特許第5877466号(P5877466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5877466
(24)【登録日】2016年2月5日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】テルペノイド由来レチノイド化合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 57/46 20060101AFI20160223BHJP
   A61K 31/203 20060101ALI20160223BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160223BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20160223BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20160223BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20160223BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160223BHJP
【FI】
   C07C57/46CSP
   A61K31/203
   A61P43/00 111
   A61P3/10
   A61P3/06
   A61P29/00
   A61P35/00
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-43411(P2012-43411)
(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公開番号】特開2013-180951(P2013-180951A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2015年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(72)【発明者】
【氏名】和田 昭盛
(72)【発明者】
【氏名】沖津 貴志
(72)【発明者】
【氏名】加来田 博貴
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 特表平10−511948(JP,A)
【文献】 特表平9−512830(JP,A)
【文献】 特表2002−515025(JP,A)
【文献】 特表2003−529545(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0255206(US,A1)
【文献】 特表2008−508208(JP,A)
【文献】 Okitsu, Takashi; Sato, Kana; Iwatsuka, Kinya; Sawada, Natsumi; Nakagawa, Kimie; Okano, Toshio; Yamada, Shoya; Kakuta, Hiroki; Wada, Akimori,Replacement of the hydrophobic part of 9-cis-retinoic acid with cyclic terpenoid moiety results in RXR-selective agonistic activity,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2011年,19(9),2939-2949
【文献】 Koch, Stacie S. Canan; Dardashti, Laura J.; Hebert, Jonathan J.; White, Steven K.; Croston, Glenn E.; Flatten, Karen S.; Heyman, Richard A.; Nadzan, Alex M.,Identification of the First Retinoid X Receptor Homodimer Antagonist,Journal of Medicinal Chemistry,1996年,39(17),3229-3234
【文献】 Mohanraj, Subramaniam,Semi-preparative HPLC separations of E and Z isomers of new aromatic retinoids,Journal of Liquid Chromatography ,1984年,7(7),1455-60
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式III:
【化1】
(式中、R1、は水素、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アシル基、アルキルアミノ基、およびアリールアミノ基から選択され、
R2は、H、アルキル基、フェニル基から選択され、
Zは、カルボン酸、カルボン酸エステル、ヒロドキサム酸から選択される。)
で示される化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物からなるレチノイドX受容体(RXR)リガンド作用調節剤。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物又は請求項2に記載のレチノイドX受容体(RXR)リガンド作用調節剤を有効成分として含有する薬剤。
【請求項4】
薬剤が、糖尿病治療剤及び脂質代謝異常症治療剤/又は抗がん剤,又は抗炎症剤であることを特徴とする請求項3に記載の薬剤。
【請求項5】
有効成分として、さらに糖尿病治療剤を含む請求項3又は4に記載の薬剤。
【請求項6】
有効成分として、さらに脂質代謝異常症治療剤を含む請求項3又は4に記載の薬剤。
【請求項7】
