【実施例】
【0032】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、DH法の脱ガス装置の浸漬管を用いた。なお、浸漬管の内周側のウェア耐火物(浸漬管内周側煉瓦)には、マグネシア−クロミア質(気孔率:8体積%以上23体積%以下)の煉瓦を主として用いた以外に、マグネシア−カーボン質の煉瓦(1400℃で3時間還元焼成後のカーボン量が2質量%以上15質量%以下)も用いた。また、外周側の耐火物には、アルミナ−マグネシア質の不定形耐火物を使用した。更に、この煉瓦の厚みを260mmとし、また不定形耐火物の厚みを175mmとして、浸漬管の内径を2000mmとした。なお、上記した1400℃で3時間還元焼成とは、マグネシア−カーボン質の煉瓦のカーボン量測定の際に常用される事前熱処理である。
【0033】
浸漬管に使用した断熱材の種類、熱伝導率、及び厚みと、各条件での耐火物の損傷状況を、表1に示す。なお、表1中の浸漬管内周側煉瓦の欄に記載の「MgCr1」は、マグネシア−クロミアの材質で構成され、その気孔率を16体積%以上23体積%以下の範囲で変更した煉瓦を意味し、また「MgCr2」は、上記した材質で構成され
、その気孔率を8体積%以上15体積%以下の範囲で変更した煉瓦を意味している。また、浸漬管内周側煉瓦の欄に記載の「MgC1」は、マグネシア−カーボンの材質で構成され、1400℃で3時間還元焼成後のカーボン量を10質量%以上15質量%以下の範囲で変更した煉瓦を意味し、また「MgC2」は、上記した材質で構成され
、そのカーボン量が2質量%以上9質量%以下の範囲で変更した煉瓦を意味している
【0034】
【表1】
【0035】
表1に記載の断熱材の種類で「WDS」とは、Porextherm Dammstoffe Gmbh社製の「Porextherm WDS(登録商標)」であり、その材質は、ヒュームドシリカを主材とした微孔性成形体(微細多孔性の断熱材)である。また、「C.F.」とは、セラミックスファイバーを意味する。
上記断熱材は、
図1に示した芯金の外周面と内周面の双方、並びに、芯金の内周面又は外周面の3通りで設置した。なお、芯金の外周側への不定形耐火物の施工には、芯金の外周面に設けた先側がY字状に分岐した複数のスタッドを用い、隣り合うスタッドの設置間隔を80〜300mmの範囲で変更した。
【0036】
そして、煉瓦の平均損耗速度とは、浸漬管の芯金の内周側に設置された煉瓦の1チャージあたりの損耗量である。この平均損耗速度は、芯金の内周側に設置された煉瓦の初回(稼動開始より80〜100チャージ後)の補修時に、芯金の内周側へ圧入した不定形耐火物の圧入量を測定することで、煉瓦の損耗量を求め、その結果より算出した。具体的には、浸漬管(脱ガス槽)内に、内径が一定の円筒状の中子をセットし、中子及び浸漬管の下端の隙間を塞いだ状態で、中子と煉瓦との間に浸漬管の高さまで不定形耐火物を圧入し、浸漬管の高さと測定した不定形耐火物の圧入量(体積)から補修厚みを求めた。
【0037】
更に、評価は、損耗抑制の効果と稼動末期の欠陥の双方を含めた総合評価で行った。
なお、損耗抑制の効果は、煉瓦の耐用性を示す評価であり、煉瓦の平均損耗速度から得られた結果である。ここでは、平均損耗速度が1.0(mm/ch)以下を「◎」、1.0(mm/ch)超1.5(mm/ch)以下を「○」、1.5(mm/ch)超を「×」とした。
また、稼動末期の欠陥は、操業の安定性(突発トラブルの発生の有無)を示す評価であり、目地開きや亀裂発生の有無を目視による監視で行った。
【0038】
実施例1、2は
図1記載の通り、断熱材の配置位置を、それぞれ芯金の内周面と外周面の双方(両面)とし、断熱材として、熱伝導率と厚みを適正範囲内(熱伝導率:0.05W/(m・K)以下、厚み:1mm以上5mm以下)としたWDSを使用した結果である(浸漬管内周側煉瓦:MgCr1)。
実施例1、2に示すように、断熱性を向上(熱伝導率を低下)させることにより、煉瓦の平均損耗速度の低減効果が得られることを確認できた。特に、実施例2に示すように、断熱材の厚みを適正範囲内で厚くすることにより、平均損耗速度の更なる低減効果が得られた(実施例1:1.15mm/ch、実施例2:0.98mm/ch)。
なお、実施例2では、断熱材の厚みを厚くすることで、実施例1よりも稼動末期で亀裂や目地開きが発生し易い状態となったが、断熱材の厚みを適正範囲内に調整したため、使用に支障はなかった(総合評価:○)。
【0039】
実施例3、4と、実施例5〜
8、参考例9、10は、それぞれ断熱材の配置位置を、芯金の内周面又は外周面(片面のみ)としたものである(浸漬管内周側煉瓦:MgCr1)。
芯金の内周面のみ又は外周面のみに断熱材を配置した場合は、芯金の内周面と外周面の両面に断熱材を配置した場合よりも、平均損耗速度は増加するが、断熱材を全く用いない場合(比較例4)と比較すると、平均損耗速度の低減効果が得られ、平均損耗速度が1.0(mm/ch)超1.5(mm/ch)以下の結果が得られた。また、断熱材を、芯金の内周面のみ又は外周面のみに配置した場合、いずれも断熱材を厚くすることにより、平均損耗速度の低減効果が得られた。しかし、断熱材は、芯金の外周面のみに配置した場合よりも、芯金の内周面のみに配置した場合の方が、平均損耗速度の低減効果が大きかった。
