(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の過酸化水素ガスの置換工程においては、排気量は全行程を通じて一定であり、排出時の滅菌物質の濃度測定が行われていなかった。したがって、排気中の滅菌物質の濃度に応じて排気量を制御することも行われていなかった。そのため、高排気量で排気を行った場合、置換工程の前半において、排出気体中の滅菌物質の濃度を低減する装置(低減処理部)によって効率的な滅菌物質の低減化処理が行えておらず、未反応の滅菌物質が大気中に排出され、作業者等が危険にさらされるおそれがあるという問題があった。一方、低排気量で排気を行った場合、アイソレータ中の滅菌物質の濃度が低下している置換工程の後半において、排気に時間がかかりすぎるという問題があった。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、アイソレータにおいて前回の作業と次回の作業との間に滅菌処理を施す場合に、より早期にアイソレータを次回の作業が開始可能な状態にすることができる技術、および滅菌物質の大気中への排出を低減する技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、アイソレータである。このアイソレータは、無菌環境で作業を行なうための作業室と、作業室内に気体を供給する気体供給部と、作業室内の気体が排出される気体排出部と、微粒子捕集フィルタを有し、気体供給部と作業室とを連絡する流通路と、作業室内に滅菌物質を供給する滅菌物質供給部と、気体排出部から排出される気体の
排気量を調節するための排気手段と、気体排出部から排出される気体に含まれる滅菌物質の濃度を低減する低減処理部と、作業室に滅菌物質を供給して滅菌を行なった後、排気手段を用いて排気を開始し、
低減処理部の排気許容濃度が所定の閾値を超えないようにファンの回転数を制御して気体排出部の排気量を制御するものであって、かつ、排気開始から所定時間経過までの平均
排気量よりも所定時間経過後から排気終了時までの平均
排気量を大きくするようにファンの回転数を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この態様によれば、アイソレータにおいて前回の作業と次回の作業との間に滅菌処理を施す場合に、効率的な置換工程により、より早期にアイソレータを次回の作業が開始可能な状態にすることができる。また、排出気体中の滅菌物質が所定の濃度に達した場合には
排気量が抑えられるため、滅菌物質低減処理部により処理されなかった滅菌物質が大気中に放出されるのを最小限に抑制することができる。その結果、作業者の安全性の向上を図ることができる。
【0011】
また、上記態様において、気体排出部に設けられた、気体排出部から排出される気体中に存在する滅菌物質の濃度を測定する濃度測定部をさらに有し、制御部は、濃度測定部により測定された濃度が所定の判定濃度に達するまでは徐々に
排気量を増加させ、判定濃度到達後に
排気量を所定の範囲に保ち、濃度測定部により測定された濃度の低下率が所定の閾値を上回ったことを条件として、
排気量をさらに徐々に増加させてもよい。
【0012】
また、上記態様において、気体排出部に設けられた、気体排出部から排出される気体中に存在する滅菌物質の濃度を測定する濃度測定部をさらに有し、制御部は、所定の判定濃度までは徐々に
排気量を増加させ、判定濃度到達後に、排気中における滅菌物質の濃度が所定の範囲になるように濃度測定部により測定された濃度を用いて
排気量をフィードバックにより制御し、
排気量が所定の
排気量に達したことを条件として、
排気量を固定してもよい。
【0013】
また、上記態様において、濃度測定部が低減処理部の気体流れ下流側に設けられている場合に、低減処理部の気体流れ上流側に設けられた別の濃度測定部をさらに備え、制御部は、濃度測定部を用いて測定された、滅菌物質の低減処理後の排気中における滅菌物質の濃度が、濃度測定部の検出限界に達したことを条件として、別の濃度測定部を用いて低減処理前の排気中における滅菌物質の濃度を測定し、別の濃度測定部で測定された滅菌物質の濃度が別の濃度測定部の検出限界に達したことを条件として、気体排出部による排気を終了してもよい。
【0014】
