特許第5877481号(P5877481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5877481
(24)【登録日】2016年2月5日
(45)【発行日】2016年3月8日
(54)【発明の名称】粉末食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/38 20060101AFI20160223BHJP
【FI】
   A23L2/38 C
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-284304(P2011-284304)
(22)【出願日】2011年12月8日
(65)【公開番号】特開2013-118865(P2013-118865A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】596076698
【氏名又は名称】佐藤食品工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岸澤 恩
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−073619(JP,A)
【文献】 特開平11−235164(JP,A)
【文献】 特開2005−296000(JP,A)
【文献】 特開平10−229832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CiNii
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の粉砕液及び/または搾汁液及び/または抽出液に粉末化基材を添加して粉末化し、湿式造粒工程を経ることなくメジアン径が50マイクロメートル以上150マイクロメートル未満となるように調整された植物パウダーに対して、食塩及びその他の無機塩類及び有機酸及び/または有機酸塩が結晶の状態で混合されていることを特徴とする粉末清涼飲料の製造方法。
【請求項2】
上記の植物パウダーの製造にあたって、植物の粉砕液及び/または搾汁液及び/または抽出液に由来する固形分が全固形分中の20重量パーセント未満となるように粉末化基材等の原料を混合し、粉末化することを特徴とする請求項1に記載の粉末清涼飲料の製造方法。
【請求項3】
上記の植物パウダーの製造にあたって、植物の粉砕液及び/または搾汁液及び/または抽出液に由来しない食塩及びその他の無機塩類、有機酸、有機酸塩の総量が全固形分中の3重量パーセント未満となるように粉末化基材等の原料を混合し、粉末化することを特徴とする請求項1又は2に記載の粉末清涼飲料の製造方法。
【請求項4】
上記の植物パウダーに対して結晶の状態で添加する食塩及びその他の無機塩類及び有機酸及び/または有機酸塩の総量が、植物パウダー100部に対し1部以上60部未満であることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の粉末清涼飲料の製造方法。
【請求項5】
上記の植物パウダーに対して結晶の状態で添加する食塩及びその他の無機塩類及び有機酸及び/または有機酸塩全体のメジアン径が150マイクロメートル以上400マイクロメートル未満であることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の粉末清涼飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は給茶機やカップ式自動販売機等での使用における耐固結性、溶解性、計量安定性に優れた粉末清涼飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
給茶機やカップ式自動販売機などの専用の機械で使用される粉末清涼飲料は、一般的に数百杯分の粉末が機械内部に設置されたキャニスターと呼ばれる専用の容器で保存され、吐出ボタンを押すと粉末がキャニスターから自動的に計量・溶解されて供給される仕組みとなっており、オフィスやサービスエリア、工場等の施設で広く利用されている。
【0003】
