(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5876978
(24)【登録日】2016年1月29日
(45)【発行日】2016年3月2日
(54)【発明の名称】シアノヒドリン化合物の製造方法およびα−ヒドロキシエステル化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 253/00 20060101AFI20160218BHJP
C07B 61/00 20060101ALI20160218BHJP
C07C 67/08 20060101ALI20160218BHJP
C07C 69/675 20060101ALI20160218BHJP
C07C 255/16 20060101ALI20160218BHJP
C07C 255/36 20060101ALI20160218BHJP
【FI】
C07C253/00
C07B61/00 300
C07C67/08
C07C69/675
C07C255/16
C07C255/36
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2009-538201(P2009-538201)
(86)(22)【出願日】2008年10月21日
(86)【国際出願番号】JP2008068997
(87)【国際公開番号】WO2009054355
(87)【国際公開日】20090430
【審査請求日】2011年10月21日
【審判番号】不服2014-1712(P2014-1712/J1)
【審判請求日】2014年1月30日
(31)【優先権主張番号】特願2007-275695(P2007-275695)
(32)【優先日】2007年10月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227652
【氏名又は名称】日宝化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】木下 雄一朗
(72)【発明者】
【氏名】藤原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中川 和也
(72)【発明者】
【氏名】緑川 晃二
【合議体】
【審判長】
中田 とし子
【審判官】
瀬良 聡機
【審判官】
佐藤 健史
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭38−6761(JP,B1)
【文献】
特開2007−55953(JP,A)
【文献】
特開2004−18525(JP,A)
【文献】
特表2001−521816(JP,A)
【文献】
特開2006−219379(JP,A)
【文献】
特開2006−76949(JP,A)
【文献】
特開2007−84470(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/018221(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C253/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボニル化合物(ただし、重水素化物を除く)とシアン化水素とからシアノヒドリン化合物を製造する方法であって、
前記カルボニル化合物と前記シアン化水素とを、触媒存在下で、
0〜60℃に調温した管型反応器中において流通反応させる工程を包含し、
前記管型反応器の流体流路の短辺が
0.5mm〜2.17mmであり、前記流通反応中の滞留時間が
5〜180秒であり、
前記カルボニル化合物が、一般式(1)で示されるアルデヒド化合物であり、
前記管型反応器中で生成した反応生成物を、反応停止剤を含む反応液捕集器中に回収する工程をさらに包含
し、
前記触媒が3級アミノ化合物であることを特徴とするシアノヒドリン化合物の製造方法。
【化1】
(式中、R
1は、アリール基または炭素数1〜10の炭化水素基を示す。また、R
1中に置換基を有していてもよく、構造中に炭素以外の原子を含んでいてもよい。)
【請求項2】
前記カルボニル化合物1モルに対して、前記シアン化水素を0.9〜3.0モルの割合で流通反応させることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記触媒は、有機塩基性化合物および無機塩基性化合物の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記触媒は、アミン化合物、芳香族アミン化合物、アルカリ金属化合物、金属アルコキシド化合物、およびアルカリ土類金属化合物からなる群より選択される化合物であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記シアン化水素1モルに対して、0.001〜0.1モルの前記触媒の存在下で流通反応させることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の製造方法により製造されたシアノヒドリン化合物を加水分解し、エステル化する工程を含むことを特徴とするα‐ヒドロキシエステル化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアノヒドリン化合物の製造方法および製造装置、ならびにα−ヒドロキシエステル化合物の製造方法に関するものであり、より具体的には、カルボニル化合物とシアン化水素とからシアノヒドリン化合物を製造するための方法および装置、ならびに当該シアノヒドリン化合物を用いてα−ヒドロキシエステル化合物を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルデヒド化合物、ケトン等のカルボニル化合物とシアン化水素とを反応させてシアノヒドリン化合物を製造する方法が知られている。シアノヒドリン化合物は、α−ヒドロキシエステル化合物の製造等、様々な化合物を合成するための出発物質として有用であり、効率よく製造するために、様々な製造方法が開発されている(特許文献1〜7)。
【0003】
従来特にケトンを用いてシアノヒドリン化合物を製造する方法の開発が進められている。ケトンを用いてシアノヒドリン化合物を製造する方法として、特許文献8には、重水素化アセトンとシアン化水素とを反応させて、重水素化シアノヒドリン化合物を製造する方法が開示されている。
【0004】
特許文献8においては、重水素化率の高い重水素化シアノヒドリン化合物を製造するために、重水素化アセトンとシアン化水素とを、流通反応器内で反応させている。流通反応器は、反応に用いる物質を連続的に導入して反応させ、反応生成物を系外に排出させるものである。このような流通反応器内で重水素化アセトンとシアン化水素とを反応させることによって、重水素化シアノヒドリン化合物の重水素化率の低下を防止している。
【0005】
アルデヒド化合物を用いてシアノヒドリン化合物を製造するとき、従来アルデヒド化合物を予め入れておいた回分反応器中にシアン化水素を導入する製造方法が用いられている。回分反応器を用いた反応は、バッチ法と称されることもあり、反応に用いる物質を反応器中に一度に導入し、反応が平衡に達してから、または一定の反応率に達してから反応生成物を取り出す方法である。このようなアルデヒド化合物を用いてシアノヒドリン化合物を製造する方法が、特許文献1に開示されている。特許文献1においては、予めアルデヒド化合物を入れておいた反応器中に、不活性ガスによって希釈したシアン化水素ガスを導入することによって、シアノヒドリン化合物を製造している。
【特許文献1】日本国公開特許公報「特公昭34−522号公報(1959年2月9日公開)」
【特許文献2】日本国公開特許公報「特公昭35−5755号公報(1960年5月25日公開)」
【特許文献3】日本国公開特許公報「特公昭36−5869号公報(1961年5月26日公開)」
【特許文献4】日本国公開特許公報「特公昭36−11965号公報(1961年7月29日公開)」
【特許文献5】日本国公開特許公報「特公昭36−12115号公報(1961年7月31日公開)」
【特許文献6】日本国公開特許公報「特公昭38−6761号公報(1963年5月22日公開)」
【特許文献7】日本国公開特許公報「特開平10−25273号公報(公開日:1998年1月27日)」
【特許文献8】日本国公開特許公報「特開2007−55953号公報(公開日:1998年1月27日)」
【発明の開示】
【0006】