有効成分として、さらに抗がん剤を含む請求項3又は4に記載の薬剤。
【請求項8】
有効成分として、さらに抗炎症剤を含む請求項3又は4に記載の薬剤。
【請求項9】
請求項3〜8のいずれか1に記載の薬剤、並びに薬理学的及び製剤学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核内受容体であるレチノイドX受容体(retinoid X receptor; RXR)に対し作用する新規化合物に関する。さらにはその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
核内受容体は、細胞増殖や免疫応答、糖・脂質代謝等の生理機能、恒常性の維持を担っているリガンド依存性の転写調節因子のひとつである。核内受容体に対応するリガンドにより、その下流にある遺伝子の転写を制御している。核内受容体は、同一の原初遺伝子から派生しており、スーパーファミリーを形成する(非特許文献1)。
【0003】
RXRは、作動性物質(以下、アゴニストと記す)の結合により遺伝子転写を制御する核内受容体の一種で、他の核内受容体であるレチノイン酸受容体(RAR)、ビタミンD受容体(VDR)、ペルオキシソーム増殖活性受容体(PPAR)、肝X受容体(LXR)などとヘテロダイマーを形成し、ヘテロダイマー毎にその生理作用が異なっている。またRXRにはα、β、γの3つのサブタイプが存在し、サブタイプ毎にその体内局在が異なっている(非特許文献1,2)。
【0004】
RXRαは肝臓、腎臓および脾臓、RXRβは全身、RXRγは骨格筋、心筋、皮膚および脳に局在することが知られている。またPPARγは脂肪細胞分化や糖代謝制御を司ることから、PPARγ/RXRα選択的アゴニストは糖尿病治療薬および脂質代謝異常症治療薬のターゲットとして魅力的である(非特許文献2,3)。
【0005】
既存のRXR選択的アゴニストの多くは、その脂溶性部位にテトラメチルシクロヘキサン環を主とするかさ高い脂溶性の置換基を導入することでRXR選択性を生み出すことに成功している(非特許文献2,3,4,5)。
【0006】
代表的なRXRアゴニストの分子構造を以下に示す。
【化1】
【0007】
これらの化合物のいずれもがその脂溶性部位にテトラメチルシクロヘキサン環とベンゼン環からなる二環性骨格を主とするかさ高い脂溶性の置換基を導入している。しかしながら、これらの化合物はLXR/RXRの活性化による血中トリグリセリド(TG)の上昇が問題点として挙げられる(非特許文献6,7)。
【0008】
RXRのリガンドはその構造の違いにより遺伝子発現に違いを生じさせる、すなわちヘテロダイマー選択的に活性化できることが知られており、RXRリガンドのバリエーションを増やすことでLXR/RXRの活性化を避けPPARγ/RXRを活性化し得るRXRアゴニストが創出できる可能性がある。
【0009】
RXRのリガンド結合部位は高度な三次元環境下にあることから、RXRアゴニストの脂溶性部位として光学活性な置換基が導入されたシクロヘキサン環とベンゼン環からなる新規二環性骨格を有するRXRアゴニストに興味が持たれた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Endocr. Rev. 1999, 20, 689.
【非特許文献2】Pharmacol. Rev. 2006, 58, 760.
【非特許文献3】PPAR Res. 2007, Article ID 94156, 12 pages.
【非特許文献4】Nat. Rev. Drug. Discov. 2007, 6, 793.
【非特許文献5】Biochem. Pharmacol. 2008, 76, 1006.
【非特許文献6】Mol. Pharmacol. 2001, 59, 170.
【非特許文献7】J. Clin. Oncol. 1997, 15, 790.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来のRXRアゴニストとは脂溶性部位が異なる,さらには従来のRXRアゴニストとは遺伝子発現の異なる新規なRXRリガンドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、テルペノイド由来二環性骨格を有するレチノイド化合物の合成に成功し、本化合物が既存のRXRアゴニストに比較してLXRα/RXRα活性化を抑え、PPARγ/RXRαを活性化し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明は以下よりなる。
1.一般式III:
【化1】
(式中、R1、は水素、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アシル基、アルキルアミノ基、およびアリールアミノ基から選択され、
R2は、H、アルキル基、フェニル基から選択され、
Zは、カルボン酸、カルボン酸エステル、ヒロドキサム酸から選択される。)
で示される化合物。
2.前記1に記載の化合物からなるレチノイドX受容体(RXR)リガンド作用調節剤。
3.前記1に記載の化合物又は前記2に記載のレチノイドX受容体(RXR)リガンド作用調節剤を有効成分として含有する薬剤。
4.薬剤が、糖尿病治療剤及び脂質代謝異常症治療剤/又は抗がん剤,又は抗炎症剤であることを特徴とする前記3に記載の薬剤。
5.有効成分として、さらに糖尿病治療剤を含む前記3又は4に記載の薬剤。
6.有効成分として、さらに脂質代謝異常症治療剤を含む前記3又は4に記載の薬剤。
7.有効成分として、さらに抗がん剤を含む前記3又は4に記載の薬剤。
8.有効成分として、さらに抗炎症剤を含む前記3又は4に記載の薬剤。