しかしながら、一般家庭向けの粉末清涼飲料の多くは一食分が個包装されているか、密閉可能な容器で保管できるようになっており、短時間では使用に支障を来すほどの吸湿・固結が起こることは少ないのに対し、機械向けの粉末清涼飲料では機械の計量・溶解部の構造上、キャニスター内の粉末の一部が吐出口部分で露出し外気に晒されている場合が多く、吸湿しやすい成分を多く含む粉末は数時間から数日の間に固結して安定的に計量できなくなり、使用に支障を来すという問題がある。
【0004】
そのため、機械での使用を想定して設計された粉末清涼飲料では一般家庭向けの製品よりも高い耐固結性が要求され、それと同時に機械での使用における溶解性、計量安定性も要求されるため、家庭用製品よりも厳密な物性制御が必要である。
その中でも、固結の抑制は飲料分野に限らず粉末食品の設計開発においては常に大きな解決課題であるが、粉末食品の耐固結性をコントロールするために、これまでにも様々な方法が工夫され提案、実施されてきた。
【0005】
特許文献1には、粉末清涼飲料に液状油脂を混合し、粉体の表面を油脂でコーティングすることで吸湿・固結を防ぐ方法が提案されている。
【0006】
特許文献2には、エキス素材に対して食用高分子素材である寒天、カラギーナンを混合して乾燥することで吸湿・固結を防ぐ方法が提案されている。
【0007】
特許文献3には、顆粒状粉末調味料において食塩以外の原料を部分造粒し、食塩を結晶の状態で混合するか、乾式造粒することで吸湿・固結を防ぐ方法が提案されている。
【特許文献1】特願2006−158333号公報
【特許文献2】特許4410238号公報
【特許文献3】特許4410239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述の特許文献1、2の方法では風味設計の上では不必要な成分を添加することになるため、食品本来の風味や口あたりを損なう可能性があり、汎用性の高い手法であるとは言えない。しかも、特許文献2の方法で配合している寒天やカラギーナンは一般的に冷水に溶解しづらい素材であり、温水と冷水の両方への速溶性が要求される機械向け粉末清涼飲料の製造には適した手法とはいえない。
【0009】
また、特許文献3の方法では食塩等の低分子の親水性成分に対して加水することなく、結晶の状態のまま調味料に混合することによって、加水して造粒する場合と比較して耐固結性の大幅な向上が期待できる。しかしながら、機械向け粉末清涼飲料には少糖類や無機塩類、有機酸、有機酸塩などの低分子の親水性成分を多く含有する設計のものが多く、これらの成分を結晶の状態のまま混合することで耐固結性を向上させることができたとしても、キャニスター内での保管状態においては混合した結晶成分そのものが吸湿し、潮解してキャニスター内に付着したり、他の粒子を巻き込んで吐出口を閉塞させたりするなどして使用に支障を来す場合があるため、特許文献3の手法だけでは不十分である。
【0010】
しかも、特許文献3で実施している造粒操作を行うと、個々の粒子径が大きくなるため粒子同士の間隙が広くなり、結晶成分が直接外気と接触する機会が増えて吸湿が促進される場合があるほか、湿式造粒を施すと粒子の外側に被膜が形成され、溶解する時に水が粒子内部まで浸透せず、機械から注出した際に粉末が容器の底に沈殿して溶け残る場合があるため好ましくない。そこで、本発明者はこのような機械向けの粉末清涼飲料に特有の物性の問題を解決することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、給茶機やカップ式自動販売機等の機械向けの粉末清涼飲料について、その風味を損なうことなく、耐固結性に優れ、かつ溶解性や計量安定性にも優れた粉末を得ることを目的として鋭意試験検討を行った結果、結晶成分である食塩及びその他の無機塩類及び有機酸及び/または有機酸塩と植物パウダーのそれぞれの粒子径や配合比率を厳密に制御することによって機械向け粉末清涼飲料の特有の問題を解決できることを察知するに至り、課題を解決するための手段として次の各態様を提供した。
【0012】