また、上記態様において、作業室内の気体が気体排出部から排出され始めてから濃度測定部の検出限界に達するまでに要する時間を計測する計測部を備え、制御部は、測定された時間が所定の閾値を超えた場合に、低減処理部の能力低下を通知してもよい。
【0015】
また、上記態様において、滅菌物質は、過酸化水素であってもよい。
【0016】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、滅菌処理に要する時間を短縮することができるとともに、滅菌物質の大気中への排出を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0020】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るアイソレータ100の構成を示す模式図である。実施形態1のアイソレータ100は、細胞抽出、細胞培養などの生体由来材料を対象とする作業を行なうための作業室10と、作業室10内に気体を供給する気体供給部40と、アイソレータ100内の気体を排出する気体排出部50と、作業室10内に滅菌物質を供給する滅菌物質供給部30と、これらの制御を行なう制御部90とを備えている。ここで、生体由来材料とは、細胞を含む生物そのもの、あるいは生物を構成する物質、または生物が生産する物質などを含む材料を意味する。
【0021】
気体供給部40には、吸気口42、三方弁44、およびファン46が設けられている。吸気口42を経由して外部から空気が取り込まれる。三方弁44は、経路70を経由して吸気口42の気体流れ下流側、および経路80を経由して滅菌物質送出部36の気体流れ下流側に接続されている。また、三方弁44は、経路72を経由してファン46の気体流れ上流側に接続されている。三方弁44は、経路70から経路72方向、または経路80から経路72方向への気体流路の排他的な切り換えが可能である。吸気口42を経由して取り込まれた空気、または経路80を経由して送出された滅菌物質を含む気体は、三方弁44を経由してファン46に取り込まれる。
【0022】
ファン46は、経路72を経由して三方弁44方向から取り込んだ気体を、経路74を経由して作業室10方向へ送り出す。ファン46は、制御部90によるON/OFFの切換え制御が可能である。なお、ファン46は排気量を連続的に調節可能である。
【0023】
作業室10には前面扉12が開閉可能に設けられている。また前面扉12の所定の位置には、作業室10内で作業を行なうための作業用グローブ14が設けられている。作業者は前面扉12に設けられた図示しない開口部から作業用グローブ14に手を挿入して、作業用グローブ14を通じて作業室10内で作業を行なうことができる。作業室10には、ファン46から送出された気体が気体供給口16から取り込まれ、気体排出口18から気体が排出される。気体供給口16にはHEPAフィルタ20が、気体排出口18にはHEPAフィルタ22が、それぞれ設けられている。これらにより作業室10の無菌状態が確保される。作業室10から出た気体は、気体排出口18、HEPAフィルタ22、および経路76を経由し、気体排出部50に送出される。
【0024】
気体排出部50には、気体流れに従って、三方弁52、滅菌物質低減処理部54、濃度測定部56、および排気口58が、この順に設けられている。
【0025】
三方弁52は、経路76を経由して作業室10の気体流れ下流側に、経路82を経由して滅菌物質低減処理部54の気体流れ上流側に接続されている。また、三方弁52は、経路78を経由して滅菌物質送出部36の気体流れ上流側に接続されている。三方弁52は、経路76から経路82方向、または経路76から経路78方向への気体流路の排他的な切り換えが可能であり、経路76を経由して取り込まれた気体が、経路82方向または経路78方向へ送出される。
【0026】
滅菌物質低減処理部54は、三方弁52を経由して送出された気体に含まれる滅菌物質の濃度の低減化処理を行なう。滅菌物質低減処理部54はたとえば白金などの金属触媒を含むが、活性炭などを含んでもよい。
【0027】
濃度測定部56は、滅菌物質低減処理部54の気体流れ下流に設けられ、低減処理後の滅菌物質の排出気体中における濃度を測定する。測定結果は濃度測定部56から制御部90に送信される。滅菌物質低減処理部54で低減処理された気体は、排気口58からアイソレータ100内の外部へ排出される。
【0028】