シアノヒドリン化合物を製造するときのカルボニル化合物とシアン化水素との反応は発熱反応である。そして、カルボニル化合物とシアン化水素との反応速度は非常に速いため、時間あたりの発熱量は非常に大きく、除熱速度に合わせてカルボニル化合物を仕込んでおいた反応器中にゆっくりとシアン化水素を導入することによってシアノヒドリン化合物を製造していた。しかしながら、ゆっくりと時間をかけてカルボニル化合物にシアン化水素を反応させた場合、反応により生成されるシアノヒドリン化合物の反応収率が低下するという問題が生じていた。また、除熱速度よりも早い速度でシアン化水素を導入する場合、反応液温度が異常に高くなりシアノヒドリン化合物が分解しやすくなるだけでなく、シアン化水素の蒸発、拡散等の危険を伴っていた。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、カルボニル化合物とシアン化水素とを反応させて、収率を低下させることなくシアノヒドリン化合物を製造するための製造方法、およびこれにより製造されたシアノヒドリン化合物を用いてα‐ヒドロキシエステル化合物を製造するための製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特に工業的にシアノヒドリン化合物を製造する場合に、シアノヒドリン化合物がカルボニル化合物存在下に長時間曝されることによって、シアノヒドリン化合物の収率を低下させていることを新たに見出した。すなわち、材料を反応器中に導入し、反応を開始させてから、除熱効率のよい流通反応器を用いることによって、反応生成物を反応器外に取り出すまでの滞留時間を短縮すれば、シアノヒドリン化合物の収率の低下を防止し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法は、カルボニル化合物(ただし、重水素化物を除く)と、シアン化水素とからシアノヒドリン化合物を製造する方法であって、上記カルボニル化合物と上記シアン化水素とを、触媒存在下で流通反応させることを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造装置は、カルボニル化合物(ただし、重水素化物を除く)とシアン化水素とからシアノヒドリン化合物を製造するための製造装置であって、上記カルボニル化合物と上記シアン化水素とを、触媒存在下で流通反応させる反応器と、上記カルボニル化合物を上記管型反応器中に導入する第1の導入器と、上記シアン化水素を上記管型反応器中に導入する第2の導入器と、を備えていることを特徴としている。
【0011】
上記の構成によれば、カルボニル化合物とシアン化水素とを反応器中に導入し、反応を開始させてから、反応生成物を反応器外に取り出すまでの滞留時間を、上述したバッチ法を用いた反応における滞留時間と比較して、大幅に短縮することが可能である。これにより、反応系内において、生成されたシアノヒドリン化合物が、未反応のカルボニル化合物に曝される時間を短縮することができるので、生成されたシアノヒドリン化合物と未反応のカルボニル化合物とが反応するのを防ぎ、収率よくシアノヒドリン化合物を製造することが可能である。ここで、「滞留時間」は、材料を反応器中に導入し、反応を開始させてから、反応生成物を反応器外に取り出すまでの時間を意図している。また、本発明において、反応系とは、カルボニル化合物とシアン化水素とを混合して反応を開始させてから、シアノヒドリン化合物を単離するか、塩基性触媒を中和または除去することによって反応を停止させるまで、もしくは、次工程での反応に用いられるまでの系のことを示す。
【0012】
また、カルボニル化合物とシアン化水素とを流通反応させることによって、バッチ法を用いた反応系と比較して除熱効率がよいため、瞬間的に高温になることがあっても、効率よく除熱することが可能である。これにより、生成されたシアノヒドリン化合物が分解することによる収率の低下を防止することが可能である。
【0013】
さらに、本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法において、上記カルボニル化合物が、一般式(1)で示されるアルデヒド化合物であることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造装置において、上記カルボニル化合物(ただし、重水素化物を除く)が、一般式(1)で示されるアルデヒド化合物であることが好ましい。
【0015】
【化1】
(式中、R
1は、アリール基または炭素数1〜10の炭化水素基を示す。また、R
1中に置換基を有していてもよく、構造中に炭素以外の原子を含んでいてもよい。)
上記の構成によれば、アルデヒド化合物とシアン化水素とを反応器中に導入し、反応を開始させてから、反応生成物を反応器外に取り出すまでの滞留時間を、上述したバッチ法を用いた反応における滞留時間と比較して、大幅に短縮することが可能である。これにより、反応系内において、生成されたシアノヒドリン化合物が、未反応のアルデヒド化合物に曝される時間を短縮することができるので、生成されたシアノヒドリン化合物と未反応のアルデヒド化合物とが反応するのを防ぎ、収率よくシアノヒドリン化合物を製造することが可能である。
【0016】
また、アルデヒド化合物とシアン化水素とを流通反応させることによって、バッチ法を用いた反応系と比較して除熱効率がよいため、瞬間的に高温になることがあっても、効率よく除熱することが可能である。これにより、生成されたシアノヒドリン化合物が分解することによる収率の低下を防止することが可能である。
【0017】
また、本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法においては、上記カルボニル化合物と上記シアン化水素とを管型反応器中で流通反応させることが好ましい。これにより、簡易な構成で効率よくアルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とを流通反応させることができる。その結果、生成されるシアノヒドリン化合物が未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物に長時間曝されるのを防ぐことができる。
【0018】
さらに、本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法においては、上記管型反応器の流体流路の短辺が0.01mm〜15mmであることが好ましい。これにより、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素との反応において発生する反応熱をより効率よく除去することが可能であり、その結果、生成されるシアノヒドリン化合物が分解するのを抑え、かつシアノヒドリン化合物と未反応のアルデヒド化合物とが反応する速度を遅らせることができる。
【0019】
また、本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法においては、流通反応中の滞留時間が1000秒以下であることが好ましい。これより、一般的なバッチ法を用いた反応系と比較して、滞留時間を大幅に短縮することが可能である。これにより、生成されたシアノヒドリン化合物が未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物に長時間曝されるのを防ぐことが可能である。その結果、生成されたシアノヒドリン化合物と未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物とが反応するのを防ぎ、収率よくシアノヒドリン化合物を製造することが可能である。
【0020】
また、本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法において、上記カルボニル化合物1モルに対して、上記シアン化水素を0.9〜3.0モルの割合で流通反応させることが好ましい。これにより、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とを効率よく反応させることが可能であり、未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物が反応系内に残留するのを防ぐことができる。
【0021】
さらに、本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法において、上記触媒は、有機塩基性化合物および無機塩基性化合物の少なくとも一方であることが好ましく、アミン化合物、芳香族アミン化合物、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、金属アルコキシド化合物からなる群より選択される化合物であることがより好ましい。また、上記シアン化水素1モルに対して、0.01〜0.1モルの当該触媒の存在下で流通反応させることが好ましい。これにより、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素との反応を促進し、収率よくシアノヒドリン化合物を生成することが可能である。
【0022】
本発明に係るα−ヒドロキシエステル化合物の製造方法は、本発明の製造方法により製造されたシアノヒドリン化合物を加水分解し、エステル化する工程を含むことを特徴としている。
【0023】
上記構成によれば、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物を出発原料として、α‐ヒドロキシエステル化合物を製造したとき、中間物質であるシアノヒドリン化合物を収率よく得ることができる。そのため、高収率のα‐ヒドロキシエステル化合物を得ることができる。
【0024】
本発明の他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利点は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明に係る製造方法において使用する反応装置を説明する概略図である。
【0026】
1 ウォーターバス
10 ポンプ
11 ポンプ
15 導入器(第2の導入器)
16 導入器(第1の導入器)
23 混合器
24 導入管
25 反応器(管型反応器)