まず、植物の粉砕液及び/または搾汁液及び/または抽出液に粉末化基材を添加して粉末化し、湿式造粒工程を経ることなくメジアン径が50マイクロメートル以上150マイクロメートル未満となるように調整された植物パウダーに対して食塩及びその他の無機塩類及び有機酸及び/または有機酸塩を結晶の状態で添加することを、本課題を解決するための第1の態様とした。なお、本発明におけるメジアン径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置マイクロトラックMT3000II(日機装(株)製)を使用し乾式測定して得られた値である。
【0013】
次に、第1の態様において、上記の植物パウダーの製造にあたり、植物の粉砕液及び/または搾汁液及び/または抽出液に由来する固形分が全固形分中の20重量パーセント未満となるように粉末化基材等の原料を混合して粉末化することを、本課題を解決するための第2の態様とした。
【0014】
次に、第1又は第2の態様において、上記の植物パウダーの製造にあたり、植物の粉砕液及び/または搾汁液及び/または抽出液に由来しない食塩及びその他の無機塩類、有機酸、有機酸塩の総量が全固形分中の3重量パーセント未満となるように粉末化基材等の原料を混合して粉末化することを、本課題を解決するための第3の態様とした。
【0015】
さらに、第1乃至3の態様において、上記の植物パウダーに対して結晶の状態で添加する食塩及びその他の無機塩類及び有機酸及び/または有機酸塩の総量が植物パウダー100部に対して1部以上60部未満となるようにすることを、本課題を解決するための第4の態様とした。
【0016】
さらに又、第1乃至4のいずれかの態様において、上記の植物パウダーに対して結晶の状態で添加する食塩及びその他の無機塩類及び有機酸及び/または有機酸塩全体のメジアン径を150マイクロメートル以上400マイクロメートル未満とすることを、本課題を解決するための第5の態様とした。
【発明の効果】
【0017】
本発明者が、耐固結性、溶解性、計量安定性に優れた給茶機・カップ式自動販売機等の機械向けの粉末清涼飲料を提供することを目的として鋭意検討を行い、課題を解決するために提供した本発明の効果は次の通りである。
【0018】
まず、植物の粉砕液及び/または搾汁液及び/または抽出液に粉末化基材を添加して粉末化し、湿式造粒工程を経ることなくメジアン径が50マイクロメートル以上150マイクロメートル未満となるように調整された植物パウダーに対して、食塩及びその他の無機塩類及び有機酸及び/または有機酸塩を結晶の状態で添加することによって、食塩及びその他の無機塩類及び有機酸及び/または有機酸塩の結晶の周囲が植物パウダーで取り囲まれて外気との接触面積が減少し、結晶の吸湿速度が低下して粉末清涼飲料全体の耐固結性が向上した。また、植物パウダーの製造にあたって、粉末化した後に湿式造粒を施さないことで個々の粒子の比表面積が広がり、さらに結晶成分と混合することでダマの形成も防止できるため、冷水に対しても高い溶解性を維持することができた。しかも、結晶成分と混合したときに機械での安定計量に適した十分な流動性を有していた。さらに又、植物パウダーのメジアン径を50マイクロメートル以上150マイクロメートル未満とし、添加する食塩及びその他の無機塩類及び有機酸及び/または有機酸塩よりも粒子径を小さく設計することで、より効果的に結晶表面と外気の接触面積を減少させることができ、耐固結性がさらに向上した。
【0019】
次に、上記の植物パウダーの製造にあたって、全固形分中の植物の粉砕液及び/または搾汁液及び/または抽出液に由来する固形分が20重量パーセント未満となるように粉末化基材等の原料を混合して粉末化することで、植物の粉砕液及び/または搾汁液及び/または抽出液に由来する糖類・有機酸等の低分子成分による吸湿が抑えられ、植物パウダー自体の耐固結性が向上した。
【0020】
さらに又、上記の植物パウダーの製造にあたって、植物の粉砕液及び/または搾汁液及び/または抽出液に由来しない食塩及びその他の無機塩類、有機酸、有機酸塩の総量が全固形分中の3重量パーセント未満となるように粉末化基材等の原料を混合して粉末化することで、非結晶状態の無機塩類、有機酸、有機酸塩に起因する植物パウダーの吸湿を最終製品の物性に影響しない範囲内に抑えることができた。
【0021】