作業室10の外部には、作業室10に滅菌物質を供給する滅菌物質供給部30が設けられている。滅菌物質供給部30は、作業室10に滅菌物質を供給してアイソレータ100内を循環させることで、作業室10および経路を無菌環境とすることができる。ここで、無菌環境とは、作業室で行われる作業に必要な物質以外の混入を回避するために限りなく無塵無菌に近い環境をいう。本実施形態において滅菌物質は過酸化水素である。
【0029】
図1に示すように、滅菌物質供給部30は、三方弁52および経路78の気体流れ下流側に位置し、かつ経路80および三方弁44の気体流れ上流側に位置する。滅菌物質供給部30は、滅菌物質供給タンク32、ポンプ34、および滅菌物質送出部36を有する。滅菌物質供給タンク32は、滅菌物質として過酸化水素水を貯蔵する。ポンプ34は、滅菌物質供給タンク32に貯蔵された過酸化水素水を滅菌物質供給管33を経由して汲み上げ、滅菌物質供給管35を経由して送出する。滅菌物質送出部36は、経路78を経由して三方弁52の気体流れ下流側と、経路80を経由して三方弁44の気体流れ上流側と、それぞれ接続されている。滅菌物質送出部36は、供給された過酸化水素水から、過酸化水素ガスまたはミストを発生させる。発生した過酸化水素ガスまたはミストは、経路80に送出される。
【0030】
図2は、滅菌物質送出部36の模式図である。滅菌物質送出部36の具体的な構成につき、本図を用いて説明する。滅菌物質送出部36は、制御基板202、過酸化水素水タンク204、水封キャップ206、過酸化水素水槽208、超音波発振子210を有する。
【0031】
制御基板202は、ポンプ34を制御するための基板である。過酸化水素水タンク204は、過酸化水素水を一時的に保存する容器である。水封キャップ206は、過酸化水素水タンク204から過酸化水素水槽208への供給量を調節するためのキャップである。過酸化水素水槽208は、底部に超音波発振子210を備え、過酸化水素水タンク204から供給された過酸化水素水を一時的に保存する水槽である。超音波発振子210は、超音波振動により過酸化水素ガスまたはミストを発生させるための発振子である。
図1に示す滅菌物質供給タンク32には過酸化水素水が収容されており、たとえば制御基板202によってポンプ34が制御されて、滅菌物質供給タンク32から滅菌物質供給管33および35を経由して、過酸化水素水タンク204に過酸化水素水が供給される。
【0032】
過酸化水素水タンク204に供給された過酸化水素水は、制御基板202による制御の下、水封キャップ206を経由して過酸化水素水槽208に供給される。そして、過酸化水素水槽208内の過酸化水素水に対して、超音波発振子210を用いて超音波振動を与えることにより、過酸化水素ガス(ミスト)203を発生させる。発生させた過酸化水素ガス(ミスト)203は、経路80を経由して作業室10に向けて送り出されるが、大部分はすみやかに気化し、作業室10内では過酸化水素ガスまたはミストとして存在する。以下、過酸化水素ミストを含めて過酸化水素ガスという場合がある。
【0033】
なお、滅菌物質送出部36は、本実施形態のような過酸化水素ガスまたはミストを発生させる構成に限られず、たとえば、滴下した過酸化水素水に空気を当てて気化させることで過酸化水素ガスまたはミストを発生させる過酸化水素ガス発生器などであってもよい。また、滅菌物質は過酸化水素に限定されず、たとえばオゾンなどの活性酸素種を含む物質であってもよい。
【0034】
図1に戻り、制御部90の説明を行なう。制御部90は、計測部92および記録部94を備える。制御部90は滅菌物質送出部36による滅菌物質の送出の制御を行なう。また、制御部90は、三方弁44および52の弁の開閉を制御することで気体流路の切換えを行なう。
【0035】
具体的には、制御部90は、三方弁44の弁の開閉を制御して、経路70から経路72方向、または経路80から経路72方向への気体流路の排他的な切り換えを制御する。また、制御部90は、三方弁52の弁の開閉を制御して、経路76から経路82方向、または経路76から経路78方向への気体流路の排他的な切り換えを制御する。さらに、制御部90は、濃度測定部56から測定結果を受信し、受信した測定結果に基づき濃度測定部56による排出気体中の過酸化水素ガスの濃度測定結果に応じてファン46の回転数を調節し、排気量を連続的に制御する。計測部92は滅菌処理の開始から終了までに要する時間を計測する。記録部94は計測した時間を記録する。制御部90は、計測部92および記録部94を用いて、滅菌物質低減処理部54の性能劣化の判定を行なう。
