【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
2.5m×1.1m×1.5mの大きさ(約4m
3)の電解槽内に、それぞれ大きさ(1.0m×1.0m)9枚のTi製陰極板(表面粗度Rz=0.7μm)と不溶性陽極板とを電極間距離5cmとなるように吊設し、電解液としての硫酸銅溶液を300L/分で循環させて、この電解液に陽極と陰極を浸漬し、これに直流電流を流して電気分解を行い、陰極表面に粉末状の銅を析出させた。
この際、循環させる電解液の液温40℃、Cu濃度を15g/L、硫酸(H
2SO
4)濃度を150g/L、塩素濃度を50mg/Lとし、且つ、電流密度を100A/m
2に調整して30分間電解を実施した。
【0045】
そして、陰極表面に析出した銅を、スクレーパを用いて30秒に1回の頻度で掻き落として回収し、その後、洗浄し、銅粉1kg相当の含水銅粉ケーキを得た。このケーキを水3Lに分散させてスラリーとし、その後、純水で洗浄して不純物を取り除いた。
次に、工業用ゼラチン(新田ゼラチン社製)10g/Lの水溶液1Lを加えて撹拌した後、減圧状態(1×10
-3Pa)で80℃、6時間乾燥させ、電解銅粉(サンプル)を得た。
【0046】
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、主軸の長径Lが0.5〜5.0μmであり、枝本数/主軸長径Lが3.0〜20.0本/μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子(特殊デンドライト状銅粉粒子)が、全銅粉粒子のうちの80個数%以上を占めていることを確認できた。
【0047】
(実施例2)
実施例1において、Cu濃度を10g/L、塩素濃度を150mg/Lにした以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、主軸の長径Lが0.5〜5.0μmであり、枝本数/主軸長径Lが3.0〜20.0本/μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子(特殊デンドライト状銅粉粒子)が、全銅粉粒子のうちの80個数%以上を占めていることを確認できた。
【0048】
(実施例3)
実施例1において、Cu濃度を20g/L、電流密度を200A/m
2にした以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、主軸の長径Lが1.0〜4.5μmであり、枝本数/主軸長径Lが3.0〜20.0本/μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子(特殊デンドライト状銅粉粒子)が、全銅粉粒子のうちの80個数%以上を占めていることを確認できた。
【0049】
(実施例4)
実施例1において、塩素濃度を150mg/L、硫酸濃度100g/L、電流密度を200A/m
2にした以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、主軸の長径Lが1.5〜4.0μmであり、枝本数/主軸長径Lが3.5〜19.0本/μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子(特殊デンドライト状銅粉粒子)が、全銅粉粒子のうちの80個数%以上を占めていることを確認できた。
【0050】
(実施例5)
実施例1において、塩素濃度を200mg/L、硫酸濃度200g/Lにした以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、主軸の長径Lが1.0〜5.0μmであり、枝本数/主軸長径Lが6.0〜18.0本/μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子(特殊デンドライト状銅粉粒子)が、全銅粉粒子のうちの80個数%以上を占めていることを確認できた。
【0051】
(実施例6)
実施例1において、電解液の液温30℃、塩素濃度を200mg/L、硫酸濃度200g/Lにした以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、主軸の長径Lが1.5〜4.0μmであり、枝本数/主軸長径Lが3.5〜19.0本/μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子(特殊デンドライト状銅粉粒子)が、全銅粉粒子のうちの80個数%以上を占めていることを確認できた。
【0052】
(実施例7)
実施例1において、電解液の液温50℃、塩素濃度を15mg/L、Cu濃度を10g/Lとした以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、主軸の長径Lが0.5〜5.0μmであり、枝本数/主軸長径Lが3.0〜20.0本/μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子(特殊デンドライト状銅粉粒子)が、全銅粉粒子のうちの80個数%以上を占めていることを確認できた。
【0053】
(実施例8)
実施例1において、塩素濃度を100mg/L、Cu濃度を10g/L、電流密度を200A/m
2、硫酸濃度200g/Lにした以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、主軸の長径Lが0.5〜5.0μmであり、枝本数/主軸長径Lが3.0〜20.0本/μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子(特殊デンドライト状銅粉粒子)が、全銅粉粒子のうちの80個数%以上を占めていることを確認できた。
