(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成形装置から搬出され、所定の搬送方向へと搬送されている帯状ガラスであって、所定の厚さを有する帯状の製品板厚領域と、前記製品板厚領域を挟み、前記製品板厚領域よりも厚肉に成形された第1厚肉領域および第2厚肉領域とを含む帯状ガラスにカッターを用いて初期クラックを形成するクラック形成工程と、
前記帯状ガラスにレーザ光および冷媒を供給することにより、前記初期クラックを前記搬送方向に直交する幅方向へと伸長させてスクライブラインを形成するクラック伸長工程と、
前記スクライブラインに沿って前記帯状ガラスを分断するガラス分断工程と、を具備し、
前記クラック形成工程において、前記製品板厚領域に一端を有する前記初期クラックを形成し、
前記クラック伸長工程において形成される前記スクライブラインに連続し、前記第2厚肉領域において前記幅方向に延びる終端クラックを、カッターを用いて形成する、終端クラック形成工程をさらに具備し、
前記終端クラック形成工程において、前記帯状ガラスの前記搬送方向に沿って前記第2厚肉領域に隣接して延びるエッジに一端を有する前記終端クラックを形成する、帯状ガラスの切断方法。
前記クラック形成工程において、前記帯状ガラスの前記搬送方向に沿って前記第1厚肉領域に隣接して延びるエッジよりも前記製品板厚領域側に始端を有する前記初期クラックを形成する、請求項5に記載の帯状ガラスの切断方法。
前記帯状ガラスを横断する直線状領域に前記初期クラックが形成され、前記レーザ光が照射され、かつ前記冷媒が噴射されるように、前記カッター、前記レーザ光を集光する集光システムおよび前記冷媒を噴射する噴射ノズルを有するスクライブライン形成ヘッドを、前記帯状ガラスの一方面上において前記直線状領域に沿うように移動させて、前記スクライブラインを形成する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の帯状ガラスの切断方法。
【背景技術】
【0002】
板状ガラス(ガラス板)の切断は、通常、カッターを用いて実施される。カッターにより形成されたガラス表面のスクライブラインに機械的な応力を加えると、板状ガラスがスクライブラインに沿って分断される。
【0003】
レーザ光を用いて板状ガラスを切断する方法も提案されている。この方法では、板状ガラスの表面の初期クラックをレーザ光の照射と冷媒の噴射とによって伸長させる手法が採用される。レーザ光の照射により加熱された領域に冷媒を吹き付けて急冷すると、その領域に引っ張り応力が生じる。この引っ張り応力をクラックの先端近傍に発生させるとクラックが伸長する。レーザ光を照射する領域(被照射領域)と冷媒を吹きつける領域(被冷却領域)とをこの順にクラックを伸長させたい方向へと板状ガラスの表面上を走査すると、板状ガラスにスクライブラインが形成される。その後は上記と同様、スクライブラインに機械的な応力が加えられ、板状ガラスがスクライブラインに沿って分断される。レーザ光を用いた切断方法の利点としては、厚さがごく薄いガラスであっても支障なく切断できること、ガラスの切断面の平滑性に優れていることなどが挙げられる。
【0004】
レーザ光を用いた切断を板状ガラスの製造ラインに適用することが提案されている。製造ラインで実施される切断は、製造ラインから取り出された板状ガラスの切断と区別するために「オンライン切断」と呼ばれることがある(製造ライン外での切断は「オフライン切断」と呼ばれる)。オンライン切断では、成形装置において所定の厚さへと成形され、製造ライン上を流れる帯状ガラスが切断の対象となる。帯状ガラスは、成形装置(例えばフロートバス)から搬出され、製造ライン上を搬送されながら、所定の位置においてその幅方向にスクライブラインが形成され、さらにその下流側においてスクライブラインに沿って分断される。この分断を、厚肉の両側端領域(いわゆる耳部)の切り落としと併せて実施することにより、中央領域から所定の大きさの板状ガラス(ガラス板)が採板される。
【0005】