26 導入管
27 背圧弁
28 反応液排出ライン
29 反応液補集器
70 排気口
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0028】
〔シアノヒドリン化合物製造方法〕
本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法は、一般式(1)で示されるアルデヒド化合物等のカルボニル化合物(ただし、重水素化物を除く)とシアン化水素とを、触媒存在下で流通反応させることを特徴としている。
【0029】
【化2】
(式中、R
1は、アリール基または炭素数1〜10の炭化水素基を示す。また、R
1中に置換基を有していてもよく、構造中に炭素以外の原子を含んでいてもよい。)
なお、本発明において、カルボニル化合物とは、カルボニル基を有する化合物であり、かつその重水素化物以外の化合物であればよく、例えばアルデヒド化合物、ケトン化合物等が挙げられる。また、本発明において、アルデヒド化合物とは、分子内にアルデヒド基を有する化合物であり、シアノヒドリン化合物とは、分子内にシアノ基とヒドロキシル基を有する化合物である。本発明では、特に、同一の炭素原子にシアノ基とヒドロキシル基がついたシアノヒドリン化合物(α‐シアノヒドリン)を製造することを目的としている。
【0030】
上述のように本発明に係る製造方法においてカルボニル化合物としてアルデヒド化合物が例示できるので、まずアルデヒド化合物について説明する。
【0031】
(アルデヒド化合物)
本発明において使用するアルデヒド化合物は、一般式(1)で示されるものであり、カルボニル基に水素原子を少なくとも1個(すなわちホルミル基)有するカルボニル化合物である。本発明者らは、アルデヒド化合物とシアン化水素とを反応させてシアノヒドリン化合物を製造するとき、特に炭素数の小さいアルデヒド化合物を用いた場合に、生成されるシアノヒドリン化合物と未反応のアルデヒド化合物とが反応しやすく、シアノヒドリン化合物の反応収率が低いことを見出した。したがって、本発明においては、上述したアルデヒド化合物のうち、炭素数の小さいアルデヒド化合物を用いた場合に、特に顕著な効果を奏する。
【0032】
すなわち、本発明によれば、炭素数の小さいアルデヒド化合物、特に炭化水素基の炭素数が1〜3のアルデヒド化合物とシアン化水素とを反応させてシアノヒドリン化合物を製造する場合に、収率よくシアノヒドリン化合物を製造することができる。本発明において使用するアルデヒド化合物は炭素数が小さいアルデヒド化合物であることが好ましく、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等の飽和アルキルアルデヒド、アクリルアルデヒド、メタクリルアルデヒド、プロピオルアルデヒド等の不飽和アルキルアルデヒド、ベンズアルデヒド、ナフトアルデヒド、フタルアルデヒド、ニコチンアルデヒド等の芳香族アルデヒド等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらのアルデヒド化合物は、アミン、アミド、メトキシ、フェニル、ニトロ、ヒドロキシル、アルデヒド、カルボン酸等の置換基を有していてもよい。本発明において使用するアルデヒド化合物が、使用時の温度において固体である場合、反応に対して不活性な溶媒にアルデヒド化合物を溶解または懸濁させて使用してもよい。
【0033】
(ケトン化合物)
なお、上述のように本発明に係る製造方法においてカルボニル化合物としてアルデヒド化合物以外にはケトン化合物が例示できる。本発明において使用できるケトン化合物としては、ケトン基を有するものであればよいが、例えば、アセトン、2−ブタノン、2−ペンタノン、3−メチル−2−ブタノン、3−ペンタノン、3−ヘキサノン、2−メチル−3−ペンタノン、3−ヘプタノン、2−メチル−3−ヘキサノン、2,4−ジメチル−3−ペンタノン、アセトフェノン、2−ノナノン、2−オクタノン、2−ヘプタノン、2−ヘキサノン、4−メチル−2−ペンタノン、4−ヘプタノン、シクロヘキサノン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノンが挙げられる。
【0034】
(シアン化水素)
本発明において使用するシアン化水素は、メタンのアンモ酸化によって得られたシアン化水素、シアン化リチウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、シアン化カルシウム等を塩酸または硫酸により酸性にして生成されたシアン化水素、またはこれらを蒸留することによって精製したシアン化水素を使用することができる。また、シアン化水素は不安定であるため、酸性の安定剤、例えば亜硫酸ガス等を含むシアン化水素を使用してもよい。
【0035】
(触媒)
本発明に係る製造方法で用いられる触媒としては、塩基性触媒を用いる。塩基性触媒としては、有機塩基性化合物および無機塩基性化合物のいずれか一方を用いることができる。中でも、有機塩基性化合物が好ましい。触媒として用いられる化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、N,N−ジメチルアニリン等の3級アミノ化合物、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムプロポキシド、リチウムブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシド、カリウムブトキシド等の金属アルコラート化合物、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物、塩基性イオン交換樹脂、ゼオライト等の塩基性化合物がある。
【0036】
上記のような触媒を反応器中に導入する割合は、シアン化水素1モルに対して、0.001〜0.1モルであることが好ましく、0.003〜0.05モルであることがより好ましく、0.005〜0.01モルであることがさらに好ましい。反応器中に導入する触媒の割合が、シアン化水素1モルに対して、0.001モル未満ではアルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素との反応速度が遅くなり、滞留時間内に反応が完結しないため好ましくない。また、触媒の割合が0.1モルを超えると、反応に使用されなかった触媒が反応器中に大量に残存するだけでなく、シアン化水素の重合を引き起こしやすくなり好ましくない。
【0037】
また、使用するシアン化水素に酸性の安定剤が含まれる場合は、塩基性化合物と酸性の安定剤が反応するため、触媒活性が失われる可能性がある。この場合、安定剤の含有モル数に相当する塩基性化合物を追加すればよい。上記触媒の割合は、このような相殺後の有効触媒量である。なお、塩基性化合物が常温で固体の場合は、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物に溶解または懸濁させて使用するか、溶媒に溶解または懸濁させて使用すればよい。
【0038】
(溶媒)
本発明に係る製造方法においては、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素との反応に対して不活性な溶媒を使用することができる。原料して使用するアルデヒド化合物等のカルボニル化合物、触媒として使用する塩基性化合物、または生成物であるシアノヒドリン化合物が、反応時の温度において固体である場合は、これらの物質を溶媒に溶解または懸濁させて使用することが可能である。
【0039】
本発明において使用可能な溶媒は、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等を挙げることができる。なお、本発明によって製造したシアノヒドリン化合物を用いてα−ヒドロキシエステル化合物を製造するときの溶媒として例えばトルエンを用いる場合には、シアノヒドリン化合物製造時にも溶媒としてトルエンを用いることが好ましい。
【0040】
溶媒の使用量は、原料として使用するアルデヒド化合物等のカルボニル化合物、触媒として使用する塩基性化合物、または生成物であるシアノヒドリン化合物を溶解できる量、またはこれらの物質を懸濁した溶液が流動性を示す量を適宜使用すればよい。
【0041】
(反応)
本発明に係る製造方法において、カルボニル化合物とシアン化水素との反応は、例えば、上記一般式(1)に示されるアルデヒド化合物を例に説明すると、反応式(2)で示される反応であり、上記一般式(1)で示されるアルデヒド化合物に、触媒によって活性化されたシアン化水素が付加することによって、シアノヒドリン化合物を生成する反応である。
【0042】
【化3】
(式中、R
1は、アリール基または炭素数1〜10の炭化水素基を示す。また、R
1中に置換基を有していてもよく、構造中に炭素以外の原子を含んでいてもよい。)
上記反応式(2)で示される反応は発熱反応であり、特に工業的規模でシアノヒドリン化合物を製造する場合には、単位時間あたりの反応熱量が極端に大きくなり、反応液温度が異常に上昇し易い。この場合、生成したシアノヒドリン化合物が分解し易くなる等の問題が発生するため、発熱量を制御する必要がある。反応系内における発熱を抑え、反応系内の熱を十分に除熱するためには、アルデヒド化合物とシアン化水素とを長時間かけてゆっくり反応させる必要があるが、反応に長時間要する場合、生成されたシアノヒドリン化合物が未反応のアルデヒド化合物と反応することによって、シアノヒドリン化合物の反応収率が低下するという問題が生じる。