【0040】
実施例7、8は、実施例1〜6と比較して、スタッドの間隔を80mmと狭くしたものである。また、
参考例9、10は、実施例1〜6と比較して、スタッドの間隔を300mmと広くしたものである(浸漬管内周側煉瓦:MgCr1)。
前記した程度の間隔の狭隘化では、比較例4に比べて問題となるような平均損耗速度の増加は認められず、寧ろ芯金の外周側の不定形耐火物への微細亀裂の発生を抑制して、断熱の効果を維持できたものと考えられる。ただし、隣り合うスタッドの間隔には最適値が存在し、本実験では、80mm以上250mm以下が、最も好成績であった。
【0041】
一方、比較例1〜3は、断熱材の熱伝導率と厚みのいずれか一方又は双方を、適正範囲外とした断熱材を使用した結果であり、比較例4は、芯金の内周面と外周面のいずれにも、断熱材を配置しなかった場合の結果である(浸漬管内周側煉瓦:MgCr1)。
まず、比較例1、3のように、断熱材の熱伝導率を高く(0.05W/(m・K)超)設定した場合、煉瓦の平均損耗速度が上昇した。特に、比較例1に示すように、断熱材の熱伝導率を0.30W/(m・K)まで高めることにより、平均損耗速度が大幅に上昇した(比較例1:2.00mm/ch、比較例3:1.98mm/ch)。
また、比較例1、2のように、断熱材の厚みを厚く(8mm以上)設定した場合、おおよそ浸漬管の稼動末期の300チャージ以降に、亀裂や目地開きといった耐火物の残存厚みに寄らない浸漬管の交換理由が発生することが確認された。そこで、浸漬管の稼動終了後に耐火物の解体調査を行ったところ、当初施工した断熱材はいずれも最大で5mm以上収縮していた。このため、この収縮で発生した耐火物と芯金の間の隙間が起因となって、煉瓦の目地開きや不定形耐火物の亀裂が発生したものと考えられる。
【0042】
また、芯金の内周面と外周面のいずれにも断熱材を使用しなかった比較例4でも、平均損耗速度は、比較例1、3と同程度の1.95(mm/ch)へ上昇した。
比較例4では、芯金の熱変形による亀裂及び目地開きは発生したものの、芯金との間の目地厚は、隙間に充填した耐火モルタル(1〜3mm程度)に相当する厚みのみであったため、その収縮に起因する亀裂や目地開きは、ほとんど発生しなかったものと推察できる。
【0043】
以上のことから、比較例1、3は、いずれも煉瓦の損耗抑制の効果が得られず、また比較例1、2は、いずれも稼動末期に欠陥が発生した。
このように、比較例1は、煉瓦の損耗抑制の効果が得られず、しかも稼動末期に欠陥が発生したことから、総合評価を「×」とした。
また、比較例2は、煉瓦の損耗抑制の効果は得られたが、断熱材の厚みが厚過ぎて稼動末期に欠陥が発生し、これが浸漬管の使用に支障をきたしたため、総合評価を「×」とした。
更に、比較例3は、稼動末期の欠陥をなくすことはできたが、断熱材の熱伝導率が高過ぎて煉瓦の損耗抑制の効果が得られず、これが浸漬管の使用に支障をきたしたため、総合評価を「×」とした。
【0044】
次に、実施例3の条件について、芯金の内周側のウェア耐火物であるマグネシア−クロミア質の煉瓦を、その気孔率が、16体積%以上23体積%以下の範囲で変更されたMgCr1の煉瓦から、8体積%以上15体積%以下の範囲で変更されたMgCr2の煉瓦に変更した。この結果を実施例11に示す。
一般に、煉瓦は、気孔率を下げると、耐溶損性は向上するものの、耐スポーリング性が悪化して煉瓦に亀裂が入り易くなる傾向がある。スポーリングは、煉瓦の稼動面側(溶鋼接触面側)と背面側の温度差によって発生する内部応力によって、その発生が説明されるが、本願発明のように、断熱材を配置することで、その温度差は軽減される。
従って、実施例3に比べて実施例11は、スポーリングによる損耗が顕著となることなく、煉瓦の平均損耗速度を改善でき、稼動末期の欠陥の悪化は見られなかった。
【0045】
また、芯金の内周側のウェア耐火物にマグネシア−カーボン質の煉瓦を用いた場合は、実施例12に示すように、1400℃で3時間還元焼成後のカーボン量(カーボン組成)を、スポーリングによる損耗が発生しにくい、10質量%以上15質量%以下の範囲で変更したとき、本願発明の効果により、平均損耗速度や稼動末期の欠陥で、良好な結果が得られた。
一方、実施例13に示すように、1400℃で3時間還元焼成後のカーボン量を、スポーリングによる損耗が発生し易い、2質量%以上9質量%以下の範囲で変更した場合、更にスポーリングが顕著とならない範囲で、平均損耗速度を改善でき、断熱材を配置しなければ発生し易くなる稼動末期の欠陥の悪化も見られなかった。
【0046】
以上のことから、本発明の脱ガス装置の浸漬管を使用することで、従来の浸漬管構造を大幅に変更することなく、芯金近傍の断熱のみで、非常に簡便に耐火物の長寿命化が図れることを確認できた。
更に、断熱材の効果により、一般にはスポーリングが劣るものの、より高い耐溶損性を持つ低気孔率の緻密な耐火物煉瓦や低カーボン含有量の煉瓦を使用して、耐火物の寿命延長が図れることも確認できた。
【0047】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の脱ガス装置の浸漬管を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。