特許文献1に開示されている装置は、帯状ガラスの搬送経路を横断するように取り付けられた直線スライド部材に沿って移動するキャリッジ(ヘッド)を備えている。このヘッドは、帯状ガラスを横断しながら、帯状ガラスへとレーザ光を照射し、レーザ光が照射された領域に引き続き冷媒を供給する。こうして、帯状ガラスの幅方向に沿ってスクライブラインが形成される。レーザ光を用いたオンライン切断では、通常、初期クラックは帯状ガラスの側端領域におけるエッジ近傍のみに形成される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、ガラス成形装置から搬出され、水平方向に搬送される帯状ガラス(ガラスリボン)10を上方から観察した状態を示している。帯状ガラス10は、搬送方向40の上流側(
図1に示す領域よりも上流側)に設置されたガラス成形装置(図示省略;例えばフロートバス)において所定の厚さへと成形され、搬送方向40に一定の速度で搬送されている。帯状ガラス10の搬送は、帯状ガラス10を下方から支持する搬送ローラ21によって行われる。なお、帯状ガラス10が薄い場合には搬送ローラ21のピッチを細かくすることが好ましい。また、搬送ローラ21に代えて搬送ベルトを用いてもよい。
【0014】
図1のII−II断面図を
図2として示す。
図1および
図2に示すように、帯状ガラス10は、帯状の製品板厚領域1と、製品板厚領域1を挟み、製品板厚領域1よりも厚肉に成形された第1厚肉領域2aおよび第2厚肉領域2bとを含んでいる。
【0015】
製品板厚領域1は所定の厚さTを有し、製品板厚領域1の一部から製品であるガラス板が採板される。製品とするガラス板の厚さの規格には微小ではあるが許容範囲が設定されていること、および帯状ガラス10の幅方向41についての中央では厚さが安定していることを考慮して、本明細書では、「所定の厚さT」は、帯状ガラス10の幅方向41についての中央の厚さTcに対する比T/Tcが、所定の範囲内となる厚さを指すものとする。なお、搬送方向40について帯状ガラス10の厚さが変動する場合には、帯状ガラス10の幅方向41の各点における厚さとして、当該各点の搬送方向40についての厚さの平均値を採用することとする。T/Tcは、具体的には、0.7〜1.3であり、好ましくは0.9〜1.1である。なお、
図2では、説明の便宜上、製品板厚領域1と第1厚肉領域2aとの境界を第1境界5aとして表している。同様に、製品板厚領域1と第2厚肉領域2bとの境界を第2境界5bとして表している。
【0016】
帯状ガラス10には、その上方を横断するスクライブライン形成ヘッド(以下、単に「ヘッド」という)51によってスクライブライン11が形成される。スクライブライン11は、搬送方向40に直交する幅方向41に平行に伸び、かつ搬送方向40について所定の間隔が保たれるように形成される。また、帯状ガラス10には、その上方に設置されたヘッド53a,53bによって搬送方向40に平行に伸びるようにスクライブライン15a,15bが形成される。スクライブライン15a,15bは、境界5a,5bよりも帯状ガラス10の中央に近い位置に形成される。スクライブライン11およびスクライブライン15a,15bの形成の順序に特に制限はない。
【0017】
帯状ガラス10は、搬送方向40の下流側に配置された第1分断装置によりスクライブライン11において分割される(分断工程)。また、帯状ガラス10は、搬送方向40の下流側に配置された第2分断装置によりスクライブライン15a,15bにおいて分割される(切り落とし工程)。分断工程および切り落とし工程の実施の順序に特に制限はない。ただし、第1エッジ3a(搬送方向40に延びる、第1厚肉領域2a側のエッジ)と初期クラック61(初期クラック61の詳細は後述)の始端との間の領域(スクライブライン11が形成されていない領域)が存在する場合は、切り落とし工程後に、分断工程が実施されることが好ましい。
【0018】
帯状ガラス10の幅方向41に平行なスクライブライン11を形成するために、ヘッド51は幅方向41に対して斜行して走行する。ヘッド51の斜行走行方向42と幅方向41とは、帯状ガラス10の搬送速度およびヘッド51の走行速度に依存して定まる角度θを形成する。ヘッド51は、斜行走行方向42に平行に帯状ガラス10の上方を横断するガイド(図示省略)に導かれて一定の速度で走行する。便宜上、ヘッド51が走行するラインをヘッド走行ライン50として
図1に示す。
【0019】
ヘッド走行ライン50に沿った
図1の断面図を
図3として、