【0043】
本発明に係る製造方法によれば、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とを、触媒存在下で流通反応させるため、滞留時間を短縮することが可能である。その結果、生成したシアノヒドリン化合物が未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物に長時間曝されるのを防ぐことによって、生成したシアノヒドリン化合物が未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物と反応することを防ぐことが可能であり、収率よくシアノヒドリン化合物を生成することができる。
【0044】
ここで、用語「滞留時間」は、原料(アルデヒド化合物等のカルボニル化合物およびシアン化水素)を反応器中に導入し、反応を開始させてから、反応生成物を反応器外に取り出すまでの時間を意図しており、反応系内において流通反応させている反応時間として表される場合もある。
【0045】
ここで、「流通反応」は、反応に用いる流体の化合物を反応器内に連続的に導入して反応させ、反応生成物を系外に排出させる反応である。本発明に係る製造方法によれば、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とを反応器内に連続的に導入して反応させ、生成されるシアノヒドリン化合物を反応系外に排出するので、生成したシアノヒドリン化合物が未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物に長時間曝されるのを防ぐことができる。
【0046】
なお、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とを流通反応させる反応器は、特に限定されず、流体を連続的に導入して反応させ、反応生成物を系外に排出させることができる流通反応器であればその構造は問わない。すなわち、本発明において用いる反応器は、反応に用いる流体を導入する導入口と、反応生成物を排出する排出口とを有し、かつ導入した流体を系内で反応させるスペースを有する反応器であればよい。
【0047】
また、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素との反応速度は非常に速いため、これらを反応器内に導入すると即座に反応しシアノヒドリン化合物が生成される。したがって、反応に用いるアルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とを反応器内に連続的に導入し続けることで、工業的規模でのシアノヒドリン化合物の製造を実現することが可能である。
【0048】
また、本発明に係る製造方法において、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とを管型反応器中で流通反応させてもよい。これにより、簡易な構成で効率よくアルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とを流通反応させることができる。その結果、生成されるシアノヒドリン化合物が未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物に長時間曝されるのを防ぐことができる。このような管型反応器は、反応に用いる気体または液体である流体を、2種類以上連続的に導入して反応させることができる反応器であれば、その構造は問わない。このような管型反応器としてプレート反応器、チューブ&シェル型反応器、スパイラル型反応器等を好適に使用可能である。このような反応器は、熱交換効率がよいため、熱交換器または反応除熱器と称される場合がある。したがって、反応器の断面形状は、例えば、円管状、角管状、楕円管状等であってもよい。特に管径がμmオーダーと非常に小さいマイクロリアクターと称される管型反応器を用いることが好ましい。
【0049】
さらに、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素を流通反応させる管型反応器は、その流体流路の短辺が0.01mm〜15mmであることが好ましい。これにより、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素との反応において発生する反応熱を効率よく除去することが可能である。その結果、生成されるシアノヒドリン化合物の分解を抑え、かつシアノヒドリン化合物と未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物との反応を防ぐことができる。また、上述したような小径管型反応器においては、容易かつ安価に耐圧仕様とできるため、反応系内が高温・高圧となる場合でもより安全に反応を行うことができる。
【0050】
このような管型反応器は、その流体流路の短辺が0.01mm〜15mmであればよく、管型反応器の導入口から排出口までの間の上記断面の短辺が一定でなくてもよい。上記流路の短辺が0.01mm未満では導入した流体の移動に高圧が必要となり、15mmを超えると除熱効率が低下し、かつ流体の反応効率が低下するので好ましくない。また、上記流路の長辺は特に制限されず、また管型反応器の導入口から排出口までの間の上記流路の長辺が一定でなくてもよい。なお、管型反応器の流体流路が円柱形状である場合、流体流路の短辺は管型反応器の管径(内径)に等しい。
【0051】
本発明において用いる反応器内の流量は、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素との反応速度に応じて適宜変更すればよく、好ましくは1000秒未満、より好ましくは500秒未満、さらに好ましくは0.01秒から200秒の範囲内の反応液滞留時間(反応時間)を達成することができるように設定すればよい。流通反応中の反応器内の反応滞留時間は、反応器の長さおよび原料の流量を適宜変更することによって調整することができる。
【0052】
また、本発明において、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とを流通反応させる反応器内の最高温度は、好ましくは−10〜300℃であり、より好ましくは0〜250℃、さらに好ましくは10〜200℃である。反応器内の温度は、反応により生じる熱によって部分的に高温となり、その後除熱処理により温度が低下するため、滞留時間中の反応器内の温度は一定ではない。したがって、反応器内の最高温度は、滞留時間中に達する最高温度を表しており、この温度が維持されている時間は数秒程度であり得る。
【0053】
反応器内の最高温度が−10℃未満では、基質によっては反応速度が極端に低下するので好ましくない。加えて、−10℃未満の反応器内温度を実現するためには高性能の冷凍機が必要となり、さらに反応原料を細かく分割して反応器内に仕込まなければ達成することができず、現実的ではない。また、反応器内の最高温度が300℃を超えると、基質によっては原料および生成物の分解が発生するので好ましくない。加えて、300℃を超える反応器内温度を実現するためには、安全性の確保するために反応装置を大型化する必要がある。
【0054】
本発明において用いる反応器内の圧力は、常圧であってもよいが、背圧弁を設けることによって反応器内に圧力をかけていることが好ましい。反応器内の反応圧力は、0〜10MPaであることが好ましく、0.1〜5MPaであることがより好ましく、0.2〜1MPaであることがさらに好ましい。反応圧力がより低い場合、シアン化水素およびアルデヒド化合物等のカルボニル化合物が気化してしまい、除熱効率が低下する可能性があるため好ましくない。一方、反応圧力がより高い場合、このような装置の建設に多大な費用がかかる上に、反応生成物の沸点の上昇により反応最高温度が高くなり、副生成物の生成を制御することが困難となるため好ましくない。
【0055】
本発明において用いる反応器内の温度は、反応器自身をウォーターバスに浸し、ウォーターバスの温度を適宜調節することによって、反応器の外側から調節してもよい。また、反応器の周囲にチューブ等を設け、チューブ内に温度を適宜調節した液体(冷媒)を流すことによって、反応器の外側から反応器内の温度を調節してもよい。用いる冷媒は、例えば、クーリングタワーなどによって冷却された冷却水や、冷凍機を用いて冷却された冷媒(エチレングリコール・塩化カルシウム水溶液など)などを用いることができる。除熱効率の良い反応器を用い、かつ滞留時間を短くしているため、広域温度の冷媒を好適に用いることができる。
【0056】
反応器には、反応器内の反応液の温度を適宜測定するための測定器を取り付けていてもよい。測定器は反応器に複数取り付けられていてもよく、特にアルデヒド化合物等のカルボニル化合物、シアン化水素等の原料物質を導入した直後、これらの物質を混合した直後等の温度を測定できるように取り付けておくことが好ましい。
【0057】
本発明において用いる反応器の材質は、反応に用いる物質および反応により生成される物質と反応しない材質が好ましく、例えば、鉄、銅、チタン、ニッケル等の金属、ステンレス鋼、モネル、ハステロイ、インコロイ等の各種合金、樹脂(フッ素樹脂)、ガラス、磁器(コージェライト、セラミックス)等が挙げられる。