9.前記3〜8のいずれか1に記載の薬剤、並びに薬理学的及び製剤学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の化合物は、LXRα/RXRα活性化を抑え、かつPPARγ/RXRα活性化能を有するRXR作動性物質である。従って、本化合物は高濃度においてもLXRα/RXRα活性化にともなうトリグリセリド血中濃度の上昇を回避してRXRアゴニスト作用を発揮しうることから、副作用が軽減された新規な糖尿病治療薬、脂質代謝異常症治療薬、抗がん剤の有効成分としての作用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】中間体1〜4の化合物(実施例1)の合成スキームを示す図である。
図2】中間体5および目的化合物1(実施例1)の合成スキームを示す図である。
図3】対照化合物であるNEt-TMNと化合物1および2の、RXRに対するレポータージーンアッセイの結果(実施例2)を示す図である。
図4】対照化合物であるNEt-TMNと化合物1および2の、PPARgamma, PPARgamma/RXRalpha, LXRalpha, LXRalpha/RXRalphaに対するレポータージーンアッセイの結果(実施例2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
具体的には、以下の実施例で示す化合物のうち、化合物1が挙げられる。本発明の化合物のうち、PPARγ/RXRαヘテロダイマーアゴニストとして好適には化合物1が挙げられる。
【0017】
本発明において、一般式IIIで表される化合物は、さらに、薬学的に許容される塩であってもよい。また、一般式IIIの化合物又はその塩において、異性体(例えば光学異性体、幾何異性体及び互換異性体)などが存在する場合は、本発明はそれらの異性体を包含し、また溶媒和物、水和物及び種々の形状の結晶を包含するものである。
【0018】
本発明において、薬学的に許容される塩とは、薬理学的及び製剤学的に許容される一般的な塩が挙げられる。そのような塩として、具体的には以下が例示される。
塩基性付加塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;例えばカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;例えばアンモニウム塩;例えばトリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩;ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩;たとえばN,N−ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩;例えばピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩;例えばテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩;リジン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0019】
酸付加塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩;例えばメタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸等を挙げることができる。
【0020】
本明細書において用いる用語は、単独で又は他の用語と一緒になって以下の意義を有する。
「アルキル」は、炭素数1〜20、好ましくは1〜10個の直鎖状又は分枝状のアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ぺンチル、イソぺンチ ル、ネオぺンチル、tert-ぺンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル等が挙げられる。好ましくは、 炭素数1〜6個のアルキルであり、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ぺンチル、イソぺンチル、ネオぺンチル、tert-ぺンチル、n-ヘキシル、イソヘキシルが挙げられる。炭素数1〜6個の低級アルキルが特に好ましい。
【0021】
「アルケニル」は、上記「アルキル」に1個又はそれ以上の二重結合を有する炭素数2〜20個、好ましくは2〜8個の直鎖状又は分枝状のアルケニルを意味し、例えば、ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1,3-ブタジエニル、3-メチル-2-ブテニル等が挙げられる。
【0022】
「アリール」 は、単環芳香族炭化水素基(フェニル)及び多環芳香族炭化水素基(例えば、1-ナフチ ル、2-ナフチル、1-アントリル、2-アントリル、9-アントリル、1-フェナントリル、2-フェナントリル、3-フェナントリル、4-フェナントリ ル、9-フェナントリル等)を意味する。好ましくは、フェニル又はナフチル(1-ナフチル、2-ナフチル)が挙げられる。
【0023】
「アルキニル」は、上記アルキルに1個又はそれ以上の三重結合を有する炭素数2〜20個、好ましくは2〜10個のアルキニルを意味し、例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル等が挙げられる。
【0024】
「アルコキシ」とは、炭素数1〜20の直鎖状または分枝(鎖)状のアルコキシ基を意味し、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクタデカノキシ基、アリルオキシ基などが挙げられる。C1〜C6の直鎖状または分枝状の低級アルコキシが好ましい。
【0025】
「アシル」とは、アルカノイルおよびアロイルなどを意味する。該アルカノイルとしては、例えば、炭素数1〜6個、好ましくは1〜4個のアルキルを有するアルカノイル(ホルミル、アセチル、トリフルオロアセチル、プロピオニル、ブチリルなど)が挙げられる。アロイルとしては、例えば、炭素数7〜15個のアロイル、具体的には、例えばベンゾイル、ナフトイルなどが挙げられる。
【0026】