【0036】
(気体流路の切換え)
アイソレータ100の気体流路は、制御部90が三方弁44および52の弁の開閉を制御することにより、以下の2通りに切り換えられる。すなわち、過酸化水素ガスをアイソレータ100内に循環させる場合には、三方弁44は、経路80から経路72方向にのみ開状態となり、経路70から経路72方向には閉状態となる。また、三方弁52は、経路76から経路78方向にのみ開状態となり、経路76から経路82方向には閉状態となる。これにより、過酸化水素ガスは滅菌物質送出部36から経路80、三方弁44、経路72、ファン46、経路74、HEPAフィルタ20、および気体供給口16を通って作業室10に入り、気体排出口18、HEPAフィルタ22、経路76、三方弁52、および経路78を通って滅菌物質送出部36に戻るという循環経路が形成される。
【0037】
一方、作業室内の空気の置換を行なう場合には、三方弁44は、経路70から経路72方向にのみ開状態となり、経路80から経路72方向には閉状態となる。また、三方弁52は、経路76から経路82の方向にのみ開状態となり、経路76から経路78方向には閉状態となる。これにより、空気は吸気口42から経路70、三方弁44、経路72、ファン46、経路74、HEPAフィルタ20、および気体供給口16を通って作業室10に入り、気体排出口18、HEPAフィルタ22、経路76、三方弁52、経路82、および滅菌物質低減処理部54を通って排気口58から排出されるという経路が形成される。
【0038】
(滅菌処理)
アイソレータ100では、作業室10内における1つの作業(前回の作業)が終了した後、次回の作業に際して作業室10内および前回の作業に用いられた流通路の滅菌処理が行われる。滅菌処理は、前処理工程と、滅菌工程と、置換工程とを含む。
【0039】
前処理工程では、滅菌物質供給部30から過酸化水素ガスが作業室10内に供給され、作業室10内における過酸化水素ガスの濃度が作業室10内の滅菌に必要な濃度以上に維持される。前処理工程において作業室10内における過酸化水素ガスが所定濃度以上となった後、滅菌工程が開始される。
【0040】
滅菌工程では、滅菌物質供給部30から作業室10へと過酸化水素ガスを送り、三方弁52を経由して再び滅菌物質供給部30に戻るという循環により滅菌を行なう。より具体的には、滅菌工程では、三方弁44は経路80から経路72方向にのみ開状態に切換え、経路70から経路72方向には閉状態とされる。一方、三方弁52は、経路76から経路78方向にのみ開状態に切換えられ、経路76から経路82方向には閉状態とされる。これにより、アイソレータ100内には、滅菌物質送出部36から出た気体が三方弁44を経由して作業室10内に入り、三方弁52を経由して滅菌物質送出部36に戻るという気体流路が形成され、過酸化水素ガスがアイソレータ100内を循環する。
【0041】
置換工程では、吸気口42を経由して取り込んだ空気を作業室10内に供給し、作業室10内の気体を押し出すことにより、作業室10内の気体が置換される。より具体的には、置換工程では制御部90は、三方弁44を吸気口42から作業室10方向にのみ開状態に切換え、三方弁52を作業室10から排気口58方向にのみ開状態に切換える。また、制御部90は、ファン46をONとする。これにより、アイソレータ100内には、吸気口42から取り込まれた空気が、経路70からHEPAフィルタ20を通過して作業室10内に至り、作業室10内からHEPAフィルタ22を通過して排気口58から排出されるという気体流路が形成される。その結果、作業室10内の気体が空気に置換され、作業室10内の過酸化水素ガスは作業室10から除去される。
【0042】
その際、作業室10から押し出された過酸化水素ガスは、滅菌物質低減処理部54によって低減処理されることにより、排気口58からアイソレータ100の外部への過酸化水素ガスの流出が低減される。この際、制御部90は、ファン46による排気量を濃度測定部56における濃度測定結果に基づき調節する。また、置換工程では、アイソレータ100内の作業室10以外の領域、たとえば気体供給部40内に残存する過酸化水素ガスや前回の作業に用いられた流通路内のHEPAフィルタ20および22に吸着している過酸化水素も除去される。