図3の部分拡大図を
図4として示す。ヘッド51は、レーザ光を帯状ガラス10に集光させるための光学システム70と、冷媒を噴射して帯状ガラス10を局部的に冷却するための噴射ノズル80とを備えている。ヘッド51は、帯状ガラス10に初期クラック61を形成するクラック形成装置であるカッター19をさらに備えている。
【0020】
カッター19は、典型的にはホイールカッターであるが、帯状ガラス10に伸長可能なクラックを形成できる限り、その種類に特段の制限はない。カッター19の別例としては、ポイントカッターが挙げられる。カッター19は、スクライブライン11の起点となる初期クラック61を帯状ガラス10に形成する役割を担う。
【0021】
カッター19は、初期クラック61の形成時には図示を省略するカッター押圧装置により、帯状ガラス10の表面へと押圧される。ヘッド走行ライン50に沿う位置において支持部材22が帯状ガラス10を支持しているため、この押圧によりカッター19から帯状ガラス10に反力が加わる。ただし、この押圧は初期クラック61の形成後に解放され、その結果、
図4に示したように、カッター19は、典型的には帯状ガラス10に対して非接触となる。
【0022】
本実施形態では、第1厚肉領域2aから製品板厚領域1に至り、製品板厚領域1に終端を有する初期クラック61が形成される。形成される初期クラック61の長さは特に限定されないが、初期クラック61の伸長を容易にするためには、例えば15mm以上が適切であり、好ましくは20mm以上である。また、初期クラック61のうち、製品板厚領域1において延びている部分の長さは例えば200mm以下であり、好ましくは150mm以下である。
【0023】
スクライブライン11を形成するための初期クラック61の伸長は、ヘッド51から供給されるレーザ光17および冷媒18によって実施される。すなわち、クラックの端部に重複させて、レーザ光17による加熱と冷媒18による急冷とを引き続いて適用すると、クラック近傍のガラス表面に引っ張り応力が発生し、この引っ張り応力によりクラックが伸長する。ヘッド51は、クラックを伸長させながらヘッド走行ライン50上を(図示した形態では図示左方へと)進んでいく。
【0024】
図5に示すように、ヘッド51の走行に伴い、帯状ガラス10において、光学システム70を経由してレーザ光17が照射される被照射領域27、噴射ノズル80から冷媒18が供給される被冷却領域28は、この順にヘッド走行ライン50上を進んでいく。換言すれば、被冷却領域28は被照射領域27に追随しながら、これらの領域はヘッド走行ライン50上を進行する。ヘッド51は、被照射領域27を形成するレーザ光集光装置(光学システム70)、および被冷却領域28を形成する冷却装置80を、各装置の相対的な位置関係を保持したまま、移動させる役割を担う。
【0025】
図4に戻って、レーザ光の照射システムおよび冷媒の供給システムについて簡単に説明しておく。ただし、これらのシステムは既に公知のものを特に制限なく使用できる。レーザ光17は、レーザ光発生装置71からレーザビーム拡大装置72およびヘッド51内の集光装置(光学システム70)を経由して帯状ガラス10の被照射領域27へと集光される。光学システム70は、ミラーその他の光学素子73,74,75により構成されている。レーザ光17としては、CO
2レーザ、YAGレーザなどを使用できる。冷媒18は、図示を省略する冷媒供給装置からヘッド51に備え付けられた噴射ノズル80を経由して、被冷却領域28へと供給される。冷媒としては、例えば空気、窒素、ヘリウム、水を使用すればよい。
【0026】
本実施形態では、ヘッド51が第2厚肉領域2b上を通過している間に、カッター19が帯状ガラス10の表面へと再度押圧される。これにより、第2厚肉領域2bに終端クラック12が形成される。本実施形態では、レーザ光17および冷媒18によるクラック62の伸長が、少なくともクラック62が厚肉領域2bに至るまで実施され、伸長したクラック62に連続するように終端クラック12が形成される。
図1に示すように、初期クラック61、初期クラック61が伸長して形成されたクラック62、および終端クラック12は、スクライブライン11を構成する。
【0027】
スクライブライン11が形成された帯状ガラス10は、搬送方向40の下流側でスクライブライン11に沿って分断される。