【0058】
本発明に係る製造方法において、流通反応させるアルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素との割合は、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物1モルに対して、シアン化水素0.9〜3.0モルであることが好ましく、1.0〜2.0モルであることがより好ましく、1.0〜1.5モルであることがさらに好ましい。アルデヒド化合物等のカルボニル化合物およびシアン化水素は一括導入しても分割導入してもよい。すなわち、滞留時間の最初から最後までに反応器内に導入されるアルデヒド化合物等のカルボニル化合物およびシアン化水素の各モル量が上記の範囲であればよく、流通反応させるアルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素との割合は問わない。
【0059】
流通反応中の反応器内のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素との割合が上記のように略等モルであることによって、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とが効率よく反応し、反応器内に未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物またはシアン化水素が残留するのを防ぐことができる。アルデヒド化合物等のカルボニル化合物1モルに対して、シアン化水素が0.9モル未満では、未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物が反応系内に大量に残留し、シアノヒドリン化合物の収率の低下に繋がるため好ましくない。また、シアン化水素が3.0モルを超えると、未反応のシアン化水素が反応系内に大量に残存し、回収操作が必要になる、残留するシアン化水素が重合する等の問題が生じるため好ましくない。
【0060】
なお、本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法によって得られたシアノヒドリン化合物を、蒸留、カラムクロマトグラフィー等の公知の方法によって精製してもよく、精製せずにそのままα−ヒドロキシエステル化合物の合成等の反応に用いてもよい。
【0061】
本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法によって製造されるシアノヒドリン化合物は、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物のカルボニル基にシアン化物イオンが付加された有機化合物であり、シアンヒドリン化合物と称されることもある。本発明によって好適に製造することが可能なシアノヒドリン化合物としては、ヒドロキシアセトニトリル、ラクトニトリル、α−ヒドロキシブタンニトリル等の飽和アルキルヒドロキシニトリル、α−ヒドロキシブタ−3−エンニトリル、α−ヒドロキシ−3−メチルブタ−3−エンニトリル、α−ヒドロキシブタ−3−インニトリル等の不飽和アルキルヒドロキシニトリル、マンデロニトリル、ヒドロキシ(2−ナフチル)アセトニトリル、(3−(シアノ(ヒドロキシ)メチル)フェニル))(ヒドロキシ)アセトニトリル、ヒドロキシ(ピリジン−3−イル)アセトニトリル等の芳香族ヒドロキシニトリル等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらのシアノヒドリン化合物は、アミン、アミド、メトキシ、フェニル、ニトロ、ヒドロキシル、アルデヒド、カルボン酸等の置換基を有していてもよい。本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法において、例えばプロピオンアルデヒドとシアン化水素とを、触媒存在下で流通反応させることによって、α−ヒドロキシブチロニトリルを製造することができる。
【0062】
本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法によれば、反応収率が95%以上でシアノヒドリン化合物を製造することが可能である。また、例えば反応により生成するシアノヒドリン化合物の生成量が約500g/min以上である場合のように、工業的規模でシアノヒドリン化合物を生成する場合に、特に従来のバッチ法を用いた反応系によって製造されるシアノヒドリン化合物の反応収率に比して高い反応収率でシアノヒドリン化合物を製造することができる。
【0063】
本発明によれば、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とを流通反応させるので、滞留時間を短縮することが可能である。これにより、生成されたシアノヒドリン化合物が未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物に曝される時間を短縮することができるので、生成されたシアノヒドリン化合物が未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物と反応するのを防ぎ、収率よくシアノヒドリン化合物を製造することが可能である。また、本発明によれば、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素との反応よって生じる反応熱を効率よく除去することも可能である。さらに、本発明によればバッチ法を用いた反応系と比較して、より狭いスペースにおいて反応させることが可能である。したがって、本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法は、特に工業的な規模でシアノヒドリン化合物を製造するのに好適に用いることができる。
【0064】
〔α‐ヒドロキシエステル化合物製造方法〕
本発明は、また、上記本発明に係る製造方法によって製造したシアノヒドリン化合物を用いてα‐ヒドロキシエステル化合物を製造するための方法を提供する。本発明に係るα‐ヒドロキシエステル化合物の製造方法は、上記本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法によって、シアノヒドリン化合物を製造する第1の工程と、製造されたシアノヒドリン化合物を加水分解し、エステル化する第2の工程とを含む。
【0065】
例えば上記式(1)のアルデヒド化合物を例に説明すると、第1の工程の反応については、上述の反応式(2)のとおりであり、第2の工程の反応は、例えば、下記反応式(3)に従うことができる。
【0066】
【化4】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、アリール基または炭素数1〜10の炭化水素基を示す。また、R
1またはR
2中に置換基を有していてもよく、構造中に炭素以外の原子を含んでいてもよい。)
つまり、前記シアノヒドリン化合物、アルコール類、水および溶媒の混合液に塩化水素ガスを導入することで、効率よくシアノヒドリン化合物を加水分解し、エステル化することができる。この反応で用いることができるアルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、s−ブタノール、n−ヘプタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなどがある。本発明では、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノールなどを好適に用いることができる。また、第2工程の反応は、シアノヒドリン化合物を加水分解して、エステル化できる反応であれば、その反応は、上記反応式(3)に限定されることはない。
【0067】
本発明に係るエステル化合物の製造方法により好適に製造することが可能なエステル化合物は、シアノヒドリン化合物から得たカルボン酸とアルコールとを反応させて生じるカルボン酸エステル類であり、ヒドロキシ酢酸メチル、α−ヒドロキシプロピオン酸メチル、α−ヒドロキシ酪酸メチル等の飽和アルキルヒドロキシエステル、α−ヒドロキシブテン酸メチル、β−メチル−α−ヒドロキシブテン酸メチル、α−ヒドロキシブチン酸メチル等の不飽和アルキルヒドロキシエステル、マンデル酸メチル、ヒドロキシ−2−ナフチル酢酸メチル、ヒドロキシ(3−(1−ヒドロキシ−2−メトキシ−2−オキソエチル))フェニル酢酸メチル、ヒドロキシ(ピリジン−3−イル)酢酸メチル等の芳香族ヒドロキシエステル等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらのエステル化合物は、アミン、アミド、メトキシ、フェニル、ニトロ、ヒドロキシル、アルデヒド、カルボン酸等の置換基を有していてもよい。
【0068】
本発明に係るα‐ヒドロキシエステル化合物の製造方法において、例えば、上述したシアノヒドリン化合物の製造方法によって製造したα−ヒドロキシブチロニトリルを用いた場合、α−ヒドロキシブチロニトリルを加水分解し、メタノールを用いてエステル化することによって、α−ヒドロキシ酪酸メチルを製造することができる。
【0069】
