めた。
(硝化阻害率%)={(ブランク水の硝化速度(又はNH
4+除去率)−(判定対象液の硝化速度(又はNH
4+除去率)}/{ブランク水の硝化速度(又はNH
4+除去率)} × 100
【0035】
次の表1は、個々の硝化阻害物質に対する呼吸阻害率及び硝化阻害率を示す。
図5は硝化阻害性物質濃度と硝化阻害率との関係を示す線図である。
【0036】
【表1】
【0037】
表1より、呼吸阻害率と硝化阻害率の一致率は高く、呼吸阻害率を求めることにより硝化阻害を判定できることが確認された。ここで、本実施例の阻害判定法により得られた呼吸阻害率(%)から、以下の硝化阻害レベルに分類した。
・レベル1:呼吸阻害率0〜10%未満。阻害物質の濃度が1000mg/L以上で硝化阻害を示す物質を含むか又は阻害物質を全く含まず、硝化阻害性は極めて低いため、生物処理可と判断。
・レベル2:呼吸阻害率10〜30%未満。阻害物質の濃度が100mg/L以上で硝化阻害を示す物質を含む可能性があるが、硝化阻害性は低いため、生物処理可と判断。
・レベル3:呼吸阻害率30%以上。阻害物質の濃度が100mg/L未満で硝化阻害を示す物質を含む可能性があり、硝化阻害性が高いため、生物処理不可と判断。
【0038】
「硝化阻害レベルが2以下」であり、かつ、「放流時の液性が法基準(例えば、下水道排除基準)を満たす」汚水は、生物処理を“可”とした。
【0039】
3.実汚水の判定結果
(3-1) 生物阻害判定の結果
種々の実験水に対して生物阻害判定を行った結果、[阻害レベルが2以下]と判定した実験水として、以下を抽出した。
・実験水A(pH11.6、比重1.0、COD9200mg/L)
・実験水B(pH11.8、比重1.0、COD4200mg/L、酢酸含有)
・実験水C(pH10.5、比重1.0、COD2600mg/L、NH
4+含有)
【0040】
(3-2) 生物処理施設での実機テスト
1月13日から1月30日にかけて、実験水A、B、Cを生物処理施設に送水した。
図6はある生物処理施設処理水の窒素化合物濃度及びCOD推移を示す線図であり、a図は窒素化合物濃度、b図はCOD推移を各々示す。各汚水の結果は、以下の通りである。
【0041】
(a) 実験水Aについて
生物処理施設に送水後、処理水中の窒素化合物濃度及びCODに顕著な影響は見られず、
図6に示す通り、処理水中のCOD(BODは10mg/L未満)は問題なく処理されていた。
【0042】
(b) 実験水Bについて
生物処理施設に送水後、処理水中の窒素含有量は低下傾向を示し、窒素除去率も上昇した。これより、酢酸を添加することにより窒素処理能力が向上したことが確認された。また、処理水中のCODは問題なく処理されていた(BODは10mg/L未満)。
【0043】
(c) 実験水Cについて
生物処理施設に送水後、処理水中のNH
4+濃度が僅かに増加したが、下水基準(T-N380mg/L)未満に処理されていた。また、処理水中のCODは問題なく処理されていた(BODは10mg/L未満)。
【0044】
これより、生物阻害判定法により抽出した低阻害汚水は、生物処理施設に送水しても処理性に悪影響は無く、処理水は下水道排水基準を満たした。また、設備トラブル等も見られなかった。本テスト期間は冬季の気温が低い期間であり、微生物の活動が弱くなる時期である。その期間において処理性に悪化が見られないことから、通年においてこれら低阻害汚水を生物処理しても問題ないと考えられた。