図6(a)(b)に示すように、帯状ガラス10のスクライブライン11が近づいてくると、移動ローラ25は帯状ガラス10をその厚さ方向に持ち上げる。持ち上げられた帯状ガラス10の自重により生じた応力によってスクライブライン11を構成するクラックが伸長して帯状ガラス10が割断される。より具体的に述べると、ガラス分断装置である移動ローラ25は、移動ローラ25と接している部分の変位量が最大となるように帯状ガラス10を持ち上げ、スクライブライン11での分断を進行させる。
図6(c)に示すように、分断が完了した後、移動ローラ25は下方へと引き下がって次の分断に備える。
【0028】
スクライブライン11に応力が加わるように、移動ローラ25は、スクライブライン11を跨ぐ上流側(図示左方)および下流側(図示右方)の両方において、帯状ガラス10をその裏面を支持しながら上方へと持ち上げる(
図6(b))。その後の移動ローラ25の下降に伴い、一旦上方へと移動した帯状ガラス10の下流端10eは下方へと戻ることになる(
図6(c))。
【0029】
なお、本実施形態では、自重により生じた応力によりスクライブライン11での分断を進行させているが、移動ローラ25の上昇時に、移動ローラ25の搬送方向40上流側または下流側において帯状ガラス10の表面を上方から押さえつけることにより分断を進行させてもよい。このようにすれば、薄く、軽い帯状ガラス10を分断する場合であっても、分断に要する応力を確保し易い。
【0030】
図1に戻って、ヘッド53a,53bは、ヘッド51と同様の部材を備えており、カッターで初期クラックを形成した後、帯状ガラス10にレーザ光と冷媒とを順次供給してスクライブライン15a,15bを形成していく。ただし、ヘッド53a,53bは、帯状ガラス10上の所定位置に固定されている。このため、ヘッド53a,53bは、帯状ガラス10の搬送方向40への移動に伴って、帯状ガラス10上をその長さ方向に沿って帯状ガラス10に対して相対的に移動しながら、スクライブライン15a,15bを形成していく。スクライブライン15a,15bは、レーザ光17が照射される被照射領域を通過するとともに搬送方向40に平行に伸びるライン(以下、「縦走帯」と呼ぶ)45a,45b上に形成され、採板される領域と切り落とされる領域とを区画する。
【0031】
帯状ガラス10の第1厚肉領域2aおよび第2厚肉領域2bは、搬送方向下流側において切り落とされる(
図7(a)(b))。本実施形態における切り落とし工程では、初期クラック61全体が除去されるように、第1厚肉領域2aおよび第2厚肉領域2bとともに製品板厚領域1の一部を切り落とす。本実施形態では、製品として採板されるガラス板に初期クラック61により形成された端面が残らないことによる。
【0032】
図7(b)に示したように、長さ方向に沿った分断も、スクライブライン15a,15bを跨ぐ図示左右両側において帯状ガラス10を持ち上げることにより実施することができる。図示した形態では、支持部材29a,29bが接している部位における変位量が最大となるように帯状ガラス10を持ち上げ、スクライブライン15a,15bに応力が加えられる。
【0033】
以下、本実施形態の効果を
図8〜
図12を参照しながら説明する。
【0034】
第1厚肉領域2aのみに初期クラック61を形成した場合、第1厚肉領域2aにおける残留応力により、初期クラック61が幅方向41に伸長せず、ヘッド51が通過する通過ライン50pから逸脱したクラック62が形成されることがある。この逸脱は、製品板厚領域1では緩和されていくものの、縦走帯45aとの交差点においては完全には解消されないことがある(
図8)。この場合、採板されるガラス板において幅方向41に沿って形成されるべき切断面が、縦走帯45a近傍では歪むこととなる。また、第1厚肉領域2aにおける残留応力が特に大きいときには、初期クラック61が幅方向41から大きく逸れた方向に伸長し、クラック62の先端が通過ライン50pから大きく逸脱した位置に至ることもある。通過ライン50pから大きく逸脱した位置には、レーザ光および冷媒由来の引っ張り応力が十分には及ばない。したがって、この場合には、初期クラック61の伸長が第1厚肉領域2a内で中断されてしまう(