本発明において、一般式IIIで表される化合物は、RXRに対し作動性を有する。RXRはDNAの転写に関わる核内受容体であることから、本発明の化合物は転写調節化合物ということもできる。本明細書において「調節作用」という用語又はその類似語は、作用の増強又は抑制を含めて最も広義に解釈する必要がある。本発明の化合物が増強作用又は抑制作用のいずれを有するかは、本明細書の実験例に具体的に示した方法に従って容易に検定可能である。
【0027】
本発明において、一般式IIIで表される化合物のうちRXR作動性物質は、脂肪細胞分化作用、糖代謝制御作用、抗がん作用,抗炎症作用などを有する。そのため、これらの化合物は脂質代謝異常症、糖尿病、及びある種の癌の治療や予防,炎症に対しに有用であると考えられる。
【0028】
上記の化合物は、細胞の核内に存在する核内受容体・スーパーファミリーに属するRXRとヘテロダイマーを構築する受容体に結合して生理活性を発現する物質、例えば、活性型ビタミンA代謝物(all-trans-レチノイン酸)を含むレチノイド化合物、エイコサノイド類、ビタミンD3などのビタミンD化合物、またはチロキシンやリガンド不明のオーファン受容体リガンドなどの作用を増強もしくは抑制することができる。
【0029】
本発明の化合物を有効成分とする試薬又は医薬等の薬剤も、本発明の範囲に含まれる。医薬品として用いる場合には、例えば、糖尿病治療剤及び脂質代謝異常症治療剤/又は抗がん剤,又は抗炎症剤として用いることができる。
【0030】
本発明の化合物を有効成分とする医薬として用いる場合には、投与量は特に限定されない。例えばレチノイン酸などのレチノイドを有効成分として含む医薬と本発明の化合物とを併用してレチノイドの作用を調節する場合、あるいは、レチノイドを含む医薬を併用せずに、生体内に既に存在するレチノイン酸の作用調節のために本発明の薬剤を投与する場合など、あらゆる投与方法において適宜の投与量が容易に選択できる。例えば、経口投与の場合には有効成分を成人一日あたり0.01〜1000mg程度の範囲で用いることができる。レチノイドを有効成分として含む医薬と本発明の薬剤とを併用する場合には、レチノイドの投与期間中、及び/又はその前若しくは後の期間のいずれにおいても本発明の薬剤を投与することが可能である。
【0031】
本発明の薬剤として、上記一般式IIIで表される化合物から選ばれる1種又は2種以上の物質をそのまま投与してもよいが、好ましくは、上記の物質の1種又は2種以上を含む、経口用あるいは非経口用の医薬組成物として投与することが好ましい。経口用あるいは非経口用の医薬組成物は、当業者に利用可能な製剤用添加物、即ち薬理学的及び製剤学的に許容しうる担体を用いて製造することができる。例えば、レチノイン酸などのレチノイドを有効成分として含む医薬に上記の物質の1種又は2種以上を配合して、いわゆる合剤の形態の医薬組成物として用いることもできる。
【0032】
経口投与に適する医薬用組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等を挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、点眼剤、点鼻剤、軟膏剤、クリーム剤、及び貼付剤等を挙げることができる。上記の医薬組成物の製造に用いられる薬理学的及び製剤学的に許容しうる担体としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を挙げることができる。
【0033】
本明細書の実施例に、本発明の式Iに示される好ましい化合物の製造方法を具体的に説明する。これらの製造方法において用いられた出発原料及び試薬、並びに反応条件などを適宜修飾ないし改変することにより、本発明の範囲に包含される化合物はいずれも製造可能である。本発明の化合物の製造方法は、実施例に具体的に説明されたものに限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例の範囲に限定されることはない。
【0035】
[実施例1]目的化合物1の合成
本実施例における製造方法のスキームを図1、2に示した。
【0036】
1)中間体1の合成
アルゴン雰囲気中、氷冷下ジイソプロピルアミン(3.36 mL, 24.0 mmol)に撹拌しながらn-ブチルリチウム(1.65 M, n-ヘキサン溶液, 14.4 mL, 24.0 mmol)を10分かけて滴下した後、無水テトラヒドロフラン(50 mL)に溶解させた。-78℃に冷却後、(-)-メントン(3.09 g, 20.0 mmol)の無水テトラヒドロフラン(5 mL)溶液を滴下し同温で30分撹拌した後、3-トリメチルシリル-3-ブテン-2-オン(3.70 g, 26.0 mmol)の無水テトラヒドロフラン(7 mL)溶液を滴下し-78℃で1時間、0℃で2.5時間撹拌した。TLCプレート(n-ヘキサン:酢酸エチル=7:1)で原料消失を確認後、5%塩酸(60 mL)を加え室温で30分激しく撹拌した。氷冷下、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和後、酢酸エチルで抽出した。有機層を水と食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下にて留去し、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=9:1)で精製し、無色アモルファスの中間体1(2.83 g, 63%)を得た。
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ : 2.62-2.51 (m, 1H), 2.41-2.29 (m, 1H), 2.13 (s, 3H), 2.10-1.97 (m, 4H), 1.90-1.73 (m, 3H), 1.58-1.28 (m, 3H), 1.07 (d, J = 6.0 Hz, 3H), 0.89 (d, J = 6.0 Hz, 3H), 0.85 (d, J = 6.0 Hz, 3H).