【0043】
置換工程において、作業室10内の過酸化水素ガスが所定濃度以下となった場合に、次回の作業が開始可能となる。ここで、次回の作業を開始することができる過酸化水素ガスの濃度は、次回の作業に用いられる生体由来材料に、作業上無視できない程度の影響を与えない濃度である。この濃度は、たとえばACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists)によって規定されている1ppm(TWA:時間加重平均値)以下の濃度である。あるいは作業室10内の過酸化水素ガスが所定濃度以下となる時間を実験的に求め、求められた時間の経過後に次回の作業を開始可能とするようにしてもよい。
【0044】
(置換工程における排気量の制御)
次に、置換工程における過酸化水素ガスの濃度および排気量の変化について説明する。
図3は、実施形態1に係る排気制御を示す模式図である。上段、中断、下段は、それぞれ、実施形態1に係るアイソレータ100の、置換工程における過酸化水素ガスの濃度、該濃度の変化率として微分成分、および排気量の継時的変化を示す。
【0045】
滅菌物質低減処理部54の気体流れ下流側に設けられた濃度測定部56により、
図3の下段に示すように、過酸化水素ガスの濃度が測定される。これをもとに、制御部90による指令により、ファン46の回転数を増減させることにより、排気許容濃度が所定の閾値を超えないように、以下のように気体排出部50の排気量が制御される。まず排気開始(I)後、ファン46の回転数を増大することにより、徐々に排気量を増加させる(II)。次に排気中の過酸化水素ガスの濃度が所定の判定濃度Aまで到達(III)後、ファン46の回転数を所定の範囲内に保つことにより、
図3の上段に示すように、排気量を所定の範囲内に維持させる(IV)。
図3の下段に示すように、排気中の過酸化水素ガスの濃度が時刻Taにおいて最高濃度に到達後、さらに排気を続け、
図3の中段に示すように、時刻Tbにおいて、過酸化水素ガスの濃度の微分成分(減少率)が所定の閾値を上回ったことを確認後(V)、再びファン46の回転数を増大することにより、
図3の上段に示すように、排気量を徐々に増加させる(VI)。さらに、
図3の下段に示すように、排気中の過酸化水素ガスの濃度が所定の判定濃度Aまで降下(VII)後、
図3の上段に示すように、排気が終了するまで最大排気量にて排出を継続する(VIII)。排気許容濃度は実験によって定めてもよい。所定の判定濃度Aは排気許容濃度の約40%であることが望ましいが、実験によって定めてもよい。また、過酸化水素ガス濃度の減少率の微分成分は通常負の特定の値を閾値とするが、これに限られず、実験によって定めてもよい。ここで、
図3の上段に示すように排気量が最大出力に達し、かつ
図3の下段に示すように過酸化水素ガスの濃度が濃度計測部の検出限界を下回って計測されなくなったら、制御部90によりファン46の回転数を低減させ、排気を終了する。上記検出限界に達した後、作業室10の容積をXm
3、ファン46の排気能力をYm
3/secとした場合に、X/Y×5〜X/Y×10sec後、すなわち作業室10内の気体を5回〜10回入れ換える時間をさらに経過した後に排気を終了するようにしてもよい。
【0046】
(滅菌物質低減処理部の性能劣化に対する対処)
図4は、滅菌実施回数と滅菌処理時間の関係を表すものであり、実施形態1に係る滅菌物質低減処理部54の能力判定を示す模式図である。
【0047】
計測部92は、滅菌処理の開始から終了まで、すなわち滅菌処理の開始から、濃度測定部56の検出限界に達してから所定の時間を経過したときまでの時間(処理時間)を計測する。記録部94は、この計測結果を滅菌回数に対応づけて記録する。ここで得られた各滅菌処理時間(縦軸)を滅菌実施回数(横軸)に対しプロットしたものが
図4のグラフ(a)である。ここで、制御部90は、計測部92により計測し記録部94により記録された処理時間が、所定の閾値(b)を上回っているかを判定し、処理時間が当該閾値を上回った場合、滅菌物質低減処理部54の性能が低下した旨の通知を行なう。これにより、適切な時期に当該処理部の交換が行え、常に性能が所定の水準以上の滅菌物質低減処理部54を用い、過酸化水素ガスの濃度低減を図ることができる。なお、滅菌処理に要する時間の閾値(b)は実験により定めてもよい、また、滅菌物質低減処理部54の性能の低下を通知するだけではなく、自動的に交換する装置などをさらに備えていてもよい。