本発明に係るα‐ヒドロキシエステル化合物の製造方法によれば、収率よく製造されたシアノヒドリン化合物を用いてα‐ヒドロキシエステル化合物を製造することができる。そのため、同モルのアルデヒド化合物等のカルボニル化合物を出発原料として、α‐ヒドロキシエステル化合物を製造した場合、従来法と比べて、収率よくα‐ヒドロキシエステル化合物を製造することができる。このことにより、α‐ヒドロキシエステル化合物の製造コストの低減を実現することができる。
【0070】
〔シアノヒドリン化合物製造装置〕
さらに、本発明は、一般式(1)で示されるアルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とからシアノヒドリン化合物を製造するための製造装置を提供する。本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造装置は、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とを、触媒存在下で流通反応させる反応器と、アルデヒド化合物を反応器中に導入する第1の導入器と、シアン化水素を反応器中に導入する第2の導入器とを備えている。
【0071】
【化5】
(式中、R
1は、アリール基または炭素数1〜10の炭化水素基を示す。また、R
1中に置換基を有していてもよく、構造中に炭素以外の原子を含んでいてもよい。)
本発明に係るシアノヒドリン化合物製造装置を、
図1を参照して説明する。
図1は、本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造装置を説明する概略図である。
図1に示すように、反応装置は、反応器(管型反応器)25、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物およびシアン化水素をそれぞれ導入する導入器(第1および第2の導入器)15・16を備えている。本発明に係る製造装置が備える反応器25は、上述した本発明に係る製造方法において使用した反応器と同様の構成である。
【0072】
そして反応器25には、原料物質を混合する混合器23が導入管24を介して接続されていてもよい。このような混合器23は、独立して導入する2種以上の流体を器内で混合できればよく、例えばY字型混合器、T字型混合器、十字型混合器、パイプライン型混合器、スクリューフィーダー型混合器、マイクロミキサー等を好適に使用可能である。本発明係る製造装置は、反応器25とは独立した混合器23を備えていてもよく、反応器25に一体形成された混合器23を備えていてもよい。反応器25と混合器23とが独立したものを用いる場合、反応器25と混合器23とをチューブ等の導入管24により接続し、送液可能に構成する。そして、反応器25および混合器23をウォーターバス1に浸し、ウォーターバスの温度を適宜調節することによって、反応器25および混合器23内の温度を外側から調節してもよい。
【0073】
また、導入する導入器15・16は、それぞれ導入管(チューブ)21・22を介して混合器23に接続されており、各導入器15・16から原料物質が混合器23に導入される。本発明の製造装置が備える第1の導入器15および第2の導入器16は、シアノヒドリン化合物を生成する原料となるアルデヒド化合物等のカルボニル化合物およびシアン化水素の何れか一方を、反応器25または混合器に23導入するものであればよい。なお、本発明に係る製造装置において、第1の導入器15および第2の導入器16は、それぞれ複数設けられていてもよい。これにより、シアノヒドリン化合物を生成する原料を分割して数回に分けて導入することができる。このとき、原料を反応器25または混合器23内に導入する導入口(図示せず)および導入管21・22は導入器15・16の数に合わせて複数形成されていてもよい。
【0074】
これらの導入器15・16には、反応原料物質を反応器25または混合器23内に送る送液用ポンプ10・11が取り付けられていてもよい。そして、反応器25および混合器23を含む反応系内の圧力は、反応物質を送液する送液用ポンプ10・11によって調節してもよい。
【0075】
上述した各導入器15・16によって反応器25または混合器23内に導入されたアルデヒド化合物等のカルボニル化合物およびシアン化水素は、反応器25内において反応してシアノヒドリン化合物を生成する。本発明に係る製造装置は、反応器25中で生成したシアノヒドリン化合物を回収する反応液捕集器29を備えていてもよい。また、本発明に係る製造装置は、反応器25内を未反応の状態で通過した反応原料物質を回収する原料物質回収器(図示せず)を備えていてもよい。反応液捕集器29および原料物質回収器は、チューブ等の導入管26および反応液排出ライン28を介して、反応器25に送液可能に接続される。導入管26と反応液排出ライン28との間には背圧弁27を設置してもよい。
【0076】
また、本発明に係る製造装置は、反応器内の反応液の温度を適宜測定するための測定器(図示せず)を備えていてもよい。測定器は製造装置に複数取り付けられていてもよく、特にアルデヒド化合物等のカルボニル化合物、シアン化水素等の原料物質を混合器23または反応器25に導入した直後、これらの物質を混合器23または反応器25内で混合した直後等の温度を測定できるように取り付けておくことが好ましい。さらに反応液捕集器29には排気口70を接続してもよい。
【0077】
本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造装置を用いれば、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とを反応器中に導入して反応させるため、滞留時間を短縮することが可能である。これにより、生成されたシアノヒドリン化合物が未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物に曝される時間を短縮することができるので、生成されたシアノヒドリン化合物が未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物と反応するのを防止することが可能である。その結果、反応収率を低下させることなく、収率よくシアノヒドリン化合物を製造することができる。
【実施例】
【0078】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0079】
〔実施例1〕
本実施例では、
図1に示す反応装置を用いてヒドロキシブチロニトリルを製造した。液化シアン化水素の導入用に、冷却部(図示せず)を有する導入管(外径1/16インチ 内径0.5mm、SUS316製)15をHPLC用ポンプ(島津製作所製)10に接続した。なお、冷却部(図示せず)内には、約−10℃の冷媒を流通させ、HPLCポンプ10のヘッド部分を約5℃になるまで冷却した。また、プロピオンアルデヒド(純度:98%以上)の導入用に、導入管(外径1/16インチ 内径0.5mm、SUS316製)16をHPLC用ポンプ(島津製作所製)11に接続した。なお、プロピオンアルデヒドには、触媒として0.6mol%トリエチルアミン(対アルデヒド)を予め溶解させた。
【0080】
さらに、液化シアン化水素を混合器23に導入するために、ポンプ10と混合器(1/16インチ 3方ユニオン、Swagelok社製)23とをSUS316製チューブ(外径1/16インチ 内径0.5mm)21で接続した。また同様に、0.6mol%プロピオンアルデヒドを混合器23に導入するために、ポンプ11と混合器(1/16インチ 3方ユニオン、Swagelok社製)23とをSUS316製チューブ(外径1/16インチ 内径0.5mm)22で接続した。
【0081】
また、混合器23の排出側には管型反応器25として、SUS316製チューブ(外径1/16インチ 内径0.5mm)を接続した。この管型反応器25の長さは、反応液滞留時間(5〜180秒)が所定の時間になるように適宜変更した。そして、混合器23から管型反応器25に原料物質が導入された直後の反応液温度を測定できるように、管型反応器25に熱電対を設置した。
【0082】
なお、管型反応器25には、導入管26および反応液排出ライン28を介して反応液捕集器29を連結し、導入管26と反応液排出ライン28との間には背圧弁27を設置した。また反応液捕集器29には、トリエチルアミンをクエンチするための塩酸(導入するトリエチルアミンの100mol%以上)を予め導入した。そして、反応液捕集器29には排気口70を接続した。また、混合器23および管型反応器25を、30〜60℃に調温したウォーターバスに浸した。反応系内の圧力を0.4MPaとした。
【0083】
この反応装置を使用して、プロピオンアルデヒドと液化シアン化水素とを、トリエチルアミン存在下で反応させてヒドロキシブチロニトリル(HBN)を製造した。管型反応器25における反応液の平均滞留時間が5〜180秒であり、かつ供給する原料のモル比がシアン化水素:プロピオンアルデヒド=0.97〜1.28:1.00となるように、管型反応器25の長さ、およびポンプ10・11によって送液する原料の流量をそれぞれ変更し、異なる反応条件におけるHBNの反応収率を調べた。反応により生成したHBNは反応液捕集器29において回収した。各反応条件において反応液を分析し、HBNの反応収率を得た。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