【0054】
(実施例9)
実施例1において、塩素濃度を200mg/L、Cu濃度を3g/L、硫酸濃度200g/Lにした以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、主軸の長径Lが0.5〜5.0μmであり、枝本数/主軸長径Lが3.0〜20.0本/μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子(特殊デンドライト状銅粉粒子)が、全銅粉粒子のうちの80個数%以上を占めていることを確認できた。
【0055】
(実施例10)
実施例1において、塩素濃度を100mg/L、Cu濃度を2g/L、電流密度を200A/m
2にした以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、主軸の長径Lが0.5〜5.0μmであり、枝本数/主軸長径Lが3.0〜20.0本/μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子(特殊デンドライト状銅粉粒子)が、全銅粉粒子のうちの80個数%以上を占めていることを確認できた。
【0056】
(比較例1)
実施例1において、塩素濃度を1000mg/L、Cu濃度を10g/L、電流密度を50A/m
2、硫酸濃度100g/Lにした以外は実施例1と同様に製造した。陰極表面に析出した銅を、機械的に掻き落として回収し、その後、洗浄し、銅粉1kg相当の含水銅粉ケーキを得た。このケーキを純水で洗浄して不純物を取り除いた後、工業用ゼラチン(新田ゼラチン社製)10g/Lの水溶液1Lを加えて撹拌した後、減圧状態(1×10
-3Pa)で80℃、6時間乾燥させ、電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、ほとんどの銅粉粒子が針状又は棒状を呈していることを確認できた。
【0057】
(比較例2)
実施例1において、塩素濃度を500mg/L、Cu濃度を10g/L、電流密度を200A/m
2、硫酸濃度100g/Lにした以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、ほとんどの銅粉粒子は針状又は棒状を呈していることを確認できた。
【0058】
(比較例3)
実施例1において、塩素濃度を400mg/L、Cu濃度を10g/L、電流密度を200A/m
2、硫酸濃度100g/Lにした以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、ほとんどの銅粉粒子は針状又は棒状を呈していることを確認できた。
【0059】
(比較例4)
実施例1において、塩素濃度を300mg/L、Cu濃度を5g/L、電流密度を50A/m
2、硫酸濃度50g/Lにした以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、主軸の長径Lが0.5〜5.0μmであり、枝本数/主軸長径Lが3.0〜20.0本/μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子(特殊デンドライト状銅粉粒子)が、全銅粉粒子のうちに占める割合は80個数%未満であった。
【0060】
(比較例5)
実施例1において、Ti製陰極板の表面粗度Rz=3.0μm、塩素濃度を150mg/L、Cu濃度を5g/Lにした以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、主軸の長径Lが0.5〜5.0μmであり、枝本数/主軸長径Lが3.0〜20.0本/μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子(特殊デンドライト状銅粉粒子)が、全銅粉粒子のうちに占める割合は80個数%未満であった。
【0061】
(比較例6)
実施例1において、Ti製陰極板の表面粗度Rz=5.5μm、塩素濃度を100mg/L、電流密度を50A/m
2、硫酸濃度100g/Lにした以外は、実施例1と同様に電解銅粉(サンプル)を得た。
こうして得られた電解銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、主軸の長径Lが0.5〜5.0μmであり、枝本数/主軸長径Lが3.0〜20.0本/μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子(特殊デンドライト状銅粉粒子)が、全銅粉粒子のうちに占める割合は80個数%未満であった。
【0062】
(比較例7)
市販のアトマイズ銅粉(三井金属社製アトマイズ銅粉、非デンドライト状、D50:3.4μm)を入手し、実施例1と同様に評価してその結果を表に示した。
アトマイズ銅粉とは、電解法ではなく、アトマイズ法によって作製した銅粉の意味である。
【0063】
=評価方法=
実施例・比較例で得られた銅粉(サンプル)を次のように評価した。
【0064】
<粒子形状の観察>
実施例・比較例で得た銅粉(サンプル)を、走査型電子顕微鏡(2,000倍)にて、任意の500個の粒子の形状をそれぞれ観察し、主軸の太さa(「主軸太さa」)、主軸から伸びた枝の中で最も長い枝の長さb(「枝長b」)、主軸の長径Lに対する分岐枝の本数(枝本数/主軸長径L)を測定し、その平均値を表1に示した。
なお、平均値は、デンドライト状銅粉粒子と認められる粒子の平均値である。
【0065】
また、枝本数/主軸長径Lが3.0〜20.0本/μmであるデンドライト状銅粉粒子(「特殊デンドライト状銅粉粒子」と称する)が、全銅粉粒子のうちに占める個数割合を「全粒子中の特殊デンドライトの個数割合」として表1に示した。
