(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5877402
(24)【登録日】2016年2月5日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】防汚塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20160223BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20160223BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20160223BHJP
A01N 59/02 20060101ALI20160223BHJP
A01N 25/04 20060101ALI20160223BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20160223BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/12
C09D5/16
A01N59/02 A
A01N25/04 103
A01P17/00
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-29832(P2013-29832)
(22)【出願日】2013年2月19日
(65)【公開番号】特開2014-159498(P2014-159498A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2014年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】314013707
【氏名又は名称】有限会社鹿屋造船
(72)【発明者】
【氏名】中村力夫
【審査官】
牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】
特許第121065(JP,C2)
【文献】
特開平09−124977(JP,A)
【文献】
特開平04−325571(JP,A)
【文献】
特許第154740(JP,C2)
【文献】
特許第069281(JP,C2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
A01N 25/04
A01N 59/02
A01P 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径2〜100μmのイオウ粉末10〜20重量%を含有することを特徴とする海洋生物付着防止のための防汚塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオウ粉末を含有する防汚塗料に関する。具体的には、鋼船、F.R.P.船、木造船等の各種材料からなる船底、水中構造物、養殖用網、魚網、浮標、工業用水系設備等への海洋生物の付着、海藻の付着及び各種防汚塗料への利用が出来るイオウ粉末を含有する防汚塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶や水中構造物、魚網などに付着する海洋生物の除去や腐食防止、あるいは船舶の航行速度の低下防止を目的として、有機錫やロジンを含有する防汚塗料が使用されていた。また、養殖用網においても有機錫やロジン含有の塗料が使用されていた。
【0003】
有機錫やロジン含有の塗料を使用したため、海中の生物の生態が変わるという問題が生じ、このため、1980年代後半から、有機錫やロジン混合の防汚塗料使用が自主規制となり、1999年にはロンドン国際海事機関(IMO)本部での協議で、2003年に船舶での全面禁止とする合意がなされた。
【0004】
船舶における問題の一つとして、船底に付着する海洋生物による被害がある。船底に付着する藻や貝類等は、航行する船舶の大きな抵抗力となり、同じ出力でも航行速度が大きく減少する。そのために燃料費の増大、エンジンの負荷の増大などの被害が出ている。
【0005】
これらの被害を無くすために、海洋生物の付着を防止するべく、塗料の開発が進み、塗料自体が溶ける加水分解型塗料や、少しずつ剥がれる自己研磨型塗料がある。また、本発明と同じように塗料に添加物や添加剤を混入するものがあるが、それらの特殊塗料を使っても、なお船底、海洋構造物、魚網等への海洋生物の付着物は十分には排除できていない。
【0006】
また、塗料の剥離や消耗等により塗装の塗り替え期間が短く、小型船では3〜6ヶ月に1回、大型船でも年に1回塗料の塗り直しを行っている。大型船では付着物の取り除きが大変な作業になる。
【0007】