【0037】
2)中間体2の合成
アルゴン雰囲気中、氷冷下中間体1(2.83 g, 12.6 mmol)の無水テトラヒドロフラン(110 mL)溶液に、カリウムt-ブトキシド(1.42 g, 12.6 mmol)を加え、同温で1.5時間撹拌した。TLCプレート(n-ヘキサン:酢酸エチル=6:1)で原料消失を確認後、飽和塩化アンモニウム水溶液で中和後、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を水と食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下にて留去し、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:酢酸エチル=6:1)で精製し、無色結晶の中間体2(1.63 g, 63%)を得た。
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ : 5.86 (s, 1H), 2.44-2.12 (m, 3H), 2.07-1.96 (m, 2H), 1.82-1.75 (m, 4H), 1.57-1.46 (m, 1H), 1.33-1.12 (m, 2H), 1.04 (d, J = 6.3 Hz, 3H), 0.97 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.89 (d, J = 6.6 Hz, 3H).
【0038】
3)中間体3の合成
アルゴン雰囲気中、氷冷下ジイソプロピルアミン(0.862 mL, 6.15 mmol)に撹拌しながらn-ブチルリチウム(1.62 M, n-ヘキサン溶液, 3.80 mL, 6.15 mmol)を10分かけて滴下した後、無水テトラヒドロフラン(12 mL)に溶解させた。-78℃に冷却後、中間体2(1.15 g, 5.59 mmol)の無水テトラヒドロフラン(6 mL)溶液を滴下し同温で30分撹拌した後、N-t-ブチルベンゼンスルフィンイミドイルクロリド(1.45 g, 6.71 mmol)の無水テトラヒドロフラン(5 mL)溶液を滴下し-78℃で30分撹拌した。1%塩酸(34 mL)を加えて反応を止めた後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下にて留去し、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:ジエチルエーテル=15:1)で精製し、淡黄色油状物質の中間体3(565 mg, 50%)を得ると共に、中間体2(418 mg, 36%)を回収した。
【0039】
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ : 7.10 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 6.70 (d, J = 3.0 Hz, 1H), 6.63 (dd, J = 8.1, 3.0 Hz, 1H), 4.58 (s, 1H), 2.78-2.64 (m, 2H), 2.28-2.16 (m, 1H), 1.99-1.90 (m, 1H), 1.89-1.77 (m, 1H), 1.62-1.50 (m, 1H), 1.38-1.28 (m, 1H), 1.25 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.01 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 0.71 (d, J = 6.9 Hz, 3H).
【0040】
4)中間体4の合成
アルゴン雰囲気中、氷冷下中間体3(538 mg, 2.63 mmol)とピリジン(0.426 mL, 5.27 mmol)の無水ジクロロメタン(5 mL)溶液に、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(0.532 mL, 3.16 mmol)を滴下し、室温で1時間撹拌した。TLCプレート(n-ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で原料消失を確認後、1%塩酸(13 mL)を加え、ジクロロメタンで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下にて留去し、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン)で精製し、無色油状物質の中間体4(559 mg, 63%)を得た。
【0041】
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ : 7.29 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.10 (d, J = 2.7 Hz, 1H), 7.02 (dd, J = 8.4, 2.7 Hz, 1H), 2.85-2.70 (m, 2H), 2.27-2.12 (m, 1H), 2.04-1.94 (m, 1H), 1.91-1.81 (m, 1H), 1.66-1.53 (m, 1H), 1.42-1.30 (m, 1H), 1.28 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.01 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.71 (d, J = 6.9 Hz, 3H).