図9)。これに対し、本実施形態では、製品板厚領域1に一端を有する初期クラック61が形成される。製品板厚領域1における残留応力は第1厚肉領域2aにおける残留応力よりも小さい。したがって、初期クラック61が幅方向41から逸れた方向に伸長することを防止できる(
図10)。
【0035】
ところで、初期クラック61の始端を帯状ガラス10の製品板厚領域1に形成する際には、当該始端を形成すべき位置に押圧力(衝撃)を加えるため、帯状ガラス10が薄い場合には、当該始端を中心とする意図しない亀裂が生じることがある。亀裂が生じると、帯状ガラス10を安定して分断できないことがある。このような事情から、本実施形態におけるクラック形成工程では、第1厚肉領域2aから製品板厚領域1に至り、製品板厚領域1に終端を有する初期クラック61を形成することにより、このような亀裂の発生を抑制している。
【0036】
また、本実施形態では、帯状ガラス10の搬送方向40に沿って延びる第1エッジ3aよりも製品板厚領域1側に始端を有する初期クラック61が形成される。製品板厚領域1内を始端とすると、第1エッジ3aを始端とする場合よりも初期クラック61を安定して形成することができる。
【0037】
また、第2厚肉領域2bにおける残留応力が大きい場合には、クラック62が製品板厚領域1を横断するように初期クラック61を伸長させることができたとしても、第2厚肉領域2bにおいてクラック62が通過ライン50pから逸脱する場合がある(
図11)。逸脱が大きくなり過ぎると、クラックの伸長が中断されることもある。これを考慮して、本実施形態では、クラック伸長工程において形成されるスクライブライン(クラック62)に連続し、第2厚肉領域2bにおいて幅方向41に延びる終端クラック12を、レーザ光照射および冷媒供給に先行して形成することとしている(終端クラック形成工程;
図12)。なお、帯状ガラス10の搬送方向40に沿って第2厚肉領域2bに隣接して延びる第2エッジ3bに一端を有する終端クラック12を形成することが望ましい。本実施形態では、製品として採板されるガラス板に初期クラック61および終端クラック12が含まれず、ガラス板の端面はすべてレーザ光および冷媒によりクラックが伸長して形成されたものとなる。したがって、端面の平滑性に優れたガラス板を得ることができる。なお、帯状ガラス10を安定して分断する観点から、切り落とし工程を分断工程よりも先に実施する場合であっても、終端クラック12を形成することが好ましい。また、終端クラック12を、レーザ光照射または冷媒供給と同時に形成してもよく、レーザ光照射および冷媒供給の後に形成してもよい。
【0038】
なお、帯状ガラス10の厚さは、特に制限されないが、例えば0.1mm〜5mmである。特に、0.1mm〜1.1mmの厚さの場合には、製品板厚領域1と第1厚肉領域2aとで厚さの相違が大きくなり易くなるため、本発明を適用することによる効果も大きくなる。
【0039】
以下、初期クラック61が通過ライン50pから大きく逸脱した場合にクラックが伸長しなくなる現象を確認するために行った実験について、
図13を参照しながら説明する。
【0040】
(実験1)
板状ガラス110として、厚さ0.4mm、短辺長100mm、長辺長200mmの寸法を有し、質量%により表示して下記の各成分を有するソーダライムガラス板を準備した。
【0041】
SiO
2:71.9%
Al
2O
3:1.7%
MgO:4.0%
CaO:8.0%
Na
2O:13.5%
K
2O:0.9%
【0042】
板状ガラス110の長辺に沿う方向が搬送用テーブル190の搬送方向142に一致するように、板状ガラス110を搬送用テーブル190に固定した。
【0043】
搬送用テーブル190を静止させた状態で、板状ガラス110に初期クラック161を形成した。具体的には、板状ガラス110の一方の短辺110aから他方の短辺110bの方向に50mm離れた位置を始端とし、短辺110bに向かって延びる、長さが10mmの初期クラック161を形成した。初期クラック161は、焼結ダイヤモンドカッターホイール(外径φ2.5mm,厚み1.0mm、内径φ1.1mm、刃先角度135度)を用いて形成した。
【0044】