世界中で使用されている船舶は、世界の経済を物流という面で支えている。貨物船やタンカー、客船などがあり、これらの船舶に必要不可欠なのが船底塗料である。船体に付着するカキガラや藻類などの付着防止は、船舶にとっての大きな問題である。
【0008】
船底等に付着する海洋生物を減少させることを目的とした、下記の船底塗料がある。(1)自己研磨型塗料、(2)加水分解型塗料である。
【0009】
(1)自己研磨型塗料
自己研磨型塗料は船舶の推進力を利用して、塗料が剥がれて付着物と共に脱落するものである。ただし、船底部が平らでない木造船などでは、塗料が剥がれにくいため付着物が落ちにくいという欠点がある。
【0010】
(2)加水分解型塗料
以前は錫含有高分子を防汚成分とする塗料が使用されていたが、現在、錫は使用されていない。加水分解型塗料は、塗料自体が海水と加水分解して、有機化合物などを溶出し、塗料が水溶化し、配合した防汚剤が溶出して、付着物と共に海水中に脱落する。F.R.P.船では有効であるが、アルミ船では、アルミと化学反応を起こすために使用できない。また、海水との反応を利用するために、淡水での効果は望めない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「カナエ塗料 スーパー大漁DX」 カナエ塗料主要製品一覧表(船舶用)(漁船用防汚塗料 分類No1355)カナエ塗料株式会社 P.6 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記自己研磨型塗料及び加水分解型塗料を船底等に塗布する方法では、塗料の接着期間は短く、約6ヶ月程度である。各塗料メーカーは長期接着の開発に取り組んでいるが、未だ有効な解決には至っていない。
【0013】
本発明はこれら上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、船底、海洋構造物、魚網等への海洋生物の付着の減少を図ると共に、船舶等の燃費効率を高め、船底、水中構造物、養殖用網、魚網、浮標、工業用水系設備等に対する塗料接着期間の長期化が得られ、海洋汚染の生じることの無い船底塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る請求項1に記載する防汚塗料用添加物を含有する防汚塗料は、イオウ粉末の粒径が2−100μmであることを特徴とする。
【0015】
イオウ粉末の粒径が2μm未満では、塗料への添加の際に粉末の凝集が起こったり、粉末の空中への飛散や浮遊が生じて発火の危険性を有したりするので適さない。
また、粒径が100μmを越えると、塗料への添加の際に滑らかな混合が困難となり、船底等への塗布の際にも滑らかな塗布が難しくなる。
【0016】
上記イオウ粉末による防汚塗料用添加物は、塗料重量100重量%に対して5〜30重量%の割合で塗料に添加混入し、攪拌して、船舶の船底、水中構造物、魚網等に塗布する。本発明に係る請求項2に記載する防汚塗料用添加物を含有する防汚塗料は、5〜30重量%のイオウ粉末を含有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る防汚塗料用添加物を含有する防汚塗料は、5重量%未満ではイオウの含有量が少なくなり、イオウによる海洋生物の忌避効果を齎すことが出来ない。
また、30重量%を越えると、イオウ粉末の過度の混入により塗料の粘度が高くなり、塗布の際に滑らかな塗布が出来なくなる。
【0018】
本発明に係る請求項3に記載する防汚塗料用添加物を含有する防汚塗料は、塗料100重量%に対して10〜20重量%のイオウ粉末を含有することがより有効性を有する。
【0019】
本発明に係る防汚塗料用添加物を含有する防汚塗料は、10重量%未満ではイオウの含有量が充分でなく、本発明で意図する充分な海洋生物の忌避効果が得られにくい。
また、20重量%を越えると、塗料の接着性が悪くなって早期の塗料の剥離が起こり、本発明で意図する長期間の充分な防汚効果が得られなくなる。
【0020】
本発明に係る防汚塗料用添加物を含有する防汚塗料を船舶等に塗布する場合の塗膜の厚さは、被塗物に対して適宜本発明の効果が得られる厚さに塗布する。
【0021】
本発明に係るイオウ粉末による防汚塗料添加物は、アルミ船などのアルミ製品に対して腐食効果を齎すので、アルミ製品への適用は除外される。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、上記説明から判るように、海洋生物の忌避効果が齎されるイオウ粉末による防汚塗料用添加物としたので、船底、海洋構造物、魚網等への海洋生物の付着の減少を図ると共に、船舶等の燃費効率を高め、船底、水中構造物、養殖用網、魚網、浮標、工業用水系設備等に対する塗料接着期間の長期化が得られ、海洋汚染の生じることの無い船底塗料を提供することができる。
【0023】