【0042】
5)中間体5の合成
アルゴン雰囲気中、中間体4(120 mg, 0.357 mmol)、(2E,4E,6Z)-3-メチル-7-トリブチルすず-2,4,6-オクタトリエン酸エチル(218 mg, 0.464 mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(41.2 mg, 0.0357 mmol)、ヨウ化銅(I)(13.6 mg, 0.0714 mmol)、フッ化セシウム(108 mg, 0.714 mmol)の無水N,N-ジメチルホルムアミド(3.6 mL)溶液を45℃で3時間撹拌した。TLCプレート(n-ヘキサン:ジエチルエーテル=20:1)で原料消失を確認後、ジクロロメタン(5 mL)と水(2 mL)を加えて室温下激しく撹拌した後、セライトろ過し、ジクロロメタン:酢酸エチル=1:1で洗い込んだ。ろ液をジクロロメタンで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下にて留去し、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(カラム担体はシリカゲル:フッ化カリウム=9:1、溶出液はn-ヘキサン:ジエチルエーテル=40:1)で精製し、黄色油状物質の中間体5(40.9 mg, 31%)を得た。
【0043】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ : 7.24 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.10 (d, J = 1.5 Hz, 1H), 7.04 (dd, J = 8.0, 1.5 Hz, 1H), 6.78 (dd, J = 15.0, 10.5 Hz, 1H), 6.25 (d, J = 15.0 Hz, 1H), 6.22 (d, J = 10.5 Hz, 1H), 5.74 (s, 1H), 4.15 (q, J = 7.0 Hz, 2H), 2.84-2.72 (m, 2H), 2.30-2.22 (m, 1H), 2.172 (s, 3H), 2.170 (s, 3H), 2.01-1.95 (m, 1H), 1.89-1.81 (m, 1H), 1.67-1.59 (m, 1H), 1.42-1.34 (m, 1H), 1.30 (d, J = 7.0 Hz, 3H), 1.28 (t, J = 7.0 Hz, 3H), 1.01 (d, J = 6.5 Hz, 3H), 0.74 (d, J = 7.0 Hz, 3H).
【0044】
6)1の合成
中間体5(38.0 mg, 0.104 mmol)のエタノール(1.5 mL)溶液に、10%水酸化ナトリウム水溶液(1 mL)を加え、50℃で5時間撹拌した。TLCプレート(n-ヘキサン:ジエチルエーテル=7:3)で原料消失を確認後、氷冷下5%塩酸(2.5 mL)を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下にて留去し、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:ジエチルエーテル=7:3)で精製し、無色結晶の1(33.6 mg, 96%)を得た。
【0045】
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ : 7.24 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.09 (br s, 1H), 7.03 (dd, J = 7.8, 1.8 Hz, 1H), 6.82 (dd, J = 15.3, 10.8 Hz, 1H), 6.27 (d, J = 15.3 Hz, 1H), 6.23 (d, J = 10.8 Hz, 1H), 5.76 (s, 1H), 2.84-2.71 (m, 2H), 2.30-2.22 (m, 1H), 2.18 (s, 6H), 2.03-1.94 (m, 1H), 1.91-1.81 (m, 1H), 1.69-1.57 (m, 1H), 1.43-1.35 (m, 1H), 1.30 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 1.01 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 0.74 (d, J = 6.6 Hz, 3H).
Anal. Calcd for C23H30O2: C, 81.61; H, 8.93. Found: C, 81.78; H, 9.11.
ESI-HRMS Calcd for C23H31O2 [M+H]+ 339.2319. Found 339.2311.
Mp: 149-151 ℃
[α]27D -43.5 (c 0.380, MeOH)
【0046】
7)中間体6の合成
アルゴン雰囲気中、中間体4(120 mg, 0.357 mmol)、(2E,4E,6Z)-3-メチル-7-トリブチルすず-2,4,6-ノナトリエン酸エチル(224 mg, 0.464 mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(41.2 mg, 0.0357 mmol)、ヨウ化銅(I)(13.6 mg, 0.0714 mmol)、フッ化セシウム(108 mg, 0.714 mmol)の無水N,N-ジメチルホルムアミド(3.6 mL)溶液を45℃で3時間撹拌した。TLCプレート(n-ヘキサン:ジエチルエーテル=20:1)で原料消失を確認後、ジクロロメタン(5 mL)と水(2 mL)を加えて室温下激しく撹拌した後、セライトろ過し、ジクロロメタン:酢酸エチル=1:1で洗い込んだ。ろ液をジクロロメタンで抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下にて留去し、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(カラム担体はシリカゲル:フッ化カリウム=9:1、溶出液はn-ヘキサン:ジエチルエーテル=30:1)で精製し、淡黄色油状物質の中間体6(27.4 mg, 20%)を得た。
【0047】
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ : 7.23 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.03 (br s, 1H), 6.98 (dd, J = 7.8, 1.5 Hz, 1H), 6.71 (dd, J = 15.3, 11.1 Hz, 1H), 6.26 (d, J = 15.3 Hz, 1H), 6.19 (d, J = 11.1 Hz, 1H), 5.73 (s, 1H), 4.15 (q, J = 7.2 Hz, 2H), 2.86-2.70 (m, 2H), 2.48 (q, J = 7.5 Hz, 2H), 2.30-2.18 (m, 1H), 2.15 (s, 3H), 2.04-1.94 (m, 1H), 1.92-1.82 (m, 1H), 1.68-1.58 (m, 1H), 1.44-1.32 (m, 1H), 1.30 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 1.27 (t, J = 7.2 Hz, 3H), 1.03 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 1.00 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 0.73 (d, J = 6.9 Hz, 3H).