表1において、シアン化水素(HCN)およびプロピオンアルデヒド(nPA)のモル比を、HCN/nPA(mol/mol)で示した。表1に示す反応条件1〜11において、HBNの生成量は1〜5g/min、導入直後の反応液温度はウォーターバス温度+2〜4℃であった。表1に示すように、プロピオンアルデヒドと液化シアン化水素とを、トリエチルアミンと共に管型反応器25中で流通反応させたとき、平均滞留時間等の反応条件に関わらず、HBNの反応収率は93〜100mol%と高かった。
【0085】
なお、本実施例および後述する各実施例において、HBNの反応収率は、反応に用いられるアルデヒド量を基準としたHBNの生成量(mol%)を示しており、絶対検量線法によって算出した。分析条件は以下の通りであった。カラムInertsil CN−3(4.6×250mm 5μm)、カラム温度:40℃、移動相Hexane:EtOH=95:5、流量:1.0mL/min、検出器:RI(示差屈折率検出器)、Range:8、Response:5、注入量:20μL(ループにより固定)。
【0086】
〔実施例2〕
本実施例では、HBNの製造量をスケールアップした場合における、HBNの反応収率を調べた。本実施例においても、実施例1と同様に
図1に示す反応装置を用いてHBNを製造した。
【0087】
液化シアン化水素の導入用に、冷却部(図示せず)を有する導入管(外径1/8インチ 内径2.17mm、SUS316製)15をポンプ(C−601、BUCHI製)10に接続した。なお、冷却部内(図示せず)には、約−10℃の冷媒を流通させ、ポンプ10のヘッド部分を約5℃になるまで冷却した。また、プロピオンアルデヒド(純度:98%以上)の導入用に、導入管(外径1/8インチ 内径2.17mm、SUS316製)16をポンプ(C−601、BUCHI製)11に接続した。なお、プロピオンアルデヒドには、触媒として0.6mol%のトリエチルアミンを予め溶解させた。
【0088】
さらに、液化シアン化水素を混合器23に導入するために、ポンプ10と混合器(1/8インチ 3方ユニオン、Swagelok社製)23とをSUS316製チューブ(外径1/8インチ 内径2.17mm)21で接続した。また同様に、プロピオンアルデヒドを混合器23に導入するために、ポンプ11と混合器(外径1/8インチ 3方ユニオン、Swagelok社製)23とをSUS316製チューブ(外径1/8インチ 内径2.17mm)22で接続した。
【0089】
また、混合器23の排出側には管型反応器25として、SUS316製チューブ(外径1/8インチ 内径2.17mm)を接続した。この管型反応器25には、反応液の温度を監視するために、数箇所に熱電対を設置した。なお、管型反応器25には、導入管26および反応液排出ライン28を介して反応液捕集器29を連結し、導入管26と反応液排出ライン28との間には背圧弁27を設置した。
【0090】
反応液捕集器29には、トリエチルアミンをクエンチするための塩酸(導入するトリエチルアミンの100mol%以上)を予め導入した。そして、反応液捕集器29には排気口70を接続した。また、混合器23および管型反応器25を、30℃に調温したウォーターバスに浸した。反応系内の圧力を0.4MPaとした。
【0091】
この反応装置を使用して、プロピオンアルデヒドと液化シアン化水素とを、トリエチルアミン存在下で反応させてHBNを製造した。管型反応器25における反応液の平均滞留時間が7〜15秒(反応液捕集器までの平均滞留時間:45〜90秒)であり、かつ供給する原料のモル比がシアン化水素:プロピオンアルデヒド=1.04:1.00となるように、管型反応器25の長さ、およびポンプ10・11によって送液する原料の流量をそれぞれ変更し、異なる反応条件におけるHBNの反応収率を調べた。反応により生成したHBNは反応液捕集器29において回収した。各反応条件において反応液を分析し、HBNの反応収率を得た。結果を表2に示す。
【0092】
【表2】
表2において、シアン化水素(HCN)およびプロピオンアルデヒド(nPA)のモル比を、HCN/nPA(mol/mol)で示した。表2に示す反応条件12および13において、HBN生成量は、反応条件12で30g/min、反応条件13で15g/minであった。反応液温度は、平均滞留時間約0.5〜1秒の時点で150℃、平均滞留時間約3秒の時点で58℃、および平均滞留時間約7秒の時点で33℃であった。表2に示すように、HBNの生成量を実施例1における生成量の3〜30倍にスケールアップした場合であっても、平均滞留時間等の反応条件に関わらず、HBNの反応収率は98〜99mol%と高かった。
【0093】
〔実施例3〕
実施例2おいて使用した反応装置内の管型反応器を、ジャケットを有するチューブ&シェル方式の熱交換器(熱交換部:外径 0.72mm 内径 0.49mm 長さ196mm ×55本、SUS316製)に変更し、実施例2と同様に反応を行った。ジャケット部には10℃に調温した水を流通させ、熱交換器を除熱した。各反応条件において反応液を分析し、HBNの反応収率を得た。結果を表3に示す。
【0094】
【表3】
表3において、シアン化水素(HCN)およびプロピオンアルデヒド(nPA)のモル比を、HCN/nPA(mol/mol)で示した。表3に示す反応条件14においては、冷却水流量は100mL/min、およびHBN生産量は30g/minであった。また、反応条件15においては、冷却水流量は25mL/min、およびHBN生産量は15g/minであった。反応条件14および15において、反応液温度は平均滞留時間約0.5秒の時点で150℃、平均滞留時間約5秒の時点で17℃であった。熱交換器の除熱に用いた冷却水の吐出温度は、反応条件14において62℃であり、反応条件15において100℃で沸騰していた。
【0095】
本実施例においては熱交換器を用いて反応させたため、反応液を十分に除熱することができた。そして
図3に示すように、HBNの反応収率は97〜98mol%と高かった。
【0096】
〔実施例4〕
本実施例では、実施例1と同様に
図1に示す反応装置を用いてHBNを製造した。本実施例においては、管型反応器25として、ジャケットを有するSUS316製チューブ(外径1/8インチ 内径2.17mm)を用いた。そして、HBNの製造量をさらにスケールアップした。
【0097】
液化シアン化水素の導入用に、導入管(外径1/8インチ 内径2.17mm、SUS316製)を液化シアン化水素ボンベ(図示せず)およびポンプ(C−601、BUCHI製)10に接続した。なお、ボンベ(図示せず)には、ポンプサクションでのシアン化水素の気化を防ぐために、窒素を用いて約3kg/cm2の圧力をかけた。また、プロピオンアルデヒド(純度:98%以上)の導入用に、導入管(外径1/8インチ 内径2.17mm、SUS316製)16をポンプ(C−601、BUCHI製)11に接続した。なお、プロピオンアルデヒドには、触媒として0.6mol%のトリエチルアミンを予め溶解させた。
【0098】
さらに、液化シアン化水素を混合器23に導入するために、ポンプ10と混合器(1/8インチ 3方ユニオン、Swagelok社製)23とをSUS316製チューブ(外径1/8インチ 内径2.17mm)で接続した。また同様に、プロピオンアルデヒドを混合器23に導入するために、ポンプ11と混合器(1/8インチ 3方ユニオン、Swagelok社製)23とをSUS316製チューブ(外径1/8インチ 内径2.17mm)22で接続した。
【0099】
また、混合器の排出側には管型反応器25として、ジャケットを有するSUS316製チューブ(外径1/8インチ 内径2.17mm)を接続した。この管型反応器25には、反応液の温度を監視するために、数箇所に熱電対を設置した。管型反応器25のジャケット部内には0℃に冷却したブライン(エチレングリコール水溶液)を流通させ、管型反応器25を除熱した。なお、管型反応器25には、導入管26および反応液排出ライン28を介して反応液捕集器29を連結し、導入管26と反応液排出ライン28との間には背圧弁27を設置した。反応液捕集器29として、攪拌用のトルエンを予め導入した、容量200Lの捕集器(SUS304製)を用いた。反応系内の圧力を0.5〜0.6MPaとした。
【0100】
この反応装置を使用して、プロピオンアルデヒドと液化シアン化水素とを、トリエチルアミン存在下で反応させてHBNを製造した。管型反応器25における反応液の平均滞留時間が10秒であり、かつ供給する原料のモル比がシアン化水素:プロピオンアルデヒド=1.04:1.00となるように、管型反応器25の長さ、およびポンプ10・11によって送液する原料の流量をそれぞれ変更し、HBNの反応収率を調べた。
【0101】
反応により生成したHBN/トルエン溶液を、トリエチルアミンをクエンチするための塩酸(導入したトリエチルアミンの100mol%以上)を予め導入しておいた捕集器に排出し回収した。回収した反応液を分析し、HBNの反応収率を得た。結果を表4に示す。
【0102】
【表4】
表4において、シアン化水素(HCN)およびプロピオンアルデヒド(nPA)のモル比を、HCN/nPA(mol/mol)で示した。表4に示す反応条件16において、HBN生産量は180g/min、冷却水として用いたブライン流量は600g/minであった。また、反応液温度は、平均滞留時間0.5秒未満の時点では130℃、平均滞留時間約10秒の時点では2℃であった。表4に示すように、HBNの生成量を実施例1における生成量の30倍以上にスケールアップした場合であっても、HBNの反応収率は96mol%と高かった。