本発明に係る防汚塗料用添加物を含有する防汚塗料に使用するイオウ粉末は従来用いられている添加物又は防汚塗料とは全く異なる物質であり、海洋生物にも全く弊害が無く船底塗料添加物として使用されるほか、水中構造物、養殖用網、魚網、浮標、工業用水系設備等に適用され、上記効果を遺憾なく発揮することができる。すなわち、
(1)カキガラ、藻、アオサなどの生物の付着を大幅に少なくする。
(2)塗料塗布脱着期間を従来よりも大幅に伸ばすことが出来る。
(3)塗料の耐久性が増し、前回の塗布から次回の塗布までの塗り替え期間が延びると共に、船舶等の燃費効率が向上できる。
【0024】
現在一般に使用されている船底塗料では、6ヶ月〜1年に1回、塗料の塗り直し作業を行っているのが通常であるが、本発明に係る防汚塗料用添加物を含有する防汚塗料を使用することで、塗り直しに至るまでの期間を長くすることが出来る。また、船舶等の航行速度、エンジン負荷の軽減、船体の傷みの軽減など、その効果は大である。
【0025】
鹿児島県の硫黄島の港では、今なおイオウの噴出が続いており、そのため港の海水は黄褐色を呈している。その港の岸壁や停泊している船舶には、海洋生物の海藻やカキなどの付着が全く見られない。イオウ成分による海洋生物の忌避効果に拠るものと考えられる。
ただし、アルミ船などのアルミ製品は、イオウ成分に拠るものとみられる腐食効果があり、アルミ製品は本発明に対する適用外とせざるを得ない。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0026】
鹿児島湾(高須港)にて浸漬実証テストを実施した結果を示す。本実施例では、塗料メーカーの船底塗料((株)カナエ塗料社製 CCPクリーン レッド 製品番号(MSDS no):300250G−4(以下、CCPクリーン レッド と称する。))の塗料100重量部に対して、防汚塗料用添加物(イオウ粉末 99%)を12.5重量部混合して防汚塗料(11.11重量%)を得た。この防汚塗料を、ヨット(F.R.P.船 ヤマハ17ft)の磨いた船底に塗布して、翌日海水に浸漬した。
ヨット下架後36日目に、塗料の状況の確認を行ったが、汚濁や海藻などの付着は認められなかった。(写真1.2参照)
ヨット下架後48日目に、ヨットを上架して、船底の海藻やカキの付着状況を検分した。ヨットのキール(鉄製の上げ下げ式)には、疎らに海藻が付着し始めていたが、それ以外の船底(F.R.P.)には海藻やカキの付着はなかった。(写真3.4参照)
ヨット下架後96日目に、ヨットを上架して、船底の汚濁の状況を検分した。キールには疎らな海藻が見られたが、それ以外には海藻やカキなどは全く確認できなかった。下架後36日目と船底の状況は全く変わりなく、この防汚塗料が大変有効であるものと思われる。(写真5参照)
ヨット下架後148日目に、ヨットを上架して、船底の海藻やカキの付着状況を検分した。下架後96日目とほとんど変わりなく、海藻やカキの付着はなく、汚濁も確認できなかった。本防汚塗料が船底塗料として有効であることを確信した。(写真6.7.8.9参照)
ヨット下架後185日目に、ヨットを上架して、海藻やカキの付着の具合を検分した。鉄製のキールには148日目よりも多くの海藻が付着していた。また、白い2,3mmのカキの幼生が付着していた。ヨットの船底外板(F.R.P.)にも海藻やカキが少し付着していた。しかし、まだ海藻やカキの付着は少なく、6ヶ月を過ぎていても海藻やカキの汚濁のためにヨットの航行に支障をきたすことは全く無く、汚濁のためにヨットの船外機が過負荷になって回転が落ちることもなかった。(写真10、11、12.13参照)ヨット下架後253日目に、ヨットを上架して、船底の汚濁の具合を調べた。白いカキの幼生や海藻の付着が見られた。船底の汚濁は進んでいたが、まだヨットの航行には何の支障もなく、185日目の状態と変わらなかった。(写真14.15、16.17参照)
なお、ヨットの船底を塗装して下架後382日目に、多少の海藻やカキガラが付着したので、新たな塗装をするために付着物を剥ぎ落として船底の清掃を行った。その清掃作業の際に船底の付着物が容易に剥がれやすいという印象を得た。本実施例で使用した防汚塗料が船底への海洋生物の付着し難さを示していることも考えられる。
造船業者としての経験や見識からして、一般的に船底塗装後6ヶ月を過ぎれば船底の汚濁が進み、船舶の航行に変化が起き始めて、エンジンの回転数が通常よりも低くなり、船速が落ちだし始める。日時の経過と共に、その傾向が過大になることを実感する様になる。2,500rpmが1,500rpmまで落ちてしまう事がある。燃費効率も低下する。
今回試験した、塗料メーカーの船底塗料(CCPクリーン レッド)に、防汚塗料用添加物としてのイオウ粉末を10〜20重量%混入して防汚塗料とし、これを船舶などに塗布することにより、6〜8ヶ月経過しても船底の汚濁は進まず、船舶の航行に支障が無く、燃費効率も低下しない。イオウの浄化作用が持続しているものと推察できる。