【0048】
6)3の合成
中間体5(23.8 mg, 0.0625 mmol)のエタノール(1.0 mL)溶液に、10%水酸化ナトリウム水溶液(0.7 mL)を加え、50℃で5時間撹拌した。TLCプレート(n-ヘキサン:ジエチルエーテル=7:3)で原料消失を確認後、氷冷下5%塩酸(2.5 mL)を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下にて留去し、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン:ジエチルエーテル=7:3)で精製し、淡黄色アモルファスの3(18.6 mg, 84%)を得た。
【0049】
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ : 7.23 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.03 (br s, 1H), 6.97 (dd, J = 8.1, 1.5 Hz, 1H), 6.76 (dd, J = 15.3, 11.1 Hz, 1H), 6.28 (d, J = 15.1 Hz, 1H), 6.20 (d, J = 11.1 Hz, 1H), 5.75 (s, 1H), 2.85-2.70 (m, 2H), 2.48 (q, J = 7.5 Hz, 2H), 2.29-2.18 (m, 1H), 2.15 (s, 3H), 2.04-1.94 (m, 1H), 1.92-1.82 (m, 1H), 1.68-1.56 (m, 1H), 1.45-1.34 (m, 1H), 1.30 (d, J = 7.2 Hz, 3H), 1.03 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 1.00 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 0.73 (d, J = 6.6 Hz, 3H).
ESI-HRMS Calcd for C24H32NaO2 [M+Na]+ 375.2295. Found 375.2296.
[α]24D -72.2 (c 0.348, CHCl3)
【0050】
[実施例2] RXRならびにRXRへテロダイマー活性評価
1)測定原理
核内受容体の多くは転写調節に関わる転写因子であるため、その転写活性を測定する手段としてレポーター遺伝子アッセイ(reporter gene assay)が行われる。COS-1細胞やHeLa細胞などの細胞に、RXR受容体タンパク質発現プラスミド及びレポータープラスミドを導入し、融合タンパク質(fusion protein)を過剰発現させる。そこに、RXR作動性物質(リガンド)が受容体に結合すると、転写がリガンド依存的に起こり、その下流にある融合タンパク質が生成され、下流にあるルシフェラーゼの産生が始まる。このルシフェラーゼ活性を測ることにより、RXR作動活性を測定した。また、PPARもしくはLXRとのヘテロダイマーアッセイについては、PPARまたはLXRの発現プラスミドを併用し、かつPPARまたはLXRに対応する遺伝子配列を有するレポータープラスミドを利用した。
また、分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)発現プラスミドを導入し、SEAPの活性を測定することで、形質転換効率の補正を行った。
【0051】
2)宿主細胞の培養
細胞の増殖培地は、ダルベッコ変法イーグルMEM培地(DMEM)を用いた。まず、500 mLの超純水(Milli-Q(R)にて生成)にDMEM粉末を4.75 g溶解し、高圧加熱滅菌(121℃、20分間)を行った後、室温に戻し、これを非働化したウシ胎児血清(FBS)を10 % (v/v)となるように加え、さらに高圧加熱滅菌した10 % NaHCO3を10 mL添加し、その後L‐グルタミン0.292 gを8 mLの超純水に溶解したものをろ過滅菌後添加して調製した。
【0052】
各細胞の継代は、100 mm培養シャーレで培養した細胞の培養上清を除き、トリプシン処理により細胞を回収し、4 ℃、1000 rpm、3分間遠心分離後、増殖培地を加えて細胞を分散させ、100 mm培養シャーレに細胞を分散した増殖培地を15 mL加え、37℃、5 % CO2存在下で培養した。
形質転換はEffecteneTM Transection Reagent (QIAGEN社)を用いて行った。RXRの陽性コントロールにはLGD1069、PPARの陽性コントロールにはTIPP-703、LXRの陽性コントロールにはcarba-T0901317を用いた。これらは、DMSO溶解したものをストック溶液とし、アッセイするプレートにおいて計測した。
【0053】
3)転写活性の測定
(1日目)60 mm培養シャーレに、増殖培地5 mLとともにCOS-1細胞を50×104 cells播種し、一晩培養した。