【0103】
〔実施例5〕
本実施例では、以下に示す反応装置を用いてラクトニトリルを製造した。本実施例においては、まず1.0mol%TEA/アセトアルデヒド22.0g(0.49mol アルデヒド)、および液化シアン化水素14.8g(0.55mol)をそれぞれ別のシリンジに導入した。なお、原料の気化を防ぐために、0〜10℃の冷媒が流通している小径チューブをシリンジ外周部に巻きつけてシリンジを冷却した。
【0104】
各原料を導入したシリンジを混合器(1/16インチ SUS316ユニオンティー、Swagelok社製)に接続した。この混合器を、熱交換器を兼ねた管型反応器(外径1/16インチ 内径1.0mm 長さ100cm、SUS316製)に接続した。そして、反応液導入管(外径1/16インチ 内径1.0mm 長さ65cm、SUS316製)を介して、容量100mlの四つ口フラスコと上記管型反応器とを接続した。この四つ口フラスコには温度計、還流冷却機、および攪拌機を設置した。
【0105】
管型反応器を約30℃に調温したウォーターバスに浸し、四つ口フラスコを約10℃に調温したウォーターバスに浸した。ついで、シリンジポンプを起動させ、TEA/アセトアルデヒドを0.23ml/minおよびシアン化水素を0.17ml/minで混合器に給液した(シアン化水素:アセトアルデヒド=1.12:1.00)。反応液を四つ口フラスコに回収し、約2時間四つ口フラスコ中に反応液をおいた。反応液をHPLC分析し、ラクトニトリルの反応収率を算出したところ、99mol%と高かった。
【0106】
〔実施例6〕
本実施例では、以下に示す反応装置を用いてマンデロニトリルを製造した。本実施例においては、まず1.0mol%TEA/ベンズアルデヒド25.0g(0.23mol アルデヒド)、および液化シアン化水素9.6g(0.35mol)をそれぞれ別のシリンジに導入した。なお、原料の気化を防ぐために、0〜10℃の冷媒が流通している小径チューブをシアン化水素用シリンジに巻きつけてシリンジを冷却した。
【0107】
各原料を導入したシリンジを混合器(1/16インチ SUS316ユニオンティー、Swagelok社製)に接続した。この混合器を、熱交換器を兼ねた管型反応器(外径1/16インチ 内径1.0mm 長さ100cm、SUS316製)に接続した。そして、反応液導入管(外径1/16インチ 内径1.0mm 長さ65cm、SUS316製)を介して、容量100mlの四つ口フラスコと上記管型反応器とを接続した。この四つ口フラスコには温度計、還流冷却機、攪拌機を設置した。
【0108】
管型反応器を約30℃に調温したウォーターバスに浸し、四つ口フラスコを約20℃に調温したウォーターバスに浸した。ついで、シリンジポンプを起動させ、TEA/アセトアルデヒドを0.20ml/minおよびシアン化水素を0.12ml/minで混合器に給液した(シアン化水素:ベンズアルデヒド=1.50:1.00)。反応液を四つ口フラスコに回収し、約2時間四つ口フラスコ中に反応液をおいた。反応液をHPLC分析し、マンデロニトリルの反応収率を算出したところ、97mol%と高かった。
【0109】
〔実施例7〕
実施例4にて得られたHBN反応液188.0g(HBN収率96%、1.0molスケール‐アルデヒド)を温度計、還流冷却機、攪拌機を備えた500mL四つ口フラスコに仕込んだ。メタノール100.7g(3.15mol)、水19.5g(1.08mol)を加え、内温20℃に調整した。塩化水素43.7g(1.20mol)を38±2℃を維持して吹き込んだ後、還流熟成8時間を行い、α‐ヒドロキシブタンエステル反応液を得た。トルエン一定としてガスクロマトグラフにて収率を分析したところ、85.2mol%であった。
【0110】
〔参考例1〕
反応器として、温度計、還流冷却機、および攪拌機を備えた3.5m3GLライニングの反応釜を用いてバッチ法によりHBNを製造した。この反応器にプロピオンアルデヒド1210.6kg(20.8kmol)(純度:98%以上)、および触媒としてトリエチルアミン11.2kg(0.11kmol)を導入し、攪拌しながら約10℃に冷却した。約−18℃のブラインを用いて反応器を可能な限り冷却し、反応器内の温度を約10〜20℃に保った状態で、シアン化水素587.1kg(21.7kmol)を反応器内に滴下した。シアン化水素の滴下に18時間を要した。得られた反応液を分析したところ、HBNの反応収率は85mol%であった。
【0111】
〔参考例2〕
反応器として、温度計、還流冷却管、滴下ロート、および攪拌機を備えた容量300mLの四つ口フラスコを用いてバッチ法によりHBNを製造した。この反応器にプロピオンアルデヒド145.2g(2.50mol)(純度:98%以上)、および触媒としてトリエチルアミン1.5g(15mmol)を導入し、攪拌しながら約15℃に冷却した。反応器内の温度を10〜20℃に保った状態で、シアン化水素23.5g(0.87mol)を40分かけて反応器内に滴下した。上記温度範囲において23時間保持した後、さらにシアン化水素46.9g(1.74mol)を80分かけて反応器内に滴下した。得られた反応液を分析したところ、HBNの反応収率は87mol%であった。
【0112】
〔参考例3〕
反応器として、温度計、還流冷却管、滴下ロート、および攪拌機を備えた容量300mLの四つ口フラスコを用いてバッチ法によりHBNを製造した。この反応器にプロピオンアルデヒド145.2g(2.50mol)(純度:98%以上)、および触媒としてトリエチルアミン1.5g(15mmol)を導入し、攪拌しながら25℃に冷却した。反応器内の温度を20〜30℃に保った状態で、シアン化水素23.5g(0.87mol)を30分かけて反応器内に滴下した。上記温度範囲において19時間保持した後、さらにシアン化水素46.9g(1.74mol)を80分かけて反応器内に滴下した。得られた反応液を分析したところ、HBNの反応収率は79mol%であった。
【0113】
〔参考例4〕
温度計、還流冷却管、滴下ロート、および攪拌機を備えた100mL四つ口フラスコにベンズアルデヒド42.4g(0.40mol)、および触媒としてトリエチルアミン0.2g(1.6mmol 0.4mol%対アルデヒド)を仕込み、攪拌下、20℃以下に冷却した。反応器内の温度を20〜30℃に保ちながら、シアン化水素3.8g(0.14mol)を10分かけて滴下した。その後、25℃にて22時間保持した。この際、反応液中に副生成物と思われる結晶を確認した。その後、シアン化水素7.6g(0.29mol)を30分かけて滴下した。得られた反応液を分析したところ、マンデロニトリルの反応収率は83mol%であった。
【0114】
〔参考例5〕
反応器として、温度計、還流冷却管、滴下ロート、および攪拌機を備えた容量200mL四つ口フラスコを用いてバッチ法によりラクトニトリルを製造した。この反応器にアセトアルデヒド44.1g(1.00mol)、および触媒としてトリエチルアミン1.0g(10mmol、1.0mol%対アルデヒド)を仕込み、攪拌しながら10℃に冷却した。反応器内の温度を0〜10℃に保った状態で、シアン化水素8.5g(0.31mol)を25分かけて反応器内に滴下した。10℃にて、15時間保持した後、シアン化水素19.9g(0.73mol)を60分かけて反応器内に滴下した。得られた反応液を分析したところ、ラクトニトリルの反応収率は、61mol%であった。
【0115】
〔参考例6〕
参考例1にて得られた反応液を用いた以外は、実施例7と同様にして、α‐ヒドロキシブタンエステルを含む反応液を得た。同様に反応液を分析したところ、プロピオンアルデヒド量を基準としたときのα‐ヒドロキシブタンエステルの反応収率は76.0mol%であった。
【0116】
実施例1から7および参考例1から6を比較して分かるように、本実施例に係る製造方法では、いずれも高収率で目的とするシアノヒドリン化合物を製造できることが確認された。また、実施例7および参考例6を比較して分かるように、本実施例によれば、α‐ヒドロキシエステル化合物を高収率で製造することができることが確認された。
【0117】
本発明に係るシアノヒドリン化合物の製造方法によれば、アルデヒド化合物等のカルボニル化合物とシアン化水素とを流通反応させるため、滞留時間を短縮することが可能である。これにより、生成されたシアノヒドリン化合物が未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物に曝される時間を短縮することができるので、生成されたシアノヒドリン化合物が未反応のアルデヒド化合物等のカルボニル化合物と反応するのを防ぎ、収率よくシアノヒドリン化合物を製造することが可能である。
【0118】
また、本発明に係るα‐ヒドロキシエステル化合物の製造方法によれば、出発原料であるアルデヒド化合物等のカルボニル化合物に対して、中間体であるシアノヒドリン化合物を収率よく製造できるために、最終物質であるα‐ヒドロキシエステル化合物を高収率で製造することができる。
【0119】
発明の詳細な説明の項においてなされた具体的な実施形態または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明に係る製造方法によって製造したシアノヒドリン化合物は様々な化合物の出発物質として有用であり、本発明によれば収率よくシアノヒドリン化合物を製造することが可能である。したがって、本発明は、医薬品産業、農薬品産業等に広く利用可能である。