結論的に、本発明は防汚塗料として充分に効果があり、次の塗装までの期間も長くなり、汚濁が進みにくいため、燃費効率も低下せず有効である。
【実施例2】
【0027】
同一港において、本実施例では、塗料メーカーの船底塗料(CCPクリーン レッド)の塗料100重量部に対して、防汚塗料添加物(イオウ粉末 99%)を25重量部混合して防汚塗料(20重量%)を得た。この防汚塗料を、プレジャー・ボート(6m)の磨いた船底に塗布して、翌日海水に浸漬した。
プレジャー・ボート下架後129日目に、プレジャー・ボートを上架して、船底の状況を見た。海水に浸かっている船外機の取り付け部には海藻の付着があったが、それ以外の船底外板(F.R.P.)には海藻やカキの付着は無かった。 (写真18.19.20参照)
プレジャー・ボート塗装後265日目、船底の汚濁具合は129日目と変わらなかった。(写真21.22参照)
【実施例3】
【0028】
同一港において、本実施例では、塗料メーカーの船底塗料(CCPクリーン レッド )の塗料100重量部に対して、防汚塗料添加物(イオウ粉末 99%)を12.5重量部混合して防汚塗料(11.11重量% 2011年11月6日作成)を得たものと、同じく塗料100重量部に対して、防汚塗料添加物を25重量部混合して防汚塗料(20重量% 2012年1月7日作成)を得たものとを同量ずつ混合して作った、防汚塗料(15重量% 2012年4月5日作成)を得た。この防汚塗料をF.R.P.製のボート(5m)に塗装して、5日後に海水に浸漬した。
ボート下架後61日目に、ボートを上架して、船底の状況を見た。喫水線辺りに海藻が付着し、船底にも海藻の付着が見受けられた。また、ヨットやプレジャー・ボートの例では見られなかった、船底外板に汚濁が見受けられた。その部分に海藻が連続して着いていた。少量のカキも付着していた。そのカキの2,3粒の上に海藻が付着していた。
汚濁が始まり進むと、カキと海藻が付着を始めると思われる。(写真23.24.25.26参照)
船底塗料とイオウ粉末とを混合して防汚塗料を作成してから、5〜3ヶ月の時間経過を経ていることに拠り、イオウ成分による解毒や漂白作用が劣化したものとも考えられる。
船底塗料とイオウ粉末とを混合してから、日を置かず直ちに塗装をすることが肝要であると思われる。
なお、このボートの船外機には塗装が施されていなかったが、約2ヶ月のうちに海藻が付着していた。
【実施例4】
【0029】
塗料メーカーの船底塗料(CCPクリーン レッド)に防汚塗料添加物(イオウ粉末 99%)を各種の濃度で混合して、防汚塗料を作成し、どの濃度の防汚塗料がより高い防汚効果を有しているかを検討するために、市販の浮き子(発泡体浮子や中空浮子)に各種濃度の防汚塗料を塗布して、同一港の海水に浸漬した。イオウ粉末の濃度は、0重量%、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、30重量%の6種類とした。
(写真27参照)
塗装した浮き子を海に浸漬してから58日目に海藻等の付着具合を調べるために陸揚げした。6個の浮き子全てに海藻の付着は見受けられなかった。 (写真28参照)
海水に浸漬していた浮き子を塗装し、浸漬後144日目に陸揚げして、海藻などの付着状況を調べた。イオウ粉末濃度が0重量%と20重量%の浮き子は紛失していたが、その他の濃度の浮き子には、海藻などの付着や汚濁は全く見られなかった。 (写真29参照)
港の海水に浸漬していた0重量%と20重量%の浮き子が紛失していたので、新たに塗装していない浮き子と0重量%の浮き子とを追加して浸漬した(146日目)。20重量%のものはプレジャー・ボートの濃度と同一なので省略した。(写真30参照)
海水に浸漬してから290日目に浮き子6個を陸揚げして、汚濁の具合を調べた状況は、カキの付着や汚濁が見られた。(写真31参照)
【実施例5】
【0030】
塗料メーカーの船底塗料(CCPクリーン レッド)に防汚塗料添加物(イオウ粉末 99%)を各種の濃度で混合して、防汚塗料を作成し、防汚塗料としての塗布状況を検討するために、各種濃度の防汚塗料をF.R.P.単板(13cmx29cm)に塗布した。イオウ粉末の濃度は、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、30重量%、50重量%の5種類とした。(写真32参照)
30重量%では塗料の粘度がかなり高くなっており、50重量%では塗料が粘土状になり塗装作業が困難で、防汚塗料としては使用できないものと思われた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、鋼船、F.R.P.船、木造船等の各種材料からなる船底、水中構造物、養殖用網、魚網、浮標、工業用水系設備等への海洋生物の付着、海藻の付着及び各種防汚塗料への利用が期待される。