(2日目)EffecteneTM Transection Reagent (QIAGEN社)を用いたリポフェクション法により形質転換を行った。形質転換には、受容体タンパク質発現プラスミド1 μg、レポータープラスミド4 μg、SEAP発現プラスミド1 μgを用いた。ヘテロダイマーアッセイの場合は、受容体タンパク質発現プラスミドとして、RXRα受容体タンパク質発現プラスミド0.5 μgに加え、PPARγ受容体タンパク質発現プラスミド0.5 μgまたはLXRα受容体タンパク質発現プラスミド0.5 μgを併用した。
(3日目)16〜18時間後、培養上清を除き、トリプシン処理により細胞を回収し、4 ℃、1000 rpm、3分間遠心分離後、増殖培地を加えて細胞を分散し、20×104 cells/wellとなるように96ウェルのホワイトプレートに播種した。その後、DMSO濃度が1%以下になるように各化合物を加えた。
(4日目)24時間後、上清25μLをSEAP測定に用い、残りの細胞液はルシフェラーゼ活性測定に用いた。
【0054】
SEAP測定は、Methods in molecular biology, 63, pp.49-60, 1997/ BD Great EscAPe SEAP User manual (BD bioscience)に記載の方法に従い行った。
具体的には、以下の方法で測定した。上記4日目の上清25μLに対して希釈用緩衝液を25μL加えた後、65 ℃で30分インキュベートした。その後室温に戻し、アッセイ用緩衝液 (7μL)、10×MUP (0.3 μL)、希釈用緩衝液 (2.7 μL)を加え、暗所室温で60分インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダー(インフィニットTM (infinite)200、TECAN社製)を用い励起波長360 nm、蛍光波長465 nmにより蛍光強度を測定した。
【0055】
アッセイ用緩衝液は、以下の方法で調製した。50 mLの超純水(Milli-Qにて生成)にL-ホモアルギニン(0.45 g)と塩化マグネシウム(0.02 g)を溶解させ、ジエタノールアミン(21 mL)を加えた。その後、塩酸を用いてpHを9.8になるように調整後、超純水を用いて全量が100 mLになるようにメスアップし、それを4 ℃で保存した。
【0056】
希釈用緩衝液は、以下の方法で調製した。90 mLの超純水(Milli-Qにて生成)に塩化ナトリウム(4.38 g)とTris Base(2.42g)を溶解させた。その後、塩酸を用いてpHが7.2になるように調整し、5倍濃度希釈用緩衝液を作製し、それを4 ℃で保存した。使用直前にそれを5倍希釈することで希釈用緩衝液を作製した。
【0057】
4-メチルウンベリフェリルホスフェートを25mMになるように超純水(Milli-Qにて生成)に溶解させ、それを-20 ℃で保存したものを、10×MUPとした。
【0058】
ルシフェラーゼ活性は、NUNC社製の96穴ホワイトプレートを用い、発光基質(Steady-Glo Luciferase Assay System、Promega社製)との反応産物との発光強度をマイクロプレートリーダー(インフィニットTM (infinite)200、TECAN社製)を用いて測定した。
【0059】
4)測定結果
上記の測定結果を以下の表1ならびに図3〜4に示した。
【0060】
測定結果は、陽性コントロール(RXRには非特許文献8記載のLGD1069を、PPARには非特許文献9記載のTIPP-703を、LXRには非特許文献10記載のcarba-T0901317)を1μM反応させたときの転写活性を1とし、相対活性を調べた。その結果、化合物1について、転写活性を認めた。
【0061】
非特許文献8:Cancer Res. 1996, 56, 5566.
非特許文献9:Bioorg. Med. Chem. Lett. 2008, 18, 4525.
非特許文献10:Heterocycles 2008, 76, 137.
【0062】
表1は,化合物1および非特許文献11記載の化合物2のRXR各サブタイプに対する転写活性化能である。非特許文献11:Bioorg Med Chem. 2011,19,939.
【0063】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上詳述したように、本発明の化合物は既存のRXR作動薬の活性と比較して,それを凌ぐRXRアゴニストとして機能する。さらに、化合物1は既存のRXRアゴニストに比較して、LXRα/RXRα活性化を抑え、かつPPARγ/RXRα活性化能を有することを見出した。このことは、本化合物が高濃度においてもLXRα/RXRα活性化にともなうトリグリセリド血中濃度の上昇を回避することが期待できる。本発明の化合物は、糖尿病治療薬、脂質代謝異常症治療薬、抗がん剤の有効成分としての作用が期待できるため、このような医薬として利用することができる。また、生化学試験用試薬としても利用することができる。
図1
図2
図3
図4