また、枝本数/主軸長径Lが3.0〜20.0本/μmである前記特殊デンドライト状銅粉粒子が、デンドライト状銅粉粒子のうちに占める個数割合を、「デンドライト中の特殊デンドライトの個数割合」として表1に示した。
なお、粒子形状の観察の際、粒子同士が重ならないように、カーボンテープ上に少量の銅粉(サンプル)を付けて測定を行った。
【0066】
<粒度測定>
実施例・比較例で得た銅粉(サンプル)を少量ビーカーに取り、3%トリトンX溶液(関東化学製)を2、3滴添加し、粉末になじませてから、0.1%SNディスパーサント41溶液(サンノプコ製)50mLを添加し、その後、超音波分散器TIPφ20(日本精機製作所製)を用いて2分間分散処理して測定用サンプルを調製した。
この測定用サンプルを、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置MT3300(日機装製)を用いて、体積累積基準D50を測定し、表1に示した。
【0067】
<比表面積の測定>
比表面積(SSA)は、マウンテック社製モノソーブにて、BET一点法で測定し、SSAとして表1に示した。
【0068】
<含有塩素濃度の測定>
実施例・比較例で得た銅粉(サンプル)を硝酸で全溶解し、得られた溶液中の塩素濃度を分光光度計で測定することにより、含有塩素濃度を測定した。
なお、上記実施例では、電析した銅粉を洗浄して銅粉粒子表面の塩素を除去しているため、実施例で得た銅粉(サンプル)で測定される含有塩素濃度は銅粉粒子内部に存在する塩素の濃度である。
【0069】
<タップ嵩密度(TD)測定>
実施例・比較例で得た銅粉(サンプル)のタップ嵩密度(g/cm
3)は、試料200gを用いてパウダーテスターPT−E型(ホソカワミクロン製)により測定した。
【0070】
<吸油量の測定>
実施例・比較例で得た銅粉(サンプル)の吸油量(ml/100g)は、JIS5101に準じて測定した。
【0071】
<薄膜化評価>
実施例・比較例で得た銅粉(サンプル)55gと、バインダとしてエポキシ樹脂(DIC製 EPICLON850)20gと、有機溶剤としてトルエン25gとを混合してペーストを作成した。
次いで、バーコーターで幅200mm、ギャップが15μmとなるように、PET基材の上に、前記ペーストを塗工した後、大気熱風乾燥炉にて120℃10分で乾燥させ、厚さ5μmの塗膜を得た。
得られた塗膜を、光学顕微鏡(倍率100倍)によって観察し、塗膜外観評価を行った。
評価ランクとしては、塗工長100mmのエリアで塗膜カスレ不良が5箇所未満のモードを「◎(良好)」、5以上10以下を「○(合格)」、11以上を「×(不良)」と判定した。
【0072】
<体積抵抗率の測定>
圧粉抵抗測定システム(三菱化学PD−41)と抵抗率測定器(三菱化学MCP−T600)を用いて圧粉抵抗値を測定した。試料5gをプローブシリンダへ投入し、プローブユニットをPD−41へセットした。4探針法により、油圧ジャッキによって10kNの荷重をかけたときの抵抗値を、MCP−T600を用いて測定した。そして、測定した抵抗値と試料厚みから、体積抵抗率を算出した。
【0073】
<シート抵抗粉測定時の粉充填量>
実施例・比較例で得た銅粉(サンプル)適量と、バインダとしてエポキシ樹脂(DIC製 EPICLON850)20gと、有機溶剤としてトルエン25gとを混合してペーストを作成した。
次いで、バーコーターで幅200mm、ギャップが15μmとなるように、PET基材の上に、前記ペーストを塗工した後、大気熱風乾燥炉にて120℃10分で乾燥させ、厚さ5μmの塗膜を得た。
得られた塗膜を、抵抗率測定器(三菱化学MCP−T600)を用いて、4探針法によりシート抵抗値を測定した。
この際、シート抵抗値と測定された際の銅粉(サンプル)の充填量を測定し、測定して得られた銅粉の充填量(重量)を、銅粉とエポキシ樹脂の合計重量(100wt%)で除算し、その値を表中に「シート抵抗粉測定時の粉充填量(wt%)」として示した。
なお、実施例1〜10で得られた銅粉に関しては、粉同士が十分に接触して抵抗値を測定することができたが、比較例1〜7で得られた銅粉に関しては、抵抗値が高すぎてオーバーレンジとなり測定できなかった(表には「−」と示した)。
【0074】
【表1】
【0075】
(考察)
上記実施例及びこれまで発明が行ってきた試験結果から、電解液に少量の塩素を添加し、所定の表面粗度を備えた電極を用いて電解を行い、析出後短時間のうちに掻き落として水で洗浄することにより、上記実施例のような銅粉を製造できることが分かった。
【0076】
実施例1〜10で得られた銅粉の粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した結果、いずれの銅粉も、主軸の長径Lが0.5〜5.0μmであり、枝本数/主軸長径Lが3.0〜20.0本/μm、中でも4.0本/μm以上或いは19.0本/μm以下、その中でも5.0本/μm以上或いは18.0本/μm以下、その中でも特に6.0本/μm以上或いは18.0本/μm以下であるデンドライト状を呈する銅粉粒子が、全銅粉粒子のうちの80個数%以上を占めていることを確認できた。
【0077】
上記実施例及び比較例、並びにこれまで行ってきた試験結果から、塩素の濃度が5wtppm〜150wtppmであり、D50が0.5μm〜5.0μmであり、主軸の長径Lに対する分岐枝の本数(枝本数/主軸長径L)が3.0〜20.0本/μmであるデンドライト状を呈する銅粉粒子(特殊デンドライト状銅粉粒子)が、全銅粉粒子のうちの80個数%以上を占めていれば、導電性フィルムや導電膜を十分に薄くすることができ、しかも、少ない量で導電特性を得ることができるものと考えることができる。