さらに又、上記の植物パウダーに対して結晶の状態で添加する食塩及びその他の無機塩類及び有機酸及び/または有機酸塩の総量が、植物パウダー100部に対し1部以上60部未満となるようにすることで、植物パウダーによる、結晶成分を取り囲み外気との接触面積を減少させる効果が十分に発揮され、耐固結性をより向上させることができた。
【0022】
最後に、上記の植物パウダーに対して結晶の状態で添加する食塩及びその他の無機塩類及び有機酸及び/または有機酸塩の全体のメジアン径を150マイクロメートル以上400マイクロメートル未満とし、植物パウダーとの分級を風味品質に影響しない程度に抑えられる範囲内で可能な限り結晶成分の粒子径を大きくし、比表面積を小さくすることで、吸湿速度が低下し、耐固結性をより向上させることができた。
【0023】
本発明により得られた、機械での使用における耐固結性、溶解性、計量安定性に優れた粉末清涼飲料は、夏季の高温多湿の環境下においても安定して使用することができ、特にスポーツドリンク等の無機塩類や有機酸、水分の補給を目的とした飲料においてその効果を発揮し、利用者に対する安定した供給を可能にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本説明は本発明を具体的に説明し、発明の内容の的確な理解に資するという趣旨に基づいて行うものであり、本説明の記述内容は本発明の一例にすぎず、かつ本説明により本発明の範囲を限定する趣旨でもない。
【0025】
まず本発明で用いられる植物パウダーとは、植物の粉砕液及び/または搾汁液及び/または抽出液に粉末化基材を混合して粉末化した、メジアン径200マイクロメートル未満の粉末の総称である。具体的には、果実、種実、根茎、木皮、葉、花などの抽出液、搾汁液、ピューレやペーストを含む湿式粉砕液、乾式粉砕物を水に分散させた液などが例示される。また、粉末化基材の他に、必要に応じて無機塩類、有機酸、有機酸塩、甘味料、香料、着色料等の副原料を混合しても良い。
【0026】
植物パウダーに用いることのできる植物には特に制限はなく、通常食用としている果物、野菜、種実、茶類、穀物、香辛料などが挙げられる。
【0027】
本発明における果物とは、食用になる果実の総称であり、使用される種類に特に制限はないが、スイカ、イチゴ、メロン、リンゴ、ナシ、カリン、アンズ、ウメ、サクランボ、スモモ、モモ、アケビ、イチジク、カキ、キイチゴ、キウイフルーツ、クランベリー、コケモモ、ザクロ、ブドウ、ブラックベリー、ブルーベリー、ラズベリー、マンダリンオレンジ、温州みかん、ポンカン、ナツミカン、ハッサク、日向夏、スウィーティー、デコポン、バレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ、グレープフルーツ、柚子、ダイダイ、カボス、スダチ、レモン、シークワーサー、ライム、シトロン、ブンタン、イヨカン、キンカン、カラタチ、オリーブ、ビワ、アセロラ、アボカド、カムカム、グアバ、ココナッツ、ドラゴンフルーツ、ドリアン、ナツメヤシ、パイナップル、パッションフルーツ、バナナ、パパイヤ、マンゴー、マンゴスチン、ミラクルフルーツ、ライチなどが例示される。
【0028】
本発明における野菜とは、主に副食用として栽培、利用される植物を指す。利用する部位によって、果菜類、茎菜類、葉菜類、根菜類、花菜類などに分けられる。使用される種類に特に制限はないが、果菜類としては、キュウリ、カボチャ、トマト、ナス、ゴマ、トウガラシ、各種豆類などが例示される。茎菜類としてはアスパラガス、ウド、サトイモ、ジャガイモ、ショウガ、タケノコ、ユリネ、レンコン、ワサビなどが例示される。葉菜類としては、キャベツ、ホウレンソウ、レタス、セロリ、クレソン、ケール、コマツナ、シュンギク、セリ、タマネギ、チンゲンサイ、ニラ、ネギ、ハクサイ、パセリ、フキ、ミズナ、ミブナ、ミツバ、ルッコラなどが例示される。根菜類としては、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、カブ、サツマイモ、ヤマイモなどが例示される。花菜類としては、ブロッコリー、カリフラワー、アブラナ、アーティチョーク、ミョウガなどが例示される。
【0029】