【0048】
従来のアイソレータでは、置換工程の開始直後、急激に作業室内の過酸化水素ガスの濃度は低下するが、その後、過酸化水素ガスの濃度の低下率は著しく減少していた。これは、一定の排気量で排気を行っていたため、アイソレータ内の過酸化水素ガスが低濃度になる置換工程の後半において、効率的な排気を行えなかったためである。これにより、結果的に置換工程に時間がかかり、作業室が使用可能な状態となるまで長時間を要していた。一方、
図1に示す実施形態1のアイソレータ100は、置換工程において徐々に排気量を増加させ、作業室10内の過酸化水素ガスが所定濃度に達した後、排気量を所定の範囲内に保ち、過酸化水素ガスの濃度低下率が所定の閾値以上になったことを確認した後、再度排気量を徐々に増加させる。これにより、置換工程の前半では、未分解の過酸化水素の大気中への排出を最小限に抑えることができるため、作業者等の安全性が確保され、かつ効率的な排気ができる。また、置換工程の後半では、従来一定の排気量で過酸化水素ガスを排出していたため効率的に排気が行えていなかったが、本実施形態における排気量の制御により、排出される過酸化水素ガスが低濃度の場合における排気が効率的に行えるようになった。この排気量の制御により、前回の作業と次回の作業との間に滅菌処理を施す場合に、置換工程に要する時間を短縮でき、より早期にアイソレータ100を次回の作業が開始可能な状態にすることができる。
【0049】
また、計測部92による計測結果に基づき滅菌物質低減処理部54の性能が低下した旨を通知することにより、上述した排出気体からの安全性の確保および滅菌時間の短縮をより確実に行なうことができる。
【0050】
(実施形態2)
実施形態2では、フィードバックにより排気量を制御する点が実施形態1と異なる。それ以外のアイソレータ100の構成、および滅菌処理における動作などについては実施形態1と同様であるため、同一の図面を用いるとともに説明は適宜省略する。
【0051】
図5は、実施形態2に係る排気制御を示す模式図である。具体的には、アイソレータ100の、フィードバックによる置換工程における過酸化水素ガス濃度、および排気量の継時的変化を示す。
【0052】
気体排出部50の気体流れ下流側に設けられた過酸化水素ガスの濃度を測定する濃度測定部56により、過酸化水素ガスの濃度が測定される(
図5の下段参照)。この測定結果をもとに、制御部90による指令によりファン46の回転数を増減させることにより、気体排出部50の排気量が制御される。
【0053】
図5の上段に示すように、まず排気開始後にファン46の回転数を増大することにより、徐々に排気量を増加させる(I)。次に、
図5の下段に示すように、排気中の過酸化水素ガスの濃度が所定の判定濃度Bに到達(II)後、回転数を増減することにより、排気量をフィードバックにより制御する。ここで、
図5の上段に示すように、濃度測定部56により測定された過酸化水素ガスの濃度の上下動に応じてファン46の回転数を増減させることにより、排気量を制御する(III)。
【0054】
すなわち、排気中の過酸化水素ガスの濃度が所定の判定濃度Bを超えた場合には、ファン46の回転数を下げ、排気量を減少させる。一方、排気中の過酸化水素ガスの濃度が所定の判定濃度Bを下回った場合には、ファン46の回転数を上げ、排気量を増加させる。これにより、
図5の下段に示すように、排出気体中の過酸化水素ガスの濃度を所定の範囲に保つ。以降、
図5上段に示すように、排気量を多少増減させつつも次第に増加させ、排気量を最大出力とし、これを維持する(IV)。濃度測定部56による検出限界到達後、
図5上段に示すように最大排気量にてさらに排出を継続した後(V)、排気を終了させる(VI)。所定の判定濃度Bは排気許容濃度の約50%であることが望ましいが、実験によって定めてもよい。また、判定濃度Bは特定の値ではなく、上限と下限の定まった特定の範囲であってもよい。この場合は排気中の過酸化水素ガスの濃度が上限の値を上回った場合に排気量を下げ、下限の値を下回った場合に排気量を上げるよう制御すればよい。なお、本実施形態によっても、実施形態1と同様の効果が得られる。
【0055】