次に、搬送用テーブル190を移動させながら、板状ガラス110にレーザ光を照射し、さらに水(冷媒)を噴射した。具体的には、まず、被照射領域127および被冷却領域128が短辺110aよりも搬送方向142前方の位置に初期設定され、初期クラック161の長軸と被照射領域127の長軸とが一致して両長軸の間隔Δxが0μmとなるように搬送テーブル190の位置を初期設定した。次に、被照射領域127が長さ22mm、幅1mmの寸法を有し、被冷却領域128が被照射領域127の長さ方向の一端に接するようにレーザ光集光装置および冷却装置を調整した(
図13(a))。次に、被照射領域127および被冷却領域128の位置が固定された状態を維持しつつ、これらの位置が短辺110bの搬送方向142下流側となるまで搬送テーブル190を搬送方向142に180mm/sの速度で移動させた(
図13(b)(c))。
【0045】
実験1では、CO
2レーザ発振器(UNIVERSAL LASER SYSTEMS製 ULC−100)から出力された50Wのレーザ光を、2枚のアキシコンレンズ、シリンドリカルレンズおよびミラーを用いて屈折および反射させて被照射領域127を設定した。また、ノズル(エバーロイ製 ミニミスト04−10−13)から噴射量5.0ml/minの水を噴射することにより被冷却領域128を設定した。
【0046】
次に、Δxが50μm刻みで大きくなるように、搬送用テーブル190の初期設定の位置を50μm刻みで変更して、同様の実験を繰り返し行った。
【0047】
Δxが0μm〜150μmのときは、初期クラック161が伸長し、クラック162が形成された。しかし、Δxが200μm以上になると、初期クラック161は伸長しなかった。
【0048】
(実験2)
板状ガラス110の厚さを0.7mmに変更して、実験1と同様の実験を行った。実験2では、Δxが0μm〜150μmのときは、初期クラック161は伸長した。Δxが200μmのときは、初期クラック161が伸長する場合としない場合があった。Δxが250μm以上になると、初期クラック161は伸長しなかった。
【0049】
(実験3)
板状ガラス110の厚さを0.33mmに、初期クラック161の長さを20mmに、搬送テーブル190の搬送速度を300mm/sに、CO
2レーザ発振器の出力を60Wに、被照射領域127の長さを30mmに変更したこと以外は、実験1と同様の実験を行った。実験3では、Δxが0μm〜500μmのときは、初期クラック161は伸長した。Δxが550μmのときは、初期クラック161が伸長する場合としない場合があった。Δxが600μm以上になると、初期クラック161は伸長しなかった。
【0050】
(実験4)
板状ガラス110の厚さを0.7mmに変更して、実験3と同様の実験を行った。実験4では、Δxが0μm〜500μmのときは、初期クラック161は伸長した。Δxが550μm以上になると、初期クラック161は伸長しなかった。
【0051】
(実験5)
実験5では、短辺110a上の一点を始端とし、短辺110bに向かって延びる、長さが10mmの初期クラック161を形成した。それ以外は、実験1と同様の実験を行った。実験5では、Δxが0〜1000μmのとき、初期クラック161は伸長した。
【0052】
実験1と実験5とを比較すると、実験1では初期クラック161の軸と被照射領域127の軸との位置ずれに起因して初期クラック161の伸長が開始されない現象がより生じ易くなっていた。このことから、帯状ガラス10の第1エッジ3aよりも中央側に初期クラック61を形成している本実施形態では、初期クラック61と被照射領域27との位置ずれにより初期クラック61の伸長が開始されない現象は生じ易いことが把握される。これを考慮すると、本実施形態では、初期クラック61に重複させてレーザ光を照射し易い構成を採用することが好ましいと言える。また、伸長に必要な応力を確保し易いように、被冷却領域28が被照射領域27の長さ方向の一端に接する状態を維持し易い構成を採用することが好ましいと言える。この観点から、帯状ガラス10を横断する直線状領域(通過ライン50p)に初期クラック61が形成され、レーザ光が照射され、かつ冷媒が噴射されるように、カッター19、レーザ光を集光する光学システムおよび冷媒を噴射する噴射ノズル80を有するヘッド51を、帯状ガラス10の一方面上において直線状領域(通過ライン50p)に沿うように移動させて、スクライブライン11を形成する構成は、本実施形態では有効である。