本発明における種実とは、食用になる種実の総称であり、使用される種類に特に制限はないが、アーモンド、ギンナン、クリ、クルミ、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、ピーナッツ、マカダミアナッツなどが例示される。
【0030】
本発明における茶類とは、主に飲料として利用されるもので、使用される種類に特に制限はないが、カメリア シネンシスに属する樹木の葉の加工品及び、その他の茶として飲用可能なものについても利用することができ、麦、はと麦、玄米、大豆、ソバなどの浸出液である穀物茶類、アニス、バジル、チャイブ、レモンバーム、レモングラス、ミント、パセリ、ローズマリー、タイム、セージ、サンザシ、ラベンダー、カモミール、ハッカ、セイヨウタンポポ、ローズヒップ、ローズペタル、ハイビスカスなどのハーブ類、どくだみ、霊芝、ギムネマ、バナバ、イチョウ葉、モロヘイヤ、ラカンカ、アルファルファ、よもぎ、マテ、ギャバロン、朝鮮人参、杜仲、ルイボス、アロエ、桜葉などが例示される。
【0031】
本発明における穀物とは、種子を食用とする作物で主に主食用として栽培、利用される植物を指す。使用される種類に特に制限はないが、米、大麦、小麦、エンバク、アワ、ヒエ、キビ、トウモロコシ、ソバなどが例示される。
【0032】
本発明における香辛料とは、辛味または香り、色などを飲食物に付与する調味料全般を指し、主に植物の実や種子などである。使用される種類に特に制限はないが、ウコン(ターメリック)、オールスパイス、オレガノ、カルダモン、キャラウェイ、クミン、コショウ、グローブ、コリアンダー、サフラン、サンショ、シソ、シナモン、セージ、タイム、タデ、ディル、ナツメグ、ニンニク、バニラ、マジョラム、マスタード、ローリエ、トウガラシなどが例示される。
【0033】
植物パウダーの粉末化の際に使用する粉末化基材は、それ自体が吸湿しづらく、冷水にも容易に溶解あるいは分散するものを選定することが望ましい。例として、オリゴ糖、加工でんぷん、デキストリン、サイクロデキストリン、難消化性デキストリン、糖アルコールおよびそれらの分解物や化学修飾物などが挙げられる。
【0034】
本発明に用いることのできる植物パウダーの粉末化方法としては、噴霧乾燥や真空凍結乾燥、ドラム乾燥などが挙げられるが、粒子形状の均一性が高く、なおかつ粒子径が比較的容易にコントロールできる噴霧乾燥が好ましい。真空凍結乾燥を用いると粒子径のコントロールが難しく、しかも多孔質構造であるため、噴霧乾燥する場合と比較すると吸湿が進みやすい。また、ドラム乾燥を用いると粒子径を揃えるために粉砕、篩別等の二次操作が必要となるため、噴霧乾燥と比較すると生産効率が劣る。
【0035】
上記の植物パウダーのメジアン径は、結晶成分を取り囲んで外気との接触面積を減少させる効果の高い50マイクロメートル以上150マイクロメートル未満とするのが良く、より好ましくは70マイクロメートル以上100マイクロメートル未満とするのが良い。粒子径が50マイクロメートル未満となると植物パウダーと結晶成分が分級・偏析して風味のバラつきが生じやすくなるため好ましくなく、150マイクロメートル以上となると粒子間の間隙が広がって、結晶成分の外気との接触面積を効率的に減少させることができず、吸湿を抑制する効果が小さくなる。
【0036】
植物パウダー中の植物の粉砕液及び/または搾汁液及び/または抽出液に由来する固形分は20重量パーセント未満、より好ましくは10重量パーセント未満であることが好ましい。粉末中の植物の粉砕液及び/または搾汁液及び/または抽出液に由来する固形分が20重量パーセント以上となると植物に含まれる低分子の糖類・有機酸の粉末中に占める比率が増えるため、植物パウダー自体が吸湿しやすくなり、結晶成分の吸湿を抑制する効果も小さくなる。
【0037】
植物パウター中の、植物の粉砕液及び/または搾汁液及び/または抽出液に由来しない食塩及びその他の無機塩類、有機酸、有機酸塩の総量は全固形分の3重量パーセント未満、より好ましくは0重量パーセントであることが好ましい。非結晶状態の無機塩類、有機酸、有機酸塩は結晶状態と比較して吸湿性が高く、植物パウダーの耐固結性に著しい悪影響を与える。そのため、例えば風味や色調の劣化の抑制を目的として酸化防止剤のL−アスコルビン酸ナトリウムを混合するなど、品質を維持するためにやむを得ない場合を除いては、極力これらの原料の使用は避けることが望ましい。