(実施形態3)
実施形態3では、滅菌物質低減処理部54の気体流れ上流側に過酸化水素ガスの濃度を測定する別の濃度測定部60(
図6参照)がさらに設けられている点が実施形態1と異なる。それ以外のアイソレータ300の構成、および滅菌処理における動作などについては実施形態1および2と同様であるため、同一の記号を用いるとともに説明は適宜省略する。
【0056】
図6は、実施形態3に係るアイソレータの構成を示す模式図である。
図7は、実施形態3に係る排気制御、つまり置換工程における過酸化水素ガス濃度および排気量の継時的変化を示す模式図である。
図7には、濃度1(高濃度)、濃度2(中濃度)、濃度3(低濃度)の3つのパターンが示されている。
図8は、
図7の過酸化水素ガスの濃度の検出限界領域Cを拡大した模式図である。Mは、滅菌物質低減処理部54の気体流れ下流側の濃度測定部56を用いて測定された、過酸化水素ガスの濃度の継時的変化を示す。一方、Nは、滅菌物質低減処理部54の気体流れ上流側に設けられた別の濃度測定部60を用いて測定された、過酸化水素ガスの濃度の継時的変化を示す。
【0057】
本実施形態では、
図8に示すように、滅菌物質低減処理部54の気体流れ下流側に設けられた濃度測定部56による測定値(M)が時刻T1において検出限界に達した後に、滅菌物質低減処理部54の気体流れ上流側に設けられた濃度測定部60を用いて(N)、濃度測定部60が時刻T2において検出限界に達するまで濃度測定を行ない、排気を終了する。濃度測定部60による測定結果に基づき滅菌物質低減処理部54の気体流れ下流側の過酸化水素ガスの濃度を濃度測定部56の検出限界到達後も行なうことにより、濃度測定部56の検出限界を低くした場合と同様の効果を得ることができる。なお、気体流れ下流側に設けられた濃度測定部56を備えず、濃度測定部60のみを備えていてもよい。この場合は、濃度測定部60による測定結果に基づき実施形態1および2と同様の効果を奏するよう、制御部90による制御を行えばよい。
【0058】
本発明は、上述の実施形態1ないし3に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0059】
たとえば、上述の各実施形態に係るアイソレータ100は、HEPAフィルタ20を昇温させるための加熱手段としての図示しないヒータを備えていてもよい。これによれば、HEPAフィルタ20に吸着している過酸化水素がより剥離しやすくなる。また、HEPAフィルタ20に過酸化水素が液体状態で吸着している場合には、液体状態の過酸化水素が気化する際に気化熱として熱が奪われ、温度が低下して過酸化水素の気化が抑制される状態を回避することができる。ヒータのON/OFFおよび加熱量は、制御部によって制御するようにしてもよい。ヒータによるHEPAフィルタ20の加熱量は、ヒータの加熱による作業室10内の温度変化がたとえば5℃以下に抑えられる程度であることが好ましい。また、ヒータによるHEPAフィルタ20の加熱は、たとえば置換工程において前回の作業に用いられていない流通路に気体流路を切換えた後に、前回の作業に用いられた流通路のHEPAフィルタに対して行われる。
【0060】
なお、上記の実施形態1ないし3では、HEPAフィルタ20および22は作業室10の側面に設置されているが、これらのフィルタの位置は作業室10から離れていてもよい。
【0061】
なお、上記の実施形態1ないし3では、吸気ファンであるファン46のみを用い、当該ファンに排気ファンとしての機能も持たせたが、ファンは吸気ファンに限定されず、排気ファンであってもよく、また吸気ファンと排気ファンの両方を備えてもよい。後者の場合、吸気ファンの排気量は排気ファンの排気量と同程度となるよう、制御部90により制御されればよい。
【0062】
なお、上記の実施形態1ないし3では、パスボックス、およびパスボックス内の空気を制御するための三方弁およびファンが設置されていないが、これらを備えるアイソレータであってもよい。ここでパスボックスとは、作業室の壁面に設置され、前室と作業室間で工具や物品を受け渡しする際、塵埃等の出入りを避け、作業室へ埃が入り込むのを最小限に抑えることができる装置をいう。
【0063】
なお、上記の実施形態1ないし3では、これらの実施形態と同様の効果を示すものであれば、流路が切り替わるように複数の弁を用いたものでもよく、三方弁でなくてもよい。