【0038】
本発明に使用することのできる無機塩は、調味や栄養強化等を目的として通常の食品に広く使用されている粉末形状のものであり、食塩のほかに塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、および重炭酸ナトリウム、硫酸カルシウム、無機リン酸塩等が挙げられる。
【0039】
本発明に使用することのできる有機酸としては、調味やpH調整等を目的として通常の食品に広く使用されている粉末形状のものであり、L−アスコルビン酸、アミノ酸、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸等が挙げられる。有機酸塩としては、それらの有機酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。特殊な例としては、水溶液中で加水分解して有機酸の一種であるグルコン酸を生じるグルコノラクトンも、これらの有機酸、有機酸塩と同様に使用することができる。
【0040】
植物パウダーに対して結晶の状態で添加する食塩及びその他の無機塩類及び有機酸及び/または有機酸塩の総量を、植物パウダー100部に対して1部以上60部未満とすることで、植物パウダーが結晶の表面を取り囲むことで外気との接触面積を減少させる効果が十分に発揮されるが、60部を超えると植物パウダーに対する結晶成分の量が過剰となり効率的に空気との接触面積を減少させることができず、吸湿を十分に抑制することができない。
【0041】
さらに、上記の植物パウダーに対して結晶の状態で混合する食塩及びその他の無機塩類及び有機酸及び/または有機酸塩の全体のメジアン径は150マイクロメートル以上400マイクロメートル未満が良く、より好ましくは200マイクロメートル以上300マイクロメートル未満が良い。全体のメジアン径が150マイクロメートル未満の場合は結晶の表面積が大きいため吸湿が進みやすく、400マイクロメートルを超えると植物パウダーと分級・偏析しやすくなる他、冷水への溶解性も低下するため好ましくない。
【実施例】
【0042】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
[実施例]
デキストリン(マルトデキストリン:WGC社製、乾燥固形分95パーセント)90gにグレープフルーツ濃縮果汁(乾燥固形分45パーセント)30gを混合してメジアン径が約70マイクロメートルとなるような条件で噴霧乾燥し、全固形分中に果汁由来固形分を13.6重量パーセント含む乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末100gに対して、食塩10g、塩化カリウム5g、クエン酸15g、アミノ酸(アミノ酸塩を含む)10g、乳酸カルシウム5gの計45gを結晶の状態で添加し、145gの粉末スポーツ飲料を作製した。なお、食塩、塩化カリウム、クエン酸、アミノ酸(アミノ酸塩を含む)、乳酸カルシウムはいずれもメジアン径が150マイクロメートル以上400マイクロメートル未満であるものを選定し、以下の比較例においても実施例で使用したものと同じ粒度のものを使用した。
【0044】
[比較例]
デキストリン(実施例に同じ)90gにグレープフルーツ濃縮果汁(実施例に同じ)30gを混合してメジアン径が約250マイクロメートルとなるような条件で噴霧乾燥し、組成が実施例と同様である乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末100gに対して、食塩10g、塩化カリウム5g、クエン酸15g、アミノ酸(アミノ酸塩を含む)10g、乳酸カルシウム5gの計45gを結晶の状態で添加し、145gの粉末スポーツ飲料を作製した。
【0045】
【表1】
【0046】
表1の実施例と比較例の比較から明らかなように、機械での使用に支障を来さないレベルまで製品の吸湿・固結を抑制するためには、ただ結晶成分を後から混合するだけでなく、乾燥粉末の粒子径をコントロールすることで結晶成分そのものの吸湿がより効果的に抑制され、粉末清涼飲料全体としての耐固結性を向上させることが可能となることが立証できた。